(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
我が国では、古来、城壁や石垣等において、空積みや練積みなどの伝統的石積工法を用いて、自然石独特の造形美を有する擁壁が作られていた。しかし、現在では、自然石の不足等により、擁壁には製造および施工が容易な間知ブロックなどのコンクリートブロックが代用されている。
そして、該ブロックには、コンクリートと自然石を一体化してなるブロック(特許文献1〜3)や、2個のブロックを一体的に成型した後に、2つに割って自然石風の割肌を人工的に創りだしたスプリットンブロック(後掲の
図2参照)が知られている。また、コンクリートの優れた成形性を利用して、コンクリートブロックの表面に自然石を型取った不規則な突状部を成形するための表面型枠が提案されている(特許文献4)。
【0003】
しかし、前記自然石を一体化してなるコンクリートブロックは、自然石の割肌を表現できず、また、依然として自然石の不足が課題として残る。また、自然石を型取った不規則な突状部を有するコンクリートブロック表面は、自然石のテクスチャーとは異質なものである。また、前記スプリットンブロックはスランプがゼロのコンクリートを即時脱型方式で成形して製造するため、自然石と比べ強度が低く表面が脆く、ブロックの割面に存在する多くの空孔や露出した粗骨材により自然石の割面とはテクスチャーが異なるなど、未だ十分とはいえない。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、本発明について、スプリットンブロックとその製造方法に分けて説明する。
1.スプリットンブロック
本発明のスプリットンブロックは、圧縮強さが100N/mm
2以上であるセメントペースト硬化体またはセメントモルタル硬化体からなる円柱成形体を、直径方向に線載荷して割裂し、該割裂した面を露出してなる、スプリットンブロックである。
自然石の圧縮強さは、例えば、花崗岩で280N/mm
2程度、石灰岩で160N/mm
2程度、砂岩で130N/mm
2程度、珪岩で250N/mm
2程度、大理石で120N/mm
2程度であるから、自然石のテクスチャーを実現するためには、セメントペースト硬化体またはセメントモルタル硬化体の圧縮強さは100N/mm
2以上が必要である。セメントペースト硬化体またはセメントモルタル硬化体の圧縮強さが100N/mm
2未満では、自然石材の割肌に類似し、自然石材のテクスチャーを有するスプリットンブロックを製造することは難しい。
【0010】
次に、セメントペースト硬化体およびセメントモルタル硬化体の構成材料とその配合を説明する。
(i)結合材
結合材として、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等のポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント等の混合セメント、ホワイトセメント、エコセメント、およびアルミナセメントからなる群より選ばれる1種以上を使用することができる。
また、前記セメントに、さらにブレーン比表面積が3000〜20000cm
2/gの石灰石粉末、石英粉末、および石膏からなる群より選ばれる1種以上を50質量%以下混合してなる混合物も、結合材として使用することができる。
また、前記各結合材に、さらにBET比表面積が5〜20m
2/gであるシリカフュームを25質量%以下混合してなる混合物も、結合材として使用することができる。
【0011】
(ii)細骨材
本発明で用いる細骨材は、川砂、山砂、陸砂、海砂、砕砂、硅砂、スラグ細骨材、および軽量細骨材等からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。また、細骨材は天然骨材のほか再生骨材を用いることができる。
細骨材の配合量は、結合材100質量部に対し150質量部以下が好ましく、120質量部以下がより好ましい。該配合量が150質量部を越えると、セメントモルタル硬化体の圧縮強さを100N/mm
2以上にすることが困難になる場合がある。
【0012】
(iii)水
本発明で用いる水は、スプリットンブロックの強度やセメントペーストおよびセメントモルタルの流動性等の物性に悪影響を与えないものであれば用いることができ、例えば、水道水、下水処理水、および生コンクリートの上澄水等からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
水の配合量は、結合材100質量部に対し、好ましくは10〜30質量部、より好ましくは11〜25質量部である。該配合量が10質量部未満では、セメントペーストまたはセメントモルタルの混練が困難になるうえ作業性も低下し、30質量部を越えると、セメントペースト硬化体やセメントモルタル硬化体の圧縮強さを100N/mm
2以上にすることが困難になる場合がある。
【0013】
(vi)減水剤
本発明で用いる減水剤は、高性能AE減水剤、高性能減水剤、およびAE減水剤等からなる群より選ばれる1種以上の減水剤が挙げられる。前記減水剤の種類(化合物)は、ポリカルボン酸、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、リグニンスルホン酸、およびこれらの塩からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
減水剤の配合量は、結合材100質量部に対し、好ましくは0.5〜2.0質量部、より好ましくは0.7〜1.7質量部である。該配合量が0.5質量部未満では、セメントペーストおよびセメントモルタルの混練が困難になり作業性も低下し、2.0質量部を越えると、セメントペースト硬化体およびセメントモルタル硬化体の圧縮強さを100N/mm
2以上にすることが困難になる場合がある。なお、前記減水剤の配合量は減水剤の製品の質量である。
【0014】
なお、本発明においては、前記材料以外に、本発明の目的を阻害しない範囲で、空気量調整剤、収縮低減剤、膨張材等を使用することは差し支えない。
【0015】
2.スプリットンブロックの製造方法
本発明のスプリットンブロックの製造方法は、(i)セメントペーストまたはセメントモルタルの混練工程、(ii)セメントペーストまたはセメントモルタルの成形工程、および(iii)成形体の割裂工程を含む。また、脱型時期を早めるために必要ならば、任意の工程として(iv)蒸気養生工程を(iii)の工程の前に設けてもよい。
【0016】
(i)セメントペーストまたはセメントモルタルの混練工程
セメントペーストまたはセメントモルタルの混練方法は、特に限定されず、例えば、混練装置に、
(a)細骨材と水と減水剤を投入して混練した後、結合材を投入して再度混練する、
(b)結合材と水と減水剤を投入して混練した後、細骨材を投入して再度混練する、
(c)細骨材と結合材を投入して空練りした後、水と減水剤を投入して混練する、
(d)結合材と細骨材と水と減水剤を投入し、一括して混練する
(e)結合材と水と減水剤を投入し、一括して混練する
等の方法が挙げられる。また、減水剤は、製造効率の観点から、好ましくは水(混練水)に溶かして用いる。
また、前記混練装置は特に限定されず、強制練りミキサ、重力式ミキサ等が使用できる。
前記混練時間は、セメントペーストまたはセメントモルタルの製造効率や作業性等の観点から、好ましくは2〜20分、より好ましくは2〜18分である。
【0017】
(ii)セメントペーストまたはセメントモルタルの成形工程
該工程は、前記工程で混練したセメントペーストまたはセメントモルタルを円柱型枠に打設した後、養生を行って脱型し、円柱成形体を成形する工程である。該養生は、封緘養生、湿空養生、水中養生、蒸気養生、オートクレーブ養生等が挙げられる。これらの中で、脱型時期を早めるには、蒸気養生またはオートクレーブ養生が好ましい。
なお、円柱成形体以外の形状の成形体では、該成形体を割裂しても、自然石材の割肌に類似し、自然石材のテクスチャーを有するスプリットンブロックを製造することが困難である。
【0018】
(iii)成形体の割裂工程
該工程は、
図3に示すように、前記円柱成形体を、直径方向に線載荷して割裂する工程である。この方法で割裂すると、自然石材の割肌に類似し、自然石材のテクスチャーを有するスプリットンブロックを製造することができる。
なお、本発明において、載荷速度は、好ましくは毎秒0.5〜5.0N/mm
2、より好ましくは毎秒1.0〜5.0N/mm
2、さらに好ましくは毎秒2.0〜5.0N/mm
2である。なお、割裂装置の一例を後掲の
図3に示す。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
1.使用材料
使用した材料を表1に示す。
【0020】
【表1】
【0021】
2.スプリットンブロックの製造
以下の、(1)〜(4)の手順でスプリットンブロックを製造した。
(1)表1に示す材料を用いて、表2に示す配合のセメントモルタルおよびコンクリートを混練した。具体的には、
実施例1の混練方法は、結合材と細骨材を30秒間空練りした後、減水剤を溶かした混練水を添加して120秒間混練し、ミキサ内壁に付着したセメントモルタルを30秒かけて掻き落とした後、さらに90秒間混練して5分間静置し、最後に30秒間混練して、セメントモルタルを排出した。また、
実施例2の混練方法は、結合材と細骨材を30秒間空練りした後、減水剤を溶かした混練水を添加して420秒間混練し、ミキサ内壁に付着したセメントモルタルを60秒かけて掻き落とした後、さらに180秒間混練して5分間静置し、最後に30秒間混練して、セメントモルタルを排出した。また、
比較例1と比較例2の混練方法は、いずれも、結合材、細骨材、および粗骨材を30秒間空練りした後、減水剤を溶かした混練水を添加して60秒間混練し、ミキサ内壁に付着したコンクリートを30秒かけて掻き落とした後、さらに60秒間混練して、コンクリートを排出した。
なお、前記混練は50リットルの二軸強制練りミキサを用いて行なった。
【0022】
(2)前記排出したセメントモルタルおよびコンクリートは、内径が10cm、高さが20cmと、内径が15cm、高さが30cmの2種類の型枠内に打設した。
(3)前記打設したセメントモルタルとコンクリートは蒸気養生を行った。具体的には、
実施例1、比較例1、および比較例2の蒸気養生は、前養生を20℃で2時間行った後、20℃/hの昇温速度で65℃まで加熱し、65℃を3時間保持した後、8時間かけて20℃まで降温して脱型し、さらに20℃で材齢14日まで気中養生した。また、実施例2の蒸気養生は、前養生を20℃で2時間行った後、20℃/hの昇温速度で80℃まで加熱し、80℃を24時間保持した後、10時間かけて20℃まで降温して脱型し、さらに20℃で材齢14日まで気中養生した。
(4)前記養生を終えた円柱成形体は、
図3に示すように割裂装置に載置し、載荷速度が毎秒2N/mm
2で割裂して、スプリットンブロックを製造した。
なお、前記材齢14日における円柱成形体の圧縮強さ試験をJIS A 1108に準拠して行ったところ、圧縮強さは実施例1で110N/mm
2、実施例2で215N/mm
2、比較例1で33.1N/mm
2、比較例2で28.6N/mm
2であった。
また、参考例として、実施例2のセメントモルタルを用いて実施例2と同じ蒸気養生を行い、縦10cm、横10cm、長さ40cmの角柱成形体を作製した。次に、
図3に示す割裂装置の上側の加圧部材の下面と下側の加圧部材の上面に、実際のスプリットンブロックの製造において用いられているスプリッターに類似した治具を取り付けて、前記角柱成形体の長方形の面を前記と同じ載荷速度で割裂し、スプリットンブロックを製造した。
【0023】
【表2】
【0024】
実施例1および実施例2のスプリットンブロックは、自然石材の割肌に類似し、自然石材のテクスチャーを有するものであった。ちなみに、
図1に実施例2のスプリットンブロックを示す。
一方、比較例1および比較例2のスプリットンブロックは、該ブロックの割面に存在する多くの空孔や露出した粗骨材により自然石の割肌とはテクスチャーが異なるものであった。
また、参考例のスプリットンブロックの割裂面は平坦となり、自然石材の割肌に類似せず自然石材のテクスチャーとは異なっていた。