特許第6238393号(P6238393)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6238393超音速インテークの作動安定化方法および作動安定化装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6238393
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】超音速インテークの作動安定化方法および作動安定化装置
(51)【国際特許分類】
   B64D 33/02 20060101AFI20171120BHJP
   F02C 7/042 20060101ALI20171120BHJP
   B64C 30/00 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   B64D33/02
   F02C7/042
   B64C30/00
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-6354(P2013-6354)
(22)【出願日】2013年1月17日
(65)【公開番号】特開2014-136510(P2014-136510A)
(43)【公開日】2014年7月28日
【審査請求日】2015年12月14日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.2012年9月23日 International Council of the Aeronautical Sciences発行の「28▲th▼CONGRESS OF THE INTERNATIONAL COUNCIL OF THE AERONAUTICAL SCIENCES PROCEEDINGS ICAS 2012−6.2.1」に発表。 2.2012年9月24日「28▲th▼CONGRESS OF THE INTERNATIONAL COUNCIL OF THE AERONAUTICAL SCIENCES」において発表。 3.平成24年11月5日一般社団法人日本航空宇宙学会発行の「第50回飛行機シンポジウム講演集 2C13」に発表。 4.平成24年11月6日一般社団法人日本航空宇宙学会及び公益社団法人日本航空技術協会共催の「第50回飛行機シンポジウム」において発表。
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100092200
【弁理士】
【氏名又は名称】大城 重信
(74)【代理人】
【識別番号】100110515
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 益男
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 信男
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 安
【審査官】 志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第05026004(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0213179(US,A1)
【文献】 米国特許第06390414(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64D 33/02
F02C 7/04 − 7/057
B64C 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インテークのカウルとランプ間の拡大流路の開き角が小さくなるように仕切り板によりカウルとランプ間を分割する構造とし、前記仕切板はカウル側とランプ側流路の何れか流れの影響が大きい方の流路の変化を他方の流路の総圧損失が許容される範囲で小さくするように配備するようにしてFerriバズと呼ばれる振動現象を抑制したことを特徴とする超音速インテークの作動安定化方法。
【請求項2】
インテークのカウルとランプ間の拡大流路の開き角が小さくなるように抽気スリットより下流側に該流路をカウルとランプ間で分割する仕切り板を配置し、前記仕切板はカウル側とランプ側流路の何れか流れの影響が大きい方の流路の変化を他方の流路の総圧損失が許容される範囲で小さくするように配備するようにしてFerriバズと呼ばれる振動現象を抑制したことを特徴とする超音速インテークの作動安定化装置。
【請求項3】
前記仕切板はインテークのカウルとランプ間の拡大流路の開き角が等分割に近い形態である請求項2に記載の超音速インテークの作動安定化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音速機用推進系の空気取入口(超音速インテーク)の作動安定化技術に関する。
【背景技術】
【0002】
マッハ2クラスの超音速旅客機の推進系においては、エンジンの作動状態と空気取入口(超音速インテーク)との流量バランスが崩れると、流体力学的に不安定な流れが生じ、それがエンジンの運用上の制限となる。超音速機の推進系の構成は図8の上段に示されるように空気取入口(超音速インテーク)の下流側にエンジン更にノズルと配置される。この流量バランスを制御する技術は、従来旅客機ではコンコルドに採用されていた。この従来技術は図8下段に詳しく示されるようにインテークのランプを前後の固定領域の間にスリットを介して互いに向き合う2つの可変機構(第1可変ランプ、第2可変ランプ)を介在させた構造とし、エンジンの作動状態に応じてインテークに流入する流量を制御することで流量バランスをとる手法が適用されている(非特許文献1:コンコルドのインテーク、非特許文献2:JAXA実験機のインテーク参照)。
【0003】
上記文献に示された制御技術は別な表現を用いれば、エンジンに必要な流量変化に対してインテークの作動状態を一定に保つように制御する技術と言えるのであるが、この従来手法における問題点は大きく二つあり、その一つは機体開発においてインテークの制御に必要な条件を全て揃えること、もう一つは制御するためのシステムが複雑になることである。前者の問題点について詳述すると、インテーク制御のために1)インテークの作動状態を表す(モニタできる)物理量を設定し、2)その物理量と作動状態を対応付ける風洞試験を実施、データベース化し、3)制御則を作成し、エンジンの制御システムへ組み込む手順を経ることが必須となるため、開発に当たって多くの手間と費用を要することとなる。
【0004】
後者の問題点については、通常のシステムに加えて、1)インテークの作動状態をモニタするシステム、2)インテークの作動状態を制御するシステム(可変ランプシステム)を設計する必要がある。この従来技術はシステムが複雑であることから、これらのシステム開発にも信頼性を高くするために多大な開発時間と費用を要することが問題点となる。
【0005】
更に、従来技術の本質的な課題を考察すると、それはインテークの安定な作動範囲がエンジンの運用範囲をカバーできていないことである。インテークの不安定な現象には2種類あり、その一つはエンジンが減速し、流量が減少した場合に生じるもので、衝撃波の振動を伴う非定常な現象(バズと呼ばれる)である。もう一つはエンジンが加速し、流量が増加した場合に生じるもので、境界層が極端に成長することによる不安定な流れである。したがって、インテークの安定な作動範囲の拡大を図るとは上記の2種類の不安定な現象の発生を抑えることに帰着する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】AIAA Professional Study Series, J. Rech and C. Leyman, “A Case Study by Aerospatiale and British Aerospace on the Concorde”, Section 6.
【非特許文献2】Procof ICAS 2006, Watanabe Y, Murakami A, “Control of Supersonic Inlet with Variable Ramp” (宇宙航空研究開発機構の発表論文)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の諸問題点に鑑み、本発明の課題は、複雑な制御システムを用いることなくエンジンの作動状態に対応するインテークの安定な作動範囲を拡大するようにし、エンジンの運用範囲を広くカバーできる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の超音速インテークの作動安定化方法は、インテークのカウルとランプ間の拡大流路の開き角が小さくなるように仕切り板によりカウルとランプ間を分割する構造とし、Ferriバズと呼ばれる振動現象を抑制したことを特徴とする。また、本発明の超音速インテークの作動安定化方法は、流路を仕切板で分割するに際しカウル側とランプ側流路の何れか流れの影響が大きい方の流路の断面積変化を他方の流路の総圧損失が許容される範囲で小さくするように前記仕切板を配備する。
【0009】
本発明の超音速インテークの作動安定化装置は、インテークのカウルとランプ間の拡大流路の開き角が小さくなるように抽気スリットより下流側に該流路をカウルとランプ間で分割する仕切り板を配置し、Ferriバズと呼ばれる振動現象を抑制したことを特徴とする。
また、本発明の超音速インテークの作動安定化装置の1形態は、カウル側とランプ側流路の何れか流れの影響が大きい方の流路の断面変化を他方の流路の総圧損失が許容される範囲で小さくするように前記仕切板を配備するようにした。
また、本発明の超音速インテークの作動安定化装置の優れた形態は、前記仕切板によるインテークのカウルとランプ間の拡大流路の開き角が等分割に近くなるようにした。
【発明の効果】
【0010】
本発明の超音速インテークの作動安定化方法および作動安定化装置は、インテークの拡大流路を仕切り板により分割することにより、ディフューザ内における流体のはく離現象を防止することにより、インテークの安定な作動範囲を拡大することが出来る。しかも、従来技術のような複雑な制御システムとその設計開発を必要とすることなく、仕切り板を配置してインテークの拡大流路を分割するという単純な構造によってそれを達成することができる。
【0011】
また、カウル側とランプ側流路の何れか流れの影響が大きい方の流路の変化を他方の総圧損失が許容される範囲で小さくするようにした本発明の超音速インテークの作動安定化装置は、より効果的にエンジンの運用範囲を広くカバーすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】超音速インテークの構造を示す図である。
図2】上段はインテーク部の4つの状態における衝撃波パターを示すシュリーレン像であり、下段はその時のインテーク出口の総圧分布を示す図である。
図3】エンジンを流れる空気の質量流量に対するインテーク出口の総圧変動の変化量を示すグラフである。
図4】本発明の仕切板を配置した図で、Aはカウル側の流路がほぼ直管になる場合の、Bは単純に等分割にした場合の構造を示す。
図5】エンジンの作動状態に対する流入する流れの圧力変動を示したもので、本発明と従来装置の特性を比較するグラフである。
図6】各ステージにおける本発明と従来装置の総圧変動のRMS値の分布を示す図である。
図7】将来コンセプトとして本発明が適用可能な提案段階の機体モデルである。
図8】従来の超音速機の推進系の構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を説明する前に図1に超音速インテークの構造を示す。1はインテーク(空気取入口)の全体構造、2がランプ、3がカウルである。ランプ2は固定の第1ランプ21、該第1ランプ21の後端部にヒンジ結合された可変構造の第2ランプ22、後方の固定ランプ24及びその先端部にヒンジ結合された可変構造の第2ランプ23からなり、第2ランプと第3ランプの可変先端部間抽気スリットとなっている。カウル3固定構造であって、上流側はカウル先端部31となっており、該カウル先端部31と第2ランプ22と側壁によってスロート断面が形成される。このモデルを用いた実験データにより、超音速時のインテークの作動状態を分類して説明する。このインテーク1は図に示すように2段ランプ2を有しており、第2ランプ22および第3ランプ23には可変機構が適用されている。ランプ形状が設計マッハ数2.0の飛行条件における第2ランプ角のノミナル値(12.0deg)の場合において、スロート断面とインテーク出口におけるディフューザの開口面積比は2.0、インテーク出口直径を基準とする亜音速ディフューザの長さ比は3.3である。
【0014】
図2図3は上記の条件に対してインテークの作動状態が変化した場合の空力性能と流れ場の様子を示たもので、インテークの作動状態はその特徴から4つの状態に分類することができる。図2の上段はインテーク部の4つの状態における衝撃波パターを示すシュリーレン像であり、図2の下段はその時のインテーク出口の総圧分布を示している。この図においては色が濃い程悪い状態を表わしている。図3のグラフはエンジンを流れる空気の質量流量に対するインテーク出口の総圧変動の変化量を示している。一つ目の作動状態は図2中Stage Iで示される超臨界作動状態である。この状態はインテークで捕獲する流量よりもエンジンが吸い込むことが可能な流量の方が大きい状態であるため、図2から分かるように流れのはく離等により総圧が低くなるとともに図3が示すように総圧の変動は大きくなり、総圧の分布の程度を表す周方向のディストーション指標と半径方向のディストーション指標の関係も時間的に大きく変動する。このことから、エンジンの運用に制限がかかる可能性がある。
2つ目の状態はStage IIで示されるインテークの臨界作動状態付近の状態で、総圧は高く、出口圧力分布は一様で、総圧およびディストーション指標の時間変動も小さく、エンジンの運用が十分可能であると言える。
3つ目の状態はStage IIIで示されるFerriバズと呼ばれる、第2ランプから発生する斜め衝撃波と最終衝撃波との交点から生じるせん断層が亜音速ディフューザに流入することで衝撃波の振動現象が現れる状態である。そのせん断層を境にカウル側(図2では図の上方)では衝撃波による総圧損失が大きいため、総圧が小さくなる。また、衝撃波の振動に伴い、総圧およびディストーション指標の時間変動は大きく、通常はエンジンの運用が保障されない状態である。Ferriバズの発生は流入するせん断層強さによるため、本研究の対象とするインテークではマッハ1.8程度以上の飛行マッハ数の条件の時にのみFerriバズが生じる。
最後の4つ目の状態はStage IVで示されるDaileyバズと呼ばれる極めて大きな振幅を伴う衝撃波の振動現象が生じる状態で、極めて大きな総圧変動が生じるため、エンジンの運用上は確実に回避されなければならない状態である。
【0015】
このようにエンジンの運転を十分に保証できるのはStage IIの状態に限られるが、ジェット実験機の例でいうと、ここで示した安定な作動領域は5%程度のエンジン回転数の変化に対応できるだけであるため、エンジン運用上はインテークの安定作動域は極めて狭いと言わざるを得ない。従って本発明の目指す安定作動域の拡大とは、Stage III(Ferriバズ)およびStage IV(Daileyバズ)の発生点をより低流量側にシフトすることでStage IIの状態を拡大することだけでなく、Stage Iにおける総圧やディストーション指標の時間変化を抑えること、およびStage IIIにおいてFerriバズの発生を抑制するもしくはそれによる総圧変動を小さくすることも考慮している。
【0016】
前述したように、インテークの安定な作動域を拡大するためにはFerriバズの発生と超臨界作動状態における乱れを抑制することが求められる。これらは本質的にはディフューザ内において流れがはく離することによるものと考えられるため、流れのはく離が生じにくいディフューザ流路を考えれば良いことになる。開口面積比が固定された状態でディフューザ流れを安定にするためには流路の開き角を小さくすることが有効である。そのためには流路を長くすることが簡単であるが、構造重量の増加や機体推進系を統合するときの自由度を狭くするなどの欠点がある。そこで、本発明ではディフューザ流路内に仕切り板を挿入し、流路を分割することで開き角を小さくすることに想到した。Ferriバズの発生の原因となるせん断層が流入する場合について、せん断層が直管に流入する場合にはバズが発生しないことが報告されていることから、仕切り板はカウル側の流路がほぼ直管になる場合(以降PlateA、図4のA)と、単純に等分割にした場合(以降PlateB、図4のB)について、インテークへ適用していくための指針を得るために実験的にその効果を検証した。
【0017】
本発明では、図4に示すようにインテーク流路内に仕切り板5を設けることで流路の開き角を小さくすることと流路の短路化のバランスをとり、課題の解決に対応した。基本的な分割方法は図4のBのように流路を等分割する方法である。ただし、インテークではその特性上、不安定な現象となる原因が片方の壁に偏ることが多い。そこで、例えばカウル先端側にその不安定な原因が偏るのであれば、図4のAのようにカウル先端側を直管とし、ランプ側流路のみに開き角を持たせるように流路を分割する手法を試みた。
なお、本発明でいう作動安定化方法とは上記のように流体力学的な知見に基づく流路の分割方法であり、作動安定化装置とは仕切り板により分割された流路そのものを指す。
【0018】
図4の流路分割(PlateA,PlateB)を適用した本発明の場合に、従来技術である可変ランプ制御法(非特許文献2:Single duct)に対して、どの程度安定な作動域が拡大したかを図5にグラフで示す。グラフの縦軸はエンジンに流入する流れの圧力変動のRMS値を示しており、低い値の方が安定な流れであることを示している。この変動がどこまで許容できるかはエンジンによって異なるが、一般的に前述の衝撃波の振動(バズ)は許容されないので、それに基づけば縦軸の値が0.02程度以下が許容範囲として妥当であると考えられる。横軸はエンジンの回転数に相当するパラメータで、値が大きいほど高回転で、流量をより多く必要とする作動状態を表す。超臨界作動状態においては流量比が一定となるため、流量比では作動状態の程度を表すことができない。従って、横軸はエンジンの作動状態に対応する流量比MFRを圧力回復率PRで除した値を用いることとした。これにより、仕切り板を挿入したことによる超臨界作動域における変化の違いを明確に表すことができる。また、図6は各ステージにおける総圧変動のRMS値の分布を示している。この図では色が濃いほど好ましい状態であることを示している。図5のグラフから、仕切り板を挿入することで、ステージI、IIIにおける総圧変動が小さくなっていることが分かる。一般的に仕切り板が無い場合に、ステージIIIで生じるFerriバズによる総圧変動はエンジンの運用上は回避すべきものであり、それを踏まえて総圧変動のRMS値△Prmsの許容値を総圧Poの2%程度と想定すれば、仕切り板を挿入した本発明の形態ではステージI、IIIにおいても許容範囲に入るため、エンジンの運用を保証するインテークの安定な作動範囲は大きく拡大していることが確認できる。
【0019】
安定な作動域であるステージIIでは仕切り板を挿入することでむしろ総圧変動は大きくなっていることが分かる(図6のB)。特にPlateAの場合は仕切り板よりもランプ側の流路の開き角が大きいため、そこで大きな圧力変動を生じている。
ステージI(超臨界作動状態)では仕切り板を挿入することにより圧力変動が大きく抑えられている(図6のA)。超臨界作動状態ではインテークの捕獲流量は変化せず、総圧回復率の変化により流量調整がされる領域であるため、エンジンがより流量を必要とする作動状態になるほど、亜音速ディフユーザ内では衝撃波の発生や流れのはく離など、総圧損失を伴う現象が生じる。これにより、仕切り板が無い場合は大きな圧力変動を生じる。ところが、仕切り板を挿入した場合は、仕切り板そのものが粘性損失を伴うにも関わらず、総圧回復率はインテークの作動状態に対してほぼ等しい。このことから、仕切り板を挿入したことによる圧力損失は、超臨界作動状態における総圧損失による流量調整の一端を担っていると考えられる。すなわち、仕切り板が無い場合の衝撃波や流れのはく離など圧力変動を伴う現象が抑制されることを意味しており、このため仕切り板により圧力変動が抑えられるものと考えられる。
【0020】
亜臨界作動状態において流量比が小さくなるとせん断層が流入することによりFerriバズが発生する(Stage III)ことは先に述べた通りで、仕切り板が無い場合は衝撃波の振動により大きい圧力変動が生じる。これに対し、PlateAを挿入した場合は流路が直管になっている仕切り板よりもカウル側で総圧変動は非常に小さくなっている(図6のC)。衝撃波の振動を高速度ビデオにより観察した結果、この場合は衝撃波の振動がほぼ押さえられていることが分かった。一方、仕切り板よりもランプ側では流路の開き角が大きいため、流れのはく離が原因と考えられる比較的大きな総圧変動が生じている。ただし、全体としてはFerriバズが抑えられた効果が大きく、エンジンの運用を保証できる程度まで変動は小さくなっている。PlateBを挿入した場合は全体的に総圧変動が抑えられていることが分かる(図6のC)。しかし、仕切り板よりもカウル側の流路は開き角が仕切り板が無い場合に比べて半分になっているものの、拡大流路であることは変わりがなく、そのためわずかではあるが衝撃波の振動が生じていることが高速度ビデオによる観察結果から分かった。これは、図5に示したStage IIからIIIへ移行する間で、仕切り板が無い場合と同様に、総圧変動がステップ的に上昇している結果に現れている。しかしながら、全体的な変動は小さく、Stage IIIにおいて最も安定なインテーク形態と言える。
【0021】
空間ディストーション指標(半径方向指標と周方向指標との関係)の時間変化から検証すれば、指標は半径方向もしくは周方向の総圧の平均値からのずれがどの程度かを表す指標であるので、動圧が大きい、すなわち超臨界作動状態になるほどディストーション指標は大きくなる。また、ディストーション指標の時間変化の幅は図5に示す総圧変動のRMS値とほぼ対応しており、総圧変動が大きい条件ほど、空間ディストーションの時間変化量も大きくなっている。仕切り板を挿入した場合はPlateA、PlateBいずれの場合でも空間ディストーションの時間変化量はステージIからIIIにかけてあまり変わらず、空間ディストーションの観点からも安定な作動になっていることが確認できた。
【0022】
以上の検証結果から、インテークの安定作動領域の拡大と総圧回復率の観点から、仕切板による分割は基本的にはPlateBのような等分割に近い形態が優れた性能を示すことが分かった。また、分割された流路の流れの影響に偏りがある場合には若干の修正がより効果的となるが、PlateAのように一方の流路にのみ断面変化を持たせた場合にはその流路において大きな総圧変化を起こしてしまうことから、影響の大きな流路についても断面変化を分担させる必要があることは前記したデータから確認できた。実際にどのような割合で分割するかは、各インテークの構造に対応させて設計されることになる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
産業分野は航空産業で、利用内容は特に超音速に対する推進系技術として利用できる。亜音速旅客機については、将来コンセプトとして図7に示すような提案段階の機体とエンジンが高度に統合した形態には適用できる可能性がある。
【符号の説明】
【0024】
1 インテーク 2 ランプ
21 第1ランプ 22 可変第2ランプ
23 可変第3ランプ 24 第4ランプ
3 カウル 31 カウル先端
4 ヒンジ 5A PlateA
5B PlateB
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8