【文献】
アイ バン トラン, 田宮 寛明,“ペーパースラッジからなる多孔質粒状炭化焼成物による放射性物質汚染土壌の除染調査”,第3回環境放射能除染研究発表会要旨集,一般社団法人 環境放射能除染学会,2014年 7月 3日,p.107
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0003】
放射性セシウム汚染粒状物質、特に土壌に関する一般な除染処理は、2つの方法がある。第一の方法は、主に機械的な処理による方法である。汚染土壌においては、放射性セシウムの大部分を含む粒径の小さい土壌と放射性セシウムの少ない部分を含む粒径の大きい土壌を分級され(特許文献1)、あるいは第一ステップとして放射性セシウム汚染土壌を焼却炉にて焼却し、減容化した汚染土壌は次に分級設備で放射性セシウムの多いと少ない部分の分級を行う(特許文献2)。
【0004】
第二の方法は、放射性セシウム汚染土壌より化学薬剤溶液にて放射性セシウムを抽出する方法である。
特許文献3に記載されている抽出薬品溶液は、塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、硝酸第一鉄、硝酸第二鉄及びポリ硫酸鉄の鉄塩、並びにアンモニウム塩、カリウム塩の塩化化合物である。この抽出液は、更に塩化セシウム、グリセリン又はエチレングリコールモノエチルエーテル(EGME:セロソルブ)にて処理される。
【0005】
一方、特許文献4に記載されている抽出薬品溶液は、無機酸、有機酸等であり、この酸性溶液はアルカリで中和し、更に硫酸アンモニウムを含む洗浄水にて洗浄工程でイオン交換を行い、上清と沈殿土壌を分画する。この上清は、モルデナイト、ゼオライト等の吸着剤で放射性物を吸着させる。
【0006】
第二種放射性物質のアクチノイドのウラン、プルトニウム等においては、特許文献5によれば抽出薬品溶液は、炭酸ソーダ、シュウ酸、クエン酸、EDTA(エチレンジアミンテトラ酢酸のキレート剤)であり、また、前記抽出薬品のナトリウム塩からカリウム塩に置き換えると抽出効率が向上する。セシウムと異なって、ウラン、プルトニウム等が水に溶解しにくい為過酸化水素、オゾン、過マンガン酸カリウム等の酸化剤を前記抽出薬品溶液に添加する必要になる。
【0007】
本発明者は、ペーパースラッジからなる多孔質粒状炭化焼成物を用い、放射性物質汚染土壌の改良浄化テストを行い、放射性セシウム134及び137を放射性物質汚染土壌から除去可能であることを確認し、かつ、得られた白米の放射性物セシウム134及び137の合計の値である30Bq/kgが、日本基準値100Bq/kgより低い値であることを、特許文献6に開示した。
【0008】
ここで、ペーパースラッジからなる多孔質粒状炭化焼成物は、古紙、木材チップ単独、あるいは古紙や木材チップの両方を使用する製紙工場のペーパースラッジを炭化焼成することからなり、以下の構成である。
【0009】
(1)pH8以上、望ましくはpH10以上、アルカリ相当値1.0〜4.0meq/g(NaOH)、望ましくは1.5〜2.5meq/g(NaOH)、カチオン交換容量1.0〜4.0meq/100g(NH
4+)、望ましくは1.5〜3.0meq/100g(NH
4+)、電気伝導度70〜150μS/cm、ナトリウム(Na)含有率:0.0003%以上、カリウム(K)含有率:0.0003%以上、有機分が25%未満、無機分が75%以上であるペーパースラッジからなる多孔質粒状炭化焼成物を、古紙、木材チップの単独あるいは古紙や木材チップの両方を使用する製紙工場からのペーパースラッジを炭化焼成することで生成し、ペーパースラッジからなる多孔質粒状炭化焼成物を放射性物質汚染土壌に拡散や混合し、ヨウ素を含浸し、またはセシウムとのイオン交換を行うことで、放射性物質を前記放射性物質汚染土壌から除去する放射性物質汚染土壌の改良浄化方法。
(2)前記ペーパースラッジからなる多孔質粒状炭化焼成物の製造工程には、ヨウ化カリウム(KI)溶液への含浸工程が含まれない場合、TEDAの溶液への含浸工程が含まれない場合、KIとTEDAとの混合物の溶液への含浸工程も含まれない場合、のいずれであってもよい。
(3)前記放射性物質汚染土壌は、放射性セシウム134及び137の合計濃度が800Bq/kg以上を含有する。
(4)前記放射性物質汚染土壌に拡散又は混合する前記ペーパースラッジからなる多孔質粒状炭化焼成物の添加量は、0.1〜6kg/m
2(0.5〜50kg/m
3)(乾土の0.1〜6重量%)、望ましくは1.0〜3.5kg/m
2(8〜30kg/m
3)(乾土の0.9〜3.3重量%)である。
(5)前記ペーパースラッジは、水分量50〜85%を有し、このペーパースラッジを造粒し、乾燥した後、乾留温度500〜1300℃、望ましくは700〜1200℃の還元炭化焼成炉で炭化焼成する。さらに望ましくは、800〜1100℃で炭化焼成する。
(6)前記ペーパースラッジからなる多孔質粒状炭化焼成物は、絶乾重量で、可燃分(炭素を含む):15〜25%、TiO
2:0.5〜3.0%、Na
2O:0.0001〜0.0005%、K
2O:0.0001〜0.0005%、SiO
2:15〜35%、Al
2O
3:8〜20%、Fe
2O
3:5〜15%、CaO:15〜30%、MgO:1〜8%、その他(不純物):0.5〜3.0%を含み、これらの合計が100%であり、JIS-C2141による吸水率が100〜160%、BET吸着法による比表面積が80〜150m
2/gであり、連続気泡を有する。
(7)前記ペーパースラッジからなる多孔質粒状炭化焼成物は、容積空隙率が70%以上、空隙容積が1000mm
3/g以上を有し、平均空隙半径が20〜60μmであり、全空隙容積に占める半径1μm以上の空隙が70%以上、長径が1〜10mmの球状、楕円状、円柱状等である混合物質であり、黒色である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の実施形態に係る放射性物質汚染粒状物質の除染方法を説明する。なお、本発明は以下に限定されるものではない。
【0023】
上述したようにイオン交換可能な金属塩、5%KCl(PSC重量に対する%)、1%MgSO
4(PSC重量に対する%)及び1%CuSO
4(PSC重量に対する%)をそれぞれ多孔質粒状炭化焼成物(PSC)に含浸させた。以下、各金属化合物が含浸されたPSCを「金属名−PSC(例:5%KCl−PSC)」と記す。これらの5%KCl−PSC、1%MgSO
4−PSC、1%CuSO
4−PSCと放射性物質汚染粒状物質とを混合することにより、放射性物質汚染粒状物質の放射性セシウム134及び137とのイオン交換性が向上し、除染率も改善される。PSC単独の除染率が23.0%であるのに比べ、5%KCl−PSC、1%MgSO
4−PSC及び1%CuSO
4−PSCの除染率は、各々42.1%、35.9%及び36.1%となり、除染率が大幅に改善された。
【0024】
本発明の実施形態に係る放射性物質汚染粒状物質の除染方法は、放射性物質汚染粒状物質をリン酸ナトリウム系の分散剤と混合する前処理工程と、前処理工程を行った放射性物質汚染粒状物質を、塩化カリウム、硫酸マグネシウム及び硫酸銅の郡から選択される1又は2以上の化合物が含浸されたペーパースラッジからなる多孔質粒状炭化焼成物と混合することで、放射性物質汚染粒状物質の放射性セシウム134及び137が多孔質粒状炭化焼成物に取り込まれる除染工程を有する。
この放射性物質汚染粒状物質の除染方法は、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸銅を含浸された多孔質粒状炭化焼成物を使用する前に放射性物質汚染粒状物質は、分散剤と混合する前処理工程を行い、粒状物質の成分を十分に分散させ、あるいは粒状物質の粘土の非拡張層と拡張層の間を膨潤させる。例として、土壌の場合には、分散剤を土壌に撒いてよく混合し、粘土が砂、シルト等から十分に離れ、さらに粘土の非拡張層と拡張層の間を膨潤させた後、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸銅を含浸された多孔質粒状炭化焼成物を再び土壌に撒いてよく混合することにより、放射性物質汚染土壌の放射性セシウム134及び137とのイオン交換性を更に向上させるものである。
【0025】
学術文献によれば、放射性セシウム137は雲母鉱物を有する放射性物質汚染土壌に優先的に吸着する性質を持つ(Francis, C.W., Brinkley, F.S., 1976. Preferential adsorption of
137Cs to micaceous minerals in contaminated fresh water sediment. Nature 260, 511−513)。さらに、前記雲母鉱物を有する放射性物質汚染土壌には2.27×10
−10mole
Cs/kg
soilの放射性セシウム134及び137が含み、言い換えると放射性物質汚染土壌のセシウム134及び137の合計の60%以上が除染不可能である(Kozai,N.,Ohnuki,T.,Arisaka,M.,Watanabe,M.,Sakamoto,F.,Yamasaki,S.,Jiang,M−y.,2012.Chemical states of fallout radioactive Cs in the soils deposited at Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant accident. J.Nucl.Sci.Technol.49,473−478)。すなわち、放射性セシウム134及び137の合計の約40%がイオン交換可能になる。この結果は、本発明の5%KCl−PSC、1%MgSO
4−PSC、1%CuSO
4−PSCの除染率とほぼ同等の値である。
【0026】
雲母鉱物を有する粘土の非拡張層(1.0nm)と拡張層(1.4nm)の間には、負電荷(酸素由来)で囲まれた空孔があり、放射性セシウムはこれらの空孔に吸着される。特に前記層と層の間のV字形の中間ゾーンというフレイドエッジサイトには放射性セシウムが選択的に吸着する(Nakao,A.,Thiry,Y.,Funakawa,S.Y.,Kosaki,T., 2008.Characterization of the frayed edge site of micaceous minerals in soil clays influenced by different pedogenetic conditions in Japan and northern Thailand. Soil Sci. Plant Nutri.54, 479−489)。このため、放射性セシウムは土壌にさらに強く結合する。日本土壌は酸性であるためフレイドエッジサイトが折りたためやすく負電荷も減少する。
【0027】
放射性セシウムは、二段階にて雲母鉱物を有する粘土に吸着するという推定メカニズムである。第一段階では放射性セシウムの拡散反応は早く、反応場所は非拡張層と拡張層の間である。第二段階では放射性セシウムの拡散反応は遅く、反応場所は折りたためたフレイドエッジサイトである。(Comans,R.N.,Haller,M.,De Preter,P.,1991. Sorption of cesium on illite: Non−equilibrium behaviour and reversibility. Geochim.Cosmochim.Acta 55,433−440)。
現在では、フレイドエッジサイトでのセシウム吸着の拡散反応は実験的に確認された(Man,C.K.,Chu,P.Y.,2004.Experimental and modelling studies of radiocesium retention in soils. J Radioanal Nucl Chem 262:339−344)。さらに、フレイドエッジサイトでの拡散反応の速度は、0.009exp(−4×10
−5.t)(s
−1)と算出され、ここでの反応時間t は秒である(Ohnuki,T.,1994.Sorption characteristics of cesium on sandy soils and their components.Radiochim.Acta 65,75−80)。
【0028】
近年の学術文献によれば、放射性セシウムは初期に粘土のフレイドエッジサイトの水酸化カルシウムとの反応を行い、これによりフレイドエッジサイトが折りたためるためフレイドエッジサイトでのセシウムがカルシウムとの反応ができなく、これらのセシウムは除去不可能になる。前記セシウムは、時間の経過に伴い前記の非拡張層と拡張層の間の奥に移動し、そこでのカリウムとのイオン交換を行いながら固定される。(Fuller,A.J.,Shaw,S.,Ward,M.B.,Haigh,S.J.,Mosselmans J.F.W.,Peacock,C.L.,Stackhouse,S.,Dent,A.J., Trivedi,D.,Burke,I.T.,2015.Caesium incorporation and retention in illite interlayers. Appl. Clay Sci. 108,128−134)。
【0029】
上記の学術文献よりフレイドエッジサイト及び非拡張層と拡張層の間を分解または分裂されることによる除去することが不可能なセシウムが除染可能と考えられる。ここで、本発明の実施形態に係る放射性物質汚染粒状物質の除染方法は、放射性汚染粒状物質を先ず分散剤と混合する前処理工程を行い、フレイドエッジサイト及び非拡張層と拡張層の間を十分に拡張させる。その後、5%KCl−PSC、1%MgSO
4−PSC、1%CuSO
4−PSCを投入し、よく混合することにより除去することが不可能なセシウムは、PSCに含浸されたカリウム、マグネシウム、銅等とのイオン交換反応が促進される。そのため、放射性物質汚染粒状物質の放射性セシウム134及び137の除染率は大幅に増加するものである。
【0030】
本発明の実施形態に係る放射性物質汚染粒状物質の除染方法は、前処理工程において、リン酸系の分散剤として、ヘキサメタリン酸ナトリウム(SHMP)、トリポリリン酸ナトリウム(STPP)及びテトラピロリン酸ナトリウム(TSPP)を使用する。
【0031】
図1に示すように、ヘキサメタリン酸ナトリウム(SHMP)は、苛性ソーダで簡単に中和される弱酸である。
【0032】
ペーパースラッジからなる多孔質粒状炭化焼成物(PSC)の10gは、塩酸の1mmоl、苛性ソーダの0.01mmоlのpHを11.3に、畑土壌のpHを5.9から7.6に増加した。その結果を
図2に示す。
図1と
図2の結果を合わせると、PSCがヘキサメタリン酸ナトリウムと土壌の混合物のpHを簡単に中和できることが分かる。
【0033】
次に、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制限されるものではない。
【0034】
福島県飯舘村での放射性物質汚染土壌を2014年4月に採取し、分散剤の影響調査に使用した。放射性物質汚染土壌は固形分が90%以上になるまで風乾し、実験時には蒸留水で固形分が約80%になるように調整した。この放射性物質汚染土壌は、実施例および参考例に使用した。なお、2011年3月11日に起きた東日本大震災における原子力発電所事故により、一部の土壌から放射性物質が検出された。
【0035】
<参考例1>
放射性物質汚染土壌(80g、絶乾(OD:oven dried)重量)、5%KCl−PSC(20g、OD重量)の順でポリエチレン袋に入れ、よく混合し、25℃で、10日間放置した後、放射性セシウム134及び137を測定した。放射性物質汚染土壌の放射性セシウム134及び137は、厚生労働省「緊急時における食品の放射線測定マニュアル」、文部科学省「ゲルマニウム半導体検出器によるγ線スペクトロメトリー」を基に、Canberra製同軸型ゲルマニウム検出器で測定した。
1%MgSO
4−PSC及び1%CuSO
4−PSCにおいても、5%KCl−PSCと同様な手順で実験を行った。その結果を
図3に示す。
【0036】
<実施例1>
放射性物質汚染土壌(80g、OD重量)、ヘキサメタリン酸ナトリウム(SHMP)の5%、10%、20%(土壌重量に対する%)の3水準でポリエチレン袋に入れ、よく混合し、25℃で、2日間放置した。その後、5%KCl−PSC、1%MgSO
4−PSC、1%CuSO
4−PSC(各20g、OD重量)を各SHMP水準のポリエチレン袋に添加し、再びよく混合し、25℃で、10日間放置した後、放射性セシウム134及び137を測定した。その結果を
図3に示す。
【0037】
除染率において、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸銅を含浸させていないPSCの23%に比べ、5%KCl−PSC、1%MgSO
4−PSC及び1%CuSO
4−PSCは、各々42.1%、35.9%及び36.1%と1.6倍以上の高い結果であった。これは、PSCに含浸された塩化カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸銅と、放射性セシウムとの間でイオン交換が促進されたものと推定される。
また、放射性物質汚染土壌をヘキサメタリン酸ナトリウム(SHMP)と混合させ、前処理することにより、5%KCl−PSC、1%MgSO
4−PSC及び1%CuSO
4−PSCの除染率は、前処理をしていない5%KCl−PSC、1%MgSO
4−PSC及び1%CuSO
4−PSCの除染率よりも上がった。SHMPの添加率が5〜20%の範囲では、添加率10%で前処理したものが、最も高い除染率を示し、5%KCl−PSC、1%MgSO
4−PSC、1%CuSO
4−PSCの除染率は、全て約1.4倍増加した。特に、5%KCl−PSCの除染率が最も高く、約60%であった。これらの結果より、SHMPは土壌の粘土、砂、シルト等を分散したあるいは粘土の非拡張層と拡張層の間を広がれ、または分解/分裂されたと考えられる。
【0038】
<実施例2>
放射性物質汚染粒状物質を含む土壌を用い、各10%の、ヘキサメタリン酸ナトリウム(SHMP)、トリポリリン酸ナトリウム(STPP)、テトラピロリン酸ナトリウム(TSPP)で前処理を行った後、5%KCl−PSC、1%MgSO
4−PSC、1%CuSO
4−PSCと混合(除染)し、放射性セシウム134及び137を測定した。実験方法は、実施例1と同様に行い、その結果を
図4に示す。
【0039】
図4に示すように、5%KCl−PSC、1%MgSO
4−PSC、1%CuSO
4−PSCに関わらず、トリポリリン酸ナトリウム(STPP)、テトラピロリン酸ナトリウム(TSPP)よりも、ヘキサメタリン酸ナトリウム(SHMP)の方が、除染率への前処理効果が優れていた。除染処理効果が優れている分散剤は、SHMP>TSPP>STPPの順であった。したがって、使用されたリン酸ナトリウム系の全てにおいて、PSCの除染性を向上させることが分かった。
【0040】
上記のとおり、本実施形態によれば、放射性物質汚染粒状物質の除染において放射性物質汚染粒状物質は、先ずヘキサメタリン酸ナトリウム(SHMP)、トリポリリン酸ナトリウム(STPP)、テトラピロリン酸ナトリウム(TSPP)の郡から選択される分散剤で前処理を行った後、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸銅の郡から選択される化合物をPSCに含浸し、除染すると、前処理がない場合より除染率が大幅に改善される。
【0041】
リン酸ナトリウム系の分散剤を使用した前処理は簡単に操作でき、金属塩化合物を簡単に調整することができ、PSCにも含浸しやすく、且つ安価な市販品であるため、コスト、実用性を総合的に満たす技術である。さらに、米、食物、野菜等の生産のために除染された放射性物質汚染粒状物質(土壌)の再利用が可能になり、且つその土壌で収穫される米、食物、野菜等から放射性セシウム134及び137が検出されない又は、簡単に日本基準値より低い値とすることが可能である。
【0042】
図3及び4を検討すると、放射性物質汚染粒状物質の除染率を向上させるためには、カリウムの塩化物、マグネシウムの硫酸塩、銅の硫酸塩の化合物をPSCに含浸すべきである。さらに、放射性物質汚染粒状物質の除染率の相乗効果を図るには、カリウムの塩化物、マグネシウムの硫酸塩、銅の硫酸塩の可能な6の組み合わせの内の2以上の複数化合物をPSCに含浸することができる。
【0043】
また、放射性物質汚染粒状物質の除染率の相乗効果を図るには、分散剤においても、ヘキサメタリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラピロリン酸ナトリウムの可能な6の組み合わせの内の2以上の複数化合物が含浸された分散剤を使用して前処理を行うべきである。
【0044】
また、放射性物質汚染粒状物質として、農地、民間居住地域、公共施設等の土壌、排水、下水等の処理施設に堆積又は排出される、スラッジ、岩石粒子、堆積土砂、浚渫土砂を対象とする。なお、本実施形態に係る放射性物質汚染粒状物質の除染方法は、上記の場所等に限定されず、放射性物質汚染粒状物質が含有され得る場所に堆積又は排出されるスラッジ、堆積土砂等に適用することができる。
【0045】
また、前処理した放射性物質汚染粒状物質と、塩化カリウム等の金属塩を含浸させていないPSCとを混合させた場合でも、除染率は向上する。これは、放射性物質汚染粒状物質をナトリウム塩系の分散剤により前処理することで、放射性物質汚染粒状物質の構造が緩められ、内部空間が大きくなり、PSCと混合させた場合に、放射性セシウム134及び137がPSCに取り込まれやすくなるためである。
【0046】
次に、上記した5%KCl―PSC、1%MgSO
4−PSC、1%CuSO
4―PSCの実施例以外にも有用である金属-PSCの例について説明する。
PSCと放射性物質汚染土壌との混合時において、放射性物質汚染土壌に含まれる放射性セシウム134及び137等の放射性物質のPSCへの影響を、ラボテストにて調査した。この試験では、2012年夏に福島県飯舘村で採取した放射性物質汚染土壌(100g、OD)をポリエチレン袋に入れ、メシュ袋に入れたPSC(10g、OD)を放射性物質汚染土壌に埋設し、25℃で10日間放置した。一方、ブランク試験では、同放射性物質汚染土壌(100g、OD)とPSC(10g、OD)とをポリエチレン袋に入れてよく混ぜた後、同じ条件下で試験を行った。放射性物質汚染土壌、PSCの各々の放射性セシウム134及び137、pH、イオン交換容量(CEC:cation exchange capacity)、汚染前後のPSCの金属組成を測定した。放射性物質汚染土壌及びPSCの品質結果を表1および
図5に示し、汚染前後のPSCの金属組成を表2に示す。なお、2011年3月11日に起きた東日本大震災における原子力発電所事故により、福島県では一部の土壌に放射性物質汚染粒状物質が含まれている。
【0047】
図5に示すように、放置期間が長いほど放射性物質汚染土壌の放射性セシウム134及び137が減少し、逆にPSCの放射性セシウム134及び137が増加するため、放射性物質汚染土壌の放射性セシウムは、部分的にPSCに移転したと推定できる。
【0048】
上記ラボテストによって10日間放置した結果を表1に示す。放射性物質汚染土壌にPSCを埋設した試験において、放射性物質汚染土壌の残留放射性セシウム134及び137の合計と、PSCに吸着した放射性セシウム134及び137との合計は、埋設試験前の放射性物質汚染土壌の放射性セシウム134及び137の合計と、ほぼ同等の値となった。一方で、放射性物質汚染土壌とPSCとを均一に混合したブランク試験では、混合物の放射性セシウム134及び137の合計が、試験前の放射性物質汚染土壌の放射性セシウム134及び137の合計よりも低い。そのため、放射性物質汚染土壌の除染効率の向上を図るためには、PSCが、可能な限りに多くの放射性物質汚染土壌と接触することが望ましいことがわかる。さらに、汚染後のPSCは汚染前に比べ、pH、陽イオン交換容量(CEC)が共に下がり、PSCが放射性物質汚染土壌の放射性セシウム134及び137とのイオン交換反応を行うこともわかる。
【0050】
上記の変化に加えて、表2に示すように、PSCのうち、塩素、硫黄、カリウム、バリウム、銅、マグネシウム、カルシウム、鉄等の構成要素が減少した。したがって、カリウム、バリウム、銅、マグネシウム、カルシウム、鉄等の金属塩化合物が、放射性セシウム134及び137を含む放射性物質汚染土壌の放射性物質とのイオン交換を行ったと推定される。
【0052】
元素の周期律表を基にセシウムは、ナトリウムやカリウムと同じアルカリ金属に分類され、これらの元素と同様に振る舞うことがわかっている。一方、原子力発電所事故や核実験等の核分裂反応から発生する放射性セシウムは大気中に分散し、土壌へ降下する。負荷電を持つ土壌はこれらの陽イオンのセシウムを引き付けて留める。特に、粘土鉱物の表面OH
−基を含む負電荷で、降下した放射性セシウムを閉じ込める。これらは単なる物理的吸着現象である。(http://jssspn.jp/info/secretariat/4317.html)。
【0053】
本実施形態では、土壌に吸着した放射性セシウムが、PSCの構成要素であるカリウム、バリウム、銅、マグネシウム、カルシウム、鉄等とのイオン交換を行い、結果としてPSCが放射性汚染されることが判明した。したがって、放射性物質汚染土壌の放射性セシウムは、PSCの多孔質粒状に単に物理的に吸着しないことが分かる。
【0054】
学術文献によれば、放射性ナトリウム23、放射性カルシウム40等は、粘土とのイオン交換を行うことが実験的に明らかにされている。また、粘土の放射性ナトリウム22は放射性ナトリウム23溶液と、粘土の放射性カルシウム39は放射性カルシウム40溶液とのイオン交換をする際、交換するイオン元素が、交換されるイオン元素よりも質量数が1ポイント低いことが分かる。(Ferris,A.P.,Jepson,W.B.,1975.The exchange capacities of kaolinite and the preparation of homoionic clays.Journal of Colloid and Interface Science,51(5),245−259)。
【0055】
放射性セシウム134及び137は、上記のPSCのカリウム、バリウム、銅、マグネシウム、カルシウム、鉄等とのイオン交換を行う時の反応製品の特定、半減期等が未知である。さらに、前記の安定的金属が放射性セシウム134及び137とのイオン交換を行う際、Cu64、Fe59、Zn65、Ca47、Mg28等のアイソトープが生成されることも未知である。また、これらの重金属のアイソトープが発生する場合、放射性セシウム134及び137が、他のセシウムのアイソトープに変身することも未知であるが、放射性物質汚染土壌の放射性セシウム134及び137が減少することから、変身の可能性が高いと考えられる。
【0056】
しかし、上記学術文献によれば放射性物質汚染土壌とPSCとを混合する際、放射性セシウム134がPSCへイオン交換され、安定的なセシウム133に壊変し、同様に、放射性セシウム137が半減期の短い放射性セシウム136に壊変すると推定される。この推定によれば、本実施形態で確認されたPSCとの接触による放射性物質汚染土壌の放射性セシウム134及び137の減少が解明可能になる。なお、セシウムは39種のアイソトープがあり、半減期において、放射性セシウム137及び134は、各々30年、2年、質量数の132、135m、136、138、138mは各々6.5日、53分、13.2日、33分、3分、その他のアイソトープの殆どは数秒から何分の一秒である。
【0057】
放射性セシウム134及び137と、PSCのカリウム、バリウム、銅、マグネシウム、カルシウム、鉄等とのイオン交換反応によれば、これらの金属をPSCにさらに増加することでイオン交換反応が増強され、その結果、放射性物質汚染土壌のPSCによる除染効率が向上する。この推測を確認するため、金属の塩化物、硫酸塩、及び、カリウムと鉄とが共に含まれたフェロシアン化カリウム化合物からなる群から選択される1または2以上の化合物をPSCに含浸させ、放射性物質汚染土壌の除染効果を調査した。なお、PSCの塩素、硫黄は、一般に単独で存在せず、前記の金属と結合して金属塩化合物を生成する。ただし、硫酸バリウム、硫酸カルシウム共殆ど水に溶解しないためこれらの化合物の実験を行わなかった。
【0058】
塩化化合物、硫酸化合物、カリウムと鉄とが共に含まれたフェロシアン化カリウム化合物をPSCに含浸するには、PSCの使用重量と同等量のイオン交換水、あるいは蒸留水に、PSCの重量に対する0.5%以上10%以下の金属化合物量を溶解させる。これらの溶液にPSCを浸漬し、25℃で液がなくなるまで乾燥する。
【0059】
下記に示すように、カリウム、バリウム、銅、マグネシウム、カルシウム、鉄等の塩化物のうち、塩化カリウムのみが使用可能である。一方で、カリウム、銅、マグネシウム、鉄等の硫酸塩のうち、カリウム、銅、マグネシウムが使用できる。これらの化合物の単独あるいは可能な6の組み合わせのうちの2以上の複数硫酸化合物が使用可能である。さらに、フェロシアン化カリウムも応用できる。金属の塩化物、硫酸塩及びフェロシアン化カリウムを組み合わせて使用する場合、これらの化合物の可能な120の組み合わせのうちの2以上の複数化合物が使用できる。
【0060】
PSCは、安定セシウム含有量が0.2ppmと微量であるが、安定セシウムと放射性セシウムとのイオン交換反応を確認する目的で、PSC重量に対する1%塩化セシウム、あいは1%硫酸セシウムを蒸留水に溶解し、PSCに含浸させた後、放射性物質汚染土壌との混合行い、除染効率を調査した。
【0061】
実験で使用した放射性物質汚染土壌は、2013年9月に福島県飯舘村で採取し、固形分が約85%になるまで風乾した。以下の実施例および参考例では、放射性物質汚染土壌(85g、OD)、PSC、金属化合物、またはフェロシアン化カリウム化合物が含浸されたPSC(15g、OD)の順でポリエチレン袋に入れ、よく混合し、25℃で、10日間放置した。
【0062】
放射性物質汚染土壌(100g、OD)、1%塩化カリウム(土壌重量に対する%)の順でポリエチレン袋に入れる。同様に、放射性物質汚染土壌(100g、OD)、1%塩化セシウム(土壌重量に対する%)の順で別のポリエチレン袋に入れる。ポリエチレン袋の内容をそれぞれよく混合し、25℃で、10日間放置した後、放射性セシウム134及び137を測定した。
【0064】
表3に示すように、市販の塩化カリウム、塩化セシウムを、PSCに含浸させずにそのままの状態で放射性物質汚染土壌と混合した場合、放射性セシウム134及び137の合計が上がった。放射性セシウム137は僅かに上がったが、放射性セシウム134が大幅に増加したため、これらの薬品が放射性セシウム134の分解を妨害したと推定される。
【0065】
6%CaCl
2−PSCの調整は、次の手順で実施した。CaCl
2・2H
2O(23.838g)を蒸留水(300ml)に溶解し、次いで、浅い容器の中のPSC(300g、OD)上に注ぎ、25℃で、24〜48時間乾燥を行い、その間容器を2〜3回振った。同様の方法にて、KCl−PSC、BaCl
2−PSC、MgCl
2−PSC、CsCl−PSCを作成した。放射性物質汚染土壌(85g、OD)、前記塩化金属化合物−PSC(15g、OD)の順でポリエチレン袋に入れ、均一に混合し、25℃で、10日間放置した。ブランクテストは、放射性物質汚染土壌(85g、OD)とPSC(15g、OD)をポリエチレン袋の中で均一に混合し、同じ条件で試験を行った。その後、放射性セシウム134及び137を測定した。結果を表4に示す。
【0067】
ブランクテストに比べ、検討した5種の塩化金属−PSCのうち、塩化カリウム−PSCのみが、除染率が高いことが見出された。これは、上述したようにカリウム、セシウムとも元素周期律表の同じ列1Aにあり、お互いに置き換えやすいことによる原因と考えられる。これと表3の1%KCl薬品の結果から、イオン交換反応が起きるためには支持体が必要とさせることが分かる。
【0068】
6%KCl−PSC及び6%BaCl
2−PSCが、5%KCl−PSC及び1%BaCl
2−PSCの各々に比べて除染率が低いため、塩素基が除染反応を遅角したことが分かる。一方、6%CaCl
2−PSC、1%BaCl
2−PSC、6%MgCl
2−PSC、5%CsCl−PSCは、ブランクテストより除染率が劣ったため、カルシウム、バリウム、マグネシウム、セシウムの濃度が高い場合、除染反応が妨害されることが分かる。
【0069】
1%MgSO
4−PSCは次の方法で調整した。硫酸マグネシウム(MgSO
4、3g)を蒸留水(300ml)に溶解し、次いで浅い容器の中のPSC(300g、OD)上に注ぎ、25℃で、24〜48時間乾燥を行い、その間容器を2〜3回振った。同様な方法により、硫酸カリウムでK
2SO
4−PSCを、FeSO
4・7H
2OでFeSO
4−PSCを、ZnSO
4・7H
2OでZnSO
4−PSCを、CuSO
4・5H
2OでCuSO
4−PSCを、硫酸セシウムでCsSO
4−PSCを、それぞれ作成した。放射性物質汚染土壌(85g、OD)、硫酸金属塩−PSC(15g、OD)の順でポリエチレン袋に入れ、均一に混合し、25℃で、10日間放置した。ブランクテストは、放射性物質汚染土壌(85g、OD)とPSC(15g、OD)とをポリエチレン袋の中で均一に混合し、同じ条件で試験を行った。その後、放射性セシウム134と137の測定を行った。結果を表5に示す。
【0071】
ブランクテストに比べ、検討した6種の金属硫酸塩−PSCのうち、硫酸セシウムのみが除染率が劣った。これと表4の塩化セシウム除染率結果を合わせると、安定セシウムは放射性セシウムの除染反応を妨害することが分かる。硫酸鉄及び硫酸亜鉛の除染率は、ブランクテストと同等の値であるため、これらの金属硫酸塩をPSCに含浸する必要がなくなる。一方、硫酸マグセシウム、硫酸銅、硫酸カリウムは、ブランクテストより除染率が優れるため、PSCに含浸すると放射性物質汚染土壌の除染率を改善することができる。
【0072】
1%フェロシアン化カリウム−PSCは次の方法で調整した。K
4[Fe(CN)
6]3H
2O(3.385g)を蒸留水(360ml)に溶解し、次いで浅い容器の中のPSC(300g、OD)上に注ぎ、25℃で、24〜48時間乾燥を行い、その間容器を2〜3回振った。放射性物質汚染土壌(85g、OD)、フェロシアン化カリウム−PSC(15g、OD)の順でポリエチレン袋に入れ、均一に混合し、25℃で、10日間放置した。ブランクテストは、放射性物質汚染土壌(85g、OD)とPSC(15g、OD)とをポリエチレン袋の中で均一に混合し、同じ条件で試験を行った。その後、放射性セシウム134と137の測定を行った。結果を表6に示す。
【0074】
フェロシアン化カリウム−PSCは、ブランクテストに比べ除染率が高いことが見出された。これは、上述したように放射性セシウムとのイオン交換を行うカリウム、鉄等がフェロシアン化カリウムに共に存在することによることが原因と考えられる。したがって、フェロシアン化カリウムはPSCに含浸すると放射性物質汚染土壌の除染率を改善することができる。
【0075】
表4、5、6の結果を検討すると、放射性物質汚染土壌の除染率を向上するためには、カリウムの塩化物、マグネシウムの硫酸塩、カリウムの硫酸塩、銅の硫酸塩、フェロシアン化カリウム化合物をPSCに含浸すべきである。また、放射性物質汚染土壌の除染率の相乗効果を図るには、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カリウム、硫酸銅、フェロシアン化カリウムの可能な120の組み合わせ(5種類であるため、組み合わせは、1×2×3×4×5=120となる。)のうちの2以上の複数化合物をPSCに含浸すべきである。
【0076】
リン酸ナトリウム系の分散剤で前処理を行った放射性汚染粒状物質に対して、以上説明した塩化カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カリウム、硫酸銅、フェロシアン化カリウムの可能な120の組み合わせのうちの2以上の複数化合物を含浸したPSCと混合させることで、放射性セシウム134及び137の除染率を向上させることができる。
【0077】
以上、本発明の実施形態を詳述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。そして本発明は、特許請求の範囲に記載された事項を逸脱することがなければ、種々の設計変更を行うことが可能である。