特許第6238110号(P6238110)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6238110
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】ロボットハンドの制御方法と制御装置
(51)【国際特許分類】
   B25J 3/00 20060101AFI20171120BHJP
【FI】
   B25J3/00 Z
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-154649(P2013-154649)
(22)【出願日】2013年7月25日
(65)【公開番号】特開2015-24462(P2015-24462A)
(43)【公開日】2015年2月5日
【審査請求日】2016年5月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100097515
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100136700
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 俊博
(72)【発明者】
【氏名】小椋 優
(72)【発明者】
【氏名】江本 周平
(72)【発明者】
【氏名】曽根原 光治
【審査官】 中田 善邦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−055985(JP,A)
【文献】 特開2011−093063(JP,A)
【文献】 特開2000−014215(JP,A)
【文献】 特開2010−269418(JP,A)
【文献】 特開2009−034754(JP,A)
【文献】 特許第3504507(JP,B2)
【文献】 特表2013−510632(JP,A)
【文献】 特開2010−264539(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J1/00−21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットハンドの制御方法であって、
なされた操作に従って、ロボットハンドの動作指令を生成する操作装置と、
生成された動作指令に従って、ロボットハンドを動作させる制御装置と、を用意し、
ロボットハンドの先端部に操作装置が取り付けられ、操作装置に対してなされた操作の方向が、この操作により前記先端部が制御される方向と一致するように、制御装置が設定されており、
操作装置は、操作部と力覚センサを有するものであり、
(A)設定方向において操作部に与えられた力を、力覚センサにより、動作指令として検出し、
(B)検出した前記力に相当する駆動指令値Fiに基づいて、前記設定方向における速度指令値Viを生成し、
(C)生成した速度指令値Viに基づいて、前記設定方向に対応する動作方向においてロボットハンドの動作を制御し、
ロボットハンドが移動している動作方向と逆の方向の操作が操作装置に対してなされたに、前記(C)の制御に代えロボットハンドの移動速度を下げる急停止制御を行うことにより、当該動作方向においてロボットハンドを急停止させる、ことを特徴とするロボットハンドの制御方法。
【請求項2】
前記(A)〜(C)を繰り返し、
(D)前記(B)を行った時点で、当該(B)で生成したFiと前回の前記(B)で生成したViが、Fi>0かつVi<0、または、Fi<0かつVi>0を満たし、かつ、当該Fiの絶対値がしきい値より大きいかを判断し、この判断が肯定の場合には、前記急停止制御を行う、ことを特徴とする請求項1に記載のロボットハンドの制御方法。
【請求項3】
前記設定方向として、互いに直交するX軸方向とY軸方向とZ軸方向のいずれかがあり、当該X軸とY軸とZ軸は、操作装置に固定された座標系の座標軸であり、
前記(A)〜(C)を、X軸方向とY軸方向とZ軸方向の各々について行い、
前記(D)を、X軸方向とY軸方向とZ軸方向の少なくともいずれかについて行う、ことを特徴とする請求項2に記載のロボットハンドの制御方法。
【請求項4】
前記設定方向として、前記操作部を通り前記操作部に固定された軸回りの回転方向があり、
この回転方向に対応する前記動作方向におけるロボットハンドの動作は、ロボットハンドを構成する複数のリンクのうち、いずれかを、他のリンクに対して回転させる動作である、ことを特徴とする請求項2に記載のロボットハンドの制御方法。
【請求項5】
動作して作業を行うロボットハンドを、操作装置により入力された動作指令に基づいて制御する制御装置であって、
ロボットハンドの先端部に操作装置が取り付けられており、
操作装置に対してなされた操作の方向が、この操作により前記先端部が制御される方向と一致するように、設定されており、
操作装置は、操作部と力覚センサを有するものであり、
(A)設定方向において操作部に与えられた力を、力覚センサにより、動作指令として検出し、
(B)前記検出した前記力に相当する駆動指令値Fiに基づいて、前記制御装置は、前記設定方向における速度指令値Viを生成し、
(C)生成した速度指令値Viに基づいて、前記制御装置は、前記設定方向に対応する動作方向においてロボットハンドの動作を制御し、
ロボットハンドが移動している動作方向と逆の方向の操作が操作装置に対してなされたに、前記制御装置は、前記(C)の制御に代えロボットハンドの移動速度を下げる急停止制御を行うことにより、当該動作方向においてロボットハンドを急停止させる、ことを特徴とするロボットハンドの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動作して作業を行うロボットハンドを、操作装置により入力された動作指令に基づいて制御する方法と装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ロボットハンドを制御するために、操作装置と制御装置が設けられる。操作装置は、人に操作され、この操作に従った動作指令を制御装置に入力する。制御装置は、入力された動作指令に従って、ロボットハンドを動作させる。
【0003】
この構成で、人の操作に従って、ロボットハンドを動作させることにより、ロボットハンドに把持された部品を、正確に位置決めして、他の部品に組み付けたり、定められた位置に置いたりする。例えば、ロボットハンドにより、工業製品の製造工場において、大型の部品を、他の部品に組み付ける。
【0004】
このようなロボットハンド装置は、例えば、下記の特許文献1〜3と非特許文献1に記載されている。
【0005】
特許文献1では、ロボットハンド(パワーアシスト装置)にブレーキ機構を設けることにより、作業段階毎に、パワー調整が不要な方向においてロボットハンドが動作することを規制している。
【0006】
特許文献2では、重量物を搬送する作業を補助するロボットハンド(作業補助装置)において、人の操作力に応じて、重量物に運動変化を与える場合に、操作力に対する運動変化の度合いを決めるパラメータ(仮想インピーダンス制御のパラメータ)を、作業段階毎に他の値に切り替えるようにしている。
【0007】
特許文献3では、各軸方向への移動および各軸回りの回転からなる複数の自由度について、作業段階毎に、ロボットハンドが動作可能な自由度と、動作不可能な自由度とを定めている。
【0008】
非特許文献1では、次の式(E)で表わされた速度指令値Vを、制御装置により生成している。

F=M×dV/dt+D×V ・・・(E)

ここで、Fは、人が操作装置に与えた力を示し、Mは、仮想質量係数を示し、Dは、仮想粘性係数を示す。
【0009】
非特許文献1では、さらに、仮想粘性係数Dを、入力Fに応じて変化させることにより、人の操作意図を自動的に推定して、位置決め精度を向上させている。すなわち、入力Fが小さい時には、ロボットハンドを止めやすくするように仮想粘性係数Dを大きくしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−34754号公報
【特許文献2】特許第3504507号
【特許文献3】特開2010−269418号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】「位置決め作業アシストのための操作力依存可変ダンピング制御」、日本ロボット学会誌、Vol.25、No.2、頁306−313、2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、操作装置により入力された動作指令に基づいて、ロボットハンドを目標位置に停止させる場合に、分かりやすい操作により、かつ、制御装置の調整に手間をかけることなく、ロボットハンドを目標位置に急停止できるようにすることが望まれる。しかし、このような急停止は、特許文献1〜3と非特許文献1には開示されていない。
【0013】
特許文献1、2では、操作性を向上させるために、作業段階毎に、操作に対するロボットハンドの応答性を変えている。これにより、ロボットハンドの位置を規定された作業範囲内に維持させるようにすることができる。しかし、特許文献1、2の技術は、ロボットハンドを目標位置に急停止させやすくするものではない。
【0014】
特許文献3では、動作可能な自由度を制限することにより、ロボットハンドを位置決めする時の操作性を向上させている。しかし、特許文献3の技術は、ロボットハンドを目標位置に急停止させやすくするものではない。
【0015】
非特許文献1では、ロボットハンドの動作を試験することにより、仮想粘性係数の変化の仕方を調整している。そのため、非特許文献1では、調整に手間がかかる。
【0016】
そこで、本発明の目的は、仮想粘性係数Dのような制御パラメータの変化の調整に手間をかけることなく、分かりやすい操作によりロボットハンドを急停止できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述の目的を達成するため、本発明によると、ロボットハンドの制御方法であって、
なされた操作に従って、ロボットハンドの動作指令を生成する操作装置と、
生成された動作指令に従って、ロボットハンドを動作させる制御装置と、を用意し、
ロボットハンドが移動している動作方向と逆の方向に動作させる動作指令が操作装置により生成された場合に、当該動作方向においてロボットハンドを急停止させる、ことを特徴とするロボットハンドの制御方法が提供される。
【0018】
本発明の好ましい実施形態によると、操作装置は、操作部と力覚センサを有するものであり、
(A)設定方向において操作部に与えられた力を、力覚センサにより、動作指令として検出し、
(B)検出した前記力に相当する駆動指令値Fiに基づいて、前記設定方向における速度指令値Viを生成し、
(C)生成した速度指令値Viに基づいて、前記設定方向に対応する動作方向においてロボットハンドの動作を制御し、
前記(A)〜(C)を繰り返し、
(D)前記(B)を行った時点で、当該(B)で生成したFiと最新のViが、Fi>0かつVi<0、または、Fi<0かつVi>0を満たし、かつ、当該Fiの絶対値がしきい値より大きいかを判断し、この判断が肯定の場合には、ロボットハンドを急停止させる。
【0019】
この場合、前記設定方向として、互いに直交するX軸方向とY軸方向とZ軸方向のいずれかがあり、当該X軸とY軸とZ軸は、操作装置に固定された座標系の座標軸であり、前記(A)〜(C)を、X軸方向とY軸方向とZ軸方向の各々について行い、前記(D)を、X軸方向とY軸方向とZ軸方向の少なくともいずれかについて行ってよい。
代わりに、前記設定方向として、前記操作部を通り前記操作部に固定された軸回りの回転方向があり、この回転方向に対応する前記動作方向におけるロボットハンドの動作は、ロボットハンドを構成する複数のリンクのうち、いずれかを、他のリンクに対して回転させる動作であってよい。
【0020】
本発明の好ましい実施形態によると、操作装置は、ロボットハンドの先端部に取り付けられている。
【0021】
また、上述の目的を達成するため、本発明によると、動作して作業を行うロボットハンドを、操作装置により入力された動作指令に基づいて制御する装置であって、
ロボットハンドが移動している動作方向と逆の方向に動作させる動作指令が操作装置により生成された場合に、当該動作方向においてロボットハンドを急停止させる、ことを特徴とするロボットハンドの制御装置が提供される。
【発明の効果】
【0022】
上述した本発明によると、ロボットハンドが移動している動作方向と逆の方向に動作させる動作指令が操作装置により生成された場合に、制御装置は、当該動作方向において、ロボットハンドを急停止させる。このような制御を行うために、ロボットハンドの動作を試験して制御パラメータの変化の仕方を調整する必要がない。従って、制御パラメータの調整に手間をかけることなく分かりやすい操作により、ロボットハンドを急停止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態による制御装置を備えるロボットハンド装置を示す。
図2】操作装置を示す。
図3】操作装置と制御装置のブロック図を示す。
図4】本発明の実施形態による制御方法を示すフローチャートである。
図5】従来と本発明の実施例との比較を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の好ましい実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0025】
図1は、本発明の実施形態による制御装置7を備えるロボットハンド装置10を示す。ロボットハンド装置10は、ロボットハンド3と操作装置5と制御装置7を備える。
【0026】
ロボットハンド3は、動作して作業を行う。すなわち、ロボットハンド3は、対象物を把持し、この状態で動作することにより、この対象物を、設定位置に位置決めする。図1の例では、対象物は部品1であり、この部品1を、図1のx軸方向とy軸方向において、他の部品2に組み付け可能な位置へ位置決めし、この状態で、部品1を、他の部品2に向けて、図1の負のz軸方向に下降させることにより、図1の破線で示す部品1のように、部品1を他の部品2に組み付ける。ロボットハンド3の先端部には、対象物(部品1)を把持する把持機構9が設けられている。把持機構9は、例えば、部品1を挟んで把持する複数の爪9aを有する。なお、x軸方向とy軸方向とz軸方向は、図1に示されている。以下において、x軸、y軸、またはz軸に言及する場合には、これらは、それぞれ、図1に示すx軸、y軸、およびz軸を意味する。
【0027】
ロボットハンド3は、図1の例では、多関節ハンドである。なお、ロボットハンド3は、多関節ハンドに限定されず、他の公知の構成を有するものであってもよい。
【0028】
ロボットハンド3は、図示しない駆動装置(例えば、複数のサーボモータ)により駆動される。当該駆動装置が制御装置7によって制御されることにより、ロボットハンド3は動作する。
【0029】
操作装置5を、図2にも示す。図2(A)は、図1のII−II線矢視図であり、図2(B)は、図2(A)のB−B線矢視図である。また、操作装置5と制御装置7のブロック図を図3に示す。
【0030】
操作装置5は、操作部17と力覚センサ25を有する。
【0031】
操作部17は、人に操作される。すなわち、人が、手で操作部17をつかんで、操作部17に力を与える。操作部17は、本実施形態では、操作かんである。操作かん17は、操作装置5の操作台24に設けられる。操作かん17に力を与えても、操作かん17は、操作台24に対して変位しない(すなわち、その位置または姿勢を変えない)。
【0032】
力覚センサ25は、設定方向において操作かん17に与えられた力Eiを動作指令として検出する。Eiは、本実施形態では、操作かん17に与えられた力の設定方向の成分Eiである。本実施形態では、設定方向として、図2(A)に示す、互いに直交するX軸方向とY軸方向とZ軸方向がある。したがって、操作かん17に与えられた力の設定方向の成分Eiとして、X軸方向の成分Exと、Y軸方向の成分Eyと、Z軸方向の成分Ezがある。図2(A)において、互いに直交するX軸、Y軸およびZ軸を有するセンサ座標系Sは、力覚センサ25に固定されている。X軸の正方向に操作かん17に力が与えられている場合には、Exは正の値をとり、X軸の負方向に操作かん17に力が与えられている場合には、Exは負の値をとる。EyとEzについても同様である。
【0033】
操作装置5は、図1に示すように、ロボットハンド3の先端部に取り付けられる。この取り付けにより、操作装置5(図2の例では操作かん17)に対してなされた操作の方向(与られた力の方向)が、この操作による制御方向と一致するようにすることが好ましい。ここで、制御方向とは、ロボットハンド3の先端部が制御される方向である。すなわち、図2の例では、図2(A)のX軸方向とY軸方向とZ軸方向が、それぞれ、図1のx軸方向とy軸方向とz軸方向に一致するように、ロボットハンド3の先端部の姿勢が一定に維持されるように、制御装置7が設定されるのがよい。このような操作装置5の取り付けと、制御装置7の設定により、人は、ロボットハンド3の先端部を容易に操ることができる。
【0034】
制御装置7は、生成された動作指令Ex、Ey、Ezに従って、ロボットハンド3を動作させる。
【0035】
また、制御装置7は、ロボットハンド3の先端部が動作(移動)している方向と逆の方向に動作させる動作指令が操作装置5により生成された場合に、制御装置7は、ロボットハンド3を急停止させる急停止制御を行う。本実施形態では、x軸方向とy軸方向とz軸方向の少なくともいずれかについて、急停止制御を行う。この急停止制御では、制御装置7は、ロボットハンド3の先端部(把持機構9)の移動速度を、ロボットハンド3における先端部の現在の移動速度に対する設定割合以下の速度に下げ、または、予め定められている設定速度以下に下げる。ここで、設定割合または設定速度は、好ましくは、できるだけ早く、かつ、円滑に、ロボットハンド3を停止できるように設定される。ただし、設定割合または設定速度は、ゼロであってもよい。なお、ロボットハンド3における先端部の現在の移動速度は、適宜の手段で計測され、制御装置7に入力される。
【0036】
制御装置7は、図3に示すように、入力処理部18と速度値生成部19と速度制御部21を有する。
【0037】
入力処理部18は、力覚センサ25から出力されたEx、Ey、Ezに基づいて、駆動指令値Fx、Fy、Fzを生成する。入力処理部18は、センサ座標系Sで表されたEx、Ey、Ezを、それぞれ、ロボットハンド3の先端部(把持機構9)に固定されたハンド座標系RでFx、Fy、Fzとして表わす。すなわち、センサ座標系Sで表されたベクトルE(Ex、Ey、Ez)を、x軸、y軸、z軸を有するハンド座標系Rで表わすベクトルに変換する行列をTとすると、入力処理部18は、次の[数1]により、Fx、Fy、Fzを算出する。Fx、Fy、Fzは、それぞれ、操作装置5により入力された動作指令Ex、Ey、Ezに相当する。
【数1】
【0038】
センサ座標系Sとハンド座標系Rを一致させてもよい。すなわち、X軸とY軸とZ軸を、それぞれx軸とy軸とz軸に一致させてもよい。この場合、Tは単位行列であり、Fx、Fy、Fzは、それぞれ、Ex、Ey、Ezと同じである。すなわち、検出したEx、Ey、Ezは、これらに相当する駆動指令値Fx、Fy、Fzと値が同じである。この場合、入力処理部18が省略される。
【0039】
なお、操作装置5は、ロボットハンド3から分離して設けられてもよい。この場合、上述の行列Tは、単位行列でなくてよく、また、次のようにしてよい。ロボットハンド3の先端部が含まれる領域をビデオカメラで撮像する。これにより得た動画を、操作装置5に隣接して設置された表示装置に表示させる。人は、このように表示された動画を見ながら操作装置5を操作する。
【0040】
速度値生成部19には、生成された駆動指令値Fx、Fy、Fzが入力される。速度値生成部19は、次のように、入力された駆動指令値Fx、Fy、Fzに基づいて、それぞれ、速度指令値Vx、Vy、Vzを生成する。速度値生成部19は、次の式(1)(2)または(3)を用いて、速度指令値Vx、Vy、Vzを生成する。

Vx=a×Fx
Vy=a×Fy
Vz=a×Fz ・・・(1)

Vx=a×Fx
Vy=a×Fy
Vz=a×Fz ・・・(2)

Fx=M×dVx/dt+D×Vx
Fy=M×dVy/dt+D×Vy
Fz=M×dVz/dt+D×Vz ・・・(3)

式(1)(2)(3)において、aは、予め定めたゲイン(正の値)であり、Mは、予め定めた仮想質量係数(正の値)であり、dVx/dtとdVy/dtとdVz/dtは、それぞれ、Vx、Vy、Vzの時間微分であり、Dは、予め定めた仮想粘性係数(正の値)である。なお、式(3)を用いる場合には、現時点に対して、微小時間だけ前の初期時点で出力したVx、Vy、VzをそれぞれVx、Vy、Vzの初期値として、Fx、Fy、Fzは、それぞれ、初期時点から現時点までの時間の関数であるとして、現時点で出力するVx、Vy、Vzが、速度値生成部19により算出されてよい。なお、式(1)(2)において、Fx、Fy、Fzを算出する各式の間で、aの値が同じであっても異なっていてもよい。同様に、式(3)において、Fx、Fy、Fzを算出する各式の間で、MまたはDの値が同じであっても異なっていてもよい。
【0041】
速度制御部21は、x軸方向に対する速度指令値Vxに従って、x軸方向におけるロボットハンド3の先端部の速度を制御し、y軸方向に対する速度指令値Vyに従って、y軸方向におけるロボットハンド3の先端部の速度を制御し、z軸方向に対する速度指令値Vzに従って、z軸方向におけるロボットハンド3の先端部の速度を制御する。例えば、速度制御部21は、ロボットハンド3における先端部のx軸方向速度の計測値と、入力された速度指令値Vxとの差を無くすように、ロボットハンド3の先端部のx軸方向速度を制御する。y軸方向とz軸方向の制御も同様である。この制御は、例えば、速度制御部21が、Vx、Vy、Vzに基づいて、ロボットハンド3を駆動する複数の駆動装置を制御することによりなされる。
【0042】
本実施形態によると、速度制御部21は、x軸方向とy軸方向とz軸方向の少なくともいずれかの設定方向について、急停止制御を行う。当該設定方向について、現在において生成されたFi(すなわち、Fx、FyまたはFz)と最新のVi(すなわち、Vx、VyまたはVz)が、次の条件(1)(2)の両方を満たすかを、速度制御部21により判断する。条件(1)(2)の両方が満たされたら、速度制御部21は、当該設定方向において急停止制御を行う。
(1)Fi>0かつVi<0、または、Fi<0かつVi>0が成り立つ。
(2)Fiの絶対値がしきい値より大きい。
ここで、しきい値は、正の値である。また、しきい値は、急停止制御を行わない、操作かん17に対する通常の操作では、操作かん17に与えられない力の大きさに設定されている。
【0043】
図4は、本発明の実施形態による制御方法を示すフローチャートである。この制御方法は、上述の操作装置5と制御装置7を用いて行われる。
【0044】
ステップS1において、力覚センサ25により、設定方向において操作かん17に与えられた力を動作指令として検出する。すなわち、力覚センサ25により、操作かん17に与えられた力の成分Ex、Ey、Ezを動作指令として検出する。
【0045】
ステップS2において、入力処理部18により、ステップS1で検出した成分Ex、Ey、Ez(動作指令)を、それぞれ、駆動指令値Fx、Fy、Fzに変換する。
【0046】
図4のフローチャートにおいて、1回目のステップS2を行った場合には、ステップS5を行わずに、ステップS3へ進む。一方、2回目以降のステップS2を行った場合には、ステップS5へ進む。
【0047】
ステップS3において、速度値生成部19により、直前のステップS2で生成された駆動指令値Fx、Fy、Fzから速度指令値Vx、Vy、Vzを生成する。
【0048】
ステップS4において、速度制御部21により、ステップS1で検出した力に相当する駆動指令値に基づいて、前記設定方向に対応する動作方向にロボットハンド3の動作を制御する。すなわち、速度制御部21により、Ex、Ey、Ezにそれぞれ対応する速度指令値Vx、Vy、Vzに基づいて、それぞれ、x軸方向、y軸方向、z軸方向におけるロボットハンド3の動作を制御する。ここで、Vx、Vy、Vzは、直前のステップS3で生成されたものである。
【0049】
ステップS4を終えたら、ステップS1へ戻り、上述した処理を繰り返す。
【0050】
一方、ステップS5において、速度制御部21により、急停止制御をするかについて判断する。この例では、ステップS5で、x軸方向とy軸方向とz軸方向について次の処理を行う。
x軸方向について、次の(a)(b)の両方(以下、急停止条件という)が満たされるかを判断する。ここで、(a)(b)において、Fxは、直前のステップS2で生成されたものであり、Vxは、直前(すなわち、前回)のステップS3で生成された最新の値である。
(a)Fx>0かつVx<0、または、Fx<0かつVx>0が成り立つ。
(b)Fxの絶対値がしきい値より大きい。
同様に、y軸方向について、次の(c)(d)の両方(以下、急停止条件という)が満たされるかを判断する。ここで、(c)(d)において、Fyは、直前のステップS2で生成されたものであり、Vyは、直前(すなわち、前回)のステップS3で生成された最新の値である。
(c)Fy>0かつVy<0、または、Fy<0かつVy>0が成り立つ。
(d)Fyの絶対値がしきい値より大きい。
同様に、z軸方向について、次の(e)(f)の両方(以下、急停止条件という)が満たされるかを判断する。ここで、(e)(f)において、Fzは、直前のステップS2で生成されたものであり、Vzは、直前(すなわち、前回)のステップS3で生成された最新の値である。
(e)Fz>0かつVz<0、または、Fz<0かつVz>0が成り立つ。
(f)Fzの絶対値がしきい値より大きい。
【0051】
ステップS5において、x軸方向とy軸方向とz軸方向の少なくともいずれかについて、急停止条件が満たされると判断された場合には、ステップS6へ進む。そうでない場合には、ステップS3へ進み、上述のように、ステップS3、S4の処理を行う。
【0052】
ステップS6において、速度制御部21により、急停止条件が満たされた方向において急停止制御を行う。これにより、当該方向において、ロボットハンド3における先端部は急停止する。このステップS6において、急停止条件が満たされていない方向については、ステップS3、S4を行ってよい。ステップS6を終えたらステップS1へ戻る。
【0053】
図1の例では、上述の制御方法により、x軸方向、y軸方向またはz軸方向に、把持機構9が移動している時に、人が、把持機構9と部品2との位置関係を見て、把持機構9の当該移動方向と逆の方向に、操作かん17に対して力を与える。これにより、当該移動方向において、把持機構9を、部品2の位置に停止させることができる。図1の例において、x軸方向とy軸方向とz軸方向の少なくともいずれか(例えば、すべての方向)について、このような操作をすることができる。
【0054】
上述した本発明の実施形態によると、以下の効果(A)(B)が得られる。
【0055】
(A)ロボットハンド3が動作している方向と逆の方向に動作させる動作指令が操作装置5により生成された場合に、制御装置7は、ロボットハンド3を急停止させる。このような制御を行うために、非特許文献1のように、ロボットハンド3の動作を試験して制御パラメータの変化の仕方を調整する必要がない。従って、制御パラメータの調整に手間をかけることなく、分かりやすい操作によりロボットハンド3を急停止することが可能となる。
【0056】
上記(A)に関して、上述の式(1)または(2)を用いる場合に、本実施形態の急停止制御を採用しないときには、次のような不都合が生じる。人が、操作かん17を操作中に、力を抜いて操作かん17に与える操作力をゼロにすることは、難しい操作である。すなわち、通常、人は、ロボットハンド3が、障害物に当たりそうになったら、直感的に、操作かん17を逆方向に操作してしまう。その結果、ロボットハンド3は、逆方向に移動し、さらには、振動してしまう。
また、上記(A)に関して、上述の式(3)を用いる場合に、本実施形態の急停止制御を採用しないときには、次のような不都合が生じる。操作かん17を逆方向に操作したとしても、仮想質量係数Mが作用するので、ロボットハンド3は急停止できない。
そこで、本発明の実施形態では、人が操作かん17を逆方向に操作して、逆の方向に動作させる動作指令が制御装置7に入力された場合に、制御装置7はロボットハンド3を急停止するようにした。
【0057】
(B)ロボットハンド3の先端部が、x軸方向、y軸方向またはz軸方向に移動している時に、駆動指令値Fx、FyまたはFzの絶対値がしきい値より大きくない場合には、急停止制御は行われない。これについて、しきい値は、急停止制御を行わない、操作かん17に対する通常の操作では、操作かん17に与えられない力の大きさに設定されている。したがって、ロボットハンド3を誤って急停止してしまうことを防止できる。
また、ロボットハンド3の先端部が移動している動作方向と逆の方向に対応する設定方向に操作かん17に力が与えられても、この設定方向について、しきい値より小さい絶対値の駆動指令値が生成される場合には、ロボットハンド3を急停止させることなく、ロボットハンド3の移動方向を逆方向に変えることができる。
【0058】
図5は、従来における制御と本発明の実施例による制御との比較を示すグラフである。
図5(A)は、上述の式(E)を用いている従来の場合を示し、図5(B)は、上述の式(E)と同じ上述の式(3)を用いている本発明の実施例の場合を示す。図5は、簡単のためx軸方向のみについて示している。
【0059】
図5(A)(B)の一番上のグラフは、操作装置5により生成された駆動指令値Fxを示す。また、図5(B)において、Fcは、上述のしきい値を示す。
図5(A)(B)の中間のグラフは、速度値生成部19により出力された速度指令値Vxを示す。なお、本発明の実施例では、上述の設定割合または設定速度はゼロである。
図5(A)(B)の一番下のグラフは、ロボットハンド3の先端部のx軸方向位置を示す。
【0060】
従来の場合には、図5(A)のように、ロボットハンド3は、駆動指令値Fxの正負が反転された時から遅れて、ロボットハンド3が停止する。これに対し、本発明の実施例の場合には、図5(B)のように、急停止制御により、ロボットハンド3を直ぐに停止できる。
【0061】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、以下の変更例1、2の一方または両方を採用してもよい。この場合、以下で説明しない点は上述と同じであってよい。
【0062】
(変更例1)
操作装置5において人が力を与える操作部17は、上述では、操作台24に対して変位しない操作かんであったが、操作部17は、他の構成(例えば)を有するものであってもよい。例えば、操作部17は、与えられた力に応じて操作台24に対して変位する(すなわち、その位置または姿勢を変える)レバーであってもよい。この場合、人が操作部17に与えた力の方向と当該力の大きさとに応じて、入力処理部18は、上述のFx、Fy、Fzを生成する。
【0063】
(変更例2)
上述では、設定方向として、X軸方向とY軸方向とZ軸方向の少なくともいずれかがあったが、本発明は、これに限定されない。すなわち、設定方向は、操作部17に固定された軸であって、かつ、操作部17を通る軸回りの回転方向であってもよい。この軸は、例えば、図2に示すように、棒状の操作かん17の中心軸C0であってよい。
【0064】
力覚センサ25は、操作部17に与えられた前記回転方向の力(トルク)Erを検出する。
【0065】
入力処理部18は、ErをFrに変換して、ハンド座標系RでErを表したFrを出力する。速度値生成部19は、上述の式(1)(2)または(3)と同様の式により、Frを算出する。すなわち、速度値生成部19は、上述の式(1)(2)または(3)のVxとFxに関する式において、VxとFxをVrとFrに置き換えた式を用いて、Frを算出する。
【0066】
速度制御部21は、前記回転方向に対応する動作方向に対する速度指令値Vrに従って、当該動作方向におけるロボットハンド3の先端部の速度を制御する。例えば、速度制御部21は、ロボットハンド3における先端部の当該動作方向の速度計測値と、入力された速度指令値Vrとの差を無くすように、ロボットハンド3における先端部の当該動作方向の速度を制御する。
【0067】
前記回転方向に対応する動作方向におけるロボットハンド3の動作は、ロボットハンド3を構成する複数のリンクのうち、いずれかを、他のリンクに対して回転させる動作である。図1の例では、次のようになっていてよい。すなわち、前記回転方向に対応する動作方向は、図1の例では、ロボットハンド3を構成する複数のリンクのうち、最先端のリンク3aの中心軸C1回りの方向であってよい。この場合、図1の例では、最先端のリンク3aは、このリンク3aの後端部が連結されている別のリンク3bに対して、中心軸C1回りに回転駆動されるものであってよい。リンク3aに、把持機構9が取り付けられていてよい。なお、リンク3aは、ロボットハンド3の先端部を構成する。
【0068】
なお、設定方向として、前記回転方向に加えて、上述のX軸方向とY軸方向とZ軸方向の少なくともいずれか(例えば、これらすべての方向)があってもよい。この場合、これらの各設定方向について、急停止制御が行われてよい。
【符号の説明】
【0069】
1、2 部品(対象物)、3 ロボットハンド、3a,3b リンク、5 操作装置、7 制御装置、9 把持機構、9a 爪、10 ロボットハンド装置、17 操作部(操作かん)、18 入力処理部、19 速度値生成部、21 速度制御部、24 操作台、25 力覚センサ
図1
図2
図3
図4
図5