【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 戦略的イノベーション創出推進プログラム、「高分子ナノ配向制御による新規デバイス技術の開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
原田好寛 外4名,周期長に分布をもつコレステリック液晶フィルムの開発,高分子学会予稿集,日本,公益社団法人高分子学会,2013年 8月28日,62巻2号,3029−3030
【文献】
M.Tokita 外6名,Macrocyclised pheynyl cinnamate dimer utilisable as photoresponsive chiral dopant for nematic liquid crystals,Liquid Crystals,2013年 4月17日,Vol. 40, No. 7,900-905
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
重合性メソゲン化合物と、分子内二量化反応によってねじれ力が変化する環状化合物であるカイラル剤と、を含有する液晶組成物を基板に塗布して塗膜を形成する工程(A)と、
前記塗膜の前記基板と反対側の面が酸素を含む気体と接触している状態で、前記カイラル剤の分子内二量化よりも優先して前記重合性メソゲン化合物を重合させ、前記液晶組成物の硬化物であるコレステリック液晶フィルムを得る工程(B)と、を備え、
前記コレステリック液晶フィルムは、透過スペクトル測定において、
第一の選択反射波長帯域と、
前記第一の選択反射波長帯域よりも長波長側にある第二の選択反射波長帯域と、
前記第一の選択反射波長帯域と前記第二の選択反射波長帯域との間にある透過帯域と、
を有する透過スペクトルを示し、
前記カイラル剤のねじれ力変化による前記第二の選択反射波長帯域を有する、
コレステリック液晶フィルムの製造方法。
前記工程(A)と前記工程(B)との間に、前記重合性メソゲン化合物のコレステリック配向を形成する工程を備える、請求項5に記載のコレステリック液晶フィルムの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1によれば、コレステリック液晶フィルムが少なくとも2つの独立した選択反射波長帯域を有するようにするには、重合の進行とともに残される重合性メソゲン化合物を移動させ、重合後半での重合性メソゲン化合物:重合性カイラル剤の混合比率を膜厚方向で変化させることが必要である。
【0006】
しかしながら、重合性メソゲン化合物の移動(拡散)には時間がかかり、特許文献1に記載されたコレステリック液晶フィルムの生産効率は十分なものではなかった。
【0007】
そこで、本発明者らは、カイラル剤について検討したところ、分子内二量化反応によってねじれ力が変化する環状化合物であるカイラル剤によって、透過スペクトル測定において、第一の選択反射波長帯域と、前記第一の選択反射波長帯域よりも長波長側にある第二の選択反射波長帯域と、前記第一の選択反射波長帯域と前記第二の選択反射波長帯域との間にある透過帯域と、を有する透過スペクトルを示す、コレステリック液晶フィルム(この明細書において、「二帯域コレステリック液晶フィルム」ということもある)を効率よく製造できることを見出した。
【0008】
本発明は、新規な二帯域コレステリック液晶フィルム及びその効率のよい製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、重合性メソゲン化合物と、分子内二量化反応によってねじれ力が変化する環状化合物であるカイラル剤と、を含有する液晶組成物の硬化物であって、透過スペクトル測定において、第一の選択反射波長帯域と、前記第一の選択反射波長帯域よりも長波長側にある第二の選択反射波長帯域と、前記第一の選択反射波長帯域と前記第二の選択反射波長帯域との間にある透過帯域と、を有する透過スペクトルを示す、コレステリック液晶フィルムを提供する。
【0010】
ここで、本発明でいう「ねじれ力」(Helical Twisting Power、HTP)とは、カイラル剤が液晶分子の分子配列にねじれを誘起する力を意味する。
【0011】
コレステリック液晶フィルムのらせん構造が右ねじれの場合(ねじれ方向が右である場合)、コレステリック液晶フィルムは右円偏光を反射し、コレステリック液晶フィルムのらせん構造が左ねじれの場合(ねじれ方向が左である場合)、コレステリック液晶フィルムは左円偏光を反射する。すなわち例えば右ねじれのコレステリック液晶フィルムに自然光が入射した場合、その選択反射波長帯域に対応する右円偏光が反射され、左円偏光が透過する。選択反射波長帯域以外の波長の円偏光は反射されず、そのまま透過する。また、右ねじれのコレステリック液晶フィルムに右円偏光が入射した場合は、選択反射波長帯域に対応する右円偏光が反射される。一方、透過する左円偏光はないため、理論上その透過率(%)は0%となる。選択反射波長帯域以外の波長の右円偏光は反射されず、そのまま透過する。
【0012】
本発明において、「選択反射波長帯域」は、「コレステリック液晶フィルムのねじれ方向に対応した円偏光に対して、透過率が30%以下となる波長領域(範囲)」、「透過帯域」は、「コレステリック液晶フィルムのねじれ方向に対応した円偏光に対して、透過率が30%よりも大きくなる波長領域(範囲)」を意味し、そして、「透過率」は、「物質を透過する光の強度と入射する光の強度の比を百分率で表したもの」である。すなわち、透過率T(%)は、
T=I/I
0×100
(式中、Iは透過する光の強度であり、I
0は入射する光の強度である。)
で表される。ここで、第一の選択反射波長帯域及び第2の選択反射波長帯域における透過率は、正面(法線)方向から入射する光の透過率である。
【0013】
第一の選択反射波長帯域は、可視光域の波長を有する光に対する選択反射波長帯域を含むことができる。また、第二の選択反射波長帯域は、可視光域又は赤外域の波長を有する光に対する選択反射波長帯域を含むことができる。
【0014】
本発明の一態様として、第一の選択反射波長帯域が可視光域の波長を有する光に対する選択反射波長帯域を含み、第二の選択反射波長帯域が可視光域又は赤外域の波長を有する光に対する選択反射波長帯域を含む本発明の二帯域コレステリック液晶フィルムには、みる方向を正面から斜めに変えると、色(選択反射色)が短波長の光に対応する色から長波長の光に対応する色に変化(レッドシフト)するように感じられるものがある。
【0015】
また、本発明は、重合性メソゲン化合物と、分子内二量化反応によってねじれ力が変化する環状化合物であるカイラル剤と、を含有する液晶組成物を基板に塗布して塗膜を形成する工程(A)と、前記塗膜の前記基板と反対側の面が酸素を含む気体と接触している状態で、前記カイラル剤の分子内二量化よりも優先して前記重合性メソゲン化合物を重合させ、前記液晶組成物の硬化物であるコレステリック液晶フィルムを得る工程(B)と、を備え、前記コレステリック液晶フィルムは、透過スペクトル測定において、第一の選択反射波長帯域と、前記第一の選択反射波長帯域よりも長波長側にある第二の選択反射波長帯域と、前記第一の選択反射波長帯域と前記第二の選択反射波長帯域との間にある透過帯域と、を有する透過スペクトルを示す、コレステリック液晶フィルムの製造方法を提供する。
【0016】
本発明の二帯域コレステリック液晶フィルムの製造方法により、二帯域コレステリック液晶フィルムを効率よく製造することができる。
【0017】
また、本発明のコレステリック液晶フィルムの製造方法は、工程(A)と工程(B)との間に、前記重合性メソゲン化合物のコレステリック配向を形成する工程を備えるものであってよい。
【0018】
分子内二量化反応によってねじれ力が変化する環状化合物であるカイラル剤を使用すると、液晶組成物の硬化物が二帯域コレステリック液晶フィルムとなるのは、以下の原理によるものと発明者らは推測している。
【0019】
液晶組成物を基板に塗布して塗膜を形成し、塗膜の基板とは反対側の面(すなわち塗膜の表面)が酸素を含む気体と接触している状態で、カイラル剤の分子内二量化よりも優先して重合性メソゲン化合物を重合させると、基板側では、カイラル剤の分子内二量化よりも重合性メソゲン化合物の重合が優先する。一方、基板の反対側(表面側)では、重合性メソゲン化合物の重合は酸素により阻害され遅くなるが、カイラル剤の分子内二量化は表面側でも基板側と同様に進行するので、基板側と比較してカイラル剤の分子内二量化反応が進行した状況下で重合性メソゲン化合物が重合する。
【0020】
ここで、らせんピッチをP、カイラル剤濃度をc、ねじれ力をβとすると、P=(c・β)
−1の関係が成り立ち、そして、選択反射の中心波長λ=n・P(nは屈折率であり、Pはらせんピッチである)であるから、分子内二量化によってカイラル剤のねじれ力(β)が変化すると選択反射の波長も変化する。
【0021】
したがって、液晶組成物の硬化物は、基板側と表面側で選択反射波長帯域が異なる二帯域コレステリック液晶フィルムとなる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、新規な二帯域コレステリック液晶フィルム及びその効率のよい製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0025】
[二帯域コレステリック液晶フィルム]
本発明の二帯域コレステリック液晶フィルムは、重合性メソゲン化合物と、分子内二量化反応によってねじれ力が変化する環状化合物であるカイラル剤と、を含有する液晶組成物の硬化物であるので、まず、液晶組成物について説明する。
【0026】
液晶組成物に含有される、分子内二量化反応によってねじれ力が変化する環状化合物であるカイラル剤としては、重合性メソゲン化合物を所望のコレステリック構造に配向し得る任意の適切なカイラル剤が採用される。当該カイラル剤は重合性でも非重合性でもよく、また液晶でも非液晶でもよい。このようなカイラル剤を用いることにより、液晶組成物の硬化物を二帯域コレステリック液晶フィルムとすることができる。カイラル剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
分子内二量化反応としては、例えば紫外線反応等の光反応が挙げられる。分子内二量化反応には、可逆反応及び環化反応のような不可逆反応が包含される。色あせ、色むら、退色などを抑制し、安定性のよい二帯域コレステリック液晶フィルムを得る観点からは、環化反応等の不可逆反応が好ましい。
【0028】
上述のとおり、「ねじれ力」とは、カイラル剤が液晶分子の分子配列にねじれを誘起する力を意味する。分子内二量化反応前のカイラル剤のねじれ力は、特に限定されないが、好ましくは10μm
−1以上であり、より好ましくは20μm
−1以上である。カイラル剤の添加量を低減できるだけでなく、重合性ネマチック液晶の性能(液晶相温度範囲、複屈折等)低下及び液晶組成物硬化時の相分離を抑制できるので、ねじれ力は大きいことが好ましい。
【0029】
分子内二量化反応によるカイラル剤のねじれ力変化量は、反応前のねじれ力にも依存するため一概にはいえず、また特に限定されないが、二帯域コレステリック液晶フィルムが所望の第一の選択反射波長帯域及び第二の選択反射波長帯域を有するようにするには、ねじれ力変化量は大きい方が好ましい。ねじれ力が増加する場合、反応前のねじれ力を基準として、反応後のねじれ力は、好ましくは3/2倍以上であり、より好ましくは2倍以上であり、さらに好ましくは3倍以上である。また、ねじれ力が減少する場合、反応前のねじれ力を基準として、反応後のねじれ力は、好ましくは2/3倍以下であり、より好ましくは1/2倍以下であり、さらに好ましくは1/3倍以下である。
【0030】
例えば、第一の選択反射波長帯域に対応する選択反射色が青であり、第二の選択反射波長帯域に対応する選択反射色が赤である場合、選択反射色が少なくとも青から赤まで変化するだけのねじれ力変化量(およそ2倍もしくは1/2倍)が必要とされる。
【0031】
分子内二量化反応によってねじれ力が変化する環状化合物は、反応部位として桂皮酸部位をもつことが好ましい。桂皮酸部位を環状化合物の分子中に導入することにより、環状化合物の環化反応が起こりやすくなり、環化反応を高反応率、短時間で進行させることができる。また、2つの桂皮酸部位をもつ環状化合物は、紫外線照射により、2つの桂皮酸部位がシクロブタン環を形成する分子内二量化反応を起こし、ねじれ力が減少する。
【0032】
また、分子内二量化反応によってねじれ力が変化する環状化合物が、液晶組成物硬化時に液晶組成物中を拡散しないような構造(重合基をもつ、あるいはロタキサン構造をとるなど)を有すると、液晶組成物の硬化物の配向欠陥や相分離による白濁化が起こりにくい。また、当該環状化合物が光を吸収する構造(ベンゼン環など)を有すると、反応速度が向上し、製造時間が短縮される。
【0033】
分子内二量化反応によってねじれ力が変化する環状化合物が液晶性を示す場合は、重合性メソゲン化合物との相溶性に優れ、混合時に重合性メソゲン化合物の液晶性を損ないにくい。また、混合時にカイラル剤の添加量を増やすことができるため、該環状化合物のねじれ力の好ましい範囲は上述の限りでなく、さらに低いねじれ力でもよい。そして、該環状化合物によって、液晶組成物の硬化物の配向欠陥や相分離による白濁化も抑制される。
【0034】
分子内二量化反応によってねじれ力が変化する環状化合物であるカイラル剤としては、具体的には例えば下記式(1a)、(2a)又は(3a)で表される環状化合物が挙げられる。
【0038】
[式(1a)〜(3a)中、Rは各々独立に水素又は1価の置換基を示し、X及びYは2価の基を示し、X又はYのいずれか一方はカイラル部位(「キラル部位」ともいう。)を含む。]
【0039】
上記式(1a)〜(3a)で表される環状化合物は、それぞれ以下の反応スキーム(I)、(II)又は(III)に従い、分子内二量化反応によりシクロブタン環を形成し得る化合物である。
【0043】
[式(1b)〜(3b)中のR、X及びYはそれぞれ式(1a)〜(3b)中のR、X及びYと同一の定義内容を示す。]
【0044】
カイラル剤のキラル部位は、式中のX,Yのいずれか一方に、スペーサを介して又は直接に導入されている。キラル部位の構造は特に限定されないが、好ましい例として以下のものが挙げられる。
【0046】
式(1a)〜(3a)で表される環状化合物の好ましい例としては、以下のものが挙げられる。
【0050】
式(1c)〜(3c)中、R
1〜R
6は各々独立に水素、フッ素、塩素、ヨウ素、臭素又はアルキル基を示す。R
1〜R
6がアルキル基の場合、当該アルキル基としては、炭素数1〜8の直鎖又は分岐アルキル基が好ましい。
【0051】
式(1c)〜(3c)中、X
1及びX
2は各々独立に以下のいずれかの構造を有する2価の基を示す。以下の3つの構造式中、n及びmは0以上の整数を示すが、左右両側の2つの構造式においては、nとmの和が4〜16であることが好ましい。また、中央の構造式においては、nが4〜16であることが好ましい。さらに、右側の構造式の場合(すなわちキラル炭素が存在する場合)、式(1c)〜(3c)中の芳香環に近い位置にキラル部位を導入することが好ましく、したがってその場合はn又はmのいずれか一方が0〜1であることが好ましい。
【0053】
式(1c)〜(3c)中、Y
1〜Y
4は各々独立に以下のいずれかの構造を有する2価の基を示す。
【0055】
(R
7はアルキレン基を示す。当該アルキレン基としては、炭素数1〜8の直鎖又は分岐アルキレン基が好ましい。R
8はフッ素、塩素、ヨウ素、臭素又はアルキル基を示す。当該アルキル基としては、炭素数1〜8の直鎖又は分岐アルキル基が好ましい。)
【0056】
式(1c)〜(3c)で表される環状化合物の好ましい例としては、以下のものが挙げられる。
【0059】
(ここで、上記X
1及びX
2におけるn及びmをそれぞれ、n
1及びm
1並びにn
2及びm
2とする。)
【0060】
液晶組成物中におけるカイラル剤の含有割合は、液晶組成物全量を基準として好ましくは1〜20質量%であり、より好ましくは1.5〜15質量%であり、さらに好ましくは2〜10質量%である。カイラル剤の含有割合が1質量%以上であると、コレステリック配向及びらせんピッチの形成をより十分かつ確実に行うことができ、また、20質量%以下であると、液晶状態を呈する温度範囲が狭くなる現象を確実に抑制することができる。
【0061】
なお、カイラル剤が液晶である場合は、重合性メソゲン化合物の液晶性を損なうおそれがないため、その含有割合は上述の限りでなく、大きくてもよい。
【0062】
液晶組成物は、分子内二量化反応によってねじれ力が変化する環状化合物であるカイラル剤のほかに重合性メソゲン化合物を含有する。重合性メソゲン化合物としては、任意の適切な重合性メソゲン化合物が採用され得る。例えば、特表2002−533742(WO00/37585)、EP358208(US5211877)、EP66137(US4388453)、WO93/22397、EP0261712、DE19504224、DE4408171、及びGB2280445等に記載の重合性メソゲン化合物が使用できる。このような重合性メソゲン化合物の具体例としては、例えば、LC242(BASF社製)、E7(Merck社製)、LC−Sillicon−CC3767(Wacker−Chem社製)等の市販品を用いることもできる。
【0063】
また、重合性メソゲン化合物としては、例えば、特開2003−287623号公報(段落0035〜0047)に記載の液晶モノマーを好適に用いることもできる。重合性メソゲン化合物は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0064】
ネマチック相又はコレステリック相を示す化合物の同液晶相を示す温度に制限はないものの、加熱装置が不要となることから、室温であることが好ましい。
【0065】
液晶組成物中における重合性メソゲン化合物の含有割合は、液晶組成物全量を基準として好ましくは75〜97.5質量%であり、より好ましくは80〜97.5質量%であり、さらに好ましくは85〜97.5質量%である。重合性メソゲン化合物の含有割合が75質量%以上であると、液晶組成物が呈する液晶状態がより良好なものとなり、コレステリック配向をより確実に形成することができる。また、重合性メソゲン化合物の含有割合が97.5質量%以下であると、相対的にカイラル剤の含有量を十分に確保することができ、らせんピッチ及びコレステリック配向の形成をより確実に行うことができる。
【0066】
なお、カイラル剤が液晶である場合、重合性メソゲン化合物の液晶性を損なわずにカイラル剤の添加量を増やすことができるため、重合性メソゲン化合物の含有割合は上述の限りでなく、より少なくすることもできる。
【0067】
液晶組成物は、重合開始剤、好ましくは光重合開始剤をさらに含んでいてもよい。光重合開始剤としては、任意の光重合開始剤が採用され得る。特に限定されないが、可視光線や紫外線により開裂して重合を開始させることのできる、ラジカル系やカチオン系の光重合開始剤が好ましく、例えば、IRGACURE 651、IRGACURE 184、DAROCUR 1173、IRGACURE 2959、IRGACURE 127、IRGACURE 907、IRGACURE 369、IRGACURE TPO(いずれもBASF社製)等の市販品を用いることができる。
【0068】
液晶組成物中における重合開始剤の含有割合は、液晶組成物全量を基準として好ましくは0.01〜10質量%であり、より好ましくは0.05〜5質量%である。重合開始剤の含有割合が10質量%を超える場合には、液晶組成物の液晶状態を呈する温度範囲が狭くなり、白濁するおそれがあるので、上記範囲内とするのが好ましい。
【0069】
さらに、液晶組成物には本発明の効果を損なわない範囲で、光増感剤を添加することもできる。光増感剤としては、例えば、アントラキノン類、ミヒラーズケトン等のベンゾフェノン類が挙げられる。
【0070】
液晶組成物中における光増感剤の含有割合は、液晶組成物全量を基準として好ましくは0.1〜7質量%、より好ましくは1〜4質量%である。
【0071】
また、液晶組成物には架橋剤を添加してもよい。液晶組成物に架橋剤を添加すると、その硬化物である二帯域コレステリック液晶フィルムは三次元架橋されたものとなり、耐熱信頼性及び物理強度に優れるものとなる。
【0072】
架橋剤としては、特に限定されないが、例えば、アクリル基やメタクリル基などの重合性官能基を2つ以上有する多官能ビニル系化合物や、有機金属化合物、アルデヒド系化合物等が挙げられ、中でも、多官能ビニル系化合物が好ましい。
【0073】
多官能ビニル系化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、多官能ビニル系化合物は液晶形成部位を含むことが好ましい。
【0074】
また、架橋剤の使用量は、例えば、重合性メソゲン化合物、カイラル剤及び重合開始剤の3成分の合計量100質量部に対して、好ましくは1〜20質量部であり、より好ましくは2〜10質量部である。
【0075】
二帯域コレステリック液晶フィルムの膜面平滑性及び外観を向上させるために、表面調整剤を液晶組成物に添加することもできる。表面調整剤としては、シリコン系表面調整剤、フッ素系表面調整剤、アクリル系表面調整剤等を用いることができる。これらの中で、Fluorad.171(3M社製)、ZonylFSN(Dupont社製)、BYK361(ビッグケミジャパン社製)が好ましい。
【0076】
液晶組成物中における表面調整剤の含有割合は、液晶組成物全量を基準として0.01〜1質量%、好ましくは0.02〜0.5質量%、より好ましくは0.03〜0.2質量%である。
【0077】
他の添加剤としては、例えば、老化防止剤、変性剤、界面活性剤、染料、顔料、変色防止剤、紫外線吸収剤、重合抑止剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。より具体的には、老化防止剤としては、例えば、フェノール系化合物、アミン系化合物、有機硫黄系化合物、ホスフィン系化合物が挙げられ、変性剤としては、例えば、グリコール類、シリコーン類やアルコール類が挙げられる。界面活性剤としては、例えば、シリコーン系、アクリル系、フッ素系の界面活性剤が挙げられる。また、相転移温度や複屈折率の調整のための添加剤を用いることもできる。
【0078】
次に、上述した液晶組成物の硬化物である二帯域コレステリック液晶フィルムについて説明する。二帯域コレステリック液晶フィルムは、透過スペクトル測定において、第一の選択反射波長帯域と、前記第一の選択反射波長帯域よりも長波長側にある第二の選択反射波長帯域と、前記第一の選択反射波長帯域と前記第二の選択反射波長帯域との間にある透過帯域と、を有する透過スペクトルを示す、コレステリック液晶フィルムである。
【0079】
「選択反射波長帯域」は、「コレステリック液晶フィルムのねじれ方向に対応した円偏光に対して、透過率が30%以下となる波長領域(範囲)」、「透過帯域」は、「コレステリック液晶フィルムのねじれ方向に対応した円偏光に対して、透過率が30%よりも大きくなる波長領域(範囲)」を意味し、そして、「透過率」は、「物質を透過する光の強度と入射する光の強度の比を百分率で表したもの」である。すなわち、透過率T(%)は、
T=I/I
0×100
(式中、Iは透過する光の強度であり、I
0は入射する光の強度である。)
で表される。ここで、第一の選択反射波長帯域及び第2の選択反射波長帯域における透過率は、正面(法線)方向から入射する光の透過率である。
【0080】
正面(法線)方向から入射する光の波長は、紫外域(200〜380nm)、可視光域(380〜780nm)、赤外域(780nm〜1mm)にあってよいのはもちろんであるが、これらの領域に限らずどの波長領域にあってもよい。
【0081】
第一の選択反射波長帯域及び第二の選択反射波長帯域は、任意の波長を有する光に対する選択反射波長帯域を含むことができる。例えば、第一の選択反射波長帯域は、可視光域の波長を有する光に対する選択反射波長帯域を含むことができる。また、第二の選択反射波長帯域は、可視光域又は赤外域の波長を有する光に対する選択反射波長帯域を含むことができる。
【0082】
なお、ある波長を有する光は、一の波長の光に限られない。第一の選択反射波長帯域又は第二の選択反射波長帯域は、異なる波長を有する二以上の光に対する選択反射波長帯域を含んでいてもよい。
【0083】
第一の選択反射波長帯域及び第二の選択反射波長帯域は、どのような波長領域であってもよい。紫外域、可視光域又は赤外域にあってもよいし、これらの領域をまたぐ波長領域であってもよい。
【0084】
第一の選択反射波長帯域は、400〜700nmの波長領域中にあるのが好ましく、400〜650nmの波長領域中にあるのが特に好ましい。
【0085】
また、第二の選択反射波長帯域は、550〜900nmの波長領域中にあるのが好ましく、550〜800の波長領域中にあるのが特に好ましい。
【0086】
特に、二帯域コレステリック液晶フィルムとしては、第一の選択反射波長帯域が500〜650nmの波長領域中にあり、第二の選択反射波長帯域が700〜800nm中にあるもの、又は第1の選択反射波長帯域が400〜500nmの波長領域中にあり、第二の選択反射波長帯域が550〜650nmの波長領域中にあるもの、が適当である。
【0087】
具体的には、二帯域コレステリック液晶フィルムとして、第一の選択反射波長帯域が550〜610nmにあり、第2の選択反射波長帯域が710〜780nmにあるもの、第一の選択反射波長帯域が530〜580nmにあり、第二の選択反射波長帯域が710〜760nmにあるもの、第一の選択反射波長帯域が530〜580nmにあり、第2の選択反射波長帯域が710〜740nmにあるもの、第一の選択反射波長帯域が440〜500nmにあり、第二の選択反射波長帯域が560〜640nmにあるもの、が挙げられる。
【0088】
なお、二帯域コレステリック液晶フィルムは、第一の選択反射波長帯域及び第二の選択反射波長帯域以外の選択反射波長帯域を有していてもよい。
【0089】
二帯域コレステリック液晶フィルムは第一の選択反射波長帯域に対応する第一のらせんピッチ及び第二の選択反射波長帯域に対応する第2のらせんピッチを有する。第一のらせんピッチ及び第二のらせんピッチに対応する選択反射波長帯域はそれぞれ複数存在する可能性があり、第一の選択反射波長帯域及び第二の選択反射波長帯域は、そのうちの正面方向から入射する光の選択反射波長帯域にすぎない。
【0090】
したがって、二帯域コレステリック液晶フィルムは、第一のらせんピッチに対応する正面以外の方向(斜め方向)から入射する光の選択反射波長帯域(第三の選択反射波長帯域)と、第二のらせんピッチに対応する斜め方向から入射する光の選択反射波長帯域(第四の選択反射波長帯域)をさらに有しうる。ここで、第三の選択反射波長帯域及び第四の選択反射波長帯域はどのような波長領域であってもよいが、第三の選択反射波長帯域は第一の選択反射波長帯域よりも短波長側の波長領域であり、第四の選択反射波長帯域は第二の選択反射波長帯域よりも短波長側の波長領域である。これは、正面(法線)方向からの入射光に対する選択反射の中心波長をλ(0)、法線方向に対して角度θで入射する光の選択反射の中心波長をλ(θ)としたときに、
λ(θ)=λ(0)・cosθ
の関係が成立し、光の入射角度が大きくなるにつれて選択反射の中心波長λ(θ)は小さくなる、すなわち短波長側に移動(ブルーシフト)する、ためである。
【0091】
そのため、二帯域コレステリック液晶フィルムの第一の選択反射波長帯域〜第四の選択反射波長帯域がどのような波長領域であるかによって、正面からみた場合と斜めからみた場合とで、視認される選択反射色(無色も含む)が異なることがある。
【0092】
例えば、第一の選択反射波長帯域が可視光域の波長を有する光に対する選択反射波長帯域を含み、第二の選択反射波長帯域が赤外域の波長を有する光に対する選択反射波長帯域を含み、第三の選択反射波長帯域が紫外域の波長を有する光に対する選択反射波長帯域を含み、そして、第四の選択反射波長帯域が可視光域の波長を有する光に対する選択反射波長帯域を含む二帯域コレステリック液晶フィルムは、正面からみると第一の選択反射波長帯域に対応する選択反射色が視認され、斜めからみると第四の選択反射波長帯域に対応する選択反射色が視認されることになる。実際は二帯域コレステリック液晶フィルムの第三の選択反射波長帯域は第一の選択反射波長帯域よりも短波長側の波長領域であり、第四の選択反射波長帯域は第二の選択反射波長帯域よりも短波長側の波長領域であるにもかかわらず、みる方向を正面から斜めに変えると、あたかも二帯域コレステリック液晶フィルムの色が、短波長の光の選択反射色から長波長の光の選択反射色に変化(レッドシフト)するように感じられる。すなわち、選択反射波長帯域を一つのみ有する通常のコレステリック液晶フィルム(ブルーシフトが生じる)とは異なる色変化を生じさせることができる。
【0093】
そのような二帯域コレステリック液晶フィルムとしては、具体的には、正面からみると黄緑が視認され、斜めからみると赤が視認されるもの、正面からみると緑が視認され、斜めからみると赤が視認されるもの、正面からみると青緑が視認され、斜めからみると赤が視認されるもの、正面からみると青が視認され、斜めからみると赤が視認されるもの、正面からみると青が視認され、斜めからみると金色が視認されるもの、等が挙げられる。
【0094】
また、第一の選択反射波長帯域及び第二の選択反射波長帯域が可視光域の波長を有する光に対する選択反射波長帯域を含み、第三の選択反射波長帯域が紫外域の波長を有する光に対する選択反射波長帯域を含み、そして、第四の選択反射波長帯域が可視光域の波長を有する光に対する選択反射波長帯域を含む二帯域コレステリック液晶フィルムは、正面からみると第一の選択反射波長帯域及び第二の選択反射波長帯域に対応する選択反射色が視認され、斜めからみると第四の選択反射波長帯域に対応する選択反射色が視認されることになる。
【0095】
このような二帯域コレステリック液晶フィルムとしては、具体的には、正面からみるとマゼンタが視認され、斜めからみると青が視認されるもの、正面からみるとオレンジ(銅)が視認され、斜めからみると黄緑が視認されるもの、等が挙げられる。
【0096】
次に、二帯域コレステリック液晶フィルムの用途について述べる。二帯域コレステリック液晶フィルムは、色材、IRフィルター、バンドパスフィルター、UV反射膜、輝度向上フィルム、調光フィルム、位相差板、ノッチフィルター等に好適に用いることができる。とりわけ、波長が第一の選択反射波長帯域及び第二の選択反射波長帯域にある光を反射する反射フィルムとして有用である。
【0097】
また、二帯域コレステリック液晶フィルム、特に正面からみた場合と斜めからみた場合とで選択反射色が異なるものは、セキュリティ媒体として使用することができる。例えば、二帯域コレステリック液晶フィルムを適用した物品を真正品、そうでない物品を不真正品とすると、その選択反射色が視認できるか否かを基準として、対象物品が真正品であるか否かを簡単に識別することができる。特にレッドシフトが生じるようにみえる二帯域コレステリック液晶フィルムは、ブルーシフトが生じる通常のコレステリック液晶フィルムとは異なる色変化を示すという特徴を持たせることができる。
【0098】
なお、カイラル剤である上述の式(1a)〜(3a)のいずれかで表される環状化合物の分子内二量化反応は不可逆反応であるため、二帯域コレステリック液晶フィルムには、その分子内二量化反応によりシクロブタン環が形成されたもの(すなわち式(1b)〜(3b)で表される環状化合物)が含まれ得る。また、二帯域コレステリック液晶フィルムは未反応のカイラル剤を含有していてもよい。
【0099】
[二帯域コレステリック液晶フィルムの製造方法]
次に、二帯域コレステリック液晶フィルムの製造方法について説明する。二帯域コレステリック液晶フィルムの製造においては、まず、上述した液晶組成物を基板に塗布し、塗膜を形成する(工程(A))。
【0100】
液晶組成物はそのまま基板上に塗布してもよいし、溶媒に溶解または分散させて基板上に塗布しても良い。溶媒としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、塩化メチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、オルソジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、フェノール、p−クロロフェノール、o−クロロフェノール、m−クレゾール、o−クレゾール、p−クレゾール等のフェノール類、ベンゼン、トルエン、キシレン、メトキシベンゼン、1,2−ジメトキシベンゼン等の芳香族炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、t−ブチルアルコール、グリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール等のアルコール系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、アセトニトリル、ブチロニトリル等のニトリル系溶媒、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、二硫化炭素、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ等が挙げられる。これらの溶媒は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0101】
塗布方法としては、例えば、スピンコート法、キャスト法、ロールコート法、フローコート法、ダイコート法、プリント法、ディップコート法、流延成膜法、バーコート法、グラビア印刷法等、が挙げられる。
【0102】
基板の材料、形状、構造、厚さ等は特に制限はなく、寸法安定性、厚さの均一性、強度、耐熱性、耐薬品性、耐水性等の性質やコスト等の観点から最適な基板が選択される。また、基板は公知のものの中から適宜選択してもよい。
【0103】
基板の材料である樹脂としては、1種又は2種以上の重合性単量体を重合させてなる高分子又はその混合物が挙げられる。高分子が2種以上の重合性単量体を重合させてなる共重合体である場合、その共重合体はランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体を含むいかなる共重合体でもよい。樹脂製基板は、2種類以上の樹脂を積層した基板等の複合基板であってもよい。
【0104】
特に、基板としては、液晶をコレステリック配向させる観点から、各種プラスチックフィルムを用いることが好ましい。プラスチックとしては、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4−メチルペンテン−1)、シクロオレフィンポリマー等のポリオレフィン、ポリイミド、ポリイミドアミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリケトンサルファイド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリアリレート、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。プラスチックフィルムは、例えば、プラスチックを延伸することによって得ることができる。
【0105】
また、基板の材料は、ガラス、例えば通常のソーダガラス等であってよい。樹脂とガラスを組み合わせた基板であっても差支えない。
【0106】
また、アルミ、銅、鉄等の金属製基板、セラミック製基板、ガラス製基板等の表面に、上記のようなプラスチックフィルムやシートを配置したものを基板として用いることができる。
【0107】
基板の液晶組成物が塗布される側の面は、SiO
2斜方蒸着膜などの被膜が形成されていてもよい。
【0108】
基板の厚さは、好ましくは5〜500μm、より好ましくは10〜200μm、さらに好ましくは15〜150μmである。このような厚さであれば、基板として十分な強度を有するので、例えば、製造時に破断する等の問題の発生を防止できる。
【0109】
液晶組成物の塗膜の厚さは特に制限されないが、好ましくは3〜50μm、より好ましくは3〜25μm、さらに好ましくは4〜20μmである。厚さが3μmより厚いと、十分ならせんピッチを形成しやすく、厚さが50μmより薄いと、配向規制力が十分に作用するので配向不良が生じにくい。また、コスト面からも50μm以下であることが好ましい。
【0110】
本実施形態において、重合性メソゲン化合物のコレステリック配向の形成は、工程(A)の後、後述する工程(B)の前に行うことが好ましい。
【0111】
その後、形成した塗膜の基板と反対側の面(すなわち塗膜の表面)が酸素を含む気体と接触している状態で、カイラル剤の分子内二量化よりも優先して重合性メソゲン化合物を重合させる(工程(B))。
【0112】
そうすると、基板側では、カイラル剤の分子内二量化よりも重合性メソゲン化合物の重合が優先する。一方、基板の反対側(表面側)では、重合性メソゲン化合物の重合は酸素により阻害され遅くなるが、カイラル剤の分子内二量化は表面側でも基板側と同様に進行するので、基板側と比較してカイラル剤の分子内二量化反応が進行した状況下で重合性メソゲン化合物が重合する。
【0113】
酸素を含む気体に制限はなく、酸素濃度は、所望する二帯域コレステリック液晶フィルムの特性などによって適宜設定すればよいが、気体の全量を基準として、少なくとも0.5体積%以上であり、10体積%以上が好ましい。酸素を含む気体は大気(酸素濃度:約21体積%)でもよい。特別な装置が不要な大気の使用はコスト面からみても好ましい。
【0114】
また、酸素を含む気体は、任意の適切な不活性ガスを含んでいてもよい。不活性ガスとしては、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノン、クリプトン等が挙げられる。これらの中でも、窒素が最も汎用性が高く低コストであるので好ましい。
【0115】
カイラル剤の分子内二量化及び重合性メソゲン化合物の重合は、可視光線や紫外線等の光を照射することにより行うことができ、そして、可視光線や紫外線等の光の強度(露光照度)を大きくすることによって、前者よりも後者を優先させることができる。
【0116】
例えば、光の強度は、好ましくは15〜100mW/cm
2であり、より好ましくは20〜90mW/cm
2であり、さらに好ましくは20〜80mW/cm
2である。ただし、液晶組成物中における光重合開始剤又は光増感剤の含有割合を増やすことによって、光の強度をより小さくすることが可能である。例えば、液晶組成物中における光増感剤の含有割合が2質量%である場合、光の強度は3mW/cm
2以上、好ましくは4〜60mW/cm
2とすることができる。
【0117】
光の波長は、好ましくは160〜500nmであり、より好ましくは、220〜450nmであり、さらに好ましくは280〜420nmである。
【0118】
光の照射時間は照射する光の強度により異なるが、例えば光の強度が50mW/cm
2であれば、好ましくは1〜600秒であり、より好ましくは5〜500秒であり、さらに好ましくは10〜400秒である。ただし、液晶組成物中における光重合開始剤又は光増感剤の含有割合を増やすことによって、光の照射時間を短くすることができる。この場合の照射時間は、好ましくは1〜60秒であり、より好ましくは3秒〜50秒である。
【0119】
液晶組成物に可視光線や紫外線等の光を照射する際の温度は、用いる重合性メソゲン化合物にもよるため一概にはいえないが、好ましくは10〜150℃、より好ましくは20〜120℃、さらに好ましくは25〜90℃である。なお、加熱温度が低いと液晶組成物の粘度が高くなり、その硬化物に配向欠陥が生じるおそれがある。また、加熱温度が高いと、液晶組成物が等方相に相転移してしまい、その硬化物が選択反射しないものとなるおそれがある。
【0120】
また、光の波長をカイラル剤の分子内二量化波長以外の波長に設定して、重合性メソゲン化合物を重合させ、次いで光の波長をカイラル剤の分子内二量化波長に設定して、カイラル剤を分子内二量化させ、その後、場合により、光の波長をカイラル剤の分子内二量化波長に設定して、重合性メソゲン化合物を重合させることによっても、カイラル剤の分子内二量化よりも重合性メソゲン化合物の重合を優先させることができる。ここで、分子内二量化波長以外の波長は、光重合開始剤の開裂波長であることが好ましい。
【0121】
例えば、光重合開始剤IRGACURE TPOの長波長側吸収端の開裂波長は420nmであり、上述の環状化合物の分子内二量化波長は315nmであるので、最初に高圧水銀灯の発光輝線の一つである波長405nmのみの光を照射し、次いで波長315nm、その後場合により波長405nmの光を照射することにより、カイラル剤の分子内二量化よりも重合性メソゲン化合物の重合を優先させることができる。
【0122】
なお、液晶組成物の硬化が終了した後、基板は剥離してもよいし、剥離しなくてもよい。
【実施例】
【0123】
以下、実施例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって何ら限定されるものではない。
【0124】
特に明記しない限り、実施例における「部」および「%」は質量基準である。また、実施例で用いたすべての化合物の構造および諸物性を表1に示す。
【0125】
<評価方法>
(透過スペクトルの測定)
配向基板上で成膜した二帯域コレステリック液晶フィルムを測定用サンプルとし、光ファイバーBIS600−VIS−NIRを具備した偏光顕微鏡eclipse lv100 POL(ニコン社製)を備え付けた分光器USB4000(オーシャンオプティクス社製)を用いて測定した。二帯域コレステリック液晶フィルムに入射する光は正面(法線)方向からのものである。液晶組成物を塗布していない基板に対して法線方向から右円偏光を入射させた場合の透過率をリファレンス(透過率100%)とした。また、法線方向から右円偏光を20度傾けて入射させ透過率を測定する場合も、液晶組成物を塗布していない基板に対して法線方向から右円偏光を入射させた場合の透過率をリファレンス(透過率100%)とした。なお、透過率測定時に使用する解析ソフトフェアSpectra Suiteの設定は、積算時間400m秒程度、ボックスカー幅1回とした。
【0126】
透過スペクトル測定において、透過率30%以下の波長領域(範囲)を選択反射波長帯域とした。
【0127】
(照射強度の調整)
強度可変のUV照射装置であるSPOT9−250UB(ウシオ電機社製)を用いて紫外線照射を行った。
【0128】
(厚さの測定)
段差測定装置であるアルファステップIQ(ヤマト科学社製)を用いて二帯域コレステリック液晶フィルム(紫外線照射後)の厚さを測定した。
【0129】
(視認性)
正面からみた二帯域コレステリック液晶フィルムの色と、正面から45度の方向からみた二帯域コレステリック液晶フィルムの色を視認した。
【0130】
[合成例1:化合物1の合成]
以下の合成スキームに従い、表1に示す化合物1を合成した。
【0131】
(ステップ1)4−(4−ペンテニルオキシル)桂皮酸(化合物(a))の合成
ナス型フラスコにトランス−4−ヒドロキシ桂皮酸1当量を入れ、エタノールに溶解させた。この溶液に水に溶解させたヨウ化カリウム(KI)を触媒量、水酸化カリウム(KOH)を3当量、エタノールに溶解させた5−ブロモ−1−ペンテンを1.2当量加え、70℃で24時間撹拌した。その後、室温に戻してから不要なエタノールをエバポレーターで除去して水を加え、イオン化した生成物を沈殿させるために希塩酸を加えて酸性化させた。得られた沈殿物を、ろ過後水洗して目的化合物(a)を得た。
【0132】
(ステップ2):化合物(b)の合成
化合物(a)2.2当量、(R)−(+)−2−メチル−1,4−ブタンジオール1当量をナス型フラスコ中の脱水ジクロロメタンに溶解させた。この溶液にDCC(ジシクロヘキシルカルボジイミド)2.4当量、DMAP(4−ジメチルアミノピリジン)触媒量を加え、室温で24時間撹拌した。その後、反応により生じたDCCウレア固体を反応液から濾別し、濾液を減圧濃縮した。クロロホルムを展開溶媒とするシリカカラムクロマトグラフィーにより精製して目的化合物(b)を得た。
【0133】
(ステップ3):化合物1の合成
1Lの三口フラスコに、化合物(b)500mgと1Lの脱水ジクロロメタンを入れ、窒素ガス置換し、試料を均一に溶解させるために室温で2時間撹拌した。その後、脱水ジクロロメタンに溶解させたGrubbs触媒第一世代0.2当量を数時間、間をおいて3回に分けてシリンジで加え、室温で24時間撹拌した。得られた反応溶液を減圧濃縮し、ジクロロメタンを展開溶媒として、アルミナカラムグラフィーおよびシリカカラムクロマトグラフィーにより精製し、さらに酢酸エチル−ヘキサンで再結晶して化合物1を得た。必要に応じてさらにリサイクルGPCで精製した。
【0134】
【表1】
【0135】
[実施例1]
重合性メソゲン化合物であるLC242(BASF社製)が90重量部、カイラル剤である化合物1が8重量部、及び光重合開始剤であるIrg907(BASF社製)が2重量部からなる混合物1重量部に対してクロロホルムを100重量部加え、クロロホルム溶液を調製した。
【0136】
ポリイミドで被膜したガラス基板をラビング処理した配向基板上に、該溶液をキャストし、大気中(酸素濃度21体積%)、70℃で紫外線照射強度23mW/cm
2の紫外線を300秒照射し、二帯域コレステリック液晶フィルムを得た。
【0137】
[実施例2]
紫外線照射強度を48mW/cm
2とした以外は、実施例1と同様にして、二帯域コレステリック液晶フィルムを得た。
【0138】
[実施例3]
紫外線照射強度を73mW/cm
2とした以外は、実施例1と同様にして、二帯域コレステリック液晶フィルムを得た。
【0139】
[実施例4]
重合性メソゲン化合物を86重量部、カイラル剤を10重量部、光増感剤としてミヒラーズケトンを2重量部、紫外線照射強度を4.4mW/cm
2、紫外線照射時間を30秒とした以外は、実施例1と同様にして、二帯域コレステリック液晶フィルムを得た。
【0140】
[実施例5]
重合性メソゲン化合物を89重量部、カイラル剤を9重量部、紫外線強度を73mW/cm
2、紫外線照射時間を120秒とした以外は、実施例1と同様にして、二帯域コレステリック液晶フィルムを得た。
【0141】
表2は実施例1〜5についてまとめたものである。また、実施例1〜5の二帯域コレステリック液晶フィルムの正面(法線)方向から入射した光の透過スペクトルをそれぞれ
図1〜
図5に示す。
図5には、実施例5の二帯域コレステリック液晶フィルムの正面(法線)方向から20度傾けた方向から入射した光の透過スペクトルも併せて示されている。
図5において、長波長側にある透過スペクトルは、正面(法線)方向から入射した光の透過スペクトルであり、短波長側にある透過スペクトルは、正面(法線)方向から20度傾けた方向から入射した光の透過スペクトルである。なお、
図1〜5の縦軸は透過率(%)であり、横軸は波長(nm)である。
【0142】
【表2】