【実施例1】
【0029】
1.縦続給電型
一端に高周波電源を備えた長い伝送路があり、その路面下に埋設された電極対を一定長の複数の短い区間に分割し、隣り合う区間どうしの電極対を接続回路で順次接続する。高周波電源から供給された高周波電圧が各区間の電極対を伝搬していく。電極対は車両へ電気的に結合する役割に加えて、次の区間(次段)へ電力を伝達させる役割も果たす。つまり、電極対は
◎ 車両がその区間にある場合は車両へ電力を伝えるワイヤレス電極の役割を果たす。
◎ 車両がその区間にない場合は次段へ電力を伝える高周波伝送線路の働きをする。
これを
図4に示す3段縦続の例で説明する。電力伝送路を短い区間に分割し、区間の接続部に、特性インピーダンスが電力伝送路の特性インピーダンスz
oに等しく、かつ、高周波の位相を30度だけ進める回路(進相回路)を挿入する。動作を説明する。まず、車両が東端にあるときは、電力伝送路と進相回路の特性インピーダンスが等しいので区間の接続点での反射はない。また、東端では従来例と同じ状況なので、ここでも反射が発生しない。つまり電力伝送路と車両がインピーダンス整合している。つぎに、車両が西へ30度の位置へ移動した場合、従来例と同じ理由で不整合が発生する。ここまでは従来例と同じ動作である。つぎに、車両が西へ60度の位置へ移動した場合、車両から東をみて、東端から反射してくる波動は電力伝送路30度分の往復つまり60度分の遅延がある。ところが進相回路があるので、往路で30度位相が進み、復路でさらに30度位相が進む。合計60度進相する。電力伝送路で60度遅延し、進相回路で60度位相が進むので、結局位相がもとにもどり、入射波と反射波で同位相となる。これは車両が東端にある場合の位相関係と同じ状態であるので、電力伝送路と車両が整合する。このように0度から30度で一旦整合がずれるものの、60度の位置でもとの整合状態に戻る。30度毎に位相がもとにもどるので、不整合が蓄積していかない。言い換えると、車両の位置に関わらず、インピーダンスのずれは少ない。
【0030】
これを数式を用いて定量的に説明する。一般に、高周波伝送線路を2ポート回路網とみたとき、その入力インピーダンスz
inは出力ポートに接続された負荷のインピーダンスz
loadに依存し、
【0031】
【数8】
であることが知られている。ここでz
ijは区間を2ポート回路網としてみたときのインピーダンス行列Z
【0032】
【数9】
の各要素である。このような区間を複数段そのまま縦続接続すると、前段の入力インピーダンスが次段の負荷となるため、数8で示したz
inが段数によって(すなわち車両が電源から何段目にあるかによって)異なる値となってしまう。しかるに、このシステムにおいて重要なことは
機能(1):「何番目の区間に車両があるかに関わらず、電源から負荷側をみたインピーダンスがほぼ一定の値となる」
ことである。どのように構成すればこの機能(1)が達成できるか以下に説明する。
【0033】
まず準備として、電極対区間のインピーダンス行列Zを以下のように定式化する。電極対区間は入力ポートと出力ポートを備えている。簡単のため左右対称構造であるとし、入出力ポートにおける反射がなく、かつ、内部での損失もないとする。入力ポートから出力ポートまでの波動伝搬時間をτとする。これを位相遅延に換算すると
【0034】
【数10】
となる。ここでω=2πfは電源の角周波数、β=2π/λは伝播定数、λは伝播波長、l(前記数式中、筆記体エルを示す。以下、同様に記述する。)は電極対区間長である。入出力ポートにおいて反射がないことをSパラメータで表すとS
11=S
22=0である。同様に通過損失がなく、かつ、位相遅延がφであることを表すとS
12=S
21=e−
jφである。負号は位相が遅れることを意味する。これらを一括して2×2の散乱行列Sで表現すると
【0035】
【数11】
である。これにインピーダンス行列Zへの変換公式
【0036】
【数12】
を適用すると
【0037】
【数13】
となり、さらにオイラー公式
【0038】
【数14】
を用いて
【0039】
【数15】
となる。ここでz
oは基準インピーダンス(z
o>0)であり、路面下の電極対を高周波伝送線路とみなしたときの特性インピーダンスと等しくする。
【0040】
つぎに、接続回路のインピーダンス行列を
【0041】
【数16】
と与える。ここが本発明のポイントである。このようなインピーダンス行列を呈する接続回路を用いることにより機能(1)が達成できる。その理由を以下に説明する。
【0042】
第n区間(nは任意の自然数)の入力インピーダンスz
in(n)は、第(n+1)区間との接続回路の入力インピーダンスz´
in(n+1)に依存して、
【0043】
【数17】
となる。同様に、この接続回路の入力インピーダンスz´
in(n+1)は第(n+1)区間の入力インピーダンスz
in(n+1)に依存して、
【0044】
【数18】
となる。数18を数17に代入すると
【0045】
【数19】
となる。これに数15と数16を適用すると
【0046】
【数20】
を得る。つまり任意のnについてz
in(n)=z
in(n+1)が成立する。数学的帰納法によりz
in(n)はnに無関係な一定値となる。これにて機能(1)が達成できることが示せた。
【0047】
数16に示したインピーダンス行列を呈する接続回路は現実に受動素子を用いて構成することが可能である。そのことを以下に証明する。数16の右辺を2つの部分行列に分解し、さらに三角関数の半角公式を用いて
【0048】
【数21】
と変形することができる。これは対称T型集中定数2ポート回路のインピーダンス行列と等価である。この行列は成分がすべて純虚数なので、このようなインピーダンス行列を呈する回路は無損失インダクタと無損失キャパシタで構成できる。具体的には、0<φ<πとしたいときはsinφ>0,tan(φ/2)>0なので回路は
図5に示すようにCLCのT型で構成できる。このときLC値は
【0049】
【数22】
と設定すればよい。これで
【0050】
【数23】
が数16と等価になる。
【0051】
また、π<φ<2πとしたいときはsinφ<0,tan(φ/2)<0なので回路は
図6に示すようにLCLのT型で構成できる。このときLC値は
【0052】
【数24】
と設定すればよい。つまり
【0053】
【数25】
である。T型回路のかわりに、T−π変換(Y−Δ変換)を用いて、上記いずれかのT型回路をπ型回路に変換した回路、あるいはこれらを組み合わせた回路を接続回路として用いてもよい。さらに、ここでは集中定数LCで構成することを説明したが、それに限定せず、上述の式で表現されるインピーダンス行列を有する2ポート回路であれば例えば同軸ケーブルなどの分布定数素子で構成してもよい。
【0054】
本発明による電力伝送路の効果を定量的に説明する。インピーダンスの不整合を軽減するために全区間を長さの等しい3つに分割し隣接区間同士の間に接続回路を挿入する。車両がこの電力伝送路の第2区間を走行しているときの様子を
図7に示す。またそのRF等価回路を
図8に示す。φは単位区間あたりの電気長であり、数4で与えられる。αは接続回路から車両までの電気長である。z
cは伝送路からみた車両のインピーダンスである。区間数は3に限定することなく任意数に増やしてもよい。その場合の等価回路は車両が走行している区間の東西に区間を追加することで表すことができる。これを
図9に示す。例として16区間の場合の入力インピーダンスと出力インピーダンスを数値的に計算した。ここで、区間の間に挿入する接続回路は対称T型CLC回路とし、ωLとωCの値は数22で与えた。計算の結果を
図10と
図11に示す。これらの図を
図2おおび
図3と比較すると、本実施例では入力出力ともにインピーダンスの変動幅が従来構造よりも小さく抑えられていることがわかる。
【0055】
このような変動の大きさを定量的に示す指標として、インピーダンスを反射係数Γに換算し、その平均と標準偏差をそれぞれ
【0056】
【数26】
と定義する。ここでz
nは車両の位置を順次変えて計算したn回目のインピーダンス、Γ
nはそれを反射係数に換算した複素数、n=1,2,3,...,N、Nはインピーダンスの全計算回数、<Γ>は反射係数の平均を表す。
図2と
図3のデータからこれら標準偏差を計算すると表1(縦続給電型電力伝送路の反射係数の平均と標準偏差)となる。
【0057】
【表1】
本発明により入出力ともに反射係数の変動が大きく軽減されることがわかる。
【実施例2】
【0058】
2.側路給電型
側路給電型は伝送線路を複数に分割するという点が縦続給電型と同じであるが、単位区間を接続する方法が異なる。
図12に示すように、複数の電極の脇に伝送路と並行して電力伝送線路を備える。電力伝送線路から各電極へ分岐的に接続する。接続回路の構造と設計法は縦続給電型と同じでよい。車両が第2区間を走行しているときのRF等価回路を
図13に示す。区間数は3に限定することなく任意数に増やしてもよい。その場合の等価回路は車両が走行している区間の東西に区間を単純に追加するだけでよい。これを
図14に示す。各区間の中点に別の接続回路を設けて電力伝送線路と接続する。その回路例を
図15に示す。L
2とC
2の値を数22で定める。これにより、車両の乗っていない区間を電力伝送線路からみると開放状態と等価となる。こうすることにより、車両の乗っていない区間は、電源から負荷をみたインピーダンスや車両から電源側をみたインピーダンスに影響を与えない。単位区間が短いすなわちφ
2<<πの場合はL
2とC
2を省略して電極区間を電力伝送線路に直結してもよい。例として区間数が16の場合の入力インピーダンスと出力インピーダンスを数値的に計算した。計算の結果を
図16と
図17に示す。
【0059】
これらの図を従来例である
図2および
図3と比較すると、本実施例では入力出力ともにインピーダンスの変動幅が従来構造よりも小さく抑えられている。これを定量的な指標でみると表2(側路給電型電力伝送路の反射係数の平均と標準偏差)となる。
【0060】
【表2】
入出力ともに反射係数の変動が大きく軽減されることがわかる。なお、上記説明では各単位区間の中点に給電線を接続してあるが、西側あるいは東側あるいはその途中のどこかに接続してもよい。
【実施例3】
【0061】
3.分岐給電型
前述の実施例第1および第2手法と同様に短い区間を複数備えて、車両が走行する方向に並べる。
図18に示すように、RF電源からの電力を同軸ケーブルなどの伝送線路を用いてトーナメント式に分岐して給電する。この構造をRF電源からみたとき、構造が対称であるため、車両がどの区間を走行していても、全く等しい電力が給電される。したがって、RF電源から負荷側をみた入力インピーダンスは車両の走行に伴って、区間ひとつ分の入力インピーダンスの変化を繰り返す。つまり、入力インピーダンスの変化が単一線路で給電するより大幅に低減することが可能となる。この構造のRF等価回路を
図19に示す。z
cは車両の入力インピーダンス、l
xは区間の端から車両までの物理長、z
oは同軸ケーブルの特性インピーダンス、Δlはトーナメントの各段間の配線長を表す。説明の簡単化のため区間電極対の特性インピーダンスと伝播波長はどちらも同軸ケーブルの値に等しく、それぞれz
o,λとする。このとき、車両が走行している区間の枝のインピーダンスz
inxは
【0062】
【数27】
である。車両が走行していない区間は単なる並列開放スタブであるため,入力インピーダンスが簡単に求められる。そして分岐線路の入力インピーダンスを逐次に計算していけば、全体の入力インピーダンスが求められる。その計算結果を
図20に示す。横軸lは車両の走行位置(単位はλ)である。これらから計算した入力反射係数の標準偏差の計算結果を
図21に示す。この偏差はΔlに依存するが、最も高い場合でも従来例での偏差0.369に比べて桁違いに小さいことがわかる。同様に、出力インピーダンスならびに出力反射係数の標準偏差の計算結果を
図22と
図23に示す。この偏差はΔlに依存するが、従来例での偏差0.463に比べて約1/3程度に軽減できることがわかる。
【0063】
前述した構造の電力伝送路は四輪車の左右両輪を用いることを前提としているので、二輪車は想定していなかった。そこで、
図24に示すように区間をさらに細かくサブ区間に分割して、サブ区間の間を順次クロスに結線して区間を構成する。これにより、二輪車はその前後輪の間に高周波電圧を印加できるので給電ができる。この構造により、二輪車と同時に四輪車も給電することが可能である。