(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6238507
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】X線遮蔽シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
G21F 1/10 20060101AFI20171120BHJP
G21F 3/00 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
G21F1/10
G21F3/00 G
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-72088(P2012-72088)
(22)【出願日】2012年3月27日
(65)【公開番号】特開2013-205103(P2013-205103A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2015年3月10日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000182247
【氏名又は名称】サカイオーベックス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591121513
【氏名又は名称】クラレトレーディング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110814
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】関 隆之
(72)【発明者】
【氏名】馬場 俊之
(72)【発明者】
【氏名】野坂 悠一
(72)【発明者】
【氏名】浮田 隆之
(72)【発明者】
【氏名】藤原 豊
(72)【発明者】
【氏名】藤田 博之
【審査官】
長谷川 聡一郎
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2006/090629(WO,A1)
【文献】
登録実用新案第3172240(JP,U)
【文献】
特表平02−504554(JP,A)
【文献】
特開2004−077170(JP,A)
【文献】
特表平06−511315(JP,A)
【文献】
特開2002−365393(JP,A)
【文献】
特開2013−044737(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0108548(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 1/10
G21F 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子材料と鉛を含まないX線遮蔽材との混合物の層を生地表面に形成したX線遮蔽シートの製造方法において、
前記高分子材料として主剤と硬化剤とからなる二液硬化性のシリコーン樹脂を準備し、
少なくとも一面にシレー加工を施したシレー面を有する平織の生地を準備し、
前記主剤及び前記硬化剤のそれぞれに酸化ビスマスを加えたものを配合し溶剤を加えて粘度を調整して、前記シリコーン樹脂12重量部と酸化ビスマス88重量部とを含む前記混合物を生成し、
前記混合物を乾燥後の膜厚が500μm以下となるように前記生地の前記シレー面に塗工して乾燥する工程を、乾燥後の前記混合物の膜厚が所定膜厚になるまで複数回繰り返し、前記生地の少なくとも一面にX線遮蔽層を形成して前記生地と前記X線遮蔽層とを一体化し、
外被材の中に鉛含有シートを内包したシート厚み1.86mm、遮蔽性能0.35mmPb相当の鉛含有X線遮蔽シートに対して、生地の厚みを含めたシート厚み1.56mm相当で、JIS L 1096A法(カンチレバー法)による剛軟度測定で同程度の剛軟度を有し、JISK 6301(1975年)による引張強さ及び引裂強度、JIS Z 4501(試験管電圧150kV)によるX線遮蔽能力試験のそれぞれにおいて前記鉛含有X線遮蔽シートを上回るX線遮蔽シートを得ること、
を特徴とするX線遮蔽シートの製造方法。
【請求項2】
X線遮蔽シートに対して重量比でX線遮蔽材が75%以上であること特徴とする請求項1に記載のX線遮蔽シートの製造方法。
【請求項3】
最上層の前記X線遮蔽層の表面に、前記X線遮蔽材を含まない前記高分子材料を塗工した層を形成したことを特徴とする請求項1又は2に記載のX線遮蔽シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛を用いないでX線を遮蔽することのできるX線遮蔽シートの製造方法、この方法によって製造されたX線遮蔽シート及びX線遮蔽体に関する。
【背景技術】
【0002】
X線遮蔽材としては古くから鉛が使用されていたが、鉛は人体に有毒であることから鉛を使用しないX線遮蔽材が種々提案されている。この種のX線遮蔽材としては、バリウム化合物や錫又は錫化合物、アンチモン化合物、タングステン焼結体を用いたものや、ビスマス又はビスマス化合物を用いたものが知られている(例えば特許文献1,2,3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−332235号公報(明細書の段落0003〜0006の記載参照)
【特許文献2】特開昭55−57200号公報
【特許文献3】特開2001−83288号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、現状のX線遮蔽を目的としたシート状の製品としては、タングステン等のX線遮蔽材を含有したゴムシートなどが市販されているが、引裂きや引張りに対する強度が弱いため、生地や樹脂で補強して使用する必要がある。また、この種のシート状製品の色は茶褐色から黒系のものが多く、表面材料としては使用しにくいという問題がある。そのため、X線遮蔽材を含有したゴムシート等の表面を生地や樹脂シート等で覆った3層構造としている。
しかし、このような従来の3層構造のX線遮蔽体では、経年変化や使用時の繰り返し曲げによって材料が劣化し、中層のゴムシートに亀裂や断裂が発生しても、異常が発見しにくいという問題がある。
また、従来のX線遮蔽体は、X線遮蔽シートと外被材とを別々に形成し、外被材にX線遮蔽シートを部分接着する加工を行って製造されているため、X線遮蔽体の使用中に外被材とX線遮蔽シートとが剥離しやすく、剥離によるズレから生じた隙間からX線が侵入するおそれがあった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、高分子材料と鉛を含まないX線遮蔽材との混合物の層を生地表面に形成したX線遮蔽シートの製造方法において、
前記高分子材料として主剤と硬化剤とからなる二液硬化性のシリコーン樹脂を準備し、
少なくとも一面にシレー加工を施したシレー面を有する平織の生地を準備し、前記主剤及び前記硬化剤のそれぞれに酸化ビスマスを加えたものを配合し溶剤を加えて粘度を調整して、前記シリコーン樹脂12重量部と酸化ビスマス88重量部とを含む前記混合物を生成し、前記混合物を乾燥後の
膜厚が500μm以下となるように前記生地の前記シレー面に塗工して乾燥する工程を、乾燥後の前記混合物の膜厚が所定膜厚になるまで複数回繰り返し、前記生地の少なくとも一面にX線遮蔽層を形成して前記生地と前記X線遮蔽層とを一体化し、外被材の中に鉛含有シートを内包したシート厚み1.86mm、遮蔽性能0.35mmPb相当の鉛含有X線遮蔽シートに対して、生地の厚みを含めたシート厚み1.56mm相当で、JIS L 1096A法(カンチレバー法)による剛軟度測定で同程度の剛軟度を有し、JISK 6301(1975年)による引張強さ及び引裂強度、JIS Z 4501(試験管電圧150kV)によるX線遮蔽能力試験のそれぞれにおいて前記鉛含有X線遮蔽シートを上回るX線遮蔽シートを得る方法としてある。
請求項2に記載するように、X線遮蔽シートに対して前記X線遮蔽材が重量比で75重量%以上とするのが好ましい。
請求項3に記載するように、最上層の前記X線遮蔽層の表面に、前記X線遮蔽材を含まない前記高分子材料を塗工した層を形成してもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、生地とX線遮蔽層とを高い密着度で一体化しているので、引裂きや引張りに対する強度の高いX線遮蔽シートを得ることができ、経年変化や使用時の繰り返し曲げによって材料が劣化しても、早期の異常の発見が容易である。また、生地とX線遮蔽層とが一体化しているので、生地とX線遮蔽層とが剥離しにくく、ズレによる隙間も生じにくい。
さらに、表層に着色層や撥水等の機能層を設けることができるので、所望の色や模様及び所望の機能を有するX線遮蔽シートを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の好適な実施形態を詳細に説明する。
この実施形態では、高分子材料と鉛を含まないX線遮蔽材とを準備し、これらの混合物を作製する。そして、この混合物を生地の一面に塗工してX線遮蔽層を形成した後、さらにこの上に前記混合物を塗工する工程を繰り返す。
【0010】
[高分子材料]
高分子材料としては、生地に塗工して一体化でき、衣類等に用いることのできる柔軟性を有するものであればよく、特にその種類は問わない。
例えば、天然高分子材料の他、ポリオレフィン、ウレタン樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、フッ素樹脂、(メタ)アクリル系樹脂等の汎用樹脂や、ビニル重合によって得られるエンジニアリングプラスチック、スーパーエンジニアリングプラスチック、シリコーン樹脂等の合成高分子材料を用いることができる。
上記の高分子材料は、一液硬化形のものであってもよいし、主剤と硬化剤とからなる二液硬化形のものであってもよい。
【0011】
[X線遮蔽材]
鉛と同等以上のX線遮蔽能を有し、かつ、鉛のような毒性のないX線遮蔽材料として、タングステン(W)、錫(Sn)、ビスマス(Bi)及びその化合物を挙げることができる。
また、WO2006/090629号公報には、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)から選択される少なくとも1種の元素の酸化物粉末からなるX線遮蔽材が提案されている。
上記のX線遮蔽材は単体でもよいが、二種以上の上記X線遮蔽材を混合して用いてもよい。
【0012】
[混合工程]
高分子材料に対するX線遮蔽材の混合比は、X線遮蔽材の種類、高分子材料の種類及びX線遮蔽シートの肉厚とX線の遮蔽能との関係によって決定され、試験や実験によって最適値を得ることができる。X線遮蔽材の比率が大きいと、X線の遮蔽能が高くなって、従来品と同じ遮蔽性能を薄くて軽いX線遮蔽シートで得ることができるが、高すぎるとシート強度が低下する。また、前記比率が小さいと、X線遮蔽シートの重量は軽くなるがX線の遮蔽能は低くなる。前述の高分子材料及びX線遮蔽材を用いる場合は、X線遮蔽シートに対して重量比でX線遮蔽材が75%以上になるように混合するとよい。
【0013】
[生地]
上記の混合工程で得られた混合物を塗工する生地は、前記混合物の塗工によって前記混合物と一体化できるものであればその材質や形態は問わない。シート状又はフィルム状のものであってもよく、織物や編物、不織布等の編成物が好ましい。前記生地の表面には平滑化加工を施すのが好ましい。平滑化加工としては、熱ロールでプレス加工するカレンダー加工やシレー加工等を挙げることができる。
【0014】
[塗工]
平滑化加工を施した生地の表面に、前記混合物の組成に応じて乾燥後の膜厚が500μm以下になるように、前記混合物を塗工する。塗工の手段としては、ロールコーティング、ダイコーティング、グラビアコーティング、コンマコーティング、スクリーン印刷等の公知のものを用いることができる。
乾燥は、混合物の内部に気泡が発生しない温度範囲で行う。
【0015】
乾燥によって形成された第一層目のX線遮蔽層の上に、乾燥後の膜厚が500μm以下程度になるように前記混合物を塗工して乾燥を行う。この工程を、X線遮蔽層の積層体の膜厚が所定寸法になるまで繰り返す。
なお、最上層のX線遮蔽層の表面には着色層、防汚染層や撥水層等を形成してもよい。防汚染機能や撥水機能を有する高分子材料を用いた場合には、最上層のX線遮蔽層をそのまま防汚染層又は撥水層とすることができる。高分子材料の割合を高めた前記混合物又はX線遮蔽材を含まない高分子材料を最上層のX線遮蔽層の表面に塗工してもよい。
【0016】
また、高分子材料が防汚染機能や撥水機能を有しない場合には、防汚染機能や撥水機能を生じさせるための添加剤を加えた混合物又は高分子材料を最上層のX線遮蔽層の表面に塗工する。さらに、X線遮蔽材の中には固有の色を有するものがあるため、X線遮蔽シートを所望の色に仕上げるためには、X線遮蔽材を含まず前記所望の色に仕上げるための色素を含ませた前記高分子材料を最上層の表面に塗工すればよい。
【0017】
[X線遮蔽体の製造]
上記手順で得られたX線遮蔽シートを用いて衣類等のX線遮蔽体を製造するには、X線遮蔽シートを所定の大きさ及び形状に裁断するか、予め所定の大きさ及び形状に形成された生地上に混合物を塗工して所定の大きさ及び形状のX線遮蔽シートを得る。所定の大きさ及び形状のX線遮蔽シートは、その縁部を重ね合わせ、当該重ね合わせた部分で接着又は縫合により接合する。重ね合わせる前記縁部についてはX線遮蔽層の肉厚を小さくすることで、接合部分の極端な肉厚の変化を抑制することができる。接合部分に隙間が形成されるおそれがある場合には、前記接合部分に前記混合物を塗工するとよい。
【0018】
[実施例]
本発明のX線遮蔽シートの一実施例を以下に説明する。
(1) 生地
材質及び編成:ポリエステル100% 平織
前処理:撥水処理(乾燥温度:130℃ SET:180℃)
シレー処理(170℃×50kg/cm
2:片面)
【0019】
(2) 混合物
主剤(A)と硬化剤(B)とからなる二液硬化性のシリコーン樹脂に、酸化ビスマスのX線遮蔽材を混合して混合物を得た。
用いた主剤、硬化剤、溶剤及び酸化ビスマスは以下のとおり。
主剤(A):シリコーン樹脂主剤
硬化剤(B):シリコーン樹脂硬化剤
溶剤:トルエン
混合の手順:主剤(A)12重量部に酸化ビスマス88重量部を加えたものと、硬化剤(B)12重量部に酸化ビスマス88重量部を加えたものを等量(100重量部)ずつ配合し、トルエンを加えて粘度を調整した。
【0020】
(3) 塗工
(i) 塗工膜厚が乾燥後に50μm〜300μmになるようにクリアランスを調整し、コンマコーティング法によって生地のシレー面に混合物の塗工を行った。乾燥は、100℃で5分間行った。このようにして第一層目のX線遮蔽層を得た。
(ii) この第一層目のX線遮蔽層の上に、塗工膜厚が乾燥後に50μm〜300μmになるようにクリアランスを調整しコンマコーティング法によって混合物の塗工を行った。乾燥は、100℃で5分間行った。このようにして第二層目のX線遮蔽層を得た。
(iii) (ii)の工程を、混合物の層の膜厚が1.39mm(生地を含んだシート厚で1.56mm)になるまで繰り返した。
【0021】
(4) 結果
上記手順で得られたX線遮蔽シートを用いて、X線遮蔽能の試験を行った。
試験は、以下の方法で行った。
物性測定方法:
引張強さおよび伸び試験 生地とX線遮蔽層とを一体化させたものでJIS
K 6301(1975年)の試験方法により行
った。
引裂試験 生地とX線遮蔽層とを一体化させたものでJIS
K 6301(1975年)の試験方法により行
った。
剛軟度測定 JIS L 1096A法(カンチレバー法)に
より測定を行った。
X線遮蔽能力試験 JIS Z 4501(試験管電圧150kV)の試
験方法により行った。
試験品にX線ビームを当て減弱率を求め、その減
弱率に対応する鉛等量を試験品の性能とする。
減弱率は、試験品又は標準鉛板を置かないときの線量率に対する試験品又は標準鉛板を置いたときの線量率の相対値とする。
標準鉛板の鉛厚及び減弱率から標準鉛板の滅弱率曲線を作成し、試験品の減弱率に対応する鉛厚を補間法によって求め、試験品の鉛当量(mmPb)とする。
試験結果を以下の表に示す。
【0022】
【表1】
【0023】
なお、比較例においては、外被材の中に鉛含有シートを内包した従来のX線遮蔽シートについて、実施例と同じ条件で試験を行った。
【0024】
この結果から、鉛を含む従来のX線遮蔽シートに対し、本発明のX線遮蔽シートは厚みを小さくすることができ、引張強さや引裂強度を大幅に高めることができることがわかる。
そのため、本発明のX線遮蔽シートを用いて衣類等のX線遮蔽体を製造すれば、薄手にできることから作業者が被着した状態で作業しやすくなり、かつ、強度があって生地とX線遮蔽層とが剥離しにくいことから、安心して作業を行うことができるようになる。
【0025】
本発明の好適な実施形態及び実施例について説明したが、本発明は上記の説明に限定されない。
例えば、上記の実施例では二液型のシリコーン樹脂を一例に挙げたが、一液型のシリコーン樹脂でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の方法で得られたX線遮蔽シートは、特に医療現場で機器類を覆うシートやカーテン、衣類、パーテーション等に好適に用いることができるが、医療現場以外においても、X線被曝の可能性がある施設等において、シート、衣類、カーテン、パーテーション等に広く適用が可能である。