【実施例1】
【0063】
[マウス]
本実施例では、以下のマウスを用いた。
C57BL/6−Ly5.2 RAG−2ノックアウト(RAG2
−/−)マウス(Taconic Farms社製又はCentral Laboratories for Experimental Animals社製);ニワトリβ−アクチンプロモーター及びサイトメガロウイルスエンハンサーの制御下でEGFPが発現するEGFPトランスジェニックマウス(Okabe, M., Ikawa, M., Kominami, K., Nakanishi, T. & Nishimune, Y. 'Green mice' as a source of ubiquitous green cells. FEBS Lett 407, 313-319 (1997));Lgr5−EGFP−IRES−CreERT2マウス(Barker, N., et al. Identification of stem cells in small intestine and colon1 by marker gene Lgr5. Nature 449, 1003-1007 (2007);Jackson LabよりStock No. 008875として購入可能);R26R−Confettiマウス(Snippert, H.J., et al. Intestinal crypt homeostasis results from neutral competition between symmetrically dividing Lgr5 stem cells. Cell 143, 134-144 (2010))
【0064】
[大腸陰窩の単離及び3D培養のためのTMDUプロトコール]
大腸陰窩の単離は、7〜9週齢の成体マウスを用いて以下の手順に従って行った。まず、大腸全体を回収し、ペニシリン100U/mL、ストレプトマイシン100μg/mL、及びゲンタマイシン50μg/mLを含有するハンクス平衡塩溶液(HBSS)を用いて内腔内容物を洗い流した。なお、これらの抗生物質は、以下の工程で用いる全ての溶液に添加した。大腸組織をHBSS中で繰り返し洗浄し、小片に切り刻んだ後、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)に1%FBSを添加した培地(完全DMEM)に、XI型コラゲナーゼ500U/mL(Sigma社製)、ディスパーゼ0.4U/mL(Roche社製)及び1mMジチオスレイトール(DTT)を加えた培地12.5mLに懸濁した。かかる懸濁液を37℃で15分間振盪することにより、酵素反応処理を行った。未消化断片をさらに細かくするため、組織断片を18ゲージ針に10回通した。その後、完全DMEMを10mL加え、管を激しく振盪した後、重力下で1分間静置した。陰窩懸濁液の上部10mLを新しい管に移した後、残存ペレットを18ゲージ針にさらに5回通し、完全DMEMをさらに10mL加えた。この手順を5回繰り返し、懸濁中の遊離大腸陰窩を合わせて遠心分離した。遠心分離により得られた沈殿物を、30%パーコール(GE Healthcare社製)/HBSS溶液10mLに懸濁した後、860gで5分間遠心分離した。かかるパーコール密度勾配遠心分離法により、細胞破片、脂肪及び線維状物質のほとんどが溶液上部に分離していたことから、大腸陰窩を濃縮することができた。さらに、細菌又は単一の細胞をかかる大腸陰窩から除くため、2%D−ソルビトールを含有する完全DMEM10mLに上記大腸陰窩を再懸濁し、300gで3分間遠心分離した。遠心分離により得られた沈殿物を70μmのセルストレイナー(BD Bioscience社製)に通すことにより、細菌や単一の細胞など大きな物質を除去した。精製した大腸陰窩を遠心分離し、アドバンストDMEM/F12(Invitrogen社製)で洗浄した後、大腸陰窩数をカウントした。なお、上記のように精製した大腸陰窩を遠心分離することにより得られた沈殿物を、培養に用いた。
大腸陰窩の培養は、以下に示した「TMDUプロトコール」における培養方法を用いて行った。2000個の大腸陰窩をI型コラーゲン溶液(Nitta Gelatin Inc.社製)200μLに懸濁し、48ウエルプレートに載置した。コラーゲンの重合後、各ウエルに、1%BSA(Sigma社製)、30ng/mLのmWnt3a(R&D Systems社製)、500ng/mLのマウス(m)Rspo1(R&D Systems社製)、20ng/mLのmEGF(Peprotech社製)、50ng/mLのmHGF(R&D Systems社製)及び50ng/mLのmNoggin(R&D Systems社製)を含有する500μLのアドバンストDMEM/F12を加えた(TMDU培地)。この培地を2日毎に交換した。継代を行うため、XI型コラゲナーゼを含有するDMEMにおいて全ゲルを37℃で5分間消化し、回収したオルガノイドをBSA含有PBSで洗浄した。このオルガノイド沈殿物を2mMのEDTA及び0.5%BSAを含有するPBSに懸濁し、激しく振盪した。これにより脱凝集した大腸オルガノイド小塊をI型コラーゲン溶液と混合して継代培養に使用した。単一細胞から複数細胞よりなる細胞塊までの継代培養に用いる細胞塊の大きさは、顕微鏡下で観察しながらEDTA処理時間を調節した。細胞増殖後の最初の2日間、Rhoキナーゼ阻害剤Y−27632を10μMで加えた。杯細胞の分化を誘導する場合には、γ−セクレターゼ阻害剤LY−411,575(100nM)で大腸オルガノイドを所定期間にわたり処理した。
【0065】
[染色体解析]
カルノア固定液を用いて染色体核型解析を行った。継代手順と同様の方法で大腸オルガノイドから細胞を回収した。遠心分離後、75mM KCl溶液に細胞を再懸濁し、37℃で15分間インキュベートした。その後、遠心分離を行い、メタノール−酢酸(3:1)溶液に細胞を再懸濁することにより細胞を固定した。固定した細胞を含んだメタノール−酢酸(3:1)溶液をスライドグラス上に滴下し、風乾した後、DAPIで染色体を染色して顕微鏡観察を行った。全部で10の分裂中期の細胞について染色体数をカウントした。
【0066】
[組織学的解析]
単離した大腸陰窩、成長中の大腸オルガノイド、及びレシピエントマウスの全大腸組織の画像は、PlanApo 4×0.2NA又はPlanApo 20×0.75NA対物レンズ(Nikon社製)及び位相差設定を備えた蛍光顕微鏡(BZ−8000、KEYENCE社製)を用いて取得した。また、大腸損傷組織上に移植された上皮画像のいくつかは、蛍光立体顕微鏡システムMVX10(Olympus社製)を用いて取得した。また大腸上皮切片の蛍光画像は、UplansApo 10×0.4NA又はUplansApo 20×0.75NA対物レンズ(Olympus社製)を備えた蛍光顕微鏡IX−71(Olympus社製)とDeltaVisionシステム(Applied Precision社製)を用いて取得した。組織学的及び免疫組織化学的解析を行うための凍結切片は、コラーゲンゲル中の組織及び大腸オルガノイドを4%パラホルムアルデヒドで4℃にて一晩固定した後、10%、15%及び20%のスクロースを含むPBS中で連続脱水し、凍結組織包埋剤(OCTコンパウンド、Tissue Tek社製)中で凍結することにより作製した。6μm厚さの凍結切片を、従来法のH&E染色法、アルシアンブルー染色法、及び免疫組織化学法を用いて解析した。
【0067】
[透過型電子顕微鏡]
増殖中の大腸オルガノイドを含むI型コラーゲンゲルを、2.5%グルタルアルデヒドを含有する0.1M PBSで2時間固定した後、0.1M PBS緩衝液中で4℃、一晩洗浄し、1%O
SO
4を含む0.1M PBSで2時間後固定を行い、その後段階希釈したエタノールで脱水し、Epon 812に包埋した。超薄切片(90nm)を銅グリッド上に回収し、酢酸ウラニル及びクエン酸鉛で二重染色した後、透過型電子顕微鏡(H−7100、日立株式会社製)を用いて解析した。
【0068】
[リアルタイムイメージング]
リアルタイムイメージングはDeltaVisionシステムを用いて行った。顕微鏡ステージにガラス底の培養皿を設置し、CO
25%及び空気95%からなるプレミックスされた加湿性ガスが持続注入されたチャンバーで上記培養皿を覆い、さらにこれら全体を37℃に設定した温度制御チャンバーで覆った。リアルタイム画像として、20分間隔で微分干渉(DIC)画像及び蛍光画像を取得した。これらの画像データは、softWorx(Applied Precision社製)で処理し、必要に応じてAdobe(登録商標) Photoshop(登録商標) Elements 7.0(Adobe社製)を用いて画像編集を行った。
【0069】
[半定量的RT−PCR]
TRIzol試薬(Invitrogen社製)を用いて全RNAを単離し、かかる全RNA1μgを用いて21μL反応系でcDNAを合成した。cDNA1μLを用いて25μL反応系でPCRによりDNAを増幅した。なお、PCRに用いたプライマー配列及び半定量PCRの条件を以下の表1に示す。PCR産物をアガロースゲル上で分離し、臭化エチジウムで染色した後、ImageQuant TL system(GE Healthcare社製)で視覚化した。
【0070】
【表1】
【0071】
[単一Lgr5
+細胞のソーティング及びHubrechtプロトコール(以下「HIプロトコール」という)による培養]
Lgr5−EGFP−IRES−CreERT2マウスと交配させたR26R−Confettiマウスにタモキシフェン5mgを注入し、cre誘導の3日後に大腸陰窩を単離した。上皮細胞をTrypLE expres(Invitrogen社製)を用いて37℃で2時間解離し、20μmの細胞ストレイナー(Celltrix社製)に通し、PBSで洗浄し、MoFlo(DakoCytomation社製)で解析した。前方散乱、側方散乱、及びパルス幅パラメータにより細胞集団をゲーティングし、ヨウ化プロピジウム又は7−ADD(eBioscience社製)に対するネガティブ染色で死細胞を排除した。EGFP及びRFPに二重陽性を示す細胞をソーティングし、マトリゲル(BD bioscience社製)に包埋し、96ウエルプレートに播種した。ペニシリン/ストレプトマイシン、10mMのHEPES、Glutamax、1×N2、1×B27(全てInvitrogen社製)及び成長因子(EGF50ng/mL、noggin100ng/mL、R−spondin1μg/mL)を添加したアドバンストDMEM/F12をWnt3a条件培養液で1:1に希釈し、大腸陰窩培養培地(Hubrecht培地)として使用した。アノイキス(Anoikis)を防ぐため、最初の2日間はROCK阻害薬であるY−27632(10μM)を含めた。2日毎に成長因子を加え、4日毎に培地全体を交換した。
【0072】
[移植実験]
移植用のEGFP
+細胞として、大腸組織から単離した細胞をTMDUプロトコールにおける培養方法に基づき5日又は8日間培養したものを用いた。単一のLgr5
+細胞由来大腸オルガノイドの移植用として、ソーティングしたEGFP
+/RFP
+細胞をHIプロトコールに基づき5〜10週間増殖させた後、Recovery TM cell culture freezing medium(GIBCO社製)中で凍結保存した。かかる細胞を凍結解凍して用いる場合、少なくとも5週間HI(Hubrecht)プロトコールに基づいて培養するとともに、移植の1週間前にはTMDUプロトコールにおける培養方法に変更して培養を行った。急性大腸炎の誘導は、3.0%DSS(分子量10,000;Ensuiko Sugar Refining Co.社製)が溶解した飲料水を、RAG2
−/−マウスに5日間(1〜5日目)給餌することにより行った。大腸炎の重篤度の評価は、マウスの体重を測定することにより行った。DSS投与開始から7日後及び10日後、I型コラーゲンゲルからドナー大腸オルガノイドを回収し、EDTAを用いて細胞間接着を解離させ、BSA含有PBSを用い、継代手順と同様にして洗浄した。約500個のオルガノイドから得られる量に相当する細胞小塊をPBSで希釈したマトリゲル(1:20)200μLに再懸濁した。この細胞懸濁液を、シリンジと長さ4cm及び直径2mmの薄型弾力性カテーテルとを用いて大腸内腔に注入した。注入後、内腔内容物が直ちに排出されるのを防ぐため、肛門縁を6時間接着した。10日目の移植以降は、屠殺して解析するまでの間、マウスを通常通り維持した。
【0073】
[テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)−デキストラン透過アッセイ]
透過性プローブとして用いられている非代謝性高分子のTRITC−デキストラン(分子量4.4kDa;Sigma社製)を投与し、腸透過性を評価した。屠殺4時間前の移植マウス及び偽移植マウスにTRITC−デキストラン(4mg/体重10g)を、チューブを用いて経口的に消化管内投与した。屠殺時に心穿刺により全血を取得し、EGFP
+移植片の有無について大腸組織を調べた。TRITC−デキストラン測定は、TRITC−デキストランを含むPBS溶液の連続希釈液を標準曲線として用い、ARVO MX(PerkinElmer社製)を用いて2回ずつ行った。
【0074】
[ヒト大腸上皮幹細胞の単離法・培養法・継代維持法]
(1)ヒト大腸上皮幹細胞の単離法
1)大腸内視鏡検査施行時に通常の組織検査施行と同様の鉗子を用い、径5〜6mm程度のヒト大腸組織を採取した。
2)抗生物質(antibiotics、以下Abと略す;100U/mL ペニシリン、100mg/mL ストレプトマイシン、50mg/mL ゲンタマイシン)を含むHBSSをチューブに入れて、あらかじめ氷上で4℃に冷やしておいたものに、直ちにヒト大腸組織を移した。
3)4℃の低温を保ったまま、速やかに内視鏡室から研究室へ移送した。
4)ヒト大腸組織をHBSS+Abで2回、チューブを震盪し洗浄した。
5)ペトリ皿上へヒト大腸組織を移し、HBSS+Ab液を取り除きながら、カミソリ刃で細切した。
6)細切断したヒト大腸組織を、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)に1%FBSを添加した培地(完全DMEM)に、XI型コラゲナーゼ500U/mL(Sigma社製)、ディスパーゼ0.4U/mL(Roche社製)及び1mMジチオスレイトール(DTT)を加えた培地12.5mLに懸濁した後、50mLファルコンチューブ(BD社製)に移した。
7)37℃で震盪させながら7分間消化処理を行なった。
8)消化処理後、8G針付き10mLシリンジで10回さらに細切した。
9)2%D−ソルビトールを含有する血清(−)DMEM+Ab20mLを加え、1180rpmで3分間遠心処理した。
10)得られた沈殿物ペレットを、30%パーコール(GE Healthcare社製)/HBSS溶液10mLに懸濁した後、15mLチューブへ移し、2000rpmで5分間遠心した。
11)得られた沈殿物ペレットを、2%D−ソルビトールを含有する血清(−)DMEM+Ab10mLに懸濁した後、300μmメッシュを通し粗大組織を除去し、15mLのstemfullチューブ(住友ベークライト社製)に回収した。
12)血清(−)DMEM+Ab10mLを加え、1500rpmで3分間遠心する洗浄操作を2回繰り返した。
13)得られた大腸陰窩数をカウントした。
【0075】
(2)ヒト大腸上皮幹細胞の培養法
1)培養プレート(24ウエル)の1ウエルあたりに適量の大腸陰窩が分配されるよう、I型コラーゲン溶液(新田ゼラチン社製)に混和した。
2)1ウエルに対して細胞−I型コラーゲン溶液の混合液50μLを、培養皿の中央にドーム状の形状になるよう滴下した。
3)37℃で30分間静置し、コラーゲンのゲル化を確認したら培地(下記に示す)500μLを入れた。
4)培地交換は、3日おきに行なった。
【0076】
(3)ヒト大腸上皮幹細胞の継代維持法
1)6−10日毎に、大腸オルガノイドが大きくなったタイミングで継代を行なった。
2)細胞を含むゲルを破壊しないように周囲の培地を完全に吸引した。
3)2mLピペットを用いてゲルを吸引しながら培養皿から剥がし、15mLのstemfullチューブに回収した。
4)血清(−)DMEM+XI型コラゲナーゼ500U/mL(Sigma社製、c4785、130μL/1000μL)を加えた。
5)37℃で5分間振盪してコラーゲンゲルを消化処理した。
6)HBSS10mLで1回洗浄し、2000rpmで3分間遠心処理した。
7)Trypsin/EDTA(GIBCO社製)3mLを加えて、37℃で5分間振盪した。
8)顕微鏡で観察しながら、大腸オルガノイドが細胞クラスターに分散されるまで3−5回振盪した。
9)血清(−)DMEM10mLで2回洗浄し、2000rpmで3分間遠心処理した。10)I−A型コラーゲン溶液50μL/ウエルで混和し、コーティーング済み24ウエル培養皿に45μLずつ培養皿の中央にドーム状に播種した。
11)37℃で30分間培養し、コラーゲンがゲル化していることを確認したら培養液500μLを加えた。
12)培地交換は、3日おきに行なった。
【0077】
(4)培地
ヒト大腸上皮幹細胞の単離法・培養法・継代維持法における培地として、以下の表2記載の組成の培地などを用いた。
【0078】
【表2】
【0079】
[統計解析]
実験データは平均値±SEMで表す。統計解析は、Paired studentT検定又はMann-Whitney U検定により、それぞれのグループ間を比較して行った。比較における統計的有意性は、P<0.05とした。
【0080】
[結果]
酵素(Booth, C., Patel, S., Bennion, G.R. & Potten, C.S. The isolation and culture of adult mouse colonic epithelium. Epithelial Cell Biol 4, 76-86 (1995))、還元剤(Whitehead, R.H., Demmler, K., Rockman, S.P. & Watson, N.K. Clonogenic growth of epithelial cells from normal colonic mucosa from both mice and humans. Gastroenterology 117, 858-865 (1999))及び機械的破砕により、成体マウスの大腸組織から、非上皮組織成分をほとんど含まない大腸陰窩を単離することができた。かかる大腸陰窩の遺伝子発現解析を行ったところ、終末分化マーカー遺伝子(MUC2、CAII及びCgA)を発現する細胞及びLgr5
+細胞の両者を含むE−カドヘリン陽性上皮細胞が回収されていることや、α−SMA陽性筋線維芽細胞等の非上皮細胞は効率的に除去されることが明らかになった。
【0081】
次に、大腸陰窩細胞の培養方法について検討を行った。小腸細胞を培養するためには、Rspo1(R-spondin1)、Noggin及びEGFの計3因子が必要不可欠であることが知られている(Sato, T., et al. Single Lgr5 stem cells build crypt-villus structures in vitro without a mesenchymal niche. Nature 459, 262-265 (2009))。そこで、かかる3因子を用いて大腸陰窩細胞の培養を試みたが、大腸陰窩細胞を培養維持することはできなかった。そのため、小腸細胞の培養方法に、以下の1)〜4)の内容を組み込み、培養方法の改良を行った。1)大腸陰窩細胞をI型コラーゲンゲルに三次元的に包埋するとともに、無血清培地で培養を行う。2)Wntシグナル経路を活性化し、胃上皮のインビトロでの増幅に不可欠なWnt3a(Barker, N., et al. Lgr5(+ve) stem cells drive self-renewal in the stomach and build long-lived gastric units in vitro. Cell Stem Cell 6, 25-36 (2010))を用いる。3)大腸上皮細胞等の種々の細胞型の増殖を調節する間充織由来の多面発現因子であることが知られている(Kanayama, M., et al. Hepatocyte growth factor promotes colonic epithelial regeneration via Akt signaling. Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol 293, G230-239 (2007)、Tahara, Y., et al. Hepatocyte growth factor facilitates colonic mucosal repair in experimental ulcerative colitis in rats. J Pharmacol Exp Ther 307, 146-151 (2003))、肝細胞増殖因子(HGF)を用いる。4)長期細胞培養に必要なB27サプルメント(Barker, N., et al. Lgr5(+ve) stem cells drive self-renewal in the stomach and build long-lived gastric units in vitro. Cell Stem Cell 6, 25-36 (2010))の一成分であるウシ血清アルブミン(BSA)を用いる。すなわち、小腸細胞の培養に用いる3因子(mRspo1、mNoggin及びmEGFの他に、mWnt3a、mHGF及びBSAを培地に添加し、かかる培地を用いて大腸陰窩細胞を培養したところ(本発明の培養方法である、「TMDUプロトコール」における培養方法)、大腸陰窩細胞は健全に増幅することが明らかとなった。
また、「TMDUプロトコール」における培養方法を用いて大腸陰窩細胞の増殖の様子を観察すると、大腸陰窩細胞が急速に増殖し、閉鎖内腔空間を有する球形の嚢胞構造を形成し、オルガノイドを形成することが明らかとなった(
図1a)。また、大腸陰窩細胞を培養維持する上で、Wnt3a、Rspo1及びBSAが必要かどうか検証したところ、これらいずれの1つを欠いた場合、大腸陰窩細胞を培養維持できないことが明らかとなった(
図2a)。この結果は、Wnt3a、Rspo1及びBSAの3因子が、大腸陰窩細胞の培養維持に必要不可欠であることを示している。他方、Noggin、EGF及びHGFの3因子は、必須ではないものの、それぞれが大腸陰窩細胞の細胞増殖を促進した(
図2b)。
【0082】
次に、本発明の培養方法により形成した大腸オルガノイドについて、細胞レベルの詳細な解析を行った。大腸オルガノイドは、単層細胞からなり、またE−カドヘリンに対する抗体を用いて染色すると陽性を示したことから、本発明の大腸オルガノイドは組織学的に上皮細胞の特徴を有していることが明らかとなった(
図1b、左から1番目)。なお、大腸オルガノイドの基底側は常に外側に面していた(
図1b、一番左)。また、増殖細胞の指標となる抗Ki67抗体染色で検出される細胞が多く観察された(
図1b、左から2番目)。この結果は、本発明の大腸オルガノイドには活発に増殖する細胞が豊富に存在していることを示している。また、大腸オルガノイドにおいて、終末分化を示す細胞が存在するかどうか検証するために、アルシアンブルー染色(杯細胞を染色)、抗CgA抗体(腸内分泌細胞を検出)、抗CAII抗体(成熟大腸細胞を検出)及び抗Cox1抗体(タフト細胞を検出(Gerbe, F., et al. Distinct ATOH1 and Neurog3 requirements define tuft cells as a new secretory cell type in the intestinal epithelium. J Cell Biol 192, 767-780 (2011))を用いて染色を行ったところ、アルシアンブルー染色(
図1b、左から3番目)、抗CgA抗体(
図1b、右から3番目)、抗CAII抗体(
図1b、右から2番目)及び抗Cox1抗体(
図1b、右から1番目)で検出される細胞が存在していることが明らかとなった。この結果は、本発明の大腸オルガノイドには、終末分化した大腸細胞が存在することを示している。また、大腸オルガノイドを、透過型電子顕微鏡を用いて解析したところ、微繊毛(
図1c)や細胞間接着装置複合体(
図1d)など上皮細胞の特徴が明らかとなり、かつこれら細胞が単層に配列し内腔を囲んでいることが明らかとなった。また、有糸分裂細胞に特徴的な凝縮した染色体を有し、活発に増殖する細胞が存在していた(
図1e)。さらに、半透明の分泌小胞を含む杯細胞(
図1f)や小さな高電子密度顆粒を有する腸内分泌細胞(
図1g)など終末分化細胞が存在していた。これら
図1e〜gに示す結果は、
図1bで示した免疫組織染色の結果を支持している。
【0083】
次に、破壊したオルガノイドから得られる大腸陰窩細胞がオルガノイド構造を再構築するかどうかを検証した。大腸オルガノイドを細胞塊又は単一の細胞になるまで破壊した後、新鮮なコラーゲンゲルに1:2(細胞:コラーゲン)の割合で包埋して培養を行うと、嚢胞構造を有するオルガノイドが再度形成された。また、小腸細胞の継代培養で示されているように(Sato, T., et al. Single Lgr5 stem cells build crypt-villus structures in vitro without a mesenchymal niche. Nature 459, 262-265 (2009))、Rhoキナーゼ阻害剤Y−27632(Watanabe, K., et al. A ROCK inhibitor permits survival of dissociated human embryonic stem cells. Nat Biotechnol 25, 681-686 (2007))により大腸細胞の再播種効率が向上した。さらに、Rhoキナーゼ阻害剤Y−27632を用いた継代培養を週1回、計6ヶ月以上培養を行っても、細胞はその特徴(
図1h)及び核型(
図1i)を変えず、大腸オルガノイドを増幅することができた。
【0084】
次に、大腸オルガノイドにおける幹細胞の維持について調べた。継代培養1、8及び60日目に細胞を回収し、大腸上皮幹細胞マーカーであるLgr5 mRNAの発現を解析した。その結果、Lgr5 mRNAの発現は、培養後少なくとも60日目まで検出され、特に8日目から顕著に亢進していた(
図3a)。また、CgA遺伝子及びCAII遺伝子の発現レベルは、大腸陰窩細胞の培養直後から変化しなかったが、杯細胞マーカー遺伝子として知られているMUC2遺伝子の発現レベルは、大腸陰窩細胞の培養により抑制された(
図3a)。また、Wnt3a、Rspo1及びBSAの組合せによりLgr5遺伝子発現が誘導された。この結果は、Wntシグナル伝達が、幹細胞性の維持に重要であることを示している(
図3b)。さらに、Lgr5遺伝子の発現は、BMPシグナル伝達のアンタゴニストであるNoggin(Haramis, A.P., et al. De novo crypt formation and juvenile polyposis on BMP inhibition in mouse intestine. Science 303, 1684-1686 (2004))によってさらに促進された(
図3b)。この結果は、BMPシグナル伝達が幹細胞性の維持に拮抗することを示している。また、Notch経路は、前駆細胞(Fre, S., et al. Notch signals control the fate of immature progenitor cells in the intestine. Nature 435, 964-968 (2005)、van Es, J.H., et al. Notch/gamma-secretase inhibition turns proliferative cells in intestinal crypts and adenomas into goblet cells. Nature 435, 959-963 (2005))及び幹細胞(van Es, J.H., de Geest, N., vande Born, M., Clevers, H. & Hassan, B.A. Intestinal stem cells lacking the Math1 tumour suppressor are refractory to Notch inhibitors. Nat Commun 1, 1-5 (2010))の分泌系列への分化を抑制することで細胞運命決定に関与することが知られている。そこで、Notch経路が培養大腸オルガノイドにおける幹細胞性の維持に関与しているかどうかについて調べた。Notchシグナル伝達の阻害剤であるγ−セクレターゼ阻害剤(GSI)LY−411,575(Wong, G.T., et al. Chronic treatment with the gamma-secretase inhibitor LY-411,575 inhibits beta-amyloid peptide production and alters lymphopoiesis and intestinal cell differentiation. J Biol Chem 279, 12876-12882 (2004)、Okamoto, R., et al. Requirement of Notch activation during regeneration of the intestinal epithelia. Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol 296, G23-35 (2009).)で本発明の大腸オルガノイドを処理したところ、ほとんどの細胞が杯細胞へ分化し(
図3c、左)、MUC2遺伝子の発現亢進と、その反対にLgr5遺伝子の発現低下が認められた(
図3c、右)。この結果は、本発明の大腸オルガノイドにおける幹細胞性の維持には、Notchシグナルが関与していることを示している。
【0085】
次に、本発明の大腸オルガノイドで認められるLgr5 mRNAレベルの増大が、幹細胞数の増加によるものか、あるいは個々の幹細胞におけるLgr5遺伝子発現レベルの上昇によるものかについて調べた。まず、EGFP及びタモキシフェン誘導性CreリコンビナーゼカセットがLgr5遺伝子座に組み込まれた、Lgr5−EGFP−ires−CreERT2マウス(Barker, N., et al. Identification of stem cells in small intestine and colon by marker gene Lgr5. Nature 449, 1003-1007 (2007))から大腸陰窩細胞を単離し、かかる大腸陰窩細胞が大腸オルガノイドを形成する様子をリアルタイムイメージングで解析した。Lgr5プロモーターによって誘導されるEGFPの発現をEGFPの蛍光(以下、単に「EGFPの発現」、又は「EGFPのシグナル」という)によって検出したところ、大腸陰窩細胞単離直後(1日目の0h)には大腸陰窩の限定された領域でEGFPの発現が僅かに認められ、その後数日間はEGFPの発現はほとんど検出されなかったが、5日目(128h)頃から、EGFPのシグナルが認められ、その後数日間にわたり大腸オルガノイドの複数の領域でEGFPの強いシグナルが認められるようになった(
図3d)。この結果は、EGFPを発現する細胞、すなわちLgr5
+細胞が増殖していることを示している。さらに個々の細胞を検出できる解像度で詳細に解析するために、大腸陰窩細胞培養後6日目にオルガノイド連続切片を作製し、かかる切片におけるEGFPのシグナルを検出したところ、複数の領域に複数のEGFP
+細胞が認められ、これらが構造全体の40〜50%の細胞を占めていたことが明らかとなった。この結果は、Lgr5
+細胞が増殖していることを示す、上述のリアルタイムイメージングの結果を支持している。重要な点として、個々のオルガノイドにおけるEGFP
+細胞の数は大きく異なっていたことが挙げられる。この結果は、何世代にもわたる継代の間に、Lgr5プロモーター−EGFP遺伝子座は抑制(サイレント化)する傾向にあることを示唆しているが、一方で野生型(wt)プロモーター−Lgr5対立遺伝子の発現は一定レベルに保たれていた(
図3a、b)。同様の現象は、小腸オルガノイドでも認められた。以上の結果は、大腸Lgr5
+幹細胞は、小腸Lgr5
+幹細胞(Sato, T., et al. Single Lgr5 stem cells build crypt-villus structures in vitro without a mesenchymal niche. Nature 459, 262-265 (2009))と同様に、インビトロで自己複製により増殖できることを示している。
【0086】
次に、インビトロで培養した本発明の大腸オルガノイド由来の幹細胞(以下、単に「本発明における大腸上皮幹細胞」という)が、インビボで大腸上皮を再び再生しうるかどうかを調べた。まず、ヒトにおける炎症腸疾患(IBD)に類似した大腸炎モデルマウスを作製した(Wirtz, S., Neufert, C., Weigmann, B. & Neurath, M.F. Chemically induced mouse models of intestinal inflammation. Nat Protoc 2, 541-546 (2007))。具体的には、免疫機能を低下させたRAG2
−/−マウスに、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)含有水を5日間給餌することにより、大腸粘膜に化学物質起因性炎症を惹起させた。かかるマウスが、体重減少、血便及び下痢を特徴とする急性大腸炎を発症し、特に大腸の最遠位部、すなわち肛門付近に顕著な上皮損傷が認められることを確認した。次に、大腸上皮へ移植するために、注腸によって本発明における大腸上皮幹細胞を大腸炎症組織に送達するという簡便かつ独特のアプローチを考え、それを具体化した移植ストラテジーを考案した(
図4a)。ここで、大腸炎モデルマウス由来の大腸陰窩と移植片(本発明における大腸上皮幹細胞)とを区別するため、EGFP発現トランスジェニックマウス(Okabe, M., Ikawa, M., Kominami, K., Nakanishi, T. & Nishimune, Y. 'Green mice' as a source of ubiquitous green cells. FEBS Lett 407, 313-319 (1997))をドナーマウスとして用いた。RAG2
−/−マウスのDSS投与開始から7日後及び10日後、EGFP
+ドナーマウス由来の大腸オルガノイドを小断片に解離し、本発明における大腸上皮幹細胞をマトリゲル含有PBSに懸濁した後、大腸炎モデルマウス(以下、「レシピエント」、又は「レシピエントマウス」ともいう)の大腸内に注入した。
【0087】
2回目の移植から6日後(DSS投与開始から16日後)では、本発明における大腸上皮幹細胞を移植したレシピエントマウスは、移植しなかったレシピエントマウスと比べ、大腸の上皮損傷レベルの低下が認められたものの、依然として遠位大腸の浮腫状領域に囲まれた粘膜欠損が認められた(
図4b)。興味深いことに、移植を受けたレシピエントでは、主に上記陥凹病変部において複数のEGFP
+(本発明における大腸上皮幹細胞を示す)領域が境界の明瞭な区画として観察された(
図4b)。この結果は移植した本発明における大腸上皮幹細胞が損傷した粘膜に付着したことを示唆している。その裏付けとして、DSSを投与しなかったRAG2
−/−マウスを用いた場合、大腸のいかなる部位にも上記EGFP
+領域は認められなかった。そこで、移植した本発明における大腸上皮幹細胞がレシピエントの損傷した粘膜に付着しているかどうか組織学的に詳細に解析を行ったところ、EGFP
+細胞は、陰窩構造を保持している損傷度の低いレシピエント組織(
図4c下図、矢頭)間に存在する、大腸上皮が欠損した損傷粘膜を覆っていることが示された。また、EGFP
+細胞は、平坦なシート状配列(
図4c、上図、白抜きの細い矢印)、又は大腸陰窩に似た僅かに陥入した構造(
図4c、上図、白抜きの幅広矢印)を形成した。
さらに、EGFP
+細胞には、損傷部位の端部でレシピエントの上皮と結合するものや(
図4d、白抜き矢頭及び白矢頭)、レシピエント大腸上皮がない領域に付着するものが認められた(
図4e、白抜き矢頭及び白矢頭)。これらの結果は、外因的に供給された本発明における大腸上皮幹細胞は、種々のパターンをもってレシピエントの大腸上皮損傷を補うことができることを示している。また、本発明における大腸上皮幹細胞の移植を受けたレシピエントマウスは、偽移植されたマウスよりも体重が早く回復することが示された(
図4f、12、13及び14日目;p<0.05)。この結果は、本発明における大腸上皮幹細胞は、大腸上皮の損傷をレスキューすることを示すとともに、急性大腸炎の回復を促進することを示している。
【0088】
次に、本発明における大腸上皮幹細胞をレシピエントへ移植し、4週間目に大腸上皮を解析したところ、管状EGFP
+陰窩からなる局所的領域が認められた(
図5a)。この結果は、本発明における大腸上皮幹細胞由来のEGFP
+細胞が、大腸の遠位末端の上皮損傷領域で生着した後に4週間わたり生存していることを示している。また、EGFP
+細胞が、周囲のレシピエント由来細胞(EGFP
−細胞)と同様に、深い陥入を有する成熟陰窩構造をもつ単層上皮を形成することが組織学的に示された(
図5b、左)。特記すべき点として、EGFP
+細胞を含む陰窩は、その陰窩内のすべての細胞がEGFP
+細胞となっていることが挙げられる。これらの結果は、インビトロで培養した本発明における大腸上皮幹細胞は、再び体内に戻した後の移植後大腸上皮においても、大腸上皮幹細胞として機能していることを示唆している(
図5b、右)。また、免疫組織染色を行った結果、EGFP
+陰窩の下部に局在する抗Ki67抗体で陽性染色を示す細胞は、近傍のレシピエント由来のEGFP
−陰窩で抗Ki67抗体陽性染色を示す細胞と同様の分布を示すことから、移植片内の細胞が活発に増殖していることが明らかとなった(
図5c、左から1番目)。さらに、組織の連続切片を用いた解析から、ドナー由来EGFP
+陰窩には、あらゆる終末分化細胞、すなわち杯細胞(
図5c、左から2番目)、腸内分泌細胞(
図5c、左から3番目)、成熟大腸細胞(
図5c、右から2番目)及びタフト細胞(
図5c、右から1番目)が含まれていたことが明らかになった。これらの結果は、レシピエントマウスにおいて、組織常在幹細胞が消失した領域に、移植した本発明における大腸上皮幹細胞入れ替わり生着することでその欠損を補充したことを示している。さらに興味深いことに、大腸組織から単離した直後の大腸上皮細胞をレシピエントマウスに導入した場合に比べ、大腸上皮細胞を本発明における大腸上皮幹細胞培養で増幅した後に移植した方が、移植効率(EGFP
+細胞領域の広さで評価)が優位に高いことが示された(p<0.05;Mann-Whitney U test)。この結果は、インビトロで幹細胞を増やすことが可能な本発明における大腸上皮幹細胞を用いると、移植効率が高まることを示唆している。さらに、マトリゲル含有大腸オルガノイド懸濁液を移植したレシピエントマウスでは、PBSに懸濁した大腸オルガノイドを移植したレシピエントマウスと比べ、移植効率は上昇していた(p<0.05;Mann-Whitney U test)。この結果から、マトリゲルなどの細胞外基質成分を本発明における大腸上皮幹細胞と同時に移植に用いると、本発明における大腸上皮幹細胞の損傷部位への接着、や移植過程における早期生着が促進されるなどの、何らかの作用が生じ、移植効率が向上すると考えられる。
【0089】
さらに、本発明における大腸上皮幹細胞を移植し、生着させた大腸上皮が、正常なバリア機能を有する上皮の完全性を備えているかを確認するために、本発明における大腸上皮幹細胞移植マウス群(DSS(+) engraft(+))及び偽移植コントロールマウス群(DSS(+)sham)のそれぞれに対して、上皮透過性試験用のプローブであるテトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)共役デキストラン(TRITC−デキストラン)を腸内投与し、TRITC−デキストランの経粘膜輸送について調べた。この実験は、分子量の大きいデキストランが正常な腸上皮から吸収されないのに対し、腸上皮に炎症などの異常があると、細胞の間隙から吸収されることにより血中のTRITC−デキストラン値(血中TRITC値)が上昇する性質を利用している。
図5dの右のグラフには、DSSを1日目から5日目まで投与し、DSS投与開始から6日目のDSS投与マウス(DSS(+))における血中TRITC値と、DSSを投与していないコントロールマウス(DSS(−))における血中TRITC値を示す。DSS(+)では、DSS(−)と比較して、血中TRITC値が有意に上昇していることが示されている。このことは、この実験系が腸上皮のバリア機能の状態を判別できることを表している。
一方、
図5dの左のグラフには、本発明における大腸上皮幹細胞移植マウス群(DSS(+) engraft(+))と、偽移植コントロールマウス群(DSS(+)sham)の血中TRITC値をそれぞれ示す。いずれの値も、DSS投与の開始から38日目であって、移植あるいは偽移植の開始から既に4週間経過後のものである。移植から4週間経過後という時期は、偽移植コントロールマウス群(DSS(+)sham)では、内因性の大腸上皮幹細胞により、大腸上皮が既に再生されている時期に相当する。
図5dの左のグラフの結果から、本発明における大腸上皮幹細胞移植マウス群(DSS(+) engraft(+))の血中TRITC値は、偽移植コントロールマウス群(DSS(+)sham)と有意な差が認められないことが明らかとなった。このことは、本発明における大腸上皮幹細胞が移植された大腸粘膜が、デキストランなどの大きな分子を透過させないという上皮バリア機能に重要な上皮の完全性(epithelial integrity)を維持していることを示している。すなわち、これらの結果は、本発明における外来性の大腸幹細胞等も、内因性の大腸上皮幹細胞と同様に、生体内で増殖し、正常なバリア機能を有する上皮の完全性を備えることができることを示している。なお、大腸上皮幹細胞を移植しても、必ずしも全例で生着しないため、本発明における大腸上皮幹細胞移植マウス群(DSS(+) engraft(+))では、開腹して大腸を観察し、本発明における大腸上皮幹細胞由来のEGFP陽性移植片が確認された固体のみを選別して、
図5dの左のグラフにおける血中TRITC値の統計処理に用いている。
【0090】
次に、単一の大腸上皮幹細胞から大腸オルガノイドを作製し、レシピエントマウスへ移植する実験を行った(
図6a)。このためまず、単一の大腸上皮幹細胞に由来する子孫細胞を追跡及び視覚化するため、Lgr5−EGFP−Ires−CreERT2マウスとR26R−Confettiレポーターマウス(Snippert, H.J., et al. Intestinal crypt homeostasis results from neutral competition between symmetrically dividing Lgr5 stem cells. Cell 143, 134-144 (2010))とを交配させた後、得られた子孫マウスにタモキシフェン誘導型Creリコンビナーゼによる組換え反応を誘導した。この結果、Lgr5
+幹細胞において4種の蛍光タンパク質(RFP、CFP、GFP及びYFP)のいずれかが発現し、かつその子孫細胞すべてで蛍光蛋白発現が維持することとなる。かかる組換え反応後のLgr5
+幹細胞の中から、RFP発現Lgr5
+幹細胞を単離した。具体的には、Creリコンビナーゼによる組換え反応を行って3日後、マウスの大腸陰窩を単離し、単一の細胞になるように調製した後、EGFPの蛍光(Lgr5ノックイン対立遺伝子由来)及びRFPの蛍光(R26R−Confetti対立遺伝子由来)が検出されるLgr5−EGFP
+/Confetti−RFP
+幹細胞をソーティングした。かかる大腸上皮幹細胞は、マウス一匹から100個得ることができ、割合としては、全細胞の0.02%以下であった(
図6b)。
【0091】
上記ソーティングにより得られた大腸上皮幹細胞を、単一の細胞になるように、限界希釈によりウエルに撒いた後(100細胞/96ウエル)、「Hubrecht」プロトコール(一般的に小腸上皮幹細胞プロトコールとして知られている方法(Sato, T., et al. Single Lgr5 stem cells build crypt-villus structures in vitro without a mesenchymal niche. Nature 459, 262-265 (2009))を、単一の大腸上皮幹細胞を増殖することができるように修正したもの)を用い、大腸上皮幹細胞の培養を行った(詳細については、上記段落[0072]を参照)。かかる条件下で、単一の大腸上皮幹細胞から増幅した4個の大腸オルガノイドが観察された。このプレーティング効率は、小腸上皮幹細胞で観察されたものと同等である。これらのオルガノイド中の細胞は全てRFP
+であり、ソーティングする前のR26R−Confetti遺伝子座での最初の組換えを反映していた(
図6c)。EGFPのシグナル(Lgr5プロモーターの発現レベルを検出)は、培養開始から数日後に検出されたが(
図6c)、経時的に検出できなくなり、この結果は、上述のとおりLgr5プロモーター−EGFP遺伝子座のサイレント化を反映していると考えられる。また、単一の大腸上皮幹細胞に由来するRFP
+オルガノイドは、連続継代培養を経て指数関数的に増殖し、10週間目を過ぎると100ウエルを上回り、その後、凍結保存した。かかる細胞を解凍し、移植に用いる前に「TMDUプロトコール」における培養方法により細胞培養を行った。約500個の大腸オルガノイドから得た本発明における大腸上皮幹細胞を、上記[0072]に示す方法でレシピエントマウスの大腸内へ注入した。移植4週間後の解析結果から、レシピエント大腸上皮に付着した本発明における大腸上皮幹細胞には、上述した分化細胞が含まれていることが再度示された。移植後17、21及び25週間後のレシピエントマウスを解析したところ、全ての時点において、RFP
+領域が明瞭に観察されたことから、発明の大腸上皮幹細胞由来の移植片は、長期にわたり維持されていることを示している(25週間後の結果を、
図6dに示す。)。移植後6ヶ月(25週間)におけるRFP
+組織の組織学的解析において、RFP
+細胞による単層上皮配列が認められた。さらに、腺腫性変化や上皮異形成は認められず、この結果は、インビトロでの培養過程、及び移植後生体内での組織形成過程において、細胞の悪性化が生じなかったことを示している(
図7a)。ここでも、RFP
+陰窩には上述した終末分化細胞及びKi67
+増殖細胞が存在し(
図7b)、かつアルシアンブルー陽性杯細胞及びCgA
+腸内分泌細胞の数は移植片内外で差は認めなかった。これらの結果は、単一のLgr5
+細胞に由来し長期間多分化能を有する大腸上皮幹細胞が移植片内に存在し、かつ周囲のレシピエント上皮と同様の大腸組織を構築していることをさらに裏付けるものである。
【0092】
さらに、上述したマウス由来の大腸上皮幹細胞の単離法・培養法・継代維持法を、ヒトに応用できるかどうかを検討した。その結果、上記段落[0074]〜[0078]に示す「ヒト大腸上皮幹細胞の単離法・培養法・継代維持法」を用いると、手術検体のような大きな初発材料ではなく、また、大腸内視鏡検査施行時に被験者より得る微小な大腸組織を初発材料としても、安定し、かつ再現性をもって大腸上皮幹細胞を培養できることが明らかとなった。
【0093】
また、EGF、HGF、Nogginを含む前述のTMDU培地に、それ以外の任意成分をさらに加えた培地にて、マウスの大腸陰窩細胞の増殖を確認した。すなわち、TMDU培地に、100倍希釈となるような濃度(インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム塩、ピルビン酸ナトリウムの終濃度がそれぞれ10ug/ml、5.5ug/ml、6.7ng/ml、110 ug/mlとなる濃度)のインスリン-トランスフェリン-亜セレン酸塩混合液(ITS)(Invitrogen社製)、100uM(終濃度)のN-acetyl-cystein(NAC)(Nacalai社製)、200ng/ml(終濃度)のCholera Toxin(コレラ毒素)(Wako社製)、それぞれのヌクレオシドを100uM(終濃度)ずつ含むヌクレオシド混合液(Sigma社製)、38nM(終濃度)のセルロプラスミン(フェロキシダーゼ)(Sigma社製)をさらに添加したこと以外は、前述の「TMDUプロトコール」と同様の方法で大腸陰窩細胞の培養を行い、その増殖の様子を観察した。その結果を
図8に示す。
図8から分かるように、TMDU培地にITS、NAC、コレラ毒素、セルロプラスミンをさらに添加した培地において、好適な細胞増殖が確認された。なお、前述のTMDU培地に10%のウシ胎仔血清(FCS)を添加した培地でマウス大腸陰窩細胞の培養を試みたところ、かかる細胞の増殖が確認された。
【0094】
[まとめ]
本発明において、インビトロで培養した本発明における大腸上皮幹細胞は、損傷を受けた大腸上皮を修復するための幹細胞療法に利用できることを証明している。移植された大腸上皮幹細胞は、上皮傷害を受けた大腸組織において、欠損した上皮を補充するごとく上皮欠損部に接着し被覆する。また、本発明における大腸上皮幹細胞の移植を受けたレシピエントは、未移植のコントロールよりも回復期体重増加が大きいことから、本発明における大腸上皮幹細胞を移植に用いると、DSS誘導性急性大腸炎の重篤度を低減することが示される。これらの結果より本発明は、消化管上皮幹細胞をインビトロで数を増やしつつ培養し、その後に移植することで、重篤な消化管上皮損傷を有する疾患の治療として有望な選択肢であることを示すものである。