【文献】
関根 健司, 端山 菊雄,亜鉛めっき鋼板における端面の耐食性,防錆管理,日本,日本防錆技術協会,1986年 4月 1日,第30巻第4号,101-107ページ,ISSN 0520-6340, 102ページの3.3、105ページの4.3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
めっき鋼板のレーザ切断加工方法であって、前記めっき鋼板の上面へレーザ光を照射してレーザ切断加工を行う際、レーザ光の照射によって溶融及び/又は蒸発された上面のめっき層含有金属を、レーザ加工部へ噴出されるアシストガス又は補助ガスによって、前記めっき鋼板の切断面側へ流動して、前記切断面にめっき層含有金属を被覆することを特徴とするめっき鋼板のレーザ切断加工方法。
請求項1に記載のめっき鋼板のレーザ切断加工方法において、レーザ光の焦点位置は、+0.5mm〜−4.5mmの範囲で調節することを特徴とするめっき鋼板のレーザ切断加工方法。
請求項1又は2に記載のめっき鋼板のレーザ切断加工方法において、レーザ加工ヘッドにおけるノズルとめっき鋼板の上面との間のノズルギャップを、0.3mm〜1.0mmの範囲で調節し、かつアシストガス圧を、0.5MPa〜1.2MPaの範囲で調節することを特徴とするめっき鋼板のレーザ切断加工方法。
請求項1,2又は3に記載のめっき鋼板のレーザ切断加工方法において、レーザ切断加工速度を、1000mm/min〜5000mm/minの範囲で調節することを特徴とするめっき鋼板のレーザ切断加工方法。
請求項1〜4のいずれかに記載のめっき鋼板のレーザ切断加工方法において、アシストガスを噴出するノズルの径は2.0mm〜7.0mmであることを特徴とするめっき鋼板のレーザ切断加工方法。
請求項1〜5のいずれかに記載のめっき鋼板のレーザ切断加工方法において、アシストガスは、窒素ガス又は窒素ガス96%以上、酸素ガス4%以下の混合ガスであることを特徴とするめっき鋼板のレーザ切断加工方法。
請求項1に記載のめっき鋼板のレーザ切断加工方法において、板厚は、2.3mmであり、めっき付着量はK14であり、ノズル径は2.0mm〜7.0mmであり、アシストガス圧は0.5〜0.9(MPa)であり、切断速度は3000〜5000(mm/min)であることを特徴とするめっき鋼板のレーザ切断加工方法。
請求項1に記載のめっき鋼板のレーザ切断加工方法において、板厚は、2.3mmであり、めっき付着量はK27又はK35であり、ノズル径は2.0mm〜7.0mmであり、アシストガス圧は0.5〜0.9(MPa)であり、切断速度は3000〜5000(mm/min)であることを特徴とするめっき鋼板のレーザ切断加工方法。
請求項1に記載のめっき鋼板のレーザ切断加工方法において、板厚は、3.2mmであり、めっき付着量はK27又はK35であり、ノズル径は7.0mmであり、アシストガス圧は0.5〜0.9(MPa)であり、切断速度は2000〜3000(mm/min)であることを特徴とするめっき鋼板のレーザ切断加工方法。
請求項1に記載のめっき鋼板のレーザ切断加工方法において、板厚は、4.5mmであり、めっき付着量はK27又はK35であり、ノズル径は7.0mmであり、アシストガス圧は0.7〜0.9(MPa)であり、切断速度は1500〜2000(mm/min)であることを特徴とするめっき鋼板のレーザ切断加工方法。
めっき鋼板のレーザ切断加工品であって、めっき鋼板における切断面に、レーザ切断加工時に溶融及び/又は蒸発された上面のめっき層含有金属が被覆してあることを特徴とするレーザ切断加工品。
請求項11に記載のレーザ切断加工品において、前記切断面の上縁付近のめっき層の厚さは、前記切断面から離隔した位置におけるめっき層の厚さよりも薄いことを特徴とするレーザ切断加工品。
請求項11又は12に記載のレーザ切断加工品において、めっき層の溶融及び/又は蒸発範囲は、切断面から0.27mm〜0.5mmの範囲であることを特徴とするレーザ切断加工品。
鋼板表面にめっき金属が被覆され、かつ切断面にめっき層の含有金属を有する熱切断加工製品の加工方法であって、めっき層の含有金属が溶融して切断面に回り込み、溶融した前記金属が凝固したことによって切断面が前記めっき層の含有金属で覆われていることを特徴とする熱切断加工方法。
鋼板表面にめっき金属が被覆され、かつ切断面にめっき層含有金属を有する熱切断加工製品の加工方法であって、切断面に回り込んだめっき層の含有金属が切断面を被覆する面積が切断面面積の10%以上であること、または、切断面に回り込んだめっき層の含有金属の最大流入距離が板厚の30%以上であることを特徴とする請求項1に記載の熱切断加工方法。
鋼板表面にめっき金属が被覆され、かつ切断面にめっき層含有金属を有する熱切断加工製品の加工方法であって、切断面から垂直方向に沿ってめっき層が溶融した幅が0.03mm〜0.5mmである請求項14,15のいずれか1項に記載の熱切断加工方法。
めっきの組成が、さらに、質量%で、Mg:0.1〜10.0%、Ti:0.10%以下、B:0.05%以下、Si:2%以下の群から選ばれる1種以上を含有するものである亜鉛系めっき鋼板を素材として熱切断した請求項17に記載の熱切断加工方法。
鋼板表面にめっき金属が被覆されている表面処理鋼板を素材とし、めっき層の含有金属が溶融して切断面に回り込み、溶融した前記金属が凝固したことによって切断面がめっき層の含有金属で覆われていることを特徴とする熱切断加工製品。
鋼板表面にめっき金属が被覆されている表面処理鋼板を素材とし、切断面に回り込んだめっき層の含有金属が切断面を被覆する面積が切断面面積の10%以上であること、または、切断面に回り込んだめっき層の含有金属の最大流入距離が板厚の30%以上であることを特徴とする請求項21に記載の熱切断加工製品。
鋼板表面にめっき金属が被覆されているめっき層を有する表面処理鋼板を素材として、切断面から垂直方向に沿ってめっき層が溶融した幅が0.03mm〜0.5mmである請求項21,22のいずれか1項に記載の熱切断加工製品。
めっきの組成が、さらに、質量%で、Mg:0.1〜10.0%、Ti:0.10%以下、B:0.05%以下、Si:2%以下の群から選ばれる1種以上を含有するものである亜鉛系めっき鋼板を素材とした請求項24に記載の熱切断加工製品。
鋼板表面にめっき金属が被覆されている表面処理鋼板であって、鋼板表面の前記めっき層の含有金属が切断面を被覆する面積は、切断面面積の10%以上であること、または、鋼板表面の前記めっき層の含有金属は表面処理鋼板の表面又は裏面から板厚の30%以上でもって切断面に被覆してあり、
切断面から垂直方向に沿ってめっき層の薄い部分の幅が0.27mm〜0.5mmであることを特徴とする請求項28に記載の表面処理鋼板。
鋼板表面にめっき金属層で被覆された表面処理鋼板のレーザ切断方法であって、酸素ガス若しくは窒素ガス又はこれらの混合ガスを含む切断用ガスを用いてレーザ切断を行い、切断面を形成した後、溶融しためっき金属層に対して補助ガスを噴射して前記溶融しためっき金属層を切断面に流入させる、レーザ切断方法。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1を参照するに、本発明の実施形態に係るレーザ切断加工装置1は、板状のワークWを支持するワークテーブル3を備えると共に、前記ワークWにレーザ光LBを照射してワークWのレーザ切断加工を行うためのレーザ加工ヘッド5を備えている。前記ワークテーブル3は、前記レーザ加工ヘッド5に対して相対的にX,Y軸方向へ移動自在に備えられており、このワークテーブル3を相対的にX,Y軸方向へ移動位置決めするためのサーボモータなどのごとき位置決めモータ7が備えられている。さらに、前記ワークWに対して相対的に接近離反する方向(Z軸方向)へ前記レーザ加工ヘッド5を移動位置決めするZ軸モータ9が備えられている。
【0022】
また、前記レーザ切断加工装置1には、例えばCO
2レーザ発振器などのごとく遠赤外線波長領域のレーザ光(波長3μm以上のレーザ光)を発振するレーザ発振器11が備えられている。そして、前記レーザ加工ヘッド5には、前記レーザ発振器11から発振されたレーザ光LBを前記ワークW方向へ反射する反射鏡13や、レーザ光LBの集光を行う集光レンズ15等の光学装置17が備えられている。また、前記レーザ加工ヘッド5には、前記ワークWのレーザ切断加工位置へアシストガスを噴出するノズル19が着脱交換可能に備えられている。
【0023】
ところで、レーザ切断加工位置へアシストガスを噴出する構成としては、レーザ加工ヘッド5にサイドノズルを備え、このサイドノズルからアシストガスをレーザ加工部へ噴出する構成とすることも可能である。
【0024】
さらに、前記レーザ切断加工装置1には、アシストガス供給装置21が備えられている。このアシストガス供給装置21は、例えば窒素ガス約97%、酸素ガス約3%の混合ガスを供給するもので、窒素ガス供給装置23、酸素ガス供給源(空気供給源)25及び混合ガスを生成するミキサー27が備えられている。さらに、前記アシストガス供給装置21には、前記レーザ加工ヘッド5へ供給するアシストガスの圧力を調節するための圧力調節弁29が備えられている。またアシストガス供給装置21の酸素ガス供給源25を停止させ、窒素ガス供給装置23のみを稼働させると窒素ガスのみのアシストガスとして加工部へ供給することができる。
【0025】
ところで、窒素ガス約97%、酸素ガス約3%の混合ガスをアシストガスとしてレーザ加工部へ供給する構成としては、前述した構成に限ることなく、別個の構成とすることも可能である。すなわち、例えば特許第3291125号公報に記載されているように、中空糸膜を利用した分離装置によって、供給された圧縮空気中の窒素と酸素とを分離することも可能である。なお、窒素ガス約97%(96%以上)、酸素ガス約3%(4%以下)の混合ガスをアシストガスに使用してのレーザ切断加工の場合を、以下、単にイージカットと称す。
【0026】
また、前記レーザ切断加工装置1には、制御装置31が備えられている。この制御装置31は、コンピュータから構成してあって、前記ワークWに対する前記レーザ加工ヘッド5の相対的な移動位置決めの制御を行う機能、前記レーザ発振器11におけるレーザ出力の制御及び前記レーザ加工ヘッド5に対するアシストガスの供給圧力を制御する機能を有するものである。
【0027】
前記構成により、ワークテーブル3上にワークWを載置位置決めした後、ワークWに対してレーザ加工ヘッド5をX,Y,Z軸方向へ相対的に移動位置決めする。また、レーザ発振器11から発振されたレーザ光LBを集光レンズ15によって集光してワークWへ照射する。さらに、アシストガス供給装置21からレーザ加工ヘッド15に供給されたアシストガスをノズル19からワークWのレーザ加工部へ噴出することにより、ワークWのレーザ切断加工が行われる。
【0028】
上述のように、ワークWのレーザ切断加工を行う際、前記ワークWがめっき鋼板である場合には、前記特許文献1の
図21に記載されているように、めっき層の蒸発物質が加工範囲に侵入して、加工品質に欠陥を生じさせることがある。したがって、前記特許文献1の記載においては、特許文献1の
図1に示されているように、めっき鋼板の表面へレーザ光を照射してめっき層を予め除去する。そして、次に同一軌跡のレーザ切断加工を行うものである。
【0029】
上記構成によれば、レーザ切断加工時にはめっきの蒸発がないので、加工品質の改善が行われ得るものの、めっき層の除去加工と切断加工との2度のレーザ加工が必要である。また、めっき鋼板の切断面はレーザ切断加工が行われた状態のままであるので、切断面の防錆処理が必要である、という問題がある。
【0030】
本発明の実施形態は、めっき鋼板のレーザ切断加工を行う際に、めっき鋼板の上面のめっき層の溶融及び/又は蒸発を行うことにより、溶融及び/又は蒸発されためっき層含有金属を切断面へ流動することができ、かつ流動しためっき層含有金属によって切断面を被覆することができることを見出したものである。
【0031】
本発明の実施形態においては、めっき鋼板の一例として、アルミニウム6%、マグネシウム3%、残り亜鉛91%のめっき層を鋼板の表面に被覆した溶融めっき鋼板(以下、単にめっき鋼板と称す)を使用した。
【0032】
そして、レーザ切断加工において一般的に行われている酸素カットは、アシストガスとして酸素ガスを使用するものである。そして、切断加工面のEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)の分析行ったところ、酸素カットの場合は、
図2に示すように、切断面が酸化被膜に覆われていた。
【0033】
次に、アシストガスとして窒素ガスを使用するレーザ切断加工方法(以下、単にクリーンカットと称す)を行った場合、切断条件によっては、
図3(A)の拡大写真に示すように、めっき鋼板における基材Bの切断面CFのレーザ切断加工は良好に行われている。そして、前記切断面CFの上端部付近における上面のめっき層Mは除去されていて極めて薄くなっている。そして、切断面CFには酸化皮膜等はなく、めっき鋼板の原板成分(Fe)のみがほとんど現れている(
図2参照)。また、切断面CFの被覆層(めっき層)も極めて薄いものである。したがって、クリーンカットにおいては、適正な切断条件によっては上面の溶融しためっき層含有金属によって切断面CFを被覆可能であり、サビ(赤さび)が発生しないことがある。
【0034】
次に、前述したイージーカットを行った場合には、
図2、
図3(C)に示すように、切断面には薄い酸化被膜が現れている。また、切断面の上部には、めっき層Mの成分である亜鉛、アルミニウム、マグネシウムが現れている。すなわち、切断面CFの上端部付近において溶融しためっき層の一部が切断面CFに流れ込み、溶融しためっき層の流れ込みの濃い部分が白い筋状に現れている。なお、上記筋状部分の間は、溶融しためっき層によって薄く表われているものである。
【0035】
すなわち、鋼板のレーザ切断加工方法において一般的に採用されているクリーンカット又はイージーカットを行うことにより、めっき鋼板(ワーク)Wの切断面にめっき層Mの含有金属を回り込ませて、切断面CFの被覆を行い得ることを見出した。
【0036】
そこで、レーザ切断加工における切断速度、集光レンズの焦点位置、アシストガスのガス圧、レーザ光におけるパルスの周波数、等の加工条件を種々変更して、切断面へのめっき層の被覆状態を試験した。なお、試験条件は次のとおりである。
【0037】
レーザ切断加工機:株式会社 アマダ製、FOM2−3015RI
材料:アルミニウム6%、マグネシウム3%、残り亜鉛91%のめっきを表面
に被覆しためっき鋼板、板厚t=2.3mm、K35(片側めっき付着
量175g/m
2)
切断サンプル形状:130mm×30mm
標準加工条件
・ノズル直径:D4.0(4.0mm)
・切断速度:F1600(1600mm/min)
・アシストガス種類:EZ(前述したイージーカットに使用されるアシストガ
スを表わす。この場合のアシストガスは、窒素約97%、酸素3%の混合ガ
スである)
・アシストガス圧:0.9MPa
・ノズルギャップ:0.3mm(ノズルとめっき鋼板の上面との間隔)
・焦点位置:−4.5mm(ワーク上面を0として、上側を+、下側を−とし
ている)
上記の標準加工条件の各条件を変化して加工を行った結果は次のとおりであった。
【0038】
図4から明らかなように、切断速度を1120mm/min〜3840mm/minの範囲で調節すると、切断面(切断端面)に対するめっきの被覆量は、速度が大きいほど被覆量が次第に多くなっている。
【0039】
図5から明らかなように、集光レンズの焦点位置を、−6.5mm〜+0.5mmの範囲で調節すると、焦点位置を次第に+側にすると、切断面に対するめっきの被覆量が次第に多くなっている。
【0040】
図6に示すように、アシストガス圧を0.5MPa〜0.9MPaの範囲で調節すると、アシストガス圧は低くなるほど切断端面に対するめっきの被覆量は次第に多くなる。
【0041】
図7に示すように、レーザ光のパルス周波数を800Hz〜CW(連続)の範囲において調節した場合には、切断端面に対するめっきの被覆量には大きな変化は見られなかった。
【0042】
図4〜
図7に示された結果から、イージーカットにおいては、めっき鋼板におけるレーザ切断面に対するめっき層含有金属の被覆量は、切断速度が大きい(例えば、3840mm/min)ほど多くなる。また、焦点位置は+側(例えば、+0.5mm)ほどめっき層含有金属の被覆量が多くなる。しかし、焦点位置を+側に大きくすると、めっき鋼板の上面でのエネルギー密度が低くなるので、レーザ切断加工においては一側に設定することが望ましいものである。さらに、アシストガス圧は低圧(例えば、0.5MPa)ほどめっき層含有金属の被覆量が多くなる。なお、レーザ光をパルスレーザ、連続レーザに調節した場合には、めっきの被覆量に大きな変化は認められなかった。
【0043】
既に理解されるように、めっき鋼板のレーザ切断加工において、イージーカット(EZ)によってめっき鋼板のレーザ切断加工を行う場合、レーザ切断加工条件において、例えば切断速度、集光レンズの焦点位置、アシストガス圧等を種々変更することにより、めっき鋼板のレーザ切断面へのめっき層含有金属の被覆量が変化するものである。なお、レーザ切断加工条件としては、レーザ加工ヘッドにおけるノズル19とワークWの上面との間隔、すなわちノズルギャップを変更することも考えられる。
【0044】
すなわち、レーザ切断面へのめっき層含有金属の被覆量は、めっき鋼板のレーザ切断加工を行う際の加工条件によって異なることを見出した。換言すれば、イージーカットにおいて、めっき鋼板のレーザ切断条件を適正な切断条件とすることにより、レーザ切断面にめっき層含有金属を適正に被覆できることになるものである。
【0045】
イージーカットによれば、めっき鋼板の切断面を、めっき層含有金属によって被覆できることを見出した。
【0046】
次に、クリーンカットにおいての適正な切断条件を見出すために、種々の切断条件によってめっき鋼板のレーザ切断加工を行い、レーザ切断面の赤さびの発生状態を見るために暴露試験を行った。暴露試験としては、めっき鋼板のレーザ切断加工を行ったレーザ切断加工品における切断面を上面に保持して、野外に一ヶ月放置した。
【0047】
ところで、めっき鋼板からレーザ切断加工品をクリーンカットによって切断分離する際、
図8に示すように、レーザ切断加工位置の上面にプラズマが発生する場合と、発生しない場合とがあった。そして、プラズマが発生する場合であっても、弱いプラズマの発生、強いプラズマ(弱くないプラズマ)の発生、を目視によって区別できる状態であった。そこで、プラズマ発生無しの場合は「無」、弱いプラズマ発生の場合は「p」、強いプラズマ発生の場合は「P」として区別する。そして、切断条件が不適切であって、レーザ切断加工が不可能であった場合には「不」とした。
【0048】
また、一ヶ月の暴露試験において、
図9に示すように、赤さびの発生がない場合には「○」、赤さびが発生した場合には「×」とした。ところで、前記暴露試験は、野外での1ヶ月経過後の結果である。したがって、レーザ切断加工品においては、評価が「×」の場合であっても、使用環境によっては使用可能な場合があるものである。
【0049】
次に、窒素ガスをアシストガスとして使用したクリーンカットを行って、めっき鋼板の板厚t=2.3mm,t=3.2mm,t=4.5mm,t=6.0mmにおける暴露試験を行った結果は、
図10〜
図17に示すとおりであった。
図10〜
図17において、K14,K27,K35はそれぞれめっきの付着量表示記号であって、それぞれにおけるめっき付着量は次のとおりである。すなわち、K14(片側めっき付着量70g/m
2)、K27(片側めっき付着量145g/m
2)、K35(片側めっき付着量175g/m
2)である。
【0050】
また、
図10〜17において、Sはシングルノズルを示し、Dはダブルノズル(二重ノズル)を示している。ダブルノズルは、例えば特開平11−90672号公報に示されているように、既に公知である。そして、S2.0,D4.0及びD7.0はそれぞれノズル径(mm)を示している。すなわち、S2.0=2.0mm,D4.0=4.0mm,D7.0=7.0mmである。そして、各ノズル径に対応してのノズルギャップは、S2.0で0.3mm、D4.0で0.5mm、D7.0で1.0mmに設定してある。すなわち、ノズル径が大きくなると、レーザ加工位置において発生したスパッタ等がノズル内に入り易くなるので、ノズル径が大きくなるほどノズルギャップを大きく設定してある。
【0051】
なお、特記されているパラメータ以外のレーザ加工のパラメータは、前記標準加工条件のパラメータと同じ値を有するものである。
【0052】
さて、
図10を参照するに、焦点位置−0.5mm(焦点位置は各図にそれぞれ示してある)、板厚t=2.3mmでめっき量K14の場合において、ノズル径S2.0の場合には、1000mm/minにおいては、アシストガス圧が0.9MPa,0.7MPa,0.5MPaにおいてプラズマの発生はなかった。そして、暴露試験においての評価は全て「×」で、全面的に赤さびが発生している。また、
図11、
図12、
図13、
図14及び
図15に示すように、切断速度1000mm/min場合、ノズル径S2.0のノズルにおいては、アシストガス圧に拘わりなくプラズマの発生はなかった。そして、暴露試験においての評価は「×」で切断面の防錆効果においては、あまり望ましいものではなかった。
【0053】
したがって、ノズル径S2.0のノズルを用い、切断速度1000mm/minでもってめっき鋼板のレーザ切断加工を行った場合、レーザ切断加工時に溶融及び/又は蒸発されためっき層含有金属を切断面に流動して、前記切断面を被覆することは難しいものである。
【0054】
次に、
図10、
図11、
図12においてノズル径D4.0の場合について検討するに、
図10、
図11においてはプラズマの発生がなく、暴露試験の評価は「×」である。しかし、
図11においてアシストガス圧0.7MPaの場合には「○」に改善されている。そして、ノズル径D7.0の場合には、弱いプラズマの発生が見られた。暴露試験の評価は、
図10においては「×」であるが、
図11においては「○」、「×」である。そして、
図12においては「×」である。
【0055】
ところで、
図10〜
図17において、暴露試験の評価が「○」、「×」の部分を見ると、プラズマの発生(P)がある場合には、殆ど「○」である。したがって、めっき鋼板のレーザ切断加工をクリーンカットで行う際、溶融及び/又は蒸発しためっき層含有金属を切断面へ流動して、切断面を溶融及び/又は蒸発されためっき層含有金属によって被覆するには、プラズマを発生させつつレーザ切断加工を行うことが望ましいものである。
【0056】
ところで、
図11より明らかなように、めっき付着量K27、ノズル径D4.0には、プラズマの発生がないにも拘わらず、暴露試験の評価が「○」の場合がある。また、
図10のノズル径D7.0、アシストガス圧0.9MPaにおいては、僅かなプラズマの発生があるものの、前記評価は「×」である。
【0057】
そして、
図10,11,12においては、切断速度が3000mm/min〜5000mm/minの範囲においては、全てにおいてプラズマの発生が見られ、そして、観察の結果は、切断速度が速くなるほどプラズマの発生は強くなっている。そして、
図10におけるノズル径S2.0、アシストガス圧0.9MPa,0.7MPa(3000mm/min)を除いた全域においての前記評価は全て「○」である。なお、
図10において、ノズル径2.0mm、アシストガス圧0.7MPaの4000mm/min〜5000mm/minにおいては「○」となっている。
【0058】
したがって、暴露試験の評価を「○」にするには、めっき鋼板の板厚t=2.3mmにおいて、めっき付着量K14においては、ノズル径S2.0の場合にはアシストガス圧0.7MPaで切断速度が4000mm/min〜5000mm/minの範囲が望ましい。そして、アシストガス圧0.5MPaの場合には、3000mm/min〜5000mm/minの範囲が望ましいものである。ノズル径がD4.0,D7.0の場合には、アシストガス圧が0.9MPa,0.7MPa,0.5MPaに拘わりなく、切断速度は3000mm/min〜5000mm/minの範囲が望ましいものである。
【0059】
ところで、
図11に示すように、めっき鋼板が同一板(t=2.3mm)において、めっき付着量がK27となって多く(厚く)なると、ノズル径D4.0、アシストガス圧0.7MPaにおいて、切断速度1000mm/minの条件においては、プラズマの発生が無いにも拘わらず、評価は「○」となっている。したがって、めっき鋼板の板厚(t=2.3mm)、めっき付着量K27、ノズル径D4.0、アシストガス圧0.7MPa、切断速度1000mm/minの各条件が適正に調和すると、プラズマが発生しなくても、評価を「○」とすることができるものである。換言すれば、前述した各条件が整うと、プラズマが発生しない場合であっても、レーザ切断加工時に溶融及び/又は蒸発しためっき層含有金属を、切断面に流動して切断面を被覆することができるものである。
【0060】
次に、
図12を参照すると、めっき付着量がK35に変化しただけであるにも拘わらず、切断速度1000mm/minにおいて、ノズル径D4.0、アシストガス圧0.7MPa、ノズル径D7.0、アシストガス圧0.9MPa,0.7MPaの条件においては僅かなプラズマの発生が見られたものの、評価は「×」になっている。
【0061】
ところで、一般的に、金属板のレーザ切断加工を行うとき、プラズマが発生すると、プラズマはレーザ光を吸収する特性があり、レーザ光の照射は連続したプラズマの発生を助長する。そして、プラズマは切断面粗さを悪化させることが知られている。しかし、例えばステンレスの無酸化切断においてはプラズマの熱を利用したプラズマ切断方法がある。この場合、発生したプラズマを助長するように加工条件を設定するものである。
【0062】
すなわち、上記の場合(i)アシストガスは低圧に設定する。(ii)ノズルとワークとの間のノズルギャップは、プラズマが成長する空間を形成するために、通常の場合よりも僅かに大きくする。(iii)焦点位置の追い込み量は、ワーク表面よりも上方を(+)方向、ワーク表面よりも下方を(−)方向としたときに、通常の焦点位置の場合よりも(+)方向に移動させる。(iv)レーザ光のワークへの入熱量を小さくするために、切断速度をより高速にする。上記(i)〜(iv)の条件は、金属板のレーザ切断加工を行う際に、プラズマを発生し易くする条件である。
【0063】
前記条件(i)〜(iv)を勘案して
図10を見ると、めっき付着量K14においては、切断速度が1000mm/min〜2000mm/minの範囲において、ノズル径がS2.0よりもD4.0、そしてD4.0よりもD7.0の方がプラズマの発生が多い。また、切断速度は1000mm/min〜5000mm/minに次第に速くなるほどプラズマの発生が強くなっている。そして、プラズマの発生が強くなると、暴露試験の結果は「○」が多くなっている。なお、
図11、
図12においても同様の傾向が見られる。
【0064】
したがって、めっき鋼板のレーザ切断加工時に、上面の溶融及び/又は蒸発しためっき層含有金属を切断面へ流動して、この一部のめっきによって切断面を被覆するには、プラズマが発生した方がよいものである。
【0065】
図13、
図14、
図15は、クリーンカットの場合であって、めっき鋼板の板厚t=3.2mmで、めっき付着量がK14,K27,K35の場合における暴露試験の結果である。なお、
図13〜
図15において、「不」は切断不可能であったことを示すものである。すなわち、切断条件が不適切な場合である。
図13〜
図15の結果からも明らかなように、アシストガス圧が低く、かつ切断速度が速い方がプラズマを発生し易い傾向にあることが分かる。
【0066】
図16、
図17は、クリーンカットの場合で、板厚t=4.5mm,t=6.0mmの場合における暴露試験結果であって、この場合においても、アシストガス圧は低圧であるほど、換言すればノズル径が大きいほど、また切断速度が速いほどプラズマの発生が強くなる傾向にある。そして、プラズマの発生が強いほど、暴露試験の結果は「○」になる傾向にある。なお、
図16、
図17においては「ド」はドロスの付着量が多いことを示すものである。
【0067】
前記
図10〜17に示した暴露試験の結果は、前記レーザ切断加工装置1における前記制御装置31に備えた切断条件データテーブル33に格納されている。すなわち、上記切断条件データテーブル33には、めっき鋼板の板厚毎、各板厚におけるめっき付着量毎に適用したノズル径、各ノズル径におけるノズルギャップ、各板厚毎に適用した焦点位置、及び切断速度の加工条件データが格納してある。さらに、前記切断条件データテーブル33には、めっき鋼板のレーザ切断加工時におけるプラズマ発生のデータ並びに暴露試験を行った評価結果が合わせて格納されている。なお、前記制御装置31には、イージーカット時の加工条件データを格納した切断条件データテーブルも含まれているものである。
【0068】
したがって、前記制御装置31に接続した入力手段35から各種の加工条件を入力すると、
図10〜
図17に示した評価と同一の評価が得られるレーザ切断加工が行われることになる。すなわち、例えば
図10に示す板厚t=2.3mmにおいて、めっき付着量K14、ノズル径D4.0、アシストガス圧0.7MPa、切断速度5000mm/minの条件を入力手段35から制御装置31に入力してレーザ切断加工を行うと、プラズマを発生してレーザ切断加工が行われるものである。そして、1ヶ月の暴露試験を行うと、評価は「○」が得られるものである。
【0069】
なお、暴露試験を行うときには、例えば海の近くなどの環境や気象条件等によっては評価が変化する場合があるものである。
【0070】
ところで、めっき鋼板のレーザ切断を行って、溶融及び/又は蒸発されためっき層含有金属を切断面に流動して切断面を被覆するには、めっきの溶融範囲は、ワークの板厚、めっき量及びレーザ切断条件にもよるが、ワークの切断端面から0.27mm〜0.5mmの範囲が望ましいものである。
【0071】
すなわち、めっき層の溶融及び/又は蒸発される範囲が0.5mm以上になる場合は、レーザ切断速度が遅く、入熱量が大であることが多い。この場合、溶融及び/又は蒸発されるめっき量が多くなり、レーザ切断溝内への入流量が多くなるものと考えられる。しかし、レーザ切断速度が遅いことにより、レーザ光の照射時間が長く、加熱時間が長くなって、溶融及び/又は蒸発されためっき層含有金属が高温状態に保持される時間が長くなり、かつアシストガスが作用する時間が長くなって、切断面へ付着して凝固する前に、アシストガスによって吹き飛ばされ易くなり、切断面への溶融及び/又は蒸発されためっき層含有金属の被覆量が少なくなるものと考えられる(例えば、
図12のD4.0,D7.0参照)。
【0072】
ところが、めっき層の溶融及び/又は蒸発範囲が0.27mmの小さな範囲の場合には、レーザ切断速度が速く、入熱量が小であることが多い。この場合、溶融及び/又は蒸発される量が少なくなり、レーザ切断面への入流量が少なくなるものと考えられる。
【0073】
したがって、めっき層の溶融及び/又は蒸発範囲は、切断面から0.27mm〜0.5mmの範囲が望ましいものである。上記範囲においては、レーザ光の照射時間及びアシストガスが作用する時間が適正な時間となり、溶融及び/又は蒸発されためっきがアシストガスによって吹き飛ばされる量が少なくなる。よって、切断面へ被覆して凝固を生じ易く、めっき層含有金属の被覆量が多くなるものと考えられる(例えば、
図12のD4.0,D7.0参照)。
【0074】
既に理解されるように、めっき鋼板のレーザ切断加工を行う際に、アシストガスとして窒素ガスを使用したクリーンカット又は窒素約97%、酸素約3%の混合ガスをアシストガスとして使用したイージーカットを行うと、上面のめっき層含有金属でもって切断面を被覆することができる。そして、レーザ切断加工時にプラズマが発生すると、前記被覆が効果的に行われることを見出した。
【0075】
そこで、板厚t=2.3mmのめっき鋼板のクリーンカット及びイージーカットを行い、プラズマ発生と、1ヶ月後の暴露試験を行ったところ、
図18に示す結果が得られた。
図18に示された結果から、クリーンカット及びイージーカットの両方とも、プラズマを発生させつつレーザ切断を行うと、切断面をめっき層含有金属によって効果的に被覆でき、赤さびの発生を防止できるものである。
【0076】
また、加工速度が大きいほど、めっき層含有金属による切断面の被覆が効果的に行われ、赤さびの発生を防止することができる。そこで、加工速度2200mm/min,5000mm/minの条件で、板厚t=2.3mm、めっき量K14のレーザ切断を行った際の切断面の観察結果は
図19に示すとおりである。
【0077】
図19より明らかなように、加工速度が2200mm/minの場合、赤さびの発生があるものである。ところが加工速度が5000mm/minになると、切断面全面にめっき層含有金属成分が検出され、赤さびの発生は見られないものである。この結果は、
図18に示された結果と整合するものである。
【0078】
ところで、
図19に示すレーザ切断面のEDS(Energy Dispersive X-ray Spectrometry)の分析結果と暴露試験結果(4週間後)から次のことが分かる。
図2のクリーンカットでは、極めて僅かなめっき層含有金属がレーザ切断面より検出された。そこで、
図2のクリーンカット条件とほぼ同等の加工速度2200mm/minのレーザ切断面をEDS分析するとZn,Al,Mg成分すなわちめっき層含有金属はごく僅かであり写真撮影検出量以下であり、ほとんどレーザ切断面がめっき層含有金属では覆われていないことが分かる。更に適切な切断条件に変更することにより
図19の加工速度5000mm/minのEDS分析結果写真にあらわれているようにレーザ切断面全域にめっき層含有金属が検出されレーザ切断面全域をめっき層含有金属で覆っていることがわかった。すなわち、標準条件(加工速度:2200mm/min)での切断面は、鉄成分が約90%(Feの重量%:89.16)であり、めっき成分は(Zn,Al,Mgの値が何れも重量%:1.45以下で)ほとんど検出されない。その為、容易に赤さびが発生する。それに対して、今回の加工条件(加工速度:5000mm/min)で切断を行うと、切断面の鉄成分は約30%(Feの重量%:32.48)と大きく低下し、代わりにZnでは重量%:43.57と大幅に増え、またAl,Mgにおいても数倍以上に増加し、まためっき成分が切断面全体に渡りその表面を覆っていることがわかる。よって、赤さびの発生を抑制しているのは、レーザ切断加工時に上面から流動されて、切断面表面を覆っているめっき成分であることが分かる。
【0079】
以上のごとき実施形態の説明から理解されるように、めっき鋼板の板厚、めっき付着量に対応して、適正な加工条件でもってレーザ切断加工を行うと、レーザ切断加工時に上面の溶融及び/又は蒸発しためっき層含有金属が切断面に流動し、切断面を被覆し易いものである。したがって、めっき鋼板における切断面の上縁付近のめっき層の厚さは、前記切断面から離隔した位置、すなわちレーザ切断加工時に溶融及び/又は蒸発して流動を生じるほどの熱影響を受けなかった位置のめっき層の厚さよりも薄くなっているものである。
【0080】
ところで、前記説明においては、アルミニウム6%、マグネシウム3%、残り亜鉛91%のめっき鋼板の場合について例示した。しかし、めっき鋼板としては前述のめっき鋼板に限ることなく、その他のめっき鋼板の場合にも適用し得るものである。
【0081】
次に第2の実施形態について説明する。
【0082】
この実施形態は、鋼板表面にめっき金属が被覆されている表面処理鋼板を素材として、これをガス切断や光エネルギー、電気エネルギーを利用した熱切断方法によって切断された表面処理鋼板であって、自動車や家電、配電設備、通信設備などに用いられる表面処理鋼板に関する。
【0083】
従来、自動車や家電、配電設備、通信設備などに用いられる部品(表面処理鋼板)には、冷延鋼板を所定寸法に切断して、その後にどぶめっきを施す(後めっき)ものがあったが、近年では、部品の耐食性や耐久性の向上および工程省略によるコスト低減を目的として表面処理鋼板を素材として後めっきを省略した部品が多くなっている。表面処理鋼板としては、ZnやZn合金、Al、Al合金、Cuなどの金属を鋼板表面に被覆しためっき鋼板を用いる場合が多い。これら表面処理鋼板を切断する方法としては、プレス機および部品形状に応じた金型を用いた打抜きが最も汎用的であるが、金型費用を抑制する目的で熱切断方法を用いる場合が増えている。熱切断方法としては、ガス切断や光エネルギーであるレーザ光を用いたレーザ切断、電気エネルギーであるプラズマを用いたプラズマ切断が代表的であるが、切断した状態で部品として使用する場合は、表面処理鋼板のめっき金属の損傷が小さく、切断面の外観が良好な光エネルギーや電気エネルギーを利用した切断方法が多く用いられる。
【0084】
なお、関係すると思われる特許文献として、特開2001−353588号公報がある。
【0085】
通常、表面処理鋼板を光エネルギーや電気エネルギーを利用して任意形状に熱切断する加工では、板厚方向に沿った切断面は、表裏面のめっき層を除き鋼素地が露出した状態となる。そのため切断面は防錆性が低い状態となり、置かれた環境によっては早期に赤錆が発生することとなる。赤錆が発生した部品は外観不良となるだけでなく、腐食によって体積が減少し部品としての強度を満足しないといった問題が出てくる。また、このような問題は錆の目立ちやすさや、強度に及ぼす影響の面から、板厚が厚いものほど深刻である。この対策として、従来は熱切断後にめっき金属と同様の成分を有する補修塗料を切断面に塗装しているが、塗料や塗装工程のコストがかかるため部品コストが増大するといった問題を抱えている。
【0086】
従来の熱切断によるめっき鋼板の切断方法として、前記特許文献に示す方法が提案されている。この方法は、アシストガスとして2〜20%の酸素を含む窒素と酸素の混合ガスを用いることで切断効率を向上させる方法である。実施例から判断すれば、板厚3mmの亜鉛めっき鋼板を対象としアシストガス圧力を12バール(1.2MPa)とし1.8m/minまでの速度で切断する条件となっている。しかしながら、後述の実施例で示すように、従来の方法で切断した表面処理鋼板の切断面にはめっき成分は十分存在していないため、防錆性は低い。
【0087】
この第2の実施形態は、前述のような問題点を解消するために案出されたものであり、めっき金属が被覆されている表面処理鋼板を素材として、これを光エネルギーや電気エネルギーを利用した熱切断方法によって切断した際に、めっき層の含有金属を切断面に形成させて切断面の耐食性を確保することを目的とする。
【0088】
第2の実施形態の表面処理鋼板を素材とした熱切断部品は切断後の切断面に補修塗装を行うことなく熱切断によって溶融しためっき層含有金属を切断面に回りこませて防錆性を確保する。
【0089】
表面処理鋼板としてはZnやZn合金などを被覆しためっき鋼板を用いる。
【0090】
すなわち、鋼板表面にめっき金属が被覆されているめっき層を有する表面処理鋼板で、表面のめっき層の含有金属が溶融して切断面に回り込み、溶融した金属が凝固してめっき層の含有金属で切断面を覆い、切断面の耐食性に優れる熱切断品を得る。
【0091】
上記において、めっき組成が質量%でAl:0.1〜22.0%である溶融Zn系めっき鋼板を素材としたものであっても構わない。さらに、Mg:0.1〜10.0%、Ti:0.10%以下、B:0.05%以下、Si:2%以下の群から選ばれる1種以上を含有する溶融Zn系めっき鋼板であっても構わない。また、合金化Znめっきを素材としたものでもよい。
【0092】
第2の実施形態によれば、少なくとも1ヶ月を越える耐発錆性を切断品に持たせることができ、切断後の切断面への補修塗装を必要としないため、塗料や塗装工程のコスト増大は生じない。
【0093】
第2の実施形態の切断品は、被切断素材である表面処理鋼板のめっき層含有成分が熱切断面に存在していること、すなわち、鋼板表面のめっき層の一部の含有金属が切断面を被覆していることを特徴とする。ここで、表面処理鋼板の種類は特に限定するものではないが、耐食性や熱切断時の被覆成分の損傷を考慮して、ZnやZn合金を被覆しためっき鋼板にすることが好ましい。また、表面処理鋼板の原板も、特に限定するものではなく、熱延鋼板、冷延鋼板のいずれでも良く、鋼種も極低炭素鋼板や低炭素鋼板などのいずれであっても良い。さらに、板厚やめっき付着量も特に限定する必要はなく、熱切断部品の耐食性や強度を考慮して決定することができ、例えば耐食性を重視する場合には、めっき付着量を多くして熱切断時の切断面へのめっき層含有金属の回り込みを多くした方が好ましい。
【0094】
熱切断部品を製造するための熱切断方法としては、切断面の外観を考慮して光エネルギーか電気エネルギーが利用される。光エネルギー切断法としては、CO
2レーザ切断、YAGレーザ切断、ファイバーレーザ切断などがある。また、電気エネルギー切断法としては、プラズマ切断やアーク切断などがある。第2の実施形態の熱切断部品は、前記の切断法を用いて切断時に切断部近傍の鋼板表面のめっき層含有金属を溶融させるとともに、アシストガスにより溶融しためっき層含有金属を切断面に回り込ませている。溶融しためっき層含有金属の切断面への回り込みやすさは、切断条件で種々変化し、例えば切断時の入熱量とアシストガスの圧力などが影響している。すなわち、入熱量が多すぎると溶融しためっき層含有金属が切断面に回り込む前に蒸発することが考えられ、入熱量が少なすぎるとめっき層含有金属が十分溶融しない、あるいは鋼板の切断そのものが成立しないといったことが考えられる。またアシストガスの圧力が高すぎると、切断面に回り込んだめっき層含有金属を過剰に吹き飛ばしてしまう。
【0095】
また、素材となる表面処理鋼板の条件によっても切断面の防錆性は変わる。めっき付着量が多いほど、熱切断時の一定の入熱に対して溶融するめっき層含有金属の割合が多くなる。また板厚が薄いほど、めっき層含有金属が覆うべき切断面の面積が少なくてすむことになる。以上の理由から、切断面へのめっき層含有金属の回り込みに及ぼす素材側の条件としては、表面処理鋼板のめっき付着量が多く、かつ板厚が薄いほど防錆性に優れる。
【0096】
本発明者らはこのような切断条件や素材条件の組合せによって、熱切断時にめっき層の含有金属が切断面に回りこみやすい条件があることを把握し、この条件において切断面の防錆性を向上させた切断部品を完成させた。
【実施例1】
【0097】
以下に本発明の実施例を説明する。
【0098】
素材には、表1に示すZn−6%Al−3%Mgめっき鋼板、Znめっき鋼板およびAlめっき鋼板を用い、設備は最も汎用的なCO
2レーザを使用して、表2に示す種々の条件の組合せで切断した。
【0099】
【表1】
【0100】
【表2】
図20に示す切断品に対し、破線で示す部位のレーザが入光する板上面側はめっき層の一部が溶融し、切断後には蒸発や切断面への回り込みによって素材よりもめっき層厚さが薄くなる。そこで、
図21に示す上面側のめっき層厚さが薄くなっている領域の幅であるめっき溶融幅Lを調査した。また、
図22に示す切断面におけるめっき層含有金属の被覆状態を観察し、切断面面積に対するめっき層含有金属被覆面積の割合および板厚に対するめっき層含有金属の最大流入距離(表面処理鋼板の表面からの、切断面に沿ってのめっき層含有金属の最大の流れ込み寸法)の比率を調査した。また各切断サンプルを屋外暴露試験し、目視で確認できる錆が発生するまでの日数を測定し、その日数が1ヶ月を越えるかどうかで判断した。
【0101】
結果を表3に示す。めっき溶融幅Lが0.27mm〜0.5mmで、かつ、溶融しためっき層含有金属の被覆面積率が10%以上または溶融しためっき層含有金属の最大流入距離が板厚に対して30%以上となる場合はいずれの条件の切断品も1ヶ月を越える防錆性を有していた。
【0102】
なお、比較として特許文献(特開2001−353588号公報)に記載されている条件(表3のNo.19)、すなわち切断速度を1.8m/min、アシストガス圧力を12バール(1.2MPa)として切断した切断面を調査したところ、めっき溶融幅は第2の実施形態の範囲を超えており、1ヶ月の防錆性は有していなかった。
【0103】
【表3】
ところで、鋼板表面にめっき金属が被覆されている表面処理鋼板の切断加工を行うと、鋼板表面にめっき金属が被覆されている表面処理鋼板であって、切断面が鋼板表面の前記めっき層の含有金属で覆われている表面処理鋼板になる。そして、鋼板表面の前記めっき層の含有金属が切断面を被覆する面積は、切断面面積の10%以上であること、または、鋼板表面の前記めっき層の含有金属は表面処理鋼板の表面又は裏面から板厚の30%以上でもって切断面に被覆してあることが望ましいものである。また、切断面から垂直方向に沿ってめっき層の薄い部分の幅が0.27mm〜0.5mmであることが望ましいものである。
【0104】
ところで、
図20〜
図22においての、符号101は素材、102はレーザ光、103は切断面、104はめっき金属、105は切断面、106はめっき層含有金属最大流入距離、107はレーザ光の進行方向、である。
【0105】
次に、第3の実施形態について説明する。
【0106】
第3の実施形態は、端面耐食性に優れる部材に関するものであり、めっき金属が被覆されている表面処理鋼板を素材として、これをレーザによって切断された部材およびそのレーザ切断方法に関する。
【0107】
従来、自動車や家電、配電設備、通信設備などに用いられる部材には、冷延鋼板を所定寸法に切断し、その後に鋼板全体にめっき処理(後めっき処理)を施すことが知られている。近年では、部材の耐食性および耐久性の向上や、製造工程の省略によるコスト低減を目的として、表面処理鋼板を素材にして、後めっき処理を省略した部材の使用が広がっている。当該表面処理鋼板には、Zn、Zn合金、Al、A1合金、Cuなどの金属を鋼板表面に被覆されためっき鋼板を用いる場合が多い。表面処理鋼板から部材を切り出す方法としては、プレス機および部材形状に応じた金型を用いた打抜きによる方法が一般的である。また、金型の費用を抑制する目的で熱切断方法を用いる場合が増えている。熱切断方法には、ガス燃焼によるガス切断、レーザ光によるレーザ切断、熱プラズマによるプラズマ切断などがある。レーザ切断は、表面処理鋼板のめっき金属の損傷が小さく、切断面の外観が良好であるため、多用されている。
【0108】
レーザ切断によるめっき鋼板の切断方法は、例えば特許文献(特開2001−353588号公報)に示す方法が提案されている。この方法は、アシストガスとして2〜20%の酸素を含む窒素と酸素の混合ガスを用いることで切断効率を向上させている。
【0109】
表面処理鋼板を任意形状にレーザ切断すると、通常、板厚方向に沿った切断面は、鋼素地が露出した状態となる。このような切断面は、耐食性が低いため、使用環境によっては早期に赤錆が発生し、外観不良になる。さらに、赤錆が発生した製品は、腐食により体積が減少するため、必要な機械的強度が不足するという問題が生じる。
【0110】
板厚が厚い製品は、外観的に赤錆が目立ちやすく、また、実用上の機械的強度が要求されることから、上記の問題が顕在化する。従来、この対策として、レーザ切断後に、めっき金属と同様の機能を有する補修塗料を切断面に塗装が施されて、製品全体の耐食性を確保している。しかし、この対策は、塗料を使用されて塗装作業を行うため、製品コストの増大につながっていた。
【0111】
第3の実施形態は、このような問題点を解消するために案出されたものであり、めっき金属が被覆されている表面処理鋼板を素材とする部材であって、レーザ切断した後の切断面における耐食性が確保された部材を提供することを目的とする。また、上記の部材を製造するレーザ切断方法の提供を目的とする。
【0112】
本発明者らは、上記の課題を踏まえて、鋭意検討した結果、めっき鋼板をレーザ切断する際に、鋼板表面のめっき金属層がレーザ照射熱によって溶融し、切断面側に流入する現象を見出し、本実施形態を完成するに至った。具体的には、以下のようなものを提供する。
【0113】
(1)第3の実施形態は、鋼板表面にめっき金属層で被覆された表面処理鋼板のレーザ切断方法であって、酸素ガス若しくは窒素ガス又はこれらの混合ガスを含む切断用ガスを用いてレーザ切断を行い、切断面を形成した後、溶融しためっき金属層に対して補助ガスを噴射して前記溶融しためっき金属層を切断面に流入させる、レーザ切断方法である。
【0114】
(2)第3の実施形態は、前記補助ガスを噴射する複数のノズルを、前記切断用ガスのノズルの周囲に配置して、レーザ切断を行う、(1)に記載のレーザ切断方法である。
【0115】
(3)第3の実施形態は、前記補助ガスを噴射するリング状のノズルを、前記切断用ガスのノズルの周囲に配置して、レーザ切断を行う、(1)に記載のレーザ切断方法である。
【0116】
第3の実施形態によれば、切断面の一部がめっき金属層で被覆されるため、犠牲陽極効果によって切断面全体の耐食性を確保できる。レーザ切断後の切断面において、従来のような補修塗装を必要としないため、製品コストを低減することできる。
【0117】
レーザ切断加工は、
図23に示すように、表面処理鋼板200の表面へレーザ加工ヘッド5からレーザ光LBを照射しながらレーザ光LBを移動させて、表面処理鋼板200を溶融させることにより切断し、所定形状に加工する。表面処理鋼板200の表面に被覆されためっき金属層210は、切断面220(切断部)においては、照射されたレーザ光LBの加熱により蒸発する。さらに、レーザ切断時には、切断部の周囲に位置するめっき金属層においても、レーザ光照射の熱が伝導して加熱される。めっき金属(例えば、Zn系、Al系)の融点及び沸点が低いため、その領域のめっき金属層230は、溶融状態になり、一部が蒸発する。溶融状態のめっき金属層230において流動性が生じるため、溶融しためっき金属は、切断面側へ回り込むような形態で切断面へ流入して切断面上を広がって移動した後、冷却されて凝固し、めっき金属を含む被覆層250を形成する。めっき金属を含む被覆層250の形成によって、切断面においても表面処理鋼板と同等の耐食性が保持されて、端面耐食性に優れる部材が得られる。そのため、レーザ切断した後、切断面の補修塗装をしなくても、良好な耐食性を確保できる。被覆層250は、
図23に示すように、めっき金属層210に接続する形態で分布する部分を含んでいる。
【0118】
レーザ切断は、通常、レーザ光を照射ノズルの先端より被切断材に向けて照射するとともに、レーザ光の周囲から切断用ガス(アシストガス)を被切断材に吹き付ける。この切断用ガスは、蒸発または溶融した材料を切断部分から排除する目的で用いられる。本発明者らは、切断部の周囲領域に対して補助ガスを吹き付けてレーザ切断することにより、当該補助ガスの流れが、溶融しためっき金属の切断面への流入を促進することを知見した。本実施形態は、補助ガスのノズルを切断用ガスのノズルの周囲に配置し、切断部周辺領域に補助ガスを噴射しながら、レーザ切断が行われる。
【0119】
(表面処理鋼板)
表面処理鋼板は、特に限定するものではない。Zn系、Zn−Al系、Zn−Al−Mg系、Zn−Al−Mg―Si系の金属めっき又は合金めっきなどを被覆しためっき鋼板を用いることができる。Zn−Al−Mg系の合金めっきが施された鋼板が好ましい。表面処理鋼板の基材は、熱延鋼板、冷延鋼板のいずれでもよく、極低炭素鋼板や低炭素鋼板などを用いることができる。
【0120】
表面処理鋼板の板厚、めっき層のZn含有率、片面当たりのめっき付着量は、特に限定されない。耐食性や機械的強度を考慮して適切な範囲を選択できる。めっき層のZn含有率は、耐食性を向上させるため、40%以上であることが好ましく、80%以上がより好ましい。例えば、Zn−Al−Mg系合金めっきの場合、耐食性の観点では、Znを80質量%以上含有することが好ましい。また、Zn−Al−Mg系合金めっきのMg含有量が多いと、めっき金属層が溶融状態になったときの粘性や表面張力が低下し、流動性が高まるため、切断面に流入が促進される点で好ましい。
【0121】
片面当たりのめっき付着量の多い表面処理鋼板を選択すると、レーザ光による切断時にめっき金属が切断端面に回り込んで流入する量が多くなり、良好な耐食性を得られる。そのため、片面当たりのめっき付着量は、レーザ光を照射する側の面において、20g/m
2以上が好ましく、30g/m
2以上、90g/m
2以上がより好ましい。
【0122】
板厚に対する片面当たりのめっき付着量の割合(めっき付着量/板厚の比)が大きいほど、めっき金属の回り込みによる被覆層が切断端面に占める割合が高まる。そのため、片面当たりのめっき付着量(g/m
2)と板厚(mm)による、めっき付着量/板厚の比は、1.3×10以上であることが好ましく、2.5×10以上がより好ましい。
【0123】
(被覆層)
切断面に存在するめっき金属層は、切断面の全部または一部を被覆すればよい。切断面にめっき金属層が一部存在すると、犠牲陽極効果により、めっき金属が基材の鋼よりも優先して溶解して、表面処理鋼板の耐食性は、切断面においても保持される。十分な耐食性を確保する観点では、被覆層の平均長さは、鋼板の板厚の25%以上であることが好ましい。本明細書では、被覆層の長さを「めっき流入長さ」といい、鋼板の板厚に対する被覆層の平均長さの割合を「めっき流入長さ率」という。
【0124】
本明細書では、被覆層が切断面を占める割合を「被覆率」という。被覆率は、10%以上であることが好ましい。被覆率が10%未満であると、流入しためっき金属により、十分な耐食性を確保できない。
【0125】
(酸化層若しくは窒化層又はこれらの混合層)
レーザ切断では、切断用ガスがレーザ光の周囲から表面処理鋼板に吹き付けられる。切断用ガスは、主に、材料切断部の燃焼及び蒸発または溶融した材料を切断部分から排除する目的で用いられる。切断用ガスは、O
2ガス、空気、N
2ガス等、または、これらの混合ガスを使用することができる。当該酸化層若しくは窒化層又はこれらの混合層は、レーザ光の照射によって鋼板が切断されて露出した切断面の表面に形成される。その後、表面処理鋼板のめっき金属層が当該切断面に流入して、上記の被覆層を形成することから、被覆層は、上記の酸化層若しくは窒化層又はこれらの混合層(以下、「酸化層等」と記載することもある。)の上に形成される形態を有している。また、補助ガスにも切断用ガスと同じ種類のガスを使用すると、上記の酸化層等の生成に寄与する。
【0126】
切断面側に流入した溶融状態のめっき金属は、切断面の表面上を広がって移動する傾向を示す。このことから、上記の酸化層等は、溶融状態のめっき金属と切断面とのぬれ性を高める作用を有すると考えられる。そのため、上記の酸化層等が形成された切断面においては、被覆層の形成が促進され、めっき金属層の被覆割合を増大させることができる。
【0127】
(レーザ切断方法)
第3の実施形態は、鋼板表面にめっき金属層で被覆された表面処理鋼板のレーザ切断方法であって、酸素ガス若しくは窒素ガス又はこれらの混合ガスを含む切断用ガスを用いてレーザ切断を行い、切断面を形成した後、溶融しためっき層に対して補助ガスを噴射して前記めっき金属層を切断面に流入させる、レーザ切断方法である。
【0128】
上述したように、レーザ光により鋼板表面のめっき金属層は溶融状態を呈する。その際、切断部の周囲領域に対して補助ガスを吹き付けると、当該補助ガスの流れにより、当該溶融しためっき金属は、切断面側へ流入することが促進される。切断用ガスのノズルの周囲に補助ガスを噴射するノズルを配置し、補助ガスを供給することができる。
図24の(a)は、その形態例であって、レーザ切断用ノズルを断面視したとき、被切断材(表面処理鋼板200)と、照射されるレーザ光、噴射される切断用ガス及び補助ガスとの関係を模式的に示した図である。レーザ光の照射ノズル19の周囲に切断用ガスを噴射するノズル(切断用ガス供給手段30)が配置され、当該ノズルの周囲に補助ガスを噴射するノズル(補助ガス供給手段40)が配置されている。切断用ガス供給ノズル30から噴射された切断用ガスが作用する範囲は、切断面220を含む領域であるのに対し、補助ガス供給ノズル40から噴射された補助ガス70は、切断部(切断面220)の周囲領域に対して作用している。
図24の(b)は、切断用ガス60及び補助ガス70が被切断材200に作用する圧力分布を示した模式図である。
図24(b)に示すように、切断面220の周囲領域においても一定の圧力が作用している。
【0129】
図25の(a)、(b)は、めっき金属を含む被覆層の形成を示した模式図である。
図25(a)に示すように、レーザ切断時において、鋼板200の表面の溶融しためっき金属層230に対して補助ガス70が吹き付けられると、
図25(b)に示すように、当該溶融しためっき金属層230は、切断面側に向かって移動して切断面220へ流入し、被覆層250を形成する。補助ガス70を併用することにより、めっき金属の流入を効率的に行うことができる。
【0130】
図26の(a)、(b)、
図27の(a)、(b)は、切断用ガスだけを用いた従来例によるノズル切断状況を模式的に示した図である。切断用ガス60は、切断部(切断面220)に向かって噴射され、その一部で切断部の周囲領域に拡散する流れが存在する(
図26(a))。しかし、溶融しためっき金属層に作用する切断用ガス60の圧力は低い(
図26(b))。そのため、
図27の(a)、(b)に示すように、溶融しためっき金属層230から蒸発しためっき金属260が排除される程度であって、当該溶融しためっき金属層230を切断面に流入させることはできないと考えられる。
【0131】
照射するレーザ光の種類は、特に限定するものでない。CO
2レーザ等のように、波長3μm以上のレーザ光を発振するレーザ発振器を使用することができる。切断時のレーザ光のスポット径、出力、移動速度等の条件は、被切断材の表面処理鋼板の板厚や加工形状によって適宜に設定できる。
【0132】
表面処理鋼板のめっき金属層は、レーザ切断の加熱により昇温して溶融状態に至る。めっき金属層の昇温に影響するパラメータとして、表面処理鋼板の板厚(t:単位mm)、レーザ出力(P:単位kW)、切断速度(v:単位m/min)、レーザ切断幅(w:単位mm)を挙げられる。レーザ出力が同じであっても、板厚および切断速度により昇温の程度が異なる。そこで、めっき金属層に対する種々の加熱条件を対比できるように、「P/v×t×w」の指標を用いた。当該指標は、レーザ出力P(kW)を切断速度v(m/min)、および板厚t(mm)及びレーザ切断幅w(mm)で除して得られる数値である。本明細書では、この指標を「レーザ入熱指数」という。めっき金属を切断端面に流入させて良好な被覆層を形成するため、レーザ入熱指数は、0.79〜2.57の範囲内であることが好ましい。0.79未満であると、切断時の入熱量が過小であるため、切断部にドロスが付着して切断することができない。他方、2.57を超えると、入熱量が過多であるため、めっき金属の蒸発により、切断端面に流入するめっき金属量が低減し、端面耐食性が低下する。
【0133】
切断用ガスは、酸素ガス若しくは窒素ガス又はこれらの混合ガスを用いてレーザ切断を行い、酸化層若しくは窒化層又はこれらの混合層を有する切断面を形成することが好ましい。切断用ガスは、O
2ガス、空気、N
2ガス等、または、これらの混合ガスを使用することができる。切断用ガスに不活性ガス(例えばAr)を混合してもよい。切断用ガスの流量、圧力は、表面処理鋼板の板厚や切断条件によって適宜設定できる。
【0134】
補助ガスの供給手段としては、レーザ切断した後、補助ガス70を吹き付ける手段であればよい。切断用ガスを噴出する加工ヘッド5の周囲に補助ガス70を噴射するノズル80を配置した形態が挙げられる。
図28に示すように、加工ヘッド5のサイドに複数個の補助ガスサイドノズル80を配置してもよい。また、
図29に示すように、加工ヘッド5において、切断溝内の溶融金属を吹き飛ばす作用を行うインナノズル(図示省略)を囲繞してアウタノズルとしての補助ガスノズル90を備える。この補助ガスノズル90は、溶融しためっき金属層230の部分へ補助ガス70を噴射して、溶融しためっき金属層を、切断面220へ導く作用をなすものである。
【0135】
すなわち、前記レーザ切断加工方法に使用するレーザ加工ヘッドは、めっき鋼板のレーザ加工部へアシストガスを噴出するノズルを備え、上記ノズルから噴出されたアシストガスによって溶融金属を吹き飛ばして形成された切断面へ、めっき鋼板の上面において溶融された状態のめっき層含有金属を導くための補助ガスを噴出する補助ガスノズルを備えている構成であることが望ましい。すなわち、切断面から0.27mm〜0.5mmの範囲の溶融金属を補助ガスによって切断面に導く構成である。
【0136】
また、レーザ加工ヘッドにおいて、前記補助ガスノズルは、レーザ切断加工によって形成される切断溝の幅よりも大きな範囲、すなわち、溶融しためっき金属層230を含む範囲でもってレーザ切断加工後の切断溝に補助ガスを噴出する構成であることが望ましい。
【0137】
補助ガスの種類は、とくに限定されない。溶融しためっき金属の流入を促進するものであればよい。切断用ガスと同様のガス組成でもよく、酸素ガス若しくは窒素ガス又はこれらの混合ガスを用いることができる。また、切断用ガスと別の種類のガス組成であってもよく、不活性ガス(例えばAr)のみを用いてもよい。
【0138】
補助ガスの流量は、表面処理鋼板の板厚やレーザ光の移動速度等に応じて選定することができる。上述したように、補助ガスは、溶融しためっき金属層が切断面側へ流入するのを促進する作用を有している。補助ガスの流量は、20L/min以上が好ましい。補助ガスの流量が小さいと、切断面におけるめっき金属の流入が十分でない。当該流量が大きいと、めっき金属の流入が増加する傾向を示す。当該流量が過度に大きくなり過ぎると、溶融状態のめっき金属が過剰に吹き飛ばされて、被覆層の形成を阻害するため、好ましくない。
【実施例2】
【0139】
以下、本発明の実施例について説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0140】
表面処理鋼板として、表4、表5に示すめっき組成のめっき層を有する鋼板を用いて、試験材No.1〜No.47に供した。試験材No.47は、エアーを用いたプラズマ切断を適用した参考例である。上記のめっき層は、Zn−Al−Mg、Zn−Al、Zn、またはAl−Siのめっき組成を有している。表4、表5の「めっき組成」欄に、例えば、「Zn−6Al−3Mg」と記載された試験材は、6質量%Al、3質量%Mgを含むZn系めっき層を有する鋼板を意味する。また、表4、表5に示すように、片面当たりのめっき付着量(g/m
2)、鋼板の板厚(mm)、板厚に対する当該めっき付着量の割合(めっき付着量/板厚の比)を変えた試験材を用いた。表4、表5に示した、片面当たりのめっき付着量は、レーザ光を照射する側の面における数値である。
【0141】
レーザ切断に際しては、以下の諸条件を組み合わせて実施した。
(a)レーザ発振方式:CO
2レーザ
(b)レーザ切断幅(mm):0.24〜0.40
(c)レーザ出力(kW):2,4,6
(d)切断速度(m/min):0.6〜7.0
(e)切断用ガスの種類:窒素(N
2),酸素(O
2),窒素+3%酸素(N
2+3%O
2),アルゴン(Ar)
(f)切断用ガス圧(MPa):0.05〜1.4
(g)補助ガスのノズル型:サイドノズル(A型:
図28参照),リングノズル(B型:
図29参照)
(h)補助ガスの種類:窒素(N
2),酸素(O
2),窒素+3%酸素(N
2+3%O
2),アルゴン(Ar)
(i)補助ガス流量(L/min):15〜1900
切断後の試験材は、その切断面を写真撮影して画像データとして取得し、被覆層の平均長さ(めっき流入長さ率)、めっき被覆率を求めた。また、試験材に対して、後に説明する暴露試験を行って、端面発錆率を求めた。さらに、後に説明する方法により、酸化層等の厚みを測定した。また、上記の切断面において、電子線マイクロアナライザ(EPMA)による成分分析を行った。
【0142】
(被覆層の平均長さ)
図30の(a)は、被覆層の平均長さを測定する方法を模式的に示したものである。被覆層は、めっき流入部分310で示したように、めっき金属が鋼板表面320から切断面に流入して、鋼板の裏面330に向かって延びる形態を示している。
図30の(a)に例示するように、観察した領域内から主な流入部として、円状の印で囲んだ5個のめっき流入部分310を選定し、それらの先端までの長さ(めっき流入長さ340)を計測し、めっき流入長さ340と、鋼板の板厚350との比率(本明細書は、「めっき流入長さ率」という。)を算出して、5点の平均値を求めた。その平均値により、本実施形態に係る被覆層の平均長さとした。
【0143】
(めっき被覆率)
被覆層が切断面を占める被覆率について測定する方法を以下に説明する。まず、
図30の(b)に示すように、判定するポイントP
1〜P
5を設定した。本実施形態では、鋼板表面に対して垂直な線分を引き、その線分の上に、板端面の表面および裏面のそれぞれから50μmの位置にP
1とP
5を設定した。そして、P
1とP
5の中点にP
3を設定し、P
1とP
3との中点にP
2を設定し、P
3とP
5との中点にP
4を設定した。当該P
1〜P
5において、めっき流入部分310と一致する点をカウントした。それと同様の手順で、
図30(b)に例示するように、任意の箇所で4回繰返して、総計20個の点(ポイント)でめっき流入部分と一致する点の合計を求めて、その比率を算出した。例えば、8個のポイントで一致すれば、8/20=0.4(40%)である。この算出された数値を用いて、本実施形態に係るめっき被覆率とした。
【0144】
(酸化層等の厚み)
酸化層等の厚みについて測定する方法を以下説明する。
図31の(a)に示すように、切断面を下に向けて、試験材390を樹脂400に埋め込んで、測定用試料を作製した。その際、試験材390の一端側にワイヤー420を配して、試験材390に傾斜角度θを付与した。樹脂に埋め込まれた試験材390に対して研磨を行うと、試験材390の切断面のめっき層と酸化層等が斜めに研磨されて、
図31の(b)に示すように、研磨面380において、鋼板素地370、酸化層等360、めっき金属310が並んで露出した。その後、酸化層等360の幅を計測した。計測された酸化層等の幅と、埋め込み時の傾斜角度θにより、酸化層等の厚みを算出した。切断面の観察領域410における任意の3箇所で、同様の手順により酸化層等の厚みを計測して平均値を算出し、その数値を本実施形態に係る酸化層等の厚みとした。
【0145】
(端面発錆率)
本発明の部材の耐食性に関しては、試験材を用いて屋外大気中で暴露試験を60日間で行い、切断面において赤錆が発生した割合により評価した。本明細書では、この赤錆の発錆割合を「端面発錆率」という。以下、端面発錆率の測定方法について説明する。切断された試験材の中央部付近に長さ150mmの測定範囲を設定した。
図32に例示するように、測定範囲の中に、5mmピッチで判定位置520を設定し、赤錆部510と交差する判定位置の数を測定し、交差した割合を算出した。例えば、
図32に示す例では、20箇所の判定位置のうち赤錆部と交差している判定位置が7箇所であるので、端面発錆率は、7/20=0.35(35%)と算出される。
【0146】
上記のめっき流入長さ率、めっき被覆率、酸化層等の厚み、端面発錆率を測定した結果を、表4、表5に示す。
【0147】
【表4】
【0148】
【表5】
EPMAの分析結果によると、補助ガスを併用した試験材No.1〜No.29は、切断面にZn成分が検出された。当該Zn成分は、レーザ光が入射する板面の上から下に向かって流れるように分布していた(
図33)。この分布形態によると、切断面のZn成分が鋼板表面のめっき金属層が切断面側に回り込んだものと推測される。
【0149】
酸素成分や窒素成分の分析結果によると、N
2ガスの切断用ガスを用いた試験材No.1、No.2等は、切断面においてZn成分が存在しない領域には窒化層が形成されていた。切断用ガスとして、N
2ガスに3%O
2を含む混合ガスを用いた試験材No.4、No.5等、O
2ガスを用いた試験材No.7、No.11等は、切断面においてZn成分の存在しない領域には酸化層、窒化層またはこれらの混合層が形成されていた。
【0150】
以上の分析結果によると、レーザ切断後の切断面において酸化層等が形成された後、鋼板表面の溶融しためっき金属層が切断面側に回り込んで流入し、上記の酸化層等の上に被覆層が形成されたものと推測される。
【0151】
表4に示すように、本発明例に相当する試験材No.1〜No.29は、めっき流入長さ率が25%以上であり、切断面を占める被覆率が10%以上であり、被覆層の下に酸化層等を有していた。試験材No.1〜No.29の端面発錆率は、いずれも10%以下であり、良好な端面耐食性を示した。また、試験材No.1〜No.29は、めっき金属層のZn含有率が40%以上であり、片面当たりのめっき付着量が20g/m
2以上であり、酸化層等の平均厚みが0.1μm以上であり、当該めっき付着量(g/m
2)と鋼板の板厚(mm)との比率が1.3×10以上であった。
【0152】
さらに、試験材No.1〜No.29のレーザ切断方法は、酸素ガス若しくは窒素ガス又はこれらの混合ガスを含む切断用ガスを使用し、補助ガスを併用した。補助ガスの種類は、試験材No.15はアルゴンガスを使用し、その他の試験材では、酸素ガス若しくは窒素ガス又は両者の混合ガスを使用した。補助ガスノズルは、サイドノズル(A)またはリングノズル(B)を使用した。それらのレーザ入熱指数(P/v×t×w)は、0.69〜2.57の範囲で選定されて、レーザ切断が行われた。
【0153】
それに対し、表5に示された比較例の試験材No.30〜No.45は、表4の本発例と同様にZnを含むめっき金属層を有する表面処理鋼板を用いたものである。しかし、それらのめっき流入長さ率は、25%未満であり、端面発錆率が10%を超えており、本発明例に比べて耐食性が劣っていた。
【0154】
上記の比較例のうち、試験材No.30〜No.38は、補助ガスを併用しなかった具体例である。試験材No.39〜No.42は、補助ガスを併用する一方で、レーザ入熱指数(P/v×t×w)が0.69〜2.57の範囲外で実施した例である。試験材No.41は、レーザ入熱指数が0.69未満であり、加熱量の不足により切断できなかった。試験材No.43は、補助ガスの流量が20L/min未満で実施した例であり、試験材No.44は、めっき付着量/板厚の比が1.3×10未満で実施した例であり、試験材No.45は、切断用ガスにアルゴンガスを使用し酸化、窒化層が生成しない例である。
【0155】
表5に示した試験材No.46は、Znを含有しないめっき金属(Al−Si)を用いた比較例であり、試験材No.47は、レーザ切断でなく、プラズマ切断を用いた比較例であり、いずれも端面発錆率が10%を大きく超えており、端面耐食性に劣っていた。
【0156】
以上の試験結果によると、本発明に特定した事項を備えた部材は、良好な端面耐食性が得られることを確認できた。