【文献】
藤山一成,発電プラントに使用される鉄鋼材料に求められる特性,まてりあ,日本,2000年11月20日,Vol.39 No.11,Page.873-877
【文献】
小林信一、外5名,Ni-Co基鍛造合金TMW-4M3の時効処理,日本金属学会 2013年春期大会講演概要,日本,2013年 3月13日,Page.358
【文献】
西本慎、外5名,A-USC向け材料の開発 ロータ材(LTES700R)、ケーシング材(Alloy617),ターボ機械,日本,2013年 1月10日,Vol.41 No.1,Page.18-23
【文献】
西本慎、外4名,A-USC向け材料の開発 ロータ材(LTES700R)、ケーシング材(Alloy617),ターボ機械,日本,2013年 1月10日,Vol.41 No.1,Page.18-23
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、蒸気タービン用部材において、他の部材と連結される連結部(フランジ部など)では、例えばボルト締結が行われることから、室温でのボルトの締め付け力を確保するために、高い室温強度が要求されている。このような室温強度が要求される蒸気タービン用部材に、特許文献1に記載のNi基合金を適用することは、強度が不足するため困難である。
したがって、蒸気タービン用部材の製造性を確保した上で、さらに強度を向上させることが求められている。
【0008】
この発明は前述した事情に鑑みてなされたものであって、製造性が良好でありながら、他の部材と連結される連結部の強度を確保することが可能な蒸気タービン用部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決するために本発明の蒸気タービン用部材の製造方法は、
Al及びTiを含有するNi基合金からなり、蒸気タービン用部材となる鋳造成形品を鋳造する鋳造工程と、
前記鋳造工程中又は該鋳造工程後に、前記鋳造成形品のうち前記蒸気タービン用部材として他の部材と連結される連結部に、
前記鋳造成形品の他の部位よりもAl及びTiの含有量が多くなるようにする処理工程と、前記鋳造工程後で且つ前記処理工程後に、前記連結部に、局部的に時効処理を施す時効処理工程と、を備え
、前記処理工程では、第一処理工程と第二処理工程と第三処理工程とのうち、一の工程を実行し、前記第一処理工程は、前記鋳造工程中に実行し、前記第一処理工程では、前記鋳造工程中に用いる溶湯のうち、前記連結部となる部分に用いる溶湯のAl及びTiの含有量を、前記他の部位となる部分に用いる溶湯のAl及びTiの含有量より多くする、前記第二処理工程は、前記鋳造工程後に実行し、前記第二処理工程では、前記連結部となる部分を肉盛溶接によって形成し、前記肉盛溶接で得られるビードのAl及びTiの含有量を、前記他の部分のAl及びTiの含有量より多くする、第三処理工程は、前記鋳造工程後に実行し、前記第三処理工程では、前記連結部となる部分をNi基合金をクラッドして、前記連結部を形成し、前記連結部となる部分のNi基合金のAl及びTiの含有量を、前記他の部分のAl及びTiの含有量より多くする、ことを特徴とする。
【0010】
本発明の蒸気タービン用部材の製造方法によれば、蒸気タービン用部材の鋳造成形品を製造した後に、他の部材と連結される連結部に局部的に時効処理を施す構成とされているので、室温強度が必要とされる連結部の強度を向上させることができる。また、予め時効処理が施されているので、700℃級のような高温環境で使用されても長時間使用における強度の変化が少なく、例えばケーシングの開放点検後にボルトを再締付した場合においても室温でのボルトの締め付け力を確保することができる。
さらに、連結部に局部的に時効処理を施す構成とされているので、連結部以外の部位においては、時効処理による室温強度向上と相反して生じる延性や靭性の低下の影響を受けないために、構造部材としての信頼性を確保することが可能となる。
また、このように予め時効処理を施すことによって連結部の強度を向上させることができるので、Ni基合金のAl及びTi含有量を少なくすることができ、鋳造時における欠陥の発生を抑制し、製造性を確保することができる。
さらに、この場合、蒸気タービン用部材において、連結部のみAl及びTiの含有量が多くなるように製造されているので、連結部の強度を他の部位よりも高くすることができる。すなわち、例えばボルトなどによって他の部材と連結される連結部の室温強度を確保することができる。また、連結部以外の部位はAl及びTiの含有量が少ないので、鋳造時の製造性を確保することができる。
【0011】
ま
た、前記時効処理は、725℃以上825℃以下で行われることが好ましい。
この場合、725℃以上825℃以下で時効処理を行うことから、700℃級の温度で使用される蒸気タービンの高温強度を確保することができる。例えば、Ni基合金がAlやTiを含む際には、上述の温度で時効をすると、Ni3(Al、Ti)に加えてCrやMoの炭化物を析出させることができる。また、Ni基合金がAlloy625とされている場合、γ”相やδ相を析出させることができる。これらの析出相は母相の強度の向上に寄与するものであり、Ni基合金の強度を向上させることができる。
【0013】
また、前記連結部は、Cを0.02mass%以上0.09mass%以下、Siを0.6mass%以下、Crを20.0mass%以上24.0mass%以下、Moを8.0mass%以上10.0mass%以下、Coを10.0mass%以上15.0mass%以下、Alを0.8mass%以上1.5mass%以下、Tiを0.1mass%以上0.6mass%以下含有するNi基合金からなることが好ましい。
【0014】
また、前記連結部は、Cを0.06mass%以下、Siを1.00mass%以下、Crを20.0mass%以上23.0mass%以下、Moを8.0mass%以上10.0mass%以下、Alを0.40mass%以下、Tiを0.40mass%以下、NbとTaを合計で3.15mass%以上4.15mass%以下含有するNi基合金からなる構成とされても良い。
【0015】
連結部が上記の範囲に設定されたNi基合金からなる場合、鋳造時における製造性を確保できるとともに、連結部に必要とされる室温強度も十分な強度にすることができる。特に、C含有量を上記範囲に設定することで、強度と延性のバランスを向上させることができる。なお、蒸気タービン用部材の全領域の組成が上記の範囲に設定されていても良い。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、製造性が良好でありながら、他の部材と連結される連結部の強度を確保することが可能な蒸気タービン用部材の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第一実施形態)
以下に、本発明の実施の形態について添付した図面を参照して説明する。
図1に、本発明の実施形態に係る蒸気タービン用部材1の概略説明図を示す。この蒸気タービン用部材1は、蒸気タービンの内部車室である。
蒸気タービン用部材1は、内部車室空間を形成する壁部11と、連結部12(フランジ部)とを備えている。蒸気タービン用部材1は、700℃級の蒸気タービンで用いられる部材であり、Ni基合金で構成されている。
なお、
図1においては、連結部12近傍における蒸気タービン用部材1の拡大図を一例として示している。
【0019】
連結部12は、
図2に示すように、蒸気タービン用部材1同士を対向配置し、ボルト留めなどの締結手段2によって連結される部位である。この連結部12においては、室温環境において締結手段2での締め付け力を確保するため、高い室温強度が要求される。したがって、本実施形態の蒸気タービン用部材1では、壁部11よりも連結部12の方が、室温強度の要求値が高く設定されている。
【0020】
上述のNi基合金においては、Al、Tiを添加することにより強度が向上することが知られているが、Al、Tiを添加することによって鋳造性が低下する。そこで、蒸気タービン用部材1を構成するNi基合金のAl、Tiの含有量は低めに設定されている。具体的には、本実施形態において、Ni基合金におけるAl及びTiの含有量は、Al+Tiの合計が2.1mass%以下、Tiの含有量は0.6mass%以下とされている。Al及びTiの含有量は、より好ましくは、Al+Tiの合計が1.7mass%以下、Tiの含有量は0.5mass%以下とされている。
【0021】
次に、第一実施形態に係る蒸気タービン用部材の製造方法を説明する。第一実施形態に係る蒸気タービン用部材は、例えば鋳造工程と、時効処理工程とを備えている。以下に、各工程の詳細を説明する。
【0022】
(鋳造工程)
まず、所望の組成のNi基合金の溶湯を溶製する。次いで、成分調整されたNi基合金溶湯を適宜の鋳造法によって鋳造し、所望の形状の鋳造成形品を得る。本実施形態では、この鋳造成形品は、蒸気タービン用部材1となるものであり、Alの含有量が1.5mass%以下、Tiの含有量が0.6mass%以下のNi基合金によって構成される。
【0023】
(時効処理工程)
次に、上述のようにして得た鋳造成形品に対して、局部的に時効処理を実施する。本実施形態においては、鋳造成形品のうち連結部12となる部位にのみ時効処理を実施する。このような局部的な時効処理は、例えば連結部12となる部位に対して、インダクションヒーターやパネルヒーター等によって加熱をすることで実施できる。ここで、必要に応じて保温材を用いる。
また、時効処理は、例えば壁部11を補助加熱としてのインダクションヒーターで加熱した上で、連結部12をパネルヒーター等で加熱しても良い。
【0024】
上述の局部的な時効処理は、加熱温度725℃以上825℃以下、保持時間30時間以上250時間以下の条件で実施されることが好ましい。
加熱温度のより好ましい温度範囲及び時間の範囲は、750℃以上825℃以下、50時間以上150時間以下である。また、加熱温度の最も好ましい温度は800℃、保持時間の最も好ましい時間は、100時間である。
【0025】
上記の時効処理工程の後に、所定の機械加工及び補修溶接を施すことによって、蒸気タービン用部材1を製造することができる。なお、時効処理工程の前に、加熱温度約1200℃の溶体化処理を行う。また、保持時間は最大肉厚部の厚みに応じて、中心部が十分所定の温度に達する時間を設定する。溶体化処理後の冷却は、ファン空冷または水冷を行い、好ましくは水冷を行う。
【0026】
以上のような構成とされた本実施形態に係る蒸気タービン用部材1の製造方法によれば、蒸気タービン用部材1の鋳造成形品を製造した後に、他の部材と連結される連結部12に局部的に時効処理を施す構成とされているので、室温強度が必要とされる連結部12の強度を向上させることができる。
【0027】
また、予め時効処理が施されているので、蒸気タービン用部材1を高温環境で使用しても連結部12の長時間使用における強度の変化が少なく、例えば連結部12がボルト(締結手段2)で締結されている場合に、ケーシングの開放点検後にボルトを再締付した場合においても室温でのボルトの締め付け力を確保することができる。
【0028】
さらに、連結部12に局部的に時効処理を施す構成とされているので、壁部11(連結部12以外の部位)においては、時効処理による室温強度向上と相反して生じる延性や靭性の低下の影響を受けないために、構造部材としての信頼性を確保することが可能となる。
また、このように予め時効処理を施すことによって連結部12の強度を向上させることができるので、Ni基合金のAl及びTi含有量を少なくすることができ、鋳造時における欠陥の発生を抑制し、製造性を確保することができる。
【0029】
また、時効処理の好ましい温度条件は、725℃以上825℃以下とされており、この場合、700℃級の温度で使用される蒸気タービンの高温強度を確保することができる。また、時効処理の好ましい時間は、30時間以上250時間以下とされているので、確実に時効強度を向上させることができる。
例えば、Ni基合金としてAlloy617を用いた場合、上述の温度及び時間で時効処理をすると、Ni
3(Al、Ti)に加えてCrやMoの炭化物を析出させることができる。また、Ni基合金がAlloy625とされている場合には、γ”相やδ相を析出させることができる。これらの析出相は母相の強度の向上に寄与するものであり、Ni基合金の強度を向上させることができる。
【0030】
(第二実施形態)
次に、本発明の第二実施形態について、
図3を参照して説明する。
第二実施形態に係る蒸気タービン用部材101においては、連結部112におけるAl及びTiの含有量が、壁部111のAl及びTiの含有量よりも高く設定されている。すなわち、蒸気タービン用部材101において、壁部111から連結部112にかけてAl及びTiの含有量が増加する傾斜成分とされているのである。
この連結部112においては、壁部111と比較して強度が高く設定されている。
【0031】
具体的には、壁部111におけるAl及びTiの合計の含有量が1.7mass%以下とされ、連結部におけるAl及びTiの合計の含有量が2.1mass%以下とされていることが好ましい。
【0032】
上述の連結部112において、壁部111のAl及びTiの含有量が高い蒸気タービン用部材101の鋳造成形品は、例えば壁部111となる部位を鋳造によって成形した後に、連結部112となる部位を肉盛溶接によって形成することによって得ることができる。このとき、肉盛溶接に用いられるビードは、壁部111を構成するNi基合金よりもAl及びTiの含有量が高いNi基合金を用いれば良い。
【0033】
また、蒸気タービン用部材101の鋳造成形品は、鋳造中にAl及びTiの含有量が高い溶湯を継ぎ足すことによっても得ることができる。
また、成分組成が均一な鋳造成形品を鋳造した後に、連結部112を局部的に再溶解しAl及びTiの含有量が高い溶湯を継ぎ足す構成とされても良い。
また、成分組成が均一な鋳造成形品を鋳造した後に、連結部112となる部位にAl及びTiの含有量が高いNi基合金をクラッドして、クラッド構造を形成することによっても蒸気タービン用部材101の鋳造成形品を得ることもできる。
【0034】
そして、上述のように得られた鋳造成形品を第一実施形態で説明したように連結部112に対して局部的に時効処理を行い、所定の機械加工及び補修溶接を施すことによって第二実施形態に係る蒸気タービン用部材101を得ることができる。
【0035】
以上のような構成とされた本発明の第二実施形態に係る蒸気タービン用部材101の製造方法によれば、連結部112のみAl及びTiの含有量が多くなるように製造されているので、連結部112の強度を他の部位よりも高くすることができる。また、壁部111(連結部112以外の部位)ではAl及びTiの含有量が少ないので、鋳造時の製造性を確保することができる。そして、第一実施形態で述べたように連結部112に対して局部的に時効処理を施すので、連結部112の強度をさらに向上させることが可能である。
【0036】
(第三実施形態)
本発明者らは、第一実施形態及び第二実施形態で述べた蒸気タービン用部材の製造方法の効果をより向上させるために、Ni基合金の成分組成について検討行った結果、連結部を特定の成分組成にすることによって、さらに蒸気タービン用部材の鋳造性と強度を良好に両立できることを見出した。
【0037】
その合金組成は、Cを0.02mass%以上0.09mass%以下、Siを0.6mass%以下、Mnを1.00mass%以下、Crを20.0mass%以上24.0mass%以下、Moを8.0mass%以上10.0mass%以下、Feを3.0mass%以下、Coを10.0mass%以上15.0mass%以下、Alを0.8mass%以上1.5mass%以下、Tiを0.1mass%以上0.6mass%以下、Bを0.006mass%以下含有し、残部がNi及び上記元素以外の不可避的不純物からなるものである。
以下に、第三実施形態における連結部の化学成分組成の限定理由を説明する。なお、以下では、「mass%」を「%」と記載することがある。
【0038】
「C:炭素」0.02mass%以上0.09mass%以下
炭素は、Ni基合金の強度向上に寄与する元素である。0.02%未満では炭化物による時効強度上昇の効果が十分に得られず、また、著しく延性が低下するため、0.02%以上とされている。また、0.09%を超えると延性が低下するため、0.09%以下とされている。
Cの含有量は、好ましくは0.03%以上0.08%以下であり、この場合、強度と延性のバランスが良好である。
【0039】
「Si:ケイ素」0.6mass%以下
Siは、脱酸材として作用し、鋳造性の向上に有効であるが、ミクロ偏析を生じて延性低下を招くため過剰な添加は避けるべきであり、良好な延性が得られる上限として0.6%以下とした。
【0040】
「Mn:マンガン」1.00mass%以下
Mnは、不可避的不純物であり、可能な限り低減することが望ましいが、機械的性質を低下させない範囲として1%以下とした。
【0041】
「Cr:クロム」20.0mass%以上24.0mass%以下
Crは、耐酸化性向上および炭化物生成に不可欠な元素であり、20%未満では耐酸化性が低下し、24%を超えると脆化相生成を助長するため20〜24%とした。
【0042】
「Mo:モリブデン」8.0mass%以上10.0mass%以下
Moは、固溶強化元素として機械的性質向上に有効であり、また炭化物生成により室温における機械的性質を向上させる元素である。8%未満では上記効果が発揮されず、10%を超えるとミクロ偏析を生じて延性低下を招くため、8〜10%とした。
【0043】
「Fe:鉄」3.0mass%以下
Feは、不可避的不純物であり、可能な限り低減することが望ましいが、機械的性質を低下させない範囲として3%以下とした。
【0044】
「Co:コバルト」10.0mass%以上15.0mass%以下
Coは、固溶強化元素として機械的性質向上に有効な元素であり、10%未満では効果が十分に発揮されず、15%を超えると脆化相生成を助長するため10〜15%とした。
【0045】
「Al:アルミニウム」0.8mass%以上1.5mass%以下
Alはγ’相(Ni
3Al)を生成し、析出強化により高温強度を向上させる元素である。0.8%未満では十分な強度を得ることができず、1.5%を超えると酸化物による欠陥を生成し易くなり鋳造性が低下するため、0.8〜1.5%とした。
【0046】
「Ti:チタン」0.1mass%以上0.6mass%以下
Tiはγ’相(Ni
3(Al,Ti))を生成し、析出強化により高温強度を向上させる元素である。0.1%未満では十分な強度を得ることができず、0.6%を超えると酸化物による欠陥を生成して鋳造性が低下するため、0.1〜0.6%とした。
【0047】
「B:ボロン」0.006mass%以下
Bは、粒界強化元素として効果的な元素であるが、過剰な添加は溶接性を低下させるため、0.006%以下とした。
【0048】
上記のような組成の連結部を有する蒸気タービン用部材においては、第一実施形態及び第二実施形態で述べた蒸気タービン用部材の製造方法を適用することで、鋳造時における製造性を確保できるとともに、連結部に必要とされる室温強度を十分な強度にすることができる。上記の組成のNi基合金を725〜825℃で時効処理を行うと、γ’相に加えて、CrやMoの炭化物を析出させ、強度を向上できる。
【0049】
なお、蒸気タービン用部材の全部位の組成が上記の範囲に設定されていても良い。
また、第三実施形態では、Fe、Mn、Bの含有量の範囲を規定したが、Fe、Mn、Bは、上記の範囲に規定されていなくても良い。
【0050】
(第三実施形態の変形例)
本発明者らは、上述の組成だけではなく、下記に記載の組成においても、蒸気タービン用部材の鋳造性と強度を良好に両立できることを見出した。その組成は、Cを0.02mass%以上0.09mass%以下、Siを1.00mass%以下、Mnを1.00mass%以下、Crを20.0mass%以上23.0mass%以下、Moを8.0mass%以上10.0mass%以下、Feを5.0mass%以下、Alを0.40mass%以下、Tiを0.40mass%以下、NbとTaを合計で3.15mass%以上4.15mass%以下含有し、残部がNi及び上記元素以外の不可避的不純物とされている。
Cの含有量、及びNbとTaの合計含有量を限定する理由を以下に示す。
【0051】
「C:炭素」0.02mass%以上0.09mass%以下
炭素は、Ni基合金の強度向上に寄与する元素である。0.02%未満では炭化物による時効強度上昇の効果が十分に得られず、また、著しく延性が低下するため、0.02%以上とされている。また、0.09%を超えると延性が低下するため、0.09%以下とされている。
【0052】
「Nb+Ta:ニオブ+タンタル」3.15mass%以上4.15mass%以下
NbとTaは、γ”相やδ相の析出による室温強度向上に寄与する元素である。NbとTaの合計の含有量が3.15mass%未満では上記効果が発揮されず、4.15mass%を超えるとミクロ偏析を生じて延性低下を招くため、3.15mass%以上4.15mass%以下とした。
【0053】
第三実施形態の変形例で示された組成の連結部を有する蒸気タービン用部材においても、第一実施形態及び第二実施形態で述べた蒸気タービン用部材の製造方法を適用することで、鋳造時における製造性を確保できるとともに、連結部に必要とされる室温強度を十分な強度にすることが可能である。この組成のNi基合金を725〜825℃で時効処理を施す場合、γ”(Ni
3Nb)又はδ相を析出させ、効果的に強度を向上させることができる。
なお、上記組成において、Fe、Mnは、上記の範囲に設定されていなくても良い。
【0054】
以上、本発明の実施形態に係る蒸気タービン用部材の製造方法について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0055】
上記実施の形態では、一例として蒸気タービン用部材が内部車室である場合について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば弁体など、大型ケーシング部材とされても良い。
【実施例】
【0056】
以下に、本発明の実施例として行った実験結果について説明する。
(実施例1)
まず、表1に示す組成のNi基合金を50kg真空溶解により鋳造し、1200℃×24時間保持後に水冷して固溶化処理を行った。その後、温度700℃〜825℃、保持時間0時間超〜300時間の条件で時効処理を行い、Ni基合金の各供試体を作製した。
このように得られた各供試体に対して、ビッカース硬さ試験を実施した。ビッカース硬さ試験は、JIS Z 2244に準拠して実施した。
硬さ試験の結果を
図4に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
図4に示すように、時効温度725℃、750℃、800℃、825℃の供試体では、ビッカース硬さ(時効強度)の大きな上昇が確認され、時効時間約100時間において、ビッカース硬さが最大となった。また、時効温度700℃のサンプルでは、時効時間100時間において、わずかなビッカース硬さの上昇が確認された。このように、時効温度725〜825℃では、時効強度の上昇が確認され、連結部の強度を向上させることができる。
また、これらの供試体は、鋳造時の欠陥が少なく、鋳造性が良好であることを確認した。
【0059】
(実施例2)
表2に示す組成のNi基合金を50kg真空溶解により鋳造し、1200℃×24時間保持後に水冷して固溶化処理を行った。その後、温度800℃、保持時間100時間の条件で時効処理を行い、供試体1〜5を作製した。
このように得られたNi基合金の供試体に対して、引張試験を実施し、引張強さ及び絞りを測定した。引張試験は、JIS Z 2241に準拠して実施した。
【0060】
【表2】
【0061】
引張試験の結果を
図5及び
図6に示す。なお、
図5においては、縦軸を0.02%C材の引張強さで規格化(各供試体の引張強さ/0.02%C材の引張強さ)し、横軸をCmass%として示している。また、
図6においては、縦軸を0.02%C材の絞りで規格化(各供試体の絞り/0.02%C材の絞り)し、横軸をCmass%として示している。
【0062】
図5に示すように、C含有量が0.02%以上では引張強度が単調に増大し、室温引張強度向上の効果が認められた。また、
図6に示すように、C含有量が0.02%未満では0.02%C材よりも絞りが低下し、0.09%を超えても0.02%C材よりも絞りが低下する。すなわち、0.02〜0.09%の範囲における絞りが良好であることが確認された。さらに、0.03〜0.08%の範囲において絞りの最大値が得られる。