特許第6238224号(P6238224)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6238224
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】電力伝送路
(51)【国際特許分類】
   B60M 7/00 20060101AFI20171120BHJP
   B60L 11/18 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   B60M7/00 U
   B60L11/18 C
   B60M7/00 X
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-107987(P2013-107987)
(22)【出願日】2013年5月22日
(65)【公開番号】特開2014-227025(P2014-227025A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2016年5月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(72)【発明者】
【氏名】大平 孝
(72)【発明者】
【氏名】ウリン トヤ
(72)【発明者】
【氏名】坂井 尚貴
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 良輝
(72)【発明者】
【氏名】水谷 豊
【審査官】 笹岡 友陽
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−136860(JP,A)
【文献】 特開2005−168232(JP,A)
【文献】 特開2006−087247(JP,A)
【文献】 特開2009−071909(JP,A)
【文献】 特開2003−143711(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60M 7/00
B60L 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に対して高周波電力を供給するための電力伝送路であって、
前記移動体が直接的または間接的に接触する接触領域と、該接触領域が複数の領域に区分され、導電性材料によって形成される電極領域と、該電極領域に高周波電力を供給する高周波電源および該高周波電源から供給される高周波電力を進相する接続回路とを備え、
並列する二つの前記電極領域を一組として電極対が複数形成されるとともに、該電極対は、前記移動体の移動方向に延出するように、かつ間欠的に複数配置され、
隣接する前記電極対の相互間が、前記接続回路を介在して電気的に接続されるとともに、これらの電極対のうち少なくとも一組が前記高周波電源に接続されており、
前記接続回路は、下式(1)のインピーダンス行列を呈する2ポート回路網であることを特徴とする電力伝送路。
【数1】
但し、φは前記電極対の位相遅延、Zは特性インピーダンス、jは虚数単位を示す。
【請求項2】
前記電極対は、該電極対が隣接する位置において対向する二つの電極領域を交差しつつ接続してなることを特徴とする請求項1に記載の電力伝送路。
【請求項3】
移動体に対して高周波電力を供給するための電力伝送路であって、
前記移動体が直接的または間接的に接触する接触領域と、該接触領域が複数の領域に区分され、導電性材料によって形成される電極領域と、該電極領域に高周波電力を供給する高周波電源および該高周波電源から供給される高周波電力を進相する接続回路とを備え、
二以上の前記電極領域を一組として電極対が複数形成されるとともに、該電極対は、前記移動体の移動方向に間欠的に配置されており、前記高周波電源に接続され、前記電極対が配置される方向に延出する高周波伝送線路が形成されるとともに、該高周波伝送線路との間で前記電極対が個別に接続され、さらに、前記電極対が前記高周波伝送線路に接続されるごとに、該接続の位置と前記高周波電源との間に前記接続回路が介在されており、
前記接続回路は、下式(1)のインピーダンス行列を呈する2ポート回路網であることを特徴とする電力伝送路。
【数2】
但し、φは前記高周波伝送線路の位相遅延、Zは特性インピーダンス、jは虚数単位を示す。
【請求項4】
移動体に対して高周波電力を供給するための電力伝送路であって、
前記移動体が直接的または間接的に接触する接触領域と、該接触領域が複数の領域に区分され、導電性材料によって形成される電極領域と、該電極領域に高周波電力を供給する高周波電源および特性インピーダンスおよび電気長が等しい高周波伝送線路とを備え、
二以上の前記電極領域を一組として電極対が複数形成されるとともに、該電極対は、電気長が等しく、前記移動体の移動方向に間欠的に配置されており、前記高周波電源に接続される前記高周波伝送線路が分岐しつつ前記電極対の中央にそれぞれに接続され、さらに、前記高周波電源を中心として、分岐された該高周波伝送線路を並列に接続してなることを特徴とする電力伝送路。
【請求項5】
前記高周波伝送線路は、分岐しつつ前記電極対の前記高周波電源側末端にそれぞれ接続され、さらに、前記高周波電源を開始点として、特性インピーダンスおよび電気長が等しい分岐された該高周波伝送線路を縦続接続してなることを特徴とする請求項4に記載の電力伝送路。
【請求項6】
前記分岐された高周波伝送線路は、その末端において分岐してなる他の分岐された高周波伝送線路をさらに備えており、前記他の分岐された高周波伝送線路による分岐が所定の回数繰り返えされることにより、前記高周波電源と複数の前記電極対とを接続してなる請求項4または5に記載の電力伝送路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
高周波電力を供給する機能を有する伝送路に関するものである。とくに走行中の電気自動車など車両に電力を供給するために用いる。
【背景技術】
【0002】
走行中の電気自動車や無人搬送車(AGV)などの車両にワイヤレスで給電する方式のひとつとして、特許文献1記載のタイヤを用いる方式がある。特許文献1に記載されているように、路面下に1対の電極を埋設し、その間に高周波電圧を印加することにより、走行中の車両の両輪を介して電力を車両へ送ることができるものである。これを電力伝送路による走行中給電と呼ぶ。これは伝送路に埋設した電極から車両タイヤ内のスチールベルト、リム、ハブ、ディスク、ホイールなどの導体へ高周波電力を送る方式である。この方式は、1)停車中走行中にかかわらずタイヤは常に路面に接地しているので、高い電力効率で給電が可能、2)埋設電極を横幅方向に広くしておくことで、車両走行時の横方向変動があっても電力効率の低下が少ない、3)伝送路に埋設する電極対は単純な構造の導体板や鉄筋網などでよいので、伝送路敷設工事や補修工事が容易、という特長がある。走行中給電が実現すると、バッテリー式電気自動車がかかえている、1)1回充電あたりの航続距離が短い、2)充電に時間がかかる、という基本的欠点を払拭し、電気自動車の行動範囲を飛躍的に拡大できることが期待できる。ひいては電気自動車の普及に大きく貢献し、環境にやさしい移動手段と社会の構築につながる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−175869公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記の電力伝送路上を走行する車両に連続的に電力を供給するには伝送路の路面下に長い距離にわたって電極を埋設する。もし、長い距離の電力伝送路にひとつの高周波電源から電力を与えると、車両が電源の近い位置にいるときと遠い位置にいるときで、車両へ届く高周波電圧の位相が変動する。電力伝送路上には下り波動(電源から車両へ向かう方向に進行する波動)と上り波動(上記と逆方向に車両から電源方向へ反射する波動)が混在し、これら2つの波動の相対的な位相関係で決まる位置に電圧の山と谷をもつ定在波が発生する。この位相関係は車両の位置に依存する。このため、車両の位置によって車両に届く高周波電圧値の変動に対し改善の余地があった。
【0005】
さらに、車両から電源へ反射してくる高周波電圧の位相も車両の位置に依存するため、電源から伝送路をみた負荷インピーダンスが車両の走行とともに変動することに対する改善も必要であった。たとえば、伝送路を短い区間に分割して、それぞれに高周波電源を設けることにより改善できるかもしれない。しかしその場合は必要な電源装置の数が多くなり、また、個々の電源は少なくとも1台の車両が必要とする電力をまかなう必要があるため結局システム全体のコストが高くなることが想定される。
【0006】
本発明は前記の事柄に対し改善を行い、ひとつの高周波電源で長い区間の電力伝送路に電力を与え、かつ、車両の位置による上記電気特性の変動を軽減することができる伝送路の構成法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る電力伝送路において第1の形態では、
移動体に対して高周波電力を供給するための電力伝送路であって、
前記移動体が直接的または間接的に接触する接触領域と、該接触領域が複数の領域に区分され、導電性材料によって形成される電極領域と、該電極領域に高周波電力を供給する高周波電源とを備え、
二以上の前記電極領域を一組として電極対が複数形成されるとともに、該電極対は、隣接する相互間または前記高周波電源との間で接続されていることを特徴とする。
【0008】
また、第2の形態では、
前記第1の形態において、前記電極対は、前記移動体の移動方向に間欠的に配置されており、該電極対の相互間が接続されるとともに、これらの電極対のうち少なくとも一組が前記高周波電源に接続されていることを特徴とする。
【0009】
また、第3の形態では、
前記第2の形態において、前記電極対は、並列する二つの電極領域で形成され、二つの電極領域がそれぞれ前記移動体の移動方向に延出するように、かつ間欠的に配置されており、該電極対が隣接する位置において対向する二つの電極領域を交差しつつ接続してなることを特徴とする。
【0010】
また、第4の形態では、
前記第3の形態において、前記電極対の相互間は、前記高周波電源から供給される高周波電力を進相する接続回路が介在していることを特徴とする。
【0011】
また、第5の形態では、
前記第4の形態において、前記接続回路は、下式(1)のインピーダンス行列を呈する2ポート回路網であることを特徴とする。
【0012】
【数1】
但し、φは前記電極対の位相遅延、Zは特性インピーダンス、jは虚数単位を示す。
【0013】
一方、第6の形態では、
前記第1の形態において、前記電極対は、前記移動体の移動方向に間欠的に配置されており、前記高周波電源に接続され、前記電極対が配置される方向に延出する高周波伝送線路が形成されるとともに、該高周波伝送線路との間で前記電極対が個別に接続されていることを特徴とする。
【0014】
また、第7の形態では、
前記第6の形態において、前記電極対が前記高周波伝送線路に接続されるごとに、該接続の位置と前記高周波電源との間に該高周波電源から供給される高周波電力を進相する接続回路が介在されている。
【0015】
また、第8の形態では、
前記第7の形態において、前記受動回路は、下式(1)のインピーダンス行列を呈する2ポート回路網であることを特徴とする。
【0016】
【数2】
但し、φは前記高周波伝送線路の位相遅延、Zは特性インピーダンス、jは虚数単位を示す。
【0017】
さらの、第9の形態では、
前記第1の形態において、前記電極対は、前記移動体の移動方向に間欠的に配置されており、前記高周波電源に接続される高周波伝送線路が分岐しつつ前記電極対のそれぞれに接続されていることを特徴とする。
【0018】
また、第10の形態では、
前記第9の形態において、前記高周波伝送線路は、前記高周波電源を中心として、特性インピーダンスおよび電気長が等しい分岐線路を並列に接続してなることを特徴とする。
【0019】
また、第11の形態では、
前記第10の形態において、前記分岐線路は、その末端において分岐してなる分岐線路をさらに備えており、前記分岐回路による分岐が所定の回数繰り返されることにより、前記高周波電源と複数の前記電極対とを接続してなる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る電力伝送路により、ひとつの高周波電源で長い区間の電力伝送路に電力を与え、かつ、車両等の移動体の位置による上記電気特性の変動を軽減することができる伝送路が構成可能となる。これにより、前記移動体が走行している状態での効率的な連続給電が可能となり、該移動体の行動範囲を飛躍的に拡大できることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】一般の電力伝送路の高周波等価回路図
図2図1における入力インピーダンスを示すグラフ
図3図1における出力インピーダンスを示すグラフ
図4】本発明実施例における入出力インピーダンスの車両位置による変化を説明する概念図
図5】対称T型CLC回路図
図6】対称T型LCL回路図
図7】本発明実施例1の上面図
図8】本発明実施例1に係る車両が第2区間を走行しているときの電力伝送路と車両の高周波等価回路図
図9図8に対し区間数をさらに増やした場合の高周波等価回路図
図10】本発明実施例1に係る入力インピーダンスを示すグラフ
図11】本発明実施例1に係る出力インピーダンスを示すグラフ
図12】本発明の第2実施例:側路給電型電力伝送路の図
図13】本発明の第2実施例に係る車両が第2区間を走行する場合の高周波等価回路図
図14図13に対し区間数をさらに増やした場合の高周波等価回路図
図15】接続回路の構成例
図16】実施例2の入力インピーダンスを示すグラフ
図17】実施例2の出力インピーダンスを示すグラフ
図18】本発明の第3実施例:分岐給電型電力伝送路の図
図19】本発明の第3実施例に係る分岐給電型電力伝送路のRF等価回路図
図20】本発明の第3実施例に係る分岐給電型電力伝送路の入力インピーダンスを示すグラフ 左上:Δl=λ/100、右上:Δl=2λ/100、 左下:Δl=3λ/100、 右下:Δl=4λ/100
図21】本発明の第3実施例に係る分岐給電型電力伝送路の入力反射係数の標準偏差を示すグラフ
図22】本発明の第3実施例に係る分岐給電型電力伝送路の出力インピーダンスを示すグラフ 左上:Δl=λ/100、右上:Δl=2λ/100、 左下:Δl=3λ/100、 右下:Δl=4λ/100
図23】本発明の第3実施例に係る分岐給電型電力伝送路の出力反射係数の標準偏差を示すグラフ
図24】自動二輪車と四輪車のどちらへも同時に走行中給電できる電力伝送路の構造図
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明電力伝送路の形式は大きくわけて3種類
1:縦続給電型 2:側路給電型 3:分岐給電型
である。これらは、それぞれ単独で実施することもできるし、2つまたは3つを混在して実施することもできる。以下に詳しく説明する。また、移動体としては、四輪の電気自動車を例として説明するが、本発明は該電気自動車に限定されるものではない。さらに、移動体として電気自動車を例示する関係上、接触領域としては、電気自動車が走行する路面を例示し、電極領域は、路面に埋設された電極を例示している。これらの構成についても、例示したものに限定されるものではない。
【0023】
まず、一般の電力伝送路を図1に示す等価回路で考える。該電力伝送路の電極対をRF伝送線路とみなしたときの特性インピーダンスをzと書く。電源から車両までの距離をl、車両から東端までの距離をlとする。これらを電気長に換算すると、それぞれθ=βl、θ=βlとなる(単位はラジアン:以下同様、また、数式や図中においてl(エル)を筆記体で記すことがある。)。ここで、λは伝播波長、β=2π/λは伝播定数である。車両が前記電力伝送路上に沿って西から東へ移動するに伴い、θが増加、θが減少する。全区間の電気長θ+θは一定値である。車両は両輪が左右の電極にまたがっているので、電気的には伝送線路に並列に接続されたインピーダンスとして作用する。これをzと書くこととする。伝送線路の東端が高周波的に開放されているとする。車両から東をみたインピーダンスは
【0024】
【数3】
である。これに車両のインピーダンスzが並列に装荷されたインピーダンスをzc2と書くと
【0025】
【数4】
である。これを電気長θの伝送線路を介して電源からみえるインピーダンスzin
【0026】
【数5】
となる。この結果を車両の位置の関数としてプロットすると図2のようになる。同図で横軸はθ1を波長に換算した値、縦軸はzinの実部と虚部である。計算に用いた定数は
【0027】
【数6】
である。
同様の計算方法で、逆に、車両から見た電力伝送路の出力インピーダンスも計算できる。簡単のため、RF電源の出力インピーダンスが伝送線路の特性インピーダンスzに等しいとする。そうすると車両から西をみたインピーダンスは車両の位置に関係なくzである。車両から東をみたインピーダンスは前述の数3のとおりである。これらを並列に接続したものが車両から見える合成インピーダンスである。それをzoutと書くと
【0028】
【数7】
となる。この結果を車両の位置の関数としてプロットすると図3のようになる。同図で横軸はθを波長に換算した値(1λが2πに相当)、縦軸はzoutの実部と虚部である。これらの図より、車両が走行するに伴って、0.5波長周期でzinとzoutが大きく変動してしまうことがわかる。
【実施例1】
【0029】
1.縦続給電型
一端に高周波電源を備えた長い伝送路があり、その路面下に埋設された電極対を一定長の複数の短い区間に分割し、隣り合う区間どうしの電極対を接続回路で順次接続する。高周波電源から供給された高周波電圧が各区間の電極対を伝搬していく。電極対は車両へ電気的に結合する役割に加えて、次の区間(次段)へ電力を伝達させる役割も果たす。つまり、電極対は
◎ 車両がその区間にある場合は車両へ電力を伝えるワイヤレス電極の役割を果たす。
◎ 車両がその区間にない場合は次段へ電力を伝える高周波伝送線路の働きをする。
これを図4に示す3段縦続の例で説明する。電力伝送路を短い区間に分割し、区間の接続部に、特性インピーダンスが電力伝送路の特性インピーダンスzに等しく、かつ、高周波の位相を30度だけ進める回路(進相回路)を挿入する。動作を説明する。まず、車両が東端にあるときは、電力伝送路と進相回路の特性インピーダンスが等しいので区間の接続点での反射はない。また、東端では従来例と同じ状況なので、ここでも反射が発生しない。つまり電力伝送路と車両がインピーダンス整合している。つぎに、車両が西へ30度の位置へ移動した場合、従来例と同じ理由で不整合が発生する。ここまでは従来例と同じ動作である。つぎに、車両が西へ60度の位置へ移動した場合、車両から東をみて、東端から反射してくる波動は電力伝送路30度分の往復つまり60度分の遅延がある。ところが進相回路があるので、往路で30度位相が進み、復路でさらに30度位相が進む。合計60度進相する。電力伝送路で60度遅延し、進相回路で60度位相が進むので、結局位相がもとにもどり、入射波と反射波で同位相となる。これは車両が東端にある場合の位相関係と同じ状態であるので、電力伝送路と車両が整合する。このように0度から30度で一旦整合がずれるものの、60度の位置でもとの整合状態に戻る。30度毎に位相がもとにもどるので、不整合が蓄積していかない。言い換えると、車両の位置に関わらず、インピーダンスのずれは少ない。
【0030】
これを数式を用いて定量的に説明する。一般に、高周波伝送線路を2ポート回路網とみたとき、その入力インピーダンスzinは出力ポートに接続された負荷のインピーダンスzloadに依存し、
【0031】
【数8】
であることが知られている。ここでzijは区間を2ポート回路網としてみたときのインピーダンス行列Z
【0032】
【数9】
の各要素である。このような区間を複数段そのまま縦続接続すると、前段の入力インピーダンスが次段の負荷となるため、数8で示したzinが段数によって(すなわち車両が電源から何段目にあるかによって)異なる値となってしまう。しかるに、このシステムにおいて重要なことは
機能(1):「何番目の区間に車両があるかに関わらず、電源から負荷側をみたインピーダンスがほぼ一定の値となる」
ことである。どのように構成すればこの機能(1)が達成できるか以下に説明する。
【0033】
まず準備として、電極対区間のインピーダンス行列Zを以下のように定式化する。電極対区間は入力ポートと出力ポートを備えている。簡単のため左右対称構造であるとし、入出力ポートにおける反射がなく、かつ、内部での損失もないとする。入力ポートから出力ポートまでの波動伝搬時間をτとする。これを位相遅延に換算すると
【0034】
【数10】
となる。ここでω=2πfは電源の角周波数、β=2π/λは伝播定数、λは伝播波長、l(前記数式中、筆記体エルを示す。以下、同様に記述する。)は電極対区間長である。入出力ポートにおいて反射がないことをSパラメータで表すとS11=S22=0である。同様に通過損失がなく、かつ、位相遅延がφであることを表すとS12=S21=e−jφである。負号は位相が遅れることを意味する。これらを一括して2×2の散乱行列Sで表現すると
【0035】
【数11】
である。これにインピーダンス行列Zへの変換公式
【0036】
【数12】
を適用すると
【0037】
【数13】
となり、さらにオイラー公式
【0038】
【数14】
を用いて
【0039】
【数15】
となる。ここでzは基準インピーダンス(z>0)であり、路面下の電極対を高周波伝送線路とみなしたときの特性インピーダンスと等しくする。
【0040】
つぎに、接続回路のインピーダンス行列を
【0041】
【数16】
と与える。ここが本発明のポイントである。このようなインピーダンス行列を呈する接続回路を用いることにより機能(1)が達成できる。その理由を以下に説明する。
【0042】
第n区間(nは任意の自然数)の入力インピーダンスzin(n)は、第(n+1)区間との接続回路の入力インピーダンスz´in(n+1)に依存して、
【0043】
【数17】
となる。同様に、この接続回路の入力インピーダンスz´in(n+1)は第(n+1)区間の入力インピーダンスzin(n+1)に依存して、
【0044】
【数18】
となる。数18を数17に代入すると
【0045】
【数19】
となる。これに数15と数16を適用すると
【0046】
【数20】
を得る。つまり任意のnについてzin(n)=zin(n+1)が成立する。数学的帰納法によりzin(n)はnに無関係な一定値となる。これにて機能(1)が達成できることが示せた。
【0047】
数16に示したインピーダンス行列を呈する接続回路は現実に受動素子を用いて構成することが可能である。そのことを以下に証明する。数16の右辺を2つの部分行列に分解し、さらに三角関数の半角公式を用いて
【0048】
【数21】
と変形することができる。これは対称T型集中定数2ポート回路のインピーダンス行列と等価である。この行列は成分がすべて純虚数なので、このようなインピーダンス行列を呈する回路は無損失インダクタと無損失キャパシタで構成できる。具体的には、0<φ<πとしたいときはsinφ>0,tan(φ/2)>0なので回路は図5に示すようにCLCのT型で構成できる。このときLC値は
【0049】
【数22】
と設定すればよい。これで
【0050】
【数23】
が数16と等価になる。
【0051】
また、π<φ<2πとしたいときはsinφ<0,tan(φ/2)<0なので回路は図6に示すようにLCLのT型で構成できる。このときLC値は
【0052】
【数24】
と設定すればよい。つまり
【0053】
【数25】
である。T型回路のかわりに、T−π変換(Y−Δ変換)を用いて、上記いずれかのT型回路をπ型回路に変換した回路、あるいはこれらを組み合わせた回路を接続回路として用いてもよい。さらに、ここでは集中定数LCで構成することを説明したが、それに限定せず、上述の式で表現されるインピーダンス行列を有する2ポート回路であれば例えば同軸ケーブルなどの分布定数素子で構成してもよい。
【0054】
本発明による電力伝送路の効果を定量的に説明する。インピーダンスの不整合を軽減するために全区間を長さの等しい3つに分割し隣接区間同士の間に接続回路を挿入する。車両がこの電力伝送路の第2区間を走行しているときの様子を図7に示す。またそのRF等価回路を図8に示す。φは単位区間あたりの電気長であり、数4で与えられる。αは接続回路から車両までの電気長である。zは伝送路からみた車両のインピーダンスである。区間数は3に限定することなく任意数に増やしてもよい。その場合の等価回路は車両が走行している区間の東西に区間を追加することで表すことができる。これを図9に示す。例として16区間の場合の入力インピーダンスと出力インピーダンスを数値的に計算した。ここで、区間の間に挿入する接続回路は対称T型CLC回路とし、ωLとωCの値は数22で与えた。計算の結果を図10図11に示す。これらの図を図2おおび図3と比較すると、本実施例では入力出力ともにインピーダンスの変動幅が従来構造よりも小さく抑えられていることがわかる。
【0055】
このような変動の大きさを定量的に示す指標として、インピーダンスを反射係数Γに換算し、その平均と標準偏差をそれぞれ
【0056】
【数26】
と定義する。ここでzは車両の位置を順次変えて計算したn回目のインピーダンス、Γはそれを反射係数に換算した複素数、n=1,2,3,...,N、Nはインピーダンスの全計算回数、<Γ>は反射係数の平均を表す。図2図3のデータからこれら標準偏差を計算すると表1(縦続給電型電力伝送路の反射係数の平均と標準偏差)となる。
【0057】
【表1】
本発明により入出力ともに反射係数の変動が大きく軽減されることがわかる。
【実施例2】
【0058】
2.側路給電型
側路給電型は伝送線路を複数に分割するという点が縦続給電型と同じであるが、単位区間を接続する方法が異なる。図12に示すように、複数の電極の脇に伝送路と並行して電力伝送線路を備える。電力伝送線路から各電極へ分岐的に接続する。接続回路の構造と設計法は縦続給電型と同じでよい。車両が第2区間を走行しているときのRF等価回路を図13に示す。区間数は3に限定することなく任意数に増やしてもよい。その場合の等価回路は車両が走行している区間の東西に区間を単純に追加するだけでよい。これを図14に示す。各区間の中点に別の接続回路を設けて電力伝送線路と接続する。その回路例を図15に示す。LとCの値を数22で定める。これにより、車両の乗っていない区間を電力伝送線路からみると開放状態と等価となる。こうすることにより、車両の乗っていない区間は、電源から負荷をみたインピーダンスや車両から電源側をみたインピーダンスに影響を与えない。単位区間が短いすなわちφ<<πの場合はLとCを省略して電極区間を電力伝送線路に直結してもよい。例として区間数が16の場合の入力インピーダンスと出力インピーダンスを数値的に計算した。計算の結果を図16図17に示す。
【0059】
これらの図を従来例である図2および図3と比較すると、本実施例では入力出力ともにインピーダンスの変動幅が従来構造よりも小さく抑えられている。これを定量的な指標でみると表2(側路給電型電力伝送路の反射係数の平均と標準偏差)となる。
【0060】
【表2】
入出力ともに反射係数の変動が大きく軽減されることがわかる。なお、上記説明では各単位区間の中点に給電線を接続してあるが、西側あるいは東側あるいはその途中のどこかに接続してもよい。
【実施例3】
【0061】
3.分岐給電型
前述の実施例第1および第2手法と同様に短い区間を複数備えて、車両が走行する方向に並べる。図18に示すように、RF電源からの電力を同軸ケーブルなどの伝送線路を用いてトーナメント式に分岐して給電する。この構造をRF電源からみたとき、構造が対称であるため、車両がどの区間を走行していても、全く等しい電力が給電される。したがって、RF電源から負荷側をみた入力インピーダンスは車両の走行に伴って、区間ひとつ分の入力インピーダンスの変化を繰り返す。つまり、入力インピーダンスの変化が単一線路で給電するより大幅に低減することが可能となる。この構造のRF等価回路を図19に示す。zは車両の入力インピーダンス、lは区間の端から車両までの物理長、zは同軸ケーブルの特性インピーダンス、Δlはトーナメントの各段間の配線長を表す。説明の簡単化のため区間電極対の特性インピーダンスと伝播波長はどちらも同軸ケーブルの値に等しく、それぞれz,λとする。このとき、車両が走行している区間の枝のインピーダンスzinx
【0062】
【数27】
である。車両が走行していない区間は単なる並列開放スタブであるため,入力インピーダンスが簡単に求められる。そして分岐線路の入力インピーダンスを逐次に計算していけば、全体の入力インピーダンスが求められる。その計算結果を図20に示す。横軸lは車両の走行位置(単位はλ)である。これらから計算した入力反射係数の標準偏差の計算結果を図21に示す。この偏差はΔlに依存するが、最も高い場合でも従来例での偏差0.369に比べて桁違いに小さいことがわかる。同様に、出力インピーダンスならびに出力反射係数の標準偏差の計算結果を図22図23に示す。この偏差はΔlに依存するが、従来例での偏差0.463に比べて約1/3程度に軽減できることがわかる。
【0063】
前述した構造の電力伝送路は四輪車の左右両輪を用いることを前提としているので、二輪車は想定していなかった。そこで、図24に示すように区間をさらに細かくサブ区間に分割して、サブ区間の間を順次クロスに結線して区間を構成する。これにより、二輪車はその前後輪の間に高周波電圧を印加できるので給電ができる。この構造により、二輪車と同時に四輪車も給電することが可能である。
図1
図2
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図5
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図11
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図13
図14
図15
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図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24