(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6238364
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 169/04 20060101AFI20171120BHJP
C10M 105/38 20060101ALN20171120BHJP
C10M 133/12 20060101ALN20171120BHJP
C10M 137/02 20060101ALN20171120BHJP
C10M 139/00 20060101ALN20171120BHJP
C10M 155/02 20060101ALN20171120BHJP
C10M 125/26 20060101ALN20171120BHJP
C10N 10/02 20060101ALN20171120BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20171120BHJP
C10N 20/02 20060101ALN20171120BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20171120BHJP
C10N 30/08 20060101ALN20171120BHJP
C10N 40/00 20060101ALN20171120BHJP
C10N 40/32 20060101ALN20171120BHJP
【FI】
C10M169/04
!C10M105/38
!C10M133/12
!C10M137/02
!C10M139/00 A
!C10M155/02
!C10M125/26
C10N10:02
C10N10:04
C10N20:02
C10N30:00 Z
C10N30:08
C10N40:00 Z
C10N40:32
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-240077(P2014-240077)
(22)【出願日】2014年11月27日
(65)【公開番号】特開2016-102143(P2016-102143A)
(43)【公開日】2016年6月2日
【審査請求日】2016年11月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】591213173
【氏名又は名称】住鉱潤滑剤株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100096677
【弁理士】
【氏名又は名称】伊賀 誠司
(72)【発明者】
【氏名】山本 真也
【審査官】
吉田 邦久
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−184604(JP,A)
【文献】
特開2013−112786(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 169/04
C10M 105/38
C10M 125/26
C10M 133/12
C10M 137/02
C10M 139/00
C10M 155/02
C10N 10/02
C10N 10/04
C10N 20/02
C10N 30/00
C10N 30/08
C10N 40/00
C10N 40/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオールエステルを基油とする潤滑油組成物であって、
アルキル化ジフェニルアミンとアルキル化フェニルナフチルアミンの2種を含む芳香族アミン系酸化防止剤と、
ホスファイト系酸化防止剤と、
ホウ素含有極圧剤と、
ジアルキルポリシロキサンと、を含み、
前記ポリオールエステルの含有量が75〜95質量%であり、
前記芳香族アミン系酸化防止剤の含有量が前記アルキル化ジフェニルアミン及び前記アルキル化フェニルナフチルアミン共に0.5〜10質量%であり、
前記ホスファイト系酸化防止剤の含有量が0.5〜5質量%であり、
前記ホウ素含有極圧剤の含有量が0.1〜5質量%であり、
前記ジアルキルポリシロキサンの含有量が1〜50ppmであり、25℃における動粘度が1000mm2/sより多く30000mm2/s以下であることを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項2】
前記ジアルキルポリシロキサンとして、ジメチルポリシロキサン又はジエチルポリシロキサンの少なくとも何れか一方を配合することを特徴とする請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記ポリオールエステルの基油は、酸成分がイソノナン酸を主成分とする炭素数5〜12のカルボン酸の混合物であり、アルコール成分がジペンタエリスリトールを含むネオペンチルポリオールであることを特徴とする請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記芳香族アミン系酸化防止剤は、アルキル化ジフェニルアミン:アルキル化フェニルナフチルアミンの配合比率が1:1〜5:1であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
前記ホスファイト系酸化防止剤がアルキルフェニルトリホスファイトであることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
前記ホウ素含有極圧剤がホウ酸含有アミン、四ホウ酸カリウム、アルカリ金属のホウ酸塩、アルカリ土類金属のホウ酸塩、遷移金属の安定ホウ酸塩、ホウ酸からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引火点が高く熱安定性に優れ、より高温環境下での使用に好適な高温用の潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオールエステルを基油とする潤滑油は、固化によりその流動性が失われるまでに比較的長時間を要し、蒸発損失も低いので、熱安定性に優れている。このため、この種の潤滑油は、連続式スチーマー、焼成オーブン、ヒートセッターテンター、各種乾燥機の開放系チェーンにおいて200℃前後の高温で使用される潤滑油として各種商品化がなされている。例えば、特許文献1には、ポリオールエステル系合成油を基油とし、脂肪酸及び/又はアリールアルキル基を有するジフェニルアミン誘導体を含有する潤滑油組成物が記載されている。
【0003】
しかし、使用条件の過酷化は、より進行しており、上述のポリオールエステルを基油とする潤滑油等であっても、引火性の面で問題が提起されるようになってきた。例えば、ガラス繊維の搬送チェーンでは、雰囲気温度が270℃を超える環境でチェーン潤滑が行われているが、潤滑油の引火による火災の発生が問題視されている。そのため、装置を一旦冷却した状態で給油し、再度運転を開始する等の対策の必要から、作業効率の低下によるコスト面への影響が大きくなっている。
【0004】
さらに、上記のような高温の環境下では、蒸発損失により油切れが起こり易いため、給油頻度が高くなる上に、潤滑性の面からも油切れによってチェーンのきしみ音が生じると共に摩耗が進行し、装置寿命にも影響が現れている。このような問題に対して種々の酸化防止剤が検討され、例えば、特許文献2には、基油である芳香族カルボン酸エステルに、アミン系酸化防止剤と固体潤滑剤を添加することにより、熱安定性を高めた潤滑剤組成物が提案されている。
【0005】
また、特許文献3には、耐酸化性と耐摩耗性に優れる耐熱性潤滑油組成物として、ジペンタエリスリトールエステルを主成分とする基油に、酸化防止剤としてジフェニルアミン類及びフェニル−α−ナフチルアミン類、中性金属スルフォネート、リン系酸化防止剤、粘度指数向上剤としてポリメタクリレートを配合した潤滑油組成物が提案されている。しかし、この潤滑油組成物は、引火点が低く、高温下での蒸発損失が大きいため、短時間で急速に蒸発し、引火に至るという問題が提起されている。
【0006】
さらに、特許文献4には、高温下での蒸発損失が少なく、固化時間が長く、熱安定性に優れた潤滑油組成物として、ポリオールエステルと芳香族エステルを基油とし、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤を含有する潤滑油組成物が提案されている。しかしながら、この潤滑油組成物も、特に270℃を超える高温下の開放系チェーンで用いるためには、引火点並びに高温安定性等の点で十分とは言えない状況であった。
【0007】
また、特許文献5では、このような事態を鑑みて固化(酸化重合)及びスラッジ化し難く、かつ蒸発損失が低く、引火点の高い潤滑油組成物として、ポリオールエステルを基油とし、酸化防止剤としてアルキル化ジフェニルアミンとアルキル化フェニルナフチルアミンの2種を含み、ホスファイト系酸化防止剤、ホウ素含有極圧剤を含有する潤滑油組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−314650号公報
【特許文献2】特開2000−129279号公報
【特許文献3】特開平10−81890号公報
【特許文献4】特開2009−263462号公報
【特許文献5】特開2011−184604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、高温用の潤滑油組成物の熱安定性が高まるに伴って、各種機械装置の開放系チェーン部をより高温な環境下で使用するニーズも高まる。すなわち、高温用の潤滑油組成物として、300℃以上の高温環境下での使用が可能になるようにするために、潤滑油組成物の耐熱範囲を高温領域に拡大させて、耐熱性を更に向上させる必要がある。
【0010】
特許文献5の潤滑油組成物は、蒸発損失が少ないうえ、各種機械装置の開放系チェーン部での150〜290℃の高温環境下、特に270℃を超える高温環境下において固化(酸化重合)及びスラッジ化し難く、熱安定性を確保している。しかしながら、潤滑剤組成物を高温環境下で使用するに際しては、より高温領域に耐熱範囲を拡大して耐熱性を更に向上させ、かつ耐蒸発性を向上させて固化時間を延長させることが望まれる。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、高温環境下において固化(酸化重合)及びスラッジ化し難くした上で、より高温領域への耐熱範囲の拡大の可能な、新規かつ改良された潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様は、ポリオールエステルを基油とする潤滑油組成物であって、アルキル化ジフェニルアミンとアルキル化フェニルナフチルアミンの2種を含む芳香族アミン系酸化防止剤と、ホスファイト系酸化防止剤と、ホウ素含有極圧剤と、ジアルキルポリシロキサンと、を含み、前記ポリオールエステルの含有量が75〜95質量%であり、前記芳香族アミン系酸化防止剤の含有量が前記アルキル化ジフェニルアミン及び前記アルキル化フェニルナフチルアミン共に0.5〜10質量%であり、前記ホスファイト系酸化防止剤の含有量が0.5〜5質量%であり、前記ホウ素含有極圧剤の含有量が0.1〜5質量%であり、前記ジアルキルポリシロキサンの含有量が
1〜50ppmであ
り、25℃における動粘度が1000mm2/sより多く30000mm2/s以下であることを特徴とする。
【0013】
本発明の一態様によれば、ジアルキルポリシロキサンを含有させることによって、引火点が更に上昇するので、高温環境下において固化(酸化重合)及びスラッジ化し難くした上で、潤滑剤組成物の耐熱性、熱安定性を更に向上させられる。
【0015】
このようにすれば、潤滑剤組成物の耐蒸発性が向上するので、固化時間を長くすることができる。
【0016】
また、本発明の一態様では、前記ジアルキルポリシロキサンとして、ジメチルポリシロキサン又はジエチルポリシロキサンの少なくとも何れか一方を配合することとしてもよい。
【0017】
このようにすれば、高温環境下において固化(酸化重合)及びスラッジ化し難くした上で、潤滑剤組成物の耐熱性、熱安定性を更に向上させられる。
【0018】
また、本発明の一態様では、前記ポリオールエステルの基油は、酸成分がイソノナン酸を主成分とする炭素数5〜12のカルボン酸の混合物であり、アルコール成分がジペンタエリスリトールを含むネオペンチルポリオールであることとしてもよい。
【0019】
このようにすれば、固化し難く、蒸発損失が少なく、高温安定性に優れ、かつ、引火点が高い潤滑剤組成物とすることができる。
【0020】
また、本発明の一態様では、前記芳香族アミン系酸化防止剤は、アルキル化ジフェニルアミン:アルキル化フェニルナフチルアミンの配合比率が1:1〜5:1であることとしてもよい。
【0021】
このようにすれば、高温環境下で使用される潤滑剤組成物として必要な耐蒸発性を確保することができる。
【0022】
また、本発明の一態様では、前記ホスファイト系酸化防止剤がアルキルフェニルトリホスファイトであることとしてもよい。
【0023】
このようにすれば、固化時間をより長時間確保した上で、スラッジ量を低減することができる。
【0024】
また、本発明の一態様では、前記ホウ素含有極圧剤が、ホウ酸含有アミン、四ホウ酸カリウム、アルカリ金属のホウ酸塩、アルカリ土類金属のホウ酸塩、遷移金属の安定ホウ酸塩、ホウ酸からなる群から選択される少なくとも1種であることとしてもよい。
【0025】
このようにすれば、固化時間をより長時間確保した上で、スラッジ量を低減することができる。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように本発明によれば、高温環境下において固化時間を長くして固化(酸化重合)及びスラッジ化し難くした上で、引火点を上昇させてより高温領域に耐熱範囲を拡大して、熱安定性を確保できる。このため、連続式スチーマー、焼成オーブン、ヒートセッターテンター、各種乾燥機等の開放系チェーン部、特に300℃を超えるような高温環境下でも当該チェーン部の潤滑に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0028】
本発明者は、前述した本発明の目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、従来のポリオールエステルの基油成分と、芳香族アミン系酸化防止剤2種類、リン系酸化防止剤、ホウ素含有極圧/耐摩耗剤に、シリコンオイルとしてジアルキルポリシロキサンを配合することにより、低残渣性と高引火点を維持しつつ、更なる耐蒸発性を向上させて固化時間を延長できることを見出し、かかる知見に基づき更に研究を行った結果、本発明を完成するに至った。
【0029】
すなわち、本発明が提供する高温用潤滑油組成物は、ポリオールエステルを基油とする潤滑油組成物であって、アルキル化ジフェニルアミンとアルキル化フェニルナフチルアミンの2種を含む芳香族アミン系酸化防止剤と、ホスファイト系酸化防止剤と、ホウ素含有極圧剤と、ジアルキルポリシロキサンと、を含むことを特徴とする。そして、ポリオールエステルの含有量が75〜95質量%であり、芳香族アミン系酸化防止剤の含有量がアルキル化ジフェニルアミン及びアルキル化フェニルナフチルアミン共に0.5〜10質量%であり、ホスファイト系酸化防止剤の含有量が0.5〜5質量%であり、ホウ素含有極圧剤の含有量が0.1〜5質量%であり、ジアルキルポリシロキサンの含有量が1〜100ppmであることを特徴とする。
【0030】
本発明の一実施形態に係る潤滑油組成物において基油として使用されるポリオールエステルは、固化し難く、蒸発損失が少なく、高温安定性に優れ、引火点が高い等の特性を有することを特徴とする。ポリオールエステルは、基油として公知のものを用いることができ、特にアルコール成分がネオペンチルポリオール、例えば、ジペンタエリスリトール(水酸基数6)を含むネオペンチルポリオールが好ましい。
【0031】
また、ポリオールエステルの酸成分は、炭素数5〜12のカルボン酸の混合物が好ましく、例えば、炭素数9のイソノナン酸(3,5,5−トリメチルヘキサン酸)を主成分とし、ヘプタン酸、オクタン酸、デカン酸から選ばれる少なくとも1種の酸をさらに含む混合物が好ましい。特にイソノナン酸は、耐熱性に優れるため、本実施形態の潤滑油組成物の基油として使用されるポリオールエステルの主成分として好適である。
【0032】
基油に求められる粘度グレードは、ISOグレードのVG220又はVG320が多く、要求される粘度グレードを満たすためには、アルコール成分がネオペンチルポリオールであり、酸成分が炭素数5〜12の直鎖状又は分岐鎖状の飽和脂肪酸であるポリオールエステルが好ましく、イソステアリン酸やオレイン酸等の長鎖脂肪酸を組み合わせることもできる。このようなポリオールエステルは、市販されており、引火点が高いものを使用するが、酸成分のアルキル基が長くなると加熱によるスラッジ量が多く、ワニス状となり、チェーン清掃の煩雑さを生み出す傾向にあるので、好ましくない。
【0033】
基油であるポリオールエステルの含有量は、潤滑油組成物の全重量基準で75〜95質量%の範囲とする。その理由は、ポリオールエステルの含有量が75質量%より少ないと、相対的に酸化防止剤成分が多くなるため、逆にスラッジの発生要因となり、またポリオールエステルの引火点を低下させる要因となるからである。また、95質量%より多くなると、相対的に酸化防止剤の成分が少なくなるため、耐蒸発性が低下することになるからである。
【0034】
本発明の一実施形態に係る潤滑油組成物では、芳香族アミン系酸化防止剤としては、アルキル化ジフェニルアミンとアルキル化フェニルナフチルアミンとを同時に配合することが必要である。上記2種類の芳香族アミン系酸化防止剤を同時に組み合わせて使用することによって、潤滑油組成物の耐蒸発性が著しく改善される等の相乗的な効果が得られるからである。
【0035】
本実施形態では、アルキル化ジフェニルアミンの具体的としては、ジフェニルアミン、p,p´−ジブチルジフェニルアミン、p,p´−ジペンチルジフェニルアミン、p,p´−ジヘキシルジフェニルアミン、p,p´−ジヘプシルジフェニルアミン、p,p´−ジオクチルジフェニルアミン、p,p´−ジノニルジフェニルアミンのほか、炭素数4〜9の混合アルキルジフェニルアミン等も挙げることができ、その中でもp,p´−ジノニルジフェニルアミンが特に好ましい。
【0036】
また、本実施形態では、アルキル化フェニルナフチルアミンの具体的としては、N−フェニル−α−ナフチルアミン、N−ブチルフェニル−α−ナフチルアミン、N−ペンチルフェニル−α−ナフチルアミン、N−ヘキシルフェニル−α−ナフチルアミン、N−ヘプチルフェニル−α−ナフチルアミン、N−オクチルフェニル−α−ナフチルアミン、N−ノニルフェニル−α−ナフチルアミン、N−ドデシルフェニル−α−ナフチルアミン等が挙げることができ、その中でもN−ドデシルフェニル−α−ナフチルアミンが特に好ましい。
【0037】
さらに、本実施形態では、アミン系酸化防止剤は、アルキル化ジフェニルアミンとアルキル化フェニルナフチルアミンの含有量は、組成油組成物の全量基準で共に0.5〜10質量%の範囲とする。アルキル化ジフェニルアミン又はアルキル化フェニルナフチルアミンの含有量が0.5質量%未満では、固化時間が短くなり、10質量%を超えると、固化時間は変わらないが、スラッジ量が多くなり、かつ耐蒸発性が低下するため好ましくない。
【0038】
また、本実施形態では、アルキルフェニルナフチルアミンとアルキル化フェニルナフチルアミンの配合比率は、アルキル化ジフェニルアミン:アルキル化フェニルナフチルアミンの重量比で1:1〜5:1が好ましく、1:1〜4:1がさらに好ましい。尚、上記2種類のアミン系酸化防止剤の最も好ましい組み合わせと配合比率は、p,p´−ジノニルジフェニルアミンとN−ドデシルフェニル−α−ナフチルアミンとを用い、前者:後者を重量比2:1〜3:1の割合で混合したものである。
【0039】
このような配合比率が好ましい理由は、アルキル化ジフェニルアミンとアルキル化フェニルナフチルアミンの配合比率が1:1よりも小さいと、アルキル化ジフェニルアミンが相対的に多くなる(アルキル化フェニルナフチルアミンが少なくなる)ため、潤滑油組成物の耐蒸発性が低下するからである。また、当該配合比率が5:1よりも大きいと、逆にアルキル化ジフェニルアミンが少なくなる(アルキル化フェニルナフチルアミンが多くなる)ため、潤滑油組成物の耐蒸発性が低下するからである。
【0040】
本発明の一実施形態に係る潤滑油組成物に用いるホスファイト系酸化防止剤としては、アルキル化フェニルホスファイトであることが好ましい。具体的には、ホスファイト系酸化防止剤として、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、4,4´−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェニル−ジ−トリデシルホスファイト)、アルカノール(炭素数12〜16)−4,4´−イソプロピリデンジフェノール・トリフェニルホスファイト重縮合物、[ヘキサアルキル(炭素数8〜18)トリス(アルキル(炭素数8〜9)フェニル)]1,1,3−トリス(3−tert−ブチル−6−メチル−4−オキシフェニル)−3−メチルプロパントリホスファイト、[トリアルキル(炭素数8〜18)トリス(アルキル(炭素数8〜9)フェニル)]1,1,3−トリス(3−tert−ブチル−6−メチル−4−オキシフェニル)−3−メチルプロパントリホスファイト等が挙げられる。これらの中で、[ヘキサアルキル(炭素数8〜18)トリス(アルキル(炭素数8〜9)フェニル)]1,1,3−トリス(3−tert−ブチル−6−メチル−4−オキシフェニル)−3−メチルプロパントリホスファイトが特に好ましい。
【0041】
本実施形態では、ホスファイト系酸化防止剤の含有量は、潤滑油組成物の全量基準で0.5〜5質量%の範囲とし、好ましくは1〜4質量%の範囲とする。ホスファイト系酸化防止剤の含有量が0.5質量%よりも少なくなると固化時間が短くなり、逆に5質量%よりも多くなると、固化時間は変わらないが、スラッジ量が多くなり、かつ耐蒸発性も低下するため好ましくない。また、本実施形態では、固化時間の延長及びスラッジ量の低減を図るためには、ホスファイト系酸化防止剤として、アルキルフェニルモノホスファイトやアルキルフェニルジホスファイトよりもアルキルフェニルトリホスファイトが好ましい。
【0042】
本発明の一実施形態に係る潤滑油組成物に用いるホウ素含有極圧剤は、極めて優れた熱安定性と酸化安定性を具えると同時に、優れた摩耗低減効果を有するものである。ホウ素含有極圧剤の具体例としては、ホウ酸含有アミン、四ホウ酸カリウム、アルカリ金属のホウ酸塩、アルカリ土類金属のホウ酸塩、例えば、亜鉛、銅及びスズのような遷移金属の安定ホウ酸塩、及びホウ酸等があり、これから選択される少なくとも1種を好適に用いることができる。
【0043】
本実施形態では、ホウ酸含有極圧剤の含有量は、潤滑油組成物の全量基準で0.1〜5質量%とし、好ましくは0.5〜3質量%の範囲とする。ホウ酸含有極圧剤の含有量が0.1質量%よりも少なくなると、固化時間が短くなる。逆に5質量%よりも多くなると、固化時間は変わらないが、スラッジ量が多くなり、かつ耐蒸発性が低下してしまう。
【0044】
また、本実施形態では、潤滑油組成物にジアルキルポリシロキサンを含有させることを特徴とする。このようにジアルキルポリシロキサンを含有させることによって、潤滑剤組成物の引火点を更に上昇させて、高温環境下において固化(酸化重合)及びスラッジ化し難くした上で、潤滑剤組成物の耐熱性、熱安定性を更に向上させられる。すなわち、潤滑剤組成物の引火点を310〜320℃程度まで上昇させることによって、耐熱性を更に高温領域まで拡大することができるので、高温環境下における潤滑剤組成物の適用範囲が広がるようになる。
【0045】
本発明の一実施形態に係る潤滑油組成物に用いるジアルキルポリシロキサンとしては、25℃における動粘度が100mm
2/sより多く30000mm
2/s以下のものであり、特に、1000mm
2/sが好ましい。ジアルキルポリシロキサンの動粘度が100mm
2/s以下と低すぎると、潤滑剤組成物の耐蒸発性が低下し、逆に動粘度が30000mm
2/sより高すぎると、油中でジアルキルポリシロキサンの沈降が速くなることによって、潤滑剤組成物の耐蒸発性が低下するので好ましくない。すなわち、潤滑剤組成物の耐蒸発性を向上させて、固化時間を長くするためには、ジアルキルポリシロキサンの25℃における動粘度を100mm
2/sより多く、30000mm
2/s以下にする必要がある。
【0046】
また、本実施形態では、ジアルキルポリシロキサンとしては、アルキル基がメチルのジメチルポリシロキサンや、アルキル基がエチルのジエチルポリシロキサンが好ましく用いられ、特にジメチルポリシロキサンが好ましい。ジアルキルポリシロキサンとして、フェニルタイプやフッ素変性タイプでは、耐熱性、熱安定性の向上効果が十分に見られないため、アルキル基がメチルのジメチルポリシロキサンや、アルキル基がエチルのジエチルポリシロキサンが好ましい。そして、ジアルキルポリシロキサンは、その1種又は複数種のものを適宜に組み合わせて用いることができ、当該ジアルキルポリシロキサンを添加すると、潤滑剤組成物の耐蒸発性が向上して固化時間が長くなる。
【0047】
このように、本実施形態では、シリコンオイルとしてジアルキルポリシロキサンを添加することによって、潤滑油組成物の引火点を310〜320℃と更に上昇させる。このため、引火点が300℃以上と高く、蒸発損失が少ない上に、各種機械装置の開放系チェーン部での150〜320℃の高温環境下、特に310℃を超える高温環境下において固化(酸化重合)及びスラッジ化し難く、熱安定性に優れた高温用潤滑油組成物とすることができる。
【0048】
なお、本発明の一実施形態に係る潤滑油組成物の必須成分は、それぞれ潤滑油用として市販されているものを用いることができる。また、本発明の一実施形態に係る潤滑油組成物は、前述した必須成分の他に、公知の潤滑剤に通常使用されている腐食防止剤その他の各種添加剤を含有することができる。なお、本発明の一実施形態に係る潤滑油組成物の調整方法については、特に限定されるものではなく、所定の割合で配合した各成分を公知の攪拌機を用いて混合すればよい。
【実施例】
【0049】
次に、本発明の一実施形態に係る潤滑剤組成物の実施例について説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
下記に示すポリオールエステルの基油(A)、芳香族アミン系酸化防止剤(B)及び(C)、ホスファイト系酸化防止剤(D)、ホウ素含有極圧剤(E)、ジアルキルポリシロキサン(F)及び(G)、及びジメチルポリシロキサン(H)を使用して、試料1〜20の各潤滑油組成物を製造した。すなわち、上記A〜Hの各成分を下記表1に示す割合で配合し、攪拌機(HEIDON社製)により回転速度600rpmで20分間撹拌混合して、試料1〜20の潤滑油組成物を得た。なお、ジアルキルポリシロキサンは、ホモミキサー等を使用して潤滑油組成物に直接添加して溶解又は分散させることによって添加することができる。また、必要に応じて、ジアルキルポリシロキサンを溶解することができる溶剤によって、予め希釈溶液を作成し、潤滑油組成物に加えて希釈、分散させることもできる。
【0051】
<潤滑油組成物の必須成分>
A=ポリオールエステル基油:ユニスターH−609BR(商品名、日油社製、主成分:ジペンタエリスリトールとイソノナン酸(3,5,5−トリメチルヘキサン酸)のエステル
B=芳香族アミン系酸化防止剤(アルキル化ジフェニルアミン):NAUGALUBE438L(商品名)、ケムチュラ社製、主成分:ジノニル化ジフェニルアミン
C=芳香族アミン系酸化防止剤(アルキル化フェニルナフチルアミン):NAUGALUBE APAN(商品名、ケムチュラ社製、主成分:N−ドデシルフェニル-α-ナフチルアミン)
D=ホスファイト系酸化防止剤:アデカスタブ522A(商品名、アデカ社製)
E=ホウ素含有極圧剤:OLOA9750(商品名、シェブロン社製、主成分:ホウ酸カリウム)
F=ジアルキルポリシロキサン:KF96−1000cs(商品名、信越化学製、主成分:ジメチルポリシロキサン)
G=ジアルキルポリシロキサン:KF96−3万cs(商品名、信越化学製、主成分:ジメチルポリシロキサン)
H-=ジメチルポリシロキサン:KF96−100cs(商品名、信越化学社製、主成分:ジメチルポリシロキサン)
【0052】
【表1】
【0053】
特許文献5に記載の実施例による潤滑剤組成物の試料1〜9と、得られた本発明の一実施形態に係る実施例による潤滑油組成物の試料10〜13と、比較例の試料14〜20について、JIS K 2265−4に準拠する方法により引火点を測定すると共に、アルミ皿蒸発試験によって固化時間及びスラッジ量を測定し、得られた結果を下記の表2に示した。また、市販の潤滑油についても、従来例1〜2として上記と同様に評価し、その結果を下記の表2に併せて示した。
【0054】
なお、上記アルミ皿蒸発試験では、直径6cm×厚さ1cmのアルミニウム製板の中央部を凹状切削した皿に各試料油をそれぞれ0.2g採取して載せ、250℃のパネルヒーター上で連続して加熱し、8時間毎に固化したかを確認することにより、各試料油が加熱減量して流動しなくなる時間(固化時間)と残ったスラッジ量(試料の量に対する質量%)を求めた。
【0055】
【表2】
【0056】
上記の結果から、比較例の試料14〜20及び従来例1及び2と比較して、実施例による試料1〜13の各潤滑油組成物は、何れも高い引火点を有すると共に、蒸発損失が少なく、スラッジ化し難いという優れた特性を兼ね備えていることが分かる。すなわち、各実施例による試料1〜13の各潤滑油組成物は、何れも引火点が300℃以上であって、固化時間が80時間以上と長く、かつスラッジ量も10質量%未満と少なくなっていた。
【0057】
特に、本発明の一実施形態に係る実施例による潤滑油組成物の試料10〜13は、試料1〜9と比べて、何れも引火点が310〜320℃までに更に上昇し、固化時間が112〜120時間まで大幅に長くなり、かつ、スラッジ量が7%未満と少なくなっていた。このことから、潤滑剤組成物に所定量のジアルキルポリシロキサンを含ませることによって、引火点の上昇、固化時間の延長、及びスラッジ量の低減を図れることが分かる。
【0058】
また、本発明の一実施形態に係る実施例による潤滑油組成物の試料10〜13の試験結果を比較すると、試料11及び12では、引火点が320℃程度まで上昇し、固化時間が120時間程度まで延長され、かつ、スラッジ量が6%未満に低減されていた。このことから、添加するジアルキルポリシロキサンとして、動粘度が1000mm
2/sのジメチルポリシロキサンが特に好ましいことが分かる。
【0059】
さらに、ジアルキルポリシロキサンを50ppmと同じ濃度を含有させた試料11、試料13、試料20の試験結果を比較すると、試料20のみ引火点が300℃未満と低く、固化時間が60時間未満と短くなり、かつ、スラッジ量が7%以上と多くなっていた。このことから、潤滑剤組成物に含有させるジアルキルポリシロキサンの動粘度が100mm
2/s以下だと、潤滑剤組成物の引火点の上昇、固化時間の延長、及びスラッジ量の低減を十分に図れないことが分かる。すなわち、潤滑剤組成物の耐蒸発性を向上させて固化時間を長くした上で、引火点の上昇、及びスラッジ量の低減を図るためには、潤滑剤組成物に含有させるジアルキルポリシロキサンの動粘度を少なくとも100mm
2/sより多くする必要があることが分かる。
【0060】
なお、上記のように本発明の各実施形態及び各実施例について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には、容易に理解できるであろう。従って、このような変形例は、全て本発明の範囲に含まれるものとする。例えば、明細書において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。