特許第6238231号(P6238231)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6238231-蓄電器監視装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6238231
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】蓄電器監視装置
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/02 20160101AFI20171120BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20171120BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   H02J7/02 H
   H02J7/00 Y
   H01M10/48 P
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-13660(P2014-13660)
(22)【出願日】2014年1月28日
(65)【公開番号】特開2015-142431(P2015-142431A)
(43)【公開日】2015年8月3日
【審査請求日】2016年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立オートモティブシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】特許業務法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金井 友範
(72)【発明者】
【氏名】工藤 彰彦
(72)【発明者】
【氏名】菊地 睦
(72)【発明者】
【氏名】三浦 光
【審査官】 坂本 聡生
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−183025(JP,A)
【文献】 特開2004−266992(JP,A)
【文献】 特開2012−103108(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00−7/12
7/34−7/36
H01M 2/10
10/44
10/48
B60L 3/00
G01R19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電池セルからなる蓄電器を監視する蓄電器監視装置であって、
前記複数の電池セルの電圧をそれぞれ測定するための複数の電圧測定経路と、
前記複数の電圧測定経路のいずれかを選択する電圧測定用マルチプレクサと、
前記複数の電池セルをそれぞれ放電させるための複数の放電経路と、
前記複数の放電経路上にそれぞれ配置され、前記複数の電池セルをそれぞれ放電状態または放電停止状態のいずれかに切り替える複数のバランシングスイッチと、
前記複数の放電経路のいずれかを選択するバランシング用マルチプレクサと、を備え、
前記複数のバランシングスイッチにより前記複数の電池セルのいずれか1つを放電状態として他の電池セルを放電停止状態としたときに、前記複数の放電経路を前記バランシング用マルチプレクサにより順次選択して前記複数の放電経路にそれぞれ設けられた測定部位の電圧を測定し、その測定値を所定の期待値とそれぞれ比較した結果に基づいて、前記複数のバランシングスイッチおよび前記バランシング用マルチプレクサが正常であるか否かを診断することを特徴とする蓄電器監視装置。
【請求項2】
請求項1に記載の蓄電器監視装置において、
前記複数のバランシングスイッチおよび前記バランシング用マルチプレクサの診断中に、前記複数のバランシングスイッチは、前記放電状態とする電池セルを順次切り替えることを特徴とする蓄電器監視装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の蓄電器監視装置において、
前記測定部位の電圧測定値をアナログ値からデジタル値に変換するAD変換器をさらに備え、
前記AD変換器によりデジタル値に変換された前記測定部位の電圧測定値を前記期待値と比較することを特徴とする蓄電器監視装置。
【請求項4】
請求項3に記載の蓄電器監視装置において、
マイコンをさらに備え、
前記マイコンを用いて、前記測定部位の電圧測定値を前記期待値と比較し、その比較結果に基づいて、前記複数のバランシングスイッチおよび前記バランシング用マルチプレクサの診断を行うことを特徴とする蓄電器監視装置。
【請求項5】
請求項1または2に記載の蓄電器監視装置において、
前記複数のバランシングスイッチの端子間電圧を前記測定部位の電圧としてそれぞれ測定することを特徴とする蓄電器監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電器を監視する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示すように、複数の電池セルを直並列に接続した蓄電器の監視装置が知られている。この蓄電器監視装置は、電圧検出回路を備えており、これを用いて複数の電池セルのそれぞれの端子間電圧を検出する。また、複数の電池セルのそれぞれの充電状態の調整を行うため、複数の電池セルのそれぞれに対応して放電を行うための複数のバランシングスイッチと、複数のバランシングスイッチのそれぞれの開閉を制御する放電制御回路とが備えられている。
【0003】
バランシングスイッチが異常であった場合、電池セルの充電状態を制御できなくなり、一部の電池セルが過充電あるいは過放電になる恐れがある。そのため、蓄電器監視装置には、バランシングスイッチの異常を検知するための回路が備えられている。この回路は、バランシングスイッチ両端の端子間電圧を検出する動作状態検出回路と、動作状態検出回路によって検出された端子間電圧の電位を揃えると共に診断すべきバランシングスイッチを選択する電位変換回路と、この端子間電圧を判定電圧と比較してバランシングスイッチが異常か否かを判定する異常判定回路とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−183025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような従来のバランシングスイッチの異常検知では、たとえば診断すべきバランシングスイッチの選択が正しく行えないような異常が生じた場合などに、その異常を正しく検知できないことがある。そのため、蓄電器監視装置の信頼性をより向上させることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による蓄電器監視装置は、複数の電池セルからなる蓄電器を監視するものであって、前記複数の電池セルの電圧をそれぞれ測定するための複数の電圧測定経路と、前記複数の電圧測定経路のいずれかを選択する電圧測定用マルチプレクサと、前記複数の電池セルをそれぞれ放電させるための複数の放電経路と、前記複数の放電経路上にそれぞれ配置され、前記複数の電池セルをそれぞれ放電状態または放電停止状態のいずれかに切り替える複数のバランシングスイッチと、前記複数の放電経路のいずれかを選択するバランシング用マルチプレクサと、を備え、前記複数のバランシングスイッチにより前記複数の電池セルのいずれか1つを放電状態として他の電池セルを放電停止状態としたときに、前記複数の放電経路を前記バランシング用マルチプレクサにより順次選択して前記複数の放電経路にそれぞれ設けられた測定部位の電圧を測定し、その測定値を所定の期待値とそれぞれ比較した結果に基づいて、前記複数のバランシングスイッチおよび前記バランシング用マルチプレクサが正常であるか否かを診断することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、蓄電器監視装置の信頼性をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態による蓄電器監視装置の構成を示す図である。
図2】集積回路の主要構成を示す図である。
図3】本発明による異常診断手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下では、図1〜3を用いて本発明の蓄電器監視装置の動作について説明する。
【0010】
図1は本発明の一実施形態による蓄電器監視装置3の構成を示す図である。蓄電器監視装置3は、電池セル1を8つ直列に接続して構成された蓄電器2を監視するためのものであり、蓄電器2および上位システム7に接続されている。
【0011】
蓄電器監視装置3は、蓄電器2の各電池セル1の電圧、温度、充放電電流などを測定し、これらの測定結果を上位システム7に報告する。上位システム7は、蓄電器監視装置3から報告されたこれらの測定結果に基づいて、各電池セル1のSOC(State Of Charge)、SOH(State Of Health)、許容充放電電力などを算出し、蓄電器2の充放電制御を行う。なお、SOC、SOH、許容充放電電力等の算出の一部または全部を上位システム7の代わりに蓄電器監視装置3で行ってもよい。
【0012】
また、蓄電器監視装置3は、蓄電器2の容量を最大限利用するため、各電池セル1を個別に放電(以下バランシングという)させる事が出来る。
【0013】
さらに、蓄電器監視装置3は、上位システム7への誤報告となりうる異常が蓄電器監視装置3において発生していないかを診断し、その診断結果も上位システム7に報告する。上位システム7は、蓄電器監視装置3からの誤報告に基づいて蓄電器2の充放電制御を行うと過充電あるいは過放電になる恐れがあるため、蓄電器監視装置3から異常発生を通知された場合は、蓄電器2の充放電を禁止し、安全状態を維持する。なお、上位システム7ではなく、蓄電器監視装置3が自身の異常発生を検知した場合に蓄電器2の充放電を禁止し、安全状態を維持してもよい。
【0014】
蓄電器監視装置3は、集積回路4aおよび4b、マイコン5、通信経路6、およびバランシング抵抗8a〜8jから構成される。集積回路4aおよび4bは、4つの電池セル1にそれぞれ対応しており、合わせて蓄電器2が有する8つの電池セル1に対応している。集積回路4a、4bと各電池セル1との間には、バランシング抵抗8a〜8jを介して各電池セル1を放電させるための放電経路10a〜10jと、バランシング抵抗8a〜8jを介さずに各電池セル1の電圧を測定するための電圧測定経路11a〜11jとが設けられている。なお、電圧測定経路11a〜11j上には、蓄電器2からのノイズを除去するためのRCフィルタ等を配置してもよい。
【0015】
集積回路4a、4bは、マイコン5からの指示により、対応する各電池セル1の電圧測定や各種回路の診断などをそれぞれ行い、その結果をマイコン5へ報告する。また、集積回路4a、4bは、マイコン5からの指示により、バランシングの実行と停止を行う。
【0016】
通信経路6は、マイコン5と集積回路4a、4bの間にそれぞれ設けられると共に、集積回路4aと集積回路4bの間に設けられている。この通信経路6を介して、マイコン5から集積回路4a、4bへの指示内容と、集積回路4a、4bからマイコン5への報告内容とを伝達する事が出来る。
【0017】
マイコン5は、集積回路4a、4bに対して、電池セル1の電圧測定の指示や、診断実行の指示を行う。また、集積回路4a、4bからの報告内容を受け、その結果を上位システム7へ報告する。ここで、マイコン5は、集積回路4a、4bからの報告内容の一部を用いて、以下に説明する異常診断の判定を判定回路9にて行い、その結果を上位システム7へ報告する。
【0018】
図2は、集積回路4a、4bの主要構成を示した図である。集積回路4a、4bは、主要な機能としてセル電圧測定、バランシング、異常診断の各機能を有している。図2では、これらの機能に係る構成として、バランシングスイッチ40a〜40d、電圧測定用マルチプレクサ(HVMUX)41、バランシング用マルチプレクサ(BALMUX)42、MUX選択回路43、差動増幅器44およびAD変換器45を示している。なお、図2では集積回路4aと集積回路4bの場合を併記しており、括弧内に示した符号は、集積回路4bの場合を示している。
【0019】
HVMUX41は、マイコン5からの指示に応じてセル電圧を測定するために、電圧測定経路11a〜11e(または電圧測定経路11f〜11j)のいずれかを選択してMUX選択回路43へ接続する回路である。たとえば、最も低電位側の電池セル1に対してセル電圧測定をマイコン5から指示された場合、HVMUX41は、当該電池セル1の両端に接続されている電圧測定経路11aおよび11b(または電圧測定経路11fおよび11g)を選択してMUX選択回路43へ接続する。これにより、当該電池セルのセル電圧がHVMUX41からMUX選択回路43を介して差動増幅器44に出力される。
【0020】
バランシングスイッチ40a〜40dは、放電経路10a〜10e(または放電経路10f〜10j)上にそれぞれ配置されており、マイコン5からの指示に応じてバランシングを行なうために、集積回路4a(または集積回路4b)に対応する電池セル1をそれぞれ放電状態または放電停止状態のいずれかに切り替える回路である。バランシングスイッチ40a〜40dは、たとえばFETで構成されている。集積回路4a(または集積回路4b)は、特定の電池セル1に対してマイコン5から放電指示を受けると、バランシングスイッチ40a〜40dのうち当該電池セル1に対応するバランシングスイッチをオンし、他のバランシングスイッチをオフする。たとえば、最も低電位側の電池セル1の放電をマイコン5から指示された場合、集積回路4a(または集積回路4b)は、当該電池セル1の両端に接続されている放電経路10aおよび10b(または放電経路10fおよび10g)の間にあるバランシングスイッチ40aをオン状態とする。これにより、当該電池セル1から放電経路10aおよび10b(または放電経路10fおよび10g)を経由してバランシング抵抗8aおよび8b(またはバランシング抵抗8fおよび8g)に放電電流が流れるようにし、当該電池セル1を放電させる。
【0021】
BALMUX42は、マイコン5からの指示に応じて、バランシングスイッチ40a〜40dの両端電圧を測定し、これによりバランシングスイッチ40a〜40dおよびBALMUX42の異常診断を行うために、放電経路10a〜10e(または放電経路10f〜10j)のいずれかを選択してMUX選択回路43へ接続する回路である。たとえば、バランシングスイッチ40aの両端電圧を測定する場合、BALMUX42は、バランシングスイッチ40aの両端に接続されている放電経路10aおよび10b(または放電経路10fおよび10g)を選択してMUX選択回路43へ接続する。これにより、バランシングスイッチ40aの両端電圧がBALMUX41からMUX選択回路43を介して差動増幅器44に出力される。なお、具体的な異常診断の方法については、後で詳細に説明する。
【0022】
MUX選択回路43は、差動増幅器44にHVMUX41とBALMUX42のどちらを接続するかの選択を行う回路である。MUX選択回路43は、セル電圧の測定時には、HVMUX41を差動増幅器44の接続先として選択し、異常診断時には、BALMUX42を差動増幅器44の接続先として選択する。
【0023】
差動増幅器44は、MUX選択回路43を介してHVMAX41から入力されたセル電圧、またはMUX選択回路43を介してBALMAX42から入力されたバランシングスイッチ40a〜40dの両端電圧を、AD変換器45の入力レンジに応じた所定の電圧範囲内となるように変換する回路である。差動増幅器44により変換されたこれらの電圧は、AD変換器45に入力される。
【0024】
AD変換器45は、差動増幅器44から入力された電圧をアナログ値からデジタル値に変換することで、当該電圧の測定を行う回路である。このデジタル電圧は、図1の通信経路6を介してマイコン5へ報告される。マイコン5は、報告されたデジタル電圧が所定の期待値と一致するか否かを判定回路9にて判定し、その判定結果に基づいて、電池セル1のバランシング判断やバランシングスイッチ40a〜40dおよびBALMUX42の異常診断を行う。
【0025】
なお、マイコン5に判定回路9を設けずに、集積回路4a、4b内に判定回路9をそれぞれ設け、その判定回路9での判定結果を集積回路4a、4bからマイコン5へ報告してもよい。また、通信経路6の信頼性を向上させるために、通信経路6を複数設けて多重化してもよい。これにより、複数の通信経路6を介した通信結果を比較して通信異常の有無を判断することができる。さらにこのとき、集積回路4a、4bとマイコン5の両方に判定回路9を配置してもよい。この場合、集積回路4a、4b内の判定回路9での判定結果を一つの通信経路6を介してマイコン5へ報告すると共に、バランシングスイッチ40a〜40dの両端電圧を他の通信経路6を介してマイコン5へ報告し、その電圧測定結果をマイコン5内の判定回路9で判定することが好ましい。このようにすれば、両者の判定結果を比較することで、集積回路4a、4bとマイコン5のどちらかの判定回路9に異常があったとしても、その異常を検知する事ができる。
【0026】
図3は、本発明によるバランシングスイッチ40a〜40dおよびBALMUX42の異常診断手順を示すフローチャートである。なお、以下の説明では、集積回路4aにおけるバランシングスイッチ40a〜40dおよびBALMUX42の異常診断手順を例として説明するが、集積回路4bについても同様である。
【0027】
ステップS10において、マイコン5は、変数n、mの初期値として1をそれぞれ設定する。変数nは、バランシングスイッチ40a〜40dの中からオン状態とするバランシングスイッチを指定するための変数であり、n=1、2、3、4がバランシングスイッチ40a、40b、40c、40dにそれぞれ対応する。また、変数mは、バランシングスイッチ40a〜40dの中から両端電圧の測定対象とするバランシングスイッチを指定するための変数であり、m=1、2、3、4がバランシングスイッチ40a、40b、40c、40dにそれぞれ対応する。
【0028】
ステップS20において、マイコン5は、バランシングスイッチ40a〜40dの中から、そのときの変数nの値に対応するバランシングスイッチをオンするように、集積回路4aに対して指示する。この指示に応じて、集積回路4aは、指示されたバランシングスイッチをオン状態に切り替え、当該バランシングスイッチに対応する電池セル1を放電状態にすると共に、他のバランシングスイッチをオフ状態に切り替え、これらに対応する各電池セル1を放電停止状態にする。
【0029】
ステップS30において、マイコン5は、MUX選択回路43でBALMAX42を選択するように、集積回路4aに対して指示する。この指示に応じて、集積回路4aのMUX選択回路43は、BALMUX42を差動増幅器44の接続先として選択する。
【0030】
ステップS40において、マイコン5は、バランシングスイッチ40a〜40dの中から、そのときの変数mの値に対応するバランシングスイッチを両端電圧の測定対象として選択するように、集積回路4aに対して指示する。この指示に応じて、集積回路4aのBALMAX42は、放電経路10a〜10eの中から、指示されたバランシングスイッチの両端に接続されている放電経路を選択する。
【0031】
ステップS50において、マイコン5は、ステップS40で選択されたバランシングスイッチの両端電圧を測定するように、集積回路4aに対して指示する。この指示に応じて、集積回路4aは、BALMAX42から差動増幅器44を介してAD変換器45に入力された電圧をAD変換器45でデジタル化することにより、当該バランシングスイッチの両端電圧を測定する。こうして測定された電圧値のデジタルデータは、集積回路4aに設けられた不図示のレジスタ内に格納される。
【0032】
ステップS60において、マイコン5は、m=4か否かを判定する。そのときの変数mの値が4である場合は次のステップS70に進み、4でない場合は、ステップS120で変数mの値に1を加えた後にステップS40に戻る。これにより、m=1〜4の間でステップS40〜S60の処理が繰り返し実行される。その結果、BALMAX42により放電経路10a〜10eが順次選択されて、差動増幅器44およびAD変換器45によりバランシングスイッチ40a〜40dの両端電圧がそれぞれ測定され、その測定値が集積回路4aのレジスタ内にそれぞれ格納される。
【0033】
ステップS70において、マイコン5は、集積回路4aのレジスタ内に格納されたバランシングスイッチ40a〜40dの両端電圧の測定値(AD変換結果)を送信するように、集積回路4aに対して指示する。この指示に応じて、集積回路4aは、各バランシングスイッチの両端電圧の測定値をレジスタから読み出し、通信経路6を介してマイコン5へ送信する。集積回路4aから各バランシングスイッチの両端電圧の測定値が送信されると、マイコン5は、これらを所定の期待値とそれぞれ比較する。
【0034】
ステップS80において、マイコン5は、ステップS70の比較結果に基づいて、各バランシングスイッチの両端電圧の測定値が期待値と一致しているか否かを判定する。その結果、全てのバランシングスイッチの両端電圧の測定値が期待値と一致している場合は、次のステップS90に進む。一方、いずれか少なくとも一つのバランシングスイッチの両端電圧の測定値が期待値と一致していない場合は、バランシングスイッチ40a〜40dとBALMUX42のいずれか少なくとも一つが異常であるとステップS110で判定し、図3のフローチャートを終了する。
【0035】
ここで、オン状態であるバランシングスイッチの両端電圧に対する期待値としては、バランシングスイッチ40a〜40dの電圧降下分に相当する電圧が設定される。たとえば、バランシングスイッチ40a〜40dを前述のようにFETで構成した場合、バランシングスイッチ40a〜40dに流れるドレイン電流と、ドレイン−ソース間のオン抵抗値とに応じた期待値が設定される。一方、オフ状態であるバランシングスイッチの両端電圧に対する期待値としては、当該バランシングスイッチに対応する電池セル1のセル電圧に相当する電圧が設定される。
【0036】
ステップS90において、マイコン5は、n=4か否かを判定する。そのときの変数nの値が4である場合は次のステップS100に進み、4でない場合は、ステップS130で変数nの値に1を加えた後にステップS20に戻る。これにより、n=1〜4の間でステップS20〜S90の処理が繰り返し実行される。その結果、バランシングスイッチ40a〜40dおよびBALMUX42の診断が継続され、その診断中に、放電状態とする電池セル1が順次切り替えられる。
【0037】
ステップS100において、マイコン5は、バランシングスイッチ40a〜40dおよびBALMUX42が正常であると判定する。ステップS100を実行したら、図3のフローチャートを終了する。
【0038】
以下では、図3に示した異常診断手順の具体例を説明する。最初にマイコン5は、ステップS10で設定された変数nの初期値1に応じて、ステップS20により、バランシングスイッチ40aをオンするように集積回路4aに対して指示する。この指示を受けた集積回路4aでは、バランシングスイッチ40aがオンされる。
【0039】
次にマイコン5は、ステップS30でMUX選択回路43にBALMUX42を選択させた後、ステップS40〜S60およびS120により、バランシングスイッチ40a〜40dの端子間電圧を順次測定するよう集積回路4aに指示する。この指示を受けた集積回路4aでは、変数mの値が1から4まで変化するのに応じて、BALMUX42によりバランシングスイッチ40a〜40dを順次選択し、各端子間電圧の測定結果をレジスタに格納する。
【0040】
こうしてバランシングスイッチ40a〜40dの端子間電圧が測定されると、集積回路4aは、これらの測定値をステップS70で通信経路6を介してマイコン5に報告する。これを受けると、マイコン5は、バランシングスイッチ40a〜40dの端子間電圧を期待値とそれぞれ比較し、いずれかが期待値と異なるとステップS80で判定されれば、ステップS110で異常との診断結果を得る。
【0041】
一方、バランシングスイッチ40a〜40dの端子間電圧が全て期待値と一致していた場合、ステップS90からステップS130を経由してステップS20に戻ることで、バランシングスイッチ40aをオフ状態として、次のバランシングスイッチ40bをオン状態に切り替える。その後、ステップS30以降の処理を繰り返すことで、同様にバランシングスイッチ40a〜40dの端子間電圧を測定し、マイコン5で期待値とそれぞれ比較する。
【0042】
変数nの値が1から4まで変化するのに応じて、以上説明したような処理がマイコン5と集積回路4aにおいて繰り返し実行される。これにより、バランシングスイッチ40a〜40dおよびBALMUX42の異常診断が行われる。
【0043】
以上説明した本発明の一実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
【0044】
(1)蓄電器監視装置3は、8つの電池セル1からなる蓄電器2を監視する。この蓄電器監視装置3は、電池セル1の電圧をそれぞれ測定するための電圧測定経路11a〜11jと、電圧測定経路11a〜11jのいずれかを選択する電圧測定用マルチプレクサ41と、電池セル1をそれぞれ放電させるための放電経路10a〜10jと、放電経路10a〜10j上にそれぞれ配置され、電池セル1をそれぞれ放電状態または放電停止状態のいずれかに切り替えるバランシングスイッチ40a〜40dと、放電経路10a〜10jのいずれかを選択するバランシング用マルチプレクサ42とを備える。蓄電器監視装置3は、バランシングスイッチ40a〜40dにより電池セル1のいずれか1つを放電状態として他の電池セル1を放電停止状態としたとき(ステップS20)に、放電経路10a〜10jをバランシング用マルチプレクサ42により順次選択して(ステップS40)バランシングスイッチ40a〜40dの両端電圧を測定し(ステップS50)、その測定値を所定の期待値とそれぞれ比較する(ステップS70)。この比較結果に基づいて、バランシングスイッチ40a〜40dおよびバランシング用マルチプレクサ42が正常であるか否かを診断する(ステップS80、S100、S110)。このようにしたので、バランシング用マルチプレクサ42が正しく動作しない場合などにおいても異常を検知でき、蓄電器監視装置3の信頼性をより向上させることができる。
【0045】
(2)バランシングスイッチ40a〜40dおよびバランシング用マルチプレクサ42の診断中に、バランシングスイッチ40a〜40dは、放電状態とする電池セル1を順次切り替える(ステップS20、S90、S130)。このようにしたので、バランシングスイッチ40a〜40dまたはバランシング用マルチプレクサ42のいずれかに異常がある場合に、これを確実に検知することができる。
【0046】
(3)蓄電器監視装置3は、バランシングスイッチ40a〜40dの両端電圧の測定値をアナログ値からデジタル値に変換するAD変換器45をさらに備えており、ステップS70では、このAD変換器45によりデジタル値に変換された電圧測定値を期待値と比較する。このようにしたので、電圧測定値と期待値の比較を正確に、かつ容易に行うことができる。
【0047】
(4)蓄電器監視装置3は、マイコン5をさらに備えており、このマイコン5を用いて、ステップS70においてバランシングスイッチ40a〜40dの両端電圧の測定値を期待値と比較し、その比較結果に基づいて、ステップS80、S100およびS110においてバランシングスイッチ40a〜40dおよびバランシング用マルチプレクサ42の診断を行う。このようにしたので、診断に必要な処理をソフトウェアで容易に実現することができる。
【0048】
なお、以上説明した実施形態を次のように変形してもよい。
【0049】
(変形例1)
上記実施形態では、バランシングスイッチ40a〜40dの両端電圧の測定値と期待値との比較をデジタル値で行うようにしたが、アナログ値で比較してもよい。たとえばコンパレータ等を用いて、アナログ値の比較を行うことができる。
【0050】
(変形例2)
上記実施形態では、バランシングスイッチ40a〜40d、電圧測定用マルチプレクサ41、バランシング用マルチプレクサ42、MUX選択回路43、差動増幅器44およびAD変換器45を集積回路4a、4b内にそれぞれ搭載しているが、これらの中で任意のものを集積回路4a、4bの外に配置してもよい。これらの回路が蓄電器監視装置3内に配置されていれば、どのような配置構造としてもよい。
【0051】
(変形例3)
上記実施形態では、バランシングスイッチ40a〜40dにFETを用いたが、他のスイッチを用いてもよい。
【0052】
(変形例4)
上記実施形態では、電池セル1のいずれか1つを放電状態として他の電池セル1を放電停止状態としたときのバランシングスイッチ40a〜40dの端子間電圧を測定することで、バランシングスイッチ40a〜40dおよびバランシング用マルチプレクサ42の診断を行うようにしたが、放電経路10a〜10jの他の部分の電圧を測定することで診断を行ってもよい。たとえば、放電経路10a〜10j上に抵抗をそれぞれ配置し、この抵抗を放電電流が流れたときの電圧降下の測定値を利用して診断を行うことができる。すなわち、放電経路10a〜10jにそれぞれ所定の測定部位を設け、バランシングスイッチ40a〜40dにより電池セル1のいずれか1つを放電状態として他の電池セル1を放電停止状態としたときに、この測定部位の電圧を測定して得られた測定値を所定の期待値とそれぞれ比較する。これにより、バランシングスイッチ40a〜40dおよびバランシング用マルチプレクサ42が正常であるか否かを診断することができる。
【0053】
(変形例5)
上記実施形態では、電池セル1を8つ直列に接続して蓄電器2が構成されている例を説明したが、蓄電器2を構成する電池セル1の数はこれに限定されない。また、電池セル1を直列に接続するのではなく、直並列に接続して蓄電器2を構成してもよい。
【0054】
(変形例6)
上記実施形態では、蓄電器監視装置3内に2つの集積回路4a、4bを設け、これらが4つの電池セル1にそれぞれ対応する例を説明したが、集積回路の数や対応する電池セル1の数はこれに限定されない。
【0055】
上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0056】
1:電池セル、2:蓄電器、3:蓄電器監視装置、4a,4b:集積回路、5:マイコン、6:通信経路、7:上位システム、8a〜8j:バランシング抵抗、9:判定回路、10a〜10j:放電経路、11a〜11j:電圧測定経路、40a〜40d:バランシングスイッチ、41:電圧測定用マルチプレクサ(HVMUX)、42:バランシング用マルチプレクサ(BALMUX)、43:MUX選択回路、44:差動増幅器、45:AD変換器
図1
図2
図3