特許第6238501号(P6238501)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6238501
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】静電チャック
(51)【国際特許分類】
   H02N 13/00 20060101AFI20171120BHJP
   H01L 21/677 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   H02N13/00 D
   H01L21/68 A
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-60385(P2017-60385)
(22)【出願日】2017年3月27日
【審査請求日】2017年4月4日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000132725
【氏名又は名称】株式会社ソディック
(72)【発明者】
【氏名】元矢 秀和
(72)【発明者】
【氏名】上田 利幸
【審査官】 儀同 孝信
(56)【参考文献】
【文献】 特許第4866543(JP,B2)
【文献】 特開2008−124265(JP,A)
【文献】 特許第5841329(JP,B2)
【文献】 特開平10−006591(JP,A)
【文献】 特開平04−012684(JP,A)
【文献】 特開平09−254460(JP,A)
【文献】 特開2000−117955(JP,A)
【文献】 特開2002−359281(JP,A)
【文献】 特開2003−264223(JP,A)
【文献】 特開2009−141220(JP,A)
【文献】 特開2004−168515(JP,A)
【文献】 実開平03−098057(JP,U)
【文献】 実開平03−033874(JP,U)
【文献】 特公昭50−006786(JP,B1)
【文献】 米国特許第08908313(US,B1)
【文献】 特許第2967590(JP,B2)
【文献】 特開昭64−081743(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 13/00
H01L 21/677
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形状を有し少なくとも側面表層が絶縁性を有する基体と、
前記基体の前記側面表層に所定の間隔毎に形成される溝部と、
前記溝部に設けられる導電性金属溶射層である電極層と、
前記電極層を被覆するように設けられる誘電体溶射層である誘電層と、
を備え
前記基体は、円筒形状を有するコア部と、前記コア部の側面上に設けられた前記電極層よりも厚いセラミック溶射層である絶縁層と、を含む、静電チャック。
【請求項2】
前記電極層の幅は0.5mm以上2.0mm以下であり、前記電極層の間隔は1.0mm以上、2.0mm以下である、請求項に記載の静電チャック。
【請求項3】
円筒形状を有するコア部の側面上に絶縁性材料であるセラミックを溶射し絶縁層を設けて基体を形成する工程と、
円筒形状を有し少なくとも側面表層が絶縁性を有する前記基体の前記側面表層に所定の間隔毎に溝部を形成する工程と、
前記溝部に導電性金属を溶射する工程と、
前記溝部の間の前記基体が露出するまで前記側面表層を削り電極層を形成する工程と、
前記電極層を被覆するように誘電体を溶射し誘電層を形成する工程と、
を備え
前記絶縁層は前記電極層よりも厚く形成される、静電チャックの製造方法。
【請求項4】
前記電極層の幅は0.5mm以上2.0mm以下であり、前記電極層の間隔は1.0mm以上、2.0mm以下である、請求項に記載の静電チャックの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電チャックおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
静電チャックは、内部に設けられた電極に電圧を印加することによって生じるクーロン力やジョンソン・ラーベック力等の電気的引力によって対象物を吸着保持する把持装置である。特許文献1に開示されるように、静電チャックは、基体と、基体上に設けられた電極と、電極を被覆し所定の電気抵抗率を有する誘電層とを備え、基体と電極とは電気的に絶縁されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3683044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の静電チャックは、半導体ウェハ等板状の対象物の把持装置として用いられたため、吸着面が平面的に構成されている。そのため対象物の種類や静電チャックの利用方法は限定的であった。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、円筒形状の側面を吸着面とするよう構成することで、利用範囲を拡大した静電チャックを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、円筒形状を有し少なくとも側面表層が絶縁性を有する基体と、基体の側面表層に所定の間隔毎に形成される溝部と、溝部に設けられる導電性金属溶射層である電極層と、電極層を被覆するように設けられる誘電体溶射層である誘電層と、を備え、基体は、円筒形状を有するコア部と、コア部の側面上に設けられた電極層よりも厚いセラミック溶射層である絶縁層と、を含む、静電チャックを提供するものである。
【0007】
また、本発明によれば、円筒形状を有するコア部の側面上に絶縁性材料であるセラミックを溶射し絶縁層を設けて基体を形成する工程と、円筒形状を有し少なくとも側面表層が絶縁性を有する基体の側面表層に所定の間隔毎に溝部を形成する工程と、溝部に導電性金属を溶射する工程と、溝部の間の基体が露出するまで側面表層を削り電極層を形成する工程と、電極層を被覆するように誘電体を溶射し誘電層を形成する工程と、を備え、絶縁層は電極層よりも厚く形成される静電チャックの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る静電チャックは円筒形状を有し、対象物の吸着面である誘電層が円筒側面に側面の形状に沿って設けられる。そのため、吸着面を曲面的に、かつ誘電層の全体に亘って均質に設けることができ、例えばシート状の対象物を極力負荷を与えずに巻きつけるように把持することが可能になる等、静電チャックをより広範な分野において利用することができる。また、本発明に係る静電チャックの製造方法によれば、該静電チャックをより効率よく製造することができる。特に、セラミック溶射層である絶縁層を含む基体においては、溝部の形成時に極力欠けの発生を抑えることができるから、電極層の幅および間隔をより狭くすることができ、結果としてより強力な電気的引力を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の静電チャック1の製造過程を示す断面図であり、基体2に溝部23を形成した直後の状態を示す。
図2】本発明の静電チャック1の製造過程を示す断面図であり、溝部23に導電性金属を溶射した直後の状態を示す。
図3】本発明の静電チャック1の製造過程を示す断面図であり、電極層3を形成した直後の状態を示す。
図4図3に示す静電チャック1の側面図である。
図5】本発明の静電チャック1の構成を示す断面図である。
図6】本発明の静電チャック1の変形例の構成を示す断面図である。
図7】本発明の静電チャック1を備えるロール搬送装置100の概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を用いて、本発明の製造チャック1の製造工程に沿って、本発明の実施形態について説明する。以下に説明される各実施形態および複数の各構成部材における変形例は、それぞれ任意に組み合わせて実施することができる。なお、各図面は構成を明瞭に示すために必ずしも正確な縮尺率で描画されてはいない。
【0011】
まず、円筒形状を有する基体2を用意する。基体2としては少なくとも側面表層21が絶縁性を有するものであればよく、本実施例では一体に焼結形成されたセラミックを用いる。次に、図1に示すように、基体2の側面表層21に所定の間隔毎に溝部23を形成する。溝部23の加工方法は、例えば切削加工やブラスト加工である。なお、絶縁性が求められる側面表層21の厚さは、溝部23の深さよりも厚ければよく、換言すれば、後述する電極層3の厚さよりも厚ければよい。
【0012】
次に、図2に示すように、溝部23に対して、少なくとも溝部23が完全に塞がるまで導電性金属を溶射する。導電性金属は、例えば、Ag、Cu、Al等から選択される。続いて、溶射された導電性金属で覆われた側面表層21を、溝部23の間の基体2が露出するまで研削する。このようにして図3および図4に示すように、所定の形状パターンを有する電極層3が基体2の上に形成される。なお不図示であるが、電極層3は端子を通じて電源と接続され、所定の電圧が印加されるように構成される。
【0013】
上述のように、基体2に溝部23を形成し、溝部23に導電性金属を溶射し、側面表層21を研削するという電極層3の製造方法を採ることで、曲面である円筒形基体2の側面に対しても容易に電極層3を形成することができる。
【0014】
一般に電極層3の形成方法として、導電性金属のペーストを塗布し焼結して形成する方法があるが、本発明の円筒形状を有する静電チャック1の製造においては、重力の影響によりペーストが垂れ下がってしまうため、好ましくない。また、印刷や鍍金法により電極層3を形成した場合は、電極層3の厚さtが非常に薄くなり、十分な電圧を印加することができず、好ましくない。
【0015】
図4に示すように、本実施の静電チャック1は双極式であり、係る電極層3は櫛歯形状を有するが、単極式であってもよいし、電極層3は別の形状パターンでもよい。なお、電極層3の幅wおよび間隔sは、それぞれ狭く形成した方が、緻密な電極層3のパターンを形成でき、発生する電気的引力をより強くすることができる点で好適である。ただし、電極層3間で絶縁破壊が発生しないようにする為、また後述する溝部23の縁の欠け防止等の製造上の制限の為、ある程度の広さは必要である。具体的に、電極層3の幅wは、好ましくは0.5mm以上、2.0mm以下であり、電極層3の間隔sは、好ましくは1.0mm以上、2.0mm以下である。また、電極層3の厚さt、すなわち溝部23の厚さは、溝部23に均一に導電性金属を溶射でき、絶縁破壊が発生しない十分な厚さに構成される。厚さtが薄すぎると溶射ムラが残り、局所的に絶縁となる可能性がある。具体的に、電極層3の厚さtは、好ましくは0.1mm以上、0.5mm以下である。厚さtが0.5mm超であっても静電チャック1としての機能に支障はないが、必要以上に電極層3を厚くするメリットはない。
【0016】
そして、電極層3を被覆するよう誘電体を溶射し誘電層4を形成する。溶射により誘電層4を形成したので、基体2上に隙間なく誘電層4を形成できる。好ましくは誘電層4の表面をさらに研削して平滑な誘電層4を得る。このようにして図5に示す本発明の静電チャック1を製造する。溶射される誘電体は、例えば、Al、ZrO、TiO、ZrSiO、AlN、SiOおよびそれらの混合物が所望の電気抵抗率に応じて選択される。具体的に、電気的引力としてクーロン力を用いる場合は誘電層4の電気抵抗率は1012Ω・m以上、ジョンソン・ラーベック力を用いる場合は電気抵抗率は10Ω・m以上、1012以下Ω・mが望ましい。また、誘層4の厚さは、所望の電気的引力を得られる厚みに構成され、好ましくは0.1mm以上、0.5mm以下である。
【0017】
従来の静電チャック1においては一般的に、電極層を形成した基体と板状の誘電層とを接着させて製造していたが、本発明の円筒形状を有する静電チャック1の製造においては、曲面同士の接着となるため精度を出すのが困難であり、基体2と誘電層4の間に隙間が生じてしまうため、従来の製造方法は好ましくない。また、隙間をなくすために基体2と誘電層4とをプレスしてもよいが、大型化すればするほど高圧力を与える必要があるため、大型化に限界がある。
【0018】
上記に説明した実施形態においては、基体2として一体に焼結形成されたセラミックを用いたが、前述した通り、基体2としては側面表層21において少なくとも電極層3の厚さ分が絶縁性を有するものであればよい。例えば、図6に示すように、基体2を、円筒形状を有するコア部2Aと、コア部2Aの側面上に設けられた電極層3よりも厚い絶縁層2Bとを含んでなる2層構造としてもよい。コア部2Aは導電体であっても絶縁体であってもよく、例えばセラミック焼結体であってもよいし、Al等の金属でもよい。絶縁層2Bはセラミック等の絶縁性材料からなり、好ましくはコア部2Aの側面上に絶縁性材料を溶射することで形成される。特に好ましくは、絶縁層2Bは溶射によって形成されたセラミック溶射層である。
【0019】
溝部23に導電性金属を溶射して電極層3を製造する場合、溝部23を形成するときに溝部23の縁が欠けてしまうと、緻密な電極層3のパターンを形成できない。例えば、基体2の側面表層21がセラミック焼結体である場合、側面表層21は共晶組織を有し、ある部位に入った亀裂等のダメージが他の部位に伝播しやすいため、比較的溝部23の欠けが大きくなりやすい。一方、セラミック溶射層である絶縁層2Bは、共晶組織ではなく、物理的に粒子が噛み合った結合組織となるため、ある箇所に入った亀裂はその粒子間のみで抑えられる。ゆえに、セラミック溶射層である絶縁層2Bを含む基体2においては、溝部23の形成時に極力欠けの発生を抑えることができるから、電極層3の幅wおよび間隔sをより狭くすることができる。結果としてより強力な電気的引力を発生させることができる。
【0020】
本発明の静電チャック1は、具体的に説明されている実施の形態の静電チャック1と全く同一の構成に限定されず、すでにいくつかの例が示されているが、本発明の技術思想に逸脱しない限り、様々な構成の変形が可能であって、種々の応用が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明の静電チャック1は、例えば図7に示すようなフィルム等のシートSのロール搬送装置100において適用できる。シートSは適宜設置された搬送ローラ110によってガイドされて搬送されるが、例えば搬送途中に加工装置120による加工を施す等の理由で、所定区間で皺が伸ばされることが求められる場合がある。そこで、静電チャック1にシートSを巻きつけるように吸着保持させて回転させることで、所望の区間でのシートSの皺を除去することができる。静電チャック1は、真空チャック等他の把持装置と比較して、真空環境下でも利用でき、また誘電層4全面に生じる電気的引力を利用するためシートSの吸着箇所に局所的に過剰な負荷がかかることもない点に利点がある。なお、上に示した利用方法はあくまで一例であり、本発明の静電チャック1の利用方法を限定するものではない。
【符号の説明】
【0022】
1 静電チャック
2 基体
3 電極層
4 誘電層
21 側面表層
23 溝部
2A コア部
2B 絶縁層
【要約】      (修正有)
【課題】円筒形状の側面を吸着面とするよう構成することで、利用範囲を拡大した静電チャックの提供。
【解決手段】円筒形状を有し少なくとも側面表層が絶縁性を有する基体2と、基体2の側面表層に設けられる電極層3と、電極層3を被覆するように設けられる誘電層4と、を備える静電チャック1を提供するとともに、円筒形状を有し少なくとも側面表層が絶縁性を有する基体2の側面表層に所定の間隔毎に溝部を形成する工程と、溝部に導電性金属を溶射する工程と、溝部の間の基体2が露出するまで側面表層を削り電極層3を形成する工程と、電極層3を被覆するように誘電体を溶射し誘電層4を形成する工程と、を備える静電チャックの製造方法。
【選択図】図5
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7