特許第6238350号(P6238350)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 曽田香料株式会社の特許一覧

特許6238350温州みかん香料又は温州みかん風味飲食品のピール感向上剤、それを添加してなる香料、飲食品又は香粧品
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6238350
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】温州みかん香料又は温州みかん風味飲食品のピール感向上剤、それを添加してなる香料、飲食品又は香粧品
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/20 20160101AFI20171120BHJP
   A23L 27/12 20160101ALI20171120BHJP
【FI】
   A23L27/20 E
   A23L27/20 F
   A23L27/12
【請求項の数】2
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2013-239715(P2013-239715)
(22)【出願日】2013年11月20日
(65)【公開番号】特開2015-97514(P2015-97514A)
(43)【公開日】2015年5月28日
【審査請求日】2016年3月24日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成25年10月5日に第57回香料・テルペンおよび精油化学に関する討論会にて発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第57回香料・テルペンおよび精油化学に関する討論会講演要旨集(平成25年10月5日)第28−30ページに発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000201733
【氏名又は名称】曽田香料株式会社
(72)【発明者】
【氏名】児玉 達哉
(72)【発明者】
【氏名】市野澤 亮介
【審査官】 北田 祐介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−097513(JP,A)
【文献】 特表2012−515000(JP,A)
【文献】 特開2010−154806(JP,A)
【文献】 特開平08−173081(JP,A)
【文献】 特開2006−124490(JP,A)
【文献】 特開2009−120566(JP,A)
【文献】 Agric Biol Chem, 1979, Vol.43, p.259-264
【文献】 J Japan Soc Hort Sci, 1984, Vol.53, p.141-149
【文献】 Nippon Nogeikagaku Kaishi, 1994, Vol.68, p.815-820
【文献】 Agric Biol Chem, 1991, Vol.55, p.1421-1423
【文献】 伊藤三郎 編, シリーズ<食品の科学> 果実の科学, 朝倉書店, 1998, p.77
【文献】 Flavour Fragr. J., 2004, Vol.19, p.406-412
【文献】 社団法人日本果汁協会監修, 最新果汁・果実飲料事典, 1997, 株式会社朝倉書店, p.466-467
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00−27/60
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サリチル酸メチル、1−p−メンテン−9−オール、サビネンから選択される1種以上からなる、温州みかん香料又は温州みかん風味を有する飲食品のピール感向上剤。
【請求項2】
サビネンを含有し、かつ飲食品又は香粧品へのサビネン添加濃度が0.1〜18.0ppmとなるよう使用されるために、飲食品又は香粧品への香料添加量を加味してサビネンの添加量を調整されてなる、温州みかん香料(ただし、温州みかん果汁を含むもの、および、温州みかん果皮油を含むものを除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温州みかんの香味特徴である温州みかんを特徴づけるピール感を向上させるピール感向上剤に関するものである。さらにはそれを添加してなるピール感の向上した、温州みかん香料又は温州みかんの香味を有する飲食品、温州みかん様香気を有する香粧品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
温州みかんは日本原産であり、日本国内においては多種多様な柑橘のなかでも最も一般に親しまれているものである。国内での温州みかんの生産は主として生食用であり、加工原料としての生産は僅かでしかない。近年では温州みかん加工品は輸入品に頼っている状態であるが、温州みかんの精油については市場における流通量が少ないのが実情である。そのため温州みかん香料を製造するにあたっては温州みかん精油を多用することができず、温州みかん香料は必ずしも温州みかんらしい香気又は香味を有しているとはいえない。
【0003】
一方、香料の製造に関しては天然物の香気成分分析の結果を参考とすることも多く、特に食品そのものの香気の再現を多く要求される食品用香料においては、食品の香気成分分析が盛んに行われている。柑橘系香料は食品用香料の重要な1分野であって、種々の柑橘について香料が製造されている。(特許文献1)温州みかんについても従来から香気成分分析が多く試みられているものの、その香気を特徴づける成分には分からないことが多く、個々の成分の香気強度を成分量に乗じてFDファクターを算出し各成分の香気寄与度を評価したり、光学異性体が存在する主要成分の光学純度を比較するなど様々な分析手法を用いて研究がなされている。(非特許文献1〜3)しかしながら、未だ温州みかんの香気を特徴付ける成分について充分には解明されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−168936号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「柑橘果実の香り(2)―みかんの香気成分―」、香料、2012年、第254号、p.63-68
【非特許文献2】「Aroma Character Impact Compounds in Kinokuni Mandarin Orange(Citrus kinokuni) Compared with Satuma Mandarin Orange(Citrus unshiu)」、Bioscience Biotechnology Biochemistry、2010年、第74巻、第4号、p.90937-1-8
【非特許文献3】「ウンシュウミカン(Citrus unshiu Marc.)枝変わり品種の可否の精油成分」、2012年、第56回 香料・テルペンおよび精油化学に関する討論会 講演要旨集、p.243-245
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、温州みかんのピール感を付与又は向上させるための方法、具体的には温州みかんのピール感を向上させるための組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは前記課題を解決するために温州みかんらしいピール感を向上させる成分を特定するために、本出願人の所有する特許第4618530号の評価方法及び装置を用いて温州みかんの精油成分の分析と評価を行った。その結果、FDファクターが高くない成分中に、温州みかんのピール感に寄与する成分が存在することを見いだし、飲食品への添加試験を繰り返すことによって本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明はサリチル酸メチル、1−p−メンテン−9−オール、サビネンから選択される1種以上からなる温州みかん香料又は温州みかん風味飲食品のピール感向上剤であり、前記化合物群から選ばれる1種以上を特定量添加してなる温州みかん風味を有する香料、飲食品又は香粧品である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の温州みかん香料又は温州みかん風味飲食品のピール感向上剤を用いることにより、従来表現が困難であった温州みかんらしいピール感を有するみかん香料、または温州みかんを想起させるより嗜好性の高い温州みかん風味を有する飲食品を製造することができる。さらには、本発明の温州みかん香料又は温州みかん風味飲食品のピール感向上剤を用いたみかん香料を香粧品用香料に応用することも可能であり、それら香粧品用香料を添加してより嗜好性の高い温州みかん様の香気を有する香粧品を製造することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、サリチル酸メチル、1−p−メンテン−9−オール、サビネンから選択される1種以上からなる温州みかん香料又は温州みかん風味飲食品のピール感向上剤であり、さらにはそれらを含有してなる温州みかん香料、温州みかん風味を有する飲食品又は温州みかん様香気を有する香粧品である。本発明の有効成分であるサリチル酸メチル、1−p−メンテン−9−オール、サビネンは、最終的に消費される製品に以下の濃度で添加することにより温州みかんらしいピール感を向上させる。なお、以下の数値範囲は温州みかん果汁100%の香気成分量に対する添加量を上限とするものであり、温州みかん果汁又は温州みかん香料の香気成分量が少ないときは、それに応じて添加量を減じることで全体の香気を調整することができ、一般的に最終的に消費される製品への添加量が以下の数値範囲になるよう調整することで、通常の温州みかん香料又は温州みかん風味の飲食品の温州みかんらしいピール感向上を達成することができる。
【0011】
(a)サリチル酸メチル:0.005〜0.8ppm
(b)1−p−メンテン−9−オール:0.008〜1.2ppm
(c)サビネン:0.1〜18.0ppm
【0012】
本発明の前記有効成分はそれ自体の香気が柑橘の香気とは異なるため、本発明のピール感向上剤のみでは温州みかん様の香気は形成しない。したがって、本発明のピール感向上剤は最終的に消費される製品の段階において、温州みかん果汁、温州みかん果皮油、温州みかん香料の少なくとも1種との共存が必須である。また、上記の数値範囲を超えて添加するとそれぞれの化合物自体の香気が感じられるようになり、飲食品全体としての風味を損なうおそれがある。また、上記数値範囲の下限値を下まわると温州みかん様のピール感が充分に向上されず、嗜好性の点で未添加のものと差違がなくなる。
【0013】
本発明のピール感向上剤は、サリチル酸メチル、1−p−メンテン−9−オール、サビネンの1種以上であれば効果を発揮するが、2種以上を組み合わせた方がより天然の温州みかん果汁に近い香気特性が得られるため好ましい。本発明の化合物群を2種以上組み合わせる場合は、前記の最終的に消費される製品中に添加される量を考慮して比率を決定する。
【0014】
本発明の有効成分であるサリチル酸メチル、1−p−メンテン−9−オール、サビネンは、いずれも公知の化合物であるため公知の方法によって製造することができる。
【0015】
本発明のピール感向上剤又はそれを含有してなる香料は、温州みかん風味を有する飲食品であればいずれであっても使用することができる。例えば、果実飲料、果汁入り飲料、野菜ジュース、発泡性飲料、濃縮ジュース、凍結ジュース、スポーツドリンク、栄養ドリンク、その他の機能性ドリンク、フレーバードティー、乳飲料、乳酸菌飲料、豆乳類等の飲料一般、ヨーグルト、ゼリー、ムース、デザート類、アイスクリーム、ラクトアイス、アイスミルク、シャーベット等の冷菓並びに氷菓、ケーキ、クッキー、ビスケット、パイ、煎餅、その他の米菓等といった洋菓子及び和菓子を含む焼菓子や蒸菓子等の菓子類、パン、スナック類、チューインガム、ハードキャンディ、ソフトキャンディー、ゼリービーンズ、グミ、錠菓等を含む糖菓一般、クリーム、果実フレーバーソース、みかんジャムやマーマレード、甘味料、シロップ、缶詰、冷凍食品などが挙げられ、口腔衛生製品としては、口内清涼剤、うがい剤、歯磨き等の医薬品部外品、シロップ剤等の医薬品を挙げることができる。
【0016】
また、本発明のピール感向上剤又はそれを含有してなる香料は、香粧品用香料への応用も可能であり、温州みかん様香気を有する香粧品であればいずれであっても使用することができる。具体的な用途としては、例えば、香水、コロン、オードトワレ、化粧水、基礎化粧料、シャンプー、リンス、ヘアトリートメント剤、整髪料、洗顔剤、身体洗浄剤、食器用洗剤、洗濯用洗剤、柔軟剤、清掃用品、芳香剤、消臭剤、線香、インセンス、皮膚外用剤、インク、匂い付き文具、玩具などを挙げることができる。
【0017】
本願発明のピール感向上剤又はそれを含有してなる香料は、使用時の利便性のため適宜溶剤などで希釈されてもよい。希釈に用いる溶剤などは香料組成物に常用されるものであれば特に制限はない。また、香気又は香味に悪影響のない範囲であれば香料以外の成分として常用される他の添加物を加えた組成物としてもよい。さらに、本発明の香料においては香料一般に適用される製剤化技術の適用も可能であり、粉末化、カプセル化など情報により所望の形態に調整することもできる。
【実施例1】
【0018】
サリチル酸メチル、1−p−メンテン−9−オール、サビネンを温州みかんとオレンジのストレートジュースに添加して専門パネルによる官能評価により香味の変化を確認した。また、温州みかんの精油成分中でFDファクターの高い化合物の内、リナロールとデカナールについても同様に添加試験を行い温州みかんらしいピール感の増強に関する効果を比較した。結果を表1に示す。
【0019】
【表1】
【0020】
試験の結果、本願発明のサリチル酸メチル、1−p−メンテン−9−オール、サビネンは温州みかんジュースに添加した場合、特定の濃度範囲内であれば温州みかんらしいピール感を増加させた。これに対して、同様にオレンジジュースに添加した場合は、温州みかんらしい香味は発現しなかった。以上より、本発明のサリチル酸メチル、1−p−メンテン−9−オール、サビネンから選択される1種以上からなる、温州みかん香料又は温州みかん風味飲食品のピール感向上剤は、温州みかんの香味を有するものに添加したときに、特定の濃度範囲で温州みかんのピール感を特異的に向上させる効果を有していることが確認された。