特許第6238535号(P6238535)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6238535
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】プレスプーリ
(51)【国際特許分類】
   F16H 55/44 20060101AFI20171120BHJP
【FI】
   F16H55/44
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-51746(P2013-51746)
(22)【出願日】2013年3月14日
(65)【公開番号】特開2014-177987(P2014-177987A)
(43)【公開日】2014年9月25日
【審査請求日】2015年9月17日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100127340
【弁理士】
【氏名又は名称】飛永 充啓
(72)【発明者】
【氏名】香田 毅
(72)【発明者】
【氏名】井筒 智善
【審査官】 増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−126160(JP,A)
【文献】 実開昭53−11446(JP,U)
【文献】 特公昭48−41487(JP,B1)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0178398(US,A1)
【文献】 特開平5−76971(JP,A)
【文献】 特開昭61−56741(JP,A)
【文献】 特開2002−349678(JP,A)
【文献】 特開昭57−114029(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 55/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車エンジンの補機駆動用ベルトが巻回される外筒部と、その外筒部の内側に設けられた軸受嵌合用の内筒部と、その内筒部の端部および外筒部の端部に繋がる環状の繋ぎ部とを有してなるプレス加工されたプレスプーリにおいて、
前記繋ぎ部を、前記外筒部の内径面および前記内筒部の外径面に接線で繋がる単一の円弧面を内側に有してなる断面円弧状の環状屈曲部とし
前記繋ぎ部の内側円弧面の曲率半径をRi、プレス素材としての鋼板の板厚をtとしたとき、曲率半径Riを0.2〜0.5tの範囲とし、
前記プレス素材としての鋼板の板厚tが、1.6〜4.0mmの範囲とされたことを特徴とするプレスプーリ。
【請求項2】
前記繋ぎ部の外側面を前記外筒部の外径面および前記内筒部の内径面に接線で繋がる単一の円弧面とした請求項1に記載のプレスプーリ。
【請求項3】
プレス加工後の板厚が、プレス素材としての鋼板の板厚tの70〜95%の範囲とした請求項1又は2に記載のプレスプーリ。
【請求項4】
前記外筒部の外径面を軸方向に沿わせた請求項1からのいずれか1項に記載のプレスプーリ。
【請求項5】
前記外筒部の内径面及び前記内筒部の外径面をそれぞれ軸方向に沿わせた請求項1からのいずれか1項に記載のプレスプーリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鋼板のプレス成形品からなるプレスプーリに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジンの補機駆動用ベルトやタイミングベルトのテンショナ用として、あるいは、ベルトの巻付き角を確保するアイドラ用として用いられるプレスプーリとして、特許文献1および2に記載されたものが従来から知られている。
【0003】
特許文献1に記載されたプレスプーリにおいては、ベルトが巻回される外筒部としてのベルト巻回部と、その内側に設けられた内筒部としての圧入部と、上記ベルト巻回部と圧入部とを連結する側板部とを有し、鋼板のプレス加工により上記ベルト巻回部と圧入部とを同一軸方向に曲げ加工している。
【0004】
また、圧入部と側板部の連設部間に設けられた圧入部角隅を複数の円弧からなる複合円弧とし、上記圧入部と円弧の間、複数の円弧の間および円弧と側板部の間のすべてを接線で継なぎ、圧入部角隅の曲率を大きくすることによって圧入部角隅に発生する応力を軽減し、破損を防止するようにしている。
【0005】
一方、特許文献2に記載されたプレスプーリにおいては、上記特許文献1と同様に、外筒部としてのベルト巻掛け部と、その内側に設けられた内筒部と、その内筒部とベルト巻掛け部を連設する環状のフランジ部(特許文献1の側板に相当)とを有してなり、上記内筒部とフランジ部とによって形作られる隅部を増厚し、その増厚箇所を両側に離れるに従って基準肉厚になるまで肉厚を漸減させることによって、最大主応力が加わる箇所やその近傍箇所が疲労破壊するのを防止するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−250429号公報
【特許文献2】特開2007−198402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1および特許文献2に記載されたいずれのプレスプーリも、内筒部と側板部の連設部に設けられた角隅部の形状を工夫することによって応力の集中を緩和し、耐荷重性の向上を図るようにしているが、外筒部と内筒部間に側板部が設けられているため、外筒部の外径に対して内筒部の内径が著しく小さくなり、サイズの大きな軸受を組み込むことができない。このため、サイズ大きな軸受の組込みよって耐荷重性を高め、負荷容量の増大を図かろうとすると、外筒部を大径化させる必要が生じ、プレスプーリが大型化するという問題が生じる。
【0008】
この発明の課題は、外筒部の外径を変更することなく内筒部の内径の大径化を図ることができ、サイズの大きな軸受の組込みを可能として負荷容量の増大を図ることができるようにしたプレスプーリを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、この発明においては、ベルトが巻回される外筒部と、その外筒部の内側に設けられた軸受嵌合用の内筒部と、その内筒部の端部および外筒部の端部に繋がる環状の繋ぎ部とを有してなるプレス加工されたプレスプーリにおいて、前記繋ぎ部を、前記外筒部の内径面および前記内筒部の外径面に接線で繋がる単一の円弧面を内側に有してなる断面円弧状の環状屈曲部とした構成を採用したのである。
【0010】
上記のように、外筒部と内筒部を繋ぐ繋ぎ部を断面円弧状の環状屈曲部とし、その環状屈曲部の内側面を外筒部の内径面および内筒部の外径面に接線で繋がる単一の円弧面として特許文献1および2で示されるプレスプーリの側板部を不要としたことにより、外筒部の外径を変更することなく内筒部の内径の大径化を図ることができる。このため、サイズの大きな軸受の組込みを可能とすることができ、負荷容量を増大させることができる。
【0011】
ここで、繋ぎ部の内側円弧面の曲率半径をRi、プレス素材としての鋼板の板厚をtとしたとき、曲率半径Riが0.2t未満であると、プレスプーリの成形に大きなプレス圧が必要となって製造が困難となり、コストが上昇する。また、曲率半径Riが0.tを超えると、内筒部の内径が小径化してサイズの大きな軸受を組込むことができず、負荷容量を増大させることができなくなる。このため、曲率半径Riは0.2〜0.5tの範囲とするのが好ましい。
【0012】
この発明に係るプレスプーリにおいて、繋ぎ部の外側面を外筒部の外径面および内筒部の内径面に接線で繋がる単一の円弧面とすると、プレスプーリの寸法保障が容易となってプレス金型の構造を簡素化することができる。また、プレス金型の寿命の向上を期待することができる。
【0013】
また、プレス加工後の板厚が、プレス素材としての鋼板の板厚tの70〜95%の範囲とすると、冷間加工でのしごき工程を付加することで寸法精度を向上させることができる。
【0014】
さらに、プレス素材としての鋼板として、板厚tが1.6〜4.0mmの範囲とされた鋼板を採用することにより、剛性の高いプレスプーリを得ることができ、負荷容量を大幅に高めることができる。
【発明の効果】
【0015】
この発明においては、上記のように、外筒部と内筒部を繋ぐ繋ぎ部を断面U字形の環状屈曲部とし、その環状屈曲部の内側面に外筒部の内径面および前記内筒部の外径面に接線で繋がる単一の円弧面を設けたことにより、外筒部の外径の大径化を図ることなく内筒部の内径の大径化を図ることができ、サイズの大きな軸受の組込みを可能とすることができ、負荷容量を増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】この発明に係るプレスプーリの実施の形態を示す断面図
図2図2図1の一部を拡大して示す断面図
図3】従来のプレスプーリを示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1および図2は、この発明に係るプレスプーリ10の実施の形態を示す。このプレスプーリ10は、鋼板のプレス成形品からなり、ベルトが巻回される外筒部11と、その外筒部11の内側に設けられた内筒部12と、その内筒部12の端部および外筒部11の端部に繋がる環状の繋ぎ部13と、その内筒部12の端部から内向きに折れ曲がる内向きフランジ部14とを有し、上記内筒部12内への軸受20の組込みのよってテンションプーリとして、あるいは、アイドラプーリとして使用される。
【0018】
繋ぎ部13は、断面円弧状の環状屈曲部とされて単一の円弧面15を内側に有し、その内側円弧面15は外筒部11の内径面および内筒部12の外径面に接線で繋がっている。
【0019】
また、繋ぎ部13の外側面16は、単一の円弧面とされ、その外側円弧面16は外筒部11の外径面および内筒部12の内径面に接線で繋がっている。
【0020】
ここで、外筒部11、内筒部12および繋ぎ部13を形づくるプレス素材としての鋼板の板厚をt、繋ぎ部13の内側円弧面15の曲率半径をRiとしたとき、曲率半径Riが必要以上に小さくなるとプレスプーリの成形に大きなプレス圧が必要となって製造が困難となり、コストが上昇する。また、曲率半径Riが必要以上に大きくなると、内筒部12の内径が小径化してサイズの大きな軸受を組込むことができなくなる。そこで、実施の形態では、曲率半径Riを0.2〜0.5tの範囲としている。
【0021】
また、プレス素材としての鋼板は、板厚tが必要以上に薄くなると、剛性が低くなって負荷容量の大きなプレスプーリを得ることができなくなる。また、板厚tが必要以上に厚くなると、プレス成形することができなくなる。そこで、鋼板については、板厚tが1.6〜4.0mmの範囲とされたものを用いるようにしている。そのような鋼板を採用してプレスプーリ10を成形することにより、剛性の高い負荷容量の大きなプレスプーリ10を得ることができる。
【0022】
図3は、特許文献1の従来の技術の項に記載された従来のプレスプーリを示し、外筒部31、内筒部32および内筒部32と外筒部31を繋ぐ繋ぎ部33とからなり、上記繋ぎ部33が側板部33aを有し、その側板部33aと内筒部32とで形成される内筒側角隅部34を単一の円弧として内筒部32および側板部33aに接線で繋がっている。
【0023】
特許文献1および特許文献2に記載されたいずれのプレスプーリも、内筒部32と側板部33a間に存する角隅部34の形状を工夫することで応力の集中を緩和し、耐荷重性の向上を図るようにしたものであって、いずれのプレスプーリも図3に示す側板部33aを有しているため、前述のように、外筒部31の外径に対して内筒部32の内径が著しく小さくなり、サイズの大きな軸受35を組込むことができなった。
【0024】
図1に示すプレスプーリと図3に示すプレスプーリとを対比すると、図1に示すプレスプーリ10においては、外筒部11と内筒部12を繋ぐ繋ぎ部13を断面U字形の環状屈曲部とし、その環状屈曲部の内側面を単一の円弧面15として外筒部11の内径面および内筒部12の外径面に接線で繋ぐようにして、図3に示すプレスプーリの側板部33aを省略している点で相違している。
【0025】
このように、外筒部11と内筒部12を繋ぐ繋ぎ部13を断面U字形の環状屈曲部とし、その環状屈曲部の内側面に外筒部11の内径面および内筒部12の外径面に接線で繋がる単一の円弧面15を設けることにより、外筒部11の外径φDoの大径化を図ることなく内筒部12の内径φDiの大径化を図ることができる。その結果、サイズの大きな軸受20の組込みを可能とすることができ、負荷容量の大きなプレスプーリを得ることができる。
【0026】
実施の形態で示すように、繋ぎ部13の外側面16を外筒部11の外径面および内筒部12の内径面に接線で繋がる単一の円弧面とすると、プレスプーリの寸法保障が容易となってプレス金型の構造を簡素化することができる。また、プレス金型の寿命の向上を期待することができる。
【0027】
なお、実施の形態では、冷間加工でのしごき工程の付加によってプレス加工後のプレスプーリ10の外筒部11や内筒部12等の各部の板厚を、プレス素材としての鋼板の板厚tの70〜95%の範囲としている。上記しごき工程の付加により、プレスプーリ10の寸法精度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0028】
11 外筒部
12 内筒部
13 繋ぎ部
14 内側円弧面
15 内側円弧面
図1
図2
図3