特許第6238238号(P6238238)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6238238
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】水浄化処理装置及び水浄化処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/30 20060101AFI20171120BHJP
   C02F 3/10 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   C02F3/30 B
   C02F3/30 A
   C02F3/10 Z
【請求項の数】7
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2014-214802(P2014-214802)
(22)【出願日】2014年10月21日
(65)【公開番号】特開2016-78009(P2016-78009A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2016年7月15日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(73)【特許権者】
【識別番号】306033379
【氏名又は名称】株式会社ワコール
(73)【特許権者】
【識別番号】514267825
【氏名又は名称】株式会社メタルファンテック
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保 幹
(72)【発明者】
【氏名】篠▲崎▼ 彰大
(72)【発明者】
【氏名】平井 敏治
(72)【発明者】
【氏名】向 真樹
(72)【発明者】
【氏名】ディネシュ アディカリ
【審査官】 片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−296495(JP,A)
【文献】 特開2009−233551(JP,A)
【文献】 特開平08−001193(JP,A)
【文献】 特開2000−279991(JP,A)
【文献】 特開2014−046294(JP,A)
【文献】 特開2013−121588(JP,A)
【文献】 特開平04−118099(JP,A)
【文献】 特開2002−239573(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/00−34、7/00
A01K 61/00−63/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物吸着多孔質担体を有する好気性微生物処理部と、
前記好気性微生物処理部に処理対象水を導入及び排出させる第1の循環路と、
前記第1の循環路に接続され、前記好気性微生物処理部に処理対象水を圧送する第1の圧送手段と、
微生物吸着多孔質担体を有する嫌気性微生物処理部と、
前記嫌気性微生物処理部に処理対象水を導入及び排出させる第2の循環路と、
前記第2の循環路に接続され、前記嫌気性微生物処理部に処理対象水を圧送する第2の圧送手段と、
前記好気性微生物処理部に空気を導入させる空気導入手段と、
処理対象水を導入及び排出させる第3の循環路と、
前記第3の循環路に接続され、処理対象水を圧送する第3の圧送手段と、を備える水浄化処理装置であって、
前記第1の圧送手段により圧送される処理対象水の単位時間あたりの流量が、前記第2の圧送手段により圧送される処理対象水の単位時間あたりの流量よりも多いこと、
前記第1の圧送手段により圧送される処理対象水の単位時間あたりの流量を、前記好気性微生物処理部が好気的環境を維持するような量とし、前記第2の圧送手段により圧送される処理対象水の単位時間あたりの流量を、前記嫌気性微生物処理部が嫌気的環境を維持するような量とし、
前記第3の循環路の導入口及び排出口が共通する処理対象水域に設けられ、前記第1の循環路及び第2の循環路の導入口が第3の循環路に接続され、前記第1の循環路及び第2の循環路の排出口が第3の循環路に接続されるか、前記処理対象水域に設けられていることを特徴とする、水浄化処理装置。
【請求項2】
微生物吸着多孔質担体を有する好気性微生物処理部と、
前記好気性微生物処理部に処理対象水を導入及び排出させる第1の循環路と、
前記第1の循環路に接続され、前記好気性微生物処理部に処理対象水を圧送する第1の圧送手段と、
微生物吸着多孔質担体を有する嫌気性微生物処理部と、
前記嫌気性微生物処理部に処理対象水を導入及び排出させる第2の循環路と、
前記第2の循環路に接続され、前記嫌気性微生物処理部に処理対象水を圧送する第2の圧送手段と、
前記好気性微生物処理部に空気を導入させる空気導入手段と、
処理対象水を導入及び排出させる第3の循環路と、
前記第3の循環路に接続され、処理対象水を圧送する第3の圧送手段と、
前記第3の循環路から導入した処理対象水を貯水する貯水部と、を備える水浄化処理装置であって、
前記第1の圧送手段により圧送される処理対象水の単位時間あたりの流量が、前記第2の圧送手段により圧送される処理対象水の単位時間あたりの流量よりも多いこと、
前記第1の圧送手段により圧送される処理対象水の単位時間あたりの流量を、前記好気性微生物処理部が好気的環境を維持するような量とし、前記第2の圧送手段により圧送される処理対象水の単位時間あたりの流量を、前記嫌気性微生物処理部が嫌気的環境を維持するような量とし、
前記第3の循環路と前記貯水部とが通水路により接続され、
前記第3の循環路の導入口および排出口が共通する処理対象水域に設けられ、
前記第1の循環路及び前記第2の循環路の導入口が前記貯水部に接続され、前記第1の循環路及び第2の循環路の排出口が前記貯水部に接続されるか、前記処理対象水域に設けられ、
前記貯水部内の水は前記貯水部の排出口から前記処理対象水域へと排出されることを特徴とする、水浄化処理装置。
【請求項3】
前記嫌気性微生物処理部への処理対象水の圧送を所定期間停止させる圧送制御手段を備えることを特徴とする、請求項1又は2に記載の水浄化処理装置。
【請求項4】
前記微生物吸着多孔質担体が、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエチレングリコール系樹脂及びポリエーテル系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含む、請求項1〜のいずれか一項に記載の水処理装置。
【請求項5】
(a)処理対象水を、微生物吸着多孔質担体を有する好気性微生物処理部及び微生物吸着多孔質担体を有する嫌気性微生物処理部にそれぞれ導入する工程、
(b)前記工程により導入された処理対象水に対して、前記好気性微生物処理部において好気性微生物による分解処理を、前記嫌気性微生物処理部において嫌気性微生物による分解処理をそれぞれ進行させる工程、
(c)前記好気性微生物処理部及び前記嫌気性微生物処理部から処理対象水をそれぞれ排出する工程、及び
(d)処理対象水域から処理対象水を循環路内に導入し、該循環路を通過させて処理対象水を前記処理対象水域に排出することにより、前記処理対象水域内に対流を生じさせる工程を含み、
前記好気性微生物処理部に導入される処理対象水の単位時間あたりの流量が、前記嫌気性微生物処理部に導入される処理対象水の単位時間あたりの流量よりも多いこと、
前記好気性微生物処理部及び前記嫌気性微生物処理部への処理対象水の導入を異なる圧送手段を用いて行うこと、
前記圧送手段により圧送される処理対象水の単位時間あたりの流量を、前記好気性微生物処理部が好気的環境を維持するような量とし、前記嫌気性微生物処理部が嫌気的環境を維持するような量とすること、
前記好気性微生物処理部に処理対象水とともに空気を導入すること、
前記(a)工程において、該循環路から処理対象水を導入し、かつ前記(c)工程において、処理対象水を貯水部へ排出した後、処理対象水を該貯水部から前記処理対象水域へ排出することを特徴とする
浄化処理方法。
【請求項6】
前記嫌気性微生物処理部への処理対象水の導入を所定期間停止することを特徴とする、請求項に記載の水浄化処理方法。
【請求項7】
前記微生物吸着多孔質担体が、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエチレングリコール系樹脂及びポリエーテル系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含む、請求項5又は6に記載の水浄化処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水浄化処理装置及び水浄化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の都市化の進行や工業の発達に伴い、湖沼、池、ダム、溜池、貯水池等の止水域(閉鎖水域)では、生活排水や工業排水等による水質汚染が問題となっている。とりわけ、琵琶湖の南湖においては、北湖と比較して貯水量に対して排水量が少なく、地球温暖化の影響などにより対流が起こりづらくなっていることから、水質汚染度が高く、その対策が急務とされている。
【0003】
このような止水域の水質を浄化するための装置としては、例えば、特許文献1に開示されている曝気攪拌装置などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−50353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した曝気攪拌装置などによる水質浄化処理は、止水域内に大量の空気を送り込むことで溶存酸素濃度を向上させ、好気性微生物の増殖を促すものであるため、止水域内の環境を破壊する虞があることや、装置の運転に伴うエネルギーコストが高いことが問題となる。さらに、装置を撤去した後は溶存酸素濃度が低下し、すぐに水質が悪化してしまうため、定期的に水質浄化処理を行う必要がある。
【0006】
本発明は、上記した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、処理対象水域内の環境を破壊することなく、低コストで自然循環系に基づいて継続的かつ連続処理が可能な水浄化処理装置及び水浄化処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
通常、良好な水質の止水域では、緩やかな対流が生じており、水域内に棲息する微生物による汚染源物質の分解が行われている。本発明者らは、このような良好な止水域における環境を参考に、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、処理対象水域の水を好気条件の系及び嫌気条件の系に導入し、それぞれの系において処理対象水域に棲息する微生物を吸着させ、微生物に有機物等の汚染源物質を分解させることにより、処理対象水域の水質を浄化できることを見出した。さらに、処理対象水域から各系に水を導入及び排出することにより、処理対象水域内に緩やかな対流を発生させることができることを見出した。本発明は、かかる知見に基づき、さらなる研究を重ねることにより本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明は、代表的には、以下の項に記載の水浄化処理装置及び水浄化処理方法を提供するものである。
項1.
微生物吸着多孔質担体を有する好気性微生物処理部と、
前記好気性微生物処理部に処理対象水を導入及び排出させる第1の循環路と、
前記第1の循環路に接続され、前記好気性微生物処理部に処理対象水を圧送する第1の圧送手段と、
微生物吸着多孔質担体を有する嫌気性微生物処理部と、
前記嫌気性微生物処理部に処理対象水を導入及び排出させる第2の循環路と、
前記第2の循環路に接続され、前記嫌気性微生物処理部に処理対象水を圧送する第2の圧送手段と、を備える水浄化処理装置。
項2.
前記第1の圧送手段により圧送される処理対象水の単位時間あたりの流量が、前記第2の圧送手段により圧送される処理対象水の単位時間あたりの流量よりも多いことを特徴とする、上記項1に記載の水浄化処理装置。
項3.
前記好気性微生物処理部に空気を導入させる空気導入手段を備えることを特徴とする、上記項1又は2に記載の水浄化処理装置。
項4.
前記嫌気性微生物処理部への処理対象水の圧送を所定期間停止させる圧送制御手段を備えることを特徴とする、上記項1〜3のいずれか一項に記載の水浄化処理装置。
項5.
処理対象水を導入及び排出させる第3の循環路と、
前記第3の循環路に接続され、処理対象水を圧送する第3の圧送手段とを備え、
前記第1の循環路及び第2の循環路の導入口、又は導入口及び排出口の両方が第3の循環路に接続されていることを特徴とする、上記項1〜4のいずれか一項に記載の水浄化処理装置。
項6.
処理対象水を導入及び排出させる第3の循環路と、
前記第3の循環路に接続され、処理対象水を圧送させる第3の圧送手段と、
前記第3の循環路から導入した処理対象水を貯水する貯水部と、
を備え、
前記第3の循環路と前記貯水部とが通水路により接続され、前記第1の循環路及び前記第2の循環路の導入口、又は導入口及び排出口の両方が前記貯水部に接続されていることを特徴とする、上記項1〜4に記載の水浄化処理装置。
項7.
前記微生物吸着多孔質担体が、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエチレングリコール系樹脂及びポリエーテル系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含む、上記項1〜6のいずれか一項に記載の水処理装置。
項8.
(a)処理対象水を、微生物吸着多孔質担体を有する好気性微生物処理部及び微生物吸着多孔質担体を有する嫌気性微生物処理部にそれぞれ導入する工程、
(b)前記工程により導入された処理対象水に対して、前記好気性微生物処理部において好気性微生物による分解処理を、前記嫌気性微生物処理部において嫌気性微生物による分解処理をそれぞれ進行させる工程、及び
(c)前記好気性微生物処理部及び前記嫌気性微生物処理部から処理対象水をそれぞれ排出する工程を含み、
前記好気性微生物処理部に導入される処理対象水の単位時間あたりの流量が、前記嫌気性処理部に導入される処理対象水の単位時間あたりの流量よりも多いことを特徴とする、
水浄化処理方法。
項9.
前記(a)工程及び(c)工程により、処理対象水域内に対流を生じさせることを特徴とする、上記項8に記載の水浄化処理方法。
項10.
処理対象水域から処理対象水を循環路内に導入し、該循環路を通過させて処理対象水を排出することにより処理対象水域内に対流を生じさせる工程を含み、
前記(a)工程において、該循環路から処理対象水を導入し、かつ前記(c)工程において、処理対象水を該循環路又は処理対象水域へ排出することを特徴とする、上記項8に記載の水浄化処理方法。
項11.
処理対象水域から処理対象水を循環路内に導入し、該循環路を通過させて処理対象水を排出することにより処理対象水域内に対流を生じさせる工程を含み、
前記(a)工程において、該循環路から処理対象水を導入し、かつ前記(c)工程において、処理対象水を貯水部へ排出した後、処理対象水を該貯水部から処理対象水域へ排出することを特徴とする、上記項8に記載の水浄化処理方法。
項12.
好気性微生物処理部に処理対象水とともに空気を導入することを特徴とする、上記項8〜11のいずれか一項に記載の水浄化処理方法。
項13.
前記嫌気性微生物処理部への処理対象水の導入を所定期間停止することを特徴とする、上記項8〜12のいずれか一項に記載の水浄化処理方法。
項14.
前記微生物吸着多孔質担体が、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエチレングリコール系樹脂及びポリエーテル系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含む、上記項8〜13のいずれか一項に記載の水浄化処理方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明は自然環境に倣ったバイオミミクリー型の水浄化処理装置である。本発明によれば、処理対象水域内に棲息する微生物に有機物等の汚染源物質を分解させることができ、さらに処理対象水域内に緩やかな対流を生じさせることができるため、処理対象水域内の環境を破壊することなく、処理対象水域内に棲息する微生物が本来備えている水質の浄化作用を発揮させることが可能となる。さらに、本発明は、低コストで継続的かつ連続処理が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の水浄化処理装置の概略を示す模式図である。
図2図2は、八左衛門池の概観を示す図である。
図3図3は、試験例3−1で測定した八左衛門池の2013年4月から2014年4月までの化学的酸素要求量(COD)の変化を示すグラフである。
図4図4は、試験例3−1で測定した八左衛門池の2013年4月から2014年4月までの全炭素量(TC)の変化を示すグラフである。
図5図5は、試験例3−1で測定した八左衛門池の2013年4月から2014年4月までの全窒素量(TN)の変化を示すグラフである。
図6図6は、試験例3−3においてしたPCR−DGGE法による電気泳動のバンドパターンを示す図である。
図7図7は、試験例3−3においてしたPCR−DGGE法による電気泳動のバンドパターンのクラスター解析結果を示す図である。
図8図8は、試験例3−4における八左衛門池に敷設した循環路及び水浄化処理装置の概略を示す図である。
図9図9は、試験例3−4における水浄化処理装置の一部の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、必要に応じて添付図面を参照して説明する。
【0012】
水浄化処理装置
図1は、本発明の一実施形態に係る水浄化処理装置1の概略を示す模式図である。図1に示すように、水浄化処理装置1は、微生物吸着多孔質担体を有する好気性微生物処理部2と、好気性微生物処理部2に処理対象水を導入及び排出させる第1の循環路3と、第1の循環路3に接続され、好気性微生物処理部2に処理対象水を圧送する第1の圧送手段4と、微生物吸着多孔質担体を有する嫌気性微生物処理部5と、嫌気性微生物処理部5に処理対象水を導入及び排出させる第2の循環路6と、第2の循環路6に接続され、嫌気性微生物処理部5に処理対象水を圧送する第2の圧送手段7とを備えている。
【0013】
水浄化処理装置1では上記した構成を備えることにより、処理対象水が、処理対象水域11から第1の圧送手段4により第1の循環路3に導入され、好気性微生物処理部2を通過した後、第1の循環路3を通じて処理対象水域11に排出される。また、同様に、処理対象水域11から第2の圧送手段7により第2の循環路6に導入され、嫌気性微生物処理部5を通じて第2の循環路6を通過し、処理対象水域11に排出される。水浄化処理装置1では、このような一連の処理対象水の導入及び排出が連続的に行えるようになっている。
【0014】
好気性微生物処理部2及び嫌気性微生物処理部5は、その内部に微生物吸着多孔質担体を有するものであれば、その形状、素材、大きさ等は特に制限されない。好気性微生物処理部2及び嫌気性微生物処理部5としては、微生物吸着多孔質担体を充填したカラムなどを例示することができる。微生物吸着多孔質担体を充填したカラムを用いる場合、カラムの本数や長さなどは処理対象水域の汚染度合いや汚染物質の組成によって適宜調整することができる。例えば、炭素系化合物が豊富な水域を処理する際には、好気性微生物処理部2を構成するカラムの本数を多くし、窒素系化合物が豊富な水域を処理する際には、嫌気性微生物処理部5を構成するカラムの本数を多くする、といったように適宜調整することができる。
【0015】
好気性微生物処理部2及び嫌気性微生物処理部5の内部に含まれる微生物吸着多孔質担体は、処理対象水を通水でき、かつ処理対象水内に含まれる微生物を吸着又は担持可能な素材であれば特に限定されない。微生物吸着多孔質担体は、担体1gあたりに吸着又は担持できる微生物数が、一般的な土壌1gあたりに存在する微生物数と同程度又はそれ以上の素材であることが好ましい。一般的な土壌には、1gあたり1×10cells程度の微生物が存在することが知られているため、具体的には、微生物吸着多孔質担体1gあたりに吸着又は担持できる微生物数が、1×10〜1×1010cells/g程度、好ましくは1×10〜1×10cells/g程度である素材が望ましい。このような素材としては、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエチレングリコール系樹脂、ポリエーテル系樹脂等のポリマー樹脂が挙げられ、取扱い易さ、コスト面等の観点からポリビニルアルコール系樹脂が好ましい。なお、ポリビニルアルコール系樹脂の重合度及びけん化度は特に制限されない。
【0016】
好気性微生物処理部2及び嫌気性微生物処理部5には、処理対象水域11から処理対象水が導入される。導入された処理対象水は、微生物吸着多孔質担体と接触しながら好気性微生物処理部2及び嫌気性微生物処理部5の内部を通過し、処理対象水に含まれる微生物が微生物吸着多孔質担体に吸着又は担持される。また、微生物吸着多孔質担体に吸着又は担持された微生物の一部は、処理部内を通過する処理対象水の水流等により、微生物吸着多孔質担体から離れ、処理対象水域11に排出される。
【0017】
微生物吸着多孔質担体に吸着又は担持された微生物には、処理対象水域11内に棲息する種々の微生物が含まれているが、好気性微生物処理部2においては好気的条件(即ち、酸素が豊富に存在する条件)であるため、好気性微生物の活性化(微生物の増殖等)が起こり、嫌気性微生物処理部5においては嫌気的条件(即ち、酸素が非常に乏しい条件)であるため、嫌気性微生物の活性化が起こる。このような微生物の活性化により、処理対象水に含まれる有機物等の水質汚染の一因となる物質は、好気性微生物処理部2において好気性微生物により好気的に分解され、嫌気性微生物処理部5において嫌気的に分解される。
【0018】
また、好気性微生物処理部2における好気的環境、及び嫌気性微生物処理部5における嫌気的環境は、各処理部における酸素濃度を調整することにより作り出すことができる。例えば、後述する、第1の圧送手段4及び第2の圧送手段7により各処理部に圧送される処理対象水の単位時間当たりの流量を調整することや、好気性微生物処理部2に空気を導入すること等により、各処理部における酸素濃度を調整することができる。なお、本明細書において「好気的環境」及び「嫌気的環境」とは、系内の酸素濃度により厳密に定義されるものではなく、両環境を比較し、酸素濃度が相対的に高い方を好気的環境、酸素濃度が相対的に低い方を嫌気的環境という。即ち、両処理部を比較し、酸素濃度が相対的に高いと考えられる処理部を好気性微生物処理部とし、酸素濃度が相対的に低いと考えられる処理部を嫌気性微生物処理部という。
【0019】
第1の圧送手段4及び第2の圧送手段7は、それぞれ第1の循環路3及び第2の循環路6に接続されており、処理対象水域から第1の循環路3及び第2の循環路のそれぞれに処理対象水を圧送できるものであれば、その大きさや種類は特に限定されず、また、各循環路のどこに接続されていてもよい。圧送手段の一例としては、ポンプなどが挙げられる。
【0020】
第1の圧送手段4及び第2の圧送手段7により圧送される処理対象水の単位時間当たりの流量(流速)は、処理対象水域の面積や体積、各処理部の大きさ等により適宜設定することができる。第1の圧送手段4及び第2の圧送手段7により圧送される処理対象水の単位時間当たりの流量が互いに相違する場合、単位時間当たりの流量が多い処理対象水が導入される処理部では、単位時間当たりの流量が少ない処理対象水が導入される処理部と比較して、酸素が多く供給されることとなる。そのため、単位時間当たりの流量が多い処理対象水が導入される処理部は好気的環境となり、単位時間当たりの流量が少ない処理対象水が導入される処理部は嫌気的環境となる。従って、第1の圧送手段4により圧送される処理対象水の単位時間当たりの流量は、第2の圧送手段7により圧送される処理対象水の単位時間当たりの流量よりも多いことが好ましい。
【0021】
例えば、200L容の水槽に入った水を処理対象水域とする場合、第1の圧送手段4により圧送される処理対象水の単位時間当たりの流量を3L/分程度とし、第2の圧送手段7により圧送される処理対象水の単位時間当たりの流量を2.4L/分程度とすることにより、好気性微生物処理部2を好気的環境に、嫌気性微生物処理部5を嫌気的環境にすることができる。
【0022】
水浄化処理装置1には必要に応じて、好気性微生物処理部2に空気を導入させる空気導入手段を備えることができる。空気導入手段を備えることにより、好気性微生物処理部2に空気を導入することができ、好気性微生物処理部2をより好気的環境とすることができる。空気導入手段は、好気性微生物処理部2に空気を導入させることができれば、その形状、材質、大きさ等は特に制限されない。空気導入手段としては、例えば、エアレーションポンプや、図9に示す空気導入タンク9などが挙げられる。また、エアレーションポンプと空気導入タンクを組み合わせてもよい。空気導入手段は、好気性微生物処理部2に空気を導入させることができればどこに接続又は設置されていてもよく、例えば、第1の循環路3や好気性微生物処理部2自体に接続又は設置することができる。さらに、空気導入手段として、空気導入タンク9を用いる場合、処理対象水がタンク内で自由落下するように設計することにより、処理対象水の自由落下により処理対象水の酸素濃度を向上させることができる。
【0023】
また、水質浄化装置1には必要に応じて、第2の圧送手段7による嫌気性微生物処理部5への処理対象水の圧送を所定期間停止させる圧送制御手段を備えることができる。圧送制御手段により嫌気性微生物処理部5への処理対象水の圧送を所定期間停止させることによって、嫌気性微生物処理部5への処理対象水の導入が所定期間停止される。即ち、嫌気性微生物5への酸素の供給が所定期間停止されることとなるため、嫌気性微生物処理部5をより嫌気的環境とすることができる。このように、嫌気性微生物処理部5への処理対象水の圧送を所定期間停止させることにより、自然水域における「よどみ」部を再現することができる。なお、処理対象水の圧送を停止する期間としては特に制限されず、例えば、1時間のうち1〜59分の範囲で停止期間を調整することができる。
【0024】
圧送制御手段は、嫌気性微生物処理部5への処理対象水の圧送を所定期間停止させることができれば、その形状、材質、大きさ等は特に制限されない。また、圧送制御手段は、嫌気性微生物処理部5への処理対象水の圧送を所定期間停止させることができれば、どこに接続又は設置されていてもよく、例えば、第2の圧送手段7に接続又は設置することができる。
【0025】
第1の循環路3及び第2の循環路6は、処理対象水を導入及び排出できるものであれば、その形状、材質、大きさなどは特に制限されない。例えば、第1の循環路3及び第2の循環路6は、処理対象水域から処理対象水を直接導入できるように設置することができる。
【0026】
第1の循環路3及び第2の循環路6により、処理対象水域から処理対象水を導入及び排出することによって、処理対象水域内に緩やかな対流を発生させることができる。また、対流をより発生し易くするために、循環路における導入口を処理対象水域の底部に設置し、循環路における排出口を処理対象水域の水面付近に設置することもできる。このように、循環路を設置することにより、処理対象水域の底部から処理対象水を吸い上げ、処理対象水域の水面付近に吐出することにより、処理対象水域内に深さ方向(垂直方向)の対流を生じさせることができる。
【0027】
また、第3の循環路8を設置しておき、第3の循環路8を流れる処理対象水を第1の循環路3及び第2の循環路6に導入できるように接続することもできる。なお、処理対象水域11から第3の循環路8への処理対象水の導入は、例えば、第3の圧送手段15により行うことができる。特に、湖や池などの大きな水域を処理対象水域とする場合には、第3の循環路8により処理対象水を循環させることにより、処理対象水域内に対流を生じさせることができるため好ましい。この場合、第1の循環路3及び第2の循環路6は、例えば、導入口のみを第3の循環路8に接続させることもできるし、導入口及び排出口の両方を第3の循環路8に接続させることもできる。さらには、図9に示すように、第3の循環路8と貯水部12とを通水路13により接続しておき、第3の循環路8を流れる処理対象水の一部を一旦貯水部12に貯水しておくことができる。そして、該貯水部12から第1の循環路及び/又は第2の循環路を通じて各処理部へと処理対象水を導入することができる。この場合、第1の循環路及び/又は第2の循環路は、導入口のみを貯水部12に接続させることもできるし、導入口及び排出口の両方を貯水部12に接続させることもできる。導入口及び排出口の両方を貯水部12に接続させた場合、図9に示すように、貯水部12に排出口14などを設けておき、該貯水部12における水位が一定以上となった場合に、処理対象水が処理対象水域11に排出されるようにしてもよいし、貯水部12に排出路を設けておき、該排出路を通して処理対象水を処理対象水域11へ排出することもできる。
【0028】
水浄化処理装置1が対象とする処理対象水域は特に限定されないが、水の流出入が乏しく、対流が起こりにくい湖沼、池、ダム、溜池、貯水池などの閉鎖水域や、金魚、水草等の水棲生物を飼育する際の水槽などを対象とする場合に特に効果を発揮する。このような水域において水浄化処理装置1を用いることにより、当該水域に棲息する微生物を活性化させることができ、さらに、水域内に緩やかな対流を生じさせることができる。なお、本明細書では、湖沼、池、ダム、溜池、貯水池などの閉鎖水域や、金魚、水草等の水棲生物を飼育する際の水槽などの、水の流出入が乏しく、対流が起こりにくい水域を全て含めて止水域と記載する。
【0029】
水浄化処理方法
本発明の水浄化処理方法は、(a)処理対象水を、微生物吸着多孔質担体を有する好気性微生物処理部及び微生物吸着多孔質担体を有する嫌気性微生物処理部にそれぞれ導入する工程、(b)前記(a)工程により導入された処理対象水に対して、前記好気性微生物処理部において好気性微生物による分解処理を、前記嫌気性微生物処理部において嫌気性微生物による分解処理をそれぞれ進行させる工程、及び(c)前記好気性微生物処理部及び前記嫌気性微生物処理部から処理対象水をそれぞれ排出する工程を含み、前記好気性微生物処理部に導入される処理対象水の単位時間あたりの流量が、前記嫌気性処理部に導入される処理対象水の単位時間あたりの流量よりも多いことを特徴とする。
【0030】
(a)工程では、処理対象水を、微生物吸着多孔質担体を有する好気性微生物処理部及び微生物吸着多孔質担体を有する嫌気性微生物処理部にそれぞれ導入する。各処理部への処理対処水の導入としては、例えば、各処理部に処理対象水を通水できる配管などを接続し、ポンプ等により処理対象水域から処理対象水を汲み上げることにより行うことができる。
【0031】
(b)工程では、上記(a)工程により導入された処理対象水に対して、好気性微生物処理部において好気性微生物による分解処理を、嫌気性微生物処理部において嫌気性微生物による分解処理をそれぞれ進行させる。処理対象水には微生物の栄養源となる炭素系化合物や窒素系化合物が含まれており、これらを好気的又は嫌気的に分解することによって各種微生物の増殖を促し、微生物を活性化することができる。なお、各処理部における微生物は、外来の微生物(即ち、処理対象水域由来ではない微生物)よりも、処理対象水域由来の微生物を用いることが好ましい。また、各処理部における微生物は、予め微生物吸着多孔質担体に吸着又は担持させていてもよいし、各処理部への処理対象水の導入によって微生物吸着多孔質担体に吸着又は担持させてもよい。
【0032】
(c)工程では、好気性微生物処理部及び前記嫌気性微生物処理部から処理対象水をそれぞれ排出する。この際、処理対象水には、各処理部において分解処理された物質や各処理部に吸着又は担持されていた微生物が含まれており、これらが処理対象水域内に排出されることにより、処理対象水域内においても微生物による分解処理が行われる。
【0033】
さらに、上記(a)工程及び(c)工程により、処理対象水域から処理対象水を導入及び排出することによって、処理対象水域内に緩やかな対流を生じさせることができる。緩やかな対流を生じさせることにより、処理対象水域内に棲息する微生物(土着微生物)を活性化させることができる。
【0034】
また、本発明の水浄化処理方法は、好気性微生物処理部に導入される処理対象水の単位時間あたりの流量が、前記嫌気性処理部に導入される処理対象水の単位時間あたりの流量よりも多いことを特徴とする。これは、上記したように、単位時間当たりの流量が多い処理対象水が導入される処理部では、単位時間当たりの流量が少ない処理対象水が導入される処理部と比較して、酸素が多く供給されることとなる。そのため、単位時間当たりの流量が多い処理対象水が導入される処理部を好気的環境とし、単位時間当たりの流量が少ない処理対象水が導入される処理部を嫌気的環境とすることができる。
【0035】
さらに、本発明の水浄化処理方法は、好気性微生物処理部をより好気的環境とするために、好気性微生物処理部に空気を導入することができる。また、嫌気性微生物処理部をより嫌気的環境とするために、嫌気性微生物処理部への処理対象水の導入を所定期間停止することができる。これらの具体的な手段としては、例えば、上記した空気導入手段や圧送制御手段などが挙げられる。
【0036】
またさらに、本発明の水浄化処理方法は、処理対象水域から処理対象水を循環路内に導入し、該循環路を通過させて処理対象水を排出することにより、湖や池などの大きな水域を処理対象水域とする場合であっても、処理対象水域内に対流を生じさせることができる。この場合、前記(a)工程において、当該循環路を流れる処理対象水を各処理部に導入し、前記(c)工程において、各処理部を通過した処理対象水を該循環路へ排出するか、又は処理対象水域へ直接排出することができる。また、前記(c)工程において、処理対象水を貯水部へ排出した後、処理対象水を該貯水部から処理対象水域へ排出することもできる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0038】
試験例1:窒素含有量の多い模擬廃水の水処理
窒素含有量の多い廃水を想定し、下記の表1に示す組成を有する合成下水培地を水道水で300倍に希釈した模擬廃水(15L)について、図1に示す装置を7日間運転し、下記の方法により処理前及び7日後(処理後)の模擬廃水の化学的酸素要求量(COD)の測定を行った。以下において、図1に示す水浄化処理装置を用いた例を実施例1と記載する。
【0039】
【表1】
【0040】
なお、本試験例において、図1に示す第1の圧送手段4により圧送される処理対象水の単位時間あたりの流量は300mL/分と、第2の圧送手段7により圧送される処理対象水の単位時間あたりの流量は85mL/分となるようにそれぞれ設定した。また、図1に示す好気性微生物処理部2及び嫌気性微生物処理部5には、微生物吸着多孔質担体としてポリビニルアルコール系樹脂を充填したカラムをそれぞれ用いた。またさらに、図1に示す好気性微生物処理部2には、微生物吸着多孔質担体としてポリビニルアルコール系樹脂を充填したカラム(カラム内径:50mm、カラム長:200mm、カラム容量:380ml)を1本、及び嫌気性微生物処理部には同カラムを1本、それぞれ用いた。
【0041】
さらに、比較対象として、装置を用いなかった例(比較例1−1)、並びに図1に示す装置のうち、好気性微生物処理部2及び嫌気性微生物処理部5を有しない装置を用いた例(比較例1−2)、嫌気性微生物処理部5を有しない装置を用いた例(比較例1−3)、及び好気性微生物処理部2を有しない装置を用いた例(比較例1−4)についても同様の試験を行った。
【0042】
<化学的酸素要求量(COD)の測定方法>
各サンプル水100mLを300mL容三角フラスコにそれぞれ取り、硝酸銀0.2g、濃硫酸10mL、及び過マンガン酸カリウム水溶液10mLを加え、ウォーターバスで100℃、30分間加熱した。加熱後、さらに、シュウ酸ナトリウム水溶液(ファクター(f)=1.005)10mLを加え、過マンガン酸カリウム水溶液で滴定し、次式を用いて化学的酸素要求量(COD)を算出した。
【0043】
【数1】
【0044】
実施例1及び比較例1−1〜1−4による処理前後のCODの変化を下記表2に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
表2から明らかなように、図1に示す水浄化処理装置を用いた場合(実施例1)には、比較例1−1〜1−4の場合と比較して、CODが大きく減少することが確認できた。当該結果から、窒素含有量の多い水を浄化するためには、好気性微生物処理部及び嫌気性微生物処理部を共に備えた装置を用いて、緩やかな対流を発生させること及び微生物による処理を行うことが重要であることが分った。特に、好気性微生物処理部と嫌気性微生物処理部とを共に備えることにより、好気性微生物による処理及び嫌気性微生物による処理の相乗効果によって浄化処理が促進されることが分った。
【0047】
試験例2:炭素含有量の多い模擬止水の浄化処理試験
炭素含有量の多い止水を想定し、下記の表3に示す組成を有する模擬止水環境水(15L)について、試験例1と同様にして、図1に示す水浄化処理装置を7日間運転し、処理前及び7日後(処理後)の模擬止水環境水の化学的酸素要求量(COD)の測定を行った。以下において、図1に示す装置を用いた例を実施例2と記載する。
【0048】
さらに、試験例1と同様にして、比較対象として、装置を用いなかった例(比較例2−1)、並びに図1に示す装置のうち、好気性微生物処理部2及び嫌気性微生物処理部5を有しない装置を用いた例(比較例2−2)、嫌気性微生物処理部5を有しない装置を用いた例(比較例2−3)、及び好気性微生物処理部2を有しない装置を用いた例(比較例2−4)についても同様の試験を行った。
【0049】
【表3】
【0050】
実施例2及び比較例2−1〜2−4による処理前後のCODの変化を下記表4に示す。
【0051】
【表4】
【0052】
表4から明らかなように、図1に示す装置を用いた場合(実施例2)には、比較例2−1〜2−4の場合と比較して、CODが大きく減少することが確認できた。当該結果から、炭素含有量の多い水を浄化するためには、好気性微生物処理部及び嫌気性微生物処理部を共に備えた装置を用いて、緩やかな対流を発生させること及び微生物による処理を行うことが重要であることが分った。特に、好気性微生物処理部と嫌気性微生物処理部とを共に備えることにより、好気性微生物による処理及び嫌気性微生物による処理の相乗効果によって浄化処理が促進されることが分った。
【0053】
試験例3−1:自然止水域の水質調査試験
2013年4月16日から2014年4月14日の期間、約2週間ごとに立命館大学びわこ・くさつキャンパス内にある八左衛門池の水の化学的酸素要求量(COD)、全炭素量(TC)、及び全窒素量(TN)を測定することにより水質調査を行った。八左衛門池の概観を図2に示す。
【0054】
なお、化学的酸素要求量(COD)の測定は試験例1及び2と同様にして行い、全炭素量(TC)及び全窒素量(TN)の測定は、全有機炭素計(TOC−VCPH、島津製作所社製)を用いて下記表5に示す条件により行った。
【0055】
【表5】
【0056】
化学的酸素要求量(COD)、全炭素量(TC)、及び全窒素量(TN)の測定結果を下記表6及び図3〜5に示す。
【0057】
【表6】
【0058】
試験例3−2:実止水域水の浄化処理試験
2013年4月16日から2014年4月14日の期間、約2週間ごとに八左衛門池から水200Lを汲み取り、図1に示す水浄化処理装置を2週間運転した後、試験例3−1と同様にして化学的酸素要求量(COD)、全炭素量(TC)、及び全窒素量(TN)の測定を行った。
【0059】
なお、本試験例において、図1に示す第1の圧送手段4により圧送される処理対象水の単位時間あたりの流量は3L/分と、第2の圧送手段7により圧送される処理対象水の単位時間あたりの流量は2.4L/分となるようにそれぞれ設定した。また、図1に示す好気性微生物処理部2内をより好気的環境とするために、第1の循環路に空気導入手段を接続した(図示なし)。さらに、図1に示す嫌気性微生物処理部5内をより嫌気的環境とするために、第2の圧送手段には、15分間処理対象水の圧送を行い、45分間処理対象水の圧送を停止させる圧送制御手段を接続した(図示なし)。またさらに、図1に示す好気性微生物処理部2には、微生物吸着多孔質担体としてポリビニルアルコール系樹脂を充填したカラム(カラム内径:52mm、カラム長:347mm)を6本、及び嫌気性微生物処理部には同カラムを3本、それぞれ用いた。
【0060】
化学的酸素要求量(COD)の測定結果を下記表7に、全炭素量(TC)の測定結果を下記表8に、及び全窒素量(TN)の測定結果を下記表9にそれぞれ示す。なお、下記表7〜9では、例えば、2013年5月16日に汲み取った水について2週間処理を行った後のCOD、TC及びTNの測定結果を「5/16」の行に記載している。また、下記表7〜9における「処理前COD」、「処理前TC」及び「処理前TN」は、上記試験例3−1において行った水質調査結果のデータを記載している。
【0061】
【表7】
【0062】
【表8】
【0063】
【表9】
【0064】
表7〜9から明らかなように、2週間の処理によって、COD、TC及びTNが減少することが確認できた。当該結果から、好気性微生物処理部及び嫌気性微生物処理部を共に備えた装置を用いて、緩やかな対流を発生させると同時に微生物による処理を行うことにより、効果的に水処理が行われることが明らかとなった。特に、好気性微生物処理部と嫌気性微生物処理部とを共に備えることにより、好気性微生物による処理及び嫌気性微生物による処理の相乗効果によって浄化処理が促進されることが分った。
【0065】
試験例3−3: カラム内に存在する微生物群の解析
<環境DNA法(eDNA法)による微生物数の解析>
試験例3−2で用いた浄化処理装置における好気性微生物処理部2及び嫌気性微生物処理部5内の微生物数(即ち、ポリビニルアルコール系樹脂に担持された微生物数)を、下記の環境DNA法(eDNA法)により解析した。
【0066】
50mL容遠沈管に各処理部におけるポリビニルアルコール系樹脂1.0gを量り取り、下記表10に示す組成のDNA抽出緩衝液(pH8.0)8.0mL、及び20%(w/v)ドデシル硫酸ナトリウム溶液1.0mLを加え、室温にて1500rpmの条件で20分間攪拌した。攪拌後、50mL容遠沈管から滅菌済み1.5mLマイクロチューブに1.5mLサンプルを分取し、20℃、8000rpmの条件で10分間遠心分離した。遠心分離後、水層を新たなマイクロチューブに700μL分取し、クロロホルム・イソアミルアルコール(24:1、v/v)を700μL加えて混和した後、16℃、13000rpmの条件で10分間遠心分離した。遠心分離後、水層を新たなマイクロチューブに500μL分取し、2−プロパノールを300μL加えて緩やかに混和し、16℃、13000rpmの条件で10分間遠心分離した。遠心分離後、上清を除去し、70%(v/v)エタノールを500μL加え、16℃、13000rpmの条件で5分間遠心分離した。遠心分離後、上清を除去し、アスピレーターで30分間減圧乾燥させた。その後、これに下記表11に示す組成の10:1TE緩衝液(pH8.0)を50μL加え、よく溶解させたものをeDNA溶液とした。
【0067】
【表10】
【0068】
【表11】
【0069】
次いで、eDNA溶液5.0μLにLoading Dye(東洋紡社製)1.0μLを混合し、全量6.0μL、及び既知量のDNAを含むSmart Ladder(ニッポン・ジーン社製)1.5μLを、下記表12に示す組成の1.0%アガロースゲルの各ウェルにアプライし、100Vで40分間電気泳動を行った。その後、アガロースゲルにUVを照指し、KODAK1D Image Analysis software(KODAK社製)により、エチジウムブロマイドを標識とした蛍光強度の測定を行った。Smart Ladderの蛍光強度の測定値から、バンドの蛍光強度に対するDNA量の検量線を作成し、これを基に各サンプルDNA溶液のバンドの蛍光強度からDNA量を求め、各ポリビニルアルコール系樹脂1.0gあたりのeDNA量を算出した。
【0070】
【表12】
【0071】
【表13】
【0072】
上記で算出したeDNA量から、DAPI染色による総生菌数に換算する関係式Y=1.7×10X(R=0.96)[Y:微生物数(cells/g−PVA)、X:eDNA量(g/g−PVA)]を用いて、各ポリビニルアルコール系樹脂1.0gあたりの微生物数を算出した。算出結果を下記表14に示す。
【0073】
【表14】
【0074】
表14から明らかなように、好気性微生物処理部及び嫌気性微生物処理部におけるポリビニルアルコール系樹脂には、1×10(cells/g−PVA)以上の微生物が担持されており、一般的な土壌環境における微生物数(6×10(cells/g−soil))よりも多くの微生物が好気性微生物処理部及び嫌気性微生物処理部内に棲息していることが確認できた。当該結果から、好気性微生物処理部及び嫌気性微生物処理部では自然環境に近い、あるいは自然環境よりも良好な微生物環境が形成されており、これにより効率的な処理が行われていることが示唆された。
【0075】
<PCR−DGGE法による微生物群の解析>
試験例3−2で用いた水浄化処理装置における好気性微生物処理部2及び嫌気性微生物処理部5における微生物群(即ち、ポリビニルアルコール系樹脂に吸着された微生物群)を、下記のPCR−DGGE(Denaturing Gradient Gel Electrophoresis;変性剤濃度勾配ゲル電気泳動)法により解析した。
【0076】
試験例3−3の方法により得られたeDNA溶液をテンプレートとし、PCR反応によって微生物の16S rRNA遺伝子におけるV3領域を含む領域の増幅を行った。200μL容チューブに下記表15に示すPCR溶液を加え、サーマルサイクラー(BIOLAD社製)にセットして、下記表16に示す条件でPCRを行った。PCRに用いたプライマーの塩基配列を下記表17に示す。
【0077】
【表15】
【0078】
【表16】
【0079】
【表17】
【0080】
下記表18に記載の組成の20%及び40%変性剤濃度のアクリルアミド溶液を16mLずつ作製し、各溶液に10%(w/v)過硫酸アンモニウム150μL及びN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン15.0μLを加えて混合し、グラジエントメーカーによりグラジエントゲルを作製し、5時間静置した。その後、7Lの1×TAE緩衝液で満たした電気泳動槽にグラジエントゲルをセットし、60℃に加温した。
【0081】
【表18】
【0082】
【表19】
【0083】
次いで、上記により得られた各PCR産物10μLとLoading Buffer 5μLの混合溶液をグラジエントゲルの各ウェルにアプライし、44.5V、60℃の条件で18時間電気泳動を行った。電気泳動後、グラジエントゲルをサイバーゴールド溶液に40分間浸漬し、染色を行った後、トランスイルミネーター上でUVを照射し、KODAK 1D Image Analysis software(KODAK社製)により、バンドパターンを撮影した。バンドパターンを図6に示す。
【0084】
さらに、上記で撮影したバンドパターンについて、解析ソフト(Total Lab TL120 v2006、Nonlinea dynamics)を用いて、次式によりBand Similarity Index(BSI)を算出した。さらに、当該BSIから、Unweighted Pair Group Method with Arithmetic Mean(UPGMA)法により、クラスター解析を行った。バンドパターンのクラスター解析結果を図7に示す。
【0085】
【数2】
【0086】
図6から明らかなように、好気性微生物処理部と嫌気性微生物処理部とでは、バンドパターンが異なることが確認できた。また、図7から明らかなように、バンドパターンのクラスター解析の結果、好気性微生物処理部(レーン2及び3)と嫌気性微生物処理部(レーン4及び5)との類似度係数が約40%であることから、嫌気性微生物処理部と嫌気性微生物処理部とでは菌叢が異なることが確認できた。
【0087】
以上のように、嫌気性微生物処理部と嫌気性微生物処理部との菌叢が異なる理由としては次のように考えられる。嫌気性微生物処理部内では、水の流入口付近では溶存酸素濃度が比較的高いものの、該処理部内を通過する水の流速が遅いため流入口付近に棲息する微生物によって酸素がすぐに消費されること、及び第2の圧送手段の停止により、嫌気性微生物処理部内全体の溶存酸素濃度が極めて低い状態となっていると考えられる。これに対して、好気性微生物処理部内では、常に水が流れており、さらに、その流速も速いことから、好気性微生物処理部内の溶存酸素濃度が比較的高い状態となっていると考えられる。従って、好気性微生物処理部内には、主に、絶対好気性微生物及び通性嫌気性微生物が棲息しており、嫌気性微生物処理部内には、主に通性嫌気性微生物及び偏性嫌気性微生物が棲息しているものと考えられる。
【0088】
試験例3−4:実止水域の水浄化処理試験
図8に示すように、八左衛門池に循環路及び水浄化処理装置を敷設した。当該循環路には、図8中の「吸入」の位置から八左衛門池の水を導入し、「吐出」の位置から水を排出するように水を圧送する圧送手段が接続されている。また、八左衛門池内に対流を発生させるため、水底付近から水を導入し、水面に水を排出した(即ち、循環路における「吸入」部を水底付近に配置し、循環路における「吐出」部を水面付近に配置した。)。さらに、当該圧送手段により循環路に圧送される水の単位時間あたりの流量は800L/分となるように設定した。またさらに、図8に示すように、循環路には水浄化処理装置が接続されており、循環路を流れる水の一部を好気性微生物処理部及び嫌気性微生物処理部に導入させた。循環路に接続された水浄化処理装置1の一部を図9に示す。図9では、第3の循環路8に接続された水浄化処理装置1のうち、好気性微生物処理部2側の概要を示している。図9における水浄化処理装置では、第3の圧送手段15により処理対象水域11から処理対象水を第3の循環路8へ導入し、排出される。これにより、処理対象水域11内に緩やかな対流を発生させることができる。また、第3の循環路8を流れる処理対象水の一部は、通水路13を通過して貯水部12に導入される。貯水部12に貯水された処理対象水は、第1の循環路3及び第2の循環路6にそれぞれ導入され、好気性微生物処理部2及び嫌気性微生物処理部5をそれぞれ通過した後、貯水部12に排出されるようになっている。貯水部12には、排出口14が設けられており、貯水部12内の水位が所定の水位を超えた場合に、処理対象水は排出口14を通して処理対象水域11に排出されるようになっている。
【0089】
なお、本試験例において、第1の圧送手段4により圧送される処理対象水の単位時間あたりの流量は8L/分と、第2の圧送手段により圧送される処理対象水の単位時間あたりの流量は3L/分となるようにそれぞれ設定した。また、好気性微生物処理部2内をより好気的環境とするために、図9に示すように第1の循環路に空気導入手段10及び空気導入タンク9を接続した。さらに、嫌気性微生物処理部内をより嫌気的環境とするために、第2の圧送手段には、15分間処理対象水の圧送を行い、45分間処理対象水の圧送を停止させる圧送制御手段を接続した(図示なし)。またさらに、好気性微生物処理部2には、微生物吸着多孔質担体としてポリビニルアルコール系樹脂を充填したカラム(カラム内径:50mm、カラム長:350mm)を6本、及び嫌気性微生物処理部には同カラムを3本、それぞれ用いた。
【0090】
上記した浄化処理装置の運転を約1ヶ月間行い、八左衛門池の水面付近及び水底における溶存酸素濃度(DO)の測定を、溶存酸素計(堀場製作所製)を用いて行った。また、試験例3−1と同様にして化学的酸素要求量(COD)の測定を行った。溶存酸素濃度(DO)及び化学的酸素要求量(COD)の測定結果を下記表20及び21に示す。
【0091】
【表20】
【0092】
表20から明らかなように、浄化処理を行う前と比較して、八左衛門池の水面付近及び水底のいずれにおいても溶存酸素濃度が顕著に増加しており、八左衛門池内は好気環境になっていることが確認できた。当該結果から、八左衛門池内における好気性微生物の活動が活性化され、浄化処理が進行しているものと考えられる。
【0093】
【表21】
【0094】
表21から明らかなように、1ヶ月間の処理試験において、八左衛門池のCODは安定した値を示すことが確認できた。特に、夏場(7月〜9月頃)は、試験例3−1の結果からも明らかなように、比較的高いCOD値を示すにもかかわらず、比較的低い値を示すことが確認できた。また、例年、夏場は八左衛門池の付近において嫌気性微生物が原因と考えられる悪臭が漂うが、浄化処理試験開始後はそのような悪臭は一切確認されなかった。
【0095】
試験例4:金魚飼育水の浄化処理試験
八左衛門池の水100L及び他の水槽由来の水100Lを入れ、砂と砂利を計40kg敷き詰めた水槽に、金魚50匹を入れ、図1に示す水浄化処理装置を用いて浄化処理を行いつつ、39日間室温にて金魚を飼育し、飼育開始から0、5、10、14、17、21、28、31及び39日後の化学的酸素要求量(COD)を試験例1と同様の方法により測定した。また、金魚の餌として、1日に2〜3回の間隔で、1回につき約0.5gのテトラフィン(スペクトラムブランスジャパン株式会社製)を与えた。
【0096】
なお、本試験例において、図1に示す第1の圧送手段4により圧送される処理対象水の単位時間あたりの流量は6L/分と、第2の圧送手段7により圧送される処理対象水の単位時間あたりの流量は3L/分となるようにそれぞれ設定した。また、図1に示す好気性微生物処理部2には、微生物吸着多孔質担体としてポリビニルアルコール系樹脂を充填したカラム(カラム内径:52mm、カラム長:347mm)を3本、及び嫌気性微生物処理部5には同カラムを6本、それぞれ用いた。
【0097】
飼育開始から0、5、10、14、17、21、28、31及び39日後の化学的酸素要求量の測定結果を下記表22に示す。
【0098】
【表22】
【0099】
表22から明らかなように、金魚が棲息する水域においても、1ヶ月以上も安定したCODを示すことが確認できた。また、水の濁りはほとんど確認されなかった。さらに、処理開始後28日経過以降CODが減少し始めることが確認できた。これは、微生物処理部内の微生物叢が安定し、金魚の餌や糞などによる水質汚染に対して微生物処理部と対流による浄化能力が向上したことが理由であると考えられる。
【符号の説明】
【0100】
1 水浄化処理装置
2 好気性微生物処理部
3 第1の循環路
4 第1の圧送手段
5 嫌気性微生物処理部
6 第2の循環路
7 第2の圧送手段
8 第3の循環路
9 空気導入タンク
10 空気導入手段
11 処理対象水域
12 貯水部
13 通水路
14 排出口
15 第3の圧送手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]