(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
支持体上に設けられた可逆性感熱組成物を含有する可逆性感熱記録層と、該可逆性感熱記録層上に設けられたイソシアネート基を有する化合物と水酸基を有する化合物とが縮合した樹脂からなるアンカー層と、該アンカー層上に設けられた保護層とを有する積層体であって、
前記水酸基を有する化合物は、ガラス転移温度が60℃以上90℃以下、かつ水酸基価が3mgKOH/g以上35mgKOH/g以下であり、
前記アンカー層の厚みは、0.2μmを超え、2.5μm未満である、可逆性感熱記録材料。
【背景技術】
【0002】
可逆性感熱記録材料は、ロイコ色素と顕減色剤とを含む可逆性感熱記録層を支持体上に備え、この可逆性感熱記録層が加熱されることにより可逆的に色素の発色と消色とが起こることを利用し、可逆性感熱記録層上で情報を書き換え可能としたものである。
【0003】
ロイコ色素及び顕減色剤を含む可逆性感熱記録材料は、様々な記録媒体に利用されており、可逆性感熱記録材料をPET−Gのような基材上に積層したプリペイドカード又はICカード等の記憶媒体においては、書き換え可能な情報をカード上に表示するために用いられている。プリペイドカード及びICカードでは、支持体上に設けられた可逆性感熱記録層を保護するため、熱硬化性樹脂又は紫外線硬化性樹脂で形成された保護層が可逆性感熱記録層上に設けられている。
【0004】
可逆性感熱記録層を備える可逆性感熱記録材料又は可逆性感熱記録媒体は、印字機のサーマルヘッドにより保護層が加熱され、可逆性感熱記録層に熱が伝わり、情報が書き換えられる。
ところが、繰り返し保護層が加熱されることにより、保護層と可逆性感熱記録層との剥離及び/又は保護層上に発生した傷による文字かすれ等の問題が発生していた。
【0005】
保護層の傷に関しては、保護層を形成する樹脂成分の耐熱性を向上させると共に、硬度を高めることにより、傷の防止が図られている。しかし、保護層の硬度を高めると、可逆性感熱記録材料又は可逆性感熱記録媒体において、曲げ強度の低下が生じ、可逆性感熱記録材料又は可逆性感熱記録媒体が破損しやすくなるという問題がある。
なお、保護層と可逆性感熱記録層との間にアンカー層を設けることにより、保護層と可逆性感熱記録層との接着性を改善できることが知られている(特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、印字耐久性を向上させた可逆性感熱記録材料及び印字耐久性と曲げ強度の向上した可逆性感熱記録媒体を提供することを目的とする。
【0008】
本発明者らは、可逆性感熱記録層と保護層との接着性を良くするために設けられているアンカー層に注目し、鋭意研究をすすめたところ、アンカー層を形成する樹脂の種類とアンカー層の膜厚が、可逆性感熱記録材料の保護層の印字耐久性、そして、可逆性感熱記録媒体の曲げ強度に影響を与えていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
なお、前述したように、特許文献1は、可逆性感熱記録層と保護層との接着性を改善するために、2つの層の間にアンカー層を設けることを開示しているが、アンカー層が保護層の耐久性又は可逆性感熱記録媒体の曲げ強度又は柔軟性に関与することを示唆する記載はない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の可逆性感熱記録材料は、支持体上に設けられた可逆性感熱組成物を含有する可逆性感熱記録層と、可逆性感熱記録層上に設けられたイソシアネート基を有する化合物と水酸基を有する化合物とが縮合した樹脂からなるアンカー層と、アンカー層上に設けられた樹脂からなる保護層とを有する積層体であって、水酸基を有する化合物は、ガラス転移温度が60℃以上90℃以下、かつ水酸基価が3mgKOH/g以上
35mgKOH/g以下であり、アンカー層の厚みが、0.2μmを超え2.5μm未満であることを特徴とする。
本発明の可逆性感熱記録媒体は、上記可逆性感熱記録材料の支持体に基材を積層させたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の可逆性感熱記録材料は、サーマルヘッドによる加熱を繰り返しても保護層の表面に傷が発生しにくく、かつ印字適正が良好であるという効果を有する。
本発明の可逆性感熱記録媒体は、サーマルヘッドによる加熱を繰り返しても保護層の表面に傷が発生しにくく、印字適正が良好であり、かつ曲げ強度があるため、破損し難い。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
本実施形態の可逆性感熱記録材料は、支持体上に設けられた可逆性感熱組成物を含有する可逆性感熱記録層と、可逆性感熱記録層上に設けられたイソシアネート基を有する化合物と水酸基を有する化合物とが縮合した樹脂からなるアンカー層と、アンカー層上に設けられた保護層とを有する積層体であって、水酸基を有する化合物は、ガラス転移温度が40℃を超え、90℃以下、かつ水酸基価が150mgKOH/g未満であり、アンカー層の厚みは、0.2μmを超え、2.5μm未満である。
【0014】
支持体は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアセテート、ポリスチレン(PS)、エボキシ樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)及びポリカーボネート(PC)等の合成樹脂シート又は合成紙等を用いることができる。支持体の厚さは通常、20〜300μm程度である。
【0015】
可逆性感熱記録層は、加熱温度及び加熱後の冷却速度の違いにより相対的に発色した状況を形成し得る可逆性感熱組成物を含有する樹脂層であり、熱によって可逆的に発色/消色を繰り返す層である。可逆性感熱組成物は、ロイコ染料及び顕減色剤により構成される。ロイコ染料及び顕減色剤としては、従来公知のものを使用することができる。
【0016】
ロイコ染料としては、クリスタルバイオレットラクトン、3−インドリノ−3−p−ジメチルアミノフェニル−6−ジメチルアミノフタリド、3−ジエチルアミノ−7−クロロフルオラン、2−(2−クロルフェニルアミン)−ジエチルアミノフルオラン、2−(2−フルオロフェニルアミノ)−6−ジエチルアミノフルオ)ラン、2−(2−フルオロフェニルアミノ)−6−ジ−n−ブチルアミノフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−シクロヘキシルアミノフルオラン、3−ジエチルアミノ−5−メチル−7−t−ブチルフルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−p−ブチルアニリノフルオラン、3−シクロヘキシルアミノ−6−クロロフルオラン、2−アニリノ−3−メチル−6−(N−エチル−p−トルイジノ)−フルオラン、3−ピロリジノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ピロリジノ−7−シクロヘキシルアミノフルオラン、3−N−メチルシクロヘキシルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−N−エチルペンチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン等を挙げることができる。
【0017】
顕減色剤としては、(N−(p−ヒドロキシフェニル)−N’−n−オクタデシルチオ尿素、N−(p−ヒドロキシフェニル)−N’−n−オクタデシル尿素、N−(p−ヒドロキシフェニル)−N’−n−オクタデシルチオアミド、4’−オクタデカンアニリド、2−オクタデシルテレフタル酸、N−オクタデシル(p−ヒドロキシフェニル)アミド、N−(p−ヒドロキシベンゾイル)−N−オクタデカノイルアミン、N−[3−(p−ヒドロキシフェニル)プロピオノ]−N’−オクタデカノヒドテジド、N−[(p−ヒドロキシフェニル)メチル]−n−オクタデシルアミド、N−[(p−ヒドロキシフェニル)メチル]−n−オクタデシル尿素、N−[(p−ヒドロキシフェニル)メチル]−N’−n−オクタデシルオキサミド等を挙げることができる。
【0018】
可逆性感熱記録層に使用される樹脂は、透明性が良く、製膜性の良い熱硬化性樹脂が好ましく、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル系共重合体、塩化ビニリデン系共重合体、ポリエステル、ポリアミド又はポリアクリレート等の樹脂を挙げることができる。
【0019】
本発明において、アンカー層を形成する樹脂は、イソシアネート基を有する化合物と水酸基を有する化合物とがウレタン結合を介して縮合したポリマーである。イソシアネート基を有する化合物としては、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、イソフォロンジイソシアネート(IPDI)等を挙げることができる。
【0020】
水酸基を有する化合物とは、分子内に水酸基を2個以上有する樹脂であって、イソシアネート基と反応してウレタン結合を形成可能な化合物である。例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロンラクトンポリオール等がある。
この水酸基を有する化合物は、ガラス転移温度が40℃を超え、90℃以下のものが好ましい。さらに好ましくは、60℃以上、90℃以下である。ガラス転移温度が40℃以下だと、アンカー層が柔らかくなりすぎ、印字により保護層に傷が付きやすくなる。また、ガラス転移温度が90℃を超えるとアンカー層が硬くなりすぎ、可逆性感熱記録媒体の曲げ強度がなくなるため好ましくない。
【0021】
また、水酸基を有する化合物は、水酸基価が150mgKOH/g未満の条件を満たすことが望ましい。好ましくは、3mg/g以上、100mg/g以下の範囲である。水酸基価が150mgKOH/g以上になると、印字濃度が薄くなる傾向がある。
【0022】
アンカー層の厚みは、可逆性感熱記録材料の印字耐久性、印字濃度及び可逆性感熱記録媒体の曲げ強度に影響を及ぼす。アンカー層の厚みは、0.2μmを超え、2.5μm未満の範囲であることが好ましい。
アンカー層の厚みを増すと、印字耐久性が向上するが、印字濃度が薄くなり、また、可逆性感熱記録媒体の曲げ強度が悪くなる。すなわち、厚みが0.2μm以下になると印字耐久性が低下し、2.5μm以上になると印字濃度が薄くなるとともに、可逆性感熱記録媒体の曲げ強度が悪くなる。さらに好ましくは、0.3μm以上、2.0μm以下の範囲である。
【0023】
保護層は、樹脂で形成されており、樹脂は、耐熱硬質性の樹脂で形成されることが好ましく、さらには、熱硬化性樹脂より紫外線硬化性樹脂が好ましい。
なお、保護層には、シリカ、シリコーンオイル又はワックスなどの滑剤、グリオキザール等の耐水化剤、分散剤、消泡剤、酸化防止剤、蛍光染料等の添加剤が含まれていてもよい。
【0024】
可逆性感熱記録材料は、それぞれの層を形成する樹脂を順に支持体上にワイヤーバーで塗工し乾燥することで製造することができる。
【0025】
可逆性感熱記録材料は、さらに、可逆性感熱記録材料の支持体の下層にPET−G、PET、PVC、紙等を単独又は組み合わせた基材を積層して、可逆性感熱記録媒体としてもよい。支持体と基材の積層は、熱プレス、ラミネート等によって行えばよい。
また、
図1に示すように、可逆性感熱記録材料1の下層の基材2には、ICチップ3及びアンテナ4を搭載してもよい。
なお、可逆性感熱記録媒体の厚みは、JIS X6301に定められた範囲に設定すればよい。
【0026】
以上説明したように、アンカー層を形成する化合物が上述のガラス転移温度条件及び水酸基価の条件を満たし、かつアンカー層の厚みが上述した条件を満たす可逆性感熱記録媒体は、可逆性感熱記録材料の印字が良好で、サーマルヘッドによる加熱を繰り返しても保護層の表面に傷が発生しにくい。
【実施例】
【0027】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに詳しく説明する。
以下に示す(1)〜(4)の材料をペイントシェーカーで18時間混合して塗料とし、支持体(三菱樹脂製W−400J)上にワイヤーバーで塗工し、100℃で2分間乾燥して、乾燥膜厚11μmの可逆性感熱記録層を形成した。
【0028】
(1)熱硬化性ポリアクリル樹脂(DIC製 WBU-1218):25重量部
(2)ロイコ染料(山本化成製 Blue63):10重量部
(3)顕減色剤(N−[3−(p−ヒドロキシフェニル)プロピオノ]−N′−n−ドコサノヒドラジド):40重量部
(4)XDI系硬化剤(三井化学製 タケネート500):25重量部
【0029】
表1に示す水酸基を有する化合物80重量部とXDI系硬化剤(三井化学製 D−110):20重量部とを混合し、可逆性感熱記録層上にワイヤーバーで塗工し、100℃で1分間乾燥して、乾燥膜厚0.2〜2.5μmのアンカー層を形成した。
【0030】
【表1】
【0031】
以下に示す(5)〜(8)の材料を混合してアンカー層上にワイヤーバーで塗工し、100℃で1分間乾燥し、乾燥膜厚5μmの保護層を形成して、可逆性感熱記録材料を作製した。
【0032】
(5)紫外線硬化性ウレタンアクリレート樹脂(DIC製 ユニディックC7−164):88重量部
(6)シリカ(富士シリシア製 サイシリア436):6重量部
(7)ポリ四フッ化エチレン(喜多村製 KTL−4N):5重量部
(8)シリコーンオイル(藤倉化成製 AD−8719D):1重量部
【0033】
作製した可逆性感熱記録材料を最上層となるように、PET−Gシート(500μm)及PET(100μm)を積層し、熱プレスで貼合し、型抜きして得られたカードを使用して、印字機による保護層の傷つき具合の評価、鉛筆硬度試験、印字濃度評価及び可逆性感熱記録媒体の曲げ強度の評価を実施した。結果を表2に示す。
【0034】
印字機による搬送傷の傷付き具合の評価は、印字機TH−TCP(オオクラエンジニアリング製)にて、消去及び印字を60回繰り返し、表面の傷の深さを測定した。
鉛筆硬度は、JIS K 5600 5.4に規定する鉛筆引っかき値試験法に基づき、表面の硬さを測定した。
印字濃度は、印字機TH−TCP(オオクラエンジニアリング製)にて印字し、マクベス濃度計にて印字濃度を測定した。印字濃度は、0.9以上を○印、0.9未満を×印で示し評価した。なお、目視による判断において、印字濃度が0.9未満になると視認性が悪くなるという知見に基づき、0.9を境とする基準としたものである。
可逆性感熱記録媒体の曲げ強度は、「JIS6305−1 5.8動的曲げ強さ」に基づき、評価した。保護層に異常の見つからなかった場合を○印、ひびが入った場合を×印で示した。
【0035】
【表2】
【0036】
実施例1〜3,5,6、参考例及び比較例1〜7は、保護層を形成する樹脂と厚みを同じ条件(乾燥膜厚5μm)とし、アンカー層を形成する樹脂成分と層厚を変えた場合の、保護層の印字耐久性(傷つき具合の評価)、鉛筆硬度試験、印字濃度評価及び可逆性感熱記録媒体の曲げ強度を調べたものである。
【0037】
表2から、水酸基を有する化合物のガラス転移温度が40℃を超えると、保護層の印字耐久性、鉛筆硬度が向上することがわかる。しかし、90℃を超えると可逆性感熱記録媒体にひびが発生している(
実施例1〜3と比較例7とを参照)。
また、ガラス転移温度が40℃を超え、90℃の以下の範囲であっても、アンカー層の厚みが増すと、印字濃度が薄くなることがわかる(実施例6及び比較例6を参照)。さらに、アンカー層の厚みが2.5μmになると、可逆性感熱記録媒体にひびが発生していることがわかる(比較例6)。
【0038】
水酸基価は、150mgKOH/g未満、好ましくは、3mgKOH/g以上、100mg/g以下の範囲である。水酸基価が150mgKOH/g未満である場合には、サーマルヘッドで印字する際、アンカー層が保護層と可逆性感熱記録層との間でサーマルヘッドの加重を受け止めるクッションの役割を持つと考えられる。150mgKOH/g以上である場合には、アンカー層が硬くなるため、クッションの役割を果たさなくなる結果、保護層が傷つきやすい。
【0039】
以上のことから、水酸基を有する化合物のガラス転移温度が60℃以上、90℃以下、かつ水酸基価が150mgKOH/g未満であり、アンカー層の厚みが、0.2μmを超え、2.5μm未満の条件を満たす場合に、印字を繰り返しても保護層に傷が付き難く、印字かすれのない状態で印字ができることがわかる。