(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に図面を参照しつつ、本発明の好適な実施の形態について説明する。ただし、以下に記載されている構成部品の寸法、材質、形状およびそれらの相対配置などは、発明が適用される装置の構成や各種条件により適宜変更されるべきものであり、この発明の範囲を以下の記載に限定する趣旨のものではない。
【0011】
本発明の被検体情報取得装置は、被検体に光(電磁波)を照射することにより被検体内で発生し伝播した音響波を受信して、被検体の特性情報である被検体情報を画像データとして取得する光音響効果を利用した装置である。取得される被検体情報とは、光照射によって生じた音響波の発生源分布、被検体内の初期音圧分布、あるいは初期音圧分布から導かれる光エネルギー吸収密度分布や吸収係数分布、組織を構成する物質の濃度分布などを示す特性情報である。組織を構成する物質とは、例えば、酸素飽和度分布や酸化・還元ヘモグロビン濃度分布などの血液成分、あるいは脂肪、コラーゲン、水分などである。
【0012】
本発明でいう音響波とは、典型的には超音波であり、音波、音響波と呼ばれる弾性波を含む。光音響効果により発生した音響波のことを、光音響波または光超音波と呼ぶ。本発明の装置は、探触子等の音響波検出器によって被検体内で発生・伝搬又は反射して伝搬した音響波を受信する。
本発明の被検体情報取得装置は、光音響波の検出信号(受信信号)を解析して表示画像を生成する、光音響イメージング装置に適用できる。以下、かかる光音響イメージング装置について説明する。ただし本発明の適用対象はこれに限られない。例えば画像を形成するための特性情報を取得しメモリに格納する装置であっても、本発明を適用可能である。本発明はまた、下記の被検体情報取得装置の制御方法や、その制御方法を情報処理装置に実行させるプログラムとして捉えることもできる。
【0013】
(基本的構成)
図1は、光音響イメージング装置の一例を示す構成図である。なお、これ以降同一の構成要素には原則として同一の参照番号を付して、説明を省略する。
光音響イメージング装置は、基本的なハード構成として、光源11、音響波を検出する探触子17、信号処理部19を有する。光源11から照射された光12は、光学系13により加工され、被検体15に照射される。被検体15の内部を伝播した光のエネルギーの一部が血管などの光吸収体14に吸収されると、その光吸収体14の熱膨張により光音響波16が発生する。光音響波16は、探触子17により検出されアナログ信号に変換される。アナログ信号は、信号収集部18で増幅処理やデジタル変換を施される。デジタル信号は、信号処理部19により、被検体内部の特性情報または画像データに変換され、表示装置20に表示される。
【0014】
(光音響イメージング方法)
次に、
図2および
図3を参照しつつ、信号処理部19で行う処理を説明する。特に、リミテッドビュー条件下での画像再構成において、リミテッドビューに起因するアーティファクトを低減し、光吸収体、すなわち光音響波の発生源(音源)の形状をより正確に再現する処理について説明する。
まず
図2を用い、信号処理部19における処理の概要を説明する。
【0015】
処理1(ステップS201):被検体内部の注目領域の微小音源から発生する光音響波から、各検出素子で受信される信号を表現するデータ群を生成する工程
【0016】
画像再構成の手法の中に、モデルベース法あるいは繰り返し再構成法と呼ばれる方法がある。モデルベース法では、被検体内部で発生する音響波の伝搬をモデル化し、そのモデルに基づいてシミュレーションをすることで、取得される光音響信号を推測する。そして、推測値と、探触子による実際の計測値との差が最小になるように、被検体内部の光学特性値分布(特に初期音圧分布)を推定する。モデルベース法では、多くの場合、伝搬モデルとして、ある仮定の下で光音響波動方程式を解析的に解いた数式を利用する。例えば被検体内の音速が一様であると仮定したときの伝播モデルは、以下の式(1)である。
【数1】
ここで、p(r
d,t)は探触子の位置r
dで、時刻tに検出される理想的な光音響信号である。cは音速、p
0(r)は初期音圧分布、δはデルタ関数である。
【0017】
式(1)において空間の離散化を行い、線形問題として行列で表現すると、式(1)は以下の式(2)で表現できる。
p
d=A・p
0 …(2)
【0018】
ここでp
dは探触子で検出される光音響波信号を表現する列ベクトル、p
0は離散化し
た初期音圧分布を表現する列ベクトルである。Aは、ある微小音源から発生する光音響波が探触子で検出され、光音響信号に変換されることを表現したフォワードモデル行列(行列で表現したオペレーター)である。また、通常、光音響波の伝搬や受信特性を正確にモデル化するために、探触子の受信特性(素子サイズ効果、インパルス応答など)、入射光のパルス幅、光音響波の反射や減衰などを考慮したフォワードモデル行列Aを生成する。本発明においても、計測する系の物理モデルに即したフォワードモデル行列を生成することが望ましい。
以上の処理により、被検体内部の注目領域における微小音源に由来する光音響波から、画像再構成に用いるデータ群が生成される。
【0019】
処理2(ステップS202):被検体内部にある測定対象の特徴的な構造を多く含む解を最適解として算出する工程
【0020】
被検体から発生した光音響波を探触子17の各検出素子で受信した検出信号群を縦ベクトル(p
d)とする。また、処理1で求めたフォワードモデル行列をAとする。このとき、被検体内部の光学特性値分布である初期音圧分布の縦ベクトルp
0は、式(2)で表すことができる。ここで、行列Aが正則であれば、逆行列A
−1を持つため、初期音圧分布p
0は式(3)で表現できる。
p
0=A
−1・p
d …(3)
【0021】
式(3)から分かるように、行列Aの逆行列を検出音圧ベクトルに掛けることで、初期音圧分布p
0が求められる。また、検出信号群p
dにノイズεが重畳される場合は、初期音圧分布の最適解(^p
0)として、逆行列A
−1の代わりに、疑似逆行列(A
TA)
−1A
Tが用いられる。ここで上付き記号であるTは行列の転置を示す。
【0022】
ただし、本発明の前提であるリミテッドビュー条件においては、行列Aは正則でないため、逆行列を持たない。さらに、疑似逆行列では不十分な場合、式(4)のコスト関数を最小にするp
0を求める条件付き最適化問題を解く必要がある。
【数2】
この式(4)で、右辺の第一項は最小二乗のコスト関数であり、第二項のf(p
0)は制約条件項あるいはペナルティー項と呼ばれるものである。第二項は、第一項の最小二乗コスト関数の解に制約条件を付与して、より適切な解に絞る項(正則化項)である。また、λは任意の定数であり、最小二乗項と制約条件項とのバランスを取るためのもので、経験的に決められる値である。
【0023】
一般的な制約条件項としては、初期音圧分布p
0のノルム(2ノルム)、つまり式(5)が用いられる。また、式(6)で示される、画像の滑らかさを示す別の指標である全変動(Total variation)を最小化する制約条件もよく使われる。
【数3】
【0024】
しかしながら、発明者らが検討した結果、このような一般的な制約条件では、リミテッドビュー条件において、正確に光音響波の発生源の形状を再現することができないことが分かった。そして発明者らがさらに検討した結果、光音響波の発生源の形状を再現するためには、光音響イメージングの画像に特有な制約条件が必要であることが分かった。
例えば、波長500−900nmの可視領域や近赤外領域の光を用いて生体をイメージングすると、これらの波長領域では、ヘモグロビンの吸収係数が、他の組織(例えば脂肪や水など)と比べて高いため、ヘモグロビンを多く含む血管(血液)が画像化される。この場合、推定解(^p
0)は血管の構造的な特徴を多く含むことが予想される。このよう
に、光の波長や計測対象となる部位に応じて特徴的な構造は異なっており、そのため制約条件も異なることが分かる。したがって、計測対象となる微小音源に由来する光音響波は、その画像化される対象物の形態を反映した特徴を有している。
【0025】
例えば、血管の構造的な特徴を表すものとして、血管の分岐モデルとして知られているMurrayの法則(Murray’s law)がある。
図3に示したように、Murrayの法則によれば、分岐前の血管の太さをr
0、分岐後の血管の太さをr
1、r
2とすると、それぞれの関係は式(7)のように表される。
r
03=r
13+r
23 …(7)
【0026】
また、分岐後の分岐角度をそれぞれθ
1及びθ
2とすると、式(8)、式(9)のように表される。
【数4】
血管画像はこのような特性を有するので、このような特性を多く含む画像を推定するためには、以下の式(10)の条件を最小化する必要がある
【数5】
つまり、p
0の最小二乗解の内、式(7)〜式(9)の条件を満たす構造を多く含むような制約条件項である式(10)を付けて、式(4)を解くことで、リミテッドビュー条件においても初期音圧分布を再現できるようになる。計測対象の部位が血管である場合、このようにMurrayの法則を適用した手法を用いる。
【0027】
さらに、光音響顕微鏡などの基礎検討などの結果から、測定対象物の血管構造がある程度パターン化されていると判明している場合は、血管画像が、例えば式(11)のように、ある基底φで展開できると仮定する。
図4(a)や
図4(b)は、血管構造のパターンの例である。ここでは2つを示したが、他のパターンも可能である。
【数6】
そして、複数の血管の光音響画像から特徴構造である基底(φ
0・・・φ
n)を算出する。そして、その基底φを多く含む解を推定すれば、リミテッドビュー条件においても音源の形状を再現できるようになる。具体的には、基底行列をΦ(φ
0・・・φ
n)とすると、式(12)のコスト関数を最小化すればよい。
【数7】
【0028】
なお、ここでは光音響イメージングにおいて、血管がイメージングされる例を示した。しかし、使用する光の波長や、計測対象となる部位によっては、血管以外の組織構造をイメージングできる。例えば、脂質を多く含むプラークや、メラニンを多く含む組織などである。つまり、本発明の骨子は、最適解として測定対象の特徴的な構造を多く含む解を選択することであり、測定対象物は血管に限られない。
【0029】
以上の工程を行うことで、被検体を取り囲む閉曲面の全周囲からではなく、ある特定の方向からしか音響波を受信できない場合(リミテッドビュー条件)でも、受信情報不足によるアーティファクトを低減し、光音響波の発生源の形状をより忠実に再現できる。すなわち、リミテッドビュー条件下でも、アーティファクトを低減するとともに、音波発生源の形状の再現性を高めることができる。
【0030】
以下、装置の主要な構成要素について説明する。
【0031】
(光源11)
光源11は被検体に光を照射する。被検体が生体の場合、光源11は被検体内部の特定の成分に吸収される波長の光を照射する。光源は、光音響イメージング装置と一体として設けられていても良いし、別体であっても良い。
光源としては数ナノ秒から数百ナノ秒オーダーのパルス光を発生可能なパルス光源が好ましい。特に、効率的に光音響波を発生させるため、10ナノ秒程度のパルス幅が好適である。光源としては、大出力が得られるためレーザーが好ましい。ただし、発光ダイオードなどを用いることも可能である。レーザーとしては、固体レーザー、ガスレーザー、ファイバーレーザー、色素レーザー、半導体レーザーなど様々なレーザーを使用できる。照射のタイミング、波形、強度などは不図示の光源制御部によって制御される。
本発明において、光の波長は、被検体が生体の場合、被検体内部まで光が伝搬する波長を使うことが望ましい。具体的には500nm以上1200nm以下である。
【0032】
(光学系13)
光源11から照射された光12は、レンズ、ミラー、光ファイバ、拡散板などの光学系13により、所望の光分布形状に加工されながら被検体に導かれる。光源から発せられた光12が所望の形状で照射されれば、光学系13として、どのようなものを用いても構わない。なお、光はレンズで集光させるより、ある程度の面積に広げる方が、被検体への安全性ならびに診断領域を広げられるという観点で好ましい。
【0033】
(被検体15及び光吸収体14)
これらは本発明の光音響イメージング装置の一部を構成するものではないが、以下に説
明する。本発明の光音響イメージング装置は、人や動物の悪性腫瘍や血管疾患などの診断や化学治療の経過観察などを主な目的とする。よって、被検体15としては生体、具体的には人体や動物の乳房や指、手足などの診断の対象部位が想定される。被検体内部の光吸収体14としては、被検体内で相対的に吸収係数が高いものが想定される。例えば、人体が測定対象であれば酸化ヘモグロビンや還元ヘモグロビン、それらを含む多く含む血管、あるいは新生血管を多く含む悪性腫瘍が該当する。また、被検体表面の光吸収体としては皮膚表面付近にあるメラニンなどがある。
【0034】
(探触子17)
探触子17は、音響波(特に、被検体からの光音響波)を検出し、アナログの電気信号に変換する。探触子17としては例えば、圧電現象を用いたトランスデューサ、光の共振を用いたトランスデューサ、容量の変化を用いたトランスデューサなどを使用できる。探触子17としては、複数の検出素子が1次元あるいは2次元に配置されたものが好ましい。このような多次元配列素子を用いることで、同時に複数の場所で音響波を検出できるので、検出時間の短縮や、被検体の振動の影響を低減することが期待できる。検出素子が平面上に1次元または2次元に配置された探触子は、被検体を取り囲む閉曲面の全周囲からは測定できず、所定の方向からしか被検体に接することができない。そのためリミテッドビュー条件の問題が発生する。
【0035】
(信号収集部18)
信号収集部18は、探触子17より得られたアナログの電気信号を増幅し、デジタル信号に変換する。信号収集部18は、典型的には増幅器、A/D変換器、FPGA(Field Programmable Gate Array)チップなどで構成される。探触子から得られる検出信号が複数の場合は、同時に複数の信号を処理できることが望ましい。それにより、画像を形成するまでの時間を短縮できる。なお、本明細書において「検出信号」とは、探触子17から取得されるアナログ信号も、その後AD変換されたデジタル信号も含む概念である。そして、検出信号は「光音響信号」ともいう。
【0036】
(信号処理部19)
信号処理部19は、画像再構成により被検体内部の画像データを取得する。信号処理部19には典型的にはワークステーションなどが用いられ、画像再構成処理などがあらかじめプログラミングされたソフトウェアにより行われる。ソフトウェアのモジュール構成の一例として、検出信号のノイズ低減処理を行う信号処理モジュールと、信号処理モジュールで処理された信号を用いて画像再構成を行う画像再構成モジュールとの2つのモジュールからなる構成が考えられる。画像再構成モジュールでは、処理2(ステップS202)で示した画像再構成による画像データの形成が行われる。
また、信号処理部19内には、本発明の特徴である処理1(ステップS201)で生成されるフォワードモデル行列Aを保存するメモリがあることが好ましい。通常、この行列Aのサイズは大きいため、データ圧縮を行なうことが好ましい。圧縮方法としては、ゼロ以外の値のみを保存する方法や、探触子の指向性を考慮して、ある受信角度以上の受信はできないと仮定する方法などがある。また、信号処理部19での演算量を低減するために、行列Aの疑似逆行列、あるいは、行列Aを特異値分解したデータのみを保存しても良い。すなわち、必ずしも行列A自身を保存する必要はない。
また、信号収集部18、信号処理部19は一体化される場合もある。この場合、ワークステーションで行うようなソフトウェア処理ではなく、ハードウェア処理により被検体の画像データを生成することもできる。
【0037】
(表示装置20)
表示装置20は信号処理部19から出力される画像データを表示する。典型的には液晶ディスプレイなどが利用される。なお、表示装置20は、光音響イメージング装置とは別
に提供されていても良い。
【0038】
<実施例1>
本発明を適用した光音響イメージングの一例について説明する。必要に応じて、
図1の構成図と
図2のフロー図を参照する。
本実施例では、光源11として、2倍波のYAGレーザー励起のTi:saレーザーシステムを用いた。このレーザーシステムでは700−900nmの間の波長の光を照射できる。なお、レーザー光はミラーとビームエキスパンダーなどの光学系13を用いて、半径約1cm程度まで広げられた後に、被検体に照射されるようにセットした。探触子17としては、18×18素子の2次元配列型ピエゾ探触子を用いた。信号収集部18は、探触子からの324chのアナログ信号を同時に受信し、増幅及びデジタル変換する機能を有する。信号処理部19としては、PCを用いた。被検体15は生体を模擬したファントムであり、1%のイントラリピッドと希釈したインクを寒天で固めたものである。また、このファントム内には、光吸収体14として、直径0.5mmの黒色のゴムで覆われた針金を埋め込んだ。なお、この光吸収体である針金は、血管を模擬するために、T字に分岐させている。
【0039】
まず、
図2の処理1(ステップS201)に示されているように、ファントム内での音響波伝搬をモデル化したフォワードモデル行列Aを算出した。この行列Aはサイズが大きいが、スパース行列であるため、ゼロ以外の値のみを保持する方法で圧縮し、その後、信号処理部であるPC内のメモリに保存した。
次に、ファントムを装置にセットし、波長800nmの光を照射した。なお、探触子はファントムの一面に接するように設置しているため、特定の方向の光音響波のみしか受信できないリミテッドビュー条件で計測されている。
このような条件で得られた検出信号p
dを、PC内の信号処理モジュールでノイズを低減した後に、PC内のメモリに保存した。その後、画像再構成モジュールにおいて、
図2の処理2(ステップS202)に示された画像再構成処理を施し、光学特性値分布(初期音圧分布)を算出した。ここでは、ファントム内のワイヤ状の光吸収体がMurrayの法則に従って分岐するという制約条件を付けて式(4)を解いた。具体的には、以下の式(13)を用いて繰り返し計算を行った。
p
0k+1=p
0k+γA(p
d−Ap
0k) …(13)
【0040】
本実施例では、各繰り返し計算で算出されたp
0に、ある閾値を適用し、値の高いところと低いところとの二値化を行った。そして、値の高いボクセル領域については、そのボクセル領域はMurrayの法則に従うとものし、値の低い(Murrayの法則に従っていない)ボクセル領域については、その値をゼロとした。この制約を繰り返すことで、残差がある設定値以下になるp
0を最適解とした。そのときに得られる再構成画像の一例が
図5(a)である。次に、比較のために、得られたp
dを従来法であるバックプロジェクション法により画像再構成した結果を
図5(b)に示した。なお、両方の画像においてZ軸がマイナスのところに探触子が配置されている。
【0041】
図5(a)と
図5(b)を比較する。本発明を適用した
図5(a)では、ファントム内部にあるT字状ワイヤである光吸収体がほぼ完全に再現されている。一方、従来のバックプロジェクション法を適用した
図5(b)では、探触子の検出面と平行にあるワイヤ状光吸収体の形状は再現されているものの、検出面に垂直なワイヤ状光吸収体はほとんど再現されていない。また、
図5(b)ではアーティファクトが多く存在し、光吸収体などの形状が不鮮明である。
このように、画像再構成において測定対象物の特徴的な構造を制約条件にすることで、リミテッドビュー条件で光音響波を計測したとしても、光音響波の発生源をほぼ完全に再現できることが分かった。
【0042】
<実施例2>
実施例2として、光音響イメージングの際に、実施例1とは異なる再構成法を適応した例を説明する。本実施例にかかる装置の基本構成は実施例1と同じである。また、被検体15も、実施例1と同様、生体を模擬したファントムである。探触子はファントムのある一面に接しているため、実施例1と同様に、リミテッドビュー条件下での計測となっている。
【0043】
まず、
図2の処理1(ステップS201)に示されているように、ファントム内での音響波伝搬と探触子の特性を考慮したフォワードモデル行列Aを算出した。次に、ファントムを装置にセットし、波長800nmの光を照射した。そのときに得られた検出信号p
dに、実施例1と同様にノイズ低減処理を施した。その後、画像再構成モジュールにおいて、
図2の処理2(ステップS202)に示された画像再構成処理を施し、初期音圧分布を算出した。ここでは、
図4で示された複数の血管画像から基底を算出し、その基底を多く含む解を選択する方法を用いた。
【0044】
再構成においては、まず、光音響顕微鏡などにより様々な3次元の血管をイメージングした。続いて、それらの血管画像をフィルタリング処理などの画像処理により血管形状を有する画像のみ抽出し、3次元の血管データとした。次に、複数の3次元の血管データ(二値化したボクセルデータ)を1次元のベクトルとして扱い、固有展開により3次元の固有画像(1次元化した固有ベクトル)を算出した。さらに、それを列方向に並べた基底行列Φを生成し、それを用いて式(11)を解いた。なお、ここで言う固有画像とは、血管の特徴的な構造のことを示しており、血管はこの固有画像の組み合わせで表現できることを意味している。つまり、この固有ベクトルからなる基底行列Φで初期音圧分布p
0を展開した係数を最小化する最適化問題を解くことで、ある特徴的な構造(基底)を多く含むp
0が最適解として算出される。
この結果得られた再構成画像も、
図5(a)のようなにファントム内に埋め込まれた光吸収体をほぼ完全に再現するものであった。一方、画像が滑らかであると仮定したモデルベース法で画像再構成した場合は、
図5(b)と同様に、ファントム内の光吸収体を完全には再現できないものであった。
このように、画像再構成において測定対象物の特徴的な構造を制約条件にすることで、リミテッドビュー条件で光音響波を計測したとしても、光音響波の発生源をほぼ完全に再現できることが分かった。
【0045】
<実施例3>
実施例3として、光音響イメージング装置において、測定対象物がプラークである例について説明する。本実施例にかかる装置の基本構成は実施例1と同じである。本実施例では光源としてOPOレーザーを用いた。被検体15としては、生体を模擬したファントムを用いた。実施例1とは異なり、ファントム内に埋め込む光吸収体は、球状の脂質を模擬したものである。実施例1と同様に、探触子はファントムのある一面に接し、リミテッドビュー条件となっている。
【0046】
まず、
図2の処理1(ステップS201)に示されているように、ファントム内での音響波伝搬と探触子の特性を考慮したフォワードモデル行列Aを算出した。次に、ファントムを装置にセットし、波長1210nmの光を照射した。そのときに得られた検出信号p
dに、実施例1と同様にノイズ低減処理を施した。その後、画像再構成モジュールにおいて、
図2の処理2(ステップS202)に示された画像再構成処理を施し、初期音圧分布を算出した。ここでは、測定対象物が球であるという制約条件を付与して実施例1と同様に繰り返し計算を用いて、画像再構成を行った。
その結果、ほぼ完全に測定対象物である球状の光吸収体を再現することができた。一方
、同じ計測データを用いたバックプロジェクションでは、球状の形状は再現できたが、ストリーク状のアーティファクトが発生し、画像劣化が生じていた。
このように、画像再構成において測定対象物の特徴的な構造を制約条件にすることで、リミテッドビュー条件で光音響波を計測したとしても、血管以外の光音響波の発生源もほぼ完全に再現できることが分かった。