(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6238354
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸製造用触媒およびその製造方法ならびに不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/88 20060101AFI20171120BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20171120BHJP
C07C 57/05 20060101ALI20171120BHJP
C07C 51/25 20060101ALI20171120BHJP
C07C 47/22 20060101ALI20171120BHJP
C07C 45/35 20060101ALI20171120BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20171120BHJP
【FI】
B01J23/88 Z
B01J37/08
C07C57/05
C07C51/25
C07C47/22 B
C07C45/35
!C07B61/00 300
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-22052(P2014-22052)
(22)【出願日】2014年2月7日
(65)【公開番号】特開2015-147188(P2015-147188A)
(43)【公開日】2015年8月20日
【審査請求日】2016年8月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】釋 亮
(72)【発明者】
【氏名】小林 智明
(72)【発明者】
【氏名】尾上 宏之
(72)【発明者】
【氏名】田村 昂一
【審査官】
岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−169149(JP,A)
【文献】
特開2000−016959(JP,A)
【文献】
特開2005−169311(JP,A)
【文献】
特表2010−516441(JP,A)
【文献】
特表2007−514538(JP,A)
【文献】
特表2009−523609(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリブデン及びビスマスを必須の活性成分とする不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸製造用触媒の製造方法であって、触媒活性成分の組成が下記一般式(I)
Mo12 Bia Ub Xc Yd Ze Of (I)
(ここで、Mo、Bi、Oはそれぞれ、モリブデン、ビスマスおよび酸素を示し、Uはコバルト、ニッケル及び鉄から選ばれる少なくとも1種の元素、Xはマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、セリウム(Ce)及びサマリウム(Sm)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、Yはホウ素(B)、リン(P)、砒素(As)、アンチモン(Sb)、タングステン(W)、ケイ素(Si)及びアルミニウム(Al)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、Zはナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)及びセシウム(Cs)からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素をそれぞれ示す。(a)から(e)は各成分の原子比率を表し、0<a≦10、0≦b≦40、0≦c≦10、0≦d≦10、0≦e≦6であり、fは触媒成分の酸化度で決定される数値である。)で表され、モリブデン酸アンモニウムと水の混合物を調製し、濁度が30NTU以下を満たす該混合物に鉄成分原料及び/またはコバルト成分原料及び/またはニッケル成分原料を10℃以上80℃以下の条件下にて水と混合させた後、さらにビスマス成分原料を加え、次いで任意によりX成分原料及び/またはY成分原料を加えた混合物を調製し、乾燥、予備焼成、成形、そして焼成する工程を含むことを特徴とする不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸製造用触媒の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の濁度が30NTU以下を満たすモリブデン酸アンモニウムと水との混合物に、鉄成分原料及び/またはコバルト成分原料及び/またはニッケル成分原料及び/またはZ成分原料を20℃以上90℃以下の条件下にて水と混合させて加熱撹拌後、さらにビスマス成分原料を加え、次いで任意によりX成分原料及び/またはY成分原料を加えた混合物を調製し、乾燥、予備焼成、成形、そして焼成する工程を含むことを特徴とする不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸製造用触媒の製造方法。
【請求項3】
モリブデン酸アンモニウムと水との混合物を0℃〜60℃の条件下で調製する請求項1または請求項2記載の不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸製造用触媒の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3に記載のいずれかの製造方法によって得られた触媒の存在下、アルケンを気相接触酸化することを特徴とする不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルケンをモリブデンおよびビスマスを含む触媒の存在下に分子状酸素又は分子状酸素含有ガスにより気相接触部分酸化して対応する不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸を製造する際に用いる触媒およびその製造方法ならびに、その触媒を使用した不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレンを分子状酸素により気相接触部分酸化して、アクロレイン及びアクリル酸を工業的に製造する場合、種々の問題が生じる。その一つとして、複合金属酸化物触媒(以下、「触媒」と表記)がさらされる温度が高くなるにつれて触媒の劣化が加速することが知られている。また、過剰な酸化反応が起こり、目的生成物の収率が低下することも広く知られている。そこで、目的生成物の生産性を上げるためには、原料の濃度や空間速度を増大させ、それに伴って、反応浴温度を上昇させる必要がある。しかし、前述のとおり反応浴温度が高いと触媒寿命が短くなってしまう問題がある。さらにプロピレンなどの気相接触部分酸化は発熱反応であるため、触媒層に局所的な高温部(ホットスポット)が発生し、触媒劣化および収率低下が顕著になる。これらの課題に対し、従来技術ではさまざまな提案がなされている。例えば、特開2001−226302号公報(特許文献1)には、占有容積と焼成温度、および/またはアルカリ金属元素の種類および/または量とが異なる複数種の触媒を準備し多管式酸化反応器の管軸方向に原料ガス入口から出口に向かって活性が高くなるよう充填することでホットスポット温度を抑制する方法が記載されている。この方法は、高濃度の原料ガスを導入する入口側において活性を抑えた触媒を充填することで過剰な発熱を抑えることを目的としている。しかし、占有容積による活性調節では、反応管径によって触媒の占有容積の大きさが制限されるため十分な効果が得られない場合がある、もしくは触媒が均一に充填されないことで設計した反応場が実現されず十分な触媒性能が発揮されない可能性がある。また、特開平6−192144号公報(特許文献2)では、原料ガス入口側から出口側へ向かって触媒の担持量を多くして触媒活性に序列をつけることによって原料ガス入口側におけるホットスポット温度を抑制し、高活性な触媒が充填されている出口側においてはプロセス上必要とされる原料の転化率まで気相接触部分酸化反応を到達させるという方法が記載されている。しかしながら、低い担持量である原料ガス入口側の触媒は寿命が短く、一方で原料ガス出口側の触媒は活性成分量が多いため触媒活性成分の層が厚くなることで反応熱が触媒内に蓄熱され選択性が低下する課題がある。また特表2007−511565号公報(特許文献3)によれば、リング形状触媒を使用することで、ホットスポット温度を抑制し、高負荷の状況下における反応に対応できる方法が記載されている。しかし、リング形状触媒は、多管式酸化反応器へ充填するときに形状の特性上、均一に充填することが困難であり、また成型方法の特性上、機械的強度が低いために触媒が崩れ粉化が起こり、反応管が詰まるだけでなく、触媒活性成分が抜け落ちてしまうことで触媒性能が十分に発揮されないことも大きな課題である。さらに、特開2001−048817号公報(特許文献4)では、各反応管内の触媒層を管軸方向に2層以上に分割して設けた反応帯に、ビスマスおよび鉄の量を変更した触媒を、原料ガス入口から出口に向かってビスマスおよび鉄の総量が少なくなるように充填することで、モリブデン成分の昇華を抑制して、長期にわたり安定して、かつ高収率でアクロレインおよびアクリル酸を製造する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−226302号公報
【特許文献2】特開平6−192144号公報
【特許文献3】特表2007−511565号公報
【特許文献4】特開2001−048817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アルケンの気相接触部分酸化反応により対応する不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸を製造する方法は既に一部工業化されているものもあるが、さらなる触媒の性能や使用方法の改良が求められている。多管式酸化反応器を使用してアルケンから対応する不飽和アルデヒドおよび/またはカルボン酸を多く製造しようとする際には、単位触媒体積に対するアルケンの供給負荷が高くなり、反応浴温度を上げる必要が生じる。これは結果的に触媒層内の温度を上げることになり、経時的な触媒活性および/または選択性の低下をもたらすことで目的生成物の収率が低下するため長期間の使用という観点で問題となる。触媒の活性向上は反応浴温度の低下、ランニングコストの低下、触媒の長寿命化を可能にし、目的生成物の収率向上は製造コストを大幅に低下させることが可能となる。また、この気相接触部分酸化反応に用いられる触媒の成型方法が打錠成型、押し出し成型、コーティング成型その他いかなる方法であっても機械的強度が結果的に低い場合には、触媒を多管式酸化反応器へ充填するときに触媒の粉化および触媒活性成分の剥離により多管式酸化反応器内が詰まり、異常な圧力上昇を招くことになる。つまり、触媒本来の優れた活性および選択性を発揮させるためには機械的強度の高い触媒が必要となる。さらに、反応浴温度を低下させるためには高活性な触媒が必要であるが、従来技術では触媒の高活性化によって大幅な選択性の低下が伴うため、高選択性を維持した高活性触媒を製造し、それらを効果的に組み合わせ目的生成物を製造する技術に課題がある。とりわけ、高活性な触媒は使用方法を十分に検討した上で使用しなければホットスポット温度が高くなり過ぎてしまい収率低下を引き起こし、さらには暴走反応を引き起こしかねない。したがって、本発明は、不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸、好ましくはアクロレインおよび/またはアクリル酸、メタクロレインおよび/またはメタクリル酸を高収率で製造することが可能な技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち本発明は、
(1)モリブデン及びビスマスを必須の活性成分とする不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸製造用触媒であって、触媒活性成分の組成が下記一般式(I)
Mo
12 Bi
a U
b X
c Y
d Z
e O
f (I)
(ここで、Mo、Bi、Oはそれぞれ、モリブデン、ビスマスおよび酸素を示し、Uはコバルト、ニッケル及び鉄から選ばれる少なくとも1種の元素、Xはマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、セリウム(Ce)及びサマリウム(Sm)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、Yはホウ素(B)、リン(P)、砒素(As)、アンチモン(Sb)、タングステン(W)、ケイ素(Si)及びアルミニウム(Al)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、Zはナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)及びセシウム(Cs)からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素をそれぞれ示す。(a)から(e)は各成分の原子比率を表し、0<a≦10、0≦b≦40、0≦c≦10、0≦d≦10、0≦e≦6であり、fは触媒成分の酸化度で決定される数値である。)で表され、モリブデン原料として使用するモリブデン酸アンモニウムと水の混合物の濁度が30NTU以下であることを特徴とする不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸製造用触媒、
(2)モリブデン酸アンモニウムと水との混合物を0℃〜60℃の条件下で調製し、次いで該混合物と他の成分元素及び必要により水を混合して混合物を得た後、これを乾燥、焼成する工程を含む(1)に記載の不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸製造用触媒の製造方法、
(3)(1)に記載の触媒の存在下、アルケンを気相接触酸化することを特徴とする不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸の製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の触媒を使用することによって、不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸の製造において、不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸を高収率で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明にかかる不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸製造用触媒およびその製法について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることなく、以下の例示以外についても本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し、実施することができる。
【0008】
本発明における不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸製造用の触媒は、必須成分としてモリブデンおよびビスマスを含む触媒であり、触媒活性成分の組成は下記一般式(I)で表すことができる。
Mo
12 Bi
a U
b X
c Y
d Z
e O
f (I)
(ここで、Mo、Bi、Oはそれぞれ、モリブデン、ビスマスおよび酸素を示し、Uはコバルト、ニッケル及び鉄から選ばれる少なくとも1種の元素、Xはマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、セリウム(Ce)及びサマリウム(Sm)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、Yはホウ素(B)、リン(P)、砒素(As)、アンチモン(Sb)、タングステン(W)、ケイ素(Si)及びアルミニウム(Al)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、Zはナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)及びセシウム(Cs)からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素をそれぞれ示す。(a)から(e)は各成分の原子比率を表し、0<a≦10、0≦b≦40、0≦c≦10、0≦d≦10、0≦e≦6であり、fは触媒成分の酸化度で決定される数値である。)
さらに、本発明の触媒は、モリブデンの原料と水の混合物としての濁度が30NTU以下のモリブデン酸アンモニウムを用いて得られた触媒である。ここで、濁度とは水の濁りの程度を表すもので,視覚濁度,透過光濁度,散乱光濁度及び積分球濁度に区分し表示するものであり、JIS K0101(「工業用水試験方法」)に定めがある。本発明においては、ホルマジン溶液を基準としたNTUを濁度の尺度として用いた。このNTUとは(Nephelometric Turbidity Units)比濁計濁度単位であり、ホルマジンを標準液として、散乱光を測定した場合の測定単位である。本発明に記載する濁度(NTU)は、モリブデン酸アンモニウムと水の混合物において、モリブデン酸アンモニウムの濃度を30重量%にした混合物、すなわち、モリブデン酸アンモニウム1重量部に対し、精製水2.3重量部を加え23℃において15分間撹拌した後、基準液として精製水を用いた濁度計(特に限定はしないがLaMotte社製2020eを使用するのが好ましい)にて測定した数値である。
【0009】
本発明の触媒は、不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸製造用の触媒として、濁度が30NTU以下であるモリブデン酸アンモニウムと水の混合物に、さらにビスマス含有化合物を混合して得られる。好ましくは、次いで、鉄、コバルト、ニッケルの中から選択される少なくとも1種の元素から成る化合物を混合して得られる。
【0010】
濁度が30NTU以上のモリブデン酸アンモニウムを用いると、モリブデンおよびビスマスを含む触媒中にモリブデンが均一に配置されず、優れた性能の触媒が得られなくなると推察される。
【0011】
以下、本発明にかかる本触媒の製造方法についてさらに具体的に説明する。
工程a)調製
一般に触媒を構成するモリブデン以外の各元素の出発原料は特に制限されるものではない。モリブデン成分原料としてはモリブデン酸アンモニウムを用いる。このモリブデン酸アンモニウムにはジモリブデン酸アンモニウム、テトラモリブデン酸アンモニウム、ヘプタモリブデン酸アンモニウム等、複数種類の化合物が存在するが、その中でもヘプタモリブデン酸アンモニウムを使用することが好ましい。ビスマス成分原料としては硝酸ビスマス、次炭酸ビスマス、硫酸ビスマス、酢酸ビスマスなどのビスマス塩、三酸化ビスマス、金属ビスマスなどを用いることができるが、好ましくは硝酸ビスマスを使用した場合に高性能な触媒が得られる傾向がある。鉄、コバルト、ニッケル及びその他の元素の原料としては通常は酸化物あるいは熱によって酸化物になり得る硝酸塩、炭酸塩、有機酸塩、水酸化物等又はそれらの混合物を用いることができる。例えば、モリブデン酸アンモニウムと水を混合する際、モリブデン酸アンモニウムを0℃〜60℃、好ましくは20℃〜60℃の水と混合すると高性能な触媒が得られる。なお、モリブデン酸アンモニウムを0℃〜60℃の条件下にて水と混合しても良いし、いったんモリブデン酸アンモニウムと水との混合物を調製してから混合物の温度を0℃〜60℃に調整しても良い。混合する水の温度が60℃を超えるとモリブデン酸アンモニウムの混合物から錯体を形成するアンモニアが脱離しやすくなり、触媒性能が低下する場合がある。逆に温度が低すぎても、モリブデン酸アンモニウムの溶解度が下がり、触媒性能が低下する場合がある。また、モリブデン酸アンモニウムの溶解に時間を要するため触媒の製造効率が低下し、好ましくない。なお、このモリブデン酸アンモニウムと水の混合物に、鉄成分原料及び/またはコバルト成分原料及び/またはニッケル成分原料を所望の比率で10℃〜80℃の条件下にて水に混合させたもの、および/またはZ成分原料を混合し、20℃〜90℃の条件下にて1時間程度加熱撹拌した後、ビスマス成分原料を混合した混合物と、必要に応じX成分原料、Y成分原料とを添加して触媒成分を含有する混合物を得る。X成分、Y成分を添加する場合、原料としては酸化物あるいは強熱することにより酸化物になり得る硝酸塩、炭酸塩、有機酸塩、水酸化物等又はそれらの混合物を用いることが好ましい。以降、これら混合物を、調合液(A)と称する。ここで、調合液(A)は必ずしもすべての触媒構成元素を含有する必要はなく、その一部の元素または一部の量を調合より後の工程で添加してもよい。また、調合液(A)を調合する際に各成分原料を混合する水の量や、混合のために硫酸や硝酸、塩酸、酒石酸、酢酸などの酸を加える場合には、原料が溶解するのに十分な混合物中の酸濃度が例えば5重量%〜99重量%の範囲の中で適していないと調合液(A)の形態が粘土状の塊となる場合があり、これは優れた触媒にはならない。調合液(A)の形態としては混合物が優れた触媒として好ましい。
【0012】
工程b)乾燥
次いで上記で得られた調合液(A)を乾燥し、乾燥粉体とする。乾燥方法は、調合液(A)を完全に乾燥できる方法であれば特に制限はないが、例えばドラム乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥、蒸発乾固等が挙げられる。これらのうち本発明においては、混合物から短時間に粉体又は顆粒に乾燥することができる噴霧乾燥が特に好ましい。噴霧乾燥の乾燥温度は混合物の濃度、送液速度等によって異なるが概ね乾燥機の出口における温度が70℃〜150℃である。また、この際得られる乾燥紛体の平均粒径が10μm〜700μmとなるよう乾燥するのが好ましい。こうして乾燥粉体(B)を得る。
【0013】
工程c)予備焼成
得られた乾燥紛体(B)は空気流通下で200℃〜600℃で、好ましくは300℃〜600℃で焼成することで触媒の成型性、機械的強度、触媒性能が向上する傾向がある。焼成時間は1時間〜12時間が好ましい。こうして予備焼成紛体(C)を得る。
【0014】
工程d)成型
成型方法に特に制限はないが円柱状、リング状に成型する際には打錠成型機、押し出し成型機などを用いた方法が好ましい。さらに好ましくは、球状に成型する場合であり、成型機で予備焼成紛体(C)を球形に成型しても良いが、予備焼成紛体(C)(必要により成型助剤、強度向上剤を含む)を不活性なセラミック等の担体に担持させる方法が好ましい。ここで担持方法としては転動造粒法、遠心流動コーティング装置を用いる方法、ウォッシュコート方法等が広く知られており、予備焼成紛体(C)を担体に均一に担持できる方法で有れば特に限定されないが、触媒の製造効率や調製される触媒の性能を考慮した場合、より好ましくは固定円筒容器の底部に、平らな、あるいは凹凸のある円盤を有する装置で、円盤を高速で回転させることにより、容器内にチャージされた担体を、担体自体の自転運動と公転運動の繰り返しにより激しく撹拌させ、ここに予備焼成紛体(C)並びに必要により、成型助剤及び/または強度向上剤を添加することにより粉体成分を担体に担持させる方法が好ましい。尚、担持に際して、バインダーを使用するのが好ましい。用いうるバインダーの具体例としては、水やエタノール、メタノール、プロパノール、多価アルコール、高分子系バインダーのポリビニルアルコール、無機系バインダーのシリカゾル水溶液等が挙げられるが、エタノール、メタノール、プロパノール、多価アルコールが好ましく、エチレングリコール等のジオールやグリセリン等のトリオール等がより好ましい。グリセリン水溶液を適量使用することにより成型性が良好となり、機械的強度の高い、高性能な触媒が得られ、具体的にはグリセリンの濃度5重量%以上の水溶液を使用した場合に特に高性能な触媒が得られる傾向がある。これらバインダーの使用量は、予備焼成紛体(C)100重量部に対して通常2〜80重量部である。不活性担体は、通常2〜8mm程度のものを使用し、これに予備焼成紛体(C)を担持させるが、その担持量は触媒使用条件、たとえば反応原料の空間速度、原料濃度などの反応条件を考慮して決定されるものであるが、通常20重量%〜80重量%である。ここで担持率は以下の式(3)で表記される。
式(3)担持率(重量%)=100×成型に使用した予備焼成紛体(C)の重量/(成型に使用した予備焼成紛体(C)の重量+成型に使用した不活性担体の重量)
こうして成型体(D)を得る。
【0015】
工程e)焼成
成型体(D)は200℃〜600℃の温度で1〜12時間程度焼成することで触媒活性、選択性が向上する傾向にある。焼成温度は400℃以上600℃以下が好ましく、500℃以上600℃以下がより好ましい。原子比率が異なる触媒の最適な焼成温度は異なるため、触媒の原子比率を変更した場合には、その原子比率において最適な温度で焼成すると優れた性能の触媒が得られる傾向がある。流通させるガスとしては空気が簡便で好ましいが、その他に不活性ガスとして窒素、二酸化炭素、窒素酸化物含有ガス、アンモニア含有ガス、水素ガスおよびそれらの混合物を使用することも可能である。こうして触媒(E)を得る。触媒(E)の機械的強度は、触媒組成の原子比率によっても大きく影響され、すなわち原子比率を調節することにより生成される化合物の種類や同じ化合物でも結晶構造の相形態が異なることに影響を受ける。また調合工程や乾燥工程で生成される複合金属酸化物粒子の直径や粒子の幾何学的構造、その凝集形態が変化するため、複合金属酸化物中の化合物結晶の強度のようなミクロな物性や例えば予備焼成紛体の粒度分布のようなマクロな物性の変化によっても影響を受ける。各工程の調製方法だけでなく原子比率の影響も含めて総括された物性が最終的に調製される触媒の機械的強度を決定する。
【0016】
この方法によって得られる複合金属酸化物を触媒として使用するアルケンの接触気相酸化反応は、原料ガス組成として1容量%〜10容量%のアルケン、5容量%〜18容量%の分子状酸素、0容量%〜60容量%の水蒸気及び20容量%〜70容量%の不活性ガス、例えば窒素、炭酸ガスなどからなる混合ガスを前記のようにして調製された触媒上に250℃〜450℃の温度範囲及び常圧〜10気圧の圧力下、アルケンの供給負荷を60hr
−1〜200hr
−1の空間速度で導入することによって遂行されるが、本発明をより効果的に発揮するには100hr
−1〜200hr
−1の空間速度とするのが好ましく、さらには120hr
−1〜200hr
−1の空間速度で実行するのがより好ましい。ここで、アルケン空間速度(SV
0)とは原料負荷を意味し、例えばアルケン空間速度(SV
0)100hr
−1で導入するとは、1時間あたり単位触媒体積の100倍(標準状態換算)のアルケンを供給し気相接触酸化反応を実行することである。本発明において、アルケンとは、その分子内脱水反応においてアルケンを生じるアルコール類、例えばターシャリーブタノールも含めたものとする。
【実施例】
【0017】
以下、具体例を挙げて実施例を示したが、本発明はその趣旨を逸脱しない限り実施例に限定されるものではない。
【0018】
実施例1
触媒1
濁度が6NTUであるヘプタモリブデン酸アンモニウム1000gを50℃に加温した純水3800gに混合させた。次に、硝酸カリウム4.5gを純水51.2gに混合させて、上記溶液に加えた。次に、硝酸第二鉄333.7g、硝酸コバルト714.3g及び硝酸ニッケル384.3gを60℃に加温した純水759.1mlに溶解させた。これらの溶液を、撹拌しながら徐々に混合した。続いて純水323.1mlに硝酸(60重量%)97.4gを加えて硝酸ビスマス382.4gを加え完全溶解させた溶液を上記溶液に加え、撹拌混合した。得られた混合物をスプレードライ法にて乾燥し、得られた乾燥紛体を最高温度440℃で6時間予備焼成した。予備焼成紛体に対して5重量%分の結晶性セルロースを添加し、十分混合した後、転動造粒法にてバインダーとして33重量%グリセリン溶液を用い、シリカ、アルミナを主成分とした直径4.5mmの不活性な球状担体に、担持量が50重量%となるように球状に担持成型した。次に510℃で4時間焼成を行って、本発明の平均粒径5.2mmの球状触媒1を得た。仕込み原料から計算される触媒は、次の原子比率を有する複合金属酸化物であった。
Mo:Bi:Fe:Co:Ni:K=12:1.7:1.8:5.2:2.8:0.1
【0019】
比較例1
触媒2
触媒1におけるヘプタモリブデン酸アンモニウムと水の混合物の濁度が47NTUのものを使ったことで比較用の触媒2を得た。
【0020】
比較例2
触媒3
触媒1におけるヘプタモリブデン酸アンモニウムと水の混合物の濁度が105NTUのものを使ったことで比較用の触媒3を得た。
【0021】
実施例2
熱媒体としてアルミナ粉末を空気により流動させるためのジャケットにおいて、内径22.2mmのステンレス製反応器に触媒1を68ml充填し、反応浴温度を327℃にした。ここに原料モル比がプロピレン:酸素:窒素:水=1:1.7:6.4:3.0となるようにプロピレン、空気、水の供給量を設定したガスを空間速度862h
−1で酸化反応器内へ導入を実施し、アクロレイン収率、アクリル酸収率を求めた結果を表1に示す。
【0022】
比較例3
実施例2において触媒2へ変更した以外は同様にプロピレンの酸化反応を実施し、アクロレイン収率、アクリル酸収率を求めた結果を表1に示す。
【0023】
比較例4
実施例2において触媒3へ変更した以外は同様にプロピレンの酸化反応を実施し、アクロレイン収率、アクリル酸収率を求めた結果を表1に示す。
【0024】
【表1】
【0025】
このように、本発明の技術を用いることによって不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸を製造する方法において、不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸を高収率で製造することが可能となる。