特許第6238142号(P6238142)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6238142
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】電動操舵機
(51)【国際特許分類】
   B63H 25/26 20060101AFI20171120BHJP
   B63H 25/10 20060101ALI20171120BHJP
   F16H 37/02 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   B63H25/26
   B63H25/10
   F16H37/02 C
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-195186(P2015-195186)
(22)【出願日】2015年9月30日
(65)【公開番号】特開2017-65576(P2017-65576A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2015年12月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000129851
【氏名又は名称】株式会社ケイセブン
(74)【代理人】
【識別番号】100082647
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 義久
(72)【発明者】
【氏名】栗林 定友
【審査官】 前原 義明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−100027(JP,A)
【文献】 特開昭60−088269(JP,A)
【文献】 特開2006−027580(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 25/26
B63H 25/10
F16H 37/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリュープロペラの推進機関と舵を用いるスクリュープロペラ推進舵方式の船舶の電動操舵機であって、以下の:
ほぼ水平に架台上で支持された電動モーター動力機構と;
前記電動モーター動力機構の回転軸と連結するウォーム、当該ウォームと噛合して当該回転軸に直交し回転自在に鉛直支持されるウォームホイールから成るウォーム減速機構と;
前記スクリュープロペラのプロペラ近傍で船体に回転自在に垂下支持され、其の下部で舵板を連結垂下している舵軸と;
前記舵軸の上部で同芯に連結されている一又は複数のスプロケットから成る舵軸側のスプロケット群と;
前記ウォームホイールの駆動軸に同芯に連結され、前記舵軸側のスプロケット群の構成スプロケットと対になるスプロケットから成る減速機側のスプロケット群と;そして、
前記舵軸側のスプロケット群、減速機側のスプロケット群、及び当該対になるスプロケット間に巻き掛けられている一又は複数のローラーチェーンから成るローラーチェーン動力伝達機構を、
含む電動操舵機。
【請求項2】
スクリュープロペラの推進機関と舵を用いるスクリュープロペラ推進舵方式の船舶の電動操舵機であって、以下の:
ほぼ水平に架台上で支持された電動モーター動力機構と;
前記電動モーター動力機構の回転軸と連結するウォーム、当該ウォームと噛合して当該回転軸に直交し回転自在に鉛直支持されるウォームホイールから成るウォーム減速機構と;
前記スクリュープロペラのプロペラ近傍で船体に回転自在に垂下支持され、其の下部で舵板を連結垂下している舵軸と;
前記舵軸の上部で同芯に連結されている一又は複数のタイミングプーリーから成る舵軸側のタイミングプーリー群と;
前記ウォームホイールの駆動軸に同芯に連結され、前記舵軸側のタイミングプーリー群の構成タイミングプーリーと対になるタイミングプーリーから成る減速機側のタイミングプーリー群と;そして、
前記舵軸側のタイミングプーリー群、減速機側のタイミングプーリー群、及び当該対になるタイミングプーリー間に巻き掛けられている一又は複数のタイミングベルトから成るタイミングベルト動力伝達機構を、
含む電動操舵機。
【請求項3】
スクリュープロペラの推進機関と舵を用いるスクリュープロペラ推進舵方式の船舶の電動操舵機であって、以下の:
ほぼ水平に架台上で支持された電動モーター動力機構と;
前記電動モーター動力機構の回転軸と連結するウォーム、当該ウォームと噛合して当該回転軸に直交し回転自在に鉛直支持されるウォームホイールから成るウォーム減速機構と;
前記スクリュープロペラのプロペラ近傍で船体に回転自在に垂下支持され、其の下部で舵板を連結垂下している舵軸と;
前記舵軸の上部で同芯に連結されている一又は複数のスプロケットから成る舵軸側のスプロケット群と;
前記ウォームホイールの駆動軸に同芯に連結され、前記舵軸側のスプロケット群の構成スプロケットと対になるスプロケットから成る減速機側のスプロケット群と;そして、
前記舵軸側のスプロケット群、減速機側のスプロケット群、及び当該対になるスプロケット間に巻き掛けられている一又は複数のローラーチェーンから成るローラーチェーン動力伝達機構を、
含む電動操舵機であって、
前記電動モーター動力機構と;
前記ウォーム減速機構と;そして、
前記減速機側のスプロケット群の回転自在の軸受支持機構と;
は、前記架台上で一体としてコンポーネント化され、
前記架台とその据付冶具は、全体として船体上にスライド調整手段を有することを特徴とする電動操舵機。
【請求項4】
スクリュープロペラの推進機関と舵を用いるスクリュープロペラ推進舵方式の船舶の電動操舵機であって、以下の:
ほぼ水平に架台上で支持された電動モーター動力機構と;
前記電動モーター動力機構の回転軸と連結するウォーム、当該ウォームと噛合して当該回転軸に直交し回転自在に鉛直支持されるウォームホイールから成るウォーム減速機構と;
前記スクリュープロペラのプロペラ近傍で船体に回転自在に垂下支持され、其の下部で舵板を連結垂下している舵軸と;
前記舵軸の上部で同芯に連結されている一又は複数のタイミングプーリーから成る舵軸側のタイミングプーリー群と;
前記ウォームホイールの駆動軸に同芯に連結され、前記舵軸側のタイミングプーリー群の構成タイミングプーリーと対になるタイミングプーリーから成る減速機側のタイミングプーリー群と;そして、
前記舵軸側のタイミングプーリー群、減速機側のタイミングプーリー群、及び当該対になるタイミングプーリー間に巻き掛けられている一又は複数のタイミングベルトから成るタイミングベルト動力伝達機構を、
含む電動操舵機であって、
前記電動モーター動力機構と;
前記ウォーム減速機構と;そして、
前記減速機側のタイミングプーリー群の回転自在の軸受支持機構と;
は、前記架台上で一体としてコンポーネント化され、
前記架台とその据付冶具は、全体として船体上にスライド調整手段を有することを特徴とする電動操舵機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推進力を得るスクリュープロペラと進行方向を変える舵を用いるスクリュープロペラ推進舵方式の船舶の操舵装置に関し、油圧シリンダー機構の代替として電動モーターを用い、低製造コスト及び低ランニングコストに有利な船舶の電動操舵機である。
【背景技術】
【0002】
推進力を得るスクリュープロペラと進行方向を変える舵を用いるスクリュープロペラ推進舵方式の船舶では、油圧を用い油圧シリンダーによって往復動を生成し、クランク機構に類する回転運動変換機構を利用して、舵軸を回転揺動させる方式が一般である。
【0003】
油圧シリンダーのコンポーネントへの組み込みには製造コストに問題点がある。船舶が規格船として、仕様を複数の船舶建造で共通化する中で、中小型の船舶は建造隻数が多く、使用する油圧シリンダーの仕様もある程度収斂され、共通化されてきている一方で、大型の船舶では、建造隻数がさほどないことと、性能仕様にも拡がりがあるため、使用する油圧シリンダーは一品生産となり製造コストが高いという課題がある。この課題に対しては、本来は中小型船用の小型の油圧シリンダーの使用本数の増加により代替するアプローチもあるが、実際に中小型船ならば2本で所要能力が足りる小型の油圧シリンダーを大型船では、例えば、2倍の4本採用する必要があり、油圧シリンダーの部品費用を抑えても、周辺設備もその分付帯して必要とし、なお、製造費用は高止まりとなる。
【0004】
油圧シリンダーのコンポーネントへの組み込みは、ランニングコスト上の問題点もある。すなわち、舵柄が油圧によって制御されるために、直進時であっても油圧システム内には常に所定の標準油圧が作用し、この圧力を維持するために油圧ポンプは直進の舵中立時にあっても常に維持され、このためにエネルギーが浪費され、ランニングコストを発生させるという問題である。
【0005】
前段の問題点は、油圧シリンダーのコンポーネントへの組み込みによるエネルギー上の問題点にも重なる。すなわち、直進時の所定の標準油圧の維持はエネルギーの浪費であるという問題であり、これはCO2削減の政策的課題に直結する。国際海運CO2排出削減のための改正等を盛り込んだ「海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律等の一部を改正する法律」(平成25年1月施行)、現行から総量20%(2030年)ないし30%(2050年)の国際海運CO2排出数値削減目標を達成することが求められており、この舵中立時のエネルギー消費の無駄は段階的CO2削減目標のターゲット(非特許文献1参照)とされるべきと発明者は考える。
【0006】
油圧シリンダーのコンポーネントへの組み込みには環境上の問題点もある。すなわち、舵柄が油圧によって制御されるために、直進時であっても油圧システム内には常に所定のの標準油圧が作用し、この圧力を維持するために油圧エンジンは直進の中立時にあっても常に維持され、このために、油圧システムからは、如何にシールされようと、一定の量の作動油が漏れ続けているのである。この漏れが船内に止まればまだしも、幾ばくかは海洋への漏洩も生じ、海洋環境へ影響を及ぼしているのも周知の事項である。
【0007】
油圧シリンダーのコンポーネントへの組み込みには操舵安定性の問題点もある。油圧シリンダー作動による操舵角限界周辺では、駆動操舵力の変化が急である領域が発生する(特許文献1、発明の詳細な説明の1頁目、右欄、特許文献1の図4、特許文献1の2頁右欄上から1行目〜13行目)。往復運動を回転揺動に変換させる都合上、広い範囲の舵角をとろうとすれば、±40°以上の操舵角を実現する領域では、駆動操舵力の低下が危惧される領域が発生するという必然的な課題があり、その対応には、本来の油圧シリンダーよりも大型の油圧シリンダーを用いたり、油圧を生成する油圧ポンプの性能の高いものを採用したり、という対応が必要である。これは潜在的に製造費用を増加させ、ランニング費用も増加させる。この場合には、結果、直進時の保針が不安定になり易いし、直進時の保針により大きなエネルギーを消費することは明らかである。
【0008】
このように、油圧シリンダーをコンポーネントへ組み込んだ操舵機で操舵角を拡げる設計方針をとれば、装置能力の能力増による無駄なエネルギー消費を招くことになるという問題点が生じる。油圧シリンダーによってシリンダー往復動を舵軸の回転動に変換する場合、往復のストローク長と、船幅の現実的な幅と、所定の位置前後でのシリンダーの駆動力を考慮すると、二本に限るシリンダー往復駆動では舵角に実質的な限界角が存し、非特許文献2,3のように操舵角90°は、舵柄を舵中央に垂直に設計すれば、実質取り得ない。往復のストローク長と、船幅の現実的な幅と、所定の位置前後でのシリンダーの駆動力を考慮すると、二本に限るシリンダー往復駆動では舵角に実質的な限界角が存するのである。舵軸に結合されて一端にシリンダー軸からの旋回力を与える舵柄と舵板が直角をなす場合に、中立点で舵柄とシリンダー軸とがほぼ直角とすれば、限界舵角に近づくほどシリンダー軸と舵柄のなす交叉角は小さくなり、算術上は90°の舵角では所要の回転モーメントは無限大になるからである。油圧シリンダーによってシリンダー往復動を舵軸の回転動に変換する場合、限界舵角付近では舵柄とシリンダーの交叉角が小さくなり、往復動のストローク長を長くしたり、シリンダー能力を増加させたりする必要があることは明らかである。そして、このように駆動操舵力の変動幅が大きいと、操舵角により制御ゲインが大きく異なるため、操舵機周辺の操舵の制御機構を複雑にするおそれ、及び操舵角により操船感度が異なるためオペレーションを複雑にし、最大舵角近辺での安全航行にも影響を及ぼしかねないという問題もある。
【0009】
こうして、油圧シリンダーをコンポーネントに含まない操舵装置が成り立てば、上記の問題、すなわち、製造コスト、ランニングコスト、CO2排出量削減政策への貢献、油汚染の防止の環境保護及び安全運航への寄与等、数々の問題に対応できそうなことがわかる。
【0010】
そこで、このようなマイナス点を有する往復動動力機構をコンポーネントとして組み込まず、他の手段による操舵機に目を転ずれば、油圧モーターを直接の駆動源として用い、操舵可能回転角を増す試みもある。特許文献2の図7,8には、ロータリーベーンを用い、180度近くの舵角を可能にする油圧モーターによる舵の駆動機構が開示される。しかしながら、ベーン部のシール液封に課題があってシリンダーの性能に比較し運転効率及び耐久性に向上の余地がありそうである。油圧の作用するベーンには、ベーンの中間半径位置に平均作用点が生ずるので、得られる回転モーメントを大にすると装置が巨大になりかねず、そもそも複雑な構造から製造コストがかさみ、経済性に劣るし、上段落の油による海洋汚染の点は相変わらずである。
【0011】
他方、プロぺラとその後流に配する主舵の基本構成から離れ、プロペラ自体を旋回軸に連結するポッドタイプのプロペラ駆動装置を提案するアプローチもあるが、これは、もはや本発明が対象とする操舵機ではなく、プロペラ駆動装置である(特許文献3)。
【0012】
とはいえ、回転対象を舵ではなくポッドプロペラとして、これを船下で大きな角度で旋回させているところは操舵機と共通する。そこで、船体の水面下にある回転駆動機構について検討する。特許文献3の図1には、ポッドを平ギアで駆動する平ギア機構が開示され、図4にはウォームとホイールで駆動するウォームギア機構が開示される。しかしながら、ポッドタイプのプロペラ駆動装置とは異なり、プロペラ近傍に配される舵にはプロペラが起こす乱流によって流体関連振動が常に働く。したがって、舵軸にウォームホイールを直結し、これと常時噛合しているウォームとの間には、常時この流体関連振動が働き、ウォーム表面及びウォームホイール表面の金属疲労ないし摩耗は甚だしく、実用化に危惧される問題点がある。特許文献4には、制振作用を期待してスラストベアリングのスラスト支持面とウォームとの間にゴム等の弾性制振部材を挟み振動を解消させる発明が開示されるが、ウォーム表面及びウォームホイール表面を直接保護するものではない。さらに、船体と回転自在に結合される舵軸と噛合している精密なウォームギア機構は、製造時、荒天時、気圧、環境温度変化、経年等による船体変形の吸収に難が見込まれ、舵軸とウォームギア機構の直接噛合は、実用化検討には二の足を踏まざるを得なかった。
【0013】
そのような事情があるとしても、往復動によらず回転動による動力源は上記問題点を考慮すると魅力的であり、回転動といっても、油圧モーターによる舵軸の旋回は、上記油汚染の問題点を考えると採用しづらい。残る選択肢である回転動力源に電動モーターを採用は、一般に、電動モーターは、回転数制御ができるとしても安定運転に高速回転数であるから、減速比の高い減速機構を要求する。この減速機構としては、ギア機構が有力な選択肢となるが、結局のところ、上述の課題、プロペラ近傍に配される舵には、プロペラが起こす乱流によって流体関連振動が常に働き、舵軸に直結し、噛合ギアとの間には、常時この流体関連振動が働き、ギア表面の金属疲労ないし摩耗が危惧されるという問題点に還元されることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平3−99997
【特許文献2】特公3421004
【特許文献3】特公4316143
【特許文献4】特開2013−100027
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】https://www.mlit.go.jp/report/press/kaiji06_hh_000061.html 「船舶からのCO2削減技術開発支援事業の評価について」,添付資料「船舶からのCO2削減技術開発支援事業の評価について」プレスリリース,国土交通省海事局安全・環境政策課,平成25年3月29日
【非特許文献2】新・舵取機械・舵システムの新しい概念―シリングラダ―、ロータリーベーン舵取機、ベクツィン・ラダーシステム(1)日本マリンエンジニアリング学会誌、第45巻 第2号 P93−99
【非特許文献3】新・舵取機械・舵システムの新しい概念―シリングラダ―、ロータリーベーン舵取機、ベクツィン・ラダーシステム(2)日本マリンエンジニアリング学会誌、第45巻 第3号 P97−104
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本願発明では、船舶への適用に際し、実績の十分な推進操舵方式である、推進力を得るスクリュープロペラと進行方向を変える舵を用いるスクリュープロペラ推進舵方式に用いる操舵機であって、低製造コスト、低ランニングコスト及び省エネルギーに有利な船舶の電動操舵機を提供する。
【0017】
本発明の新しい操舵機は、実質的に汎用的に製造されている主要部材もコンポーネントとして構成可能であり、個別生産の大型油圧シリンダーに比して低製造コストを提供可能する操舵機を提供とすべきである。
【0018】
本発明の新しい操舵機は、舵中央でも油圧ポンプを定常的に運転するエネルギーの無駄を排し、低ランニングコストを提供し、CO2削減目標に貢献し得る操舵機とすべきである。ここでいう貢献とは、この発明単独で、国際海運CO2排出数値削減目標を達成するという貢献に至らずとも、他の施策(非特許文献3参照)も相まって一つの貢献によって、これら数値目標に貢献することをいう。
【0019】
本発明の新しい操舵機は、±40°以上の操舵角限界付近でも操舵力の低下を発現せず、広い舵角範囲で、ほぼ等しく操舵力を提供可能とし、操舵機構の周辺装置構成も舵駆動速度制御、操船オペレーションの容易化を可能とする操舵機とすべきである。
【0020】
本発明の新しい操舵機は、油による海洋汚染の可能性を激減させ、環境保護性が求められる特定の湖沼、湾、海峡、河川等の閉じられた、あるいは、環境資源と関わりの深い地域で使用される船舶にも安心して使用できる操舵機とすべきある。
【0021】
本発明の新しい操舵機は、減速機構にギア機構を採用しても、プロペラが起こす乱流から常態する流体関連振動によるギア機構表面の損傷を避け、製造時、荒天時、気圧、環境温度変化、経年等による船体変形を吸収する機構を採用し、製造費用の低減、保全維持費用の低減、より安全な運航を提供する操舵機とすべきである。
【0022】
本発明に係る操舵装置発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、推進力を得るスクリュープロペラと進行方向を変えるための舵を用いるスクリュープロペラ推進舵方式に用いる操舵機であって、電動モーター動力機構により油圧シリンダー設備を排し、直進時の舵制御目的での油圧ポンプの動作を不要とし、船舶内使用油圧維持の燃料を節減し、洋上航行中の化石燃料消費量を低減し、実質上汎用部材としても設計調達可能であるローラーチェーン動力伝達機構をコンポーネントに備えて製造費用を抑えることを可能とし、かつ、電動モーター動力機構の減速機構にウォームギア機構を採用してもローラーチェーン動力伝達機構で遊びを持たせプロペラが起こす乱流から常態する流体関連振動の緩和でギア表面の損傷を避け、製造時、荒天時、気圧、環境温度変化、経年等による船体変形を吸収し、回転駆動機構は±40°以上の操舵角を±40°以上の操舵角でもほぼ等しく操舵力を提供し、船舶の機敏な操縦性能を発揮させ、船舶の操船性能を向上しつつ、電動モーター動力機構により、油圧作動油による海洋、湖水汚染を激減する船舶の電動操舵機である。
【課題を解決するための手段】
【0023】
この課題を解決した本発明は以下のとおりである。
[請求項1記載の発明]
スクリュープロペラの推進機関と舵を用いるスクリュープロペラ推進舵方式の船舶の電動操舵機であって、以下の:
ほぼ水平に架台上で支持された電動モーター動力機構と;
前記電動モーター動力機構の回転軸と連結するウォーム、当該ウォームと噛合して当該回転軸に直交し回転自在に鉛直支持されるウォームホイールから成るウォーム減速機構と;
前記スクリュープロペラのプロペラ近傍で船体に回転自在に垂下支持され、其の下部で舵板を連結垂下している舵軸と;
前記舵軸の上部で同芯に連結されている一又は複数のスプロケットから成る舵軸側のスプロケット群と;
前記ウォームホイールの駆動軸に同芯に連結され、前記舵軸側のスプロケット群の構成スプロケットと対になるスプロケットから成る減速機側のスプロケット群と;そして、
前記舵軸側のスプロケット群、減速機側のスプロケット群、及び当該対になるスプロケット間に巻き掛けられている一又は複数のローラーチェーンから成るローラーチェーン動力伝達機構を、
含む電動操舵機。
【0024】
[発明の作用効果]
請求項1記載の発明は、動力装置として、回転動力である電動モーターを含む。したがって、油圧を維持する必要がないから、このために油圧ポンプを定常的に運転する必要はなく、省エネルギーであり、ランニングコストに優れ、CO2削減にも貢献する。標準的なスプロケットとローラーチェーンは他の搬送用途や運搬機・自動車向けのものも調達可能で船舶の操舵機に使用できるものの調達可能であろうから、その場合には、製造の必要な部材の調達費用を個別生産する必要のある大型の油圧シリンダーに比して明らかに低く抑えられ、製造費用を抑えられる。
【0025】
電動モーター動力機構コンポーネントによって、最大舵角を効かせるときでも、駆動力を舵角0°の場合に比して著しく大とする必要もなく、全舵角でほぼ均等な駆動力を舵軸に伝達系を介して作用することができる。舵角に対してほぼ同一の作用力を効かすことが可能であるから、電動モーターの駆動負荷は、単純舵への流体力作用を考えればよく、電動モーターの制御が容易になる効果も期待できる。本発明であれば、舵板の操舵可能最大舵角を操舵中立点から±70°以上とするのも、無端のローラーチェーンを使用し実現する。ローラーチェーンは船舶の舵駆動用品として提供されていないが、対応するスプロケットと共に搬送部材として世に広く製造され、調達コストも抑えることが可能であって製造費用を低減可能である。
【0026】
電動モーターは安定な回転性能を与えるが一般に高速回転である。一方、舵は比較的低速で、安定動作が求められる点、電動モーターを舵の操舵に用いるにはこれを適切に減速することが求められる。本発明では、ウォーム、当該ウォームと噛合して当該回転軸に直交し回転自在に鉛直支持されるウォームホイールから成るウォーム減速機構を配するから高い減速比を省スペースで実現し、大小径のスプロケットによる減速も合わせ、高速回転する電動モーターを好適に減速する。ところが、ギア機構では、プロペラが起こす乱流から常態する流体関連振動により舵軸を介してこの振動が伝搬し、ギアと舵軸を直結すればギア機構表面の損傷が生ずる問題があった。そして、本発明の新しい操舵機は、回転駆動機構の減速機構にギア機構を採用しても、プロペラが起こす乱流から常態する流体関連振動によるギア機構表面の損傷から保護される緩衝機構となるローラーチェーン機構をギア減速機構との間に介在させ、機構的に遊びのあるローラーチェーンとスプロケットに流体関連振動を緩衝させている。さらに、この遊びは製造時のアライメント調整、荒天時の船体変形、気圧変化、環境温度変化、経年等による船体変形を吸収する作用も提供し、ローラーチェーン機構を備える操舵機は、この面でも製造コストの低減に貢献し、保守維持費用のランニングコストの低減にも貢献するのである。
【0027】
本発明の新しい操舵機は、±40°以上の操舵角で操舵力の低下が危惧されるシリンダー機構は採用せず、往復動動力を採用せず、動力源として回転駆動動力機構を用い、±40°以上の操舵角でもほぼ等しく操舵力を提供可能とし、操舵機構の周辺装置構成の簡易化にも貢献し、舵駆動速度制御、船オペレーションの容易化にも貢献し、この面からも製造コストの低減に貢献し、保守維持費用のランニングコストの低減に貢献するのである。
【0028】
本発明の新しい操舵機は、油圧システムを採用せず電動モーターを採用し、海洋、湖水を汚染する可能性を激減させる。特定の環境保護性が高い湖沼、湾、海峡、河川等の閉じられた、あるいは、動植物を関わりの高い環境での船舶にもさらに有効である。
【0029】
本発明の新しい操舵機は、駆動操舵力の低下が危惧される領域が必然的に発生する油圧シリンダー往復動力機構を採用せず、動力源として回転駆動動力機構を用い、動力源として回転動力駆動の一つである電動モーターを採用し、±40°以上の操舵角を実現する場合でも、この範囲でほぼ等しく操舵力を提供可能とし、以って、回転制御、操船オペレーションを容易とする。
【0030】
[請求項2記載の発明]
スクリュープロペラの推進機関と舵を用いるスクリュープロペラ推進舵方式の船舶の電動操舵機であって、以下の:
ほぼ水平に架台上で支持された電動モーター動力機構と;
前記電動モーター動力機構の回転軸と連結するウォーム、当該ウォームと噛合して当該回転軸に直交し回転自在に鉛直支持されるウォームホイールから成るウォーム減速機構と;
前記スクリュープロペラのプロペラ近傍で船体に回転自在に垂下支持され、其の下部で舵板を連結垂下している舵軸と;
前記舵軸の上部で同芯に連結されている一又は複数のタイミングプーリーから成る舵軸側のタイミングプーリー群と;
前記ウォームホイールの駆動軸に同芯に連結され、前記舵軸側のタイミングプーリー群の構成タイミングプーリーと対になるタイミングプーリーから成る減速機側のタイミングプーリー群と;そして、
前記舵軸側のタイミングプーリー群、減速機側のタイミングプーリー群、及び当該対になるタイミングプーリー間に巻き掛けられている一又は複数のタイミングベルトから成るタイミングベルト動力伝達機構を、
含む電動操舵機。
【0031】
[発明の作用効果]
請求項1記載の電動操舵機は、ローラーチェーン動力伝達機構を、タイミングベルト動力伝達機構に置換してもよい。ローラーチェーンは金属製であり、耐久力に優れるが、高分子材に比較して振動を減衰する能力に劣り、遊びに余裕を持たせ過ぎれば、スプロケットから外れるというおそれもある。一方、高分子材を素材とするタイミングベルトは、金属に比較して振動を減衰する能力に勝り、タイミングベルト自体伸縮可能であるから、張力を保ちつつ張りと遊びを持たせ、前述の流体関連振動から生ずる舵軸の振動を減衰させることが可能である。特に、内航船では一時の航続距離が短距離であり、保守インターバルも短くも可能であるから、ローラーチェーンに比較して寿命の短いタイミングベルト動力伝達機構をコンポーネントとして電動操舵機に組み込むことも好適なのである。
本発明がさらに、以下の構成を取る場合、すなわち、
スクリュープロペラの推進機関と舵を用いるスクリュープロペラ推進舵方式の船舶の電動操舵機であって、以下の:
ほぼ水平に架台上で支持された電動モーター動力機構と;
前記電動モーター動力機構の回転軸と連結するウォーム、当該ウォームと噛合して当該回転軸に直交し回転自在に鉛直支持されるウォームホイールから成るウォーム減速機構と;
前記スクリュープロペラのプロペラ近傍で船体に回転自在に垂下支持され、其の下部で舵板を連結垂下している舵軸と;
前記舵軸の上部で同芯に連結されている一又は複数のスプロケットから成る舵軸側のスプロケット群と;
前記ウォームホイールの駆動軸に同芯に連結され、前記舵軸側のスプロケット群の構成スプロケットと対になるスプロケットから成る減速機側のスプロケット群と;そして、
前記舵軸側のスプロケット群、減速機側のスプロケット群、及び当該対になるスプロケット間に巻き掛けられている一又は複数のローラーチェーンから成るローラーチェーン動力伝達機構を、
含む電動操舵機であって、
前記電動モーター動力機構と;
前記ウォーム減速機構と;そして、
前記減速機側のスプロケット群の回転自在の軸受支持機構と;
は、前記架台上で一体としてコンポーネント化され、
前記架台とその据付冶具は、全体として船体上にスライド調整手段を有することを特徴とする電動操舵機、の場合には、さらに、
架台は長孔等のスライド調整手段を有し船体とは、例えば、アンカーボルト等によって締結固定されている。スプロケット群の回転自在の軸受支持機構は架台に固定され、ローラーチェーンの張りは据付時に架台に設けられた前記長孔の遊びによって、例えば、船軸方向に調整可能とされており、製造時の機器の配置位置関係の想定外のずれを吸収可能としている。精密な調整の必要なウォームとウォームホイールの位置調整の仕組みとして架台を含む予めのギア機構のコンポーネント化は、製造費用の低減を実現する。保守の場面でもここに示すコンポーネント化された機構は、経年使用によるローラーチェーンを含むローラーチェーン動力伝達機構、舵軸側スプロケット群と駆動軸側スプロケット群及びウォームギア駆動機構間の位置関係の調整を架台に設ける長孔の遊び等のスライド調整手段によって調整可能とし、保全の迅速化もはかれ、維持費用の低減も実現する。このようなコンポーネント化によって機器配置時の遊びを吸収する仕組みを取り込み、製造時のアライメント調整、荒天時の船体変形、気圧変化、環境温度変化、経年等による船体変形、ローラーチェーンの経年の緩みを吸収する作用も提供し、ローラーチェーン動力伝達機構、ウォームギア減速機構、電動モーター動力機構のコンポーネント化部を含む電動操舵機1は、この面でも製造コストの低減に貢献しつつ、合わせて保守維持費用のランニングコストの低減にも貢献する電動操舵機である。
本発明がさらに、以下の別構成を取る場合、すなわち、
スクリュープロペラの推進機関と舵を用いるスクリュープロペラ推進舵方式の船舶の電動操舵機であって、以下の:
ほぼ水平に架台上で支持された電動モーター動力機構と;
前記電動モーター動力機構の回転軸と連結するウォーム、当該ウォームと噛合して当該回転軸に直交し回転自在に鉛直支持されるウォームホイールから成るウォーム減速機構と;
前記スクリュープロペラのプロペラ近傍で船体に回転自在に垂下支持され、其の下部で舵板を連結垂下している舵軸と;
前記舵軸の上部で同芯に連結されている一又は複数のタイミングプーリーから成る舵軸側のタイミングプーリー群と;
前記ウォームホイールの駆動軸に同芯に連結され、前記舵軸側のタイミングプーリー群の構成タイミングプーリーと対になるタイミングプーリーから成る減速機側のタイミングプーリー群と;そして、
前記舵軸側のタイミングプーリー群、減速機側のタイミングプーリー群、及び当該対になるタイミングプーリー間に巻き掛けられている一又は複数のタイミングベルトから成るタイミングベルト動力伝達機構を、
含む電動操舵機であって、
前記電動モーター動力機構と;
前記ウォーム減速機構と;そして、
前記減速機側のタイミングプーリー群の回転自在の軸受支持機構と;
は、前記架台上で一体としてコンポーネント化され、
前記架台とその据付冶具は、全体として船体上にスライド調整手段を有することを特徴とする電動操舵機の場合には、さらに、
架台は長孔等のスライド調整手段を有し船体とは、例えば、アンカーボルト等によって締結固定されている。タイミングプーリー群の回転自在の軸受支持機構は架台に固定され、タイミングベルトの張りは据付時に架台に設けられた前記長孔の遊びによって、例えば、船軸方向に調整可能とされており、製造時の機器の配置位置関係の想定外のずれを吸収可能としている。精密な調整の必要なウォームとウォームホイールの位置調整の仕組みとして架台を含む予めのギア機構のコンポーネント化は、製造費用の低減を実現する。保守の場面でもここに示すコンポーネント化された機構は、経年使用によるタイミングベルトを含むタイミングベルト動力伝達機構、舵軸側タイミングプーリー群と駆動軸側タイミングプーリー群及びウォームギア駆動機構間の位置関係の調整を架台に設ける長孔の遊び等のスライド調整手段によって調整可能とし、保全の迅速化もはかれ、維持費用の低減も実現する。このようなコンポーネント化によって機器配置時の遊びを吸収する仕組みを取り込み、製造時のアライメント調整、荒天時の船体変形、気圧変化、環境温度変化、経年等による船体変形、タイミングベルトの経年の緩みを吸収する作用も提供し、タイミングベルト動力伝達機構、ウォームギア減速機構、電動モーター動力機構のコンポーネント化部を含む電動操舵機1は、この面でも製造コストの低減に貢献しつつ、合わせて保守維持費用のランニングコストの低減にも貢献する電動操舵機である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の一実施の形態が適用される船舶の船尾側面図の模式図である。
図2】本発明の一実施の形態に係る電動操舵機1の舵軸12側のスプロケット群5の周辺機構を含む図1の詳細部分側面図である。
図3】本発明の一実施の形態に係る電動操舵機1の減速機側のスプロケット群4の周辺機構を含む図1の詳細部分側面図である。
図4】本発明の一実施の形態に係る電動操舵機1の斜視模式図である。
図5】本発明の一実施の形態に係る電動操舵機1の操舵時の平面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に本発明の実施形態による電動操舵機1について説明する。図1は、同実施の形態による電動操舵機1を装備した船舶の船尾側面図(船内は船体11を透視して示す電動操舵機1の側面を示す断面図)、図2は、同電動操舵機1の舵軸12側のスプロケット群5の周辺機構を含む図1の詳細部分側面図、図3は、同電動操舵機1の減速機側のスプロケット群4の周辺機構を含む図1の詳細部分側面図、図4は、同電動操舵機1の斜視模式図、図5は、同電動操舵機1の操舵時の平面模式図である。
【0034】
本発明に係る電動操舵機1の主機構である、電動モーター動力機構2、ウォーム減速機構3、舵軸12、二種のスプロケット群4,5、ウォームホイールの駆動軸8及びローラーチェーン機構6の関係を描いた図1に加え、 図2は、舵軸12側のスプロケット群5の舵軸12との連結部を含む図1の詳細側面図である。舵軸12は、(図示しない)軸受に回転自在に支持され、スラスト方向にも船体11に垂下支持されており、(図示しない)スリーブを含んでもよい。図3は、減速機側のスプロケット群4の周辺機構を含む図1の詳細側面図である。 図4は、本発明の一実施の形態に係る電動操舵機1の斜視模式図であり、舵軸12側のスプロケット群5、ローラーチェーン機構6、ウォーム減速機構3及び電動モーター動力機構2、モーター架台16を示す。以下に詳述する。
【0035】
図1〜4に示す本発明に係る電動操舵機1の実施形態では、スクリュー軸7に結合されたプロペラ20と舵板30を用いるスクリュープロペラ推進舵方式による電動操舵機1は、以下の:ほぼ水平に架台16上で支持された電動モーター動力機構2と;前記電動モーター動力機構2の(図示しない)回転軸と連結するウォーム14、当該ウォーム14と噛合して当該回転軸に直交し回転自在に鉛直支持されるウォームホイール15から成るウォーム減速機構3と;前記スクリュープロペラのプロペラ20近傍で船体11に回転自在に垂下支持され、其の下部で舵板30を連結垂下している舵軸12と;前記舵軸12の上部で同芯に連結されている複数の、より具体的には3つのスプロケット5a,5b,5cから成る舵軸12側のスプロケット群5と;ウォームホイール15の駆動軸8に同芯に連結され、前記舵軸12側のスプロケット群5の構成スプロケットと対になるスプロケット4a,4b,4cから成る減速機側のスプロケット群4と;そして、前記舵軸12側のスプロケット群5、減速機側のスプロケット群4、及び当該対になるスプロケット4aと5a、4bと5b及び4cと5c間に巻き掛けられている複数の、より具体的には3つの無端のローラーチェーン6a,6b及び6cから成るローラーチェーン動力伝達機構6を、含む電動操舵機1である。ここで、ローラーチェーンは3列で構成されているが、何列でもよく、一列でも必要とする伝達力を満足すればよい。
【0036】
図5に開示される本発明の一実施の形態に係る電動操舵機1の操舵時の平面模式図も以下参照すると、モーター17は、船体11に受け具18によって支持されほぼ水平の架台16上に固定されている。モーター17が(図示しない)運転制御装置から面舵の舵角を与えられ、(図示しない)モーターの制御機構によって、駆動されると、モーター17に連結された回転軸が回転し、これに連結されているウォーム14が回転し、ウォーム14に噛合している船体に回転自在に支持されているウォームホイール15が鉛直に回転すると、ウォームホイール15の駆動軸8を回転させる。駆動軸8に連結されているスプロケット群4のスプロケット4a,4b,4cが回転し、スプロケットに巻き付けられているローラーチェーン6a,6b及び6cが駆動され、ローラーチェーン6a,6b及び6cに巻き付けられている舵軸12側のスプロケット群5の5a,5b,5cが回転し舵軸12を回転し、図5に示されているように、面舵を取ることができる。スプロケット群4のスプロケット4a,4b,4c、は一体品であってもよく、スプロケット群5の5a,5b,5cも一体品であってもよい。
【0037】
モーター17は、船体11に受け具18によって支持されほぼ水平の架台16上に固定されている。架台16は (図示しない)長孔を有し船体11とは、アンカーボルト19によって締結固定されている。スプロケット群4の回転自在の軸受支持機構は架台16に固定され、ローラーチェーン6a,6b及び6cの張りは据付時に架台16に設けられた(図示しない)長孔の遊びによって図4の矢印Z方向、船軸方向に調整可能とされており、製造時の機器の配置位置関係の想定外のずれを吸収可能としている。精密な調整の必要なウォーム14とウォームホイール15の位置調整の仕組みとして架台16を含む予めのギア機構のコンポーネント化は、製造費用の低減を実現する。保守の場面でもここに示すコンポーネント化された機構は、経年使用によるローラーチェーンの張り6a,6b及び6cを含むローラーチェーン動力伝達機構6、舵軸側スプロケット群5と駆動軸側スプロケット群4及びウォームギア駆動機構3間の位置関係の調整を架台16に設ける(図示しない)長孔の遊びによって調整可能とし、保全の迅速化もはかれ、維持費用の低減も実現する。このようなコンポーネント化によって機器配置時の遊びを吸収する仕組みを取り込み、製造時のアライメント調整、荒天時の船体変形、気圧変化、環境温度変化、経年等による船体変形、ローラーチェーンの経年の緩みを吸収する作用も提供し、ローラーチェーン動力伝達機構6、ウォームギア減速機構3、電動モーター動力機構2のコンポーネントを含む電動操舵機1は、この面でも製造コストの低減に貢献しつつ、合わせて保守維持費用のランニングコストの低減にも貢献するのである。
【0038】
油圧シリンダー機構と異なり、往復動から回転動への変換はないから、駆動力伝達系には何ら制約は存せず、無端ローラーが原理的には限りなく回転を伝達することができるが、プロペラ20と干渉するという制約から、(図示しない)運転制御装置及びモーター制御機構により限界角が与えられ、本実施形態では70°以上まで面舵を取ることが可能である。この場合に、回転速度が高い電動モーター17の回転軸は、ウォーム14とウォームホイール15から成るウォームギア機構3によって高い減速比で減速され、さらに、径のより小さなスプロケット4a,4b,4cと径のより大きなスプロケット5a,5b,5cとの歯数比でも減速されるので、十分に減速され、他に多段の減速機構を介在させる必要もない。
【0039】
このように広い舵角範囲で、電動モーター17の回転動力をウォームギア機構2で高い減速比に均一に減速し、ほぼ等しく連結されるスプロケット4a,4b,4cを回転させ、これに巻き付けられているローラーチェーン6a,6b及び6cもそのピッチとスプロケット歯数に合わせ、対する大径の舵軸側スプロケット5a,5b,5cを等しく回転させ、動力伝達に滑らかである操舵力を提供するから、操舵機構の周辺装置構成の簡易化も舵駆動速度制御、操船オペレーションの容易化も実現可能としている。
【0040】
取舵を取る場合には、電動モーター17が(図示しない)運転制御装置から取舵の舵角を与えられ、(図示しない)電動モーター制御機構によって、駆動されると、電動モーター17に連結された回転軸が逆回転し、これに連結されているウォーム14が反転する。この場合、ウォーム14とウォームホイール15にはバックラッシュなしに設計されるので、滑らかにウォームホイール15は駆動軸8を反転させる。先の伝達経路をたどり、同様に、駆動軸8に連結されているスプロケット群4のスプロケット4a,4b,4cが反転し、スプロケットに巻き付けられているローラーチェーン6a,6b及び6cが反対向きに駆動され、ローラーチェーン6a,6b及び6cに巻き付けられている舵軸12側のスプロケット群5の5a,5b,5cが反転し舵軸12を反転させ、図5に示されているように、図で下向きに取舵を取ることができる。
【0041】
油圧シリンダー機構と異なり、往復動から回転動への変換はないから、駆動力伝達系には何ら制約は存せず、無端ローラーが原理的には限りなく回転を滑らかに伝達することができ、油圧シリンダーと舵柄構成のように幾何配置から発生する、駆動力の舵角によるムラは生じない。プロペラ20と干渉するという制約から、運転制御装置及びモーター制御機構により限界角が与えられ、本実施形態では−70°以上かつ干渉を考慮した限界角まで面舵を取ることが可能である。すなわち、本実施形態の電動操舵機1は、±70°以上の舵角を取ることも可能な電動操舵機である。
【0042】
舵中立位置では、特段の舵制御は不要であるから電動モーターの駆動は必要ない。油圧シリンダー機構では常に油圧ポンプにより、油圧が維持されている必要があるから、舵中立位置でも油圧ポンプの稼働によって燃料を無駄に消費しているが、この要はない。一方、電動モーターも電源は必要であるが、他の用途に常に発電及び蓄電されているので、少なくとも舵中立位置での無駄な発電・通電は必要なく、省エネルギーに通ずるのである。一般に、油圧装置を介していることで30%のエネルギー消費がされていると解されており、油圧の維持のみのポンプの稼働でこれに相当する30%は確実に無駄が発生しているといえる。本実施形態では、航海中長時間を占めている舵中立時に特段の舵制御は不要であるから、この間に電動モーターの駆動はなく、無駄がない。
【0043】
油圧シリンダーの作動油も循環しないから、油漏れもなく、油汚染を激減する効果もある。
【0044】
本実施形態では、ローラーチェーンとスプロケットによる動力伝達機構を備えているが、この部分は、タイミングベルトとタイミングプーリー(図示しない)を用いてよく、この場合には、タイミングベルトのゴム弾性の高分子素材の採用により、振動の減衰の効果が得られて好適である。
【0045】
ローラーチェーン動力伝達機構にしても、タイミングベルト動力伝達機構にしても、これら構成品は、汎用品として調達が可能であり、個別設計の必要もなく、大型の油シリンダーの個別設計品の場合に比して、電動操舵機に安価に構成され、生産できるという利点を享受できる。
【0046】
以上、本発明に係る実施の形態を説明したが、本発明は係る実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。ここの取り上げた発明の効果はすべてが同時に一つの実施形態に現れるものと限定されず、その一部が一つでも発現して発明製品の目的を達成すれば十分であり、当業者であれば、容易に判断できることであろう。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、水上船舶、内航船でも大型船舶でも船舶の操舵機に適用可能なものである。大きな舵角も提供可能であるから、この他に、優れた急停止能力を必要とする、巡視艇等の特殊艦艇への適用も有望である。
【符号の説明】
【0048】
1 電動操舵機
2 電動モーター動力機構
3 ウォームギア駆動機構
4 駆動軸側スプロケット群
4a スプロケット
4b スプロケット
4c スプロケット
5 舵軸側スプロケット群
5a スプロケット
5b スプロケット
5c スプロケット
6 ローラーチェーン動力伝達機構
6a ローラーチェーン
6b ローラーチェーン
6c ローラーチェーン
7 スクリュー軸
8 減速機駆動軸
11 船体
12 舵軸
14 ウォーム
15 ウォームホイール
16 架台
17 電動モーター
18 受け具
19 アンカーボルト
20 プロペラ
30 舵板
図1
図2
図3
図4
図5