(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記載置器具は、前記融解液が融解した状態において、当該融解液に向かって移動するものであることを特徴とする、請求項1に記載のガラス化保存された生殖細胞の融解用器具。
前記載置器具は、当該載置器具に連結された力伝達器具を移動させることによって、前記融解液に向かって押し出されるものであることを特徴とする、請求項2に記載のガラス化保存された生殖細胞の融解用器具。
前記載置器具は、前記生殖細胞収納領域が前記融解液収納領域よりも上側に位置するように前記融解用器具を配置することによって、前記融解液に向かって落下するものであることを特徴とする、請求項2に記載のガラス化保存された生殖細胞の融解用器具。
管の内部に設けられている、(i)ガラス化保存された生殖細胞が載置されている載置器具が収納され、かつ、気体が満たされている生殖細胞収納領域であって、前記管の外側に設けられた前記保冷器具によって覆われている生殖細胞収納領域と、(ii)前記ガラス化保存された生殖細胞を融解するための融解液が凍結している状態で収納されている融解液収納領域と、のうち、前記融解液収納領域のみを加温して、凍結している前記融解液を融解させる工程と、
前記載置器具を、融解した後の前記融解液と接触させる工程と、を有することを特徴とする、ガラス化保存された生殖細胞の融解方法。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上B以下」を意図する。
【0034】
〔1.ガラス化保存された生殖細胞の融解用器具〕
〔1−1.融解用器具の構成の概略〕
図1を用いて、本実施の形態のガラス化保存された生殖細胞の融解用器具の構成の概略を説明する。
【0035】
図1(a)〜
図1(c)に示すように、融解用器具1の構成要素として、ガラス化保存された生殖細胞を載置するための載置器具8、載置器具8を収納するための管5、および、管5の外側に設けられる保冷器具6を挙げることができる。なお、
図1(a)〜
図1(c)では、載置器具8に力伝達器具7が連結されているが、力伝達器具7は融解用器具1の必須構成ではなく、適宜、省略することが可能である。
【0036】
管5の内部には、(i)載置器具8が収納され、かつ、気体が満たされる生殖細胞収納領域10(換言すれば、載置器具8が収納され、かつ、気体が満たされる空間である生殖細胞収納領域10)であって、保冷器具6によって覆われる生殖細胞収納領域10と、(ii)ガラス化保存された生殖細胞を融解するための融解液が収納されている融解液収納領域11(換言すれば、ガラス化保存された生殖細胞を融解するための融解液が収納されている空間である融解液収納領域11)と、が設けられている。
【0037】
図1(b)に示すように、融解用器具1では、管5の内部に設けられている生殖細胞収納領域10内に載置器具8が収納されている。更に、
図1(c)に示すように、融解用器具1では、載置器具8が収納されている生殖細胞収納領域10の外側を、保冷器具6が覆っている。上記構成であれば、載置器具8が保冷器具6によって覆われているので、載置器具8上に載置された生殖細胞を低温環境下に長時間、配置させることができる。
【0038】
図1(b)および
図1(c)に示すように、載置器具8と融解液収納領域11に収納されている融解液とは、最初は互いが接触しないように配置されている。より具体的に、載置器具8と融解液収納領域11に収納されている融解液とは、最初は載置器具8が融解液に浸漬しないように配置されている。そして、融解用器具1を使用する際(具体的には、ガラス化保存された生殖細胞を融解する際)に、載置器具8は、融解した状態の融解液と接触する。より具体的に、融解用器具1を使用する際(具体的には、ガラス化保存された生殖細胞を融解する際)に、載置器具8は、融解した状態の融解液に浸漬する。なお、本明細書において「(AとBとが)接触する」には、「(AがBへ)浸漬する」の意味が包含される。上記構成であれば、低温環境下に配置されている生殖細胞を、速やかに融解液と接触させて融解させるので、ガラス化保存された生殖細胞を、各種障害(例えば、フラクチャー障害、および/または、脱ガラス化後の氷晶形成による障害)を受けることなく、生存率高く融解させることができる。
【0039】
なお、本願発明の融解用器具には、載置器具が生殖細胞を載置している状態の融解用器具、および、載置器具が生殖細胞を載置していない状態の融解用器具の両方が包含される。
【0040】
融解用器具1は、ガラス化保存された生殖細胞を融解するための「融解用器具」として用いることができるのみならず、生殖細胞をガラス化するための「ガラス化用器具」としても用いることが可能であるし、ガラス化された生殖細胞を保存するための「保存用器具」としても用いることが可能である。
【0041】
例えば、融解用器具1を「ガラス化用器具」として用いる場合には、ガラス化液で平衡処理された生殖細胞を載置した載置器具8を液体窒素へ直接浸漬させて、生殖細胞をガラス化する。その後、当該載置器具8を、保冷器具6を装着し融解液を吸引して予め液体窒素内で凍結しておいた管5に、液体窒素中で挿入接合することにより、
図1に示す融解用器具1を形成すればよい。あるいは、融解用器具1を「ガラス化用器具」として用いる場合には、ガラス化液で平衡処理された生殖細胞を載置した載置器具8を、保冷器具6を装着し融解液を吸引しておいた管5に挿入接合することにより、
図1に示す融解用器具1を形成する。そして、当該融解用器具1全体を液体窒素中に浸漬することによって生殖細胞をガラス化してもよい。
【0042】
融解用器具1を「保存用器具」として用いる場合には、液体窒素中に浸された融解用器具1を低温環境下(例えば、液体窒素中)に配置し続けることにより、ガラス化された生殖細胞を保存することができる。
【0043】
融解用器具1を移植に用いる場合には、載置器具8に載置されているガラス化した生殖細胞と、融解した状態の融解液とを接触させて生殖細胞を融解した後、融解用器具1を別途の移植用器具に装着し、当該移植用器具を移植対象の動物の生殖器へ挿入し、生殖器へ生殖細胞を排出することによって、生殖細胞を移植することができる。なお、移植用器具の具体的な構成は、特に限定されず、市販の移植用器具を用いることが可能である。
【0044】
以下に、各構成について、更に詳細に説明する。
【0045】
〔1−2.載置器具〕
本載置器具は、ガラス化保存された生殖細胞を載置するための構成である。なお、本発明の融解用器具に備えられている載置器具には、ガラス化保存された生殖細胞が既に載置されていてもよいし、ガラス化保存される前の生殖細胞(例えば、液体状のガラス化液と生殖細胞との混合物)が既に載置されていてもよいし、ガラス化保存された生殖細胞およびガラス化保存される前の生殖細胞の何れも未載置であってもよい。
【0046】
載置器具にガラス化保存される前の生殖細胞が既に載置されている場合には、例えば、本融解用器具を液体窒素に浸ける等によって、ガラス化保存された生殖細胞を載置している載置器具を実現することができる。
【0047】
載置器具にガラス化保存された生殖細胞およびガラス化保存される前の生殖細胞の何れも未載置である場合には、例えば、別途、ガラス化保存された生殖細胞を作製し、当該生殖細胞を載置器具に載置することにより、ガラス化保存された生殖細胞を載置している載置器具を実現することができる。
【0048】
載置器具を構成する材料は、特に限定されないが、ガラス化保存された生殖細胞を融解する時に、ガラス化保存された生殖細胞の温度を変化させ易い材料であることが好ましい。当該材料としては、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体)、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート)、スチレン系樹脂(例えば、ポリスチレン、メタクリレート−スチレン共重合体、メタクリレート−ブチレン−スチレン共重合体)、ポリアミド(6 ナイロン、66 ナイロン)、ポリスルホン樹脂、フッ素樹脂、塩化ビニル、ナイロン、および、ポリイミドを挙げることができる。
【0049】
また、当該載置器具は、金属等の網構造(メッシュ)で構成されても良い。金属としては特に限定されないが、例えば、ステンレス、アルミニウムおよび銅を挙げることができる。載置器具が金属等の網構造で構成されていれば、透過光下での作業が可能となり、生殖細胞が見やすく、生殖細胞を扱いやすくなる。さらに、極細の金属ワイヤからなる網は、板状の金属より熱容量が小さいため、好ましい。また、載置器具は、パンチングメタルにより構成されても良い。
【0050】
上記生殖細胞は、特に限定されず、受精卵(例えば、雌の生殖器から回収した受精卵、または、体外受精によって作製した受精卵)、顕微受精で作製した胚、核移植で作製した胚、または、精子であり得る。
【0051】
上記生殖細胞の由来は、特に限定されないが、例えば、ヒトの生殖細胞、または、非ヒト生物の生殖細胞(例えば、非ヒト脊椎動物の生殖細胞、または、非ヒト哺乳動物の生殖細胞)であり得る。更に具体的に、上記生殖細胞は、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマまたはヒトの生殖細胞であり得る。勿論、本発明は、これらの生殖細胞に限定されない。
【0052】
ガラス化保存された生殖細胞を作製する場合、生殖細胞をガラス化液で平衡処理した後、当該生殖細胞を、液体窒素等を用いて冷却すればよい。
【0053】
ガラス化液としては、特に限定されず、公知のガラス化液を用いることができる。例えば、PBS(phosphate buffered saline)などに、グリセロール、エチレングリコール、ジメチルスルホサイド(DMSO)、プロピレングリコール、ブタンジオールなどを、単独または組み合わせて溶解したものを、ガラス化液として用いることができる。また、当該ガラス化液に、更に、シュクロース、グルコース、ウシ血清アルブミン、トレハロース、パーコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、または、フィコール血清を適宜添加してもよい。
【0054】
また、ガラス化液としては、例えば、エチレングリコール、ジメチルスルホサイド(DMSO)、ショ糖、および、ウシ血清アルブミンを含むMedium-199の水溶液を挙げることができる。例えば、エチレングリコールの濃度を略15重量%、ジメチルスルホサイド(DMSO)の濃度を略15重量%、ショ糖の濃度を略0.5M、ウシ血清アルブミンの濃度を略0.4重量%に設定してもよい。
【0055】
本発明では、(i)融解液が融解した状態において、当該融解液に向かって載置器具が移動することによって、載置器具と融解液とが接触してもよいし、(ii)融解液が融解した状態において、当該融解液が載置器具に向かって移動することによって、載置器具と融解液とが接触してもよいし、(iii)融解液が融解した状態において、当該融解液に向かって載置器具が移動し、かつ、当該融解液が載置器具に向かって移動することによって、載置器具と融解液とが接触してもよい。低温環境下に配置された生殖細胞と、生殖細胞の融解に適した状態の融解液とを、速やか、かつ、確実に接触させるという観点からは、上記(i)の構成が好ましい。
【0056】
載置器具の移動様式は、特に限定されないが、一例として、以下の移動様式を挙げることができる。
【0057】
〔A.移動様式1〕
載置器具は、融解液が融解した状態において、載置器具に連結された力伝達器具を移動させることによって、融解液に向かって押し出されるものであってもよい。
【0058】
例えば、
図2に、本融解用器具の縦断面の一例を示す。
【0059】
図2(a)の白色矢印の左側に示すように、本融解用器具では、載置器具8に力伝達器具7が連結されており、載置器具8は、保冷器具6によって覆われている生殖細胞収納領域10内に配置されている。このとき、融解液収納領域11は、生殖細胞収納領域10に隣接するように配置されている。黒色矢印にて示す方向に向かって、力伝達器具7に対して力を加えれば、力伝達器具7および載置器具8によって形成されている複合体は、融解液収納領域11に向かって、管5の内部を移動する。
【0060】
図2(a)の白色矢印の右側に示すように、上記複合体が融解液収納領域11に向かって管5の内部を移動すると、載置器具8と融解液収納領域11とが接触し、これによって、載置器具8に載置された生殖細胞が融解することとなる。
【0061】
力伝達器具7の具体的な構成および形状は、特に限定されないが、載置器具8を構成する材料と同じ材料によって形成された、管5内に挿入可能な棒であって、少なくともその一部分として、管5の内壁に沿った形状の部分を有する棒、であることが好ましい。例えば、管5の形状が円筒である場合には、力伝達器具7の形状は、円柱であることが好ましい。
【0062】
力伝達器具7が上記材料によって形成されていれば、載置器具8上に載置された生殖細胞を低温環境下に長時間、配置させることができる。
【0063】
力伝達器具7が管5内に挿入可能な棒であって、少なくともその一部分として、管5の内壁に沿った形状の部分を有する棒であれば、力伝達器具7に対して力を加えた時に、力伝達器具7および載置器具8によって形成されている複合体を、融解液収納領域11に向かって、管5の内部をスムーズに移動させることができる。
【0064】
また、
図2(b)に示すように、管5の端部に、力伝達器具7と密着して力伝達器具7との間で摩擦を生じることにより、力伝達器具7および載置器具8によって形成されている複合体を所望の位置にて一時的に留まらせる、制動器具40が設けられていてもよい。制動器具40の形状は、特に限定されないが、力伝達器具7を包被する形状であってもよい。
【0065】
上記構成であれば、
図2(a)の白色矢印の左側に示すように、黒色矢印にて示す方向に向かって力伝達器具7に対して力を加えた場合には、力伝達器具7および載置器具8の複合体が管5内を移動することができ、
図2(a)の白色矢印の右側に示すように、力伝達器具7に対して力を加えない場合には、力伝達器具7および載置器具8の複合体が管5内の所望の位置で留まることができる。これによって、載置器具8を管5内の生殖細胞収納領域10内、または、融解液収納領域11内の所望の位置に留めておくことができる。
【0066】
〔B.移動様式2〕
載置器具は、融解液が融解した状態において、生殖細胞収納領域が融解液収納領域よりも上側に位置するように融解用器具を配置することによって、融解液に向かって落下するものであってもよい。
【0067】
例えば、
図3に、本融解用器具の縦断面の一例を示す。
【0068】
図3の白色矢印の左側に示すように、本融解用器具では、載置器具8は、保冷器具6によって覆われている生殖細胞収納領域10内に配置されている。このとき、融解液収納領域11は、生殖細胞収納領域10に隣接するように配置されている。
【0069】
図3の白色矢印の右側に示すように、生殖細胞収納領域10が融解液収納領域11よりも上側に位置するように融解用器具を配置する(例えば、融解用器具を立てる)と、載置器具8が融解液収納領域11内の融解液に向かって落下し、これによって、載置器具8に載置された生殖細胞が融解することとなる。
【0070】
このとき、載置器具8に第1の係止器具20が設けられ、かつ、管5の内壁に第2の係止器具21が設けられ、第1の係止器具20と第2の係止器具21とが、互いに着脱可能に係止されていてもよい。より具体的に、
図3の白色矢印の左側に記載のように本融解用器具が横たわっているときには、第1の係止器具20と第2の係止器具21とが互いに係止され、
図3の白色矢印の右側に記載のように本融解用器具が立っているときには、第1の係止器具20と第2の係止器具21との間の係止が解除される構成であってもよい。上記構成であれば、本融解用器具が横たわっているときには、載置器具8を保冷器具6によって覆われている生殖細胞収納領域10内に安定的に配置することができ、一方、本融解用器具が立っているときには、載置器具8を融解液収納領域11に向かって容易に移動させることができる。
【0071】
なお、管5の内壁自体が第2の係止器具21の機能を有するもの(例えば、内壁の表面に凹凸を有するもの)である場合には、第2の係止器具21を省略し、第1の係止器具20のみを設けてもよい。一方、載置器具8自体が第1の係止器具20の機能を有するもの(例えば、載置器具8が折れ曲がった形状のもの)である場合には、第1の係止器具20を省略し、第2の係止器具21のみを設けてもよい。
【0072】
第1の係止器具20は、例えば、管5と同じ材料によって形成される、凸形状の構造物であり得る。一方、第2の係止器具21は、例えば、載置器具8と同じ材料によって形成される、上記凸形状の構造物を受け入れることが可能な凹形状の構造物、または、上記凸形状の構造物に掛けることが可能な輪形状の構造物であり得る。勿論、第1の係止器具20の形状、および、第2の係止器具21の形状は、上述した形状に限定されない。
【0073】
勿論、本融解用器具は、第1の係止器具20、および、第2の係止器具21の両方が設けられていない構成であってもよい。
【0074】
〔1−3.管〕
本融解用器具は、上述した載置器具が収納された管を備えている。
【0075】
上記管の材料は、特に限定されず、液体窒素などによる低温状態に耐え得るものであればよい。上記管の材料としては、例えば、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体)、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート)、スチレン系樹脂(例えば、ポリスチレン、メタクリレート−スチレン共重合体、メタクリレート−ブチレン−スチレン共重合体)、ポリアミド(6 ナイロン、66 ナイロン)、ポリスルホン樹脂、フッ素樹脂、塩化ビニルおよび、ポリイミドを挙げることができる。これらの材料の中では、管が透明となり内部が可視化状態となること、内部の融解液が凍結して膨張しても割れ難いこと、および、材料そのものに細胞毒性がないこと、という利点を有していることから、塩化ビニルが好ましい。
【0076】
上記管の形状は、特に限定されず、後述する保冷器具によって覆われ得る形状であればよい。上記管の形状は、例えば、筒形状(例えば、多角柱、円柱)であり得る。
【0077】
上記管の伸長方向に対して垂直な方向への断面の形状について、任意に選択された複数の断面の形状が、同一であってもよいし、異なっていてもよい。より具体的に、上記管は、一部分が太く、他の部分が細いものであってもよい。
【0078】
上記管の形状が筒形状である場合、その内部空間の大きさは、特に限定されない。例えば、上記管の形状が円筒形状である場合、当該管の横断面に現れる円形の空間の直径は、1.8mm〜2.2mmであってもよいし、2.8mm〜3.2mmであってもよい。上記構成であれば、既存の移植用器具と管とを接合することができる。
【0079】
上記管の内部には、(i)載置器具が収納され、かつ、気体が満たされている生殖細胞収納領域であって、保冷器具によって覆われている生殖細胞収納領域と、(ii)前記ガラス化保存された生殖細胞を融解するための融解液が収納されている融解液収納領域と、が設けられている。
【0080】
生殖細胞収納領域は、管の一部の領域であって、後述する保冷器具によって覆われている領域、と規定され得る。生殖細胞収納領域の形状および大きさは、特に限定されず、管の形状および大きさ、並びに、保冷器具の形状および大きさに応じて、適宜、設定され得る。
【0081】
融解液収納領域は、管の一部の領域であって、融解液によって占められている領域、と規定され得る。融解液収納領域の形状および大きさは、特に限定されず、融解液の量に応じて、適宜、設定され得る。
【0082】
融解液収納領域の数は、特に限定されず、複数形成されてもよい。例えば、生殖細胞収納領域に隣接して第1の融解液収納領域が形成され、当該第1の融解液収納領域に隣接して、気体が満たされている第1の緩衝領域が形成され、当該第1の緩衝領域に隣接して第2の融解液収納領域が形成され、当該第2の融解液収納領域に隣接して、気体が満たされている第2の緩衝領域が形成され、当該第2の緩衝領域に隣接して第3の融解液収納領域が形成されてもよい(3つの融解液収納領域が形成される場合の、配置の一例)。
【0083】
生殖細胞収納領域に満たされる気体は、特に限定されないが、例えば、生殖細胞に対して無害であって、かつ、滅菌された気体であることが好ましい。上記気体としては、例えば、フィルターによって滅菌された空気を挙げることができる。
【0084】
融解液としては、特に限定されず、公知の融解液を用いることができる。例えば、PBS(phosphate buffered saline)などに、0.1M〜0.5Mの濃度にてシュクロースを添加したものを、融解液として用いることができる。また、当該融解液に、更に、10%〜30%の濃度にて血清を添加してもよい。
【0085】
〔1−4.保冷器具〕
本保冷器具は、管の外側に設けられ、かつ、生殖細胞収納領域を覆っているものである。保冷器具によって、生殖細胞収納領域、より具体的に、生殖細胞収納領域内に収納されている生殖細胞の温度変化を抑制し、生殖細胞を低温環境下に長時間、配置させることができる。
【0086】
保冷器具を形成する材料は、特に限定されないが、例えば、熱容量が、1300J/K以上のものが好ましく、1500J/K以上のものが更に好ましく、1700J/K以上のものが更に好ましく、2000J/K以上のものが更に好ましく、2500J/K以上のものが更に好ましく、3000J/K以上のものが更に好ましく、3500J/K以上のものが最も好ましい。上記構成によれば、載置器具上に載置された生殖細胞を低温環境下に、より長時間、配置させることができる。
【0087】
保冷器具を形成する材料は、より具体的に、シリコンゴム、エポキシ樹脂、銅、ステンレス、アルミニウム、ポリエチレン、ポリプロピレン、または、ポリスチレンであってもよい。なお、下記の表1に、各材料の熱容量を記載する。
【0089】
保冷器具の形状は、管の一部分を覆うことができる形状であればよく、特に限定されない。保冷器具の形状の一例を、
図4を用いて説明する。
【0090】
図4に示すように、例えば、保冷器具6は、内部に管を挿入させる、筒状の形状を有するものであり、当該筒は、筒の伸長方向に対して垂直な方向への断面において、筒の壁の厚さXが、0.2mm以上のもの、好ましくは0.6mm以上のもの、最も好ましくは10mm以上のものであり得る。上記構成であれば、保冷器具6の内側の空間内に配置されている載置器具(
図4には図示せず)上に載置された生殖細胞を低温環境下に、より長時間、配置させることができる。
【0091】
図4に示すように、保冷器具6は、内部に管を挿入させる、筒状の形状を有するものであり、当該筒は、伸長方向への長さYが、6mm以上、好ましくは20mm以上のもの、最も好ましくは30mm以上のものであり得る。上記構成であれば、保冷器具6の内側の空間内に配置されている載置器具(
図4には図示せず)上に載置された生殖細胞を、保冷器具6の端部(換言すれば、
図4に示す保冷器具6の上面および下面)から3mm以上離れた位置に配置することができる。その結果、上記構成であれば、保冷器具6の内側の空間内に配置されている載置器具(
図4には図示せず)上に載置された生殖細胞を低温環境下に、より長時間、配置させることができる。
【0092】
〔1−5.隔壁〕
本融解用器具では、管の外側に、隔壁が設けられており、当該隔壁は、保冷器具が曝される雰囲気Aと、融解液収納領域が設けられている管の部分が曝される雰囲気Bとを分離するものであってもよい。上記構成によれば、雰囲気Aと雰囲気Bとを異なる雰囲気にした場合であっても、隔壁が存在することによって、保冷器具によって覆われている載置器具上に載置された生殖細胞が、雰囲気Bの影響(例えば、雰囲気Bの温度の影響)を受けることが少なくなる。その結果、生殖細胞を低温環境下に配置させた状態を維持しつつ、融解液を生殖細胞の融解により適した状態にする(例えば、生殖細胞を低温環境下に配置させた状態を維持しつつ、凍結している融解液を融解した状態にする)ことができる。
【0093】
図5に示すように、例えば、隔壁30は、管5の外側に、保冷器具6に隣接するように設けられ得る。そして、隔壁30を境として、本融解用器具が曝される雰囲気が、雰囲気Aと雰囲気Bとに分けられる。
【0094】
雰囲気Aおよび雰囲気Bは、気層であってもよいし、液層であってもよい。例えば、(a)雰囲気Aを低温の気層とし、雰囲気Bを雰囲気Aよりも高温の気層としてもよいし、(b)雰囲気Aを低温の気層とし、雰囲気Bを雰囲気Aよりも高温の液層としてもよい。より速やかに融解液を生殖細胞の融解により適した状態にする(例えば、凍結している融解液を融解した状態にする)という観点からは、上記(a)よりも上記(b)の方が好ましい。
【0095】
上記(a)の場合には、隔壁30は、例えば、気体を通過させない板であり得る。なお、当該板を構成する材料、並びに、当該板のサイズおよび形状は、特に限定されない。
【0096】
上記(b)の場合には、隔壁30は、融解液収納領域11を液層中に沈め、保冷器具6を気層中に留め、かつ、自身が液層上に浮かぶことができる、フロート板であり得る。なお、当該フロート板を構成する材料(例えば、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ウレタン系スポンジ、合成ゴム、各種エラストマー等の発泡樹脂材料)、並びに、当該フロート板のサイズおよび形状は、特に限定されない。
【0097】
なお、フロート板の代わりの構成として、液層の水深と同じ高さの台を沈め、その上に穴があいた板を設置したものを使用することも可能である。この場合には、上記穴に、融解用器具を挿入し、融解液収納領域を液層中に沈め、保冷器具を気層中に留めればよい。その際、台の材質はステンレス、板の材質はポリスチレンなどを使用可能である。
【0098】
フロート板または板に設ける、融解用器具を挿入するための穴の大きさは、保冷器具よりも小さく、かつ、管よりも大きいことが好ましい。
【0099】
〔2.ガラス化保存された生殖細胞の融解用器具の変形例〕
本融解用器具において、保冷器具61は、保冷剤(例えば、液体窒素)を貯留するための空間を有するものであってもよい。保冷器具61は、例えば、保冷器具61の壁面と管5との間に、保冷剤を貯留するための空間を形成する形状ものであってもよい。上記構成によれば、保冷剤中で冷却されている融解用器具を保冷剤から取り出したときに、上記空間内に保冷剤が貯留される。そして、ガラス化された生殖細胞を、融解した融解液へ浸漬させるまでの間、空間内に貯留された保冷剤によって、生殖細胞収納領域内の環境をより長く低温に維持することができる。
【0100】
保冷器具61には、上記空間を塞ぐための底部62が備えられていてもよいし、上記空間を塞ぐための底部62および蓋63の両方が備えられていてもよい。底部62が備えられていれば、空間内に確実に保冷剤を貯留することができる。一方、底部62および蓋63の両方が備えられていれば、空間内に確実に保冷剤を貯留することができるとともに、空間内の保冷剤が気化等によって失われることを防ぐことができる。
【0101】
保冷器具61の一例を、
図10(a)および
図10(b)を用いて説明する。
図10(a)および
図10(b)は、管5に装着された保冷器具61の断面図であり、
図10(a)は、底部62および蓋63の両方が設けられている保冷器具61を、
図10(b)は、底部62のみが設けられている保冷器具61をそれぞれ示している。保冷器具61を形成する材料は、特に限定されないが、〔1−4.保冷器具〕において上述した熱容量および材料のものが用いられ得る。
【0102】
図10(a)に示すように、保冷器具61は、内部に管を挿入させる筒状の形を有するものであり、当該筒は、筒の伸長方向に対して垂直な方向への断面において、筒の壁の厚さX’が0.2mm以上、好ましくは0.5mm以上のものであり得る。上記構成であれば、保冷剤貯留領域64内に多量の保冷剤を貯留でき、かつ生殖細胞収納領域10内に配置されている、載置器具8上に載置された生殖細胞をより長時間、低温環境下に配置させることができる。
【0103】
図10(a)に示すように、保冷器具61は、上記筒の伸長方向の長さY’が、6mm以上、好ましくは20mm以上のもの、最も好ましくは30mm以上のものであり得る。上記構成であれば、生殖細胞収納領域10内に配置されている載置器具8上に載置された生殖細胞を、保冷器具61の端部(換言すれば、
図10(a)に示す保冷器具61の上面および下面)から3mm以上離れた位置に配置することができる。更に、上記構成であれば、保冷剤貯留領域64内に、より多量の保冷剤を貯留でき、載置器具8上に載置された生殖細胞をより長時間、低温環境下に配置させることができる。
【0104】
図10(a)に示すように、上述した空間の幅Zは、0.5mm以上1.5mm以下、好ましくは0.7mm以上1.2mm以下である。上記構成であれば、保冷剤貯留領域64内に、より多量の保冷剤を貯留でき、載置器具8上に載置された生殖細胞をより長時間、低温環境下に配置させることができるのみならず、保冷器具61の外径を細くすることができる。
【0105】
図10(a)に示すように、保冷器具61はその一端に、保冷剤を貯留するための底部62を備え得る。底部62は、保冷剤貯留領域64内に侵入した保冷剤を該領域内に留めるという観点から、高密度材料によって形成されていることが好ましい。底部62を構成する材料としては、例えば、天然スポンジ、メラミンスポンジ、シリコン等が挙げられる。当該構成であれば、底部62は、保冷剤貯留領域64内に侵入した保冷剤を該領域内に留めるのみならず、保冷剤を保冷剤貯留領域64内へ侵入させることもできる。
【0106】
図10(a)に示すように、保冷器具61はその他端に、保冷剤を覆うための蓋63を備え得る。蓋63を構成する材料としては、底部62を構成する材料と同様の材料を用いることができる。但し、蓋63は、保冷剤を保冷剤貯留領域64内に容易に侵入させるという観点から、底部62を形成する材料と比べて、低密度の材料によって形成されていることが好ましい。
【0107】
底部62および蓋63は、管5と保冷器具61との間の間隙を全て埋めるように設けられてもよいし、管5と保冷器具61との間の間隙を一部埋めるように設けられてもよい。
【0108】
図10(c)を用いて、保冷剤が液体窒素貯留領域64内に留まるメカニズムを説明する。
【0109】
融解用器具は、まず、融解液収納領域11内に融解液が吸引された後、保冷器具61を装着した状態で、保冷剤中に配置される。その後、融解用器具を構成する管5内へ、ガラス化した生殖細胞が載置された載置器具8が挿入され、当該融解用器具が、保冷剤中で冷却される。このとき、保冷剤が保冷剤貯留領域64内へ入り込む(図中矢印)。
【0110】
その後、融解用器具が、鉛直方向に立った状態で、保冷剤から取り出される。この時、保冷剤貯留領域64内に入り込んだ保冷剤は、底部62により、保冷剤貯留領域64内に貯留される。そして、保冷剤貯留領域64内の保冷剤が気化等によって失われるまでの間、生殖細胞収納領域10内の生殖細胞を、低温環境下に配置することができる。
【0111】
なお、
図10(c)は、蓋63が備えられていない融解用器具を例に挙げて説明しているが、蓋63が備えられた融解用器具を用いた場合も、同様に、保冷剤貯留領域64内に保冷剤が貯留される。上述のとおり、蓋63は底部62と比べて材料の密度が小さい。そのため、融解用器具を保冷剤中に保管したときに、保冷剤は、蓋63を通り抜けて、保冷剤貯留領域64内に貯留され得る。
【0112】
なお、
図10(c)では、力伝達器具7が接続している載置器具8を用いた構成を例に挙げて説明したが、第1の係止器具20、および、第2の係止器具21を用いた構成であってもよい。
【0113】
〔3.ガラス化保存された生殖細胞の融解方法〕
本ガラス化保存された生殖細胞の融解方法は、管の内部に設けられている、(i)ガラス化保存された生殖細胞が載置されている載置器具が収納され、かつ、気体が満たされている生殖細胞収納領域であって、管の外側に設けられた保冷器具によって覆われている生殖細胞収納領域と、(ii)前記ガラス化保存された生殖細胞を融解するための融解液が凍結している状態で収納されている融解液収納領域と、のうち、融解液収納領域のみを加温して、凍結している融解液を融解させる工程と、載置器具を、融解した後の融解液と接触させる工程と、を有している。
【0114】
本ガラス化保存された生殖細胞の融解方法の各構成に関し、既に説明した構成については、ここではその説明を省略する。
【0115】
融解液収納領域のみを加温して、凍結している融解液を融解させる場合、例えば、融解液収納領域に対応する管の部分を、20℃〜38℃、好ましくは25℃〜30℃の温度にて加温することが好ましい。上記構成によれば、載置器具上に載置された生殖細胞を低温環境下に長時間、配置させた状態にて、速やかに、凍結している融解液を融解させることができる。
【0116】
載置器具を、融解した後の融解液と接触させる場合、例えば、融解液の温度は、特に限定されないが、15℃〜38℃が好ましく、25℃〜30℃であることが更に好ましい。上記構成によれば、ガラス化保存された生殖細胞を、各種障害(例えば、フラクチャー障害、および/または、脱ガラス化後の氷晶形成による障害)を受けることなく、生存率高く融解させることができる。
【実施例】
【0117】
<実施例1.本願発明と、従来のダイレクト凍結との比較>
<1−1.本願発明の融解用器具の例>
<ガラス化液の準備>
1.8Mエチレングリコール(EG)、0.3Mショ糖、および20%(v/v)FCSを含むMedium-199液(1液)を4穴シャーレに700μLずつ分注した。また、5M EG、1.0Mショ糖、および4%(w/v)BSAを含む下記の組成のM2液(2液)の30μLからなる9つのドロップを、シャーレ上に作製した。ドロップの載ったシャーレを、38℃の加温盤上で保温した。
【0118】
M2液の組成(500mL作製時)
NaCl :2.766g
KCl :0.178g
CaCl
2・2H
2O :0.1255g
KH
2PO
4 :0.081g
MgCl
2・6H
2O :0.1525g
Glucose :0.5g
HEPES :2.4845g
NaHCO
3 :0.175g
Na−pyruvate :0.018g
Na−(lactate) :1,660μL
Phenol Red :250μlL
硫酸ゲンタマイシン :2,500μL
上記を超純水(DW)で500mLにメスアップした。
【0119】
<融解液、および融解用器具の準備>
0.3Mショ糖、および20%(v/v)FCSを含むM2液を調製し、希釈溶液(融解液)とした。この希釈溶液(融解液)を35mmディッシュに2mL分注した。
【0120】
保冷器具を装着した管(塩化ビニル製、内腔断面である円の直径1.8〜1.9mm、壁面の厚さ0.1〜0.2mm)へ、希釈溶液を吸引した。その際に、保冷器具が装着された部位の管の内部には、希釈溶液が満たされないようにした。
【0121】
希釈溶液を吸引した融解用器具を液体窒素表面の冷却気層中で緩慢に冷却し希釈溶液を凍結した後、液体窒素中に投入し、保冷器具を十分に冷却した。なお、保冷器具の材質はシリコンゴムまたはステンレスとし、形状は、シリコンゴムの場合は内径2mm、外径6mm(壁厚2mm)、長さ30mmであり、ステンレスの場合は内径2mm、外径4mm(壁厚1mm)、長さ30mmであった。
【0122】
<胚の採取、および、ガラス化液による胚の平衡化>
まず、通常の体外受精卵生産技術によりウシ由来胚を生産し、胚の正常性を目視検査した。
【0123】
次に、正常な1〜10個、好ましくは5個の胚を、ピペット等で1液のドロップに移して2分間平衡した。ここでのピペット等としては、パスツールピペットが好ましいが、先端部が細く微小滴を形成し易いものであればよい。
【0124】
1液による平衡化が終了した後、胚を2液のドロップに移し、直ちに胚を次の2液のドロップに移す作業を7ドロップ繰り返した。続いて、2液と共に胚をピペット等で吸い、胚の載置器具(プラスチック製)の先端の上に、胚の入ったガラス化液を薄く延ばして置いた。胚を載置する際は、胚を1個または複数載置しても構わない。
【0125】
<ガラス化保存>
上述した胚載置器具の胚が載置された部位のみを、直ちに液体窒素中に浸漬させた。
【0126】
次いで、あらかじめ液体窒素中に投入しておいた融解用器具に、胚を載置した載置器具を収容し、当該融解用器具の全体を液体窒素中に沈めた。これにより、胚を含むガラス化液は、載置器具および融解用器具に保持された状態で凍結した。
【0127】
なお、上述した<胚の採取、および、ガラス化液による胚の平衡化>にて胚を2液に移してから、液体窒素に浸漬するまでの作業は、1分以内に行った。
【0128】
その後、凍結した胚を融解するときまでは、融解用器具ごとを超低温下で保存することができる。
【0129】
<胚の融解方法>
液体窒素を入れた容器に、凍結胚を載置した載置器具が挿入された融解用器具を移した。30℃の温湯を用意し、穴が開いたフロート板を水面に浮かべた。フロート板の材質としては、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ウレタン系スポンジ、合成ゴム、各種エラストマー等の発泡樹脂材料など、水に浮かぶものを使用した。
【0130】
次いで、載置器具を挿入した融解用器具を液体窒素の外に出し、当該融解用器具をフロート板の穴に挿入し、この状態で融解液を10秒間加温した。その際、保冷器具よりも下にある融解液の全体が温湯に浸るまで、融解用器具をフロート板の穴に挿入した。
【0131】
融解液を10秒間加温した後、融解用器具を温湯に浸した状態を維持したまま、胚を載置した載置器具を管内に押込み、載置器具の先端の胚を、融解液内に浸して融解した。1分間静置した後、載置器具を管から抜きとった。
【0132】
<1−2.従来のダイレクト凍結>
<ダイレクト凍結用の凍結溶液の準備>
1.8Mエチレングリコール(EG)、0.4%BSA(w/v)、0.1Mショ糖、および20%(v/v)FCSを含むM2液(3液)の700μLを4穴シャーレに分注するとともに、35mmシャーレ2枚分に2mLずつ分注した。ドロップの載ったシャーレは38℃の加温盤上で保温した。
【0133】
M2液としては、<ガラス化液の準備>の欄で説明したものを用いた。
【0134】
<胚の採取、および、凍結溶液による胚の平衡化>
まず、通常の体外受精卵生産技術によりウシ由来胚を生産し、胚の正常性を検査した。
【0135】
次に、正常な1〜10個、好ましくは5個の胚を、ピペット等で3液が入った4穴シャーレに移し、1穴ずつ移動させた後、2mLの凍結溶液が入った35mmディッシュに移動させ、5分間平衡化させた。ここで、ピペット等としては、パスツールピペットが好ましいが、先端部が細く微小滴を形成し易いものであればよい。
【0136】
3液の平衡化が終了した後、胚を含む凍結溶液を凍結用の管(塩化ビニル製、内腔断面である円の直径1.8〜1.9mm、壁面の厚さ0.1〜0.2mm)内に吸引し、吸い口を溶着して封入した。なお、当該管には、本願発明のような保冷器具が設けられていない。
【0137】
上記管を、−7℃に維持されたプログラムフリーザーに設置し、−7℃〜−30℃にまで0.3℃/分の極めて緩慢な速度で冷却した後、液体窒素に入れて−30℃〜−196℃にまで、急速な冷却速度で凍結した。
【0138】
<胚の融解方法>
液体窒素中にある、ダイレクト凍結された胚を保持している管を、空気中に6〜10秒間(より具体的に8秒間)維持し、当該管を緩慢に加温した。次いで、30〜35℃の温湯に管を投入して、15秒間加温し、ダイレクト凍結された胚を融解した。
【0139】
<1−3.試験結果>
<融解後の胚の体外培養試験>
融解後の各胚をM2液で7回洗浄した後、当該胚を、5%O
2、5%CO
2、および38.5℃の環境のインキュベーター内で、GlycinおよびTaurinを添加したmSOF液を用いた微小滴培養法で培養した。
【0140】
培養開始から24時間、および、48時間後の胚の発育状態(生存率)を調べた。なお、具体的に、胚の生存率は、融解後、胚が胞胚腔を再形成することを観察する方法によって確認した。
【0141】
<試験結果1>
図6に、本願発明の実施例である融解用器具(保冷器具の材質としてシリコンゴムを用いた場合)の各部位における温度変化を示す。
図6に示すように、本願発明の実施例である融解用器具では、生殖細胞収納領域(シリコンで覆われた気層)の温度変化が、非常に小さかった。
【0142】
<試験結果2>
表2に、培養開始から48時間後の胚の生存率の試験結果を示す。表2から明らかなように、本発明では、胚の生存率が非常に高かった。
【0143】
【表2】
【0144】
<実施例2.保冷器具の壁厚に関する試験>
3mm、2mm、1.5mm、1mm、または0.5mmの壁厚のシリコンを保冷器具として用いた場合について、生殖細胞収納領域(シリコンで覆われた気層)の温度変化を測定した。なお、その他の条件は、基本的に<実施例1>と同じ条件を採用した。
【0145】
本実施例の測定結果を
図7に示す。
図7から明らかなように、壁が厚くなるにしたがって、生殖細胞収納領域の温度変化を小さくできることが明らかになった。具体的に、3mm壁および2mm壁シリコンを用いた場合に、最も生殖細胞収納領域の温度の変化の推移が少なかった。
【0146】
<実施例3.保冷器具の材質に関する試験>
0.5mm、1.5mm、2mmの壁厚のシリコンを保冷器具として用いた場合、および、0.2mmの壁厚のステンレスを保冷器具として用いた場合について、生殖細胞収納領域(シリコンで覆われた気層、または、ステンレスで覆われた気層)の温度変化を測定した。なお、その他の条件は、基本的に<実施例1>と同じ条件を採用した。
【0147】
本実施例の測定結果を
図8に示す。
図8から明らかなように、0.5mm〜2mmの壁厚のシリコン、および0.2mmの壁厚のステンレスを用いた場合、生殖細胞収納領域の温度変化を小さくできることが明らかになった。
【0148】
<実施例4.保冷器具に覆われた生殖細胞収納領域の様々な位置における温度変化に関する試験>
本試験では、保冷器具の材質はシリコンゴムとし、形状は、内径2mm、外径6mm(壁厚2mm)、長さ30mmであった。また、その他の条件は、基本的に<実施例1>と同じ条件を採用した。
【0149】
融解液収納領域、生殖細胞収納領域の両末端から3mmの領域、及び、生殖細胞収納領域の中段の領域の温度変化について測定した。測定結果を
図9に示す。
図9から明らかなように、生殖細胞収納領域の両末端から3mmの領域、及び、生殖細胞収納領域の中段の領域では、温度変化が小さいことが明らかになった。生殖細胞収納領域の中段、および、生殖細胞収納領域の下部から3mmの位置では、生殖細胞収納領域の上部から3mmの場合に比べて、温度変化が更に緩やかであった。
【0150】
<実施例5.変形例の保冷器具の例>
<5−1.変形例の保冷器具の場合>
<ガラス化液の準備>
上述した<1−1.本願発明の融解用器具の例>の<ガラス化液の準備>にて説明した方法にしたがって、ガラス化液を準備した。
【0151】
<融解液、および融解用器具の準備>
0.3Mショ糖、および20%(v/v)FCSを含むM2液を調製し、希釈溶液(融
解液)とした。この希釈溶液(融解液)を35mmディッシュに2mL分注した。
【0152】
保冷器具を装着した管(塩化ビニル製、内腔断面である円の直径1.9〜2.1mm、壁面の厚さ0.05〜0.15mm)へ、希釈溶液を吸引した。その際に、保冷器具が装着された部位の管の内部には、希釈溶液が満たされないようにした。
【0153】
希釈溶液を吸引した融解用器具を液体窒素表面の冷却気層中で緩慢に冷却し希釈溶液を凍結した後、液体窒素中に投入し、保冷器具を十分に冷却した。このとき、保冷器具を水平方向に倒した状態で液体窒素中へ静置し、これによって、液体窒素を保冷剤貯留領域内側へ侵入させ、液体窒素を保冷剤貯留領域内に貯留した。なお、保冷器具の材質はシリコンゴムまたはステンレスとし、形状は、シリコンゴムの場合は内径4.0mm、外径6.0mm(壁厚1.0mm)、長さ30mmであり、ステンレスの場合は内径3.6mm、外径4.0mm(壁厚0.2mm)、長さ30mmであった。また、蓋の材質としては、メラミンスポンジを用い、底部の材質としては、シリコンを用いた。このとき、
図10の(a)に示す「Y’」、「X’」および「Z」の値は、シリコンゴム製の場合は各々30mm、1.0mm、および1.0mm、ステンレス製の場合は各々30mm、0.2mmおよび0.8mmであった。
【0154】
<胚の採取、ガラス化液による胚の平衡化およびガラス化保存>
胚の採取、ガラス化保存および胚の融解方法については、上述した<1−1.本願発明の融解用器具の例>の<胚の採取、および、ガラス化液による胚の平衡化>、<ガラス化液の準備>、および、<ガラス化保存>にて説明した方法にしたがった。
【0155】
<胚の融解方法>
液体窒素を入れた容器に、凍結胚を載置した載置器具が挿入された融解用器具を移した。30℃の温湯を用意し、穴が開いたフロート板を水面に浮かべた。フロート板の材質としては、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ウレタン系スポンジ、合成ゴム、各種エラストマー等の発泡樹脂材料など、水に浮かぶものを使用した。
【0156】
次いで、載置器具を挿入した融解用器具を液体窒素の外に出し、当該融解用器具をフロート板の穴に挿入し、この状態で融解液を10秒間加温した。その際、保冷器具よりも下にある融解液の全体が温湯に浸るまで、融解用器具をフロート板の穴に挿入した。
【0157】
この時、保冷剤貯留領域内に貯留された液体窒素により、載置器具上に載置された凍結胚が配置されている生殖細胞収納領域内が低温状態に維持されている。
【0158】
融解液を10秒間加温した後、融解用器具を温湯に浸した状態を維持したまま、胚を載置した載置器具を管内に押込み、載置器具の先端の胚を、融解液内に浸して融解した。1分間静置した後、載置器具を管から抜きとった。
【0159】
<5−2.本願発明の実施例の場合>
ガラス化液の準備、融解液、胚の採取、ガラス化液による胚の平衡化、ガラス化保存および胚の融解方法までは、<1−1.本願発明の融解用器具の例>に記載の手順にて行った。
【0160】
また、融解用器具は、<1−1.本願発明の融解用器具の例>に記載の構成のものを用いた。(具体的に、保冷器具を装着した管(塩化ビニル製、内腔断面である円の直径1.8〜1.9mm、壁面の厚さ0.1〜0.2mm)を備えた融解用器具であって、保冷器具の材質が、シリコンゴムまたはステンレスであり、保冷器具の形状が、シリコンゴムの場合は内径2mm、外径6mm(壁厚2mm)、長さ30mm、ステンレスの場合は内径2mm、外径4mm(壁厚1mm)、長さ30mmである、融解用器具。)
<5−3.従来のダイレクト凍結>
ダイレクト凍結用の凍結溶液の準備、胚の採取、凍結溶液による胚の平衡化および胚の融解方法については、<1−2.従来のダイレクト凍結>に記載の手順にて行った。
【0161】
<5−4.試験結果>
<融解後の胚の体外培養試験>
融解後の各胚をM2液で7回洗浄した後、当該胚を、5%O
2、5%CO
2、および38.5℃の環境のインキュベーター内で、GlycinおよびTaurinを添加したmSOF液を用いた微小滴培養法で培養した。
【0162】
培養開始から24時間、および、48時間後の胚の発育状態(生存率)を調べた。なお、具体的に、胚の生存率は、融解後、胚が胞胚腔を再形成することを観察する方法によって確認した。
【0163】
<試験結果1>
図11に、本願発明の変形例の融解用器具(保冷器具の材質としてシリコンゴムを用いた場合)の生殖細胞収納領域(保冷器具で覆われた気層)内における温度変化、および、本願発明の実施例の融解用器具(保冷器具の材質としてシリコンゴムを用いた場合)の生殖細胞収納領域(保冷器具で覆われた気層)内における温度変化を示す。
図11に示すように、本願発明の変形例である融解用器具は、本願発明の実施例である融解用器具よりも、生殖細胞収納領域内の温度変化がさらに小さかった。
【0164】
<試験結果2>
表3に、培養開始から48時間後の胚の生存率の試験結果を示す。表3から明らかなように、本願発明の実施例の融解用器具は、ダイレクト凍結と比較して、胚の生存率が非常に高かった。さらに、本願発明の変形例の融解用器具は、本願発明の実施例の融解用器具と比較して、胚の生存率が更に高かった。
【0165】
【表3】
【0166】
<試験結果3>
表4に、融解した胚を構成している細胞を培養し、培養開始してから48時間後における、生きている細胞、および、死んでいる細胞をカウントした試験結果を示す。表4から明らかなように、本願発明の変形例の融解用器具を用いた場合には、本願発明の実施例の保冷融解用器具を用いた場合に比べて、胚を構成している全細胞のうち生きている細胞の割合が高かった。
【0167】
ここで、「生細胞」とは、生きている細胞であって、細胞が変性しておらず、かつ、正常に細胞分裂を行うことのできる細胞を意図する。また、「死細胞」とは、死んでいる細胞であって、細胞の外観に異常がみられ、かつ、正常に細胞分裂を行うことのできない細胞を意図する。
【0168】
【表4】
【解決手段】融解用器具(1)は、載置器具(8)、管(5)および保冷器具(6)を備え、管(5)内に、(i)載置器具(8)を収納し、保冷器具(6)にて覆われている生殖細胞収納領域(10)と、(ii)融解液を収納する融解液収納領域(11)と、が設けられ、載置器具(8)は、融解した融解液と接触する。