特許第6238414号(P6238414)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6238414
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】抗がん剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/00 20060101AFI20171120BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   A61K33/00
   A61P35/04
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-219018(P2014-219018)
(22)【出願日】2014年10月28日
(65)【公開番号】特開2016-84312(P2016-84312A)
(43)【公開日】2016年5月19日
【審査請求日】2016年11月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】512196851
【氏名又は名称】株式会社グローバルハート
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 博美
(72)【発明者】
【氏名】東 學
【審査官】 伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−232066(JP,A)
【文献】 特開昭61−225126(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 33/00
A61K 35/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素水を有効成分とする大腸がんの転移抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ素を有効成分とする抗がん剤に関する。また、ケイ素を有効成分とするがんの転移抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国の死亡原因の第一位はがんであり、さまざまな抗がん剤が開発され、また、がんを予防するための対策が種々提唱されている。
しかし、抗がん剤としてすでに効果が実証され医薬品として販売されているものは、主に合成された化合物からなる薬剤であり、これらは開発に多大の時間と費用がかかっており、また、効果が実証されたものであっても、副作用のおそれがあるものが多い。
合成された化合物以外でも、抗がん活性を有するものとして多数知られているが、例えば特許文献1および2に示すものが挙げられる。
特許文献1には、イオン交換性樹脂とトルマリンと、火成岩のうち二酸化珪素を多く含む岩石とをこの順に通過させた水に抗ガン性があることが記載されている。
特許文献2には、腐植土の水溶性溶媒抽出液に抗ガン効果があることが記載されており、腐植土の水溶性溶媒抽出液には、ミネラレルとしてカルシウム、鉄、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、硫黄が含まれていることが示されている。
しかし、上記特許文献1では、トルマリンや二酸化ケイ素を含む岩石等を通過することで、Naと、Cl、H、OHと、ヒドロニウムイオン(H)とヒドロキシルイオン(H)が存在する水が得られることが記載されているが、特にケイ素については言及されていない。通常、ケイ素を含む岩石を通過させただけでは岩石中のケイ素分が水に移行することは考えにくい。また、抗ガン効果も、癌細胞の増殖抑制効果について調べられているだけであって、癌の転移については一切検討されていない。
上記特許文献2では、これらのミネラルがすべて含まれた抽出液に抗ガン効果があることを確認しており、いずれのミネラルが効いているのかについては明らかにはされていない。また、抗ガン効果も癌細胞を皮下注射したマウスの腫瘍の大きさを観察し、コントロールに比べて小さくなったことが示されているだけであり、癌の転移抑制効果については言及されていない。
なお、本願発明者らは、癌細胞の皮下注射では、がんの転移が起きないことを確認しており、したがって、特許文献2の試験は、がんの転移抑制効果をなんら示唆するものではないことは明らかである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-284420号公報
【特許文献2】特開2006-111537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、合成された化合物ではない成分を有効成分とし、副作用の恐れが少ない抗がん剤の提供を課題とする。さらに、抗ガン剤のうちでも、癌の転移抑制剤の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためのものであって、合成した化合物以外の成分を有効成分とする抗がん剤を見出すべく、鋭意研究を行った結果、驚くべきことに、ケイ素にがんの転移抑制効果が存在することを初めて突き止め、本発明を完成するに至った。すなわ
ち、本発明は以下の構成を有する。
〔1〕ケイ素を有効成分とする抗がん剤。
〔2〕ケイ素水を有効成分とする抗がん剤。
〔3〕ケイ素を有効成分とするがんの転移抑制剤。
〔4〕ケイ素水を有効成分とするがんの転移抑制剤。
〔5〕がんが、大腸がん、胃がん、食道がん、結腸がん、肝臓がん、膵臓がん、乳がん、肺がん、胆嚢がん、胆管がん、胆道がん、直腸がん、卵巣がん、子宮がん、腎がん、膀胱がん、前立腺がん、骨肉腫、脳腫瘍、白血病、筋肉腫、皮膚がん、悪性黒色腫、悪性リンパ腫、舌がん、骨髄腫、甲状腺がん、皮膚転移がん、皮膚黒色腫のいずれかである前記〔1〕から〔4〕のいずれかに記載の抗がん剤またはがんの転移抑制剤。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、比較的入手しやすいケイ素を有効成分とし、副作用の恐れが少ない抗がん剤の提供をすることが可能となる。さらに、ケイ素は、抗ガン作用のうちでも特にがんの転移抑制効果に優れることが明らかになったため、がん細胞が見つかった患者や、がんの摘出手術をした患者の予後対策として、利用価値が大きい。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】試験期間中の体重の変化を示すグラフである。Cage79-1とCage79-2は試験対象群であり、Control-1とControl-2はコントロール群である。
図2】試験期間終了後のマウス(コントロール群)の写真である。上段は、通常のカメラ撮影写真であり、下段は、蛍光イメージャーOV110による撮影写真である。上段、下段ともに、左側より、全体のマウスの外観、開腹後、摘出した内臓(内臓の配置は写真余白の記載の通り)、摘出した腸管である。
図3】試験期間終了後のマウス(試験投与群)の写真である。写真の配置は、図2と同じである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(抗ガン効果)
本発明でいう抗がん効果とは、がん細胞を殺す効果、がん細胞の増殖を抑制する効果、腫瘍を小さくする効果、腫瘍の増殖を抑制する効果、腫瘍の転移を抑制する効果など、広くがんに対してなんらかのダメージを与える効果をいう。
本願明細書中、抗がん剤というときは、前記抗がん効果を1つ以上有する薬剤をいい、そのうちでも癌の転移抑制効果に優れる場合について、特に、癌の転移抑制剤といい、他の機能(例えばがんの増殖を抑制する抑制剤)と区別できるものとする。
【0009】
(有効成分としてのケイ素)
本発明のケイ素は、投与されて体内でその抗がん効果を発揮できる態様であればよく、ケイ素水として摂取することが好ましい。
ケイ素水とは、金属であるケイ素の細かな粒子が水中に懸濁分散している状態の水である。ケイ素の粒子径は0.001〜10オングストロームが好ましく、0.005〜1.0オングストロームが好ましく、さらに好ましくは0.01〜0.1オングストロームであり、0.01〜0.05がもっとも好ましい。また、ケイ素の水溶液中の濃度としては0.1〜5%が好ましく、0.2〜2.0%がさらに好ましく、0.3〜1.0%がもっとも好ましい。
そのようなケイ素水の製造方法は、例えば、純度約97%のシリカ塊を粉砕し、粒径0.15〜0.25オングストロームの微粉末とし、この微粉末に水を添加し、混合することで0.3〜1.0%のケイ素水原液を製造する。なお、高純度のシリカ塊は、二酸化ケイ素を2,400℃近くの高温に加熱し、ここに炭素ガスを吹き込むことで製造することができる。
また、ケイ素の微粉末の水への分散方法は、適宜分散剤を添加するなど当業者に周知の方法によりエマルジョン状態にすることも可能であり、またコロイド状態にすることも可能であり、いずれも本発明のケイ素水に含まれる。
【0010】
本発明の抗がん剤の剤形や投与形態としては、特に限定されるものではないが、たとえば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、懸濁剤、坐剤、軟膏、クリーム剤、ゲル剤、貼付剤、吸入剤、注射剤などがあげられる。これらの製剤は、常法にしたがって調製することができる。なお、液体製剤にあっては、用時、水またはほかの適当な溶媒に溶解または懸濁する形態であってもよい。また、錠剤、顆粒剤は、周知の方法でコーティングしてもよい。注射剤の場合には、本発明のケイ素を水に懸濁させて調製されるが、必要に応じて生理食塩水あるいはブドウ糖溶液に懸濁させてもよく、また緩衝剤や保存剤を添加してもよい。
【0011】
また、本発明の抗がん剤は、その他の抗がん剤と組み合わせて使用することができる。その組合せとしては、同時投与、逐次投与、個別投与などいずれの方法を用いてもよい。そのような併用可能な薬剤としては、特に限定されるものではないが、たとえば、がん細胞を殺す効果を有する既知の他の抗がん剤や、腫瘍の増殖や転移を抑える効果を有する既知の他の抗がん剤などがあげられる。
【0012】
経口投与用の固形製剤を製造するには、有効成分と賦形剤成分、たとえば乳糖、澱粉、結晶セルロース、乳酸カルシウム、無水ケイ酸などとを混合して散剤とするか、さらに必要に応じて白糖、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドンなどの結合剤、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウムなどの崩壊剤などを加えて湿式または乾式造粒して顆粒剤とする。錠剤を製造するには、これらの散剤および顆粒剤をそのまま、あるいはステアリン酸マグネシウム、タルクなどの滑沢剤を加えて打錠すればよい。これらの顆粒または錠剤はヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メタクリル酸−メタクリル酸メチルポリマーなどの腸溶剤基剤で被覆して腸溶剤製剤とすることや、あるいはエチルセルロース、カルナウバロウ、硬化油などで被覆して持続性製剤とすることもできる。また、カプセル剤を製造するには、散剤または顆粒剤を硬カプセルに充填するか、有効成分をそのまま、あるいはグリセリン、ポリエチレングリコール、ゴマ油、オリーブ油などに溶解した後ゼラチン膜で被覆し軟カプセルとすることができる。
【0013】
本発明の抗がん剤の投与量および投与回数はとくに限定されず、がんの悪化・進展の防止および/または治療の目的、がんの種類、患者の体重や年齢、がんの重篤度などの条件に応じて、医師の判断により適宜選択することが可能である。
【0014】
本発明の抗がん剤の対象とするがんは、大腸がん、胃がん、食道がん、結腸がん、肝臓がん、膵臓がん、乳がん、肺がん、胆嚢がん、胆管がん、胆道がん、直腸がん、卵巣がん、子宮がん、腎がん、膀胱がん、前立腺がん、骨肉腫、脳腫瘍、白血病、筋肉腫、皮膚がん、悪性黒色腫、悪性リンパ腫、舌がん、骨髄腫、甲状腺がん、皮膚転移がん、皮膚黒色腫などの治療に用いることができるがこれらに限定されず、また前がん病変の治療に用いることもできる。
【0015】
本発明の抗がん剤は、ケイ素またはケイ素水そのもののほか、これらを本発明の作用に影響を与えない他の成分と混合したものであってもよい。
【0016】
本発明の組成物をヒトまたはヒト以外の動物に投与する方法は、経口投与、非経口投与のいずれでもよい。経口投与としては、本発明の有効成分を前述のように製剤化した組成物を投与してもよいし、飲食物・飼料として摂取することも可能である。
飲食物としては、チューインガム,キャンディ,錠菓,グミゼリー,チョコレート,ビ
スケットまたはスナック等の菓子、アイスクリーム,シャーベットまたは氷菓等の冷菓、飲料、プリン、ジャム、乳製品、調味料等が挙げられ、本発明組成物を添加したこれらの飲食物を日常的に摂取することで抗がん効果が得られる。飲食物における本発明組成物の含有量は当該飲食物の嗜好品としての味・風味等を損なわない範囲内で含まれていればよく、飲食品の種類および形態によってそれぞれ異なる。
また、飼料としては通常与える飼料に混合して投与することができる。
【実施例】
【0017】
実施例1
1.試験方法
(1)癌のモデル動物
雌の5週齢ヌードマウス(BALB/c nu/nu、日本エスエルシー社)4匹に、ヒト大腸がん細胞(製品名:HCT−116−GFP、AntiCancerJapan株式会社製)を、外科的同所移植(SOI)し、以下の試験に供した。試験は4匹を2匹ずつ2群(試験投与群、コントロール群)に分けて行った。試験期間は、SOI後38日間行った。本モデル動物において、ヒト大腸がん細胞として蛍光蛋白質が導入されたものを使用するため、癌の原発巣および転移した部位は、蛍光標識され、蛍光観察が可能である。
(2)マウスの飼育
オートクレーブ滅菌(121℃、20分)した床敷き(パルマスμ、天然素材探索研究所)を敷いたケージ(イノケージ、オリエンタル技研)に3または2匹/ケージで飼育する。試験期間中、HEPAフィルターろ過空気の下でAntiCancer Japan社の標準マニュアルに従って、ガンマ線滅菌した固形飼料(CRF-1、オリエンタル酵母工業)とオートクレーブ滅菌(121℃、20分)したMilli-Q水に100 ppm ampicillinを添加した飲料水をボトルで与え、週2回の床敷交換を行った。マウスの個体識別はear-markで行った。
(a)試験投与群
前記飲料水に、ケイ素水原液を0.22μmのミリポアフィルターでろ過したものを最終濃度が0.5%となるように添加し、自由摂取とした。
さらにまた、2〜5日間に一度の頻度で、ケイ素水原液を生理食塩水で10倍希釈したケイ素水溶液を1.0mlマウスの腹腔内に注射して投与した。ただし、試験投与群2匹のうち、1匹は飼育開始後21日後に死亡し、残りの1匹は体重減少が激しいため、ケイ素水溶液の注射投与量を1/10に減らした。
[ケイ素水原液の調整]
純度約97%のシリカ塊を粉砕し、粒径0.02オングストロームの粉末とし、水を通過させて、0.5%のケイ素水原液を製造した。なお、高純度のシリカ塊は、二酸化ケイ素を2,400℃近くの高温に加熱し、ここに炭素ガスを吹き込むことで製造することができる。
(b)コントロール
試験投与群において、ケイ素を一切投与しないこと以外は、同じ条件で飼育した。
(3)モニタリング
(3−1)体重変化
外科的同所移植日より試験終了まで週2回、電子天秤で体重を測定した。試験開始時の体重は15.2〜16.5gであった。
(3−2)癌の大きさ
試験期間終了後、炭酸ガスでマウスを安楽死させ、マウスを解剖し、原発巣を摘出し、重量を測定した。
(3−3)癌の転移の有無
また、体全体、摘出した内臓および腸管を蛍光イメージャーOV-110(オリンパス株式会社製)により写真撮影し、内臓および腸管の蛍光部位の個数を測定し、転移の有無を調べた。
【0018】
2.試験結果
(1)体重変化
試験期間中の体重の変化を図1に示す。試験対象群とコントロ−ル群に有意な差は見られなかった。
(2)癌の大きさ
解剖後、原発巣を摘出し、重量を測定したところ、コントロール群の2匹の原発巣の重さは、0.31g、0.26gであり、試験投与群は0.41gであり、ほぼ同等の重量であった。
(3)癌の転移
解剖後の各臓器および腸管において、蛍光イメージャーOV110により観察された転移の数を表1に示す。観察は、組織の表面と裏面の両方について行った。また、代表的な臓器について、蛍光イメージャーOV110による撮影写真を図2,3に示す。
これらによれば、コントロールでは多数の蛍光部位、すなわちがんの転移が認められたが、ケイ素水を投与した本試験対象群では、全くがんの転移が認められないことがわかった。
【0019】
【表1】
【0020】
3.考察
本試験によれば、ケイ素水の投与により、がんの原発巣の重量に変化は見られなかったが、癌の各臓器への転移が全く見られなかった。したがって、ケイ素は、がんの転移抑制に優れた効果を発揮することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明によれば、比較的入手しやすいケイ素を有効成分とし、副作用の恐れが少ない抗がん剤の提供をすることが可能となる。さらに、ケイ素は、抗ガン作用のうちでも特にがんの転移抑制効果に優れることが明らかになったため、がん細胞が見つかった患者や、がんの摘出手術をした患者の予後対策として、利用価値が大きい。
図1
図2
図3