(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記バッテリ(32)を収納した前記バッテリトレー(61)が前記バッテリ保持部材(41)内の収納位置にあるときには、前記バッテリ(32)のプラス端子(32p)に対するプラス配線(37)の着脱を規制し、前記バッテリトレー(61)が前記収納位置から所定量引き出されたメンテナンス位置にあるときには、前記プラス端子(32p)に対する前記プラス配線(37)の着脱を可能とする着脱規制部(45,46)を備えることを特徴とする請求項1に記載の車両のバッテリ保持構造。
前記バッテリ(32)のプラス端子(32p)が前記バッテリ(32)の前記車幅方向一側に配置され、前記バッテリ(32)のマイナス端子(32m)が前記バッテリ(32)の車幅方向他側に配置されることを特徴とする請求項1から4の何れか一項に記載の車両のバッテリ保持構造。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記構成においては、バッテリを取り外す際、バッテリの両端子からバッテリ配線の端子を外す作業とは別に、前記バッテリバンドを外す作業が発生してしまう。
【0005】
そこで本発明は、車両のバッテリ保持構造において、バッテリの移動を規制した上でバッテリの着脱作業を簡易にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題の解決手段として、請求項1に記載した発明は、バッテリ(32)を収納するバッテリトレー(61)と、車体に固定され、前記バッテリ(32)を収納した前記バッテリトレー(61)を収納するとともに、このバッテリトレー(61)を車幅方向一側に引き出し可能なバッテリ保持部材(41)と、前記バッテリ(32)のマイナス端子(32m)に一端を接続するとともに、他端を車体のアース体(20)に接続するアース配線(38)と、
前記バッテリトレー(61)の車幅方向一側への引き出しを規制する移動規制部(65)と、を備え、前記移動規制部(65)は、前記アース配線(38)の他端側を前記バッテリトレー(61)に固定し、前記アース体(20)に接続した前記アース配線(38)を介して前記バッテリトレー(61)の車幅方向一側への引き出しを規制
することを特徴とする。
請求項2に記載した発明は、前記バッテリ(32)を収納した前記バッテリトレー(61)が前記バッテリ保持部材(41)内の収納位置にあるときには、前記バッテリ(32)のプラス端子(32p)に対するプラス配線(37)の着脱を規制し、前記バッテリトレー(61)が前記収納位置から所定量引き出されたメンテナンス位置にあるときには、前記プラス端子(32p)に対する前記プラス配線(37)の着脱を可能とする着脱規制部(45,46)を備えることを特徴とする。
請求項3に記載した発明は、前記アース配線(38)と前記アース体(20)とを締結するアース体締結部材(38b)を有し、前記アース体締結部材(38b)は、前記車幅方向一側からの締結作業により前記アース体(20)に締結されることを特徴とする。
請求項4に記載した発明は、前記アース体締結部材(38b)は、前記アース配線(38)の一端部を加締めて保持する加締め部(38b1)と、前記加締め部(38b1)の下方で車幅方向に直交する板状に設けられる連結部(38b2)と、前記連結部(38b2)の後端から車幅方向内側に屈曲して延びる腕部(38b3)と、前記腕部(38b3)の先端から後方に起立する締結部(38b4)と、を有することを特徴とする。
請求項5に記載した発明は、前記バッテリ(32)のプラス端子(32p)が前記バッテリ(32)の前記車幅方向一側に配置され、前記バッテリ(32)のマイナス端子(32m)が前記バッテリ(32)の車幅方向他側に配置されることを特徴とする。
請求項6に記載した発明は、前記アース配線(38)は、前記マイナス端子(32m)に固定された第一端子(38a)から下後方へ、前記バッテリ(32)の車幅方向他側の側面(32c)の上縁及び前記バッテリトレー(61)の車幅方向他側の側壁(64)の上縁に沿うように延び、さらに、前記アース配線(38)は、前記側壁(64)及び前記バッテリトレー(61)の底壁(63)の間の角部に沿うように車幅方向一側へ屈曲し、前記底壁(63)の上縁に沿うように配置されることを特徴とする。
請求項7に記載した発明は、前記バッテリは、頂面(32a)および底面(32b)を前傾させて配置され、前記バッテリトレー(61)は、前記バッテリ(32)の下前面(32e)に沿う下前壁(62)と、前記底面(32b)に沿う底壁(63)と、車幅方向両側の側面(32c)に沿う両側壁(64)と、を有し、前記下前壁(62)は、その内側に開口(62a)を有して枠状に形成され、前記底壁(63)の車幅方向他側の上部には、上向きに開放したフック状の後配線ガイド(66)を有するとともに、前記底壁(63)の車幅方向一側の上縁部には、下向きに開放したフック状をなし、前記後配線ガイド(66)よりも車幅方向で幅広に形成される前記移動規制部(65)を有することを特徴とする。
請求項8に記載した発明は、前記バッテリトレー(61)は、前記車幅方向一側に取手(68)を備えることを特徴とする。
請求項9に記載した発明は、前記バッテリトレー(61)の車幅方向の引き出し位置を規制する引き出し規制部(51,52,71,72)を備え、前記引き出し規制部(51,52,71,72)は、前記バッテリトレー(61)に設けられる第一係合部(71,72)と、前記バッテリ保持部材(41)に設けられて前記第一係合部(71,72)を前記バッテリトレー(61)の収納位置と前記バッテリトレー(61)のメンテナンス位置とのそれぞれに応じて係合させる第二係合部(51,52)と、を有することを特徴とする。
請求項10に記載した発明は、前記移動規制部(65)は、前記アース体締結部材(38b)よりも前記車幅方向一側に配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本願発明によれば、バッテリトレーの引き出しがアース体に固定したアース配線を介して規制されるため、バッテリのメンテナンス時には、アース配線のアース体への接続を解除すれば、バッテリトレーをメンテナンス位置に引き出すことが可能となる。このため、バッテリの収納位置からの移動を規制しつつ、バッテリの移動を規制するバッテリバンド等をアース配線とは別に取り外す作業を無くし、バッテリのメンテナンス作業を簡易にすることができる。
請求項2に記載した発明によれば、アース配線のアース体への接続を解除してバッテリトレーを所定量引き出した後に、プラス端子に対するプラス配線の着脱が可能となるため、正しい作業手順に誘導することができる。
請求項3および4に記載した発明によれば、車幅方向一側よりアース体締結部材の着脱とともにバッテリトレーの引き出しを行うことが可能となり、バッテリのメンテナンス作業性をさらに良好にすることができる。
請求項5に記載した発明によれば、バッテリトレーの少ない引き出し量でプラス端子を露出させてプラス配線の着脱を可能とし、バッテリトレーの多くをバッテリ保持部材に収納し保持した状態で安定してプラス配線の着脱を行うことができる。また、プラス端子周辺をバッテリ保持部材の外方に露出させ易く、プラス配線の着脱作業スペースを広げてメンテナンス作業性を良好にすることができる。
請求項6および7に記載した発明によれば、バッテリ、バッテリトレー及びアース配線は、バッテリ保持部材に対して一体的に出し入れ可能となり、引き出し作業性を良好にすることができる。
請求項8に記載した発明によれば、引き出し作業性を良好にすることができる。
請求項9に記載した発明によれば、バッテリトレーの収納位置及びメンテナンス位置を規制するため、メンテナンス作業性を良好にすることができるとともに、メンテナンス時の意図せぬバッテリトレーの脱落を抑制することができる。
請求項10に記載した発明によれば、アース体締結部材が移動規制部よりも車幅方向一側に配置される場合と比べて、移動規制部からアース体締結部材までのアース配線を短くし、バッテリトレーの引き出し規制時におけるアース配線の撓みを小さくして、バッテリトレーの引き出し規制の節度感を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明における前後左右等の向きは、特に記載が無ければ以下に説明する車両における向きと同一とする。また以下の説明に用いる図中適所には、車両前方を示す矢印FR、車両左方を示す矢印LH、車両上方を示す矢印UPが示されている。
【0010】
図1に示すように、本実施形態に係る自動二輪車1は、操向ハンドル2によって操向される前輪3と、スイングアーム4の後端部に配置される後輪5との間に、エンジンEが配置される。操向ハンドル2及び前輪3を含むステアリング系部品は、車体フレーム10の前端のヘッドパイプ11に操向可能に枢支される。スイングアーム4は、車体フレーム10にその前端部を揺動可能に枢支される。
【0011】
車体フレーム10は、複数のフレーム部材を溶接等で一体化して構成される。車体フレーム10は、ヘッドパイプ11と、ヘッドパイプ11の上部から左右に分岐して後下方に延びる左右一対のメインフレーム12と、左右のメインフレーム12の後端部から下方に延びる左右一対のピボットプレート13と、左右のピボットプレート13の上端部から後上方に延びる左右一対のシートレール14と、左右のシートレール14の下方で左右のピボットプレート13の下部から後上方に延びて左右のシートレール14に連結される左右一対のサブフレーム15と、ヘッドパイプ11の下部から下方に延びる単一のダウンフレーム16と、ダウンフレーム16の下端部から左右に分岐して後方に延びて左右のピボットプレート13の下端部に連結される左右一対のロアフレーム17と、を備える。
【0012】
車体フレーム10は、メインフレーム12の下方であってピボットプレート13の前方にエンジンEを配置するとともに、エンジンEをダウンフレーム16及びロアフレーム17によって前方及び下方から囲うセミダブルクレードル型の車体フレームとされる。エンジンEは、車体フレーム10の適所に複数設けられるエンジン支持部によって、車体フレーム10に支持される。
【0013】
エンジンEは、クランク軸及び変速機を一体に収容するクランクケース20と、クランクケース20の上面前側から上前方に起立するシリンダ21と、を備える。クランクケース20及びシリンダ21は、メインフレーム12、ピボットプレート13、ダウンフレーム16、及びロアフレーム17によって囲まれるスペース内に配置される。エンジンEは例えば並列2気筒エンジンであり、シリンダ21には左右方向(車幅方向)に並ぶ2つの気筒が形成される。
【0014】
ヘッドパイプ11に支持されるステアリング系部品は、前輪3と、前輪3を下部で支持する左右一対のフロントフォーク6と、左右フロントフォーク6の上部の間に渡って設けられるトップブリッジ7T及びボトムブリッジ7Bと、トップブリッジ7Tとボトムブリッジ7Bとの間に渡って設けられてヘッドパイプ11内に挿通されるステアリングシャフト(図示略)と、トップブリッジ7T上に支持される操向ハンドル2と、を備える。
【0015】
スイングアーム4は、左右ピボットプレート13の上下中間部にピボット軸4Aを介して支持される。ピボットプレート13の上部間には、クロスフレーム100が設けられる。スイングアーム4の前部間にはクロスメンバ(不図示)が設けられ、このクロスメンバとピボットプレート13の下部との間にリンク機構101が設けられる。リンク機構101とクロスフレーム100との間には、リアクッション102が設けられる。
【0016】
エンジンEの上方には、メインフレーム12に支持される燃料タンク25が配置される。燃料タンク25の後方には、シートレール14の前部に支持される運転者用シート26が配置される。運転者用シート26の後方には、シートレール14の後部に支持される同乗者用シート27が配置される。運転者用シート26の下方には、シートレール14に支持される物品収納ボックス33が配置される。
【0017】
燃料タンク25は、ヘッドパイプ11の後方であって操向ハンドル2の下方の位置から、メインフレーム12の上方でメインフレーム12に沿って後下方に延び、ピボットプレート13の上方の位置に至る。燃料タンク25は、後方に向かうに従い下方に延びるように傾斜した上面25Sを形成する。上面25Sは、メインフレーム12と概略平行に延びる。
【0018】
燃料タンク25の上面25Sの後部は、運転者用シート26の前部に形成されて燃料タンク25の上面25Sに沿うように延びる被覆部26Cによって、上方から覆われる。被覆部26Cは、運転者用シート26の着座部分から前上方に延びるように形成される。
【0019】
ヘッドパイプ11と燃料タンク25との間であってエンジンEのシリンダ21の上方には、エアクリーナ28が配置される。燃料タンク25の前部には、後方に窪む凹部(図示略)が形成され、この凹部内にエアクリーナ28の少なくとも一部が収納される。
【0020】
ヘッドパイプ11の周囲には、ヘッドパイプ11の前方から左右側方に渡る範囲を覆うフロントカウル29が設けられる。フロントカウル29は、燃料タンク25の前部を左右側方から覆うとともに、エアクリーナ28を左右側方から覆う。
【0021】
フロントカウル29は、ヘッドパイプ11の前方に配置されるフロントカウルステー30にカウル内側から支持される。フロントカウル29の上方には、フロントカウル29の上部と滑らかに連なるスクリーンSCが設けられる。
【0022】
図2、
図3に示すように、エンジンEのシリンダ21の後方かつクランクケース20の上方であって、側面視でシリンダ21、メインフレーム12、ピボットプレート13及びクランクケース20に囲まれるスペースSには、バッテリ32が配置される。
【0023】
図6を併せて参照し、バッテリ32は、直方体形状をなし、頂面32a及び底面32bを大きく前傾させて配置される。バッテリ32は、長方形状の頂面32a及び底面32bの各長辺を車幅方向に沿わせ、頂面32a及び底面32bの各短辺間に渡る左右側面32cを車幅方向に直交させて配置される。以下、頂面32a及び底面32bの上後側の各長辺間に渡る面を上後面32dとし、頂面32a及び底面32bの下前側の各長辺間に渡る面を下前面32eとする。バッテリ32は、側面視で上後面32dをメインフレーム12の後部の下縁に沿わせるように傾斜して配置される。
【0024】
図13を併せて参照し、バッテリ32は、車幅方向では車体左右中心CLを左右に跨いで配置される。
ここで、シリンダ21は、右側にカムチェーン室22を有し、その後方にはカムチェーンテンショナ23のプランジャ等を収容する後方突出部24が設けられる。
【0025】
バッテリ32は、シリンダ21右側のカムチェーンテンショナ23の後方突出部24を避けるように、車幅方向で左側にオフセットして配置される。バッテリ32の上後面32dの上方には、ECU等の電装部品35が配置される。
バッテリ32は、側面視でカムチェーンテンショナ23の後方突出部24と一部重なるように配置される。すなわち、バッテリ32の右側面32cの右方には、カムチェーンテンショナ23の後方突出部24が配置される。
【0026】
図2を参照し、バッテリ32の上後面32dの上方には、燃料タンク25の底部が配置され、バッテリ32の下前面32eの下方には、エンジンEのクランクケース20の上部が配置される。バッテリ32の頂面32aの前方には、エンジンEのシリンダ21の後部が配置され、バッテリ32の底面32bの後方には、クランクケース20上に突設された側面視三角形状のエンジンハンガ36の前部が配置される。
【0027】
図6を参照し、バッテリ32の頂面32aを形成する頂部の上側かつ左右両側の角部には、それぞれ頂面32aを切り欠く凹部32fが形成される。左側の凹部32f内には、プラス端子32pが配置され、右側の凹部32f内にはマイナス端子32mが配置される。
【0028】
各端子32p,32mはそれぞれ直方体形状をなし、バッテリ32の頂面32a及び上後面32dのそれぞれと平行な頂面及び上後面を形成する。これら頂面及び上後面の何れかに、バッテリ配線の端子を接続可能とする。
具体的に、
図4、
図6を参照し、プラス配線37の一端の第一端子37aは、プラス端子32pの頂面に対し、上前方から挿通した締結ボルトBp及びプラス端子32p内に配置したナット(不図示)により締結される。アース配線38の一端の第一端子38aは、マイナス端子32mの上後面に対し、上後方から挿通した締結ボルトBm及びマイナス端子32m内に配置したナット(不図示)により締結固定される。
【0029】
プラス配線37の他端の第二端子(不図示)は、始動系、点火系及び充電系等の電装部品に接続される。アース配線38の他端の第二端子38bは、アース体として例えばエンジンEのクランクケース20に接続される。
【0030】
図2〜
図5を参照し、バッテリ32は、バッテリケース34に収納された状態で車体に搭載される。バッテリケース34は、バッテリ32の外形状に沿うように直方体形状の箱体に形成される。バッテリケース34の左端には、リッド47により開閉する左開口34aが形成される。バッテリ32は、バッテリケース34の左開口34aよりバッテリケース34内に車幅方向に沿って出し入れされる。
【0031】
バッテリケース34は、車体に固定されるバッテリ保持ラック41と、バッテリ保持ラック41内に引き出し可能に収納されるバッテリトレー61と、を有する。バッテリトレー61内にはバッテリ32が収納され、この状態でバッテリ32がバッテリトレー61とともにバッテリ保持ラック41に対して出し入れされる。
【0032】
図6、
図8を併せて参照し、バッテリトレー61は、バッテリ32の下前面32eに沿う下前壁62と、底面32bに沿う底壁63と、左右側面32cに沿う左右側壁64と、を有する。
下前壁62は、その内側に開口62aを有して枠状に形成される。
底壁63は、左上縁部に下向きに開放したフック状の配線固定部65を有するとともに、右上部に上向きに開放したフック状の後配線ガイド66を有する。配線固定部65は、後配線ガイド66よりも車幅方向で幅広に形成される。
【0033】
左右側壁64は、下前壁62に沿う及び底壁63に沿う部位を残して側面視L字形状をなすように切り欠かれる。左右側壁64の下前壁62に沿う部位の上縁64aは、下前壁62と略平行に設けられる。左右側壁64の底壁63に沿う部位の前縁64bは、底壁63に対して上側ほど底壁63に近付くように傾斜して設けられる。右側壁64の底壁63に沿う部位の上部には、後配線ガイド66と同様の右配線ガイド67が設けられる。
【0034】
左側壁64の上縁には、バッテリトレー61引き出し用の取手68が、下向きに開放したフック状に設けられる。左側壁64と下前壁62との間の角部には、前後一対の第一切り欠き部71が設けられる。下前壁62における角部よりも車幅方向内側の部位には、前後第一切り欠き部71とそれぞれ前後方向位置を同一にする前後一対の第二切り欠き部72が設けられる。
【0035】
一方、
図7、
図9を参照し、バッテリ保持ラック41には、前後第一切り欠き部71に対応して前後一対の第一係止爪51が設けられるとともに、前後第二切り欠き部72に対応して前後一対の第二係止爪52が設けられる。前後第一係止爪51はバッテリ保持ラック41の左端よりも車幅方向内側に位置し、前後第二係止爪52はバッテリ保持ラック41の左端に位置する。
【0036】
図10、
図11を参照し、バッテリトレー61は、左開口34aからバッテリ保持ラック41内へ挿入されきった位置を収納位置とし(
図10参照)、収納位置から距離Aだけ左側に引き出された位置をメンテナンス位置とする(
図11参照)。メンテナンス位置とは、バッテリトレー61及びバッテリ32をバッテリ保持ラック41内に保持したままでバッテリ32左側のプラス端子32pの周辺をバッテリ保持ラック41の外部に引き出し、プラス端子32pに対してプラス配線37を着脱可能とする位置である。
【0037】
第一切り欠き部71の車幅方向内側の端縁と第二切り欠き部72の車幅方向内側の端縁との間の車幅方向の距離を距離Bとし、第一係止爪51の車幅方向内側の端縁と第二係止爪52の車幅方向内側の端縁との間の車幅方向の距離を距離Cとすると、距離Bと距離Cとの和が距離Aとなる。
【0038】
すなわち、バッテリトレー61が収納位置にあるときには、前後第一切り欠き部71の車幅方向内側の端縁にバッテリ保持ラック41の前後第一係止爪51の車幅方向内側の端縁が係合し、バッテリトレー61の引き出しを規制する。バッテリトレー61がメンテナンス位置にあるときには、前後第二切り欠き部72の車幅方向内側の端縁にバッテリ保持ラック41の前後第二係止爪52の車幅方向内側の端縁が係合し、バッテリトレー61の引き出しを規制する。各切り欠き部71,72への各係止爪51,52の係合は、バッテリトレー61及びバッテリ32の自重によりなされる。前記係合は、バッテリトレー61及びバッテリ32をバッテリ保持ラック41のラック下前壁42から浮かせることで解除される。
【0039】
ここで、
図6を参照し、アース配線38は、バッテリ32右側のマイナス端子32mに固定された第一端子38aから
下後方へ、バッテリ32の右側面32cの上縁及びバッテリトレー61の
右側壁64の上縁に沿うように延びる。その後、アース配線38は、バッテリトレー61の右側壁64及び底壁63の間の角部に沿うように左方へ屈曲し、バッテリトレー61の底壁63の上縁に沿うように延びる。
【0040】
アース配線38の第二端子38bは、アース配線38の一端部を加締めて保持する加締め部38b1と、加締め部38b1の下方で車幅方向に直交する板状に設けられる連結部38b2と、連結部38b2の後端から車幅方向内側に屈曲して延びる腕部38b3と、腕部38b3の先端から後方に起立する締結部38b4と、を有する。締結部38b4には
、車幅方向外側から締結ボルトBgが挿通され、この締結ボルトBgがエンジンハンガ36の前部に設けられた締結部のネジ孔に螺着される。これにより、バッテリ32のマイナス端子32mに接続したアース配線38がアース体であるクランクケース20に接続される。
【0041】
アース配線38は、バッテリトレー61の角部に沿う屈曲部の前後で、バッテリトレー61の右配線ガイド67及び後配線ガイド66にそれぞれ保持される。アース配線38は、バッテリトレー61の底壁63の左側において配線固定部65に保持された状態で、例えばバンドクリップ等の固定手段により配線固定部65に固定される。アース配線38は、弛みを抑えた状態でバッテリトレー61に一体的に保持される。バッテリ32、バッテリトレー61及びアース配線38は、バッテリ保持ラック41に対して一体的に出し入れ可能な小組体Kを構成する。
【0042】
図2〜
図5、
図7を参照し、バッテリ保持ラック41は、バッテリトレー61の下前壁62及び底壁63にそれぞれ沿うラック下前壁42及びラック底壁43を有するとともに、バッテリトレー61の左右側壁64にそれぞれ沿うラック左右側壁44を有する。また、バッテリ保持ラック41は、バッテリトレー61に収納されたバッテリ32の頂面32a及び上後面32dにそれぞれ沿うラック頂壁45及びラック上後壁46を有し、全体として直方体形状の箱体を形成する。
【0043】
ここで、
図5、
図9を参照し、バッテリ保持ラック41は、ラック下前壁42、ラック底壁43及びラック右側壁44を形成するラック下部54と、ラック上後壁46、ラック頂壁45及びラック左側壁44を形成するラック上部55と、ラック頂壁45及びラック下前壁42をバッテリ保持ラック41の外方ら覆うラックカバー56と、に分割される。
【0044】
ラック下部54におけるラック下前壁42の前縁部及びラック底壁43の上縁部と、ラック上部55におけるラック頂壁45の下縁部及びラック上後壁46の後縁部とには、ラック下部54及びラック上部55を互いに結合するための締結部54aが設けられる。ラック上部55のラック上後壁46の周囲には、バッテリ保持ラック41を車体フレーム10等の車体構成部品に固定するための固定部55aが設けられる。バッテリ保持ラック41並びにバッテリ保持ラック41に収納したバッテリトレー61及びバッテリ32は、車体から吊下されるように支持される。
【0045】
図2、
図4、
図5、
図7を参照し、ラック左側壁44は、その上縁がラック上後壁46の左側縁にヒンジ44aを介して連結される。ラック左側壁44は、その下縁側を上下動させるように可動してバッテリ保持ラック41の左開口34aを開閉するリッド47として機能する。リッド47の前部には、側面視台形状の張り出し部47aが設けられる。張り出し部47aは、ラック頂壁45の左側に膨出形成された側面視台形状の膨出部45aに対応して設けられる。これら膨出部45a及び張り出し部47aにより、プラス端子32pにプラス配線37を着脱する際のスペースが確保される。
【0046】
リッド47の後部には、アース配線38の第二端子38bの締結位置を車幅方向外側から覆う張り出し部47bが設けられる。張り出し部47bは、ラック底壁43の左側に膨出形成された膨出部43aに対応して設けられる。これら膨出部43a及び張り出し部47bにより、アース配線38の第二端子38bの締結位置が隠蔽される。膨出部43a及び張り出し部47bの上方には、エンジンハンガ36に挿通するハン
ガボルト36aを避ける凹部48が設けられる。
【0047】
図4、
図5を参照し、ラックカバー56は、ラック頂壁45に沿うカバー頂壁56aと、ラック下前壁42に沿うカバー下前壁56bと、を有し、バッテリ保持ラック41のエンジンEに面する部位を覆う。カバー下前壁56bの後部には、車幅方向に沿って延びるトンネル状の配線ガイド56cが形成される。配線ガイド56c内にはプラス配線37が挿通される。
【0048】
プラス配線37は、バッテリ32等への取り付け状態において、第一端子37aにおけるプラス端子32pの左側に配置された加締め部37a1(
図12参照)の後方でバッテリ32の左側面32cに沿って後方に延びる。その後、プラス配線37は下方に湾曲し、バッテリトレー61の左側壁64に沿って下方に延びる。プラス配線37は、バッテリトレー61の下方でラックカバー56が形成するトンネル状の配線ガイド56c部内に挿通され、配線ガイド56c部を通じて車幅方向右側へ延びる。その後、プラス配線37は、スタータマグネット等の電装部品に接続される。
【0049】
図9〜
図11を参照し、ラック下前壁42の左側縁よりも車幅方向内側の部位の上面側には、バッテリトレー61が収納位置にあるときに前後第一切り欠き部71に係合する前後第一係止爪51が設けられる。ラック下前壁42の左側縁の上面側には、バッテリトレー61がメンテナンス位置にあるときに前後第二切り欠き部72に係合する前後第二係止爪52が設けられる。
【0050】
次に、本実施形態の作用について説明する。
バッテリ32を収納したバッテリトレー61は、バッテリ保持ラック41の左開口34aからバッテリ保持ラック41内へ車幅方向に沿って挿入される。バッテリトレー61を挿入しきると、バッテリトレー61の左側壁64とバッテリ保持ラック41の左開口34aとの車幅方向位置が互いに略同一になる。このとき、バッテリトレー61が収納位置となり、前後第一切り欠き部71に前後第一係止爪51が係合し、バッテリトレー61の車幅方向の移動、特に引き出し方向の移動が規制される。この状態で、バッテリ保持ラック41の左開口34aをリッド47(ラック左側壁44)で閉じ、閉状態のリッド47を適宜固定することで、リッド47によってもバッテリトレー61の移動が規制される。以上により、バッテリ保持ラック41内へのバッテリトレー61及びバッテリ32の収納が完了する。
【0051】
バッテリトレー61の収納位置では、バッテリトレー61に収納したバッテリ32のプラス端子32pの周辺は、ラック頂壁45及びラック上後壁46等によって囲われる。このため、リッド47を開いていても、バッテリトレー61が収納位置にあるままでは、プラス端子32pへのプラス配線37の着脱が不能となる。換言すれば、バッテリトレー61の収納位置では、バッテリ32のプラス端子32pの周辺はバッテリ保持ラック41の壁に囲われたアクセス不能位置にある(このときのプラス端子32p、第一端子37a及び締結ボルトBpを
図12に鎖線で示す。)。プラス端子32pがアクセス不能位置にあるときには、プラス端子32pの絶縁カバーCVは取り外せても、スパナ等の工具を締結ボルトBpに係脱させることができず、プラス配線37の着脱作業が不能となる。
【0052】
収納位置にあるバッテリトレー61をバッテリ保持ラック41から引き出す際には、まず、リッド47を開き、アース配線38の第二端子38bの固定を解いてアース接続の解除を行う。その後、バッテリトレー61をラック下前壁42から浮かせて前後第一切り欠き部71と前後第一係止爪51との係合を解除し、この状態でバッテリトレー61を左側に距離Aだけ引き出す。すなわち、バッテリトレー61をメンテナンス位置まで引き出す。この後に、バッテリトレー61をラック下前壁42上に置き直すことで、前後第二切り欠き部72に前後第二係止爪52が係合し、バッテリトレー61の車幅方向の移動、特に引き出し方向の移動が規制される。
【0053】
バッテリトレー61のメンテナンス位置では、バッテリトレー61及びバッテリ32をバッテリ保持ラック41内に保持したままで、バッテリトレー61に収納したバッテリ32の左側のプラス端子32pの周辺がバッテリ保持ラック41の外部に露出し、プラス端子32pへのプラス配線37の着脱作業が可能となる。換言すれば、バッテリトレー61のメンテナンス位置では、バッテリ32のプラス配線37の周辺はバッテリ保持ラック41の外部に露出したアクセス可能位置にある(このときのプラス端子32p、第一端子37a及び締結ボルトBpを
図12に実線で示す。)。
【0054】
第二端子38bがクランクケース20に固定された状態でバッテリトレー61を引き出そうとしても、バッテリトレー61の配線固定部65がアース配線38を固定的に保持していることから、配線固定部65から第二端子38bまでの間でアース配線38を撓ませる程度しかバッテリトレー61を引き出すことができず、バッテリトレー61をメンテナンス位置に移動することができない。したがって、第二端子38bがクランクケース20に固定された状態では、バッテリ32のプラス端子32pをバッテリ保持ラック41の外方に露出させることができず、プラス配線37の着脱作業が不能となる。
【0055】
一方、締結ボルトBgを取り外して第二端子38bのクランクケース20への固定(アース接続)を解除すると、第二端子38bの固定によるバッテリトレー61及びバッテリ32の引き出し規制が解除され、バッテリトレー61及びバッテリ32をバッテリ保持ラック41の外方に引き出すことができる。このとき、バッテリトレー61の第二切り欠き部72とバッテリ保持ラック41の第二係合爪51とが係合する位置まで(メンテナンス位置まで)バッテリトレー61を引き出すことで、バッテリ32及びバッテリトレー61をバッテリ保持ラック41内に保持し、かつバッテリトレー61及びバッテリ32の意図せぬ脱落を規制しつつ、バッテリ32に対するプラス端子32pの着脱作業を行うことができる。
【0056】
プラス端子32pからプラス配線37の第一端子37aを取り外した後には、バッテリ32、バッテリトレー61及びアース配線38を含む小組体Kをバッテリ保持ラック41の左開口34aから取り出すことができる。逆に、前記小組体Kをバッテリ保持ラック41に収納するときには、小組体Kをバッテリ保持ラック41の左開口34aからバッテリ保持ラック41内に挿入する際、バッテリ保持ラック41をメンテナンス位置で一旦停止させ、プラス端子32pにプラス配線37の第一端子37aを取り付けるとともに、これらに絶縁カバーCVを被せる。このとき、アース配線38の第二端子38bは、締結相手であるクランクケース20(アース体)から離間しており、プラス配線37の接続に先んじてアース配線38がアース接続されてしまうことを抑止する。
【0057】
プラス端子32pへのプラス配線37の接続が完了した後には、小組体Kをさらにバッテリ保持ラック41内に挿入し、バッテリトレー61を収納位置に至らしめる。このとき、第二端子38bの締結部38b4がクランクケース20のエンジンハンガ36の締結部にほぼ突き当たる。この第二端子38bの締結部38b4に車幅方向外側から締結ボルトBgを挿通し、この締結ボルトBgをエンジンハンガ36の締結部に螺着し締め込むことで、第二端子38bがクランクケース20に固定されるとともにアース接続がなされる。以上により、バッテリ32のプラス配線37及びアース配線38の接続が完了し、その後に開状態のリッド47を閉じることで、バッテリ32の車体への取り付けが完了する。
【0058】
以上説明したように、上記実施形態における車両のバッテリ保持構造は、バッテリ32を収納するバッテリトレー61と、車体に固定され、バッテリ32を収納したバッテリトレー61を収納するとともに、このバッテリトレー61を車幅方向一側に引き出し可能なバッテリ保持ラック41と、バッテリ32のマイナス端子32mに一端を接続するとともに他端を車体のアース体(クランクケース20)に接続するアース配線38と、アース配線38の他端側をバッテリトレー61に固定し、アース体に接続したアース配線38を介してバッテリトレー61の車幅方向一側への引き出しを規制する移動規制部(配線固定部65)と、を備えるものである。
この構成によれば、バッテリトレー61の引き出しがアース体に固定したアース配線38を介して規制されるため、バッテリ32のメンテナンス時には、アース配線38のアース体への接続を解除すれば、バッテリトレー61をメンテナンス位置に引き出すことが可能となる。このため、バッテリ32の収納位置からの移動を規制しつつ、バッテリ32の移動を規制するバッテリバンド等をアース配線38とは別に取り外す作業を無くし、バッテリ32のメンテナンス作業を簡易にすることができる。
【0059】
また、上記車両のバッテリ保持構造は、バッテリ32を収納したバッテリトレー61がバッテリ保持ラック41内の収納位置にあるときには、バッテリ32のプラス端子32pに対するプラス配線37の着脱を規制し、バッテリトレー61が前記収納位置から所定量引き出されたメンテナンス位置にあるときには、プラス端子32pに対するプラス配線37の着脱を可能とする着脱規制部(ラック頂壁45及びラック上後壁46)を備える。
この構成によれば、アース配線38のアース体への接続を解除してバッテリトレー61を所定量引き出した後に、プラス端子32pに対するプラス配線37の着脱が可能となるため、正しい作業手順に誘導することができる。
【0060】
また、上記車両のバッテリ保持構造は、アース配線38とアース体とを締結する第二端子38bを備え、第二端子38bは、車幅方向一側からの締結作業によりアース体に締結される。
この構成によれば、車幅方向一側より第二端子38bの着脱とともにバッテリトレー61の引き出しを行うことが可能となり、バッテリ32のメンテナンス作業性をさらに良好にすることができる。
【0061】
また、上記車両のバッテリ保持構造は、プラス端子32pがバッテリ32の車幅方向一側に配置され、マイナス端子32mがバッテリ32の車幅方向他側に配置される。
この構成によれば、バッテリトレー61の少ない引き出し量でプラス端子32pを露出させてプラス配線37の着脱を可能とし、バッテリトレー61の多くをバッテリ保持ラック41に収納し保持した状態で安定してプラス配線37の着脱を行うことができる。また、プラス端子32p周辺をバッテリ保持ラック41の外方に露出させ易く、プラス配線37の着脱作業スペースを広げてメンテナンス作業性を良好にすることができる。
【0062】
また、上記車両のバッテリ保持構造は、バッテリトレー61は、車幅方向一側に引き出し用の取手68を備える。
この構成によれば、引き出し作業性を良好にすることができる。
【0063】
また、上記車両のバッテリ保持構造は、バッテリトレー61の車幅方向の引き出しを規制する引き出し規制部(第一及び第二切り欠き部71,72並びに第一及び第二係止爪51,52)を備え、引き出し規制部は、バッテリトレー61に設けられる第一係合部(第一及び第二切り欠き部71,72)と、バッテリ保持ラック41に設けられて第一係合部を収納位置とメンテナンス位置とのそれぞれに応じて係合させる第二係合部(第一及び第二係止爪51,52)と、を有する。
この構成によれば、バッテリトレー61の収納位置及びメンテナンス位置を規制するため、メンテナンス作業性を良好にすることができるとともに、メンテナンス時の意図せぬバッテリトレー61の脱落を抑制することができる。
【0064】
ここで、
図13に示すように、上記実施形態では、第二端子38bの締結部38b4が、アース配線38の他端近傍をバッテリトレー61に固定する配線固定部65の車幅方向外側端よりも所定量b1だけ車幅方向外側(バッテリトレー61の引き出し方向側)に配置される。このため、配線固定部65の車幅方向外側端から第二端子38bまでのアース配線38が比較的長く、バッテリトレー61の引き出し規制時におけるアース配線38の撓みが大きく、バッテリトレー61の引き出し規制の節度感を得難い。
【0065】
そこで、
図14に示す変形例のように、配線固定部65の車幅方向外側端が、第二端子38bの締結部38b4よりも所定量b2だけ車幅方向外側(バッテリトレー61の引き出し方向側)に配置される構成とすることで、配線固定部65の車幅方向外側端から第二端子38bまでのアース配線38を比較的短くし、バッテリトレー61の引き出し規制時におけるアース配線38の撓みを小さくして、バッテリトレー61の引き出し規制の節度感を高めることができる。さらに、バッテリトレー61の引き出し規制時にアース配線38に張力が作用する配置とすれば、バッテリトレー61の引き出しをより良好に規制することができる。
【0066】
なお、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、例えば、自動二輪車(原動機付自転車及びスクータ型車両を含む)のみならず、三輪(前一輪かつ後二輪の他に、前二輪かつ後一輪の車両も含む)又は四輪の車両に適用してもよい。
そして、上記実施形態における構成は本発明の一例であり、実施形態の構成要素を周知の構成要素に置き換える等、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。