(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6238071
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】柱と梁の接合構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/20 20060101AFI20171120BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
E04B1/20 E
E04B1/58 508A
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-89502(P2014-89502)
(22)【出願日】2014年4月23日
(65)【公開番号】特開2015-209634(P2015-209634A)
(43)【公開日】2015年11月24日
【審査請求日】2016年12月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100146835
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 義文
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(72)【発明者】
【氏名】中澤 春生
【審査官】
津熊 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】
特開平01−244040(JP,A)
【文献】
実開平01−130401(JP,U)
【文献】
米国特許第05675943(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/20
E04B 1/21
E04B 1/18
E04B 1/16
E04B 1/58
E04G 21/12
E04C 5/16
E04C 5/01
E04C 3/20
E04C 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート造の柱と梁の接合構造において、
梁主筋よりも高強度または大径に形成されて前記柱と前記梁とが接合される仕口部内に配筋されるとともに先端部が前記仕口部から突出して前記梁内において前記梁主筋と接合される仕口部梁主筋と、
前記梁主筋と前記仕口部梁主筋との接合部近傍に配筋される添え筋と、を備え、
該添え筋は、前記仕口部梁主筋の延在方向において、前記仕口部側の端部が前記接合部と重なる位置に配置されていて、前記仕口部と離間する側の端部が前記接合部よりも前記仕口部と離間する位置に配置されていることを特徴とする柱と梁の接合構造。
【請求項2】
前記仕口部梁主筋は、前記仕口部および前記梁の上部側および下部側それぞれに配筋されていて、
前記添え筋は、前記梁の上部側に配筋された前記仕口部梁主筋の近傍に配置された上側配置部と、前記梁の下部側に配筋された前記仕口部梁主筋の近傍に配置された下側配置部と、前記上側配置部と前記下側配置部をと接続する接続部と、を有することを特徴とする請求項1に記載の柱と梁の接合構造。
【請求項3】
前記添え筋は、前記仕口部と離間する側の端部に、フック状に折り曲げられたフック部を有することを特徴とする請求項1または2に記載の柱と梁の接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート造の柱と梁の接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート造の柱梁フレーム構造では、一般的に梁の変形性能を確保するために、仕口部(柱梁接合部)と離間する位置に梁の降伏ヒンジが形成されるように設計されている。しかし、柱と梁の曲げ強度の差が少ないと、仕口部内において梁主筋と柱主筋とがともに降伏し、仕口部が破壊することがある。
そこで、仕口部と離間した位置において梁に降伏ヒンジが形成された後に、梁主筋の降伏領域が仕口部内に進展しないように、梁主筋よりも高強度または太径の主筋を仕口部に貫通または定着させ、この主筋と梁主筋とを鉄筋継手を介して接合する柱と梁の接合構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−287801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されているような柱と梁の接合構造では、梁の降伏ヒンジが形成される位置が、鉄筋継手の位置と一致するため、梁の変形性能が、鉄筋継手の性能や施工品質の影響を受けるという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、鉄筋継手の性能や施工品質の影響を受けることなく、梁の変形性能を確実に確保することができる柱と梁の接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る柱と梁の接合構造は、鉄筋コンクリート造の柱と梁の接合構造において、梁主筋よりも高強度または大径に形成されて前記柱と前記梁とが接合される仕口部内に配筋されるとともに先端部が前記仕口部から突出して前記梁内において前記梁主筋と接合される仕口部梁主筋と、前記梁主筋と前記仕口部梁主筋との接合部近傍に配筋される添え筋と、を備え、該添え筋は、前記仕口部梁主筋の延在方向において、前記仕口部側の端部が前記接合部と重なる位置に配置されていて、前記仕口部と離間する側の端部が前記接合部よりも前記仕口部と離間する位置に配置されていることを特徴とする。
【0007】
本発明では、梁の添え筋が配筋されている部分は、添え筋が配筋されることにより補強されるため、この梁の添え筋が配筋されている部分と、添え筋が配筋されていない部分との境界近傍の断面に、梁の降伏ヒンジが形成されることになる。
そして、添え筋は、仕口部梁主筋の延在方向において、仕口部と離間する側の端部が、仕口部梁主筋と梁主筋との接合部(鉄筋継手)よりも仕口部と離間する位置に配置されているため、梁主筋と仕口部梁主筋との接合部よりも仕口部から離間する側に、梁の降伏ヒンジを形成することができる。
これにより、梁の降伏ヒンジが形成される断面は、梁主筋と仕口部梁主筋との接合部と離間し、この接合部の性能や施工品質の影響を受けることがないため、この接合部の性能や施工品質の影響を受けることなく、梁の変形性能を確実に確保することができる。
【0008】
また、本発明に係る柱と梁の接合構造では、前記仕口部梁主筋は、前記仕口部および前記梁の上部側および下部側それぞれに配筋されていて、前記添え筋は、前記梁の上部側に配筋された前記仕口部梁主筋の近傍に配置された上側配置部と、前記梁の下部側に配筋された前記仕口部梁主筋の近傍に配置された下側配置部と、前記上側配置部と前記下側配置部をと接続する接続部と、を有することが好ましい。
このような構成とすることにより、梁の上部側に添え筋の上側配置部が配置され、梁の下部側に添え筋の下側配置部が配置されるため、添え筋によって梁の上部側も下部側も均一に補強することができる。
また、上側配置部と下側配置部とは、接続部で接続されて一体化しているため、梁の上部側と下部側にそれぞれ個別に添え筋を配筋する場合と比べて、配筋を容易に行うことができる。
【0009】
また、本発明に係る柱と梁の接合構造では、前記添え筋は、前記仕口部と離間する側の端部に、フック状に折り曲げられたフック部を有することが好ましい。
このような構成とすることにより、梁の添え筋が配置された部分のうち、フック部が配置された部分がより補強されるため、梁のフック部近傍の梁主筋と仕口部梁主筋との接合部よりも仕口部から離間する側において確実に降伏ヒンジを形成することができ、梁主筋と仕口部梁主筋との接合部の性能や施工品質の影響を受けることなく、梁の変形性能を確実に確保することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、梁の降伏ヒンジが形成される断面は、梁主筋と仕口部梁主筋との接合部と離間し、この接合部の性能や施工品質の影響を受けることがないため、この接合部の性能や施工品質の影響を受けることなく、梁の変形性能を確実に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1実施形態による柱と梁の接合構造の一例を示す上面図である。
【
図4】第2実施形態による柱と梁の接合構造の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態による柱と梁の接合構造について、
図1乃至
図3に基づいて説明する。
図1乃至
図3に示すように、第1実施形態による柱と梁の接合構造1Aでは、フルプレキャストの鉄筋コンクリート造の柱2と、ハーフプレキャストの鉄筋コンクリート造の梁3とが、フルプレキャストの鉄筋コンクリート造の仕口部4を介して接合されている。本実施形態では、仕口部4の上下に柱2が接合されていて、仕口部4の側方のうちの3方向から梁3が接合されている。
なお、
図1乃至
図3では、柱2、梁3、仕口部4の内部の説明のためにコンクリートの記載を省略しているが、実際にはコンクリートが充填されている。また、
図1乃至
図3では、柱2、梁3、仕口部4の内部の説明のために柱2および梁3と仕口部4との間に隙間が設けられているが、実際には、柱2および梁3と仕口部4とは、隙間なく接合されている。
【0013】
仕口部4には、柱主筋5および梁主筋6が貫通していて、この梁主筋6は、先端部6a側が仕口部4から梁3側に突出している。ここで、仕口部4を貫通する梁主筋6を、仕口部梁主筋6として以下説明する。
この、仕口部梁主筋6は、先端部6aが梁3の内部に配置されている梁主筋7とカプラなどの鉄筋継手(接合部)8を介して接合されている。この鉄筋継手8は、仕口部4と離間した位置に配置されている。
【0014】
本実施形態では、仕口部梁主筋6は、すべての梁主筋7と略同軸に接合されるように配置されている。本実施形態では、梁主筋7は、梁3の上部側および下部側において、それぞれ水平方向に複数本配列されるとともに上下方向に2段に配列されていて、仕口部梁主筋6は、これらの梁主筋7とそれぞれ鉄筋継手8を介して接合されている。
また、仕口部梁主筋6は、梁主筋7よりも高強度の材料で形成された鉄筋で構成されている。
【0015】
梁3の内部には、鉄筋継手8の近傍に複数の添え筋9A(9)が配筋されている。添え筋9Aは、1本の鉄筋を略コの字状(略C字状)に曲げた部材から構成され、
図2および
図3に示すように、梁3の側方から見て略コの字状となる向きに配置されている。添え筋9Aは、梁3の上部側に配置され梁主筋7の延在方向に延びる上側配置部91と、梁3の下部側で上側配置部91の下側に配置され梁主筋7の延在方向に延びる下側配置部92と、上側配置部91と下側配置部92の仕口部4側の端部91a,92aどうしを接続する接続部93と、上側配置部91と下側配置部92の仕口部4側と反対側の端部91b,92bにそれぞれ形成された略C字状のフック部94,94と、を有している。
【0016】
上側配置部91は、梁3の上部側に配列され水平方向に隣り合う鉄筋継手8の間に配置され、下側配置部92は、梁3の下部側に配列され水平方向に隣り合う鉄筋継手8の間に配置されている。また、接続部93は、鉄筋継手8の仕口部4側の端部8a近傍に配置され、フック部94は、鉄筋継手8よりも仕口部4と離間する位置に配置されている。
このような添え筋9Aは、梁主筋7よりも高強度の材料で形成された鉄筋で構成され、仕口部梁主筋6や梁主筋7と比べて細径に形成されている。
【0017】
次に、上述した柱と梁の接合構造1Aの作用・効果について図面を用いて説明する。
第1実施形態による柱と梁の接合構造1Aでは、梁3の添え筋9Aが配筋されている部分は、添え筋9Aが配筋されることにより補強されるため、この梁3の添え筋9Aが配筋されている部分と、添え筋9Aが配筋されていない部分との境界近傍の断面10Aに、梁3の降伏ヒンジが形成されることになる。
そして、添え筋9Aは、仕口部梁主筋6の延在方向において、仕口部4と離間する側の端部に設けられたフック部94が、鉄筋継手8よりも仕口部4と離間する位置に配置されているため、鉄筋継手8よりも仕口部4から離間する側に、梁3の降伏ヒンジを形成することができる。
これにより、梁3の降伏ヒンジが形成される断面10Aは、鉄筋継手8と離間し、この鉄筋継手8の性能や施工品質の影響を受けることがないため、この鉄筋継手8の性能や施工品質の影響を受けることなく、梁3の変形性能を確実に確保することができる。
【0018】
また、添え筋9Aは、略コの字状に形成されていて、梁3の上部側に上側配置部91が配置され、梁3の下部側に下側配置部92が配置されるため、添え筋9Aによって梁3の上部側も下部側も均一に補強することができる。
また、上側配置部91と下側配置部92とは、接続部93で接続されて一体化しているため、梁3の上部側と下部側にそれぞれ個別に添え筋を配筋する場合と比べて、配筋を容易に行うことができる。
【0019】
また、添え筋9Aは、フック部94を有することにより、梁3の添え筋9Aが配置された部分のうち、フック部94が配置された部分がより補強されるため、梁3のフック部94よりも仕口部4と離間する側において梁3の降伏ヒンジを確実に形成することができ、鉄筋継手8の性能や施工品質の影響を受けることなく、梁3の変形性能を確実に確保することができる。
【0020】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について、添付図面に基づいて説明するが、上述の第1実施形態と同一又は同様な部材、部分には同一の符号を用いて説明を省略し、第1実施形態と異なる構成について説明する。
図4に示すように、第2実施形態による柱と梁の接合構造1Bでは、添え筋9B(9)が、第1実施形態の添え筋9A(
図1乃至
図3参照)と異なり、梁3の側方から見て略長方形の環状に形成されている。添え筋9Bは、第1実施形態と同様の上側配置部91と下側配置部92とを有し、上側配置部91および下側配置部92の仕口部4側の端部91a,92aどうしを接続する第1接続部95と、上側配置部91および下側配置部92の仕口部4側と反対側の端部91b,92bどうしを接続する第2接続部96と、を有している。
そして、第1接続部95は、鉄筋継手8の仕口部4側の端部8a近傍に配置され、第2接続部96は、鉄筋継手8よりも仕口部4と離間する側に配置されている。
【0021】
第2実施形態による柱と梁の接合構造1Bでは、第1接続部95が鉄筋継手8の仕口部4側の端部8a近傍に配置され、第2接続部96が鉄筋継手8よりも仕口部4と離間する側に配置されている添え筋9Bが梁3に設けられていることにより、第2接続部96近傍に梁3の降伏ヒンジが形成される断面10Bが形成されるため、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0022】
以上、本発明による柱と梁の接合構造の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記の実施形態では、仕口部4に対して3方向から梁3が接続されているが、仕口部4に対して1方向や2方向また4方向以上から梁3が接続されていてもよい。
また、上記の実施形態では、柱2および仕口部4は、フルプレキャストの部材から構成され、梁3はハーフプレキャストの部材から構成されているが、いずれの部材も、フルプレキャストの部材から構成されていてもよいし、ハーフプレキャストの部材から構成されていてもよい。またこれらの部材は、現場にて製作される鉄筋コンクリート造の部材としてもよい。
【0023】
また、上記の実施形態では、仕口部梁主筋6は、梁主筋7よりも高強度の材料で形成されているが、梁主筋7と同じ材料で形成されて梁主筋7よりも太径の鉄筋として、梁主筋7よりも高強度に構成されていてもよい。
また、上記の実施形態では、添え筋9A,9Bは、梁主筋7よりも高強度の材料で、梁主筋7よりも細径に形成されているが、梁主筋7と同じ材料で形成されていてもよいし、梁主筋7と同径や梁主筋7よりも太径に形成されていてもよい。
また、上記の実施形態では、仕口部梁主筋6と梁主筋7とは、カプラなどの機械式の鉄筋継手8を介して接合されているが、鉄筋継手8は、溶接式の継手や重ね継手など、機械式の継手以外の継手で構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0024】
1A,1B 柱と梁の接合構造
2 柱
3 梁
4 仕口部
5 柱主筋
6 仕口部梁主筋
6a 先端部
7 梁主筋
8 鉄筋継手(接合部)
9,9A,9B 添え筋
91 上側配置部
92 下側配置部
93 接続部
94 フック部
95 第1接続部
96 第2接続部