(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
(本開示の基礎となった知見)
吸着脱硫法では、Ag、Cu、Mnなどの遷移金属を含むゼオライトによって硫黄化合物が常温で吸着及び除去される。しかし、燃料ガスに含まれた水分によって吸着能力が阻害される。燃料ガスの露点の影響を受けにくく、吸着困難なジメチルスルフィド(DMS)を効果的に除去できる材料として、Agゼオライトが使用されている(例えば、非特許文献1参照)。しかし、Agは高価である。
【0012】
水添脱硫法では、脱硫剤の温度を200〜350℃に保持しつつ、改質ガスの一部を改質器から脱硫器にリサイクルしなければならない。これらの制約は、システムの構成を複雑にする。
【0013】
こうした課題を解決するために、Crイオンとベンゼン−1,4−ジカルボン酸とからなる金属有機構造体(MOF:Metal Organic Framework、MIL−101)を用いた脱硫剤が報告されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、特許文献2に記載された方法では、燃料ガスを大気圧よりも遥かに高い圧力(1.4MPa)まで加圧する必要がある。一方、特許文献3には、Ag系触媒を担持した金属有機構造体が記載されている。この金属有機構造体は、Agゼオライトと比較して、高い硫化水素除去能を示すことが報告されているが、Ag系触媒を用いているのでコスト面で課題が残る。
【0014】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、特定の構造を有するMOFを脱硫剤として使用することによって、流体(燃料)に含まれた硫黄化合物を長期間にわたって安定して除去できることを見い出した。
【0015】
すなわち、本開示の第1態様に係る方法は、
スルフィド系化合物を含む流体から前記スルフィド系化合物を除去する方法であって、銅イオンと有機配位子とを持つ金属有機構造体に前記流体を接触させることを含むものである。
【0016】
第1態様によれば、流体に含まれたスルフィド系化合物を簡単かつ効果的に除去することができる。従来の脱硫剤と比較して、長期にわたって十分な量のスルフィド系化合物が金属有機構造体に吸着されうる。
【0017】
本開示の第2態様において、例えば、第1態様にかかる方法の前記スルフィドがジメチルスルフィドである。メチルメルカプタンなどのメルカプタン類(R−SH、Rは飽和又は不飽和炭化水素基)、及び、ジメチルスルフィドなどのスルフィド類(R−S−R’、R及びR’は同一又は互いに異なる飽和又は不飽和炭化水素基)は、付臭剤として都市ガス、LPガスなどの燃料ガスに含まれている成分であり、これを燃料ガスから除去することによって、燃料ガスを様々な用途(例えば、水素の製造)に使用することが可能になる。本開示の技術は、スルフィド系化合物、特に、ジメチルスルフィドの除去に効果を発揮する。
【0018】
本開示の第3態様において、例えば、第1又は第2態様にかかる方法の前記流体が炭化水素燃料をさらに含む。炭化水素燃料から硫黄化合物を除去することによって、炭化水素燃料を様々な用途に利用することが可能になる。
【0019】
本開示の第4態様において、例えば、第1〜第3態様のいずれか1つにかかる方法の前記金属有機構造体は、配位不飽和なオープンメタルサイトを有する。オープンメタルサイトに被吸着分子(硫黄化合物)が容易に吸着されうる。配位不飽和なオープンメタルサイトは、より高い活性を示す。
【0020】
本開示の第5態様において、例えば、第1〜第4態様のいずれか1つにかかる方法の前記有機配位子は、カルボキシレート基及びベンゼン環を有する。このような有機配位子は、金属イオンに配位して金属有機構造体を形成しうる。
【0021】
本開示の第6態様において、例えば、第1〜第5態様のいずれか1つにかかる方法の前記金属有機構造体の温度が100℃以下に保たれている。脱硫剤の温度を100℃以下に保つことにより、脱硫剤からの被吸着分子の脱離を抑制することができる。また、有機配位子の酸化分解に伴う脱硫剤の構造破壊を防ぐこともできる。
【0022】
本開示の第7態様において、例えば、第1〜第6態様のいずれか1つにかかる方法の前記流体が炭化水素燃料を含む燃料ガスであり、前記燃料ガスは、所定の燃料ガス供給源から前記金属有機構造体を収容した脱硫器までの経路上において加圧されていない。第7態様によれば、簡素な構造の脱硫器を使用できる。加圧に必要なエネルギーも節約できる。
【0023】
本開示の第8態様において、例えば、第1〜第7態様のいずれか1つにかかる方法は、前記金属有機構造体を100℃よりも高い温度に加熱し、前記金属有機構造体に吸着した前記スルフィド系化合物を前記金属有機構造体から脱離させて前記金属有機構造体を再生させることをさらに含む。第8態様によれば、金属有機構造体の吸着能力が回復するので、実質的に吸着容量が増加する。
【0024】
本開示の第9態様は、
ジメチルスルフィドを付臭剤として含む燃料の供給源と、
前記供給源に接続された脱硫器と、
前記脱硫器に接続されており、前記脱硫器で処理された前記燃料から水素を生成する改質器と、
を備え、
前記脱硫器は、入口及び出口を有する容器と、前記容器に充填された脱硫剤とを有し、
前記脱硫剤は、銅イオンと有機配位子とを持つ金属有機構造体を含む、水素生成装置を提供する。
【0025】
第9態様によれば、第1態様と同じ利益が得られる。
【0026】
本開示の第10態様において、例えば、第9態様にかかる水素生成装置のための前記燃料が炭化水素ガスをさらに含み、前記改質器は、水蒸気改質によって前記炭化水素ガスから水素を発生させるデバイスである。燃料から硫黄化合物を除去することによって、改質器の水蒸気改質触媒が硫黄化合物によって被毒されることを抑制できる。
【0027】
本開示の第11態様において、例えば、第9又は第10態様にかかる水素生成装置は、前記脱硫器の前記容器から分岐している、又は、前記脱硫器の前記容器の前記出口に接続された流路から分岐している硫黄含有ガス排出流路をさらに備えている。脱硫剤から硫黄化合物を脱離させ、硫黄含有ガス排出流路を経由して、硫黄化合物を水素生成装置の外部に排出することができる。
【0028】
本開示の第12態様は、
上記本開示の水素生成装置と、
前記水素生成装置で生成された水素を用いて電力を発生させる燃料電池と、
を備えた、燃料電池システムを提供する。
【0029】
第12態様によれば、第9態様と同じ利益が得られる。
【0030】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。本開示は、以下の実施形態に限定されない。
【0031】
図1は、本実施形態にかかる燃料電池システムの構成図である。燃料電池システム100は、燃料電池12及び水素生成装置13を備えている。水素生成装置13は、供給源14、脱硫器16及び改質器18を有する。供給源14は、硫黄化合物(硫化水素を除く)を付臭剤として含む燃料を供給する役割を果たす。供給源14の具体例としては、燃料の貯蔵タンク、都市ガスのインフラストラクチャなどが挙げられる。脱硫器16は、燃料に含まれた硫黄化合物を燃料から除去するためのデバイスである。脱硫器16は、配管などの流路によって、供給源14に接続されている。供給源14から脱硫器16に燃料が供給される。改質器18は、公知の水蒸気改質反応(CH
4+H
2O→CO+3H
2)によって水素を生成するためのデバイスである。改質器18には、水蒸気改質反応を進行させるための水蒸気改質触媒が収められている。脱硫器16で処理された燃料が改質器18に供給されるように、配管などの流路によって、改質器18が脱硫器16に接続されている。水素生成装置13で生成された水素が燃料電池12に供給されるように、配管などの流路によって、燃料電池12が水素生成装置13に接続されている。燃料電池12と水素生成装置13との間には、CO変成器及びCO除去器のような一酸化炭素を除去するためのデバイスが設けられていてもよい。
【0032】
脱硫器16に供給されるべき燃料は、典型的には、炭化水素燃料である。炭化水素燃料から硫黄化合物を除去することによって、炭化水素燃料を様々な用途に利用することが可能になる。燃料は、通常は気体であり、液体であってもよい。燃料としては、都市ガス、天然ガス、エタン、プロパン、LPガス(液化石油ガス)などが挙げられる。都市ガス、LPガスなどの市販の燃料ガスには、ガス漏れ対策のため、微量の付臭剤が意図的に混ぜられている。ガスの供給会社によって異なるが、付臭剤の成分は、典型的には、TBM、DMS、THTなどの硫黄化合物である。燃料ガスにおける付臭剤の濃度は常温(5〜35℃)で数ppm(parts per million)である。燃料ガスから付臭剤を除去することによって、改質器18における水蒸気改質触媒の被毒を抑制することができる。
【0033】
図2に示すように、脱硫器16は、入口20a及び出口20bを有する容器20を備えている。容器20には脱硫剤22が充填されている。脱硫剤22は、例えば、粉末状である。本実施形態において、脱硫剤22は、銅イオン(copper ions)と有機配位子(organic ligands)とを持つ金属有機構造体(MOF)を含む。脱硫剤22は、金属有機構造体のみからなっていてもよいし、活性炭などの他の成分を含んでいてもよい。また、金属有機構造体は、セラミック、ガラス、炭素、金属などの材料で作られた支持体に担持されていてもよい。脱硫剤22としての金属有機構造体は、粉末状でありうる。複数の種類の有機配位子によって金属有機構造体が形成されていてもよい。また、銅イオン以外の金属イオン(Niイオン、Feイオン、Coイオンなど)が金属有機構造体に含まれる可能性もある。金属有機構造体の粉末は、例えば、500m
2/g以上の比表面積(BET比表面積)を有していることが望ましい。金属有機構造体の粉末の比表面積の上限は特に限定されず、例えば、7000m
2/gである。金属有機構造体の粒子(一次粒子)の平均粒径も特に限定されず、例えば、数μm〜数十μmの範囲にある。平均粒径は、例えば、以下の方法によって算出することができる。まず、電子顕微鏡(SEM又はTEM)によって金属有機構造体の粉末を観察する。得られたSEM像又はTEM像において、任意の個数(例えば50個)の金属有機構造体の粒子の平均面積を画像処理技術を用いて算出する。算出された平均面積に等しい面積を有する円の直径を金属有機構造体の粒子の平均粒径とみなすことができる。
【0034】
金属有機構造体は、均一な骨格構造に基づく高い比表面積を有する。金属有機構造体は、多孔性配位高分子(PCP)とも呼ばれる。有機部位(有機配位子)及び無機部位(金属イオン)を適切に選択及び組み合わせて金属有機構造体を構築すれば、細孔径、細孔構造、表面機能などの物理的又は化学的特性の精密制御が可能である。ゼオライトなどの従来の脱硫剤と比較して、金属有機構造体の設計の自由度は非常に高い。
【0035】
先に説明したように、Crイオンとベンゼン−1,4−ジカルボン酸とからなる金属有機構造体(MIL−101)を用いた脱硫剤は報告されている。しかし、処理されるべき燃料ガスを大気圧よりも遥かに高い圧力(1.4MPa)まで加圧することが必要となる。しかも、硫黄化合物を吸着及び除去する効果も低い。
【0036】
本発明者らの知見によれば、脱硫剤としての金属有機構造体の脱硫能力は、金属イオンの種類によって左右される。本実施形態において使用された金属有機構造体は、金属イオンとして銅イオンを持っている。銅イオンと有機配位子とを持つ金属有機構造体によれば、水素を脱硫器に供給することなく、しかも常圧で脱硫を行なえる。また、銅は、銀などの他の貴金属に比べて安価なため、材料コストの抑制に有利である。本実施形態において、金属有機構造体は、金属イオンとして、銅イオンのみを含んでいてもよい。
【0037】
金属有機構造体を構成する有機配位子は、1又は複数のカルボキシレート基及び1又は複数のベンゼン環を有していることが望ましい。有機配位子の例としては、ベンゼン−1,3,5−トリカルボン酸、2−ヒドロキシ−1,4−ベンゼンジカルボン酸、ビフェニル−3,4’,5−トリカルボン酸、ビフェニル−3,3’,5,5’−テトラカルボン酸、テルフェニル−3、3’’,5,5’’−テトラカルボン酸、1,3,5−トリス(4−カルボキシフェニル)ベンゼンなどが挙げられる。これらの有機配位子は、金属イオンに配位して金属有機構造体を形成しうる。
【0038】
また、金属有機構造体は、オープンメタルサイトを有することが望ましい。オープンメタルサイトに被吸着分子(硫黄化合物)が容易に吸着されうる。オープンメタルサイトの1つの態様は、
図3に示すように、金属イオンが配位不飽和であり、かつ、その金属イオンへの配位状態に少なくとも1つの空きサイトがある場合である。この場合、被吸着分子が空きサイトへ相互作用可能である。オープンメタルサイトの他の態様は、金属イオンが配位飽和であっても、配位子間のねじれ、ゆがみなどによって、吸着活性が示される場合である。金属有機構造体は、特に、配位不飽和なオープンメタルサイトを有することが望ましい。配位不飽和なオープンメタルサイトは、より高い活性を示す。また、本実施形態では、金属有機構造体に硫黄化合物を吸着させる必要があるので、金属有機構造体の表面の細孔が他の脱硫剤などの他の材料によって遮蔽されていたり被覆されていたりしないことが望ましい。金属有機構造体の細孔が他の材料によって遮蔽されていると、TBMなどの比較的嵩高い硫黄化合物の吸着が阻害され、脱硫性能の低下が懸念される。
【0039】
金属有機構造体の多くは、公知のソルボサーマル法(水熱合成法)によって合成されうる。例えば、ジメチルホルムアミド、エタノール、水などの溶媒に銅イオン源及び有機配位子を加え、塩基条件下にて緩やかに加熱すれば、金属有機構造体の結晶が晶出する。銅イオン源としては、硝酸銅水和物が挙げられる。合成後は残存した原料を生成物から取り除く必要があるため、主に合成時の溶媒を用いて生成物を洗浄する。固液分離及び乾燥を経て、粉末状の金属有機構造体が得られる。
【0040】
図1及び2に示すように、本実施形態の方法においては、まず、脱硫器16の容器20の中に脱硫剤22を配置する。そして、燃料ガスの供給源と脱硫器16とを配管で接続する。次に、脱硫器16に燃料ガスGを供給する。燃料ガスGを積極的に加熱したり冷却したりする必要は無い。燃料ガスGの温度は、周囲の温度と概ね同じ温度であり、例えば、−15〜60℃の範囲にある。脱硫剤22を積極的に加熱する必要も無い。脱硫剤22は、望ましくは、100℃以下の温度で使用される。燃料電池システム100の運転時における脱硫剤22の温度は、周囲の温度と概ね同じ温度であり、例えば、45〜60℃の範囲にある。脱硫剤22の温度を100℃以下に保つことにより、脱硫剤22からの被吸着分子の脱離を抑制することができる。また、有機配位子の酸化分解に伴う脱硫剤22の構造破壊を防ぐこともできる。場合によっては、脱硫剤22の温度を100℃以下に保つために、脱硫剤22が配置された容器20を積極的に冷却してもよい。
【0041】
本実施形態の方法において、脱硫器16の入口における燃料ガスの圧力は燃料ガスの供給源における燃料ガスの圧力よりも低い。燃料ガスは燃料ガスの供給源から加圧されることなく脱硫器16に供給されている。脱硫器16の入口における燃料ガスの圧力は、例えば、2〜5kPaの範囲にある。つまり、本実施形態では、常圧で脱硫が行われる。したがって、本実施形態によれば、簡素な構造の脱硫器16を使用できる。燃料電池システム100の構成も簡素化されうる。加圧に必要なエネルギーも節約できる。
【0042】
また、本実施形態によれば、脱硫器16に水素を供給する必要が無い。燃料ガスには、不可避的に混入する水素ガスを除き、実質的に水素ガスが含まれていない。したがって、本実施形態の燃料電池システム100の構成は、従来の水添脱硫法を採用した燃料電池システムよりも簡素である。
【0043】
図9Aは、変形例に係る水素生成装置を示している。水素生成装置23は、
図1を参照して説明した水素生成装置13の構成に加え、硫黄含有ガス排出流路26をさらに備えている。硫黄含有ガス排出流路26は、脱硫器16の出口(
図2に示す容器20の出口20b)に接続された流路17から分岐している。流路17は、脱硫器16の出口と改質器18の入口とを接続している流路である。脱硫剤から硫黄化合物を脱離させ、硫黄含有ガス排出流路26を経由して、硫黄化合物を水素生成装置23の外部に排出することができる。
【0044】
詳細には、水素生成装置23は、キャリアガス供給源21、ヒータ19、流路27、三方弁24a及び三方弁24bをさらに備えている。三方弁24aは、流路15に配置されている。流路15は、供給源14と脱硫器16の入口(
図2に示す容器20の入口20a)とを接続している流路である。三方弁24bは、流路17に配置されている。流路17は、脱硫器16の出口(
図2に示す容器20の出口20b)と改質器18の入口とを接続している流路である。流路27は、キャリアガス供給源21と流路15とを接続している流路である。本変形例では、流路27の一端がキャリアガス供給源21に接続され、流路27の他端が三方弁24aに接続されている。流路27は、脱硫器16に直接接続されていてもよい。硫黄含有ガス排出流路26は、流路17から分岐している。本変形例では、硫黄含有ガス排出流路26は、三方弁24bに接続されている。ヒータ19は、脱硫器16の脱硫剤を加熱するためヒータである。ヒータ19は、例えば、抵抗加熱式のヒータである。ヒータ19は、脱硫器16の容器20の内部に配置されていてもよい。キャリアガス供給源21は、脱硫剤から脱離した硫黄化合物の排出を促すためのキャリアガスを脱硫器16に供給する役割を担っている。キャリアガスは、窒素ガス、希ガスなどの不活性ガスである。各流路は、少なくとも1つの配管で構成されている。
【0045】
水素生成装置23によれば、脱硫剤(有機金属構造体)に吸着された硫黄化合物を脱硫剤から脱離させ、脱硫剤を再生させることができる。具体的には、まず、脱硫器16への燃料の供給が停止し、キャリアガス供給源21から脱硫器16にキャリアガスが導かれるように三方弁24aを操作する。脱硫器16から排出されたガスが硫黄含有ガス排出流路26に導かれるように三方弁24bを操作する。次に、ヒータ19をオンにして脱硫器16を加熱する。加熱温度は、脱硫器16の内部の温度(脱硫剤の温度)で例えば100℃よりも高く、典型的には150℃である。加熱温度の上限は、脱硫剤が分解されない限り特に限定されず、例えば200℃である。脱硫器16を加熱すると、脱硫剤から硫黄化合物が脱離する。加熱と同時に不活性ガスをキャリアガス供給源21から脱硫器16に供給し、脱硫剤から脱離した硫黄化合物を硫黄含有ガス排出流路26から水素生成装置23の外部に排出させる。これにより、脱硫剤が再生されて脱硫剤の吸着能力が回復するので、実質的に吸着容量が増加する。
【0046】
図9Bは、別の変形例に係る水素生成装置を示している。水素生成装置33において、硫黄含有ガス排出流路26は、脱硫器16(
図2に示す容器20)から分岐している。水素生成装置33は、
図9Aに示す三方弁24bに代えて、開閉弁25a及び25bを備えている。開閉弁25aは、流路17に配置されている。流路25bは、硫黄含有ガス排出流路26に配置されている。つまり、三方弁は、複数の開閉弁で置換可能である。本変形例の水素生成装置33においても、先に説明した方法にしたがって、脱硫剤の再生を行うことができる。
【実施例】
【0047】
[脱硫試験]
(試験1)
内径7mmの反応管を有する固定床流通式反応装置に1.1gの脱硫剤を充填した。脱硫剤として、銅イオンとベンゼン−1,3,5−トリカルボン酸とからなるHKUST−1(BASF社製)を使用した。メチルメルカプタン(MM)を100volppmの濃度で含むLPG(液化石油ガス)を100cm/minの線速度で反応管に流通させた。試験中、脱硫剤の温度は30℃に保持した。酸化分解・紫外蛍光法方式の微量硫黄分析装置を使用し、反応管から排出されたガス中の硫黄濃度を調べた。また、化学発光硫黄検出器(Sulfur Chemiluminescence Detector)を搭載したガスクロマトグラフ(GC−SCD)を使用し、反応管から排出されたガスを分析することによって硫黄化合物を同定した。試験開始時点から、排出されたガス中の硫黄の濃度が100volppbに達した時点までの経過時間を「破過時間」として計測した。破過時間に到達後、脱硫剤の重量を測定し、硫黄化合物の吸着容量を算出した。結果を表1に示す。
【0048】
(試験2)
CuZnO系脱硫剤(クラリアント社製)を使用し、試験1と同じ方法によって破過時間を計測し、吸着容量を算出した。脱硫剤の温度は30℃に保持した。
【0049】
【表1】
【0050】
[X線回折測定]
脱硫試験前のHKUST−1及び脱硫試験後のHKUST−1の粉末X線回折測定を実施した。結果を
図4A及び
図4Bに示す。
【0051】
[熱重量・示差熱(TG−DTA)測定]
空気雰囲気下、昇温速度10℃/minの条件にて、脱硫試験前のHKUST−1の示TG−DTA測定を実施した。結果を
図5に示す。
【0052】
脱硫試験前のHKUST−1及び脱硫試験後のHKUST−1のUV−Vis拡散反射スペクトルを測定した。結果を
図6A及び
図6Bに示す。
【0053】
[XPS測定]
脱硫試験前のHKUST−1及び脱硫試験後のHKUST−1のXPS測定(X-ray photoelectron spectroscopy)を実施した。結果を
図7A及び
図7Bに示す。
図7Aは、Cu2pに帰属されるピーク付近のXPSスペクトルを示している。
図7Bは、S2pに帰属されるピーク付近のXPSスペクトルを示している。
【0054】
[考察]
表1に示すように、脱硫剤HKUST−1は、CuZnO系脱硫剤(クラリアント社製)を大幅に上回る性能を示した。詳細には、脱硫剤HKUST−1の破過時間は、CuZnO系脱硫剤の破過時間の約6.5倍であった。脱硫剤HKUST−1の吸着容量(脱硫剤の重量に対する吸着容量)は、CuZnO系脱硫剤の吸着容量の約6.6倍であった。つまり、脱硫剤HKUST−1は、より長期にわたって優れた吸着能力を発揮しうる。
【0055】
また、破過時間を経過すると、ガスクロマトグラフにおいてジメチルジスルフィド(DMDS)のみが検出された。このことは、メチルメルカプタン分子の二量化反応が進行したことを示唆している。メチルメルカプタン分子が活性炭上に吸着された酸素によって酸化され、DMDSが生成されることが報告されている(非特許文献3)。したがって、本脱硫試験においても、Cuの各オープンメタルサイトにメチルメルカプタンが化学吸着した後、銅と結合する骨格酸素により二量化反応が進行し、DMDSが生成したと考えられる。また、脱硫剤HKUST−1の色は、脱硫試験を経て青色から緑色に変色し、長時間安定していた。このことも上記の二量化反応が起こっていることを示唆している。
【0056】
図4A及び
図4Bに示すように、脱硫試験の前後でX線回折パターンは大きな変化を示さなかった。また、硫化銅に由来する回折ピークを確認できなかった。このことは、メチルメルカプタンが脱硫剤HKUST−1の構造中の銅イオンと反応して、原子レベルでトラップされていることを示唆している。しかし、脱硫試験後のX線回折パターンの強度はいずれも低下していた。このことは、脱硫剤HKUST−1の構造の一部が変化していることを示唆している。
【0057】
図5に示すように、DTA曲線は、300〜350℃の間に吸熱ピークを持っていた。この吸熱ピークは、有機配位子の酸化分解に伴うピークである。この結果も、また、高温での脱硫剤HKUST−1の使用を避けるべきであることを示唆している。
【0058】
図6A及び
図6Bに示すように、脱硫試験を通じて、UV−Vis拡散反射スペクトルにおける吸収端のシフトが起きていた。具体的には、酸素から銅への電子遷移に由来するLMCT(ligand to metal charge transfer)由来の吸収端が450nmから520nmへとレッドシフトしていた。また、銅(II)の正八面体構造に由来するd−d遷移の極大吸収波長も690nmから710nmへとレッドシフトしていた。非特許文献2によると、これらのシフトは、カルボキシレート基への水和による影響とされている。すなわち、メチルメルカプタンの吸着に伴い、金属有機構造体の構造の一部が変化したと考えられる。
【0059】
図7Aに示すように、脱硫試験前において、Cuの2p電子に帰属されるピークは、脱硫剤の構造(CuO)に由来する935eV付近のピークのみであった。脱硫試験後において、Cuの2p電子に帰属されるピークは、935eV付近だけでなく、933eV付近にも存在していた。933eV付近のピークは、Cu
2Oに由来するピークであると考えられる。また、
図7Bに示すように、脱硫試験前において、Sの2p電子に帰属されるピークは存在しなかった。脱硫試験後において、CuSO
4に由来するピークと、C−S結合に由来するピークとが160eV〜170eVの範囲に現れた。これらの結果は、脱硫試験を経て、脱硫剤である金属有機構造体にジメチルジスルフィドが吸着したことを示唆している。
【0060】
(試験3)
内径7mmの反応管を有する固定床流通式反応装置に1.1gのHKUST−1(BASF社製、平均粒径20μm)を充填した。ジメチルスルフィド(DMS)を100volppmの濃度で含む都市ガス(13A)を100cm/minの線速度で反応管に流通させた。試験中、脱硫剤(HKUST−1)の温度は30℃に保持した。酸化分解・紫外蛍光法方式の微量硫黄分析装置を使用し、反応管から排出されたガス中の硫黄濃度を調べた。また、化学発光硫黄検出器(Sulfur Chemiluminescence Detector)を搭載したガスクロマトグラフ(GC−SCD)を使用し、反応管から排出されたガスを分析することによって硫黄化合物を同定した。試験開始時点から、排出されたガス中の硫黄の濃度が100volppbに達した時点までの経過時間を「破過時間」として計測した。破過時間に到達後、脱硫剤の重量を測定し、ジメチルスルフィドの吸着容量を算出した。結果を表2に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
脱硫剤へのジメチルスルフィドの吸着容量は13wt%であった。
図8に示すように、脱硫試験の前後でX線回折パターンの構造及び強度は大きな変化を示さなかった。つまり、脱硫剤HKUST−1の構造を破壊することなく脱硫剤HKUST−1にジメチルスルフィドが吸着していた。この結果は、メチルメルカプタン(試験1)よりもジメチルスルフィドの除去に脱硫剤HKUST−1がより高い効果を発揮することを示唆している。
【0063】
(試験4)
アルミニウムイオンとテレフタル酸とからなるMIL−53(BASF社製)を使用し、試験3と同じ方法によって破過時間を計測し、吸着容量を算出した。試験4において、吸着容量は0wt%であった。この結果は、銅イオンがスルフィド系化合物であるジメチルスルフィドの吸着に有効であることを示している。
【0064】
(試験5)
脱硫剤としてAgゼオライトを使用し、試験3と同じ方法によって破過時間を計測し、吸着容量を算出した。試験5において、吸着容量は3wt%であった。
本開示の方法は、スルフィド系化合物を含む流体からスルフィド系化合物を除去する方法であって、銅イオンと有機配位子とを持つ金属有機構造体に流体を接触させることを含む。本開示は、また、脱硫器(16)と、脱硫器(16)に接続されており、脱硫器(16)で処理された燃料から水素を生成する改質器(18)と、を備えた水素生成装置(13)を提供する。脱硫器(16)は、入口(20a)及び出口(20b)を有する容器(20)と、容器に充填された脱硫剤(22)とを有する。脱硫剤(22)は、銅イオンと有機配位子とを持つ金属有機構造体を含む。