(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
所定間隔に平行に並設する複数の放熱フィンに形成された挿通孔に、内周面に複数の内面フィンが形成された伝熱管を通し拡管することで前記放熱フィンに密着させるために、前記伝熱管に挿入する拡管プラグであって、
軸部と、その先端側に形成されるヘッド部と、を有し、
前記ヘッド部は、その横断面が先端部から最大径部まで徐々に直径を大きくする略円形状であり、先端部から最大径部の間に、滑らかに接続される予備拡管部と主拡管部とを備え、
前記予備拡管部は、前記伝熱管の最小管内径より小径の先端部から前記最小管内径より大径の予備拡管終了部までを5mm以上7.9mm以下の曲率半径で接続し、
前記主拡管部は、前記予備拡管終了部から前記最大径部までを20.1mm以上30mm以下の曲率半径で接続し、
前記予備拡管終了部の直径である予備拡管終了径が、以下の下記式で表されることを特徴とする拡管プラグ。
D2={K×β×(α2−α1)/α1}+β
ただし、D2は、予備拡管終了径であり、
Kは0.45以上0.65以下の予備拡管係数であり、
βは、拡管前の前記伝熱管の最小管内径であり、
α1は、拡管前の前記伝熱管の外径であり、
α2は、拡管後の前記伝熱管の外径である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、特徴部分を強調する目的で、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、同様の目的で、特徴とならない部分を省略して図示している場合がある。
【0017】
<拡管工程>
図1に本発明の一実施形態である拡管プラグ1を用いた熱交換器の製造方法を示す。
この製造方法は、所定間隔に平行に並設する複数のフィン材15(放熱フィン)に形成された挿通孔15aに伝熱管11を通した状態で、伝熱管11に拡管プラグ1を挿入して拡管し伝熱管11の外周をフィン材15の挿通孔15aの内径部に密着させて熱交換器を製造する方法である。
【0018】
以下にこの拡管工程の具体的な手順について説明する。
まず、アルミニウムあるいはアルミニウム合金製のフィン材15を複数重ねてフィン集合体16を構成する。各フィン材15において伝熱管11を挿通する予定位置には、挿通孔15aが形成されている。これらの挿通孔15aが一直線状に並ぶように各フィン材15を配置する。
また、伝熱管11をU字状に曲げてヘアピンパイプを構成しておく。これにより伝熱管11の開口部11aは、一側にそろえられ他側にU字部11bが形成される。このペアピンパイプ(伝熱管11)を必要本数フィン集合体16の挿通孔15aに挿通する。各伝熱管11の開口部11aはフィン集合体16の一側に揃えておく。
【0019】
この状態において各伝熱管11の開口部11aから拡管プラグ1を強制的に押し込む。ヘッド部3が伝熱管11を拡管する拡管動作を部分断面図として
図2(a)、(b)に示す。
図2(a)に示すように、開口部11aから拡管プラグ1のヘッド部3を強制的に押し込む。これによって、開口部11aから順にヘッド部の外周面に沿って伝熱管11の拡管が行われる。
図2(b)に示すように、ヘッド部3が開口部11aより内側に完全に入ったところで、開口部11a近傍の伝熱管11外周を把持治具でクランプする。ここまで(把持治具によるクランプを行うまで)の拡管工程は、伝熱管11の長手方向に対し圧縮力が加わる押込み式(縮み式)の拡管工程と呼ばれる。
【0020】
把持治具によるクランプ工程以降も、ヘッド部3が伝熱管11のU字部11b近傍に到達するまでヘッド部3を強制的に押込む。このとき、把持治具により伝熱管11の開口部11aが固定(クランプ)されているため、伝熱管11には長手方向に対し引張力が加わる。このように、クランプ工程以降の拡管工程は伝熱管11に引張力が加わり吊下げ式(縮みレス式)の拡管工程と呼ばれる。
【0021】
押込み式、吊下げ式の拡管工程において、拡管プラグ1のヘッド部3が伝熱管11を押し広げて塑性変形させて伝熱管11を拡管できる。拡管された伝熱管11はフィン材15の挿通孔15aを押し広げるようにフィン材15に結合するので、伝熱管11をフィン材15に機械的に接合できる。
【0022】
次に、把持治具によるクランプを解除しこの拡管プラグ1を引き抜く。この工程は引抜工程と呼ばれる。吊下げ式の拡管工程が終了した時点で、伝熱管11には拡管が行われている。したがって、引抜工程は伝熱管11の塑性変形を行わない。ただし、把持治具によるクランプを経ることによって、伝熱管11の開口部11aの近傍は縮径されている。したがって引抜工程では、開口部11aの拡管を再度行うことになる。
以上の工程を経て、拡管工程が完了する。
図2(a)、(b)に示すように拡管プラグを挿入することで、伝熱管11の外径は、拡管前外径α
1から拡管後外径α
2に拡管される。
【0023】
<伝熱管>
図3(a)に、本実施形態の拡管プラグ1によって拡管される伝熱管11の拡管前の断面図を示す。また、
図3(b)に、
図3(a)に示す伝熱管11の内面フィン12の一部の拡大図を示す。
伝熱管11の内周面には、中心に向いて突出する内面フィン12が複数形成されている。内面フィン12は、伝熱管11の長さ方向全長に渡り延在するように、伝熱管11の内周面周方向に所定の間隔で複数隣接形成されている。内面フィン12は周方向に沿って例えば、30〜72個形成されている。
伝熱管11は、例えば銅合金、アルミニウム又はアルミニウム合金を押出加工することでこのような断面形状を得ることができる。
【0024】
内面フィン12は、伝熱管11の横断面において、伝熱管11の中心に向く頂部12aとこの頂部12aを挟むように延在する傾斜部12b、12bとを有する横断面視等脚台形状に形成されている。これらの内面フィン12は、伝熱管11の内周面の周方向に所定の間隔で複数形成されているので、隣接する内面フィン12、12の間にフィン溝14が形成されている。
内面フィン12の高さhは例えば0.05mm〜0.35mm程度とされる。また、内面フィン12のフィン幅jは、例えば0.05mm〜0.4mmとされる。なお、フィン幅jとは、内面フィン12の頂部の幅を意味し、
図3(b)に示すように頂部12aが断面半円形状を有する場合においては、頂部の半円形状の直径となる。内面フィン12のフィンピッチi(即ちフィン溝14の幅)は、伝熱管11の内径と、形成される内面フィン12の個数によって決まり、例えば0.05mm〜0.7mmとされる。
【0025】
伝熱管11の内面に内面フィン12を設けることで、伝熱管11の内面の表面積を大きくして熱伝達効率を高めることができる。さらに熱伝達効率を大きくするためには、フィン幅jが細く内面フィンが高い(即ち高さhが大きい)ハイスリムフィンが有効である。しかしながら、ハイスリムフィン化するにつれて、拡管プラグ1を挿入する際に内面フィン12が倒れやすくなる。内面フィン12の倒れが発生すると、伝熱管の伝熱特性が低下するのみならず、所定の拡管率を得ることができなくなり、伝熱管11とフィン材15の挿通孔15a(
図1参照)が十分に密着せず、熱交換器としての性能が大きく低下する。後段において詳しく説明するヘッド部3を備えた拡管プラグ1を用いて拡管を行うことによって、内面フィンの倒れを抑制できる。
【0026】
伝熱管11の底肉厚t(フィン溝14に対応する部分の管の肉厚)は、0.3mm〜0.8mm程度とされる。伝熱管11の外径α
1(拡管前外径α
1)は、例えば5〜10mm程度とされる。この伝熱管11は、拡管プラグ1が挿入され3%〜8%の拡管率で拡管される。即ち、拡管後の外径α
2(拡管後外径α
2)は、5.15mm〜10.8mmとされる。
【0027】
伝熱管11は、銅合金、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるものを用いることができる。
伝熱管11にアルミニウム合金を用いる場合は、そのアルミニウム合金に特に制限はなく、JISで規定される1050、1100、1200等の純アルミニウム系、あるいは、これらにMnを添加した3003に代表される3000系のアルミニウム合金等を適用できる。勿論、これら以外にJISに規定されている5000系〜7000系のアルミニウム合金のいずれかを用いて伝熱管11を構成しても良い。
【0028】
アルミニウム又はアルミニウム合金は、銅合金に比べて強度に劣る。したがって、耐圧強度の面から伝熱管11の底肉厚tを銅合金で形成した伝熱管の底肉厚と比較して厚くする必要がある。底肉厚tが厚いアルミニウム及びアルミニウム合金からなる伝熱管11を拡管しようとすると、拡管荷重が大きくなる。これにより、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる伝熱管11は、拡管工程において座屈が発生しやすくなる。
【0029】
伝熱管11としてアルミニウム又はアルミニウム合金を用いる場合において、拡管前の伝熱管11の底肉厚tに対する伝熱管11の外径α
1の比(α
1/t)が、7以上16以下であることが好ましい。
α
1/tが、7に満たない場合は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる伝熱管11の拡管時の拡管荷重が大きくなる。これにより、伝熱管11に座屈が生じやすくなる。また、拡管荷重が大きくなるために、拡管時に内面フィン12に加わる力が大きくなり、内面フィン12の倒れが生じやすくなる。α
1/tが、11を超える場合は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる伝熱管11の耐圧強度が下がり好ましくない。
【0030】
また、伝熱管11の内面フィン12について、フィンピッチiに対しフィン幅jを大きくすると、拡管時の拡管荷重が大きくなり伝熱管11に座屈が生じやすくなる。また、フィンピッチiに対しフィン幅jを小さくすると、内面フィン12が細長く立設された形状となるため内面フィン12の倒れが生じやすくなる。したがって、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる伝熱管11を用いた場合においては、伝熱管11の拡管前の内面フィン12のフィンピッチiに対するフィン幅jの比(j/i)が、0.1以上0.7以下であることが好ましい。
【0031】
<伝熱管の別の例>
本実施形態の拡管プラグ1は、上述した伝熱管11の他に、内面フィン22が螺旋状に形成された螺旋溝付伝熱管20(伝熱管20)を用いてもよい。
図4に本発明に適用できる螺旋溝付伝熱管20の縦断面構造を示す。この伝熱管20は、銅合金、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるものを用いることができる。また、この伝熱管20は、上述した伝熱管11と同様に、内周に突条型の内面フィン22が形成され、隣接する内面フィン間にフィン溝23が形成されている。また、伝熱管11と、同等範囲の拡管前後の外径、並びに拡管前の底肉厚、フィン幅、フィンピッチを満たす。
【0032】
この例の伝熱管20において、上述した伝熱管11と異なる点は、内面フィン22が伝熱管20の内周面に沿ってその長さ方向に螺旋を描くように形成されている点である。
伝熱管20の内面に形成されている複数の内面フィン22は全ての内面フィン22が同じピッチで螺旋状に形成されていて、内面フィン22の間に形成されているフィン溝23についても伝熱管20の内部において所定のピッチで螺旋を描くように、即ち螺旋溝状に形成されている。
【0033】
内面フィン22を伝熱管20の長さ方向に対し螺旋状に形成することで、伝熱管20に冷媒が流れる際、冷媒との熱交換効率を良好にすることができる。
本実施形態の拡管プラグ1は、長手方向に対し螺旋状に形成された内面フィン22を備えた伝熱管20であっても、座屈及び内面フィン22の倒れを抑制しつつ拡管できる。
【0034】
<従来工法の拡管荷重と内面フィンの倒れについて>
従来の拡管プラグを用い上段に説明した拡管工程を行った場合の、拡管荷重と内面フィンの倒れについて説明する。
【0035】
図6に、一例として従来用いられている拡管プラグ101のヘッド部103を示す。なお、この拡管プラグ101の横断面形状は円形である。
拡管プラグ101は支持棒102の先端にヘッド部103が固定されている。ヘッド部103は、樽型に膨出して形成されており、側面から見た中央部には最大径部103cが形成されている。先端部103aから最大径部103cまでは、徐々に径が大きくなり、最大径部103cから後端部103dまでは、徐々に径が小さくなっている。
先端部103aから最大径部103cまでは、1つの曲面である前面曲部106により接続されている。この前面曲部106の曲率半径rで形成されている。
最大径部103cから後端部103dまでは、1つの曲面である後面曲部107により接続されている。
【0036】
図7に、従来の拡管プラグ101を用いた拡管工程におけるストローク(押込み量)と拡管荷重(拡管プラグに加わる挿入方向の荷重)の相関関係の一例を示す。なお、
図7のグラフでは、引き抜き工程を省略している。
図7に示すように、拡管工程の拡管荷重は、拡管プラグ挿入直後にピークを迎える。これは、拡管プラグのヘッド部を伝熱管の開口部に挿入する際に最も大きな拡管荷重(初期拡管荷重)が生じることを意味する。初期拡管荷重は、一例として
図2(a)に示す状態で発生する。初期拡管荷重は、押込み式の拡管工程(即ち把持治具によるクランプを行う前の工程)中に生じる。押込み式の拡管工程においては伝熱管に圧縮力が加わるため、この初期拡管荷重が発生する際に伝熱管の座屈が最も起こりやすくなる。したがって、伝熱管の座屈の発生を防ぐためには、初期拡管荷重を低減することが重要となる。
【0037】
初期拡管荷重は、前面曲部106の曲率半径rと相関関係を有する。従来の拡管プラグ101において、前面曲部106の曲率半径rを小さくすると、拡管荷重を低減できる。これに伴い初期拡管荷重も低減され拡管時の伝熱管11の座屈を抑制できる。これは、前面曲部106の曲率半径rを小さくすると、伝熱管の内周面とヘッド部103との挿入方向の接触部が短くなるため、拡管荷重が低減されると考えられる。
【0038】
また、内面フィンの倒れも前面曲部106の曲率半径rと相関関係を有する。拡管プラグ101において、前面曲部106の曲率半径rを小さくすると、内面フィン12の倒れが増加する。これは、伝熱管11の内周面と拡管プラグ101のヘッド部103との接触面積が小さくなることで、内面フィン12に加わる面圧が増加するためであると考えられる。
【0039】
図8に、初期拡管荷重及び内面フィンのフィン高さ減少率と前面曲部106の曲率半径rの関係のグラフを示す。なおフィン高さ減少率とは、拡管前後の内面フィン12の高さの減少率を示すものである。内面フィン12に倒れが生じるとフィン高さが減少し、このフィン高さ減少率が大きくなる。
【0040】
図8に示すように、前面曲部106の曲率半径rを大きくするに従い、拡管荷重は小さくなる。即ち、座屈が抑制される。逆にフィン高さ減少率は大きくなり、内面フィンの倒れが顕著となる。
【0041】
図8に示すように、内面フィン12の倒れ抑制には前面曲部106の曲率半径rを大きくすることが有効である。また、拡管荷重の低減には前面曲部106の曲率半径rを小さくすることが有効である。内面フィン12の倒れと拡管荷重の低減は、ともに前面曲部106の曲率半径rと相関関係があり、互いに相反する条件が求められる。本発明の拡管プラグ1は、この相反する条件を満たし、内面フィン12の倒れ抑制と拡管荷重の低減を同時に実現するものである。
【0042】
<拡管プラグ>
図5(a)は本発明に係る一実施形態の拡管プラグ1を示すものである。また、
図5(b)は、この拡管プラグ1のヘッド部3を拡大したものである。
図5(a)に示すように、拡管プラグ1は、軸部2とその先端側に一体形成されたヘッド部3とからなる。軸部2の後端側にはねじ軸2aが形成されている。拡管プラグ1は、ねじ軸2aの部分に対し、嵌合自在なねじ穴を有する図示略の延長ロッドをねじ接合して拡管プラグ1の長さを調整できる。これにより、拡管プラグ1の長さを調整し、伝熱管11の全長に渡り、拡管できるように調整できる。
【0043】
図5(b)に拡大図として示すように、ヘッド部3は、樽型をなして軸部2より径が大きくなるように膨出形成されている。ヘッド部3は、平坦面をなす先端部3aと、軸部2と接続される後端部3dとの間に最大径部3cが形成されている。また、ヘッド部3の横断面は、略円形に形成されている。横断面の直径は、先端部3aから最大径部3cにかけて徐々に大きくなっていき、最大径部3cから後端部3dにかけて徐々に小さくなっていく。先端部3aは直径D
1に形成され、最大径部3cは直径D
3に形成されている。
なお、横断面が「略円形」とは、円形である伝熱管11の内周に沿った形状であることを意味している。例えば、横断面円形のヘッド部3の表面に溝を形成して、横断面に凹凸が形成されていてもよい。
【0044】
ヘッド部3は、先端部3aから最大径部3cまでを前面拡管部6とされる。また、ヘッド部3は、最大径部3cから後端部3dまでを後面拡管部7とされる。即ち、ヘッド部3は、最大径部3cを境に先端側が前面拡管部6、後端側が後面拡管部7とされる。
先端部3aの直径D
1は、拡管対象である伝熱管11の最小内径βより小さい径に形成されており伝熱管11の内径にスムーズに挿入できる。
【0045】
前面拡管部6は、拡管プラグ1を伝熱管に挿入する際に、伝熱管11を径方向外側に押し広げて拡管する役割を果たす。前面拡管部6は、それぞれ異なる曲率半径を有する予備拡管部6Aと主拡管部6Bに、予備拡管終了部3bを境として分けられる。
予備拡管部6Aは、曲率半径R
1を有する一様な曲面である。また、主拡管部6Bは、曲率半径R
2を有する一様な曲面である。
予備拡管部6Aの曲面と主拡管部6Bの曲面は、予備拡管終了部3bにおいて、滑らかに接続されている。即ち、予備拡管部6Aと主拡管部6Bは、縦断面をとった時に互いの接線の傾きが一致した点でエッヂを生じることなく接続されている。
【0046】
予備拡管部6Aの曲率半径R
1は、5mm以上7.9mm以下であることが好ましい。予備拡管部6Aは、伝熱管11の開口部11aに当接し、初期拡管荷重を受けながら伝熱管を最初に拡管する部分である(
図2(a)参照)。したがって、この予備拡管部6Aの曲率半径R
1を小さくすることで、伝熱管11の開口部11aに挿入した直後の拡管荷重(初期拡管荷重)を低減できる。予備拡管部6Aの曲率半径R
1を7.9mm以下とすることで、初期拡管荷重を低減し、伝熱管11の座屈を抑制できる。また、予備拡管部6Aの曲率半径R
1を5mm以上とすることで、内面フィン12の倒れを抑制できる。
【0047】
主拡管部6Bの曲率半径R
2は、20.1mm以上30mm以下であることが好ましい。主拡管部6Bは、伝熱管11の拡管工程において、予備拡管部6Aに沿って予備拡管された伝熱管11をさらに径方向外側に押し広げる役割を果たす(
図2(b)参照)。したがって、主拡管部6Bは、予備拡管部6Aに対して内面フィン12に大きな負荷を加える。即ち、主拡管部6Bは、内面フィン12の倒れに対し支配的に作用する。主拡管部6Bの曲率半径R
2を大きくすることで、内面フィン12の倒れを抑制できる。
主拡管部6Bの曲率半径R
2が、20.1mm未満の場合は、内面フィン12の倒れが顕著となり好ましくない。また、30mmを超える場合は、拡管荷重が大きくなり、それに伴い、初期拡管荷重も大きくなる。したがって、伝熱管11の座屈発生の懸念が高まる。
【0048】
予備拡管部6Aと主拡管部6Bの境界となる予備拡管終了部3bの径D
2(予備拡管終了径D
2)は、伝熱管11の最小内径βより大きく形成されている。したがって、伝熱管11の最小内径部(即ち、内面フィン12の頂部)が予備拡管部6Aに当接することなく、主拡管部6Bに当接することはない。
また、予備拡管終了径D
2は、予備拡管係数Kを0.45以上0.65以下として、以下式を満たす。
D
2={K×β×(α
2−α
1)/α
1}+β
なお、βは、拡管前の伝熱管11の最小管内径であり、α1は、拡管前の伝熱管11の外径であり、α2は、拡管後の伝熱管11の外径である。
【0049】
予備拡管係数Kを大きくすると予備拡管終了径D
2が大きくなる。これに伴い、前面拡管部6において、予備拡管部6Aが相対的に大きくなり、主拡管部6Bが相対的に小さくなる。予備拡管部6Aは曲率半径R
1を小さく形成されているため、予備拡管部6Aが相対的に大きくなることで、内面フィン12の倒れが顕著となる虞がある。
反対に、予備拡管係数Kを小さくすると予備拡管終了径D2が小さくなる。これに伴い、前面拡管部6において、予備拡管部6Aが相対的に小さくなり、主拡管部6Bが相対的に大きくなる。主拡管部6Bは曲率半径R
2を大きく形成されているため、主拡管部6Bが相対的に大きくなることで、拡管時の初期拡管荷重が大きくなり伝熱管11が座屈する虞がある。
予備拡管係数Kを0.45以上、0.65以下とすることで、内面フィン12の倒れ及び伝熱管11の座屈を同時に抑制できる。
【0050】
ヘッド部3の最大径部3cより後方には、後面拡管部7が形成されている。後面拡管部7、曲率半径R
3を有する一様な曲面である。
後面拡管部7は、拡管プラグ1を伝熱管11から引き抜く際に(引抜工程において)、弾性変形分だけ縮径した伝熱管11を再度径方向外側に押し広げて引抜をスムーズにさせる役割を果たす。加えて、把持治具によるクランプによって、縮径した伝熱管11の開口部11aの近傍を再度拡管する役割を果たす。
【0051】
この再度拡管される伝熱管の開口部11aは、拡管と縮径を経ているため、加工硬化が起こっている。したがって、後面拡管部7の曲率半径R
3を適切に設定しない場合は、引抜工程において、伝熱管11に過度に引張応力が加わり、伝熱管11の破断が起こる。また、この引抜工程において、過度の引張応力が加わると、伝熱管11自身が伸長しその際に径方向に引けが生じる。即ち、拡管した伝熱管11が縮径されてしまう。
このような現象を防ぐために、後面拡管部7の曲率半径R
3は、10mm以下とすることが好ましい。10mm以下とすることで、伝熱管11に過度な引張応力が加わることを抑制できる。
【0052】
図5(a)に示す拡管プラグ1において、軸部2は、強度の高い鋼材、例えば、JIS規定SCM435で示されるクロムモリブデン鋼からなる。また、ヘッド部3は超硬合金から一体形成されている。ヘッド部3は軸部2に対しカシメ加工により結合されているか、銀ろう等を用いたろう付け手段により結合されている。
【0053】
ヘッド部を構成する超硬合金としては、周期律表IVa、Va、VIa族元素の炭化物をFe、Co、Niなどの鉄系金属で焼結した超硬合金を用いることができる。一例として、WC−Co系合金、WC−TiC−Co系合金、WC−Ta−Co系合金、WC−TiC−Ta−Co系合金、WC−Ni系合金、WC−Ni−Cr系合金などを適宜用いることができる。
一例としてWC粒子にCoを5〜17質量%添加した超硬合金においてHRC85〜95の範囲を得ることができるので、本実施形態の拡管プラグ1の構成材料に適用することができる。上述の超硬合金としてJISV10、V20、V30、V40、V50、V60などで規定されている種類の超硬合金を利用することができる。
【0054】
また、
図5(a)に示すように、拡管プラグ1は、ヘッド部3の外周面全面にダイヤモンドライクカーボン皮膜5が形成されていても良い。ダイヤモンドライクカーボン皮膜5を形成する場合には、その膜厚は、0.5μm以上3.0μm以下の範囲であることが好ましい。ダイヤモンドライクカーボン皮膜5の膜厚が0.5μm未満であると、アルミニウムの凝集抑制効果が低下し、拡管時に拡管プラグ1に対するアルミニウムの凝着が生じ易くなる。また、ダイヤモンドライクカーボン皮膜5の膜厚が3.0μmを超えるようであると、ダイヤモンドライクカーボン皮膜5の膜剥がれを生じ易くなる。
ダイヤモンドライクカーボン皮膜5の硬さについては、20GPa以上70GPa以下であることが好ましい。ダイヤモンドライクカーボン皮膜5の硬さが20GPa未満では耐摩耗性が低下して拡管プラグ1の寿命が短くなり、70GPaを超える硬さでは成膜自体が困難となる。
【0055】
また、ダイヤモンドライクカーボン皮膜5の臨界剥離荷重は、5N以上であることが好ましい。ダイヤモンドライクカーボン皮膜5の臨界剥離荷重が5N未満では、皮膜の剥離が起こり易くなり、拡管プラグ1の寿命が短くなる。また、ダイヤモンドライクカーボン皮膜5の臨界膜厚荷重が30N以上であれば、より長い距離の拡管を施してもアルミニウムの凝着を生じ難い。
【0056】
拡管プラグ1とともに拡管時に用いる潤滑油は、特に図示はしていないが、引火点100℃以下、動粘度1.0mm
2/S(at40℃)以上の潤滑油を用いることが好ましい。
この条件に用いることができる潤滑油として例示するならば、ダフニーパンチオイルAF−2A(出光興産製:動粘度1.37mm
2/S)を挙げることができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例を示しつつ本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0058】
(試験1)
拡管プラグの前面拡管部と、初期拡管荷重及び内面フィンの倒れについて試験1として調査した。
図5(a)、(b)に示す拡管プラグを数種類用意した。なお、拡管プラグのヘッド部は、VM40相当の超硬合金(HRA90)からなり、軸部は、JIS規定SCM435からなる。これらの拡管プラグの後面拡管部は、曲率半径7.5mmである。
【0059】
これらの拡管プラグによって拡管される伝熱管として、
図3(a)、(b)に示すような内面フィンが長手方向に対し直線状に形成された伝熱管を数種類用意した。また、この伝熱管はJIS3003合金からなる。
用意した拡管プラグを用いて、伝熱管の拡管工程を行った。拡管の際、伝熱管を潤滑油(ダフニーパンチオイルAF−2A:出光興産製:動粘度1.37mm
2/S)に浸漬後、直ちに拡管した。拡管時の拡管プラグの挿入速度は、500mm/minとした。
拡管プラグ、及び伝熱管の組み合わせをNo.1〜No.30として表1にまとめる。なお、表1において、外径拡管率とは、α
1を拡管前の伝熱管の外径、α
2を拡管後の伝熱管の外径とし、以下の式で百分率として表される。
100×(α
2−α
1)/α
1
このような拡管工程の結果として生じた、初期拡管荷重、安定拡管荷重、内面フィンの減少率を表2に示す。なお、安定拡管荷重とは、
図7に示すように、拡管荷重が安定した領域の荷重を意味する。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
初期拡管荷重が500N以上になると座屈が生じやすくなる。また、安定拡管荷重は450N以上になると、座屈が生じやすくなる。
内面フィンの減少率は、15%以上となると、内面フィンが倒れて熱交換効が下がり好ましくなる。また、内面フィンの倒れによって、外径が十分に拡管されないことがある。
【0063】
表1、表2に示すように、様々な組み合わせの拡管プラグと伝熱管を用いた拡管工程のうち、No.1〜No.24の拡管工程においては、拡管荷重、及び内面フィンの高さ減少率を抑えることができていることがわかる。これに対して、No.25〜No.30の拡管工程においては、拡管荷重が高いか、又は内面フィンの減少率が大きくなっている。特に、No.26、28、29の拡管工程においては、拡管初期において座屈が生じた。
表1、表2に示す結果から、予備拡管部の曲率半径、主拡管部の曲率半径、予備拡管終了部の直径を適切に設定することで、拡管荷重を抑制しつつ、内面フィンの倒れを抑制可能であることを確認した。
また、伝熱管の底肉厚tに対する外径α
1の比(α
1/t)が、7以上16以下であり、内面フィンのフィンピッチiに対するフィン幅jの比(j/i)が、0.1以上0.7以下である場合に、より好ましい拡管工程を行うことができることが確認された。
【0064】
(試験2)
次に、拡管プラグの後面拡管部と、初期拡管荷重及び内面フィンの倒れについて試験2として調査した。
図5(a)、(b)に示す拡管プラグであって、後面拡管部の曲率半径が異なる拡管プラグを数種類用意した。これらの拡管プラグは、予備拡管部の曲率半径が7mm、主拡管部の曲率半径が22mm、予備拡管終了径が5.57mm、最大径部の直径が5.86mmである。ヘッド部及び軸部の材質は、上述の試験1と同等である。
これらの拡管プラグによって拡管される伝熱管として、
図3(a)、(b)に示すような内面フィンが長手方向に対し直線状に形成されJIS3003合金からなる伝熱管を用意した。これらの伝熱管の拡管前の最小内径は、5.4mm、外径は、7.0mm、底肉厚は、0.5mm、外径/底肉厚は、14.0、フィン幅は、0.15mm、フィンピッチは、0.38mm、フィンピッチ/フィン幅は、0.4、内面フィンの数は、50個である。
用意した拡管プラグを用いて、伝熱管の拡管工程を行った結果をNo.31〜No.34として表1にまとめる。なお、拡管後の伝熱管の外径は、7.4mmとなっていた。
拡管工程は、押込み式の拡管工程後に把持治具により伝熱管の開口部をクランプし、次いで吊下げ式の拡管工程、引抜工程を順次行った。クランプにより、伝熱管の開口部は、外径7.0mmに縮径されており、引抜工程において後面拡管部により再度拡管されている。
【0065】
【表3】
【0066】
表3に示すように、複数の拡管プラグを用いた拡管工程のうち、No.31においては、引抜工程時に、伝熱管の開口部付近で非常に大きな引抜力が生じ、伝熱管に破断が生じた。
また、No.32においては、引抜時の抵抗で伝熱管が長手方向に延ばされ、それに伴い引けが生じた(伝熱管の外径が小さくなった)。これにより、伝熱管が全長に亘り外径7.35mmとなっていた。これに対して、No.33、No.34の拡管工程においては、正常に引抜工程が行われた。
試験2の結果から、後面拡管部の曲率半径を10mm以上とすることで、引抜時に伝熱管に過度な引張応力が加わることがないことが確認された。
【0067】
以上に、本発明の様々な実施形態を説明したが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。また、本発明は実施形態によって限定されることはない。