(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6238437
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】作業足場の設置構造
(51)【国際特許分類】
E04G 1/36 20060101AFI20171120BHJP
【FI】
E04G1/36 301Z
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-187575(P2013-187575)
(22)【出願日】2013年9月10日
(65)【公開番号】特開2015-55058(P2015-55058A)
(43)【公開日】2015年3月23日
【審査請求日】2016年6月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100107308
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 修一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100126930
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【弁理士】
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】田村 知久
(72)【発明者】
【氏名】緒方 政継
(72)【発明者】
【氏名】島田 康
(72)【発明者】
【氏名】塩田 幸伸
(72)【発明者】
【氏名】村上 和司
(72)【発明者】
【氏名】井口 礼
【審査官】
星野 聡志
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−018580(JP,A)
【文献】
特公平08−033074(JP,B2)
【文献】
国際公開第2005/085554(WO,A1)
【文献】
欧州特許出願公開第01233122(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G23/02
E04G1/00−7/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部ほど奥側または手前側に位置する壁面部を有する建物に対して、一対の支柱部材と、その一対の支柱部材間に架設する梁部材と、その梁部材に沿って架設する作業用の足場板とを備えた複数の作業足場セットを、前記壁面部の近傍に設置してある作業足場の設置構造であって、
前記複数の作業足場セットは、前記一対の支柱部材が前記壁面部の両側方に立設された状態、かつ、夫々の前記足場板が前記壁面部に対応するように高さを異ならせて設置された状態で、前記建物の遠近方向に沿って位置ずれさせて設置され、
前記一対の支柱部材に手前側の支柱と奥側の支柱とが備えられるとともに、前記梁部材が梁枠によって構成され、
前記梁部材の中間部が前記一対の支柱部材以外の支柱に支持されていない状態で、前記梁部材の両端部が前記一対の支柱部材に支持されている作業足場の設置構造。
【請求項2】
前記壁面部が上部ほど奥側に位置する建物に対して設置され、
前記梁部材のうちの上方に位置する梁部材が、前記壁面部の下方部分を跨ぐ状態で設置される請求項1に記載の作業足場の設置構造。
【請求項3】
上部ほど奥側または手前側に位置する壁面部を有する建物に対して、一対の支柱部材と、その一対の支柱部材間に架設する梁部材と、その梁部材に沿って架設する作業用の足場板とを備えた複数の作業足場セットを、前記壁面部の近傍に設置してある作業足場の設置構造であって、
前記複数の作業足場セットにおける前記一対の支柱部材を前記壁面部の両側方に立設し、前記複数の作業足場セットにおける前記足場板を前記壁面部に対応した状態で夫々高さを異ならせて設置し、
前記各一対の支柱部材のうちの一方の支柱部材が、前記複数の作業足場セットの一方の支柱部材を兼用する作業足場の設置構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の支柱部材と、その一対の支柱部材間に架設する梁部材と、その梁部材に沿って架設する作業用の足場板とを備えた作業足場セットの複数が、建物の壁面部の近傍に設置される作業足場の設置構造に関する。
【背景技術】
【0002】
このような作業足場としては、例えば、山間部の傾斜地上に複数の支柱部材を立設し、その支柱部材間にわたって複数の梁部材を架設し、その梁部材上に作業台を載置した構造のものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、上部ほど奥側に位置する傾斜壁面を有するバラ積船の積み荷室を対象とし、多数の支柱部材や梁部材などを使用して、上方に位置する作業用の足場板が傾斜壁面に近接するように、その足場板を下方に位置するベース部(ベース台車)に対して傾斜壁面側にオーバーハング状に突出させた作業足場も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭55−99341号公報
【特許文献2】特開2008−169624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1に記載の作業足場は、建物の壁面部を対象とする作業足場ではなく、傾斜地上に平坦な作業足場を設置するものであり、傾斜地上に複数の支持部材を立設する構造であるから、例えば、上部ほど奥側に位置する建物の壁面部を対象とする作業足場にそのまま適用することは不可能である。
その点、上記特許文献2に記載の作業足場は、バラ積船の積み荷室の傾斜壁面を対象とするので、建物の壁面部を対象とする作業足場にそのまま適用することは可能である。
しかしながら、この特許文献2に記載の作業足場は、上方に位置する足場板が下方に位置するベース台車に対してオーバーハング状に突出した構造で、安定性が悪く、そのため、ベース台車上にバランスウェイトを載置して安定性を確保してはいるものの、その安定性の確保には限界がある。
すなわち、高層ビルのような高い建物の壁面部を対象とすると、足場そのものが非常に高くなるため、たとえバランスウェイトを使用しても安定性の面で問題が残る。更に、対象となる壁面部が上部ほど大きく奥側に位置するような場合には、ベース台車に対する足場板のオーバーハング距離(突出距離)も大きくなり、実際上、実施不可能となる可能性もある。
【0005】
本発明は、このような従来の問題点に着目したもので、その目的は、対象となる建物の壁面部が上部ほど奥側または手前側に位置する場合であっても、比較的簡単な構造で安定した設置が可能な作業足場の設置構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明による作業足場の設置構造は、
上部ほど奥側または手前側に位置する壁面部を有する建物に対して、一対の支柱部材と、その一対の支柱部材間に架設する梁部材と、その梁部材に沿って架設する作業用の足場板とを備えた
複数の作業足場セッ
トを、前記壁面部の近傍に設置
してある作業足場の設置構造であって、
前記複数の作業足場セット
は、前記一対の支柱部材
が前記壁面部の両側方に立設
された状態、かつ、
夫々の前記足場板
が前記壁面部に対応
するように高さを異ならせて設置され
た状態で、前記建物の遠近方向に沿って位置ずれさせて設置され、
前記一対の支柱部材に手前側の支柱と奥側の支柱とが備えられるとともに、前記梁部材が梁枠によって構成され、
前記梁部材の中間部が前記一対の支柱部材以外の支柱に支持されていない状態で、前記梁部材の両端部が前記一対の支柱部材に支持されている点にある。
【0007】
上記特徴構成によれば、複数の作業足場セットが、各一対の支柱部材を建物の壁面部の両側方に立設し、かつ、各足場板を壁面部に対応した状態で高さを異ならせて設置されるので、対象となる建物の壁面部が上部ほど奥側または手前側に位置する壁面部であっても、その壁面部の近傍に各足場板を位置させることができる。
そして、その各足場板は、当該壁面部の両側方に立設した一対の支柱部材により支持されるので、上部ほど奥側または手前側に位置する壁面部を対象とする作業足場を比較的簡単な構造で安定した状態で設置することができる。
また、上記特徴構成によれば、梁部材が、剛性の大きなスパンの大なる梁枠で構成されるので、対象となる壁面部がたとえ横方向に幅広の壁面部であっても、その幅広の壁面部に対応することが可能となり、また、その壁面部が上部ほど奥側に位置する壁面部であっても、その壁面部の下方部分を跨いで設置することができる。
【0008】
本発明による作業足場の設置構造の更なる特徴構成は、
前記壁面部が上部ほど奥側に位置する建物に対して設置され、
前記梁部材のうちの上方に位置する梁部材が、前記壁面部の下方部分を跨ぐ状態で設置される点にある。
【0009】
上記特徴構成によれば、梁部材のうちの上方に位置する梁部材が、対象となる壁面部の下方部分を跨ぐ状態で設置されるので、その壁面部が上部ほど奥側に位置する壁面部であっても、壁面部の両側方に立設した一対の支柱部材により梁部材を安定よく確実に支持することができ、その結果、足場板を安定よく支持して壁面部の近傍に位置させることができる。
【0010】
【0011】
【0012】
本発明による作業足場の設置構造の更なる特徴構成は、
上部ほど奥側または手前側に位置する壁面部を有する建物に対して、一対の支柱部材と、その一対の支柱部材間に架設する梁部材と、その梁部材に沿って架設する作業用の足場板とを備えた複数の作業足場セットを、前記壁面部の近傍に設置してある作業足場の設置構造であって、
前記複数の作業足場セットにおける前記一対の支柱部材を前記壁面部の両側方に立設し、前記複数の作業足場セットにおける前記足場板を前記壁面部に対応した状態で夫々高さを異ならせて設置し、
前記各一対の支柱部材のうちの一方の支柱部材が、前記複数の作業足場セットの一方の支柱部材を兼用する点にある。
【0013】
上記特徴構成によれば、各一対の支柱部材のうちの一方の支柱部材が、複数の作業足場セットの一方の支柱部材を兼用するので、支柱部材の兼用による構造の簡素化および作業足場設置に要する費用の削減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図4】別実施形態の作業足場の設置構造の要部を示す斜視図
【
図5】別実施形態の作業足場の設置構造の要部を示す平面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明による作業足場の設置構造の実施形態を図面に基づいて説明する。
本発明の作業足場は、例えば、
図1および
図2に示すように、上部ほど徐々に奥側に位置し、かつ、上部ほど徐々に左右方向の幅が狭くなるように連続して傾斜した壁面部W1を備えた建物Bを対象とし、その傾斜した壁面部W1の近傍に設置される。
この作業足場は、複数の作業足場セットS(Sa〜Sc)により構成されるが、各作業足場セットSa〜Scは、上下方向の高さと横方向の長さが異なるのみで、主要部分につ
いてはほぼ同じ構成である。したがって、各作業足場セットSa〜Scの詳細は、
図3にまとめて記載し、
図1および
図2においては、図面が煩雑化するのを避けるため、各作業足場セットSa〜Scの主要部のみ記載する。同様に、実際の実施に際しては、傾斜した壁面部W1以外の壁面部に通常の作業足場が設置されるが、それも省略してある。
【0016】
図1〜
図3を参照して、作業足場は、左右一対の支柱部材1、2と、その一対の支柱部材1、2の間にわたって架設する梁部材3と、その梁部材3に沿って架設する作業用の足場板4と
、をひとつの
作業足場セットSとして、その作業足場セットSの複数が、壁面部W1の近傍に設置される。梁部材3には、剛性の大きなスパンの大なる梁枠が使用され、その梁枠
が幅方向を上下方向に向け、かつ、互いに対向する状態で2本架設される。
この実施形態では、作業足場セットSが3セット、つまり、最下方に位置する梁枠3aを有する第1作業足場セットSa、中間に位置する梁枠3bを有する第2作業足場セットSb、最上方に位置する梁枠3cを有する第3作業足場セットScの3つの作業足場セットSa〜Scが設置される。
なお、設置する作業足場セットSの数は、特に3つに限るものではなく、対象とする壁面部W1の大きさや形状などに応じて適宜変更可能である。
【0017】
第1作業足場セットSaを構成する一方の支柱部材1aは、互いに対をなす2本の支柱5aにより構成され、詳しい説明は省略するが、各支柱5aは、例えば、多数本のパイプ材を上下方向に接続して構成され、他方の支柱部材2aも同様で、多数本のパイプ材を上下方向に接続した2本の支柱6aによって構成される。
同様に、第2作業足場セットSbを構成する一対の支柱部材1b、2bは、それぞれ多数本のパイプ材からなる2本の支柱5b、6bにより構成され、第3作業足場セットScを構成する一対の支柱部材1c、2cも、それぞれ多数本のパイプ材からなる2本の支柱5c、6cにより構成される。
【0018】
第1〜第3作業足場セットSa〜Scを構成する左右一対の支柱部材1a〜1c、2a〜2cは、それぞれ各梁枠3a〜3cの高さに対応する壁面部W1の両側方に立設され、各梁枠3a〜3cが、壁面部W1の下方部分を跨ぐ状態で設置される。
なお、この実施形態では、
図2より明らかなように、最下方に位置する梁枠3aも、壁面部W1の下方部分をわずかに跨ぐ状態で設置されているが、最下方に位置する梁枠3aは、必ずしも壁面部W1の下方部分を跨ぐ必要はなく、最下方よりも上方に位置する梁枠3b、3cが、壁面部W1の下方部分を跨ぐように設置されればよい。
【0019】
第1〜第3作業足場セットSa〜Scにおいて、各梁枠3a〜3c上には、
図3に示すように、各梁枠3a〜3cに沿って、かつ、複数段にわたって、ビティ足場などの枠組み足場7が多数設置され、各枠組み足場7が、それぞれ連結材8で互いに連結され、必要な箇所には筋交い材9が設けられ、図示はしないが、手摺りや階段なども設置される。
そして、各作業足場セットSa〜Scにおいて、各枠組み足場7間や梁枠3a〜3c上に多数の作業用の足場板4a〜4cが載置固定され、第1作業足場セットSaにおいては、複数の足場板4aが、壁面部W1に対応した状態で上下に高さを異ならせ、かつ、その梁枠3aに沿って設置される。
同様に、第2作業足場セットSbにおいては、複数の足場板4bが、壁面部W1に対応した状態で高さを異ならせ、かつ、梁枠3bに沿って設置され、第3作業足場セットScにおいても、複数の足場板4cが、壁面部W1に対応した状態で高さを異ならせ、かつ、梁枠3cに沿って設置される。
【0020】
〔別実施形態〕
(1)つぎに、別実施形態について説明するが、重複説明を避けるため、先の実施形態で説明した構成については、同じ符号を付すことで説明を省略し、主として先の実施形態と
異なる構成について説明する。
先の実施形態では、上部ほど徐々に奥側に位置し、かつ、上部ほど徐々に左右方向の幅が狭くなるような壁面部W1を備えた建物Bを対象とした形態を示したが、例えば、
図4に示すように、上部ほど徐々に手前側に位置し、かつ、左右方向の幅が同じ壁面部W2を備え、更に、その壁面部W2の上方に連続して上部ほど徐々に奥側に位置し、かつ、左右方向の幅が同じ壁面部W1を備えた建物Bを対象として実施することもできる。
【0021】
この別実施形態においても、作業足場セットSが3セット、つまり、最下方に位置する第1作業足場セットSa、中間に位置する第2作業足場セットSb、最上方に位置する第3作業足場セットScの3つの作業足場セットSa〜Scが、各支柱部材1a〜1c、2a〜2cを壁面部W1、W2の横側方に立設して設置される。
そして、中間に位置する第2作業足場セットSbには、壁面部における外方への突出部、つまり、両壁面部W1、W2の接続部を挟んで、その上下にそれぞれ梁枠3bが設置され、上方に位置する梁枠3b上に多数の枠組み足場7や足場板4cが設置される。
【0022】
(2)これまでの実施形態では、各作業足場セットSa〜Scに対して、それぞれ一対の支柱部材1a〜1c、2a〜2cを設けた例を示したが、各一対の支柱部材1a〜1c、2a〜2cのうちの一方の支柱部材が、他の作業足場セットSa〜Scの一方の支柱部材を兼用するように構成したり、一方の支柱部材の一部が、他の支柱部材の一部を兼用するように構成することもできる。
一例を挙げると、
図5の(a)に示すように、第3作業足場セットScの左側の支柱部材1cが、第2作業足場セットSbの左側の支柱部材1bを兼用するように構成することができる。また、
図5の(b)に示すように、第1作業足場セットSaの右側の支柱部材2aの一部である1本の支柱6aが、第2作業足場セットSbの右側の支柱部材2bの一部である1本の支柱6bを兼用したり、他の1本の支柱6bが、第3作業足場セットScの右側の支柱部材2cの一部である1本の支柱6cを兼用するように構成することもできる。
なお、
図5の(a)、(b)において、符号「U」で示したのは、足場ユニットである。すなわち、これまでの実施形態では、左右一対の支柱部材1(1a〜1c)、2(2a〜2c)をそれぞれ2本の支柱5a〜5c、6a〜6cにより構成した例を示したが、例えば、2本の支柱に代えて、これら
図5の(a)、(b)に示すように、2本の支柱を含む状態で1スパン分の枠組み足場ユニットUを設け、当該枠組み足場ユニットUを支柱部材1、2として実施することもできる。
【符号の説明】
【0023】
1、2 支柱部材
3 梁部
材
4 作業用の足場板
S 作業足場セット
B 建物
W1 上部ほど奥側に位置する壁面部
W2 上部ほど手前側に位置する壁面部