(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
インバータ装置は、例えば、ブラシレスモータに交流電力を供給するために設けられる。このようなインバータ装置は、特許文献1に記載されている。
図1は、特許文献1のインバータ装置の構成を示す。以下において、
図1のインバータ装置を説明する。
【0003】
インバータ装置は、
図1では、3相のブラシレスモータを駆動する。また、このモータは、
図1では、第1系と第2系の3相巻線部41a,41bを有する。
【0004】
インバータ装置は、第1系のインバータ43aと、第2系のインバータ43bと、制御部47とを備える。
【0005】
第1系と第2系のインバータ43a,43bは、それぞれ、直流電力源51から供給される直流電力を、交流に変換して第1系と第2系の巻線部41a,41bに供給する。
制御部47には、各巻線部41a,41bに流れる電流の検出値がフィードバックされる。フィードバックされた検出値と予め定めた電力供給パターンとに基づいて、制御部47は、各インバータ43a,43bを制御する。これにより、電力供給パターンに従って、各巻線部41a,41bのU相巻線、V相巻線、W相巻線に電力が供給され、モータの動作が制御される。
【0006】
図1では、第1系の巻線部41aにおける中性点P
nと、第2系の巻線部41bにおける中性点P
nとには、中性線49が接続されている。中性線49は、直流電力源51の中間電位の部分に接続されている。
【0007】
この構成により、いずれかのトランジスタが故障により短絡しても、モータの駆動を継続することができる。例えば、第1系のインバータ43aにおいてU相(トランジスタ45b)が短絡した場合、第2系のインバータ43bのU相に2倍の電流を流すことにより、モータ出力の低下を抑えることができる。すなわち、第1系のインバータ43aにおいて、トランジスタ45bが短絡した場合に、第1系のインバータ43aから巻線部41aのU相には電流が流れなくなるので、第2系のインバータ43bから巻線部41bのU相へ2倍の電流を流す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図1の場合、トランジスタ45a〜45fのいずれか、または、トランジスタ45a〜45fのゲートをそれぞれ駆動する複数のゲート駆動部(図示せず)のいずれかが故障した場合に、過電流が流れることがある。例えば、第1系のインバータ43aにおいて、トランジスタ45aが故障で短絡した状態に維持された場合、または、トランジスタ45aに対するゲート駆動部の故障によりトランジスタ45aが短絡した状態に維持された場合、正常なトランジスタ45bが導通状態に制御されると、過大な短絡電流がトランジスタ45a,45bに流れる。
【0010】
このような過電流が流れることを防止するために、特許文献2では、トランジスタのゲートを駆動するゲート駆動回路のフィードバック信号と、ゲート駆動回路に対する指令パルスとの不一致を判断する。両者が不一致である場合には、ゲート駆動回路が故障しているとして、すべてのトランジスタに対する指令パルスを停止するようにしている。
【0011】
しかし、この場合には、他の正常なトランジスタも動作しなくなる。したがって、正常なトランジスタが活用されなくなる。
【0012】
そこで、本発明の目的は、トランジスタまたはゲート駆動部の故障により、トランジスタがオン信号またはオフ信号に従って正常に動作しなくなったことを検出できるとともに、他の正常なトランジスタを継続して活用できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するため、本発明は、直流電力源から供給される電力を交流に変換して負荷へ供給するインバータ装置であって、
直列に接続された複数のトランジスタを1つのトランジスタ列として、複数のトランジスタ列が互いに並列に接続されており、かつ、各トランジスタ列は、直流電力源に並列に接続されており、
各トランジスタにおける複数のトランジスタの間に位置する接点は、他のトランジスタにおける複数のトランジスタの間に位置する接点と負荷を介して接続されており、
各トランジスタに対してゲート駆動部が設けられ、ゲート駆動部は、対応するトランジスタのオン信号に反応して当該トランジスタを導通状態にし、対応するトランジスタのオフ信号に反応して当該トランジスタを非導通状態にし、
各トランジスタに対して設けられた動作監視部を備え、
前記各動作監視部は、
(A)トランジスタが、対応する前記オン信号または前記オフ信号に従って動作しているかを判断し、
(B)この判断の結果が否定である場合には、当該トランジスタの動作が異常であることを検出し、
いずれかの動作監視部によって、トランジスタの動作が異常であることが検出されたら、動作が異常とされた当該トランジスタが含まれるトランジスタ列における他のトランジスタを非導通状態に保つとともに、他のトランジスタ列における各トランジスタを継続して動作させることにより、交流電力を負荷へ継続して供給させる制御部を備える、ことを特徴とする。
【0014】
本発明の好ましい実施形態によると、前記制御部は、各ゲート駆動部に対して、前記オン信号または前記オフ信号をゲート信号として出力し、
前記動作監視部は、前記(A)において、対応するトランジスタにおけるコレクタとエミッタとの電位差と、当該トランジスタに対応するゲート信号とに基づいて、当該トランジスタが当該ゲート信号に従って動作しているかを判断し、前記(B)において、この判断の結果が否定である場合、当該トランジスタの動作の異常を検出する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、各トランジスタに対して動作監視部が設けられるので、どのトランジスタまたはゲート駆動部が、正常に動作しなくなったかを検出できる。
【0016】
また、動作監視部が、トランジスタがゲート信号(オン信号またはオフ信号)に従って動作していないと判断した場合には、制御部は、このトランジスタが含まれるトランジスタ列における他のトランジスタを非導通状態に保つとともに、他のトランジスタ列における各トランジスタを継続して動作させることにより、交流電力を負荷へ継続して供給させる。したがって、いずれかのトランジスタがゲート信号に従って動作しなくなっても、正常に動作する他のトランジスタを、継続して活用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の好ましい実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0019】
図2は、本発明の実施形態によるインバータ装置10の構成を示す。インバータ装置10は、直流電力源2から供給される電力を交流に変換して負荷3a,3bへ供給する。直流電力源2は、例えば、商用電源と、商用電源からの3相交流電力を直流電力に変換してインバータ装置10に出力するコンバータとを有してよい。
図2では、負荷3a,3bは、同じブラシレスモータの回転シャフトに同軸に配置された2つの3相巻線部である。各3相巻線部3a,3bは、U相の巻線と、V相の巻線と、W相の巻線を含む。
【0020】
インバータ装置10は、
図2では、第1系のインバータ5aと、第2系のインバータ5bと、制御部7とを備える。
【0021】
第1系と第2系のインバータ5a,5bは、それぞれ、直流電力源2から供給される直流電力を、交流に変換して巻線部3a,3bに供給する。各インバータ5a,5bは、制御部7に制御されることにより、対応する巻線部3a,3bの同じ相(U相の巻線、V相の巻線またはW相の巻線)に同じタイミングで電力を供給する。
【0022】
各インバータ5a,5bは、複数のトランジスタ9により構成される。各インバータ5a,5bにおいて、直列に接続された複数の(
図2では4つの)トランジスタ9を1つのトランジスタ列として、複数の(
図2では3つの)トランジスタ列L1,L2,L3が互いに並列に接続されており、かつ、各トランジスタ列L1,L2,L3は、直流電力源2に並列に接続されている。
各トランジスタ列L1,L2,L3における複数のトランジスタ9の間に位置する接点P
c1は、他のトランジスタ列における複数のトランジスタ9の間に位置する接点P
c1と負荷3a,3bを介して接続されている。各トランジスタ列L1,L2,L3において、接点P
c1の上流側(直流電力源2の正極側)には、互いに直列に接続された複数のトランジスタ9が設けられており、接点P
c1の下流側(直流電力源2の負極側)にも、互いに直列に接続された複数のトランジスタ9が設けられている。
【0023】
なお、
図2の例において、各インバータ5a,5bは、3レベルインバータである。ただし、本発明のインバータ装置は、3レベルインバータに限定されない。
また、
図2の例では、トランジスタ9は、IGBTであるが、本発明によると、トランジスタ9として、例えばMOSFETまたはバイポーラトランジスタを用いてもよい。
【0024】
制御部7は、各インバータ5a,5bを制御することにより、負荷3a,3bへの電力供給を制御する。制御部7には、各相に流れる電流の検出値がフィードバックされる。フィードバックされた検出値と、予め設定された電力供給パターンと基づいて、制御部7は、各インバータ5a,5bの各トランジスタ9に対してオン信号またはオフ信号(以下、単にトランジスタ9のオン信号またはオフ信号という)を出力する。これにより、各インバータ5a,5bは、オン信号またはオフ信号に従って、負荷3a,3bに電力を供給する。
なお、
図2の例では、3レベルインバータである各インバータ5a,5bにおいて、その論理に従ったオン信号またはオフ信号が、各トランジスタ9に対して出力される。
【0025】
図3は、
図2の部分詳細図である。
図3において、破線で囲んだ部分の構成が、トランジスタ9毎に設けられる。
【0026】
インバータ装置10は、
図3に示すように、各インバータ5a,5bの各トランジスタ9に対して設けられたゲート駆動部11と動作監視部12と過電流検出部13を有する。
【0027】
ゲート駆動部11は、対応するトランジスタ9のオン信号に反応して当該トランジスタ9を導通状態にする。すなわち、当該トランジスタ9のコレクタ9aとエミッタ9bを導通状態にする。ゲート駆動部11は、制御部7から出力されるオフ信号に反応して当該トランジスタ9を非導通状態にする。すなわち、当該トランジスタ9のコレクタ9aとエミッタ9bを非導通状態にする。
【0028】
図3の例では、オン信号は、ゲート信号線17を流れる電流である。この場合、ゲート信号線17に設けられた発光ダイオード19aが、オン信号により発光し、この発光をフォトトランジスタ19bが検出する。この検出により、ゲート駆動部11は、対応するトランジスタ9を導通状態にする。オフ信号は、ゲート信号線17に電流が流れていない状態に相当する。この場合、オフ信号(すなわち、ゲート信号線17に電流が流れていないこと)により発光ダイオード19aが発光していないことをフォトトランジスタ19bが検出する。この検出により、ゲート駆動部11は、対応するトランジスタ9を非導通状態にする。このように、ゲート駆動部11により、トランジスタ9を、導通状態と非導通状態との間で切り換えることに要する電力は、トランジスタ駆動用電源21からゲート駆動部11に供給される。
【0029】
動作監視部12は、トランジスタ9が、対応するゲート信号(すなわち、オン信号またはオフ信号)に従って動作しているかを判断する。この判断の結果が否定である場合には、動作監視部12は、当該トランジスタ9の動作が異常であることを検出する。動作監視部12は、制御部7が出力しているゲート信号が、オン信号であるか、または、オフ信号であるかを認識可能に構成されている。
図3の例では、動作監視部12は、制御部7に組み込まれている。
【0030】
動作監視部12は、対応するトランジスタ9におけるコレクタとエミッタとの電位差と、当該トランジスタ9に対応するゲート信号とに基づいて、当該トランジスタ9が当該ゲート信号に従って動作しているかを判断する。この判断は、例えば、次のように行う。各動作監視部12は、対応するゲート信号がオン信号である時に、対応するトランジスタ9のコレクタとエミッタとの電位差が、第1の設定値(オン電圧しきい値)以下であれば、当該トランジスタ9の動作が正常であると判断し、当該電位差が、当該第1の設定値より大きければ、当該トランジスタ9の動作が異常であると判断する。一方、各動作監視部12は、対応するゲート信号がオフ信号である時に、対応するトランジスタ9のコレクタとエミッタとの電位差が、第2の設定値(オフ電圧しきい値)以上であれば、当該トランジスタ9の動作が正常であると判断し、当該電位差が、当該第2の設定値より小さければ、当該トランジスタ9の動作が異常であると判断する。第2の設定値は、第1の設定値よりも大きい。このような判断を、ゲート信号がオン信号またはオフ信号になるタイミングに応じて行うことにより、トランジスタ9がゲート信号に従って動作しているかを判断できる。
【0031】
動作監視部12が、対応するトランジスタ9の動作が異常であることを検出することにより、制御部7は、インバータ5aまたは5bにおいて、動作が異常とされた当該トランジスタ9が含まれるトランジスタ列における他のトランジスタ9をすべて、オフ信号の出力により非導通状態に保つとともに、他のトランジスタ列における各トランジスタ9を継続して動作させる。これにより、交流電力を負荷3aまたは3bへ継続して供給させる。
【0032】
制御部7は、トランジスタ9の動作の異常を検出した動作監視部12が、複数の動作監視部12のうちのいずれであるかを認識可能に構成されている。したがって、制御部7は、トランジスタ9の動作の異常を検出した動作監視部12を特定し、特定された動作監視部12に対応する当該トランジスタ9が含まれるトランジスタ列における他のトランジスタ9をすべて非導通状態に保つとともに、他のトランジスタ列における各トランジスタ9を継続して動作させる。なお、複数のトランジスタ9に対応してそれぞれ設けられた複数の動作監視部12が、1つの制御部7に組み込まれていてよい。
【0033】
一例では、制御部7は、トランジスタ9の動作の異常を検出した動作監視部12を示す識別情報、すなわち、動作の異常が検出されたトランジスタ9を示す識別情報を出力する。この識別情報は、例えば、所定の記憶装置に読取可能に記憶され、または、ディスプレイなどの表示装置に表示される。この識別情報は、複数のトランジスタ9のうち、動作の異常が検出されたトランジスタ9がいずれであるかを示す。したがって、識別情報により、故障箇所を速やかに把握できるので、後でインバータ装置10の動作を停止した時に、識別情報が示す故障箇所(特に、動作の異常が検出されたトランジスタ、または、これに対応するゲート駆動部)を速やかに修理できる。
【0034】
制御部7による動作制御を詳しく述べる。以下、インバータ5aに対する動作制御を説明するが、インバータ5bに対する動作制御は、インバータ5aに対する動作制御と同じである。
【0035】
いずれのトランジスタ9も正常に動作している場合には、制御部7は、インバータ5aを制御することにより、U相(すなわち、
図2の配線部分U)とV相(すなわち、
図2の配線部分V)とW相(すなわち、
図2の配線部分W)に、それぞれ、次式(1)(2)(3)で表される電流Iu,Iv,Iwを流す。なお、式(1)(2)(3)において、Imは、線電流を示し、ωは、角周波数を示し、tは、経過時間を示す(以下、同様)。
【数1】
【0036】
これらの電流Iu,Iv,Iwを、互いに直交するX軸とY軸を有し位相角をωtとする2次元座標系(後述の
図4を参照)で表現する。すなわち、Iuを、X軸成分IuxとY軸成分Iuyに分解し、Ivを、X軸成分IvxとY軸成分Ivyに分解し、Iwを、X軸成分IwxとY軸成分Iwyに分解する。これらの各成分は、次式(4)〜(9)のように表される。
【数2】
【0037】
したがって、X軸の合成電流IxとY軸の合成電流Iyは、次式(10)(11)のようになる。IxとIyで表される電流ベクトルVcの軌跡は、
図4(A)に示すように円になる。なお、簡単のため、
図4において、Im=1と仮定している。
【0039】
ここで、インバータ5aにおいて、トランジスタ列L1に含められるいずれかのトランジスタ9の動作が異常であることを動作監視部12が検出した場合を想定する。
この場合、制御部7は、上述のように、当該動作監視部12を特定し、特定された動作監視部12に対応するトランジスタ9が含まれるトランジスタ列L1における他のトランジスタ9をすべて非導通状態に保つとともに、他のトランジスタ列L2、L3における各トランジスタ9を継続して動作させる。これにより、負荷3aへ供給される電力は、U、V、Wの3相交流電力からV、Wの2相交流電力に切り換えられる。
【0040】
この場合、好ましくは、制御部7は、以下で述べる位相調整と電流ゲイン調整の一方または両方を行う。
【0041】
(位相調整)
IuxとIuyがゼロになるので、合成電流Ix、Iyは、次式(12)(13)のようになる。
【0043】
したがって、IxとIyで表される電流ベクトルVcの軌跡は、
図4(B)に示すように楕円になる。
【0044】
そのため、制御部7は、次式(14)(15)ように、電流Ivに位相変化αを与え、電流Iwに位相変化βを与えることにより、IxとIyで表される電流ベクトルVcの軌跡の形状を調整する。
【0046】
好ましくは、αを−π/6とし、βをπ/6とすることにより、Ix、Iyは、次式(16)(17)で表されるようになる。すなわち、IxとIyで表される電流ベクトルVcの軌跡が、
図4(C)に示すように円になる。
【0048】
(電流ゲイン調整)
制御部7は、負荷3aに供給されるIvとIwの大きさを大きくする電流ゲイン調整を行う。
【0049】
上述のように電流ベクトルVcの形状を
図4(C)に円に調整する場合には、制御部7は、次式(18)(19)で表される電流Iv、Iwが負荷に供給されるようにゲイン調整を行う。式(18)(19)において、Gはゲインであり、Gの値は√3である。
【0051】
その結果、電流ベクトルVcの形状と大きさが
図4(A)の場合と同じになる。したがって、どの位相角ωtでも、トランジスタ9の動作の異常を検出する前と同じ大きさと形状の電流ベクトルVcで、電流を負荷3aに供給できる。負荷3aがモータ(例えば、かご形三相誘導電動機)である場合には、トランジスタ9の動作の異常を検出した後においても、モータの運転を安定して行える。
【0052】
次に、過電流検出部13について説明する。
【0053】
過電流検出部13は、対応するトランジスタ9のオン信号が制御部7から出力された時に、当該トランジスタ9に過電流が流れているかを検出し、当該トランジスタ9に過電流が流れていることを検出した場合に、過電流検出信号を出力する。本実施形態では、過電流検出部13は、対応するトランジスタ9のオン信号に反応して、当該トランジスタ9におけるコレクタ9aとエミッタ9bとの電位差をしきい値と比べ、この電位差がしきい値より大きい場合には、当該トランジスタ9のゲート駆動部11に過電流検出信号を出力する(後で詳しく説明する)。当該ゲート駆動部11は、過電流検出信号を受けた場合、対応するトランジスタ9のオン信号が制御部7から出力されても、当該トランジスタ9を非導通状態に維持する。
【0054】
図3の例では、発光ダイオード23aがオン信号により発光し、この発光をフォトトランジスタ23bが検出する。この検出により、過電流検出部13は、上述のように、対応するトランジスタ9におけるコレクタ9aとエミッタ9bとの電位差をしきい値と比べ、この電位差がしきい値より大きい場合には、上述の過電流検出信号を出力する。このように過電流検出部13は作動する。一方、過電流検出部13は、対応するトランジスタ9のオフ信号が出力されている時には作動しない。
【0055】
好ましくは、過電流検出部13には、これに対応するトランジスタ9のオン信号が制御部7から出力された時に、トランジスタ駆動用電源21から電力が供給される。この電力により、過電流検出部13は、トランジスタ9におけるコレクタ9aとエミッタ9bとの電位差をしきい値と比べ、この電位差がしきい値より大きい場合には、当該トランジスタ9のゲート駆動部11に過電流検出信号を出力する。この場合、好ましくは、過電流検出部13には、これに対応するトランジスタ9のオフ信号が制御部7から出力された時には、トランジスタ駆動用電源21から電力が供給されない。これにより、消費電力を抑えることができる。
【0056】
なお、トランジスタ駆動用電源21の負極は、対応するトランジスタ9のエミッタ9bに接続されていてよい。
【0057】
次に、過電流検出部13の作用を詳しく述べる。なお、以下は、1つのインバータ5aまたは5bについての説明である。
【0058】
(検出対象のトランジスタが接点P
c1よりも上流にある場合)
・正常時
1つのトランジスタ列において接点P
c1より上流(直流電力源2の正極側)に位置するトランジスタ9であって、過電流検出部13による検出対象のトランジスタ9(以下、単に対象トランジスタ9という)が、オン信号により導通状態にされた時には、対象トランジスタ9と同じ列において接点P
c1より下流(直流電力源2の負極側)に位置するトランジスタ9(以下、下流トランジスタ9という)はオフ信号により非導通状態に制御される。これにより、対象トランジスタ9から負荷3a,3bに電流が流れる。したがって、直流電力源2による印加電圧は、導通状態の対象トランジスタ9にはほとんどかからず、そのほとんどが負荷3a,3bにかかる。その結果、対象トランジスタ9におけるコレクタ9aとエミッタ9bとの電位差はしきい値よりも小さくなる。したがって、過電流検出部13は、過電流検出信号を出力しない。
・故障時
対象トランジスタ9がオン信号により導通状態にされた時に、下流トランジスタ9が、故障により、非導通状態に制御されず短絡している場合を想定する。この場合、直流電力源2からの電流は、対象トランジスタ9を流れた後、抵抗の大きい負荷3a,3bに流れず、短絡した下流トランジスタ9(
図2の例では、2つの下流トランジスタ9)に流れる。したがって、直流電力源2による印加電圧は、対象トランジスタ9と下流トランジスタ9とにかかる。その結果、対象トランジスタ9におけるコレクタ9aとエミッタ9bとの電位差はしきい値よりも大きくなる(例えば直流電力源2による総印加電圧の半分になる)。過電流検出部13は、このような電位差を検出して、この旨を示す過電流検出信号を出力する。過電流検出信号に反応して、ゲート駆動部11は、対象トランジスタ9のオン信号が出力されても、対象トランジスタ9を非導通状態に維持する。これにより、過電流が、対象トランジスタ9に流れることを防止できる。
【0059】
(対象トランジスタが接点P
c1よりも下流にある場合)
・正常時
1つのトランジスタ列において接点P
c1より下流に位置するトランジスタ9であって、過電流検出部13による検出対象のトランジスタ9(以下、単に対象トランジスタ9という)が、オン信号により導通状態にされた時には、対象トランジスタ9と同じ列において接点P
c1より上流(直流電力源2の正極側)に位置するトランジスタ9(以下、上流トランジスタ9という)はオフ信号により非導通状態に制御され、かつ、対象トランジスタ9には、他のトランジスタ列の接点P
c1から負荷3a,3bを通った電流が流れる。したがって、直流電力源2による印加電圧は、導通状態の対象トランジスタ9にはほとんどかからず、そのほとんどが当該負荷3a,3bにかかる。その結果、対象トランジスタ9におけるコレクタ9aとエミッタ9bとの電位差はしきい値よりも小さくなる。
・故障時
対象トランジスタ9がオン信号により導通状態にされた時に、上流トランジスタ9が、故障により、非導通状態に制御されず短絡している場合を想定する。この場合、直流電力源2からの電流は、短絡している上流トランジスタ9(
図2の例では、2つの上流トランジスタ9)を流れた後、対象トランジスタ9に流れる。したがって、直流電力源2による印加電圧は、上流トランジスタ9と対象トランジスタ9とにかかる。その結果、対象トランジスタ9におけるコレクタ9aとエミッタ9bとの電位差はしきい値よりも大きくなる(例えば直流電力源2による総印加電圧の半分になる)。過電流検出部13は、このような電位差を検出して、この旨を示す過電流検出信号を出力する。過電流検出信号に反応して、ゲート駆動部11は、対象トランジスタ9のオン信号が出力されても、対象トランジスタ9を非導通状態に維持する。これにより、過電流が対象トランジスタ9に流れることを防止できる。
【0060】
上述した本発明の実施形態によると、以下の効果が得られる。
【0061】
動作監視部12が、トランジスタ9がゲート信号(オン信号またはオフ信号)に従って動作していないことを検出した場合には、制御部7は、このトランジスタ9が含まれるトランジスタ列における他のトランジスタ9を非導通状態に保つとともに、他のトランジスタ列における各トランジスタ9を継続して動作させることにより、交流電力を負荷3a,3bへ継続して供給させる。したがって、いずれかのトランジスタ9がゲート信号に従って動作しなくなっても、正常に動作する他のトランジスタ9を、継続して活用することができる。
【0062】
動作監視部12は、対応するトランジスタ9におけるコレクタ9aとエミッタ9bとの電位差と、当該トランジスタ9に対応するゲート信号とに基づいて、当該トランジスタ9が当該ゲート信号に従って動作しているかを判断する。したがって、トランジスタ9毎に、ゲート駆動部11が故障している場合であっても、トランジスタ9が故障している場合であっても、トランジスタ9が当該ゲート信号に従って動作しているかを判断できる。
【0063】
トランジスタ9のオン信号が出力された時に、当該トランジスタ9に過電流が流れていることを検出した場合には、当該トランジスタ9と同じ列の他のトランジスタ9が短絡故障していることになる。したがって、トランジスタ9のオン信号の出力時に、過電流検出部13は、当該トランジスタ9に過電流が流れているかを検出することにより、当該トランジスタ9と同じ列の他のトランジスタ9が短絡しているかを検出できる。
【0064】
この場合、オン信号により導通状態にされ、過電流が流れていると検出されたトランジスタ9を、ゲート駆動部11が非導通状態にして機能させなくすることにより、過電流が流れることが防止できる。
【0065】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、以下の変更例1〜4のいずれかを採用し、または、変更例1〜4の2つ以上を任意に組み合わせて採用してもよい。この場合、他の点は、上述と同じであってよい。
【0066】
(変更例1)
上述では、上述の実施形態によるインバータ装置10は、
図2の3レベルインバータ5a,5bに適用されたものであったが、本発明のインバータ装置を、他のインバータに適用してもよい。
本発明では、トランジスタ列L1,L2,L3の全てにおいて、接点P
c1よりも上流と下流に、それぞれ、2つ以上のトランジスタ9が設けられていればよい。したがって、
図2において、トランジスタ列L1,L2,L3の全てまたは一部において、接点P
c1よりも上流と下流に、または、接点P
c1よりも上流もしくは下流に、3つ以上のトランジスタ9を設けてもよい。
【0067】
(変更例2)
上述では、2つのインバータ5a,5bから同じ負荷に電力を供給していたが、本発明は、これに限定されない。例えば、負荷への電力供給を1つのインバータで行う場合に、このインバータの各トランジスタ9に動作監視部12と過電流検出部13を設けてもよい。
【0068】
(変更例3)
上述では、インバータを構成する各トランジスタ9に対して過電流検出部13を設けていたが、本発明は、これに限定されない。例えば、インバータを構成する複数のトランジスタ9のうち、一部のトランジスタ9に対して過電流検出部13を設けてもよい。
【0069】
(変更例4)
上述では、インバータを構成するトランジスタ9に対して動作監視部12と過電流検出部13の両方を設けていたが、動作監視部12と過電流検出部13のうち動作監視部12のみを、インバータを構成するトランジスタ9に対して設けてもよい。