(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
金属窒化物粒子と体積平均粒径が前記金属窒化物粒子よりも小さく且つ5nm以上200nm以下であり前記金属窒化物粒子の表面に焼結して概ね隙間無く被覆しているシリカ粒子とを有し、
前記シリカ粒子は、
一次粒子の体積平均粒径が200nm以下、嵩密度が450g/L以下であり、
式(1):−OSiX1X2X3で表される官能基と、式(2):−OSiY1Y2Y3で表される官能基とを表面にもつものが焼結されたものであるシリカ被覆金属窒化物粒子。(上記式(1)、(2)中;X1はフェニル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基、又はアクリル基であり;X2、X3は−OSiR3及び−OSiY4Y5Y6よりそれぞれ独立して選択され;Y1はRであり;Y2、Y3はR及び−OSiY4Y5Y6よりそれぞれ独立して選択される。Y4はRであり;Y5及びY6は、R及び−OSiR3からそれぞれ独立して選択され;Rは炭素数1〜3のアルキル基から独立して選択される。なお、X2、X3、Y2、Y3、Y5、及びY6の何れかは、隣接する官能基のX2、X3、Y2、Y3、Y5、及びY6の何れかと−O−にて結合しても良い。)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来技術の製造方法では充分な耐水性をもつ窒化アルミニウム粉末を得られているとは言い難かった。
【0008】
本発明は上記実情に鑑み完成したものであり、金属窒化物の耐水性の更なる向上を目的として金属窒化物粒子の表面にシリカ粒子を直接結合させたシリカ被覆金属窒化物粒子、並びに金属窒化物粒子の表面にシリカ粒子を効果的に結合させることができる製造方法を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(a)上記課題を解決する本発明のシリカ被覆金属窒化物粒子は、金属窒化物粒子と体積平均粒径が前記金属窒化物粒子よりも小さく且つ5nm以上200nm以下であり前記金属窒化物粒子の表面に焼結して概ね隙間無く被覆しているシリカ粒子とを有する。
【0010】
金属窒化物粒子とシリカ粒子との間を焼結により結合することによりカーボン粒子が残存するおそれもなく安定して高い熱伝導性を発現させることができる。従来、体積平均粒径が5nm以上200nm以下程度の大きさのシリカ粒子は乾燥状態にすると一次粒子として存在することは困難になり互いに凝集した二次粒子としてしか存在し得なかった。本発明者らは乾燥状態で一次粒子として存在しうるシリカ粒子を得ることに成功しそのシリカ粒子を用いて金属窒化物粒子の表面を概ね隙間無く被覆できることを発見した。このように被覆された金属窒化物粒子についてシリカ粒子や金属窒化物粒子が溶融しない条件下にて行うことを意味する焼結操作を行うことによりシリカ粒子の表面付着状態を保ったまま強固な結合を実現できることが分かった(なお本明細書中において「焼結」と「焼成」は区別せずに使用している)。更に金属窒化物粒子の表面に付着したシリカ粒子は隣接するシリカ粒子(同じように金属窒化物粒子の表面に付着しているもの)との間でも焼結により強固に接合されているものと考えられる。
【0011】
このように被覆した金属窒化物は詳細な理由は定かでないが耐水性が向上することが分かった。
【0012】
上述の(a)に開示のシリカ被覆金属窒化物粒子は以下に記載する(b)〜(d)のうちの何れか1つ以上の構成要素を付加することが可能である。
(b)前記シリカ粒子は、
一次粒子の体積平均粒径が200nm以下、嵩密度が450g/L以下であり、
式(1):−OSiX
1X
2X
3で表される官能基と、式(2):−OSiY
1Y
2Y
3で表される官能基とを表面にもつものが焼結されたものであることを特徴とする。
【0013】
このような官能基を表面にもつシリカ粒子は特に凝集性が小さく、概ね一次粒子の状態にまで分散した状態を保つことが出来るため、金属窒化物粒子の表面を概ね隙間無く被覆することができる。
(上記式(1)、(2)中;X
1はフェニル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基、又はアクリル基であり;X
2、X
3は−OSiR
3及び−OSiY
4Y
5Y
6よりそれぞれ独立して選択され;Y
1はRであり;Y
2、Y
3はR及び−OSiY
4Y
5Y
6よりそれぞれ独立して選択される。Y
4はRであり;Y
5及びY
6は、R及び−OSiR
3からそれぞれ独立して選択され;Rは炭素数1〜3のアルキル基から独立して選択される。なお、X
2、X
3、Y
2、Y
3、Y
5、及びY
6の何れかは、隣接する官能基のX
2、X
3、Y
2、Y
3、Y
5、及びY
6の何れかと−O−にて結合しても良い。)
(c)前記金属窒化物粒子は200μm以下0.5μm以上の体積平均粒径をもつ。
(d)前記金属窒化物粒子は主成分が窒化アルミニウムである。
(e)上記課題を解決するシリカ被覆金属窒化物粒子の製造方法は、一次粒子の体積平均粒径が200nm以下の原料シリカ粒子に対し、嵩密度が450g/L以下になるように解砕する解砕工程と、
前記解砕工程にて得られたシリカ粒子と前記シリカ粒子の一次粒子よりも体積平均粒径が大きい金属窒化物粒子とを混合して前記金属窒化物粒子の表面に前記シリカ粒子を付着させる混合工程と、
800℃以上1100℃以下で前記混合物を加熱し、前記金属窒化物粒子と前記シリカ粒子とを焼結させる加熱焼結工程と、
を有し、
前記原料シリカ粒子は、
水を含む液状媒体中でシランカップリング剤およびオルガノシラザンによって表面処理する表面処理工程と、
前記液状媒体を除去する工程と、
をもつ前処理工程にて処理されており、
該シランカップリング剤は、3つのアルコキシ基と、フェニル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基、又はアクリル基と、を持ち、
該シランカップリング剤と該オルガノシラザンとのモル比は、該シランカップリング剤:該オルガノシラザン=1:2〜1:10であることを特徴とする。
【0014】
このような工程を採用することによりシリカ粒子は凝集すること無く金属窒化物粒子の表面に強固に結合させることができる。
【0015】
上述の(e)の製造方法は下記(f)の構成要素を付加することが可能である。
(f)前記表面処理工程は、
前記シランカップリング剤で処理する第1の処理工程と、
前記オルガノシラザンで処理する第2の処理工程と、を持ち、
該第2の処理工程は、該第1の処理工程後に行う。
【発明の効果】
【0016】
本発明のシリカ被覆金属窒化物粒子は金属窒化物粒子の表面をシリカ粒子にて適正に被覆することで耐水性に優れた高性能な金属窒化物粒子を提供することが可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明のシリカ被覆金属窒化物粒子及びその製造方法について実施形態に基づき以下詳細に説明する。本発明のシリカ被覆金属窒化物粒子は半導体デバイスなどを封止する封止材におけるフィラーとして用いることができる。半導体デバイスなどに用いるときにはそのまま圧縮して固化させたり、樹脂材料と混合して樹脂組成物として用いたりすることができる。更には電子部品を配設する基板中に分散させることも考えられる。また、何らかのビヒクルなどに分散させることにより塗料として用いることも出来る。また、本シリカ被覆金属窒化物粒子を圧縮などして固化成形することで成形物にすることも可能である。本発明のシリカ被覆金属窒化物粒子を含有させることにより熱伝導性が向上できる。
【0019】
(シリカ被覆金属窒化物粒子)
本実施形態のシリカ被覆金属窒化物粒子は金属窒化物粒子とその金属窒化物粒子の表面に焼結して結合したシリカ粒子とを有する。シリカ粒子は金属窒化物粒子の表面に概ね隙間無く被覆するように付着した後に焼結している。
【0020】
金属窒化物粒子の表面にシリカ粒子を焼結を行う前に付着させる方法としては特に限定されず、単純に混合したり、混合した後に振動を与えたりすることで実施できる。金属窒化物粒子表面へのシリカ粒子の付着は乾燥状態にて行うことができる。金属窒化物粒子とシリカ粒子との混合割合は特に限定しないが金属窒化物粒子の表面を概ね隙間無く被覆できる程度には混合する。ここで、シリカ粒子は金属窒化物粒子の表面を最低1層は覆うように付着することが望ましく、2層、3層、4層など付着量が大きいほど確実に耐水性を向上させることができる。また付着の量(層の数)を少なくすると相対的に金属窒化物粒子の割合が大きくなり熱伝導性が向上する。例えばシリカ粒子の含有量は金属窒化物粒子の質量を基準として、上限が10%、7.5%、5%、3%、1%程度を好ましい範囲として採用でき、下限が0.001%、0.005%、0.0001%程度を好ましい範囲として採用できる。
【0021】
シリカ粒子と金属窒化物粒子との混合比は以下のように望ましい値が算出可能である。まず、金属窒化物粒子の比表面積c(m
2/g)とシリカ粒子1gが被覆できる面積Am
2/gとから金属窒化物粒子1g当たり概ね隙間無く表面を被覆するために必要最小限のシリカ粒子の量(理論被覆必要量)W(g)はc/A(g)として算出可能である。
【0022】
ここでAの値はシリカ粒子の粒径(シリカ粒子としてすべて同じ粒径をもつものを仮定する)から算出できる。シリカ粒子として粒径のばらつきが小さいものを採用することによりシリカ粒子が平面上(金属窒化物粒子の表面上)で1層だけ密に充填されるとすると(最密充填)、それぞれのシリカ粒子の中心は隣接するシリカ粒子との間で正三角形を形成するものと仮定できる。そのため、この正三角形の面積(シリカ粒子の粒径から算出できる)とシリカの比重(実測値を用いることもできる)とからAが算出できる。
【0023】
ここで求めたWと実際に混合するシリカ粒子の量(金属窒化物粒子が1g当たり混合する量)w(g)とから求めたr=w/Wの値が1であればシリカ粒子により金属窒化物粒子の表面を理論的に過不足無く(1層で)隙間無く被覆することができることになる。ここでrの値は0.1以上10以下であることが望ましい。0.1以上にすることにより金属窒化物粒子の表面に充分な絶縁性をもつシリカ粒子の層を形成することが出来、10以下にすることにより生成したシリカ被覆金属窒化物粒子の流動性が高い状態に保つことができる(シリカ粒子が多いとシリカ粒子だけで凝集して金属窒化物粒子から離れた独立した粒子を形成したり、金属窒化物粒子の表面から突出してシリカ被覆金属窒化物粒子の流動性に影響を与えたりするおそれがある)。
【0024】
金属窒化物粒子はシリカ粒子の一次粒子よりも体積平均粒径が大きくシリカ粒子が表面に付着する。シリカ粒子は前記金属窒化物粒子の表面において概ね隙間無く存在する。ここで「概ね隙間無く存在する」とは、前述のrの値が0.1以上10以下であることを意味する。rの値の下限としては0.2、0.3、0.5、0.75が好ましい値として例示できる。rの値の上限としては8、6、5、43、2、1.5が好ましい値として例示できる。
【0025】
金属窒化物粒子の表面にシリカ粒子は焼結により結合されている。焼結により結合されているため、シリカ粒子は溶融されておらずほぼ一次粒子の状態を保ったまま金属窒化物粒子の表面に存在する。
【0026】
ここで、シリカ粒子は金属窒化物粒子の表面にて一次粒子としてほぼ存在することが望ましい。ここで一次粒子で存在するとはSEM写真において、粒子同士が接触している状態から互いに離散している状態の間である粒子を意味する。
【0027】
金属窒化物粒子は窒化された金属であれば充分であるが特に窒化アルミニウム、窒化ケイ素であることが望ましい。金属窒化物は複数種類の金属窒化物からなるものの混合物であっても良いし、金属窒化物を主成分(50質量%以上)とし金属窒化物以外の材料を含有するものであってもよい。
【0028】
金属窒化物粒子は粒径は特に限定しない。例えば体積平均粒径の望ましい上限としては、200μm、150μm、100μm、80μm、60μm、50μm、40μm、30μm、20μm、15μmが採用できる。金属窒化物粒子の粒径の下限としては0.5μm、1.0μm、2.0μm、3.0μm、5.0μmが例示できる。
【0029】
シリカ粒子は一次粒子の体積平均粒径が5nm以上200nm以下である。特に嵩密度が450g/L以下であることが望ましい。体積平均粒径としては、好ましい上限として、100nm、70nm、50nm、30nm、20nmが挙げられる。また、好ましい下限として、10nmが挙げられる。シリカ粒子としてはすべて300nm以下の粒径であることが望ましい。
【0030】
本明細書における嵩密度の測定は筒井理化学器械(株)製:電磁振動式カサ密度測定器(MVD−86型)を使用して行う。具体的には試料槽としての上部500μm篩に測定対象のサンプルを投入し、加速度4Gの条件で電磁振動により上部・下部の2つの500μm篩を通してサンプルを分散させ100mLの試料容器に落下投入した後、質量を測定し、その質量と体積とからかさ密度を算出した。自重による嵩密度の低下を防止するため測定は落下投入後1時間以内に実施する。
【0031】
嵩密度の好ましい上限としては400g/L、370g/L、350g/L、300g/L、280g/L、250g/Lが挙げられる。好ましい下限としては100g/Lが挙げられる。嵩密度をこれら上限よりも下の値にすることにより一次粒子の分離がより確実に行われる。また、嵩密度をこれら下限よりも上の値にすることで嵩が小さく取り扱いやすくなる。
【0032】
本実施形態のシリカ粒子は表面に炭素を含む官能基が表面に導入されている。炭素を含む官能基の具体的な構成及びシリカ粒子表面への導入方法などについては後述する製造方法にて詳述するため、ここでの説明は省略する。
【0033】
(シリカ被覆金属窒化物粒子の製造方法)
本実施形態のシリカ被覆金属窒化物粒子の製造方法は、原料シリカ粒子に対して解砕工程を行い製造したシリカ粒子を金属窒化物粒子に混合してその表面に付着させた後(混合工程)、焼成することにより焼結させる(加熱焼結工程)方法である。前述の本実施形態のシリカ被覆金属窒化物粒子の製造に好適に利用できる方法である。原料シリカ粒子は一次粒子同士が結合している割合が多いが、その結合を解砕工程にて分離することが出来る。
【0034】
混合工程はシリカ粒子と金属窒化物粒子とを混合する工程で有り特に限定しないが前述したように乾燥状態で一次粒子にまで解砕したシリカ粒子をそのまま金属窒化物粒子と混合することで被覆を行うことができる。
【0035】
加熱焼結工程は混合工程で得られた混合物を800℃以上1100℃以下で加熱し、金属窒化物粒子とシリカ粒子とを焼結させる工程である。加熱を行う雰囲気は特に限定しない。大気中、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス中、窒素ガス中などが挙げられる。焼結させる工程であるため、シリカ粒子及び金属窒化物粒子が溶融しない条件(概ね元の粒子の形態を保つことができる条件。溶融が進行すると粒子間が一体化して元の形態が保たれない。本明細書中における「焼結」とは一体化まではすること無く粒子間が結合している状態である)で加熱を行う。具体的には加熱温度及び加熱時間の組み合わせを適正に制御することにより溶融させずに焼結を進行させる。加熱温度の下限としては850℃、900℃が望ましい。また、加熱温度の上限としては1050℃、1000℃が望ましい。加熱時間としては適正に焼結されることができる時間であれば特に限定しない。例えば、加熱時間の下限としては1時間、2時間、3時間が例示でき、上限としては24時間、18時間、12時間、8時間、6時間、5時間、4時間が例示できる。
【0036】
解砕工程は特に方法は問わない。好ましくは凝集体の凝集を分離する程度の作用が加えられる方法が良く、凝集体を構成する一次粒子を破壊するような方法でない方が良い。例えば乾燥状態で行う粉砕に類する方法にて行うことができ、ジェットミル、ピンミル、ハンマーミルが例示できる。特に望ましくはジェットミルにて行う。工程の終期は原料シリカ粒子の嵩密度の値から判断する。適正な嵩密度後としては先述した範囲内から選択できる。ジェットミルは原料シリカ粒子を気流に乗せて粉砕を行う装置である。ジェットミルの種類は問わない。ジェットミルによる解砕は乾式にて行うことが望ましい。
【0037】
原料シリカ粒子は一次粒径の体積平均粒径が200nm以下である。その他、上限としては100nm、70nm、50nmが挙げられる。原料シリカ粒子の製造方法は特に限定しない。例えば水ガラス法、アルコキシド法、VMC法が例示でき、水ガラス法を採用することが望ましい。水ガラス法は水ガラスに対して、イオン交換、化学反応による置換基の導入・脱離、pHや温度などの制御などを行うことにより原料シリカ粒子を析出させる方法である。例えば、水ガラスをイオン交換樹脂でイオン交換することによって、ナノメートルオーダーのシリカ粒子が分散された水性スラリーを調製することができる。原料シリカ粒子を構成する二次粒子の粒径は特に限定しないが、体積平均粒径が10μm以上、100μm以上などの値を示すこともある。更に、金属ケイ素をアルカリ溶液などに溶解させた後に析出させることで(水ガラス法類似の方法)、原料シリカ粒子を製造することが出来る。
【0038】
原料シリカ粒子の調製には前処理工程を適用する。前処理工程は表面処理工程と液状媒体を除去する工程(固形化工程)とをもつ。表面処理工程は水を含む液状媒体(水、水の他にアルコールなどを含むもの)中でシランカップリング剤およびオルガノシラザンによって表面処理する工程である。シランカップリング剤は、3つのアルコキシ基と、フェニル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基、又はアクリル基とをもつ。シランカップリング剤とオルガノシラザンとのモル比は、(シランカップリング剤):(オルガノシラザン)=1:2〜1:10である。
【0039】
表面処理工程は、前述のシランカップリング剤で処理する第1の処理工程と、その後、オルガノシラザンで処理する第2の処理工程と、をもつ。
【0040】
表面処理工程は、上述の方法にて得られたシリカ粒子に対して、式(1):−OSiX
1X
2X
3で表される官能基と、式(2):−OSiY
1Y
2Y
3で表される官能基とが表面に結合した原料シリカ粒子を得る工程である。以下、式(1)で表される官能基を第1の官能基と呼び、式(2)で表される官能基を第2の官能基と呼ぶ。
【0041】
第1の官能基におけるX
1は、フェニル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基、又はアクリル基である。X
2、X
3は、それぞれ、−OSiR
3又は−OSiY
4Y
5Y
6である。Y
4はRである。Y
5、Y
6は、それぞれ、R又は−OSiR
3である。
【0042】
第2の官能基におけるY
1はRである。Y
2、Y
3は、それぞれ、−OSiR
3又は−OSiY
4Y
5Y
6である。
【0043】
第1の官能基および第2の官能基に含まれる−OSiR
3が多い程、原料シリカ粒子の表面にRを多く持つ。第1の官能基および第2の官能基に含まれるR(炭素数1〜3のアルキル基)が多い程、原料シリカ粒子は凝集し難い。
【0044】
第1の官能基に関していえば、X
2、X
3がそれぞれ−OSiR
3である場合に、Rの数が最小となる。また、X
2およびX
3がそれぞれ−OSiY
4Y
5Y
6であり、かつ、Y
5、Y
6がそれぞれ−OSiR
3である場合に、Rの数が最大となる。
【0045】
第2の官能基に関していえば、Y
2、Y
3がそれぞれ−OSiR
3である場合に、Rの数が最小となる。また、Y
2およびY
3がそれぞれ−OSiY
4Y
5Y
6であり、かつ、Y
5、Y
6がそれぞれ−OSiR
3である場合に、Rの数が最大となる。
【0046】
第1の官能基に含まれるX
1の数、第1の官能基に含まれるRの数、第2の官能基に含まれるRの数は、RとX
1との存在数比や、原料シリカ粒子の粒径や用途に応じて適宜設定すれば良い。
【0047】
なお、X
2、X
3、Y
2、Y
3、Y
5、及びY
6の何れかは、隣接する官能基のX
2、X
3、Y
2、Y
3、Y
5、及びY
6の何れかと−O−にて結合しても良い。例えば、第1の官能基のX
2、X
3、Y
5、及びY
6の何れかが、この第1の官能基に隣接する第1の官能基のX
2、X
3、Y
5、及びY
6の何れかと−O−にて結合していても良い。同様に、第2の官能基のY
2、Y
3、Y
5、及びY
6の何れかが、この第2の官能基に隣接する第2の官能基のY
2、Y
3、Y
5、及びY
6の何れかと−O−にて結合していても良い。さらには、第1の官能基のX
2、X
3、Y
5、及びY
6の何れかが、この第1の官能基に隣接する第2の官能基のY
2、Y
3、Y
5、及びY
6の何れかと−O−にて結合していても良い。
【0048】
原料シリカ粒子において、第1の官能基と第2の官能基との存在数比が1:12〜1:60であれば、原料シリカ粒子の表面にX
1とRとがバランス良く存在する。このため、第1の官能基と第2の官能基との存在数比が1:12〜1:60である原料シリカ粒子は、樹脂に対する親和性および凝集抑制効果に特に優れる。また、X
1が原料シリカ粒子の単位表面積(nm
2)あたり0.5〜2.5個であれば、原料シリカ粒子の表面に充分な数の第1の官能基が結合し、第1の官能基および第2の官能基に由来するRもまた充分な数存在する。したがってこの場合にも、樹脂に対する親和性および原料シリカ粒子の凝集抑制効果が充分に発揮される。
【0049】
何れの場合にも、原料シリカ粒子の単位表面積(nm
2)あたりのRは、1個〜10個であるのが好ましい。この場合には、原料シリカ粒子の表面に存在するX
1の数とRの数とのバランスが良くなり、樹脂に対する親和性および原料シリカ粒子の凝集抑制効果との両方がバランス良く発揮される。
【0050】
原料シリカ粒子においては、シリカ粒子の表面に存在していた水酸基の全部が第1の官能基または第2の官能基で置換されているのが好ましい。第1の官能基と第2の官能基との和が、原料シリカ粒子の単位表面積(nm
2)あたり2.0個以上であれば、原料シリカ粒子において、シリカ粒子の表面に存在していた水酸基のほぼ全部が第1の官能基または第2の官能基で置換されているといえる。
【0051】
原料シリカ粒子は、表面にRを持つ。これは、赤外線吸収スペクトルによって確認できる。詳しくは、原料シリカ粒子の赤外線吸収スペクトルを固体拡散反射法で測定すると、2962±2cm
−1にC−H伸縮振動の極大吸収がある。
【0052】
また、上述したように原料シリカ粒子は凝集し難い。
【0053】
なお、原料シリカ粒子は、例え僅かに凝集した場合にも、超音波処理することによって再度分散可能である。詳しくは、原料シリカ粒子をメチルエチルケトンに分散させたものに、発振周波数39kHz、出力500Wの超音波を照射することで、原料シリカ粒子を実質的に一次粒子にまで分散できる。このときの超音波照射時間は10分間以下で良い。原料シリカ粒子が一次粒子にまで分散したか否かは、粒度分布を測定することで確認できる。詳しくは、この原料シリカ粒子のメチルエチルケトン分散材料をマイクロトラック装置等の粒度分布測定装置で測定し、原料シリカ粒子の粒度分布があれば、原料シリカ粒子が一次粒子にまで分散したといえる。
【0054】
原料シリカ粒子は、凝集し難いため、水やアルコール等の液状媒体に分散されていない原料シリカ粒子として提供できる。この場合、液状媒体の持ち込みがないために、樹脂材料用のフィラーとして好ましく用いられる。
【0055】
また、原料シリカ粒子は凝集し難いために、水で容易に洗浄できる。
【0056】
原料シリカ粒子は、水を含む液状媒体中で、シランカップリング剤およびオルガノシラザンによってシリカ粒子を表面処理する工程(表面処理工程)にて処理される。シランカップリング剤は、3つのアルコキシ基と、フェニル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基、又はアクリル基(すなわち上記のX
1)とを持つ。
【0057】
シランカップリング剤で表面処理することで、シリカ粒子の表面に存在する水酸基がシランカップリング剤に由来する官能基で置換される。シランカップリング剤に由来する官能基は式(3):−OSiX
1X
4X
5で表される。式(3)で表される官能基を第3の官能基と呼ぶ。第3の官能基におけるX
1は式(1)で表される官能基におけるX
1と同じである。X
4、X
5は、それぞれ、アルキコキシ基である。オルガノシラザンで表面処理することで、第3の官能基のX
4、X
5がオルガノシラザンに由来する−OSiY
1Y
2Y
3(式(2)で表される官能基、第2の官能基)で置換される。シリカ粒子の表面に存在する水酸基の全てが第3の官能基で置換されていない場合には、シリカ粒子の表面に残存する水酸基が第2の官能基で置換される。このため、表面処理された原料シリカ粒子の表面には、式(1):−OSiX
1X
2X
3で表される官能基(すなわち第1の官能基)と、式(2):−OSiY
1Y
2Y
3で表される官能基と(すなわち第2の官能基)が結合する。なお、シランカップリング剤とオルガノシラザンとのモル比は、シランカップリング剤:オルガノシラザン=1:2〜1:10であるため、得られた原料シリカ粒子における第1の官能基と第2の官能基との存在数比は理論上1:12〜1:60となる。
【0058】
表面処理工程においては、シリカ粒子をシランカップリング剤及びオルガノシラザンで同時に表面処理しても良い。または、先ずシリカ粒子をシランカップリング剤で表面処理し、次いでオルガノシラザンで表面処理しても良い。または、先ずシリカ粒子をオルガノシラザンで表面処理し、次いでシランカップリング剤で表面処理し、さらにその後にオルガノシラザンで表面処理しても良い。何れの場合にも、シリカ粒子の表面に存在する水酸基全てが第2の官能基で置換されないように、オルガノシラザンの量を調整すれば良い。なお、シリカ粒子の表面に存在する水酸基は、全てが第3の官能基で置換されても良いし、一部のみが第3の官能基で置換され、他の部分が第2の官能基で置換されても良い。第3の官能基に含まれるX
4、X
5は、全て第2の官能基で置換されるのが良い。
【0059】
なお、オルガノシラザンの一部を、第2のシランカップリング剤で置き換えても良い。第2のシランカップリング剤としては、3つのアルコキシ基と、1つのアルキル基とを持つものを用いることができる。この場合には、第3の官能基に含まれるX
4、X
5が、第2のシランカップリング剤に由来する第4の官能基で置換される。第4の官能基は式(4):−OSiY
1X
6X
7で表される。Y
1は第2の官能基におけるY
1と同じRであり、X
6、X
7はそれぞれアルコキシ基または水酸基である。第4の官能基に含まれるX
6、X
7は、オルガノシラザンに由来する第2の官能基で置換されるか、または、別の第4の官能基で置換される。この場合には、原料シリカ粒子の表面に存在するRの量をさらに多くする事ができる。なお、オルガノシラザンの一部を、第2のシランカップリング剤に置き換える場合、第2のシランカップリング剤で表面処理した後に、再度オルガノシラザンで表面処理する必要がある。第4の官能基に含まれるX
6、X
7を、最終的にはオルガノシラザンに由来する第2の官能基で置換するためである。
【0060】
オルガノシラザンの一部を第2のシランカップリング剤で置き換える場合、上述した第1の官能基に含まれるX
4、X
5は、オルガノシラザンに由来する第2の官能基で置換されるか、第2のシランカップリング剤に由来する第4の官能基で置換される。X
4、X
5が第4の官能基で置換された場合、第4の官能基に含まれるX
6、X
7は、第2の官能基で置換されるか、別の第4の官能基によって置換される。第4の官能基に含まれるX
6、X
7が別の第4の官能基によって置換された場合、第4の官能基に含まれるX
6、X
7は、第2の官能基で置換される。このため第2のシランカップリング剤は、第1のカップリング剤及びオルガノシラザンのみで表面処理する場合(オルガノシラザンを第2のシランカップリング剤で置き換えなかった場合)に設定されるオルガノシラザンの量(a)molに対して、最大限5a/3mol置き換えることができる。この場合に必要になるオルガノシラザンの量は、8a/3molである。
【0061】
シランカップリング剤および第2のシランカップリング剤のアルコキシ基は特に限定しないが、比較的炭素数の小さなものが好ましく、炭素数1〜12であることが好ましい。アルコキシ基の加水分解性を考慮すると、アルコキシ基はメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基の何れかであることがより好ましい。
【0062】
シランカップリング剤として、具体的には、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシランが挙げられる。
【0063】
オルガノシラザンとしては、シリカ粒子の表面に存在する水酸基およびシランカップリング剤に由来するアルコキシ基を、上述した第2の官能基で置換できるものであれば良いが、分子量の小さなものを用いるのが好ましい。具体的には、テトラメチルジシラザン、ヘキサメチルジシラザン、ペンタメチルジシラザン等が挙げられる。
【0064】
第2のシランカップリング剤としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0065】
なお、表面処理工程において、シランカップリング剤の重合や第2のシランカップリング剤の重合を抑制するため、重合禁止剤を加えても良い。重合禁止剤としては、3,5−ジブチル−4−ヒドロキシトルエン(BHT)、p−メトキシフェノール(メトキノン)等の一般的なものを用いることができる。
【0066】
原料シリカ粒子は、表面処理工程後に固形化工程を備えても良い。固形化工程は、表面処理後の原料シリカ粒子を鉱酸で沈殿させ、沈殿物を水で洗浄・乾燥して、原料シリカ粒子の固形物を得る工程である。上述したように、一般的なシリカ粒子は非常に凝集し易いため、一旦固形化したシリカ粒子を再度分散するのは非常に困難である。しかし、原料シリカ粒子は凝集し難いため、固形化しても凝集し難く、また、例え凝集しても再分散し易い。なお、洗浄工程においては、原料シリカ粒子の抽出水(詳しくは、シリカ粒子を121℃で24時間浸漬した水)の電気伝導度が50μS/cm以下となるまで、洗浄を繰り返すのが好ましい。
【0067】
固形化工程で用いる鉱酸としては塩酸、硝酸、硫酸、リン酸などが例示でき、特に塩酸が望ましい。鉱酸はそのまま用いても良いが、鉱酸水溶液として用いるのが好ましい。鉱酸水溶液における鉱酸の濃度は0.1質量%以上が望ましく、0.5質量%以上が更に望ましい。鉱酸水溶液の量は、洗浄対象である原料シリカ粒子の質量を基準として6〜12倍程度にすることができる。
【0068】
鉱酸水溶液による洗浄は複数回数行うことも可能である。鉱酸水溶液による洗浄は原料シリカ粒子を鉱酸水溶液に浸漬後、撹拌することが望ましい。また、浸漬した状態で1時間から24時間、更には72時間程度放置することができる。放置する際には撹拌を継続することもできるし、撹拌しないこともできる。鉱酸含有液中にて洗浄する際には常温以上に加熱することもできる。
【0069】
その後、洗浄して懸濁させた原料シリカ粒子をろ取した後、水にて洗浄する。使用する水はアルカリ金属などのイオンを含まない(例えば質量基準で1ppm以下)ことが望ましい。例えば、イオン交換水、蒸留水、純水などである。水による洗浄は鉱酸水溶液による洗浄と同じく、原料シリカ粒子を分散、懸濁させた後、ろ過することもできるし、ろ取した原料シリカ粒子に対して水を継続的に通過させることによっても可能である。水による洗浄の終了時期は、上述した抽出水の電気伝導度で判断しても良いし、原料シリカ粒子を洗浄した後の排水中のアルカリ金属濃度が1ppm以下になった時点としても良いし、抽出水のアルカリ金属濃度が5ppm以下になった時点としても良い。なお、水で洗浄する際には常温以上に加熱することもできる。
【0070】
原料シリカ粒子の乾燥は、常法により行うことができる。例えば、加熱や、減圧(真空)下に放置する等である。
【実施例】
【0071】
本発明のシリカ被覆金属窒化物粒子及びその製造方法について実施例に基づき説明を行う。なお、本実施例では粒径について言及するときには特に一次粒子の粒径であるとの記載が無い場合には二次粒子の粒径について記載する。
【0072】
・試験試料の調製
・試験例A1〜A6:金属窒化物として窒化アルミニウムを採用
(試験例A−1)
金属窒化物粒子としての窒化アルミニウム粉(体積平均粒径(D50)1.9μm、(D90)3.2μm、比表面積2.6m
2/g、比表面積は窒素を用いたBET法にて測定した。)1kgと、シリカ粒子(アドマテックス製;ナノシリカ;体積平均粒径10nm)を50g(金属窒化物粒子の表面積1m
2あたり16mg(1層分))とを回転式混合器を用いて混合した(混合工程)。本試験においてrは1.2であった。この混合物を大気中にて室温から毎分20℃で昇温し、900℃に到達した後1時間900℃で加熱して焼結させた(加熱焼結工程)。得られた粉体を本試験例のシリカ被覆金属窒化物粒子とした。
焼結後、一部が凝集しているため、粉砕操作(ジェットミルなど)にて解砕した結果、単独の粒子(シリカ被覆金属窒化物粒子)にまで容易に分離できた。
【0073】
(試験例A−2)
混合物に対する焼結温度(加熱焼結工程における焼結温度)を1000℃にした以外は試験例A−1と同様の工程にて本試験例のシリカ被覆金属窒化物粒子を製造した。得られた試験試料についてSEMにて観察した(
図1)。
【0074】
(試験例A−3)
混合物に対する焼結温度(加熱焼結工程における焼結温度)を1200℃にした以外は試験例A−1と同様の工程にて本試験例のシリカ被覆金属窒化物粒子を製造した。得られた試験試料についてSEMにて観察した(
図2)。
【0075】
(試験例A−4)
シリカ粒子を添加しない以外は試験例A−2と同様の工程にて本試験例の金属窒化物粒子を製造した。得られた試験試料についてSEMにて観察した(
図3)。
【0076】
(試験例A−5)
試験例A−1で用いた金属窒化物粉そのものを本試験例の金属窒化物粒子とした。
【0077】
(試験例A−6)
試験例A−1における加熱焼結工程に供した混合物をそのまま本試験例のシリカ被覆金属窒化物粒子とした。
【0078】
・試験例A7〜A9:金属窒化物として窒化ケイ素を採用
(試験例A−7)
金属窒化物粒子としての窒化アルミニウム粉に代えて、窒化ケイ素粉(体積平均粒径(D50)3.2μm、(D90)6.8μm、比表面積2.0m
2/g)を用いた以外は試験例A−2と同様の工程にて本試験例のシリカ被覆金属窒化物粒子を製造した。シリカ粒子の添加量はrの値が同じになるように比表面積に応じて変化させた。
【0079】
(試験例A−8)
混合物に対する焼結温度(加熱焼結工程における焼結温度)を1200℃にした以外は試験例A−7と同様の工程にて本試験例のシリカ被覆金属窒化物粒子を製造した。
【0080】
(試験例A−9)
試験例A−7で用いた金属窒化物粉そのものを本試験例の金属窒化物粒子とした。
【0081】
・試験例A10〜A12:金属窒化物として試験例A−1〜A−6で採用したものよりも粒径が大きな窒化アルミニウムを採用
(試験例A−10)
金属窒化物粒子としての窒化アルミニウム粉(体積平均粒径(D50)11.7μm、(D90)24.3μm、比表面積4.8m
2/g)を用いた以外は試験例A−1と同様の工程にて本試験例のシリカ被覆金属窒化物粒子を製造した。シリカ粒子の添加量はrの値が同じになるように比表面積に応じて変化させた。
【0082】
(試験例A−11)
混合物に対する焼結温度(加熱焼結工程における焼結温度)を1000℃にした以外は試験例A−10と同様の工程にて本試験例のシリカ被覆金属窒化物粒子を製造した。
【0083】
(試験例A−12)
試験例A−10で用いた金属窒化物粉そのものを本試験例の金属窒化物粒子とした。
【0084】
・耐水性試験
各試験例の試験試料についてプレッシャークッカー抽出水の電気伝導度(EC)とpHとを測定した。プレッシャークッカー抽出水は試験試料3.5gを純水35mL中に浸漬し加圧しながら(約2atm)、121℃で24時間加熱することで行った。結果を表1に示す。表1において「焼結条件」での温度及び時間は「焼結温度」及び「その温度に達してからの焼結時間」を示す。試験例A−4についてはプレッシャークッカー抽出水の評価は行っていないが、後述するような通常の抽出水の評価を行った。
【0085】
【表1】
【0086】
表より明らかなように、試験例A−1〜A7を検討すると、900℃、1000℃で焼結を行った試験例A−1及びA−2においてはいずれも金属窒化物の粉のみである試験例A−5や、シリカ粒子を添加しただけで焼結を行っていない試験例A−6と比べて電気伝導度が小さくなり耐水性が向上したことが分かった。ここで、ECの値は金属窒化物が溶出する程度に応じて高くなる値である。焼結温度を1200℃にした試験例A−3ではECの値が大きくなることが分かった。シリカ粒子の付着状態を評価すると、シリカ粒子を添加していない試験例A−5の結果(
図3)と比較して試験例A−2(
図1)ではシリカ粒子の形状がそのまま観察できるが試験例A−3(
図2)では一部溶解しているようにも見えた。つまり、溶解が進行するような高温では充分な耐水性が発現できないことが示唆された。
【0087】
次に、金属窒化物粉を単独で加熱(1000℃、1時間)した試験例A−4については抽出水(純水35mLに3.5g添加して、30分間振とう後、14000r.p.m.で30分間遠心分離する)のECが59.1μS/cmであり、金属窒化物粉そのままである試験例A−5におけるECの値である24.6μS/cmよりも高い値を示した。従って、シリカ粒子は添加しただけでは耐水性向上の効果は充分で無く、添加して表面を被覆した状態で焼結することで耐水性の向上が発揮できることが明らかになった。
【0088】
窒化ケイ素を採用した試験例A−7〜A−9についても焼結温度が1000℃である試験例A−7では充分な耐水性が得られ、焼結温度が1200℃である試験例A−8では充分な耐水性が得られなかったことから焼結条件として1200℃を選択した場合の充分で無い耐水性向上効果の原因は金属窒化物の種類ではなくシリカ粒子に固有のものであることが示唆された。従って、金属窒化物として窒化アルミニウム、窒化ケイ素以外を採用した場合であっても表面を被覆するシリカ粒子を採用した場合には1200℃未満で加熱することにより耐水性が獲得できることが充分に示唆された。
【0089】
試験例A−1〜A−6と比べて体積平均粒径が大きい窒化アルミニウムを採用した試験例A−10〜A−12についても焼結温度が1000℃である試験例A−10では充分な耐水性が得られ、焼結温度が1200℃である試験例A−11では充分な耐水性が得られなかったことからも焼結条件として1200℃を選択した場合の充分で無い耐水性向上効果の原因は金属窒化物の粒径ではなくシリカ粒子に固有のものであることが示唆された。従って、金属窒化物の粒径を変化させた場合であっても表面を被覆するシリカ粒子を採用した場合には1200℃未満で加熱することにより耐水性が獲得できることが充分に示唆された。
【0090】
<シリカ粒子(表面処理を行ったもの)の製造>
〔試験例1〕
(原料シリカ粒子の製造)
シリカ粒子を水系媒質としての水に分散させた水系スラリーとしてのコロイドシリカスノーテックスOS(シリカ分20%:日産化学製:一次粒子の粒径が10nm)100質量部に対して前処理工程(表面処理工程及び乾燥工程)を行った。
【0091】
(表面処理工程)
(1)準備工程
水系スラリー100質量部にイソプロパノール40質量部を加え、室温(約25℃)で混合することで、シリカ粒子が液状媒体に分散されてなる分散液を得た。
(2)第1工程
この分散液にフェニルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM103)1.82質量部を加え40℃で72時間混合した。この工程により、シリカ粒子の表面に存在する水酸基をシランカップリング剤で表面処理した。なお、このときフェニルトリメトキシシランは必要な量の水酸基(一部)が表面処理されず残存するように計算して加えた。
(3)第2工程
次いで、この混合物にヘキサメチルジシラザン3.71質量部を加え、40℃で72時間放置した。この工程によって、シリカ粒子が表面処理され、シリカ粒子材料が得られた。表面処理の進行に伴い、疎水性になったシリカ粒子が水及びイソプロパノールの中に安定に存在できなくなり、凝集・沈殿した。なお、フェニルトリメトキシシランとメキサメチルジシラザンとのモル比は2:5であった。
【0092】
(固形化工程)
表面処理工程で得られた混合物に35%塩酸水溶液を4.8質量部加え、シリカ粒子材料を沈殿させた。沈殿物をろ紙(アドバンテック社製 5A)で濾過した。濾過残渣(固形分)を純水で洗浄した後に100℃で真空乾燥して、シリカ粒子材料の固形物(原料シリカ粒子)を得た。
得られたシリカ粒子はD10が8.8μm、D50が124.5μm、D90が451.9μmであった。
【0093】
(解砕工程)
得られた原料シリカ粒子に対して解砕工程を行い、本試験例のシリカ粒子を得た。解砕工程はジェットミル((株)セイシン企業製、型番STJ−200)を用い、解砕圧0.3MPa、供給量10kg/hの条件で実施した。得られたシリカ粒子は嵩密度が251.7g/L、D10が0.8μm、D50が1.8μm、D90が4.0μm、一次粒子の体積平均粒径が10nmであった。
【0094】
〔試験例2〕
試験例1における解砕工程に代えてスプレードライ法にて噴霧乾燥を行ったものを本試験例の試験試料とした。具体的には固形化工程にて得られた原料シリカ粒子100質量部をIPA200質量部に分散させ、それを180℃、5L/hの流量で噴霧して乾燥した。得られたシリカ粒子は嵩密度が341.3g/Lであった。
【0095】
〔試験例3〕
試験例1における解砕工程を実施せずに固形化工程で得られたものを本試験例の試験試料とした。得られたシリカ粒子は嵩密度が769g/L、D10が8.8μm、D50が124.5μm、D90が451.9μmであり、一次粒子の体積平均粒径が10nmであった。
【0096】
〔試験例4〕
市販のシリカ粒子(日本アエロジル(株)製、AEROSIL R972)を本試験例の試験試料とした。本試験例のシリカ粒子は嵩密度が41.0g/Lであった。
【0097】
〔試験例5〜7〕
試験例1における解砕工程において解砕圧及び供給量を調節することにより嵩密度を調節した。嵩密度は試験例5の試験試料が271.3g/L、試験例6の試験試料が364.6g/L、試験例7の試験試料が249.8g/Lであった。解砕圧を大きくすることにより嵩密度が大きくなる傾向があった。詳しい結果は示さないが、上述の試験と同様に金属窒化物粒子の表面を概ね隙間無く被覆できることが分かった。