特許第6238530号(P6238530)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6238530レブリン酸/エステルの水素化触媒、それを用いたラクトン合成反応、及びラクトン製造設備
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  • 特許6238530-レブリン酸/エステルの水素化触媒、それを用いたラクトン合成反応、及びラクトン製造設備 図000012
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6238530
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】レブリン酸/エステルの水素化触媒、それを用いたラクトン合成反応、及びラクトン製造設備
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/80 20060101AFI20171120BHJP
   B01J 37/18 20060101ALI20171120BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20171120BHJP
   C07D 307/33 20060101ALI20171120BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20171120BHJP
【FI】
   B01J23/80 Z
   B01J37/18
   B01J35/10 301G
   B01J35/10 301J
   C07D307/32 E
   !C07B61/00 300
【請求項の数】14
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-38817(P2013-38817)
(22)【出願日】2013年2月28日
(65)【公開番号】特開2014-166604(P2014-166604A)
(43)【公開日】2014年9月11日
【審査請求日】2016年1月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】591110241
【氏名又は名称】クラリアント触媒株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人 千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 智司
(72)【発明者】
【氏名】香取 崇広
(72)【発明者】
【氏名】陳 新
【審査官】 大城 公孝
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第101733123(CN,A)
【文献】 特開昭58−008073(JP,A)
【文献】 特開平04−021638(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0197029(US,A1)
【文献】 HENGNE, A. M. et al,Cu-ZrO2 nanocomposite catalyst for selective hydrogenation of levulinic acid and its ester to γ-valerolactone,Green Chemistry,2012年 2月24日,Vol.14, No.4,p.1064-1072,DOI:10.1039/C2GC16558A
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
C07D 307/32
C07D 307/33
JSTPlus(JDreamIII)
CNKI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下一般式1:
【化1】
[式中、Rは、炭素原子数1〜4個のアルキル基、R及びRはそれぞれ無関係に水素または炭素原子数1〜4個のアルキル基、Rは水素または炭素原子数8個以下の炭化水素基である]
で表されるレブリン酸(R=水素)及びレブリン酸エステル(R=炭素原子数8個以下の炭化水素基)の両方から、一緒にまたは相前後して、同一の触媒反応装置において、以下一般式2
【化2】
[式中、R、R、Rは、上に定義した通りである]
で表される5−アルキル−ガンマブチロラクトンを製造するための触媒であって、酸化銅と酸化亜鉛からなる酸化物複合体を水素還元してなる前記触媒。
【請求項2】
酸化銅と酸化亜鉛との総量を基準として、酸化物複合体中の酸化銅の割合が50重量%以上、95重量%以下である、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
触媒表面に金属銅が存在している、請求項1または2に記載の触媒。
【請求項4】
表面積が10〜500m/gである、請求項1〜3のいずれか一つに記載の触媒。
【請求項5】
前記一般式2で表される5−アルキル−ガンマブチロラクトンの製造方法であって、
(a) 前記一般式1で表されるレブリン酸及びレブリン酸エステルを用意するステップ、
(b) (a)からのレブリン酸及びレブリン酸エステルを加熱、気化して蒸気を生成するステップ、
(c) (b)からの蒸気を、一緒にまたは相前後して、同一の触媒反応装置において、請求項1〜4のいずれか一つに記載の触媒の存在下に、水素ガスと気相で反応させて、前記一般式2で表される5−アルキル−ガンマブチロラクトンを生成するステップ、
を含む、前記方法。
【請求項6】
ステップ(c)において、気相での水素ガスとの反応を、前記レブリン酸及びレブリン酸エステルを溶解し得る溶剤の蒸気の存在下に行う、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
レブリン酸及びレブリン酸エステルを溶解し得る溶剤が、水及び炭素原子数1〜6個のアルコールからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(c)において、気相での水素ガスとの反応を、200℃〜330℃の温度下に行う、請求項5〜7のいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
ステップ(c)において、水素を、0.1〜10MPaの供給圧で導入する、請求項5〜8のいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
ステップ(a)において、レブリン酸とレブリン酸エステルとの混合物を用意し、ステップ(b)においてレブリン酸とレブリン酸エステルとを一つの気化装置で加熱、気化する、請求項5〜9のいずれか一つに記載の方法。
【請求項11】
ステップ(a)において、レブリン酸とレブリン酸エステルとを別々に用意し、そしてステップ(b)において、レブリン酸とレブリン酸エステルとを、それぞれ異なる気化装置において加熱、気化する、請求項5〜のいずれか一つに記載の方法。
【請求項12】
ステップ(a)において、レブリン酸及びレブリン酸エステルが、これらを溶解し得る溶剤中の溶液として用意され、ステップ(b)において、レブリン酸及びレブリン酸エステルが溶剤と一緒に加熱、気化され、混合蒸気が生成される、請求項5〜11のいずれか一つに記載の方法。
【請求項13】
レブリン酸及び/またはレブリン酸エステルが、植物性バイオマスを出発原料とする、請求項5〜12のいずれか一つに記載の方法。
【請求項14】
請求項5〜13のいずれか一つに記載の方法を実施するために適した、前記一般式1のレブリン酸とレブリン酸エステルとの両方を原料として、前記一般式2の一つのラクトン化合物を製造するための反応設備であって、
・請求項1〜4のいずれか一つに記載の触媒(02)を収容した一つの反応装置(01)、
・原料としてのレブリン酸及びレブリン酸エステルを収容、加熱、気化するための共通のまたは別個の装置(11、12)、
・前記装置(11、12)から原料蒸気を反応装置(01)に供給するための配管、
・水素ガスを収容するための装置(13)、
・前記水素ガス収容装置(13)から反応装置(01)に水素ガスを供給するための配管、
・任意に、レブリン酸類及びレブリン酸エステル類を溶解し得る溶剤を収容、加熱、気化する装置(14)、及び前記装置(14)から溶剤蒸気を反応装置(01)に供給するための配管、
を備えた、前記反応設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化銅と酸化亜鉛および/又は酸化アルミニウムとの酸化物複合体から形成される触媒を用いて、特にバイオマス原料から得られるレブリン酸及び/又はそのエステルからラクトン類を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化や石油資源枯渇問題から樹木などの植物性バイオマスを出発原料として、有用な化学原料を製造する技術に対する関心が高まってきている。
【0003】
植物性バイオマスから得られる材料としてはセルロースとリグニンが主要な材料であり、セルロースについては従来から化学物質原料として活発な用途開発が進められてきた。一方、リグニンは有効な用途が従来見つからず、もっぱら重油代替燃料などとして使用されてきたのが実情であったが、近年はその化学原料としての用途開発への期待も高まっている。
【0004】
セルロースから変換される物資としてエタノールとレブリン酸等が挙げられる。セルロースからのエタノール合成の反応は、生成物としてCOを生成するため、もとのセルロース炭素数の1/3の炭素が二酸化炭素として排出・消失してしまい、効率が悪い。それに対してレブリン酸合成反応では、ギ酸などの副生成物も生成するが、それら副生成物も中間体として他の有用化学物質に利用できるため、炭素利用効率が高く好ましい。
【0005】
セルロースからレブリン酸を得る方法としては従来、硫酸などの強酸を用いて加水分解する方法が主流であったが、多量の強酸を使用するための防食性反応装置が高価となり、また使用済の酸の煩雑な処理に費用を要するなどの問題があった。それに対して近年、セルロースをメタノール加溶媒分解反応させてレブリン酸エステルを得る高効率の触媒の開発が進み、得られたレブリン酸エステルを化学原料として他の化学品を得るための反応プロセスに強い関心が持たれている。
【0006】
そのようなレブリン酸エステルを化学原料として利用する方法の一つとして水素化触媒を用いてγ−バレロラクトンを得る方法がある。
【0007】
【化1】
得られるγ−バレロラクトンは、アジピン酸エステルなどの機能性化学品、樹脂原料、ブテンその他のオレフィン化合物、THFなどの燃料添加剤など多種の用途に活用することが出来る。そのために、レブリン酸エステルを水素化してγーバレロラクトンを得るための工業的製法の開発も活発に行われている。
【0008】
セルロースの加溶媒分解によって得られるレブリン酸エステルの水素化触媒としては、特許文献1で示されるような酸化物触媒が知られているが、反応選択率や収率が低く、またコバルトなどの高価な金属、もしくは酸化クロムなどの有毒物を使用するなど、問題が多くその改良が望まれている。
【0009】
一方、植物性バイオマス中の他の主要成分であるリグニンから得られる3−カルボキシムコノラクトンを原料としてレブリン酸を得る方法が特許文献2に示され、今後のリグニン用途開発に注目されている。この方法により得られるレブリン酸も、特許文献3で示される白金触媒などを使用すれば、容易に水素化してγ−バレロラクトンを得ることができる。
【0010】
特許文献3中には、シリカなどに担持した貴金属触媒を用いて、レブリン酸を水素化する方法が示されている。しかしながらこの方法では液相中、高温で水素と反応させるために系内で反応物が滞留して二次的な反応により副生成物を生成しやすい欠点がある。また高温で液体状態に維持するために反応装置として高い圧力に耐える反応装置が必要があり、また高価格の貴金属触媒を使用するなど、コスト的に課題が多く、その解決が望まれている。
【0011】
レブリン酸もしくはレブリン酸エステルを水素化するための反応装置は、共に植物性バイオマスである植物を出発原料とし、またそれらからの生成物質として同一のラクトンを得ることを目的としているために、もしも同一の装置を用いることができると経済的に大変好ましい。同一の製造装置を使用することにより、植物性バイオマス処理ラインから出されるセルロース、リグニンを中間原料として得られるレブリン酸エステル、レブリン酸を一つの触媒と製造装置を用いてラクトンを得ることが可能となる。また、プラント建設費用を低減でき、原料や製造物の運搬・管理などを簡易化する点で大きなメリットが期待できる。
【0012】
共通の製造装置を使うための方法として、植物性バイオマス原料からリグニンを経て得られるレブリン酸を一度エステル化した上で、レブリン酸エステルの水素化用触媒を通して水素化する方法が考えられる。しかしながらこの方法では、エステル化の工程が増えるために収率等が低下し、反応設備建設が必要になるなど、経済的に好ましくない。
【0013】
もしもレブリン酸とレブリン酸エステルの両方に対して効率よく水素化できる触媒が存在すれば、共通の製造装置を用いてγ−バレロラクトンを得ることが可能と考えられるが、いまだそのような方法の提案も、またその提案を実現できるような触媒は見出されておらず、今後の開発に期待が持たれていた。
【0014】
以上述べた如く、植物性バイオマスを出発原料とするレブリン酸及び/又はレブリン酸エステルからγ−バレロラクトンを高選択率、高収率で得るための、無毒、低価格の触媒が見出されていなかった。更にはレブリン酸、レブリン酸エステル両方を、同一の触媒を用いて、同一の製造装置を用いて高収率、高選択率をもって水素化、ラクトン合成を可能とする方法、反応設備も知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特公平03−57905
【特許文献2】特開2010−150159
【特許文献3】特表2005−500987
【特許文献4】DE1013642
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、レブリン酸類及び/又はそのエステルから向上した反応選択率と収率でブチロラクトン類を得ることができる安価な非クロム系触媒を提供することである。
【0017】
本発明の別の目的は、レブリン酸類及び/又はそのエステルからブチロラクトン類を1ステップで製造するための方法であって、クロムを非含有で安価、無毒な金属触媒を用いて、向上した選択率と高い収率とを実現することができる経済的な製造方法を提供することにある。
【0018】
本発明の更に別の目的は、上記触媒を用いて植物性バイオマス由来のレブリン酸エステル、レブリン酸の両方から共通の製造装置を用いてγーバレロラクトンを得る方法及び反応設備を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者等は、こうした実状に鑑み、従来技術の欠点を解決すべく鋭意研究した結果、本発明の課題を解決するための指針として次のような指針を得た。
(1)高圧反応容器を必要とせず、かつ反応物が触媒の周辺に滞留することにより副生成物を生じたり、触媒表面を汚したりしない反応系として気相反応系を使用することが好ましい。
(2)水素化とそれに続く環化を1ステップで行う反応は、反応活性が高く、且つ毒性で問題を生じることがなく、また触媒製造が容易で、原料価格が安価な銅を金属として使用することが好ましい。
(3)触媒表面積を大きくして多孔質とすることが大きな反応速度を得る上で好ましく、更にその多孔質表面積を還元金属銅が多く露出していることが好ましい。
(4)多孔質構造を取らせ、その構造が高温でも長時間安定に保つために金属酸化物と金属触媒を組み合わせた複合材料を使用することが必要であること。
(5)その上で、表面の露出還元銅の面積を広くとるために、触媒中の酸化銅の重量組成を50重量%以上とすることが、反応選択率と反応速度の点で好ましい。
【0020】
上記の指針を基に、酸化銅と組み合わせる金属酸化物を探索した結果、酸化亜鉛、酸化アルミニウムから選択することにより、レブリン酸類及びそのエステル両方からブチロラクトン類を高選択率、高収率で得られることを見出した。また、レブリン酸類の水素化を促進する上で、水素ガスに加えて、アルコール及び/又は水などの溶剤蒸気をレブリン酸類及び/またはそのエステルと共存させて触媒反応させることにより、更に選択率、収率が向上することを見出した。
【0021】
更に、同一の植物性バイオマスから生成するセルロース由来のレブリン酸エステル、リグニン経由のレブリン酸の両方に対して活性の高い触媒を見出すことにより、共通の製造装置を用いてγ−バレロラクトンを得る方法、そのための反応設備に関する本発明に到達した。
【0022】
すなわち本発明は、
(1) 以下一般式1:
【0023】
【化2】
[式中、Rは、炭素原子数1〜4個のアルキル基、R及びRはそれぞれ無関係に水素または炭素原子数1〜4個のアルキル基、Rは水素または炭素原子数8個以下の炭化水素基である]
で表されるレブリン酸(R=水素)及び/またはレブリン酸エステル(R=炭素原子数8個以下の炭化水素基)から以下一般式2
【0024】
【化3】
[式中、R、R、Rは、上に定義した通りである]
で表される5−アルキル−ガンマブチロラクトンを製造するための触媒であって、酸化銅と、酸化亜鉛及び/または酸化アルミニウムとを含む酸化物複合体の形の前記触媒;
(2) 酸化銅と酸化亜鉛及び/または酸化アルミニウムとの総量を基準として、酸化銅の割合が50重量%以上、95重量%以下である、前記(1)に記載の触媒;
(3) 水素還元して活性化された、上記(1)または(2)に記載の触媒;
(4) 触媒表面に金属銅が存在している、前記(3)に記載の触媒;
(5) 表面積が10〜500m/gである、前記(3)または(4)に記載の触媒;
(6) 前記一般式2で表される5−アルキル−ガンマブチロラクトンの製造方法であって、
(a) 前記一般式1で表されるレブリン酸及び/またはエステルを用意するステップ、
(b) (a)からのレブリン酸及び/またはエステルを加熱、気化して蒸気を生成するステップ、
(c) (b)からの蒸気を、前記(3)〜(5)のいずれか一つに記載の触媒の存在下に、水素ガスと気相で反応させて、前記一般式2で表される5−アルキル−ガンマブチロラクトンを生成するステップ、
を含む、前記方法;
(7) ステップ(c)において、気相での水素ガスとの反応を、前記レブリン酸及び/またはエステルを溶解し得る溶剤の蒸気の存在下に行う、前記(6)に記載の方法;
(8) レブリン酸及び/またはエステルを溶解し得る溶剤が、水及び炭素原子数1〜6個のアルコールからなる群から選択される少なくとも一種である、前記(7)に記載の方法;
(9) 前記一般式2で表される5−アルキル−ガンマブチロラクトンの製造方法であって、
(d) 前記一般式1で表されるレブリン酸及び/またはエステルを用意するステップ、
(e) (d)からのレブリン酸及び/またはエステルを加熱、気化して蒸気を生成するステップ、
(f) 前記レブリン酸及び/またはエステルを溶解し得る溶剤を用意するステップ、
(g) (f)からの溶剤を加熱、気化して溶剤蒸気を生成するステップ、
(h) (e)からの蒸気を、触媒及び(g)からの溶剤蒸気の存在下に、水素ガスと気相で反応させて、前記一般式2で表される5−アルキル−ガンマブチロラクトンを生成するステップ、
を含む、前記方法;
(10) ステップ(f)において、レブリン酸及び/またはエステルを溶解し得る溶剤が、水及び炭素原子数1〜6個のアルコールからなる群から選択される少なくとも一種である、前記(9)に記載の方法;
(11) ステップ(c)または(h)において、気相での水素ガスとの反応を、200℃〜330℃の温度下に行う、前記(6)〜(10)のいずれか一つに記載の方法;
(12) ステップ(c)または(h)において、水素を、0.1〜10MPaの供給圧で導入する、前記(6)〜(11)のいずれか一つに記載の方法;
(13) ステップ(a)または(d)において、レブリン酸とレブリン酸エステルとの混合物を用意し、ステップ(b)または(e)においてレブリン酸とレブリン酸エステルとを一つの気化装置で加熱、気化する、前記(6)〜(12)のいずれか一つに記載の方法;
(14) ステップ(a)または(d)において、レブリン酸とレブリン酸エステルとを別々に用意し、そしてステップ(b)または(e)において、レブリン酸とレブリン酸エステルとを、それぞれ異なる気化装置において加熱、気化する、前記(6)〜(12)のいずれか一つに記載の方法;
(15) ステップ(c)または(h)において、気化されたレブリン酸とレブリン酸エステルとを一緒にまたは相前後して、同一の触媒反応装置において、触媒と接触させて反応を行う、前記(14)に記載の方法;
(16) ステップ(a)または(d)において、レブリン酸酸及び/またはエステルが、これらを溶解し得る溶剤中の溶液として用意され、ステップ(b)または(e)において、レブリン酸及び/またはエステルが溶剤と一緒に加熱、気化され、混合蒸気が生成される、前記(6)〜(15)のいずれか一つに記載の方法;
(17) レブリン酸及び/またはエステルを溶解し得る溶剤が、水及び炭素原子数数1〜6個のアルコールからなる群から選択される少なくとも一種である、前記(16)に記載の方法;
(18) レブリン酸及び/またはレブリン酸エステルが、植物性バイオマスを出発原料とする、前記(6)〜(17)のいずれか一つに記載の方法;
(19) 特に上記(6)〜(18)のいずれか一つに記載の方法を実施するために適した、前記一般式1のレブリン酸とレブリン酸エステルとの両方を原料として、前記一般式2の一つのラクトン化合物を製造するための反応設備であって、
・触媒(02)を収容した一つの反応装置(01)、
・原料としてのレブリン酸類及びレブリン酸エステル類を収容、加熱、気化するための共通のまたは別個の槽(11、12)、
・前記装置(11、12)から原料蒸気を反応装置(01)に供給するための配管、
・水素ガスを収容するための装置(13)、
・前記水素ガス収容装置(13)から反応装置(01)に水素ガスを供給するための配管、
・任意に、レブリン酸類及びレブリン酸エステル類を溶解し得る溶剤を収容、加熱、気化する装置(14)、及び前記装置(14)から溶剤蒸気を反応装置(01)に供給するための配管、
を備えた、前記反応設備、
である。
【発明の効果】
【0025】
上述したところからわかるように本発明によれば、強酸による腐食防止を施した反応装置や、高圧反応装置を必要とせずに、環境安全性で好ましい安価な触媒を用いて、レブリン酸類及び/またはそのエステルを水素化、環化してブチロラクトン類を高選択率、高収率で得ることができる。
【0026】
更には、同一の出発原料であるセルロース、リグニンを経て、同一の製造装置、同一の触媒を用いて、高選択率、高収率でγ−バレロラクトンを経済的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、本発明の反応に用いられる反応設備の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明では、原料となる化合物は、以下の一般式、すなわち
【0029】
【化4】
で表されるレブリン酸及び/またはそのエステルであり(以下、まとめてレブリン酸化合物とも言う)、目的となる5−アルキル−ガンマブチロラクトンは、以下の一般式式(2)
【0030】
【化5】
で表される(以下、簡略してラクトン化合物とも言う)。
【0031】
上記両式中、Rは、炭素原子数1〜4個のアルキル基、R及びRはそれぞれ無関係に水素または炭素原子数1〜4個のアルキル基、Rは水素または炭素原子数8個以下の炭化水素基である。前記炭素原子数1〜4個のアルキル基は、炭素原子数1〜4個の線状または分枝状のアルキル基を包含し、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert−ブチルなどが挙げられる。Rとしての炭素原子数8個以下の炭化水素基は、好ましくは炭素原子数4個以下の線状または分枝状アルキル基であり、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert−ブチル、あるいはヘキシルなどの環状脂肪族炭化水素残基、またはベンジル基などの芳香族基が挙げられる。
【0032】
ここで、Rは、好ましくは、メチルであり、R及びRは、好ましくは、水素であり、Rは、好ましくは水素、メチルまたはエチルあるいはこれらの混合である。
【0033】
本発明の態様の一つでは、前記一般式1で表されるレブリン酸及びエステルは、草木類などの植物性バイオマス由来のものであり、特に植物性バイオマス中の主成分のリグニンから誘導されるレブリン酸、他の主成分であるセルロースから誘導されるレブリン酸エステルあることができる。また、他の態様では、糖、でんぷんなど種々の炭水化物から誘導されるレブリン酸及びエステルも好適に使用できる。
【0034】
またレブリン酸を直接水素化する方法以外に、後述の実施例でも示されるように、レブリン酸をメタノールなどでエステル化して得られるレブリン酸エステルも原料として使用し得る。
【0035】
本発明によるラクトン化合物合成に使用される触媒は、酸化銅と、酸化亜鉛及び/または酸化アルミニウムとを含む酸化物複合体の形態のものである。この酸化物複合体を水素化して、最終の活性触媒とすることができる。
【0036】
ここにおいて銅含有量が高い程、反応収率が高いことから、銅元素が露出する表面積が高いほど反応速度は大きくなると考えられる。このことから、水素ガスが吸着してレブリン酸類及び/またはそのエステルの水素化を起こす活性点は、銅金属原子にあると考えられる。また触媒とレブリン酸化合物との接触面積が大きい程、反応速度にとって好ましく、その触媒の幾何学的構造は多孔質構造を取ることが好ましい。その多孔質構造は、後述する触媒の製造工程において、金属水酸化物を加熱して酸化物を形成する際に、水蒸気が抜ける際に形成される。
【0037】
本発明の触媒は、活性化後は、Cu/CuOとZnO及び/またはAlが均一に混合した状態にあるのではなく、固体内で不均一に構成成分が分布した状態にあり、少なくとも固体表面の一部に金属銅(Cu)が析出した構造を持つ。
【0038】
そのような多孔質構造を取らせるための酸化物として種々の金属酸化物を探索したところ、性能と経済性の両方を満たし、且つ毒性の低い酸化物として酸化亜鉛とアルミナが好ましいことが判明した。その理由は現在検討中であるが、複合体形成時の多孔質構造や、触媒表面の銅の分散などが、反応に好ましい状態となっていることが推察され、また水素ガス、レブリン酸化合物のガスの吸着が、金属銅のみならず金属酸化物によっても変化し、酸化亜鉛、アルミナが水素化にとって好ましい配置を取るものと思われる。
【0039】
酸化銅と酸化亜鉛及び/または酸化アルミニウムとの酸化物複合材料中、酸化銅の含有量は好ましくは50〜95重量%である。50重量%未満では目的のラクトン化合物の収率が低下する傾向があり、95重量%超でも同様に収率が低下し、また物理的強度も低下するために、触媒寿命が低下しやすい。
【0040】
本発明に使用する触媒のBET表面積は、10〜500m/gであることが好ましい。その範囲より小さい場合には、反応速度が低下し、またその範囲より大きい場合には、触媒の機械的強度が低下して、高温反応における触媒劣化が進みやすい。より好ましい該銅系触媒のBET表面積は、15〜200m/gであり、更に好ましくは20〜150m/gである。
【0041】
また酸化銅と複合させる金属酸化物は、単独である必要はなく、酸化亜鉛と酸化アルミニウムを混合、複合させることも可能であり、すなわち、CuO/ZnO、CuO/Al、及びCuO/ZnO/Alの系のいずれも可能である。
【0042】
触媒は、その他の成分、たとえばタブレット化助剤や不活性な充填材を含んでいてもよい。
【0043】
本発明による触媒は、例えば、銅化合物と、亜鉛化合物及び/またはアルミニウム化合物とを、塩基性溶液と混合し、沈殿させ、この沈殿物を焼成することによって得られる。
【0044】
具体的な方法は、例えば銅化合物と、亜鉛化合物及び/またはアルミニウム化合物とを含む溶液に塩基性溶液を加えて前記化合物を沈殿させる方法、すなわち共沈法である。なお、触媒の調製は、例えば、はじめに一成分を含む溶液に塩基性溶液を加えて一成分を沈殿させ、ついで、該沈殿物を含む液中で残りの成分を同様に沈殿させる方法、すなわち逐次沈殿法で行うこともできる。いずれの方法においても、触媒調製の主原料は、銅化合物、亜鉛化合物、アルミニウム化合物であり、水、メタノールなどの金属を含まない液体に溶解するものが用いられる。このような化合物としては、例えばそれぞれの元素の硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩などが挙げられる。また、沈殿剤としては、炭酸ナトリウム、尿素、アンモニア、水酸化ナトリウム、炭酸アンモニウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウムなどの塩基性溶液を用いることができる。
【0045】
沈殿物は、調製後、空気中で300〜650℃で焼成して酸化物の状態にすることが必要である。このようにすることにより、安定な複合体とすることができる。焼成しないか、300℃未満の温度で焼成するか、あるいは650℃を越える温度で焼成すると性能が低下する。上記のことから、本発明の水素化触媒の製造方法は、一つの態様では、銅化合物と、亜鉛化合物及び/またはアルミニウム化合物とを含む溶液に塩基性溶液を加えて金属水和物を沈殿させた後、この沈殿物を300〜650℃で焼成して、複合酸化物とすることを含む。
【0046】
また、他の態様として、該触媒の製造には、前記の沈殿法の他に、含浸法も使用でき、この方法では、酸化亜鉛及び/または酸化アルミニウムに、銅化合物を含浸し、次いで焼成を行う。焼成条件は上記と同じである。
【0047】
本発明の複合酸化物の形の触媒は、その形状、表面構造、表面積などを安定に維持できるように、造粒などの成形がなされて使用できる。そのことによってレブリン酸化合物の反応速度を長時間にわたり安定化させることができる。触媒は公知の方法で成形しても良いし、そのまま用いても良い。触媒の粒子径、形状は反応の方式、反応器の形状によって任意に選択し得る。
【0048】
この複合酸化物は、触媒としての使用のために、水素前還元を必要とする。その処理により、複合酸化物中の酸化銅の少なくとも一部、特に複合酸化物の表面の酸化銅が銅に還元される。その処理は、水素の存在下に、好ましくは温度を室温から180〜380℃、特に好ましくは室温から190〜300℃に、次第に高めることからなる。
【0049】
活性化処理に使用する還元水素ガスは、純水素ガスでもよいし、または水素と不活性ガス(例えば窒素、アルゴン)との希釈ガスであってもよい。例えば、ボンベ入りで供給される通常の水素ガスを使用することが出来る。活性化処理の後、触媒として使用可能になる。活性化は、反応器の寸法と設計によって異なるが、通常は約0.5〜48時間の間で変動する時間を必要とする。
【0050】
活性化のための装置は特に限定されず、ラクトン化合物製造に使用する反応装置、たとえば、気相流通反応装置をそのまま用いることもできる。該装置に予め調製された触媒の所定量を入れたのち、水素還元して活性な触媒を調製し、ひきつづき、これに原料のレブリン酸化合物と水素ガスを供給してラクトン化合物を製造する方法を好適に使用できる。
【0051】
レブリン酸化合物の水素化反応に使用される水素ガスとしては、前記触媒活性化用のもの同様のものが使用できる、すなわち純水素ガス、または水素と不活性ガス(例えば窒素、アルゴン)との希釈ガスを使用でき、例えば、ボンベ入りで供給される通常の水素ガスを使用することができる。
【0052】
本発明におけるレブリン酸化合物の水素化反応工程では、上記触媒使用と共にレブリン酸化合物の良溶剤の蒸気を触媒表面上で水素ガスと共存させることにより、ラクトン化合物の反応選択率、収率を高めることができる。この良溶剤としてはレブリン酸化合物を溶解し得る溶剤であれば特に限定されないが、副反応が少なく高収率が得られやすいという理由から特にアルコール類、もしくは水から選択されることが好ましい。
【0053】
前記溶剤は、レブリン酸化合物とは別の経路で加熱気化して反応器に導入してもよいし、またはレブリン酸化合物を、この溶剤に溶解した溶液として用意し、一緒に加熱気化して、反応器に導入してもよい。
【0054】
溶剤の量は、原料のレブリン酸化合物1重量部に対し、一般的に0.1〜200重量部、好ましくは0.5〜50重量部の量で反応系に存在させることが有利である。0.1重量部未満であると、溶剤の効果が発揮されずに突沸などの恐れがあり、他方200重量部を超えると、反応速度が小さくなる。
【0055】
水素ガスと共存してレブリン酸化合物からラクトン化合物形成を促進するアルコールとしては、炭素原子数1〜6個のアルコールを使用でき、特に好ましいのは炭素原子数1個のメタノール、2個のエタノールである。炭素原子数6を越えると、沸点が高くなり経済性、取り扱い性の点で好ましくない。
【0056】
水は、加熱して水蒸気として供給されるが、水道水や井戸水を使用できるが、それらを脱イオン処理した水などが好適に使用される。
【0057】
尚、レブリン酸化合物の水素化反応に対する本発明の溶剤ガスを共存させる効果は、実施例で後述するように、溶剤が、触媒細孔中に吸着した原料、生成物を除去し、反応活性を高めるためと考えられ、そのため上記の銅系触媒に限らず、例えば特許文献1に記載のある銅酸化マグネシウム、ニッケル酸化ケイ素触媒などでも同様に期待できる。
【0058】
従って、本発明は、前記一般式1で表されるレブリン酸及び/またはエステルから前記一般式2で表される5−アルキル−ガンマブチロラクトンを製造する方法であって、前記レブリン酸及び/またはエステルを、触媒の存在下、及びレブリン酸及び/又はエステルの溶剤蒸気の存在下に、水素ガスと気相で反応させる、前記方法も提供するものである。この場合、溶剤としては水及び炭素原子数1〜6個のアルコールからなる群から選択される少なくとも一種の溶剤から選択されることが好ましい。この際、触媒としては、前記銅系触媒の他、銅酸化マグネシウム、ニッケル酸化ケイ素触媒など、レブリン酸化合物からラクトン化合物への転化に活性を示す任意の触媒が可能である。
【0059】
本発明のラクトン化合物合成に使用する製造装置としては、高温下、水素と原料ガス(レブリン酸化合物)を触媒が収納された容器中に流しながら反応させ、容器から流出したラクトン化合物などを取り出すことのできる装置であればいずれの構造も使用できるが、その中でも特に固定床流通式反応装置、それも常圧方式の装置が好ましい。
【0060】
反応設備としては図1の模式図で示される設備が例示される。レブリン化合物やアルコールを加熱気化させる気化装置と、気化したガスを反応系に導入する配管、及び水素ガス供給のための配管などが配置された上、温度センサーとそれによる加熱制御装置、各ガスの流量計などが設けられて、最適な反応条件に設定、制御される。その制御の方法としては触媒通過後の配管の一部にガス取り出し口を設け、ガスクロマトグラフィー分析などにより生成物をモニターしながらおこなうことも好適に行われる。
【0061】
触媒を通過した原料ガスと生成物の混合ガスの一部を、再度触媒容器に導き循環して反応させるとより高い収率を実現することもできる。
【0062】
レブリン酸化合物の水素化温度としては好ましくは200〜330℃、特に好ましくは230〜320℃である。この範囲より低いと選択率や収率が低下し、この範囲より温度が高いと反応速度の低下や、触媒の寿命の低下を招く。反応温度が高すぎると反応速度が低下するのは、レブリン酸化合物の水素化が発熱反応であることによると考えられている。
【0063】
充填される触媒量、レブリン酸化合物及び水素やアルコールなどの反応ガスの流量は、反応装置の大きさ、必要とする収率などのパラメーターを考慮して最適に設計される。
【0064】
ここで触媒への水素ガス供給圧力は0.05〜50.0MPaが好ましい。この範囲以下だと周囲の大気圧より著しく低くなるため、反応系に空気が入りやすくなり、この範囲以上だと高圧仕様の製造装置となり、高コストとなりやすい。水素ガス圧力のより好ましい範囲は0.1〜10.0MPaである。
【0065】
図1は、本発明の反応に用いられる設備の概念図である。01は反応装置であり、常圧固定床流通式反応装置などが好適に使用される。02は触媒容器に収められた触媒である。13は水素ガス供給装置であり、反応装置に収められた触媒には、使用前に水素ガス供給装置13からの水素ガスが加熱しながら供給され、活性化処理が行われる。
【0066】
11、12はレブリン酸ガス供給装置、レブリン酸エステルガス供給装置であり、水素ガスと共に触媒槽に供給されて加熱されて水素化される。14はアルコールガス供給装置であり、レブリン酸の水素化反応を促進するために、レブリン酸と共に触媒槽に供給されて、ラクトン形成を促進する。
【0067】
21から25はそれぞれのガスの流量計、41はストップバルブ、31〜35はガス圧力計、42は温度計である。それぞれのガスの流量を不図示のマスフローメーターで制御しながら、ガスを触媒槽に供給し、触媒槽の温度を制御しながら水素化反応を行わせる。生成したγ−バレロラクトンはストックタンク03に移送されて冷却、液化して生成物として回収される。51はガスクロマトグラフ分析装置であり、反応装置から出てきたガスの成分分析をモニターしながら、γ−バレロラクトンの生成速度が大きくなるように、ガス供給量や反応温度を制御する。
【0068】
上記の説明はレブリン酸の水素化反応を例にとり説明したが、原料ガスとしてレブリン酸とレブリン酸エステルの両方を別々のガス供給装置に仕込み、同時に反応させることも可能である。また、レブリン酸とレブリン酸エステルの反応を、製造時間を分けて別々に行わせることも、またレブリン酸とレブリン酸エステルを混合した状態から、ガスを発生させて反応させることも可能であり、プラント内における植物性バイオマスからのセルロース原料、リグニン原料の処理状況に応じて適宜、選択される。
【0069】
また図1は、レブリン酸、レブリン酸エステルの原料供給はそれぞれ単体の材料の加熱気化により行い、アルコールはまた別の気化装置を用いる方法に基づいているが、レブリン酸及び/またはレブリン酸エステルを溶剤に溶解したものを加熱して、レブリン酸化合物と溶剤ガスを同時に気化、供給する方法も可能である。レブリン酸化合物を直接加熱・気化させる方法では、突沸などにより気化が不安定となり、微細なレブリン酸化合物が触媒反応系に流入し、反応を不安定にさせる懸念があるのに対して、溶剤に溶解した状態から加熱気化させる方法はレブリン酸化合物の気化が安定しやすく、触媒の性能低下を小さくする上で好ましい。またメタノールなどの溶剤中には、レブリン酸とレブリン酸エステルの複数成分を溶解させて、同一の気化装置から溶剤ガス、レブリン酸、レブリン酸エステルを同時に蒸発させることも可能である。
【0070】
尚、上述した異なる構造のレブリン酸化合物を、一つの反応装置を用いて水素添加し、同一の生成物を得る方法、反応設備は本発明によって新たに提案されるものである。該設備は、本発明の銅系触媒に限られず、他の触媒でも可能なことが本発明者により見出されている。そのような触媒の例としては、上記特許文献1及び特許文献3に記載の触媒も好適に使用できる。例えば銅酸化マグネシウム、ニッケル酸化ケイ素触媒や、Pt、Pd、Rhなどの貴金属などを使用し得る。
【0071】
従って、本発明は、異なる構造のレブリン酸化合物、すなわち上記一般式1のレブリン酸類とレブリン酸エステルとの両方を原料として上記一般式2の一つのラクトン化合物を製造するための反応設備であって、
・触媒(02)を収容した一つの反応装置(01)、
・原料としてのレブリン酸及びレブリン酸エステルを収容、加熱、気化するための共通のまたは別個の装置(11、12)、
・前記装置(11、12)から原料蒸気を反応装置(01)に供給するための配管、
・水素ガスを収容するための装置(13)、
・前記水素ガス収容装置(13)から反応装置(01)に水素ガスを供給するための配管、
・任意に、レブリン酸類及びレブリン酸エステル類を溶解し得る溶剤を収容、加熱、気化する装置(14)、及び前記装置(14)から溶剤蒸気を反応装置(01)に供給するための配管、
を備えた、前記反応設備を提供する。ここにおいて、気化装置は、レブリン酸の加熱気化用とレブリン酸エステルの加熱気化用とが同一であっても、もしくは別個に設けられていてもよい。
【0072】
該反応設備は、本発明の触媒を使用して操業するのに特に適したものである。
【0073】
実施例1
a)触媒製造
加熱可能で撹拌装置を備える沈殿容器中に水1.5lを予め装入し、80℃に加熱する。この沈殿容器中に1時間かけて水2000ml中のCu(NO・2.5HO 731gおよびAl(NO・9HO 1200gからなる金属塩溶液を仕込みおよび同時に20質量%の水酸化ナトリウム溶液を撹拌下に、沈殿容器中のpH値が8に達するまで供給し、このpH値で更に15分間攪拌する。水酸化ナトリウム溶液の全使用量は5.6kgである。生じた懸濁液を濾別し、水を用いて、流れる洗浄水がニトレートをもはや含有しなくなるまで(<25ppm)洗浄する。フィルターケーキを最初に120℃で乾燥し、引き続き600℃で焼成する。ここにおいて焼成とは、固体原料を加熱し、熱分解により揮発性成分を脱出させ,安定な生成物を取得する処理をさす。そのように製造された触媒(銅アルミ触媒1)の酸化物組成はCuOが60.5重量%およびAlが39.5重量%である(Cu含有率48.3重量%)。この触媒粉末400gを粒度<1mmまで破砕し、グラファイト粉末12gと混合し、強力に混合し、直径3mmおよび高さ3mmの錠剤に打錠する。
b)反応設備と触媒活性化
図1におけるレブリン酸ガス供給装置、レブリン酸エステルガス供給装置、及びアルコールガス供給装置が無い点を除き、図1と同じ要素を持つ実験用常圧固定床流通式反応装置を用いた。その場合、レブリン酸メチルの供給は、シリンジポンプを用いて定量注入、気化させることにより行った。触媒0.5グラムを触媒容器に設置し、水素ガスを30cm/分で流しながら、200℃に保ちながら1時間触媒活性化処理を行った。
c)水素化
レブリン酸メチルを原料供給用のシリンジポンプから充填し加熱気化させて、1.6cm/時の速度で反応装置01に供給した。同時に水素ガスボンベ13からの純水素ガスをバルブ制御しながら30cm/分の流量で供給し、240℃、5時間、水素化反応を行った。反応装置から出たガスをガスクロマトグラフ装置でガス成分分析(内部標識として1−ブタノールを使用)を行いつつ、ドライアイスーアセトンで冷却した容器03に生成物をストックした。生成物を分析したところ、それぞれモルベースで、γ−バレロラクトン(GVLと略)への選択率が99%、収率として64%と高い値が得られた(表1参照)。
【0074】
比較例1〜3
アルミナ担体に貴金属であるRhを全触媒重量の5重量%担持した比較例1サンプル(Rh触媒)、同様にRuを5重量%担持した比較例2サンプル(Ru触媒)、同様にPtを5重量%担持した比較例3サンプル(Pt触媒)を用意した。これらの比較例サンプルを使用して、実施例1と同じ設備を用い、同様の条件でレブリン酸メチルの水素化反応を行った。それぞれモルベースで、その時のRh触媒のγ−バレロラクトン収率は21%、Ru触媒でのγ−バレロラクトン収率は48.4%、Pt触媒でのγ−バレロラクトン収率は14.1%であった(表1参照)。
【0075】
尚、比較例に用いたアルミナ担持した貴金属触媒の調製は、実施例1の方法において、銅を混合させずにアルミニウム塩のみを用いてアルミナを作成、成形したアルミナ担体を、貴金属塩を溶解した溶液に浸漬して所定量貴金属を付着させた後、前述と同様の方法により加熱、活性化処理を行ったものを使用した。
【0076】
実施例2
硝酸銅三水和物130.2g及び硝酸亜鉛六水和物40.6gを蒸留水に溶解して500mlの水溶液を調製しA液とした。また、別に無水炭酸ナトリウム74.2gを蒸留水に溶解して500mlの水溶液を調製しB液とした。激しく攪拌した400mlの蒸留水中に、A液とB液をともに3ml/分の速度で滴下した。得られた沈殿物を蒸留水で洗浄した後、120℃で乾燥し、400℃にて空気中で3時間焼成した。この触媒の組成は、CuO79.6wt%、ZnO20.4wt%であった(Cu含有率63.6重量%)。この触媒を水素還元して得た活性触媒(銅亜鉛触媒2)を用い、実施例1と同様の方法によりレブリン酸メチルの水素化反応を行った。
【0077】
実施例3
市販の銅アルミ触媒3(CuO;55.1wt%、Al;44.9wt%;Cu含有率44.0重量%)を用いた以外は実施例1と同様の方法、条件によりレブリン酸メチルの水素化反応を行い、その結果を表1に示した。
【0078】
実施例4
市販の銅亜鉛触媒4(CuO;53.0wt%、ZnO;47.0wt%;Cu含有率42.3重量%)を用いた以外は実施例1と同様の方法、条件によりレブリン酸メチルの水素化反応を行い、その結果を表1に示した。
【0079】
実施例5
市販の銅アルミ触媒5(CuO;14.9wt%、Al;85.1wt%;Cu含有率:11.9重量%)を用いた以外は、実施例1と同様の条件でレブリン酸メチルの水素化を行い、その結果を表1に示した。
【0080】
【表1】
【0081】
実施例6
実施例3で用いた市販触媒(銅アルミ触媒3)を用い、反応原料をレブリン酸メチルの代わりにレブリン酸を使用してその水素化反応を行った。反応温度を280℃とした以外は、実施例1と同様の方法で行った。その結果を表2に示した。
【0082】
実施例7
市販触媒(銅アルミ触媒3)を用い、水素ガス流量を30ml/分から120ml/分と上昇させた以外は実施例6と同様の方法により、レブリン酸の水素化反応を行った。その結果を表2に示した。
【0083】
【表2】
【0084】
実施例8
市販銅アルミ触媒3を使用して、レブリン酸とメタノールの混合溶液をシリンジポンプで定量採取し、1.8ml/時の速度で反応系に注入させることにより加熱気化させた。また水素ボンベから水素ガスを120ml/分の流速で供給しながら、メタノール共存条件でレブリン酸の水素化反応を行った。この時のメタノール、水素、レブリン酸気体の流速比は、13:32:13となるように調整した。レブリン酸とメタノール混合溶液を原料として上記の流速で反応することの条件を除き、実施例7と同様の条件で反応を行い、その結果を表3に示した。
【0085】
実施例9
実施例8において、反応温度280℃から300℃に上昇させた以外は、実施例8と同様の方法、条件により、メタノールを共存させながら水素化反応を行った。その結果を表3に示した。
【0086】
実施例10
実施例9における共存溶媒のメタノールを、水に置き換えた以外は、実施例9と同様の方法、条件により水素化反応を行った。その結果を表3に示した。
【0087】
実施例11
共存させる溶媒を用いず、レブリン酸単独で反応系に供給する点を除き、実施例9と同様の方法により水素化反応を行った結果を、表3に示した。
【0088】
この実施例11と実施例9〜10を比較すると、レブリン酸の溶媒であるメタノールや水などのガス共存により、ラクトンの生成収率が向上する効果が認められた。その理由の詳細は検討中であるが、一つの理由として、メタノールガスが触媒近傍に存在しない状態では、沸点もしくは粘性の高いレブリン酸、もしくはラクトンが触媒表面の細孔に吸着して反応を阻害するのに対して、メタノールガスがその吸着物質を除去するために、反応活性が高まることも推察される。
【0089】
【表3】
【0090】
実施例12
実施例8における市販の銅アルミ触媒の代わりに、実施例2の銅亜鉛触媒2を用いた以外は、実施例8と同様の方法、条件で水素化反応を行わせたところ、選択率、収率共に良好な結果を得た。
【0091】
実施例13
図1で示される固定床流通式実験反応装置を準備した。実施例1の銅アルミ触媒1 0.5グラムを触媒容器02に充填し、またレブリン酸、レブリン酸メチル、及びメタノールをそれぞれ気化装置11、及び12、及び14に充填した。
【0092】
次いで、水素ガスを30cm/分で流しながら、200℃に保ちながら1時間触媒活性化処理を行った。
【0093】
レブリン酸を気化供給装置11から加熱気化させて、1.0cm/時の速度で反応装置01に供給した。またレブリン酸メチルを気化供給装置12から加熱気化させて、1.0cm/時の速度で反応装置01に供給した。また気化供給装置14からメタノールを気化させて反応装置01に供給した。同時に水素ガスボンベ13からの水素ガスをバルブ制御しながら30cm/分の流量で供給し、240℃、5時間、水素化反応を行った。得られたγ−バレロラクトンの選択率、収率共にモルベースで90%以上と高い値が得られた。
【0094】
以上、実施例1〜11、比較例1〜3から
1)本発明の銅系触媒において酸化銅の割合が50重量%以上の触媒を使用することにより、レブリン酸及びレブリン酸エステルからγ−バレロラクトンを特に高選択率、高収率で得られる、
2)アルコールガス等の溶剤を反応時に共存させることにより、γ−バレロラクトンの収率が向上する、
3)植物性バイオマスを出発原料とするセルロースの加溶媒分解で得られるレブリン酸メチル、リグニンから3−カルボキシムコノラクトン経由で得られるレブリン酸を、同一の触媒、同一の反応装置により、目的物質であるγ−バレロラクトンを高選択率、高収量で得られる、
ことが判明した。
【符号の説明】
【0095】
01 常圧固定床流通式反応装置
02 触媒
03 反応生成物ストックタンク
04 冷却トラップ
11 レブリン酸ガス供給装置
12 レブリン酸エスエルガス供給装置
13 水素ガス供給装置
14 アルコールガス供給装置
21〜25 ガス流量計
31〜35 圧力計
41 バルブ
42 温度計
43 配管
51 ガスクロマトグラフ分析装置
図1