(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ガスタービンロータを支持するガスタービン排気側のジャーナル軸受が軸受箱内に配置され、前記軸受箱がガスタービンの排気車室から前記排気車室の内側に向って延在するストラットによって支持され、前記ガスタービンロータの軸方向の一方側と他方側との間をシールする環状の内周端を有するシールリングが前記軸受箱に設けられているガスタービンのメインテナンス方法において、
前記ジャーナル軸受の軸受面を前記軸受箱に対して、前記ガスタービンロータが延びる軸方向に垂直な垂直方向に相対変位させる軸受調整工程と、
前記軸受面の変位方向及び変位量に合わせて、前記シールリングの前記内周端を前記軸受箱に対して相対変位させるシールリング調整工程と、
を実行するガスタービンのメインテナンス方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の技術では、ガスタービンの長期間の運転で複数のストラットが変形して、ガスタービンロータの軸線に対して垂直な垂直方向に、複数のストラットに固定されている軸受箱が変位する場合がある。この場合、軸受箱内のジャーナル軸受も前記垂直方向に変位し、結果として、軸方向でジャーナル軸受が配置されている位置に存在するガスタービンロータが前記垂直方向に移動する。また、各種部品の組み付け誤差や製作誤差等により、軸受箱が前記垂直方向の目的の位置に設置されない場合もある。この場合、軸受箱内のジャーナル軸受も前記垂直方向の目的の位置に設置されず、結果として、軸方向でジャーナル軸受が配置されている位置に存在するガスタービンロータが前記垂直方向の目的の位置に配置されない。これらの場合、タービンの車室の一部を形成するタービン本体車室に対して前述の排気車室を前記垂直方向に移動する方法等が考えられる。しかしながら、この方法では、メインナンス工期が長くなる上にメインテナンスコストもかさむという問題点がある。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題点を考慮し、メインテナンス工期の短縮化及びメインテナンスコストの低減を図ることができるガスタービンのメインテナンス方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決するための発明に係る一態様としてのガスタービンのメインテナンス方法は、
ガスタービンロータを支持するガスタービン排気側のジャーナル軸受が軸受箱内に配置され、前記軸受箱がガスタービンの排気車室から前記排気車室の内側に向って延在するストラットによって支持され、前記ガスタービンロータの軸方向の一方側と他方側との間をシールする環状の内周端を有するシールリングが前記軸受箱に設けられているガスタービンのメインテナンス方法において、前記ジャーナル軸受の軸受面を前記軸受箱に対して、前記ガスタービンロータが延びる軸方向に垂直な垂直方向に相対変位させる軸受調整工程と、前記軸受面の変位方向及び変位量に合わせて、前記シールリングの前記内周端を前記軸受箱に対して相対変位させるシールリング調整工程と、を実行する。
【0008】
複数のストラットが変形して、複数のストラットに固定されている軸受箱が軸線に対する垂直方向に変位した場合や、各種部品の組み付け誤差や製作誤差等により、軸受箱が垂直方向の目的の位置に設置されない場合、軸受箱内のジャーナル軸受も垂直方向の目的の位置に設置されず、軸方向での軸受位置におけるガスタービンロータが垂直方向の目的の位置に配置されない。当該メインテナンス方法では、ジャーナル軸受の軸受面を軸受箱に対して軸方向に垂直な垂直方向に相対変位させるので、軸方向での軸受位置におけるガスタービンロータを垂直方向の目的の位置に配置することができる。さらに、当該メインテナンス方法では、軸受面の変位方向及び変位量に合わせて、シールリングの内周端を軸受箱に対して相対変位させるので、シールリングのシール性を確保できる。
【0009】
ここで、前記ガスタービンのメインテナンス方法において、前記ジャーナル軸受は、前記軸受面が形成されているパッドと、前記パッドを外周側から支持する軸受ハウジングと、を有しており、前記軸受調整工程は、前記ガスタービンロータの外周側と前記軸受ハウジングの内周側との間に配置されている前記パッドを含む一以上の部品のうち、少なくとも一の部品の前記垂直方向の厚さを変更する厚さ変更工程を含んでもよい。
【0010】
また、以上のいずれかの前記ガスタービンのメインテナンス方法において、前記ジャーナル軸受は、前記軸受面が形成されているパッドと、前記パッドを外周側から支持する軸受ハウジングと、を有しており、前記軸受調整工程は、前記パッドと前記軸受ハウジングとの間に軸受面調整部材を配置する、又は予め配置されている軸受面調整部材の前記垂直方向の厚さを変更する調整部材配置工程を含んでもよい。
【0011】
以上のいずれかの前記ガスタービンのメインテナンス方法において、前記軸受調整工程は、前記ジャーナル軸受の前記軸受面を削る減厚工程を含んでもよい。
【0012】
以上のいずれかの前記ガスタービンのメインテナンス方法において、前記軸受調整工程は、前記軸受箱に対する前記ジャーナル軸受の前記垂直方向の相対位置を変更する軸受位置変更工程を含んでもよい。
【0013】
以上のいずれかの前記ガスタービンのメインテナンス方法において、前記シールリングは、環状の前記内周端の外周側に環状の外周端が形成されており、前記シールリング調整工程は、環状の前記外周端の中心に対して環状の前記内周端の中心が偏心するよう、前記シールリングを加工する内周端加工工程を含んでもよい。
【0014】
前記内周端加工工程を実行する前記ガスタービンのメインテナンス方法において、前記内周端加工工程では、前記内周端の一部を内周側に向かって延ばす一方で、前記内周端の他の一部を削ってもよい。
【0015】
以上のいずれかの前記ガスタービンのメインテナンス方法において、前記シールリング調整工程は、前記軸受箱に対する前記シールリングの前記垂直方向の相対位置を変更するシールリング位置変更工程を含んでもよい。
【0016】
以上のいずれかの前記ガスタービンのメインテナンス方法において、前記軸方向における前記軸受位置での前記ガスタービンロータの前記垂直方向における所定位置を基準にして、前記軸受位置での前記ガスタービンロータの前記垂直方向における実際の位置の変位量及び変位方向を測定する変位測定工程を実行し、前記軸受調整工程では、前記変位方向と逆方向に前記変位量に応じて、前記ジャーナル軸受の前記軸受面を前記軸受箱に対して相対変位させ、前記シールリング調整工程では、前記変位方向と逆方向に前記変位量に応じて、前記シールリングの前記内周端を前記軸受箱に対して相対変位させてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様によれば、ガスタービンのメインテナンス工期の短縮化及びメインテナンスコストの低減を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
「実施形態」
以下、本発明に係るガスタービンのメインテナンス方法の一実施形態について、
図1〜
図11を参照して詳細に説明する。
【0020】
本実施形態のガスタービン1は、
図1に示すように、外気を圧縮して圧縮空気を生成する圧縮機10と、燃料供給源からの燃料を圧縮空気に混合して燃焼させて燃焼ガスを生成する複数の燃焼器30と、燃焼ガスにより駆動するタービン40と、を備えている。
【0021】
圧縮機10は、軸線Arを中心として回転する圧縮機ロータ11と、圧縮機ロータ11を覆う圧縮機車室21と、圧縮機車室21内に空気を導く吸気室22と、を有する。タービン40は、軸線Arを中心として回転するタービンロータ41と、タービンロータ41を覆うタービン車室51と、タービン車室51からの排気ガスを外部に導く排気室59と、を有する。圧縮機ロータ11とタービンロータ41とは、互いの軸線Arが同一直線上に位置にして、互いに連結されてガスタービンロータ2を成す。なお、以下では、軸線Arが延びている方向を軸方向Daとし、軸線Arに対して垂直な方向を垂直方向Dpとする。また、軸方向Daであって、タービン40を基準にして圧縮機10側を上流側又は吸気側、圧縮機10を基準にしてタービン40側を下流側又は排気側とする。
【0022】
圧縮機ロータ11は、軸方向Daに並ぶ複数の動翼段12と、複数の動翼段12が固定されているロータ本体13と、を有する。各動翼段12は、いずれも、軸線Arを基準として周方向Dcに並ぶ複数の動翼を有している。ロータ本体13は、複数の動翼段12が固定されている動翼固定部14と、動翼固定部14の上流側端から上流側に延びている軸部15と、を有する。タービンロータ41は、軸方向Daに並ぶ複数の動翼段42と、複数の動翼段42が固定されているロータ本体43と、を有する。各動翼段42は、いずれも、周方向Dcに並ぶ複数の動翼を有している。ロータ本体43は、複数の動翼段42が固定されている動翼固定部44と、動翼固定部44の下流側端から下流側に延びている軸部45と、を有する。タービン車室51は、タービンロータ41の動翼固定部44を覆うタービン本体車室52と、タービンロータ41の軸部45を覆う排気車室53と、を有する。圧縮機ロータ11の軸部15及びタービンロータ41の軸部45は、いずれも、軸線Arを中心として円柱状を成している。
【0023】
圧縮機ロータ11のロータ本体13の外周側と圧縮機車室21の内周側との間は、吸気された空気が次第に圧縮される圧縮空気流路17を形成する。タービンロータ41のロータ本体43の外周側とタービン本体車室52の内周側との間は、燃焼ガスが流れる燃焼ガス流路47を形成する。
【0024】
ガスタービン1は、さらに、軸方向Daにおける圧縮機車室21とタービン車室51との間に配置され、圧縮機ロータ11とタービンロータ41との連結部分を覆う燃焼器車室25を備えている。この燃焼器車室25には、前述の複数の燃焼器30が固定されている。圧縮機車室21と燃焼器車室25とタービン車室51とは、互いに連結されてガスタービン車室5を成す。
【0025】
ガスタービン1は、ガスタービンロータ2を回転可能に支える軸受を備えている。軸受としては、二つのジャーナル軸受18,70と、一つのスラスト軸受19を有する。二つのジャーナル軸受18,70のうち、一方のジャーナル軸受18及び一つのスラスト軸受19は、ガスタービンロータ2の吸気側の端部を回転可能に支持し、他方のジャーナル軸受70は、ガスタービンロータ2の排気側の端部を回転可能に支持する。言い換えると、一方のジャーナル軸受18及び一つのスラスト軸受19は、圧縮機ロータ11の軸部15を回転可能に支持し、他方のジャーナル軸受70は、タービンロータ41の軸部45を回転可能に支持する。
【0026】
図2及び
図3に示すように、タービンロータ41の軸部45を回転可能に支持するジャーナル軸受70は、軸受箱60で覆われ、この軸受箱60に取り付けられている。軸受箱60は、ジャーナル軸受70の上半を覆う上半軸受箱60aと、ジャーナル軸受70の下半を覆う下半軸受箱60bとを有する。この軸受箱60は、軸受箱60からタービンロータ41のタンジェンシャル(接線)方向に延びている複数のストラット65により固定されている。複数のストラット65の外周側端部は、排気車室53に固定されている。軸受箱60には、シールリング90がリテーナ95を介して固定されている。シールリング90及びリテーナ95は、いずれも、軸線Arを中心として環状を成している。このシールリング90は、シールリング90を基準としてタービンロータ41の軸部45における軸方向Daの一方側と他方側との間をシールする役目を担っている。
【0027】
排気車室53内には、軸線Arを中心として円筒状の外側ディフューザ55及び内側ディフューザ56が配置されている。外側ディフューザ55は、排気車室53の内周面に沿って設けられている。内側ディフューザ56は、外側ディフューザ55の内周側に間隔をあけて配置されている。外側ディフューザ55と内側ディフューザ56との間は、タービンロータ41を回転させた燃焼ガスが排気ガスとして通る排気流路57を形成する。軸受箱60は、内側ディフューザ56の内周側に間隔をあけて配置されている。複数のストラット65は、いずれも、前述したように、軸受箱60からタンジェンシャル方向に延びて、内側ディフューザ56及び外側ディフューザ55を貫通し、排気車室53に固定されている。
【0028】
タービンロータ41の軸部45を回転可能に支持するジャーナル軸受70は、
図4に示すように、軸部45の外周面に対向する支持軸受面88が形成されているパッド71と、パッド71の外周側に配置されているライナ76と、ライナ76に接してパッド71を搖動可能に支持するピボット77と、内周側にピボット77が取り付けられる軸受ハウジング81と、を有する。
【0029】
パッド71は、支持軸受面88が形成されているパッド本体72と、パッド本体72を外周側から支持する台75と、を有する。支持軸受面88は、軸部45の半径よりも僅かに大きな曲率半径の曲面である。パッド本体72は、本体ベース73と、本体ベース73上に形成されている支持軸受層74とを有する。本体ベース73は、例えば、鉄、クロム鋼、銅等で形成されている。また、支持軸受層74は、例えば、ホワイトメタル、アルミ合金、銅−鉛合金、鉛オーバーレイ等の軟質金属や、PTFE(Polytetrafluoroethylene)樹脂、PEEK(Polyetheretherketone)樹脂等で形成されている。支持軸受層74の表面は、前述の支持軸受面88を成している。
【0030】
台75の外周側には、内周側に向かって凹むライナ取付溝75cが形成されている。このライナ取付溝75cにライナ76が配置されている。ピボット77は、ライナ76の外周側に配置されている。このピボット77は、ライナ76と対向する側の面がライナ76側に凸の滑らか曲面77cを成している。ライナ76は、ピボット77の曲面77cと実質的に点接触し、ピボット77との接触箇所を中心として各方向に搖動する。
【0031】
軸受ハウジング81は、軸線Arを中心として円形の外周面が形成されている筒状の部材である。この軸受ハウジング81の上半81aには、軸部45の半径より僅かに大きな半径の半円形の内周面が形成されている。この内周面は、軸部45の外周面に対向する規制軸受面89を成す。軸受ハウジング81の下半81bには、上半81aの内周面の半径よりも大きな半径の半円形の内周面が形成されている。この内周面には、軸線Arを中心とした周方向の二箇所に外周側に向かって凹むピボット取付溝81cが形成されている。このピボット取付溝81cには、前述のピボット77が配置されている。よって、軸受ハウジング81の下半81bの内周面と軸部45の外周面との間には、ピボット77、ライナ76及びパッド71が配置される。この軸受ハウジング81には、外周側から内周側に貫通する潤滑油導入孔83及び潤滑油排出孔84が形成されている。
【0032】
本実施形態のジャーナル軸受70では、タービンロータ41の軸部45が、軸受ハウジング81内の下半81b内周側に配置されているパッド71の支持軸受面88に潤滑油を介して接し、このパッド71により支持されている。また、タービンロータ41の軸部45は、軸受ハウジング81の上半81aの規制軸受面89と対向しているものの、この規制軸受面89とは基本的に接触しない。但し、タービンロータ41が異常振動等した場合には、この軸部45は、規制軸受面89と潤滑油を介して接触し得る。このため、この規制軸受面89は、支持軸受面88と同様に、ホワイトメタル等で形成されている。なお、本実施形態において、軸受面87とは、タービンロータ41の外周面に対向し且つタービンロータ41と接触し得る面である。また、軸受面87のうち、支持軸受面88は、潤滑油を介してタービンロータ41と接触して、このタービンロータ41を回転可能に支持する役目を担っている面である。また、軸受面87のうち、規制軸受面89とは、潤滑油を介してタービンロータ41と接触し得るものの、タービンロータ41を回転可能に支持する役目を担っておらず、タービンロータ41の垂直方向Dpの比較的大きな移動を規制する役目を担っている面である。
【0033】
シールリング90は、
図5及び
図6に示すように、環状の歯台91と、環状の歯台91から内周側に突出している複数の歯92と、を有する。複数の歯92は、タービンロータ41の軸方向Daに並んでいる。各歯92は、いずれも、タービンロータ41の軸線Arを基準にした周方向Dcの全域にわたって形成されている。よって、各歯92の内周端は、環状に形成されている。シールリング90の外周端90oは、タービンロータ41の軸線Arを中心とした環状の歯台91の外周端であり、シールリング90の内周端90iは、タービンロータ41の軸線Arを中心とした環状の歯92の内周端である。リテーナ95は、前述したように、タービンロータ41の軸線Arを中心として環状の部材である。このリテーナ95の内周には、シールリング90を取り付けるためのシールリング取付部96が形成されている。また、このリテーナ95には、このリテーナ95を軸受箱60に取り付けるための被取付部97が形成されている。環状のシールリング90及び環状のリテーナ95は、いずれも、上半と下半とに分離可能である。
【0034】
以上で説明した本実施形態のガスタービン1では、各種部品の組み付け誤差、製作誤差、又は軸受箱60を固定しているストラット65の変形等により、軸受箱60が前記垂直方向Dpの目的の位置に設置されない場合がある。本実施形態では一例として軸受箱60が目的の位置よりも鉛直下方Dv1に変位している場合のメインテナンス方法を示す。この場合、軸受箱60内のジャーナル軸受70も鉛直下方Dv1に変位し、結果として、軸方向Daで排気側のジャーナル軸受70が配置されている位置に存在するガスタービンロータ2が鉛直下方Dv1に移動する。排気側のジャーナル軸受70が配置されている位置に存在するガスタービンロータ2が鉛直下方Dv1に移動すると、吸気側のジャーナル軸受70が受け持つ軸受荷重と、排気側のジャーナル軸受70が受け持つ軸受荷重とのバランスが崩れ、各ジャーナル軸受70の寿命が短くなるばかりか、ガスタービンロータ2の異常振動につながる場合もある。
【0035】
このような場合、本実施形態では、
図12のフローチャートに示す手順でメインテナンスを実行する。
【0036】
まず、
図7に示すように、排気車室53を含むガスタービン車室5の上半、及び軸受箱60の上半を開放する。すなわち、ガスタービン上半車室5aをガスタービン下半車室5bから外すと共に、上半軸受箱60aを下半軸受箱60bから外す(S1:車室開放工程)。
【0037】
次に、ガスタービン下半車室5bに収まっている各軸受及びガスタービンロータ2をガスタービン下半車室5b外に移動する(S2:ガスタービンロータ移動工程)。
【0038】
次に、軸方向Daでの排気側のジャーナル軸受70が配置されている軸受位置におけるガスタービンロータ2の垂直方向Dpの位置の変位量及び変位方向を測定する(S3:変位測定)。変位方向は、この実施形態では、垂直方向Dpのうちの鉛直方向Dvであるが、鉛直方向Dvでなくてもよい。また、変位は、ガスタービン1の製作当初でのガスタービンロータ2の軸受位置における垂直方向Dpの位置を基準位置とし、この基準位置に対する変位であってもよい。また、変位は、吸気側のジャーナル軸受18が配置されている軸方向Daの位置におけるガスタービンロータ2の垂直方向Dpの位置と同じ位置を、排気側の軸受位置におけるガスタービンロータ2の垂直方向Dpの基準位置とし、この基準位置に対する変位であってもよい。いずれにしても、排気側の軸受位置におけるガスタービンロータ2の垂直方向Dpの所定位置を基準位置とする。
【0039】
変位の測定の際には、外された上半軸受箱60aを下半軸受箱60bに再度組み付け、さらにガスタービンロータ2が外されたガスタービン下半車室5bにガスタービン上半車室5aを再度組み付ける。この変位の測定は、例えば、レーザアライメント法と同様の手法で行う。具体的に、レーザ発振器及びレーザ検出器のそれぞれをガスタービン車室5内の所定の位置に取り付け、レーザ発振器からレーザを発振し、このレーザをレーザ検出器で検知することで、変位量及び変位方向を測定する。なお、変位の測定後は、再び、ガスタービン上半車室5aをガスタービン下半車室5bから外すと共に、上半軸受箱60aを下半軸受箱60bから外す。
【0040】
次に、
図8に示すように、ジャーナル軸受70の軸受面87が軸受箱60に対して垂直方向Dpに相対移動するようジャーナル軸受70を調整する(S4:軸受調整工程)。軸受箱60が前述したように鉛直下方Dv1に移動した場合には、この軸受調整工程(S4)では、軸受ハウジング81の下半81b内に収納されているパッド71の厚さ寸法を増加させると共に(S4a:厚さ変更工程)、軸受ハウジング81の上半81aにおける規制軸受面89の一部を削る(S4b:減厚工程)。この軸受調整工程(S4)の実行により、支持軸受面88及び規制軸受面89により定まる軸部45の垂直方向Dpの位置が、軸受調整工程(S4)の実行前に対して、鉛直上方Dv2へ変位する。
【0041】
軸受ハウジング81の下半81b内に収納されているパッド71の厚さ寸法を増加させる量及び方向、さらに規制軸受面89を削る量及び方向は、支持軸受面88及び規制軸受面89により定まる軸部45の垂直方向Dpの位置が変位測定工程(S3)で測定した変位量分、変位測定工程(S3)で測定した変位方向と反対方向、この場合には鉛直上方Dv2に移動するように、定められる。
【0042】
パッド71の厚さ寸法を増加させる方法として、ここでは、
図8に示すように、パッド71を構成するパッド本体72と台75との間に、シム等の軸受面調整部材79を挿入する方法を採用する。なお、パッド71の厚さ寸法を増加させる方法として、以上の他、パッド71を構成するパッド本体72と台75とのうち、少なくとも一方を厚さの異なるものに交換する方法や、パッド71の厚さ変更工程(S4a)の実行前の支持軸受面88上に支持軸受層74を形成するホワイトメタル等を盛る方法等がある。
【0043】
規制軸受面89の一部を削って新たな規制軸受面89を形成する際には、表面が規制軸受面89を成しホワイトメタル等で形成されている規制軸受層82の厚さが目的の厚さになるよう、規制軸受面89を削った後、その表面にホワイトメタル等を盛る。
【0044】
次に、
図9及び
図10に示すように、シールリング90の内周端90iが軸受箱60に対して相対移動するようシールリング90を調整する(S5:シールリング調整工程)。軸受箱60が前述したように鉛直下方Dv1に移動した場合には、このシールリング調整工程(S5)では、シールリング90の環状の外周端90oの中心に対して環状の内周端90iの中心が偏心するよう、内周端90iを加工する(S5a:内周端加工工程)。内周端加工工程(S5a)では、内周端90iの一部を内周側に向かって延ばす一方で、内周端90iの他の一部を削る。軸受箱60が前述したように鉛直下方Dv1に移動した場合には、内周端90iの下側の部分を延ばす一方で、内周端90iの上側の部分を削る。このシールリング調整工程(S5)の実行により、軸受調整工程(S4)の実行によってその位置が定まる軸部45に対するシールリング90のシール位置を最適化できる。
【0045】
シールリング90の内周端90iの一部を延ばす量及び方向、さらに内端の他の一部を削る量及び方向は、軸受調整工程(S4)で定めたパッド71の厚さ寸法を増加させる量及び方向、規制軸受面89を削る量及び方向に合せる。すなわち、シールリング90の内周端90iの一部を延ばす量及び方向、さらに内端の他の一部を削る量及び方向は、シールリング90の内周端90iにより定まる軸部45の垂直方向Dpの位置が変位測定工程(S3)で測定した変位量分、変位測定工程(S3)で測定した変位方向と反対方向、この場合には鉛直上方Dv2に移動するように、定められる。
【0046】
次に、軸受調整工程(S4)を施したジャーナル軸受70を含む各軸受をガスタービンロータ2にセットし、このガスタービンロータ2を移動して、ガスタービンロータ2をガスタービン下半車室5bに収める(S6:ガスタービンロータ移動工程)。なお、軸受調整工程(S4)を施したジャーナル軸受70のセットは、軸受ハウジング81が上半と下半とに分離可能なものであれば、以下のように行ってもよい。まず、軸受ハウジング81の上半を上半軸受箱60aにセットし、軸受ハウジング81の下半を下半軸受箱60bにセットすると共に、パッド71やピボット77等を軸受ハウジング81の下半にセットする。
【0047】
次に、シールリング調整工程(S5)を施したシールリング90の上半をリテーナ95の上半を介して上半軸受箱60aに取り付けると共に、シールリング90の下半をリテーナ95の下半を介して下半軸受箱60bに取り付ける。そして、ガスタービン上半車室5aをガスタービン下半車室5bに組み付けると共に、上半軸受箱60aを下半軸受箱60bに組み付ける(S7:車室組み付け工程)。
【0048】
以上で本実施形態のガスタービン1のメインテナンスが終了する。この結果、
図11に示すように、軸受箱60の垂直方向Dpの位置は変位しないものの、軸受箱60内に配置されているジャーナル軸受70の軸受面87が垂直方向Dpに変位すると共に、軸受箱60に取り付けられているシールリング90の内周端90iが垂直方向Dpに変位する。このため、排気側の軸受位置に存在するガスタービンロータ2の垂直方向Dpの位置を目的の位置にさせることができる上に、シールリング90を基準にして軸方向Daの一方側と他方側との間のシール性を確保することができる。
【0049】
前述したように、各種部品の組み付け誤差、製作誤差、又は軸受箱60を固定しているストラット65(
図2及び
図3)の変形等により、軸受箱60が目的の位置よりも鉛直下方Dv1に変位している場合、これをメインテナンスする方法として、複数のストラット65が構成されている排気車室53をタービン本体車室52に対して相対的に鉛直上方Dv2に移動する方法が考えられる。排気車室53とタービン本体車室52のそれぞれには、
図2に示すように、互いを連結するためにフランジが形成されていると共に、各フランジに多数のボルト孔53h,52hが形成されている。排気車室53とタービン本体車室52とは、それぞれのボルト孔53h,52hに挿通されたボルト58により連結されている。この方法を実行するためには、例えば、排気車室53のボルト孔53hとタービン本体車室52のボルト孔52hとのうち、一方の車室の多数のボルト孔を垂直方向Dpに長孔に加工する必要がある。一方の車室の多数のボルト孔を長孔に加工するには、長い加工時間が必要になる上に、加工コストもかさむ。さらに、排気車室53とタービン本体車室52とをボルト58で連結する際には、軸受箱60の変位量に合わせて、タービン本体車室52に対して排気車室53を相対的に上方に移動させた位置に仮固定しておくための治具等も準備する必要がある。このため、このメインテナンス方法では、メインナンス工期が長くなる上にメインテナンスコストもかさむ。
【0050】
一方、以上で説明した本実施形態のメインテナンス方法では、排気車室53やタービン本体車室52と比べて小さい部品であるジャーナル軸受70及びシールリング90に対して調整工程を実行すれば足りるので、メインナンス工期の短縮化及びメインテナンスコストの低減を図ることができる。
【0051】
「変形例」
上記実施形態の軸受調整工程(S4)では、パッド71の厚さ変更工程(4a)及び減厚工程(4b)を実行する。しかしながら、パッド71の厚さ変更工程(4a)の代りに、
図15のフローチャートに示すように、タービンロータ41の軸部45の外周側と軸受ハウジング81の内周側との間に配置されているライナ76とピボット77(
図8参照)とのいずれか一方の部品の垂直方向Dpの厚さを変更する厚さ変更工程(S4c)を実行してもよい。また、厚さ変更工程(S4c)では、タービンロータ41の軸部45の外周側と軸受ハウジング81の内周側との間に配置されている複数の部品のうち、二以上の部品の厚さを変更してもよい。
【0052】
また、パッド71の厚さ変更工程(4a)の代りに、タービンロータ41の軸部45の外周側と軸受ハウジング81の内周側との間に配置されている複数の部品、つまりパッド71やライナ76等(
図8参照)のうち、垂直方向Dpで隣り合う二つの部品の間に、又は最も外周側に配置されている部品と軸受ハウジング81との間に、シム等の軸受面調整部材79を配置する、又は予め配置されている軸受面調整部材79の垂直方向Dpの厚さを変更する調整部材配置工程(S4d)を実行してもよい。
【0053】
また、軸受調整工程(S4)では、以上で説明した厚さ変更工程(S4a又はS4c)及び減厚工程(S4b)の代りに、軸受箱60に対するジャーナル軸受70の垂直方向Dpの相対位置を変更する軸受位置変更工程(S4e)を実行してもよい。この場合、
図13に示すように、軸受箱60x内でジャーナル軸受70が垂直方向Dpに相対移動可能に軸受箱60xを形成すると共に、軸受箱60x内でのジャーナル軸受70の垂直方向Dpの相対位置を調節するための調節具99を設ける。調節具99としては、例えば、軸受箱60xを垂直方向Dpに貫通して、先端がジャーナル軸受70の軸受ハウジング81に接するボルト等を用いることができる。調節具99であるボルトの軸受箱60xに対するネジ込み量を変更することで、軸受箱60xに対するジャーナル軸受70の垂直方向Dpの相対位置を変更する。
【0054】
なお、以上では、軸受調整工程(S4)で実行する各種工程を例示したが、各種工程のうち、いずれか二以上の工程を共に実行してもよい。例えば、厚さ変更工程(S4a及び/又はS4c)と調整部材配置工程(S4d)との両方を実行してもよい。軸受箱60の変位量が大きい場合には、この変位量に対応するために、各種工程のうちいずれかの二以上の工程を共に実行する方法が有効である。
【0055】
上記実施形態のシールリング調整工程(S5)では、内周端加工工程(S5a)を実行する。しかしながら、この内周端加工工程(S5a)の代りに、軸受箱60に対するシールリング90の垂直方向Dpの相対位置を変更するシールリング位置変更工程(S5b)を実行してもよい。この場合、
図14に示すように、軸受箱60に対するシールリング90の垂直方向Dpの相対位置を調整するための調節具99aを設ける。例えば、シールリング90を軸受箱60に取り付けるためのリテーナ95に、垂直方向Dpに長い孔98を形成すると共に、軸受箱60上でリテーナ95の孔98に対応する位置にネジ孔66を形成し、リテーナ95の孔98を介して、調節具99aとしてのボルトを軸受箱60のネジ孔66に捩じ込む。この構成によれば、軸受箱60に対するシールリング90の垂直方向Dpの相対位置を調整することができる。
【0056】
なお、ここでは、シールリング調整工程(S5)で実行する工程として、内周端加工工程(S5a)及びシールリング位置変更工程(S5b)を例示したが、二つの工程を共に実行してもよい。軸受箱60の変位量が大きい場合には、この変位量に対応するために、二つの工程を共に実行する方法が有効である。また、シールリング調整工程(S5b)では、既存のシールリング90に加工を施してもよいし、新規のシールリングを製作し新しく取替えてもよい。
【0057】
上記実施形態では、軸受調整工程(S4)の実行後に、シールリング調整工程(S5)を実行する。しかしながら、シールリング調整工程(S5)の実行後に、軸受調整工程(S4)を実行してもよい。
【0058】
上記実施形態のジャーナル軸受70は、
図4に示すように、軸受ハウジング81と、二つのパッド71と、二つのライナ76と、二つのピボット77を有して構成されている。しかしながら、ジャーナル軸受は、上記実施形態のジャーナル軸受70に限定されない。例えば、軸受ハウジング81と、三つ以上のパッド71と、三つ以上のライナ76と、三つ以上のピボット77を有するものであってもよい。また、例えば、ライナ76が無いものでもよい。また、上記実施形態のピボット77は、内周側に向かって凸の滑らか曲面77cが形成されているが、この曲面77cは、外周側に向かって凸の滑らかな曲面であってもよい。すなわち、ピボット77とピボット77に接する部品とが実質的に点接触する構成であればよい。
【0059】
上記実施形態では、軸受箱60に対してシールリング90が一つ取り付けられている例であるが、軸受箱60に対して複数のシールリング90が取り付けられていてもよい。この場合、複数のシールリング90は、軸方向Daに並ぶことになる。
【0060】
上記実施形態では、各種部品の組み付け誤差、製作誤差、又は軸受箱60を固定しているストラット65の変形等により、軸受箱60が前記垂直方向Dpの目的の位置に設置されない場合の一例として、軸受箱60が目的の位置よりも鉛直下方Dv1に変位している場合を挙げ、その場合のメインテナンス方法を示している。しかしながら、本メインテナンス方法は、軸受箱60の変位方向が前記垂直方向Dpのうちの鉛直下方Dv1に限らない。例えば、軸受箱60の変位方向が前記垂直方向Dpのうち、鉛直上方、水平方向、さらに、鉛直方向成分と水平方向成分を持つ斜めの方向であっても、本メインテナンス方法を適用できる。