特許第6238550号(P6238550)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6238550被検体情報取得装置、被検体情報取得装置の制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6238550
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】被検体情報取得装置、被検体情報取得装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/13 20060101AFI20171120BHJP
【FI】
   A61B8/13ZDM
【請求項の数】20
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-86694(P2013-86694)
(22)【出願日】2013年4月17日
(65)【公開番号】特開2014-209977(P2014-209977A)
(43)【公開日】2014年11月13日
【審査請求日】2016年4月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085006
【弁理士】
【氏名又は名称】世良 和信
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100106622
【弁理士】
【氏名又は名称】和久田 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100131532
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 浩一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125357
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(72)【発明者】
【氏名】梅澤 孝太郎
【審査官】 冨永 昌彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−013597(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/052400(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00 − 8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体内から到来する音響波を受信および解析することで、前記被検体内の情報を取得する被検体情報取得装置であって、
音響波を受信する音響波探触子と、
前記被検体の位置に関する情報である位置情報を取得する位置情報取得手段と、
前記位置情報に基づいて、前記被検体の位置が測定中に変化したことを操作者に通知する通知手段と、
を有することを特徴とする、被検体情報取得装置。
【請求項2】
被検体内から到来する音響波を受信および解析することで、前記被検体内の情報を取得する被検体情報取得装置であって、
音響波を受信する音響波探触子と、
前記被検体の位置に関する情報である位置情報を取得する位置情報取得手段と、
前記位置情報に基づいて、前記被検体の位置が測定中に変化したことを操作者に通知する通知手段と、を有し、
前記通知手段は、前記被検体の動きを表す画像を生成し出力する
ことを特徴とする、被検体情報取得装置。
【請求項3】
前記通知手段は、前記位置情報に基づいて被検体の移動量を取得し、前記移動量が所定の値を超えている場合に、操作者への通知を行う
ことを特徴とする、請求項1または2に記載の被検体情報取得装置。
【請求項4】
前記位置情報取得手段は被検体を撮像するカメラであり、
前記位置情報は前記カメラによって撮像された被検体画像であり、
前記通知手段は、異なるタイミングで撮像した複数の被検体画像をパターンマッチングすることで被検体の移動量を取得する
ことを特徴とする、請求項3に記載の被検体情報取得装置。
【請求項5】
前記通知手段は、前記位置情報に基づいて被検体の変形量を取得し、前記変形量が所定
の値を超えている場合に、操作者への通知を行う
ことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の被検体情報取得装置。
【請求項6】
前記位置情報取得手段は被検体を撮像するカメラであり、
前記位置情報は前記カメラによって撮像された被検体画像であり、
前記通知手段は、異なるタイミングで撮像した複数の被検体画像からそれぞれ一つ以上の特徴点を抽出し、抽出した各特徴点の座標の変化を検出することで被検体の変形量を取得する
ことを特徴とする、請求項5に記載の被検体情報取得装置。
【請求項7】
前記通知手段は、前記被検体の動きを表す画像を生成し出力する
ことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の被検体情報取得装置。
【請求項8】
被検体内に光を照射し、前記光に起因して前記被検体内で発生する音響波を受信および解析することで、前記被検体内の情報を取得する被検体情報取得装置であって、
前記被検体に光を照射する光照射部と、
前記音響波探触子が受信した音響波を解析することで、前記被検体内の光学特性に関連した情報を画像化する画像取得手段と、
をさらに有する
ことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の被検体情報取得装置。
【請求項9】
被検体内に音響波を送信し、前記被検体内で反射した前記音響波を受信および解析することで、前記被検体内の情報を取得する被検体情報取得装置であって、
前記音響波探触子を用いて前記被検体内に音響波を送信する音響波送信手段と、
前記音響波探触子が受信した音響波を解析することで、前記被検体内の音響特性に関連した情報を画像化する画像取得手段と、
をさらに有する
ことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の被検体情報取得装置。
【請求項10】
音響波を受信する音響波探触子を有し、被検体内から到来する音響波を受信および解析することで、前記被検体内の情報を取得する被検体情報取得装置の制御方法であって、
前記音響波探触子によって音響波を受信する受信ステップと、
前記被検体の位置に関する情報である位置情報を取得する位置情報取得ステップと、
前記位置情報に基づいて、前記被検体の位置が測定中に変化したことを操作者に通知する通知ステップと、
を含むことを特徴とする、被検体情報取得装置の制御方法。
【請求項11】
音響波を受信する音響波探触子を有し、被検体内から到来する音響波を受信および解析することで、前記被検体内の情報を取得する被検体情報取得装置の制御方法であって、
前記音響波探触子によって音響波を受信する受信ステップと、
前記被検体の位置に関する情報である位置情報を取得する位置情報取得ステップと、
前記位置情報に基づいて、前記被検体の位置が測定中に変化したことを操作者に通知する通知ステップと、を含み、
前記通知ステップでは、前記被検体の動きを表す画像を生成し出力する
ことを特徴とする、被検体情報取得装置の制御方法。
【請求項12】
前記通知ステップでは、前記位置情報に基づいて被検体の移動量を取得し、前記移動量が所定の値を超えている場合に、操作者への通知を行う
ことを特徴とする、請求項10または11に記載の被検体情報取得装置の制御方法。
【請求項13】
前記位置情報取得ステップでは、カメラを用いて前記被検体を撮像し、
前記位置情報は前記カメラによって撮像された被検体画像であり、
前記通知ステップでは、異なるタイミングで撮像した複数の被検体画像をパターンマッチングすることで被検体の移動量を取得する
ことを特徴とする、請求項12に記載の被検体情報取得装置の制御方法。
【請求項14】
前記通知ステップでは、前記位置情報に基づいて被検体の変形量を取得し、前記変形量が所定の値を超えている場合に、操作者への通知を行う
ことを特徴とする、請求項10〜13のいずれか1項に記載の被検体情報取得装置の制御方法。
【請求項15】
前記位置情報取得ステップでは、カメラを用いて前記被検体を撮像し、
前記位置情報は前記カメラによって撮像された被検体画像であり、
前記通知ステップでは、異なるタイミングで撮像した複数の被検体画像からそれぞれ一つ以上の特徴点を抽出し、抽出した各特徴点の座標の変化を検出することで被検体の変形量を取得する
ことを特徴とする、請求項14に記載の被検体情報取得装置の制御方法。
【請求項16】
前記通知ステップでは、前記被検体の動きを表す画像を生成し出力する
ことを特徴とする、請求項10〜15のいずれか1項に記載の被検体情報取得装置の制御方法。
【請求項17】
被検体内に光を照射する光照射部を有し、前記光に起因して前記被検体内で発生する音響波を受信および解析することで、前記被検体内の情報を取得する被検体情報取得装置の制御方法であって、
前記光照射部から光を発生させる光照射ステップと、
前記音響波探触子が受信した音響波を解析することで、前記被検体内の光学特性に関連した情報を画像化する画像取得ステップと、
をさらに含む
ことを特徴とする、請求項10〜16のいずれか1項に記載の被検体情報取得装置の制御方法。
【請求項18】
前記音響波探触子から被検体内に音響波を送信し、前記被検体内で反射した音響波を受信および解析することで、前記被検体内の情報を取得する被検体情報取得装置の制御方法であって、
前記音響波探触子から音響波を発生させる音響波送信ステップと、
前記音響波探触子が受信した音響波を解析することで、前記被検体内の音響特性に関連した情報を画像化する画像取得ステップと、
をさらに含む
ことを特徴とする、請求項10〜16のいずれか1項に記載の被検体情報取得装置の制御方法。
【請求項19】
前記被検体内の情報の取得を再開するか否かの指示を前記操作者から受け付ける選択手段をさらに有する、
請求項1〜9のいずれか1項に記載の被検体情報取得装置。
【請求項20】
前記被検体内の情報の取得を再開するか否かの指示を前記操作者から受け付ける選択ステップをさらに含む、
請求項10〜18のいずれか1項に記載の被検体情報取得装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体内部の情報を取得する被検体情報取得装置とその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光をはじめとする光を生体に照射し、当該光に起因して生体内部から発生する超音波を受信することで、組織内部の形態や機能を画像化する光音響撮像装置が医療分野で多く利用されている。パルスレーザ光などの計測光を被検体に照射すると、計測光が被検体内の生体組織で吸収される際に音響波が発生する。光音響撮像装置は、この発生した音響波を探触子によって受信し、解析することにより、被検体内部の光学特性に関連した情報(機能情報)を可視化することができる。このような技術は、光音響イメージング(Photoacoustic imaging)と呼ばれている。
【0003】
また、広い範囲から超音波を取得するために、探触子を機械的に走査する機構を備えた画像診断装置が提案されている。例えば、特許文献1には、探触子を機械的に走査することで、広範囲から超音波を取得することができる光音響イメージング装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−104816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した光音響イメージング装置では、探触子を被検体表面で移動させることで走査を行う。従って、走査中に被検体が動いてしまうと、取得した画像にずれが生じたり、取得を予定していたデータが取得できなくなるといった不具合が発生するおそれがある。また、非走査型の光音響イメージング装置であっても、被検体から発生する音響波を一定時間積算することで画像を構成するため、測定中に被検体が動いてしまうと、正しい画像を取得することができなくなる。
このように、音響波を用いて被検体の情報を取得する装置では、測定中に被検体が動かないように留意しなければならない。しかし、測定中に被検体がずれたことに測定後に気付いた場合、被検体を圧迫保持しながらの測定を最初からやり直す必要があり、被検者に対する大きな負担となっていた。
【0006】
本発明はこのような従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、測定中に被検体の位置が変化したことを操作者に通知できる被検体情報取得装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一の形態に係る被検体情報取得装置は、
被検体内から到来する音響波を受信および解析することで、前記被検体内の情報を取得する被検体情報取得装置であって、音響波を受信する音響波探触子と、前記被検体の位置に関する情報である位置情報を取得する位置情報取得手段と、前記位置情報に基づいて、前記被検体の位置が測定中に変化したことを操作者に通知する通知手段と、を有することを特徴とする。
また、本発明の第二の形態に係る被検体情報取得装置は、
被検体内から到来する音響波を受信および解析することで、前記被検体内の情報を取得する被検体情報取得装置であって、音響波を受信する音響波探触子と、前記被検体の位置に関する情報である位置情報を取得する位置情報取得手段と、前記位置情報に基づいて、前記被検体の位置が測定中に変化したことを操作者に通知する通知手段と、を有し、前記通知手段は、前記被検体の動きを表す画像を生成し出力することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の第一の形態に係る被検体情報取得装置の制御方法は、
音響波を受信する音響波探触子を有し、被検体内から到来する音響波を受信および解析することで、前記被検体内の情報を取得する被検体情報取得装置の制御方法であって、前記音響波探触子によって音響波を受信する受信ステップと、前記被検体の位置に関する情報である位置情報を取得する位置情報取得ステップと、前記位置情報に基づいて、前記被検体の位置が測定中に変化したことを操作者に通知する通知ステップと、を含むことを特徴とする。
また、本発明の第二の形態に係る被検体情報取得装置の制御方法は、
音響波を受信する音響波探触子を有し、被検体内から到来する音響波を受信および解析することで、前記被検体内の情報を取得する被検体情報取得装置の制御方法であって、前記音響波探触子によって音響波を受信する受信ステップと、前記被検体の位置に関する情報である位置情報を取得する位置情報取得ステップと、前記位置情報に基づいて、前記被検体の位置が測定中に変化したことを操作者に通知する通知ステップと、を含み、前記通知ステップでは、前記被検体の動きを表す画像を生成し出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、測定中に被検体の位置が変化したことを操作者に通知できる被検体情報取得装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第一の実施形態に係る光音響測定装置の構成図。
図2】第一の実施形態に係る光音響測定装置の動作フローチャート図。
図3】第一の実施形態に係る光音響測定装置の操作コンソールを説明する図。
図4】光音響測定装置が有する各構成要素の動作タイミングを説明する図。
図5】変形例に係る光音響測定装置の操作コンソールを説明する図。
図6】第二の実施形態に係る光音響測定装置の構成図。
図7】第二の実施形態に係る光音響測定装置の動作フローチャート図。
図8】第三の実施形態に係る光音響測定装置の操作コンソールを説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、同一の構成要素には原則として同一の参照番号を付して、説明を省略する。
【0012】
(第一の実施形態)
本発明の第一の実施形態に係る光音響測定装置は、レーザ光を被検体に照射し、当該レーザ光に起因して被検体内で発生した光音響波を受信して解析することで、被検体内の光学特性値情報を画像化する装置である。光学特性値情報とは、一般的には、初期音圧分布や、光吸収エネルギー密度分布、吸収係数分布、あるいは、組織を構成する物質の濃度分布である。
【0013】
<システム構成>
図1を参照しながら、第一の実施形態に係る光音響測定装置の構成を説明する。第一の実施形態に係る光音響測定装置は、光源11、光学系13、音響波探触子17、信号処理部18、データ処理部19、入出力部20、測定部21、変化検知部22、通知部23を有する。
【0014】
測定は、装置に設けられた開口部(不図示)に被検体15(例えば乳房)を挿入して行う。
まず、光源11から発せられたパルス光12が、光学系13を経由して被検体15に照射される。被検体内部を伝搬した光のエネルギーの一部が血液などの光吸収体に吸収されると、熱膨張により当該光吸収体から音響波16が発生する。被検体内で発生した音響波は、音響波探触子17で受信され、信号処理部18およびデータ処理部19で解析される。解析結果は、被検体内の特性情報を表す画像データ(光学特性値情報データ)に変換され、入出力部20を通して出力される。
また、本実施形態に係る光音響測定装置は、被検体の位置を表す情報(位置情報)を測定部21が取得し、測定に影響を及ぼす被検体の位置変化が発生した場合、変化検知部22がこれを検出して、通知部23を通して操作者に通知する。これにより操作者は、測定中に被検体の位置が変化したこと(すなわち再測定等の処置が必要となったこと)を知る
ことができる。
以下、本実施形態に係る光音響測定装置を構成する各手段について説明する。
【0015】
<<光源11>>
光源11は、被検体に照射されるパルス光を発生させる装置である。光源は、大出力を得るためレーザ光源であることが望ましいが、レーザの代わりに発光ダイオードやフラッシュランプ等を用いることもできる。光源としてレーザを用いる場合、固体レーザ、ガスレーザ、色素レーザ、半導体レーザなど様々なものが使用できる。照射のタイミング、波形、強度等は不図示の光源制御部によって制御される。この光源制御部は、光源と一体化されていても良い。
また、光音響波を効果的に発生させるためには、被検体の熱特性に応じて十分短い時間に光を照射させなければならない。被検体が生体である場合、光源から発生するパルス光のパルス幅は10〜50ナノ秒程度が好適である。また、パルス光の波長は、被検体内部まで光が伝搬する波長であることが望ましい。具体的には、被検体が生体である場合、500nm以上1200nm以下であることが望ましい。さらに、パルス光の波長は、観測対象に対して吸収係数が高いものであることが望ましい。
【0016】
<<光学系13>>
光学系13は、光源11で発生したパルス光12を被検体15へ導く手段であり、典型的には光を反射するミラーや、光を集光、拡大、または形状を変化させるレンズ、光を拡散させる拡散板などで構成される。これらの光学部材を用いて、パルス光の照射形状、光密度、被検体への照射方向といったような照射条件を任意のものに設定することができる。なお、光はレンズで集光させるより、ある程度の面積に広げた方が、被検体への安全性ならびに診断領域を広げられるという観点で好ましい。光源11および光学系13が、本発明における光照射部である。
【0017】
<<被検体15>>
被検体15および光吸収体14は、本発明を構成するものではないが、ここで説明する。被検体15は、光音響測定を行う対象物であり、典型的には人体や動物の乳房や指、手足などである。ここでは、人の乳房を被検体とする。
本実施形態に係る光音響測定装置では、被検体15の内部に存在する、相対的に光吸収係数が大きい光吸収体14をイメージングすることができる。被検体が生体である場合、光吸収体14とは、具体的には水、脂質、メラニン、コラーゲン、タンパク質、酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンなどである。または、酸化あるいは還元ヘモグロビンを多く含む血管や、新生血管を多く含む悪性腫瘍などである。光吸収体をイメージングすることで、本実施形態に係る光音響測定装置は、血管の造影、人や動物の悪性腫瘍や血管疾患などの診断や化学治療の経過観察などを行うことができる。
【0018】
<<音響波探触子17>>
音響波探触子17は、被検体15に照射された光に起因して当該被検体の内部で発生した音響波を受信し、アナログの電気信号に変換する手段である。なお、本発明における音響波とは、典型的には超音波であり、音波、超音波、光音響波、光超音波と呼ばれる弾性波を含む。音響波探触子17は、被検体内で発生又は反射したこれらの弾性波を受信する。
音響波探触子17は、探触子またはトランスデューサとも呼ばれる。音響波探触子17は、単一の音響検出器からなってもよいし、複数の音響検出器からなってもよい。また、音響波探触子17は、複数の受信素子が一次元、或いは二次元に配置されたものであってもよい。多次元配列素子を用いると、同時に複数の場所で音響波を受信することができるため、測定時間を短縮することができると共に、被検体の振動などの影響を低減することができる。
【0019】
また、音響波探触子17は、感度が高く、周波数帯域が広いものが望ましい。具体的にはPZT(圧電セラミックス)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン樹脂)、CMUT(容量性マイクロマシン超音波トランスデューサ)、ファブリペロー干渉計を用いたものなどが挙げられる。ただし、ここに挙げたものだけに限定されず、音響波探触子としての機能を満たすものであれば、どのようなものであってもよい。
【0020】
<<信号処理部18>>
信号処理部18は、音響波探触子17で得られた電気信号を増幅し、デジタル信号に変換する手段である。信号処理部18は、典型的には増幅器、A/D変換器、FPGA(Field Programmable Gate Array)チップなどで構成される。探触子から得られる検出信号
が複数の場合は、同時に複数の信号を処理できることが望ましい。
【0021】
<<データ処理部19>>
データ処理部19は、信号処理部18によって得られたデジタル信号を処理することによって、画像データを生成(画像再構成)する手段である。データ処理部19が実行する画像再構成方法には、例えば、フーリエ変換法、ユニバーサルバックプロジェクション法やフィルタードバックプロジェクション法、逐次再構成法などがあるが、どのような画像再構成方法を用いても構わない。また、信号処理部18、データ処理部19は一体化されていてもよい。信号処理部18およびデータ処理部19が、本発明における画像取得手段である。
【0022】
<<入出力部20>>
入出力部20は、データ処理部19で生成された画像を出力し、また、操作者からの入力操作を受け付ける手段であり、本実施形態ではタッチパネルディスプレイである。また、入出力部20は、後述する変化検知部22が被検体の位置ずれを検出した場合に、当該位置ずれについての詳細な情報を表示する手段である。なお、入出力部20は、必ずしも光音響測定装置と一体である必要はなく、外部に接続された装置であってもよい。
【0023】
<<測定部21>>
測定部21は、被検体の位置情報を取得するための測定手段であり、具体的には、被検体の表面を撮像する可視光カメラ、赤外線カメラ、被検体の形状を測定する距離センサなどである。測定部21にカメラを用いる場合、そのフレームレートおよび解像度は、測定に影響を及ぼす被検体の位置変化を検出できる程度であればよい。測定部21が、本発明における位置情報取得手段である。
また、測定部21は、複数台の可視光カメラであってもよいし、被検体との距離を測定することができる一つ以上のセンサであってもよい。また、被検体表面の血管形状を測定できる赤外線カメラなど、被検体が移動または変形したことを捉えられるものであれば、どのようなものであってもよい。
第一の実施形態では、測定部21として、被検体の測定対象領域全体を捉えることができる可視光カメラを用いる。
【0024】
<<変化検知部22>>
変化検知部22は、測定部21によって得られた被検体画像に基づいて、光音響測定中に被検体にずれが発生したことを検知する手段である。
ここで、被検体のずれについて説明する。光音響測定では、被検体内で発生する音響波を探触子で受信することで、音響波の発生源を推定する。すなわち、光音響測定中に被検体が移動したり変形したりすると、探触子に対する位置関係がずれてしまうため、誤った情報に基づいて画像が生成されてしまう。変化検知部22は、このような測定に影響を及ぼす被検体のずれ(以降、単に位置ずれと称する)を検出する手段である。なお、位置ず
れとは、測定対象領域における被検体の平行移動、伸縮、回転、歪みなどを含む。測定に影響を及ぼす被検体の動きであれば、検出対象はどのような動きであってもよい。
【0025】
変化検知部22は、測定部21を介して被検体画像を複数枚取得し、それぞれの画像を用いて、被検体の位置ずれが発生したことを検出する。具体的な方法については後述する。
なお、信号処理部18、データ処理部19、変化検知部22は、CPUと主記憶装置、および補助記憶装置を有するコンピュータであってもよいし、マイコンや、専用に設計されたFPGA等のハードウェアであってもよい。
【0026】
<<通知部23>>
通知部23は、変化検知部22によって位置ずれが検出された旨を操作者に通知するためのインタフェースである。変化検知部22および通知部23が、本発明における通知手段である。通知部23は、本実施形態では複数の色で発光可能なランプ(例えば、通常時は緑色で、位置ずれが起こった場合は赤色となる)であるが、位置ずれが発生した旨および位置ずれの詳細な内容をディスプレイや表示パネル上に表示するものであってもよい。
この他にも、位置ずれが発生した場合に、警告音やメロディを発するなど、聴覚を通して操作者に通知するものであってもよい。操作者が、被検体の位置ずれが発生したことを認識できれば、通知はどのような方法で行ってもよい。なお、通知部23は、必ずしも光音響測定装置と一体である必要はなく、外部に接続された装置であってもよい。また、入出力部20と一体であってもよい。
【0027】
<位置ずれの検出方法>
次に、変化検知部22が、被検体の位置ずれを検出する方法について説明する。本例では、被検体画像のうち、位置ずれを検出する対象領域(関心領域)を定め、当該領域内における位置ずれを検出する。関心領域は、事前に操作者によって指定されてもよいし、装置が自動的に設定してもよい。
位置ずれの検出は、テンプレート画像と、測定中に周期的に取得した被検体画像を比較することによって行う。まず、測定開始前に被検体画像を取得し、当該画像をテンプレート画像として一時的に記憶する。そして、測定開始後、一定時間おきに被検体画像を取得し、テンプレート画像と各フレームにおける被検体画像とのマッチングを行う。具体的には、数式1で示したような、正規化相互相関(ZNCC:Zero-mean Normalized Cross-Correlation)を演算し、被検体の位置の変化量を算出する。
本実施形態では、正規化相互相関による演算を行っているが、被検体の位置の変化を示すものであれば、他の方法によって算出してもよい。例えばSSD(Sum of Squared Difference)や、SAD(Sum of Absolute Difference)など、被検体の位置の変化がわか
る方法であれば、どのような方法を用いてもよい。なお、本例では、被検体画像全体を関心領域とするが、関心領域を指定する場合、各画像から関心領域を切り出して演算を行ってもよい。
【数1】
・・・式(1)
【0028】
ここで、MおよびNは、それぞれの画像のX−Y座標系におけるX方向、Y方向のピクセル数である。また、I(i,j)は、測定中の被検体画像の関心領域における輝度値であ
り、Iavgは当該関心領域における輝度の平均値である。また、T(i,j)はテンプレート画像の関心領域における輝度値であり、Tavgは当該関心領域における輝度の平均値であ
る。
数式1を用いて、テンプレート画像の関心領域と、被検体画像の関心領域との間の類似度Rを求めることができる。また、座標をシフトさせながらマッチングを行い、最も類似度が高くなるシフト量を取得することで、X方向,Y方向それぞれのずれ幅を取得することができる。当該ずれ幅が、測定開始後に発生した被検体の移動量となる。
【0029】
変化検知部22は、以上のようにして、X方向,Y方向それぞれのずれ幅を取得し、当該ずれ幅に基づいて、被検体に位置ずれが発生したことを判断する。判断方法の詳細については後述する。
【0030】
<処理フローチャート>
本実施形態に係る光音響測定装置が行う処理について、図2を用いて説明する。
まず、操作者が、被検体のずれ幅の閾値、すなわち移動量の許容最大値をピクセル数で入力する(S1)。閾値は、入出力部20から入力することが好ましいが、閾値は装置にあらかじめ所定の値として記憶されていてもよいし、装置が自動的に演算してもよい。
【0031】
次に、光音響測定装置に、被検体である生体(例えば乳房)を挿入する。このとき、被検体を挿入する前と挿入した後の画像を、測定部21(可視光カメラ)がそれぞれ撮像し、両画像の差分を取得する。ここで取得した画像は、比較用のテンプレート画像となる(S2)。なお、以降の説明において、被検体画像とは、被検体が挿入された状態で撮像された画像と、被検体を挿入する前に撮像された画像との差分(すなわち被検体のみを表す画像)であるものとする。
ステップS2が終了すると、光音響測定が開始される。まず、測定部21が被検体画像を取得し(S3)、変化検知部22が被検体の位置ずれを検出する(S4)。ここでは、前述したように、測定開始前に取得した被検体画像と、測定中に一定時間おきに複数回撮像した被検体画像のずれ幅をピクセル数で取得し、予め設定された閾値との比較を行う。この結果、ずれ幅が閾値を超えた場合、被検体に位置ずれが生じたと判定する。
なお、この他にも、被検体画像を取得するごとに、測定開始からのずれ幅を積算し、積算されたずれ幅が閾値を超えた場合に、被検体の位置ずれが生じたと判定してもよい。
【0032】
ステップS4を実行した結果、ずれ幅が閾値以内であった場合は、光源11からパルス光を発生させ、光学系13を通して被検体にパルス光を照射する(S5)。
そして、パルス光に起因して被検体内で発生した音響波を、音響波探触子17によって取得する(S6)。既定回数のパルス光を発光し、音響波の取得が完了したら、測定が全て完了したかを判定し(S7)、完了していたら処理を終了させる。未完了である場合は、処理はステップS3へ戻り、再度、被検体画像の取得を実行する。
ステップS4を実行した結果、ずれ幅が閾値を超過していた場合は、処理はステップS8に遷移し、入出力部20および通知部23を通してその旨を操作者に通知する。
【0033】
図3は、本実施形態に係る光音響測定装置が有する操作コンソールを表した図である。当該操作コンソールには、入出力部20(タッチパネルディスプレイ)と、通知部23(ランプ)が含まれている。被検体の位置ずれが発生した場合は、通常緑色で点灯しているランプが赤色に変化し、タッチパネルディスプレイ上に位置ずれについての詳細情報(符号24)が表示される。本実施形態では、詳細情報とは、被検体の画像上での位置変化量(X方向とY方向のそれぞれの変化ピクセル数)である。
【0034】
なお、被検体の位置変化量は、長さ(ミリメートル)で表示してもよいし、変化ボクセル値や変化量のベクトルで表示してもよい。また、Z方向についての変化ピクセル数が検知可能である場合、併せて表示してもよい。装置が扱うことができる値であれば、どのような形式で表示してもよい。
また、測定を開始する前の被検体画像と、位置ずれが生じた後の被検体画像を重畳させて表示してもよい。また、被検体の動きベクトルを表す図形を生成し、さらに重畳表示させてもよい。操作者に、被検体がどのように移動または変形したかを通知することができれば、どのような表示を行ってもよい。
【0035】
また、タッチパネルディスプレイ上には、以降の処理を選択するための選択肢が表示される。選択肢の内容は、例えば「初めから測定し直す」、「ずれが発生する直前から測定し直す」、「測定中止」など、装置において実現しうる方法であれば、どのようなものであってもよい。
【0036】
図4は、測定部21、変化検知部22、通知部23の動作タイミングと、レーザ光の照射タイミングとの関係を表した図である。測定部21が被検体画像を取得し、結果を変化検知部22に送信する。変化検知部22が、テンプレート画像と、取得した被検体画像を比較し、位置ずれが発生していないと判定した場合、レーザ光の照射を開始する。位置ずれが発生していると判定した場合、レーザ光の照射は行わず、通知部23を介して操作者に通知を行う。
【0037】
第一の実施形態によると、被検体から発生する音響波を一定時間積算することで画像化する光音響測定装置において、測定中に発生した被検体の位置ずれを、操作者に対して正確に通知することができる。
【0038】
なお、本実施形態では、テンプレート画像と、一定時間おきに取得した被検体画像との間で正規化相互相関を求めることで被検体の位置ずれを検出したが、他の方法を用いてもよい。例えば、各フレームにおいて、被検体画像から輪郭抽出を行い、輪郭同士をマッチングさせることでずれ幅を算出してもよい。
【0039】
また、赤外線カメラを用いて得られた血管画像をテンプレート画像とし、フレーム同士の正規化相互相関を算出することで被検体の位置ずれを検出するようにしてもよい。また、テンプレート画像の重心を比較することで被検体の位置ずれを検出してもよいし、操作者が設定した関心領域を用いてテンプレート画像を切り抜き、被検体画像とのマッチングを行うことで被検体の位置ずれを検出するようにしてもよい。
【0040】
また、本実施形態では、通知部23としてランプを用いたが、図5に示したように、ディスプレイ上に表示されたグラフィックによって通知を行ってもよいし、音響装置を用い、音による通知を行ってもよい。音によって通知を行う場合、アラーム音を用いてもよいし、メロディを用いてもよい。操作者が認識できればどのような音であってもよい。
【0041】
(第二の実施形態)
第一の実施形態は、音響波探触子17が被検体15に対して固定されていた。これに対し、第二の実施形態は、音響波探触子17を機械的に走査させることで被検体に対する測定を行う実施形態である。
第二の実施形態に係る超音波診断装置の構成を図6に示す。第二の実施形態に係る超音波診断装置の構成は、音響波探触子17を二次元方向に走査させる手段である走査部26を有するという点を除き、第一の実施形態と同様である。
【0042】
走査部26は、音響波探触子17を二次元方向に移動させる手段であり、走査機構とそ
の制御手段からなる。走査部26を用いることで、音響波探触子17を二次元的に走査させながら光音響測定を行うことができる。本実施形態では、被検体15は固定されており、音響波探触子をX−Yステージ上で移動させることで、被検体と音響波探触子の相対的な位置を変える。
なお、本実施形態では、走査機構によって音響波探触子17を移動させているが、超音波探触子を固定し、被検体を動かす構成としてもよい。この場合、被検体を支持する支持部(不図示)を走査機構によって動かすようにしてもよい。
【0043】
なお、被検体15と音響波探触子17の両方を移動可能な構成としてもよい。被検体15を移動させる場合は、測定部21は被検体に追従して同じ動きをすることが好ましいが、被検体の移動を捉えることができれば、必ずしも同じ動きである必要はない。また、走査は、探触子を連続的に移動させながら行うことが好ましいが、探触子を間欠的に移動させながら行ってもよい。また、走査を行うための走査機構は、ステッピングモーターなどを用いた電動タイプであることが望ましいが、手動で走査を行うタイプであっても良い。
走査機構の種類や走査方法は、ここに挙げたものだけに限定されず、被検体15と音響波探触子17のうち少なくとも一方を移動させることができるものであれば、どのようなものを使用してもよい。
【0044】
第二の実施形態に係る光音響測定装置が行う処理のフローチャートを図7に示す。第二の実施形態に係る光音響測定装置が行う処理は、第一の実施形態とほぼ同様であるが、ステップS5でパルス光の照射を行う前に、走査部26によって音響波探触子17を移動させるステップS41が追加されるという点のみが相違する。
【0045】
このように、本発明は、音響波探触子を走査することで被検体に対する測定を行う光音響測定装置にも適用することができる。
【0046】
(第三の実施形態)
第一および第二の実施形態では、光音響測定を開始する前に取得したテンプレート画像と、測定中に取得した被検体画像とのずれ幅を取得した。すなわち、被検体の位置ずれは一つのベクトルで表現されていた。これに対し、第三の実施形態は、被検体表面の特徴点を抽出し、特徴点ごとに変位量を求めたうえで、場所による被検体の位置ずれの発生を総合的に判断する実施形態である。
【0047】
第三の実施形態に係る超音波診断装置の構成は、第二の実施形態と同様であるが、測定部21が通常のカメラではなく、距離を取得することができるステレオカメラで構成されるという点において第二の実施形態と相違する。
また、第三の実施形態に係る変化検知部22は、撮像した画像同士をパターンマッチングさせるのではなく、各画像から特徴点を抽出し、抽出した特徴点の移動を検出することで位置ずれの発生を判断するという点において第二の実施形態と相違する。
【0048】
特徴点の抽出には、既知の技術を用いることができる。例えば、画像にフィルタをかけることで得られるエッジ情報から特徴点を抽出してもよいし、画像における生体構造上の特徴(例えば乳房における乳頭、血管の陰影、メラニン色素沈着、乳房輪郭、しわ)から特徴点を抽出してもよい。特徴点の位置の変化をフレーム間で追跡できるものであれば、特徴点の抽出方法は特に限定されない。
また、これらの情報をフレーム間で一定時間積算し、積算後に平均して得られた情報から特徴点を抽出してもよい。また、撮影した各フレームから特徴点を求める際は、画像の一部のみを用いてもよいし、全部を用いてもよい。さらに、操作者が入出力部20を通して関心領域を設定し、当該関心領域内で特徴点の追跡を行うようにしてもよい。
なお、特徴点は、被検体の移動を追跡するための微小な領域であり、必ずしも一つの画
素に対応する点である必要は無い。
【0049】
第三の実施形態に係る光音響測定装置の処理フローチャートについて、第二の実施形態との相違点を中心に説明する。
ステップS1は、第二の実施形態と同様に、被検体の位置ずれの閾値、すなわちずれ幅の許容最大値を設定するステップであるが、第三の実施形態では、被検体全体の移動量に対応する値ではなく、変形量の許容最大値を閾値として設定する。具体的には、「最も変位量の大きい特徴点のずれ幅の許容最大値」を閾値として設定する。ずれ幅の許容値は、ピクセル数で入力してもよいし、ボクセル換算値、距離換算値などで入力してもよい。
なお、閾値を自動的に設定するようにしてもよい。例えば、被検体が装置に挿入されて測定準備が整った後から測定を開始するまでに、それぞれの特徴点に対応する変位情報(例えば変位ベクトル値やその絶対値)を取得し、当該変位情報を一定倍したものを閾値として使用するようにしてもよい。これらの演算は、測定部21が行ってもよいし、変化検知部22が行ってもよい。
【0050】
ステップS2では、テンプレート画像の取得を行うかわりに、測定開始前の状態における特徴点の座標を取得する。具体的には、装置に挿入された被検体の測定開始前の状態を、ステレオカメラで撮影する。そして、得られた画像の組から、対応する複数の特徴点を抽出し、得られた複数の特徴点の座標の集合を取得する。特徴点は、被検体画像のうち被検体部分から抽出することが好ましい。特徴点の座標は、ステレオカメラの中点を原点とする座標系で表されるが、各点が設定できる座標系であれば、いずれの座標系であってもよい。
【0051】
ステップS3では、ステップS2で取得した複数の特徴点を追跡し、元のフレームと一定時間後のフレームにおいて、対応する各特徴点同士を結ぶ動きベクトルを算出する。特徴点は、一つのフレームから求めてもいいし、複数のフレームにおける該当特徴点の重心を用いて求めてもよい。
【0052】
被検体のずれが閾値以内であるか否かの判定(ステップS4)は、特徴点ごとに算出した動きベクトルを用いて行う。本実施形態では、最も移動距離が大きい特徴点を特定し、当該移動距離と閾値とを比較しているが、他の方法を用いて判定を行ってもよい。例えば、二つのフレーム間における全ての特徴点の移動距離の平均値を求め、当該平均値を閾値と比較してもよいし、全ての特徴点の移動距離の測定開始時からの積算値を求め、閾値と比較してもよい。位置ずれが発生したか否かの判断には、任意の手法を用いることができる。
【0053】
なお、位置ずれが発生したと判定した場合、RANSAC(Random Sample Consensus
)法を用いることで、被検体が平行移動をしているか、変形しているかをさらに推定することができる。RANSAC法では、ランダムに特徴点をn個抽出し、対応する特徴点同士で変換行列を求める。
そして、当該変換行列を、ランダムに抽出した他の特徴点に適応する。この結果、残差の2乗和が最小になる変換行列が有意に多く得られた場合、平行移動によるずれが発生していると判定することができる。反対に、多く得られなかった場合は、回転ないし変形が発生していると判定することができる。もちろん、上記の方法に限らず、他の方法を用いてもよい。
【0054】
ステップS41,S5〜S7の処理は、第二の実施形態と同様である。
ステップS8では、第一および第二の実施形態と同様に、音声、ランプ、画面表示などによって操作者に対する通知を行うが、これに加え、どのような位置ずれが発生したかをさらに通知するようにしてもよい。例えば、ずれが発生していない場合は緑色の灯火、平
行移動が発生した場合は黄色の灯火、変形または回転が発生した場合は赤色の灯火といったように、それぞれ異なる色で通知を行うようにしてもよい。
【0055】
また、各特徴点の動きベクトルを表すグラフィックを生成し、被検体画像に重畳して表示するようにしてもよい。これにより、被検体の細かい位置変化を操作者に通知することができる。図8は、被検体画像27に、特徴点の動きベクトルを表す表示(符号28)を生成して重畳表示させた場合の画面例である。ここでは、類似した動きベクトルを持つ特徴点をクラスタリングして表示している。これにより、どのように被検体が変形したのかを操作者にわかりやすく示すことができる。
なお、動きベクトルは、例示した方法以外の方法によって示すようにしてもよい。例えば、類似する動きベクトルを類似した色で表示するようにしてもよいし、クラスタリングする際の線の色を変えてもよい。また、矢印以外を用いて動きベクトルを表してもよいし、被検体全体を表示せず、動きベクトルが大きい領域のみを拡大表示するようにしてもよい。
【0056】
このように、第三の実施形態に係る光音響測定装置では、特徴点を抽出して動きベクトルを算出することで、被検体の一部が変形するようなケースにも対応することができ、操作者に対して、被検体がどのようなずれ方をしたかを正確に通知することができる。
【0057】
(変形例)
なお、各実施形態の説明は本発明を説明する上での例示であり、本発明は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更または組み合わせて実施することができる。本発明は、上記処理の少なくとも一部を含む被検体情報取得装置の制御方法として実施することもできる。上記処理や手段は、技術的な矛盾が生じない限りにおいて、自由に組み合わせて実施することができる。
【0058】
例えば、実施形態の説明では、被検体画像をパターンマッチングさせる例と、特徴点の座標を比較する例を挙げたが、被検体の位置ずれを検出するための情報には、他の情報を用いてもよい。例えば、被検体の背景部分や、フレーム間差分情報、一定時間後のフレームとのフレーム間差分情報、被検体部分のヒストグラム情報、被検体のテクスチャ情報、勾配法やブロックマッチング法によるオプティカルフロー情報などであってもよい。
また、モラベック・オペレータによる移動体追跡手法、KLT(Kanade-Lucas-Tomasi
)法、局所相関の対応付けによる方法や、大域整合性を考慮した方法による情報などであってもよい。また、単純に、予め設定された領域から被検体がはみ出した場合に、位置ずれが発生したと判断してもよい。被検体の位置や外形の変化がわかる情報であれば、どのような情報を用いて位置ずれ発生の判断を行ってもよい。
【0059】
また、閾値として設定する値や、操作者に提示する値は、本実施形態で説明したような、初期状態からの変化ピクセル数の他に、以下のようなものであってもよい。例えば、フレーム間における各特徴点の変位量、特徴点の一定時間内での変位量の積算値、特徴点の空間内での変化方向、取得変化データのボクセル換算値、ミリメートル・センチメートル換算値などである。
また、ずれ量を大・中・小に分類した結果や、位置ずれの種類(例えば「平行移動」や「一部歪み」等)、座標系におけるそれぞれの軸上の初期状態からのずれ値などであってもよい。位置ずれがどのようなものであるかを表現できれば、どのような値を用いてもよい。
【0060】
また、各実施形態では、光音響測定装置を例に説明を行ったが、本発明は、超音波を被検体に送信する音響波送信手段を有し、被検体内で反射した超音波を受信することで被検体内の音響特性に関連した情報を可視化する、超音波測定装置に適用してもよい。被検体
内より到来する音響波を受信することで当該被検体内の情報を取得する装置であれば、本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0061】
17・・・音響波探触子、21・・・測定部、22・・・変化検知部、23・・・通知部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8