特許第6238552号(P6238552)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6238552眼科装置、眼科装置の制御方法、プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6238552
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】眼科装置、眼科装置の制御方法、プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/10 20060101AFI20171120BHJP
   A61B 3/103 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   A61B3/10 ZZDM
   A61B3/10 M
【請求項の数】17
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-86879(P2013-86879)
(22)【出願日】2013年4月17日
(65)【公開番号】特開2014-209994(P2014-209994A)
(43)【公開日】2014年11月13日
【審査請求日】2016年4月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】太田 幸一
【審査官】 九鬼 一慶
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−080065(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0137034(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00−3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検眼の瞳孔の徹照動画像を取得する取得手段と、
前記取得手段が取得した徹照動画像の1フレーム分の輝度分布を解析する解析手段と、
前記解析された輝度分布に基づいて、前記被検眼が眼内レンズを有するか否かを判定する判定手段と、
を有することを特徴とする眼科装置。
【請求項2】
前記被検眼の眼底に光束を投影する投影手段を更に有し、
前記取得手段が、前記眼底からの反射光束により照明された前記瞳孔の徹照動画像を取得することを特徴とする請求項1に記載の眼科装置。
【請求項3】
前記判定手段は、前記解析手段により解析された輝度分布から、前記被検眼の嚢と眼内レンズとの境界面により生じる輝度の低いリング状の部分が存在するか否かを検出し、前記輝度の低いリング状の部分が存在する場合には、前記被検眼は前記眼内レンズを有すると判定することを特徴とする請求項1または2に記載の眼科装置。
【請求項4】
前記判定手段は、前記解析手段により解析された輝度分布から、前記眼内レンズの縁により生じる輝度の低いリング状の部分が存在するか否かを検出し、前記輝度の低いリング状の部分が検出された場合には、前記被検眼は前記眼内レンズを有すると判定することを特徴とする請求項1または2に記載の眼科装置。
【請求項5】
前記判定手段は、前記解析手段により解析された輝度分布から、回折型多焦点眼内レンズによる輝度が低い同心円状の多重リングが存在するか否かを検出し、前記多重リングが存在する場合には、前記眼内レンズは回折型多焦点眼内レンズであると判定することを特徴とする請求項からのいずれか1項に記載の眼科装置。
【請求項6】
前記判定手段は、前記輝度分布として前記被検眼の中心を通過する直線上の輝度の分布を用い、輝度が局所的に低い部分が存在するか否かを判定するとともに、前記輝度分布を前記被検眼の円周方向の全周にわたって解析することにより、輝度の低い部分がリング状になっているか否かを判定することを特徴とする請求項からのいずれか1項に記載の眼科装置。
【請求項7】
前記判定手段による判定結果を表示手段に表示させる表示制御手段を更に有することを特徴とする請求項からのいずれか1項に記載の眼科装置。
【請求項8】
前記被検眼の眼特性を測定する測定手段を更に有し、
前記判定手段により前記被検眼が眼内レンズを有すると判定された場合には、前記測定手段は、眼特性の測定条件を変更することを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の眼科装置。
【請求項9】
前記眼特性として前記被検眼の眼屈折力を測定する場合に、前記測定手段は、前記測定条件の変更として、固視標の雲霧を省略するか、固視標を前記被検眼に投影する光源の光量を前記被検眼が眼内レンズを有さない場合に比較して少なくするかの少なくとも一方を行うことを特徴とする請求項に記載の眼科装置。
【請求項10】
被検眼の瞳孔の徹照動画像を取得するステップと、
前記取得された徹照動画像の1フレーム分の輝度分布を解析するステップと、
前記解析された輝度分布に基づいて、前記被検眼が眼内レンズを有するか否かを判定するステップと、
を有することを特徴とする眼科装置の制御方法。
【請求項11】
前記解析された輝度分布から、前記被検眼の嚢と眼内レンズとの境界面により生じる輝度の低いリング状の部分が存在するか否かを検出し、前記輝度の低いリング状の部分が存在する場合には、前記被検眼は前記眼内レンズを有すると判定することを特徴とする請求項10に記載の眼科装置の制御方法。
【請求項12】
前記解析された輝度分布から、前記眼内レンズの縁により生じる輝度の低いリング状の部分が存在するか否かを検出し、前記輝度の低いリング状の部分が検出された場合には、前記被検眼は前記眼内レンズを有すると判定することを特徴とする請求項10に記載の眼科装置の制御方法。
【請求項13】
前記解析された輝度分布から、回折型多焦点眼内レンズによる輝度が低い同心円状の多重リングが存在するか否かを検出し、前記多重リングが存在する場合には、前記眼内レンズは回折型多焦点眼内レンズであると判定することを特徴とする請求項10から12のいずれか1項に記載の眼科装置の制御方法。
【請求項14】
前記輝度分布として前記被検眼の中心を通過する直線上の輝度の分布を用いて輝度が局所的に低い部分が存在するか否かを判定するとともに、前記輝度分布を前記被検眼の円周方向の全周にわたって解析することにより、輝度の低い部分がリング状になっているか否かを判定することを特徴とする請求項10から13のいずれか1項に記載の眼科装置の制御方法。
【請求項15】
前記被検眼の眼特性を測定するステップを更に有し、
前記被検眼が眼内レンズを有すると判定された場合には、前記被検眼の眼特性を測定するステップにおいて、眼特性の測定条件を変更することを特徴とする請求項10から14のいずれか1項に記載の眼科装置の制御方法。
【請求項16】
前記被検眼の眼特性を測定するステップにおいて、前記眼特性として前記被検眼の眼屈折力を測定する場合に、前記測定条件の変更として、固視標の雲霧を省略するか、固視標を前記被検眼に投影する光源の光量を前記被検眼が眼内レンズを有さない場合に比較して少なくするかの少なくとも一方を行うことを特徴とする請求項15に記載の眼科装置の制御方法。
【請求項17】
請求項10から16のいずれか1項に記載の眼科装置の制御方法を、コンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検眼の眼特性を測定または撮影するための眼科装置、眼科装置の制御方法、プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、白内障手術に用いる眼内レンズ(IOL:Intraocular Lens)(「人工水晶体」や「眼内レンズ」と称することもある)の普及により、眼内レンズを挿入した被検眼(IOL眼)が増えてきている。眼内レンズは、形状や材質、屈折力調節能力の有無などにおいて、水晶体とは異なる特徴を持っている。そのため、IOL眼を精度よく検査するには、装置が、被検眼がIOL眼かどうかの情報を取得する必要がある。
眼屈折力測定装置においては、被検眼がIOL眼であるかどうかを検者が装置に入力し、その入力に応じて装置がジョグダイアルの機能を切り替える技術が、特許文献1に開示されている。このような構成によれば、一般に縮瞳しやすいIOL眼に対して、検者はジョグダイアルで固指標の光量を調節することができる。このとき、被検眼がIOL眼かどうかを検者が装置に入力する必要があるため、検者による誤認識や入力間違いによって、検査を失敗する可能性があった。また、入力操作が検者の負担になるという問題や、測定時間が長くなるといった問題があった。
このとき、眼科撮影装置においては、フレアの色から被検眼がIOL眼であるかどうかを装置が判定し、合焦方法を切り替える技術が、特許文献2に開示されている。このような構成によれば、一般にフレアが発生しやすいIOL眼に対して、緻密な合焦を行うことができる。
また、眼軸長測定装置においては、被検眼の前眼部からの反射信号に基づいて、被検眼がIOL眼かどうかを装置が判定し、より適切な眼軸長の算出方法を用いる技術が、特許文献3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3244873号公報
【特許文献2】特開2003−290146号公報
【特許文献3】特開2011−136109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上述した特許文献には、被検眼が眼内レンズを有するか否かを判定する際に、被検眼の瞳孔の徹照動画像を用いることについて、何ら開示されていない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の眼科装置は、被検眼の瞳孔の徹照動画像を取得する取得手段と、前記取得手段が取得した徹照動画像の1フレーム分の輝度分布を解析する解析手段と、前記解析された輝度分布に基づいて、前記被検眼が眼内レンズを有するか否かを判定する判定手段と、を有する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、眼科撮影装置や眼軸長測定装置とは異なる構成の眼科装置においても、被検眼がIOL眼かどうかを、特別な装置(測定には直接関係のない装置)を付加することなく自動的に判定することができる。そのため、検者の誤認識や入力ミスによる検査の失敗を防止できる。さらに、入力操作が不要のため、検者の負担を軽減し、検査時間を短縮できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】眼屈折力計の外観模式図である。
図2】測定ユニットの光学系の配置図である。
図3】アライメントプリズム絞りの斜視図である。
図4】眼屈折力計のシステムブロック図である。
図5】前眼部像の説明図である。
図6】徹照観察の説明図である。
図7】IOL眼判定処理を示すフローチャートである。
図8】画像解析の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。本実施形態での説明において、眼内レンズを「IOL」と称し、眼内レンズを有する被検眼を「IOL眼」と称し、眼内レンズを有さない被検眼を「非IOL眼」と称する。また、眼内レンズのうち、単焦点眼内レンズを「単焦点IOL」と称し、回折型多焦点眼内レンズを「回折型多焦点IOL」と称する。さらに、単焦点眼内レンズを有する被検眼を「単焦点IOL眼」と称し、回折型多焦点眼内レンズを有する被検眼を「回折型多焦点IOL眼」と称して区別することがある。なお、単に「IOL眼」と称する場合には、単焦点眼内レンズを有する被検眼と、回折型多焦点眼内レンズを有する被検眼との両方を含むものとする。
【0009】
(装置の全体的な構成)
まず、本発明の実施形態にかかる眼科装置の一例である眼屈折力計1の装置構成について、図1を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態にかかる眼科装置の一例である眼屈折力計1の概略構成図である。眼屈折力計1は、被検眼Eの眼特性として、眼屈折力を測定できる。なお、本実施形態では、眼科装置の一例として、眼屈折力計を示すが、本発明は、眼底カメラや眼軸長測定装置にも適用できる。
眼屈折力計1は、ベース100と、X軸駆動フレーム102と、Y軸駆動フレーム106と、Z軸駆動フレーム107と、測定ユニット110とを含む。
【0010】
X軸駆動フレーム102は、ベース100に対して左右方向(X軸方向)に移動可能である。X軸駆動フレーム102のX軸方向の駆動機構は、X軸駆動モータ103と、X軸送りねじ(不図示)と、X軸送りナット(不図示)とで構成されている。X軸駆動モータ103は、ベース100に取り付けられる。X軸送りねじは、X軸駆動モータ103の出力軸に連結される。X軸送りナットは、X軸駆動フレーム102に取り付けられており、X軸送りねじの回転によりX軸方向に移動可能である。そして、X軸駆動モータ103の出力軸の回転によりX軸送りねじが回転し、X軸駆動フレーム102がX軸送りナットとともにX軸方向に移動する。
【0011】
Y軸駆動フレーム106は、X軸駆動フレーム102に対して上下方向(Y軸方向)に移動可能である。Y軸駆動フレーム106のY軸方向の駆動機構は、Y軸駆動モータ104と、Y軸送りねじ105と、Y軸送りナット114で構成されている。Y軸駆動モータ104は、X軸駆動フレーム102に固定されている。Y軸送りねじ105は、Y軸駆動モータ104の出力軸に連結される。Y軸送りナット114は、Y軸駆動フレーム106に取り付けられており、Y軸送りねじ105の回転によりY軸方向に移動可能である。そして、Y軸駆動モータ104の出力軸の回転によりY軸送りねじ105が回転し、Y軸駆動フレーム106は、Y軸送りナット114とともにY軸方向に移動する。
【0012】
Z軸駆動フレーム107は、Y軸駆動フレーム106に対して、前後方向(Z軸方向)に移動可能である。Z軸駆動フレーム107のZ軸方向の駆動機構は、Z軸駆動モータ108と、Z軸送りねじ109と、Z軸送りナット115で構成されている。Z軸駆動モータ108は、Z軸駆動フレーム107上に固定される。Z軸送りねじ109は、Z軸駆動モータ108に連結される。Z軸送りナット115は、Y軸駆動フレーム106に取り付けられており、Z軸送りねじ109の回転によりZ軸送りねじ109に対してZ軸方向に相対的に移動可能である。そして、Z軸駆動モータ108の出力軸回転によりZ軸送りねじ109が回転し、Z軸駆動フレーム107がZ軸駆動モータ108やZ軸送りネジ115とともにZ軸方向に移動する。
【0013】
Z軸駆動フレーム107には、測定を行うための測定ユニット110が固定されている。
測定ユニット110の被検者側の端部には、アライメントを行うための光源(不図示)や、角膜曲率を測定するための光源ユニット111が設けられている。
ベース100の検者側には、ジョイスティック101が設けられている。ジョイスティック101は、被検眼Eに対して測定ユニット110をアライメントするために検者が操作する操作部材である。検者は、測定時にはジョイスティック101を傾倒させることで、測定ユニット110を移動させて位置の調整などを行うことができる。
ジョイスティック101の下部には、ジョグダイアル113が設けられている。検者は、ジョグダイアル113を回転させることによって、頂点間距離の設定を行うことができる。
【0014】
眼屈折力の測定を行う際には、被検者は顎受け112上に顎を乗せ、かつベース100に固定されている顔受けフレームの額受け部分(不図示)に額を押し当てる。これにより被検眼Eの位置をベース100に対して固定させることができる。
顎受け112は、被検者の顔のサイズに応じて顎受け駆動機構117によりY軸方向に調整可能である。
このほか、測定ユニット110の検者側端部には、表示部材であるLCDモニタ116が設けられている。LCDモニタ116は、画像生成手段の一例であるシステム制御部401が生成し、取得手段の一例であるシステム制御部401が取得した画像や、測定結果等を表示することができる。検者は、LCDモニタ116を用いて、被検眼Eの観察や測定結果の確認をすることができる。
【0015】
(測定ユニットの光学系の構成)
次に、図2を参照して、測定ユニット110の内部の光学系の構成について説明する。図2は、測定ユニット110の内部の光学系の配置図である。
測定ユニット110は、眼屈折力測定用の光学系と、固視標投影の光学系と、アライメント受光の光学系とを有する。
【0016】
眼屈折力測定用の光学系の構造は、次のとおりである。
眼屈折力測定用光源201は、波長880nmの光を照射する。眼屈折力測定用光源201から被検眼Eに至る光路01上には、レンズ202、絞り203、孔あきミラー204、レンズ205、ダイクロイックミラー206が、順次に配置されている。
絞り203は、被検眼Eの瞳孔Epとほぼ共役に配置される。ダイクロイックミラー206は、被検眼E側から波長880nm未満の赤外線および可視光の光束を全反射し、波長880nm以上の光束を一部反射する。
孔あきミラー204の反射方向の光路02上には、絞り207、光束分光プリズム208、レンズ209、撮像素子210が順次に配列されている。絞り207は、円環状のスリットを備え、瞳孔Epとほぼ共役に配設される。
【0017】
眼屈折力測定用光源201から発せられた光束は、絞り203で光束が絞られつつ、レンズ202によりレンズ205の手前で1次結像され、レンズ205、ダイクロイックミラー206を透過して被検眼Eの瞳中心に投光される。投光された光束は、眼底Erで反射し、その反射光(眼底反射光)は、瞳中心を通って再びレンズ205に入射する。入射した光束は、レンズ205を透過した後に、孔あきミラー204の周辺で反射する。
孔あきミラー204の周辺で反射した光束は、被検眼Eの瞳孔Epと略共役な絞り207および光束分光プリズム208で瞳分離され、撮像素子210の受光面にリング像として投影される。撮像素子210は、投影された光束からなる光学像を信号に変換して出力する。システム制御部401は、撮像素子210が出力した信号から画像を生成する。
被検眼Eが正視眼であれば、このリング像は所定の円になる。近視眼である場合は、正視眼に対して円が小さく、遠視眼である場合は、正視眼に対して円が大きくなる。
被検眼Eに乱視がある場合は、リング像が楕円になる。この場合には、水平軸と楕円のなす角度が乱視軸角度となる。被検眼の眼屈折力は、この楕円の係数を基に算出される。
【0018】
ダイクロイックミラー206の反射方向には、固視標投影光学系と、アライメント受光光学系とが配置されている。アライメント受光光学系は、被検眼Eの前眼部観察と、アライメント検出とに共用される。
固指標投影の光学系の構成は、次のとおりである。固視標投影の光学系の光路03上には、レンズ211、ダイクロイックミラー212、レンズ213、折り返しミラー214、レンズ215、固視標216、固視標照明用光源217が順次に配列されている。
固視誘導時には、固視標照明用光源217が点灯して固視標216の裏側に投影光束を照明する。固視標216を透過した投影光束は、レンズ215、折り返しミラー214、レンズ213、ダイクロイックミラー212、レンズ211を介して、被検眼Eの眼底Erに投影される。
なお、レンズ215は、被検眼Eの視度誘導を行い、雲霧状態を実現するために、固視標誘導用モータ224により光軸方向に移動できるようになっている。
【0019】
また、ダイクロイックミラー212の反射方向には、アライメント受光の光学系が配設される。アライメント受光の光学系の光路04上には、アライメントプリズム絞り223、結像レンズ218、撮像素子220が、順次に配列されている。
アライメントプリズム絞り223は、アライメントプリズム絞り挿抜ソレノイド411(図2では省略)により、光路04に対して挿脱可能である。そして、アライメントプリズム絞り223が光路04上にある場合にはアライメントを行うことができ、光路04から退避している場合には前眼部観察または徹照観察を行うことができる。
【0020】
ここで、アライメントプリズム絞り223の構成について、図3を参照して説明する。図3は、アライメントプリズム絞り223の構成を模式的に示す図である。アライメントプリズム絞り223は、円盤状の絞り板223dを有する。絞り板223dには、3つの開口部223a、223b、223cが直列に並ぶように形成される。両側の開口部223b、223cのダイクロイックミラー212側には、波長880nm付近のみの光束を透過するアライメントプリズム301a、301bが貼付されている。
【0021】
図2に戻り、被検眼Eの前眼部の斜め前方には、前眼部照明用光源221a、221bが配置されている。前眼部照明用光源221a、221bは、780nm程度の波長の光を発する。前眼部照明用光源221a、221bは、被検眼Eの前眼部に向けて光を照射する。そして、被検眼Eの前眼部での反射光の光束(被検眼Eの前眼部像)は、ダイクロイックミラー206、レンズ211、ダイクロイックミラー212、アライメントプリズム絞り223の中央の開口部223aを介して、撮像素子220の受光センサ面に結像する。撮像素子220は、結像した被検眼Eの前眼部の光学像を電気信号に変換して出力する。システム制御部401は、撮像素子220が出力した電気信号から被検眼Eの前眼部画像を生成する。
アライメント検出のための光源は、眼屈折力測定用光源201と兼用されている。
アライメント時には、拡散板挿抜ソレノイド410(不図示)により半透明の拡散板222が光路01に挿入される。なお、拡散板222は、レンズ205の略焦点位置に挿入される。これにより、眼屈折力測定用光源201の光が拡散板222上に投影される。そして、投影された光が二次光源となり、レンズ205から被検眼Eに向かう太い平行光束となり、被検眼Eに投影される。
この平行光束は、被検眼Eの角膜Efで反射して輝点像を形成する。この輝点像の光束は、再びダイクロイックミラー206でその一部が反射し、レンズ211を通過してさらにダイクロイックミラー212で反射する。そして、この反射した光束は、アライメントプリズム絞り223の開口部223aおよびアライメントプリズム301a、301bを透過し、結像レンズ218により収斂し、撮像素子220に結像する。
アライメントプリズム絞り223の中央の開口部223aは、前眼部照明用光源221a、221bの波長780nm以上の光束が通るようになっている。このため、前眼部照明用光源221a、221bにより照明された前眼部像の反射光束は、角膜Efの反射光束の経路と同様に観察光学系を辿る。そして、この反射光束は、アライメントプリズム絞り223の開口部223aを介して、結像レンズ218により撮像素子220に結像する。撮像素子220は、結像した反射光束を信号に変換して出力する。
また、アライメントプリズム301aを透過した光束は上方向に屈折し、アライメントプリズム301bを透過した光束は下方向に屈折する。
そして、アライメント時においては、システム制御部401は、撮像素子220が出力する信号から前眼部画像を生成する。この画像には、アライメントプリズム絞り223を介した光束による輝点が映り込んでいる。アライメント検出部300は、システム制御部401が生成した画像から、アライメントプリズム絞り223を介した輝点の位置関係を検出する。そして、検出結果をシステム制御部401に送信する。システム制御部401は、検出された輝点の位置関係に基づいて、被検眼Eのアライメントを行うことができる。
【0022】
(システムの構成)
次に、眼屈折力計1のシステムの構成について、図4を参照して説明する。図4は、眼屈折力計1のシステムブロック図である。
システム制御部401は、眼屈折力計1のシステム全体を制御する。また、システム制御部401は、所定の演算処理を行う。システム制御部401は、プログラム格納部491と、データ格納部492と、入出力処理部494と、演算処理部493とを有している。システム制御部401には、コンピュータが適用される。プログラム格納部491には、眼屈折力計1を制御するためのコンピュータプログラムが格納される。データ格納部492には、眼屈折力値を補正するためのデータが格納される。入出力処理部494には、各種デバイスとの入出力を制御する。演算処理部493は、各種デバイスから得られたデータを演算する。
また、システム制御部401は、撮像素子210と撮像素子220が出力する信号から画像を生成する画像生成部と、画像生成部が生成した画像を取得する画像取得部の一例として機能する。なお、画像生成部がシステム制御部401の外部に設けられる構成であってもよい。この場合には、システム制御部401は画像生成部が生成した画像を取得する画像取得部の一例として機能する。そして、システム制御部401の外部に画像生成部が設けられる構成においては、画像取得部の一例であるシステム制御部401は、外部の画像生成部と、有線または無線で画像を受信可能に接続される。
【0023】
システム制御部401には、傾倒角度検出部402とエンコーダ入力部403と測定開始スイッチ404とを介して、ジョイスティック101が接続されている。ジョイスティック101は、測定ユニット110を被検眼Eに位置合わせするため、および測定開始するために、検者が操作する操作部材である。傾倒角度検出部402は、ジョイスティック101の前後左右への傾倒角度を検出してシステム制御部401に送信する。エンコーダ入力部403は、ジョイスティック101の回転角度を検出してシステム制御部401に送信する。測定開始スイッチ404は、検者などによる操作内容をシステム制御部401に送信する。このほか、ベース100上の操作パネル405(図略)には、印字釦や顎受上下釦などが配置されている。これら印字釦や顎受け上下釦などは、操作に応じた信号を、システム制御部401に送信する。
【0024】
メモリ408は、撮像素子220が出力する信号から生成された被検眼Eの前眼部像や、撮像素子210が出力する信号から生成された眼屈折力算出用リング像などが格納される。システム制御部401は、メモリ408に格納された画像から被検眼Eの瞳孔Epと角膜反射像を抽出し、アライメントを行う。また、システム制御部401は、生成した被検眼Eの前眼部像に、文字や図形データを合成し、LCDモニタ116に表示する。これにより、LCDモニタ116には、前眼部像や測定値などが表示される。
【0025】
ソレノイド駆動回路409は、システム制御部401の制御にしたがって、拡散板挿抜ソレノイド410とアライメントプリズム絞り挿抜ソレノイド411と角膜絞り挿抜ソレノイド412を駆動する。
また、モータ駆動回路414は、システム制御部401の制御にしたがって、X軸駆動モータ103、Y軸駆動モータ104、Z軸駆動モータ108、顎受駆動機構117のモータ、固視標誘導用モータ224を駆動する。
光源駆動回路413は、システム制御部401による制御にしたがって、眼屈折力測定用光源201、前眼部照明用光源221a,221b、固視標照明用光源217の点灯、消灯、光量変更を行う。
【0026】
このほか、眼屈折力計1には、各部の位置を検出する各種の位置センサ406が設けられる。例えば、眼屈折力計1には、位置センサ406として、X軸駆動フレーム102とY軸駆動フレーム106とZ軸駆動フレーム107のそれぞれの位置を検出する位置センサが設けられる。そして、位置センサ406による各部の位置の検出結果は、システム制御部401に送信される。
【0027】
各部を制御するためのコンピュータプログラムは、システム制御部401のプログラム格納部491に格納されている。また、各部を制御するための設定は、システム制御部401のデータ格納部492にコンピュータ読取り可能な形式で格納されている。そして、システム制御部401の演算処理部493は、各部を制御するためのコンピュータプログラムをプログラム格納部491から読み出して実行する。この際、演算処理部493は、各部の制御に必要な設定を、データ格納部492から適宜読み出して参照する。これにより、各部の制御が実現する。
【0028】
(全体的な動作の流れ)
次に、以上のような構成を備える本実施形態にかかる眼屈折力計1の動作を説明する。
本実施形態にかかる眼屈折力計1の動作の流れは、アライメントの段階と、前眼部観察の段階と、眼特性の一例である眼屈折力測定の段階と、測定結果判定の段階とを有する。アライメントの段階においては、システム制御部401は、測定ユニット110を被検眼Eに対して位置合わせする。前眼部観察の段階では、システム制御部401は、撮像素子220、光源駆動回路413、LCDモニタ109を制御し、被検眼Eの前眼部画像の生成と、生成した前眼部画像の呈示を行う。眼屈折力測定の段階では、システム制御部401は、被検眼Eの眼底像を生成し、生成した眼底像から被検眼Eの眼屈折力を測定する。測定結果判定の段階では、システム制御部401は、眼屈折力を測定できたか否かの判定と、眼屈折力の測定値のバラつきが大きかったか否かの判定を行う。そして、眼屈折力を測定できなかった場合、または測定値のばらつきが大きかった場合には、その後、徹照観察の段階を有する。徹照観察の段階においては、システム制御部401は、撮像素子220が出力する信号から被検眼の徹照動画像を生成する。そして、徹照観察を行うとともに、生成した徹照動画像を用いて、被検眼EがIOL眼であるか否かの判定(IOL眼判定処理)を行う。そして、被検眼EがIOL眼であると判定された場合には、その後、さらに眼屈折力の再測定の段階を有する。眼屈折力の再測定の段階では、システム制御部401は、測定のための各種設定を、被検眼EがIOL眼である場合に適した設定に変更して測定を行う。
【0029】
(アライメント)
ここで、アライメントの動作について、図5を参照して説明する。図5は、撮像素子220が出力した信号から生成される被検眼Eの前眼部像を、模式的に示す図である。
アライメント時には、アライメント用光源を兼用する眼屈折力測定用光源201の光束が、角膜Efによって結像して角膜輝点となる。角膜輝点(角膜Efからの光束)は、アライメントプリズム絞り223の開口部223a、223b、223cおよびアライメントプリズム301a、301bにより分割される。そして、分割された角膜輝点は、前眼部照明用光源221a、221bによって照明された被検眼Eと、前眼部照明用光源221a、221bの輝点像221a’、221b’とともに、撮像素子220が出力する信号から生成される前眼部画像に含まれる。これらの角膜輝点Ta、Tb、Tcが指標像となる。
アライメント検出部300は、生成された前眼部画像から3つの角膜輝点(指標像)Ta、Tb、Tcを検出する。そして、アライメント検出部300は、3つの角膜輝点Ta、Tb、Tcを検出できると、検出結果をシステム制御部401に送信する。システム制御部401は、中心の角膜輝点Taが前眼部画像の中心に位置するように、測定ユニット110を上下左右方向に移動させる。中心の角膜輝点Taが画像の中心に位置した後、システム制御部401は、角膜輝点Tb、Tcが角膜輝点Taに対して垂直方向に並ぶようさらに、測定ユニット110を前後方向に移動させる。3つの角膜輝点(指標像)Ta、Tb、Tcが上下方向に1列に並んだ状態でアライメントを完了する。
なお、測定ユニット110の移動は、システム制御部401がモータ駆動回路414を制御し、モータ駆動回路414がシステム制御部401の制御にしたがって各モータを駆動させることによって行われる。
【0030】
(眼屈折力の測定)
次に、眼屈折力の測定の動作について説明する。
システム制御部401は、まず、オートアライメントのために光路01に挿入していた拡散板222を、光路01から退避させる。そして、システム制御部401は光源駆動回路413を制御し、光源駆動回路413はシステム制御部401の制御にしたがって眼屈折力測定用光源201の光量を調整する。これにより、眼屈折力測定用光源201が発する測定光束が、被検眼Eの眼底Erに投影される。
被検眼Eの眼底Erからの反射光は、光路02を辿り、撮像素子210に結像する。撮像素子210は、結像した反射光を信号に変換して出力する。システム制御部401は、撮像素子210が出力する信号から眼底像を生成する。生成された眼底像には、リング絞り207による被検眼Eの屈折力に応じたリング像が投影されている。システム制御部401は、このリング像を、メモリ408に格納する。
システム制御部401は、メモリ408に格納されたリング像の重心座標を算出し、周知の方法により楕円の方程式を求める。さらにシステム制御部401は、求めた楕円の長径と短径および長径軸の傾きを算出し、さらにこれらに基づいて被検眼Eの眼屈折力を算出する。眼屈折力の算出方法も、公知の算出方法が適用できる。
【0031】
システム制御部401は、求めた眼屈折力値に基づいてその眼屈折力値に相当する位置にレンズ215を移動し、被検眼Eの屈折度に相当する屈折度で固視標216を被検眼Eに呈示する。この動作は、システム制御部401がモータ駆動回路414を制御し、モータ駆動回路414が固視標誘導用モータ224を駆動することによって実行される。その後、システム制御部401は、レンズ215を所定量だけ遠方に移動させて固視標216を雲霧させる。そして、システム制御部401は、その状態で、再び眼屈折力測定用光源201を点灯し、被検眼Eの眼屈折力を測定する。
【0032】
このように、システム制御部401は、被検眼Eの眼屈折力の測定→固視標216による雲霧→眼屈折力の測定、という動作を繰り返す。これによって、システム制御部401は、被検眼Eの眼屈折力が安定する最終の測定値を得ることができる。
【0033】
(徹照観察)
通常は、前記動作によって眼屈折力の測定を終了する。ただし、眼屈折力の測定値のバラつきが大きかった場合や、眼屈折力の測定自体ができなかった場合は、白内障などの眼疾患の可能性や、被検眼EがIOL眼である可能性がある。
そこで、システム制御部401は、前記の眼屈折力の測定の動作の終了後、眼屈折力を測定できたか否かを判定し、眼屈折力を測定できたと判定した場合には、さらに測定値のばらつきが閾値以上であるか否かを判定する。なお、測定値のばらつきの閾値は特に限定されるものではなく、従来実績等に基づいて適宜設定される。そして、眼屈折力の測定ができなかった場合、または、測定値のばらつきが所定の閾値以上である場合には、システム制御部401は、徹照観察(徹照法による被検眼Eの観察)を行い、原因を特定する。徹照観察は、被検眼Eの混濁を観察する方法である。徹照観察においては、被検眼Eに光を入射し、眼底Erからの反射光による画像を生成する。被検眼Eの水晶体が混濁を持っていない場合には、生成された画像における瞳孔Epは、一様に明るくなる。被検眼Eが白内障により水晶体に混濁を持っていると、眼屈折力測定用光源201の投影光束が混濁によって眼底Erに届かない。このため、撮像素子210は反射光を検出できず、測定ができなくなる。
そして、システム制御部401は徹照観察により原因を特定し、被検眼Eの水晶体が混濁を有する場合には、徹照レフ測定を行う。徹照レフ測定は、徹照動画像から白内障の混濁を避けた部位で行うレフ測定である。徹照レフ測定により、被検眼Eが白内障である場合であっても、眼屈折力測定が可能となる。
【0034】
一方、被検眼EがIOL眼である場合は、IOLの形状や材質、屈折力調整能力の有無などは、水晶体とは異なる特徴がある。このため、被検眼EがIOL眼であることを判定できると、その特徴にあった精度の良い測定を行うことができる。
また、回折型多焦点IOLは、位置により屈折力が異なるため、測定値のバラつきが大きい。そこで、システム制御部401は、IOLが単焦点IOLであるか回折型多焦点IOLであるかを自動で判定する。これにより、屈折誤差を少なくし、IOLの種類に適合して精度の良い測定を行うことができる。
【0035】
図6(a)は、非IOL眼の徹照動画像の例を示す図である。被検眼Eが白内障である場合は、混濁により画像が得られなかったり、瞳孔Ep内に影(不図示)が見えたりする。
図6(b)は、IOL眼の徹照動画像の例を示す図である。IOL眼の徹照動画像には、眼内レンズ挿入手術によりできた前嚢の縁(嚢と眼内レンズとの境界面)、およびIOLの縁が現れる。
図6(c)は、回折型多焦点IOL眼の徹照動画像の例を示す図である。回折型多焦点IOL眼の徹照動画像には、図6(b)と同様の前嚢の縁およびIOLの縁に加え、回折型多焦点IOLによる同心円状の多重リング(干渉縞)が現れる。
【0036】
(IOL眼判定処理)
次に、被検眼EがIOL眼であるか否かを判定するためのIOL眼判定処理について、図7図8を参照して説明する。図7は、徹照レフ測定におけるIOL眼判定フローを示す図である。図8は、IOL眼判定処理で用いられる徹照動画像の例を模式的に示す図である。なお、この処理を実行するためのコンピュータプログラムは、あらかじめシステム制御部401のプログラム格納部491に格納されている。そして、システム制御部401の演算処理部493は、このコンピュータプログラムをプログラム格納部491から読み出して実行する。これにより、以下の処理が実現する。
【0037】
ステップS01では、システム制御部401は、IOL眼判定処理を開始する。このIOL眼判定処理の開始にあたっては、測定ユニット110が徹照動画像を観察できる位置にあるものとする。また、システム制御部401は、撮像素子220が出力する信号から被検眼Eの徹照動画像を生成して取得したものとする。
【0038】
ステップS02において、解析手段の一例であるシステム制御部401は、生成した徹照動画像における被検眼Eの中心を通過する直線上(以下、この直線を「解析軸」と記す)の輝度分布の解析を行う。システム制御部401は、例えば、図8(a)の矢印に示すように、垂直軸を解析軸として輝度分布を解析する。なお、図8(a)は非IOL眼の徹照動画像と輝度分布の例を示し、図8(b)は単焦点IOL眼の徹照動画像と輝度分布の例を示し、図8(c)は回折型多焦点IOL眼の徹照動画像と輝度分布の例を示す。なお、これらの図に示す輝度分布においては、輝度階調が256階調である例を示す。散瞳していない場合、多くはIOLの縁は見えず前嚢の手術痕が上方に見えることが多い。
図8(a)の輝度分布に示すように、非IOL眼においては、虹彩部では輝度が局所的に低い。また、中心部は照明光の影響で輝度が他の部位より高くなっているが、その2箇所を除くと、一定の輝度となっている。
図8(b)の輝度分布に示すように、単焦点IOL眼においては、虹彩部と中心部は非IOL眼(図8(a))と同様である。瞳孔Epにおいては、他の部分と比べて輝度が50近く局所的に低い部分が存在する。輝度が局所的に低い部分が円周方向の全周にわたって存在する場合には、当該輝度が低い部分がリング状になっている。ただし、一方向(垂直方向)のみの情報では、一部に暗い箇所が有ることしかわからない。そこで、システム制御部401は、この解析軸を被検眼Eの中心を回転中心として回転させ、所定の角度ごとに円周方向の全周にわたって輝度分布を解析する。そして、システム制御部401は、輝度が局所的に低い部分がリング状になっているか否かを判定する。輝度が局所的に低い部分がリング状となっていれば、当該輝度が局所的に低い部分は、前嚢の縁によるものであると判定できる。
図8(c)の輝度分布に示すように、回折型多焦点IOL眼の場合には、単焦点IOL眼(図8(b))と同様に、一部に輝度が低い部分が存在する。さらに、瞳孔Ep部において、所定の周期で輝度が10以上変化するような傾向が見られる。これは回折型IOLの影響によるものである。システム制御部401は、解析軸を被検眼Eの中心を回転中心として回転させて、所定角度ごとに輝度分布の解析を行う。そして、システム制御部401は、輝度が低い部分が円周方向の全周にわたって存在するか否かを判定する。輝度が低い部分が全周にわたって存在する場合には、図8(c)に示すような同心円状の多重リングがあると判定できる。
システム制御部401は、以上のような解析を行うことで、非IOL眼と違った特徴(瞳や瞳孔Ep以外での輝度差など)を検出し、IOL眼の判定が行える。
【0039】
ステップS03において、システム制御部401は、同心円状の多重リングが検出されたか否かの判定を行う。図8(c)のような多重リングが検出された場合、ステップS04に進む。検出されなかった場合には、ステップS05に進む。
【0040】
ステップS04においては、判定手段の一例であるシステム制御部401は、被検眼Eが回折型多焦点IOL眼であると判定する。そして、システム制御部401(表示制御手段)は、被検眼Eが回折型多焦点IOL眼であるとする判定結果を、表示手段の一例であるLCDモニタ116に表示する。
【0041】
ステップS05において、システム制御部401は、被検眼Eの前嚢の縁の検出を行う。図8(b)のような輝度分布により前嚢の縁が検出された場合には、ステップS06に進む。一方、検出されなかった場合には、ステップS07に進む。
【0042】
ステップS06において、判定手段の一例であるシステム制御部401は、被検眼Eが単焦点IOL眼であると判定する。そして、システム制御部401(表示制御手段)は、被検眼Eが単焦点IOL眼であるとする判定結果を、LCDモニタ116に表示する。
【0043】
ステップS07においては(ステップS4にて前嚢の縁が検出されなかった場合には)、判定手段の一例であるシステム制御部401は、被検眼Eが非IOL眼であると判定する。そして、システム制御部401(表示制御手段)は、被検眼EがIOL眼ではないとする判定結果を、LCDモニタ116に表示する。
以上のフローにより、被検眼がIOL眼であるかどうか判定することができる。このようなフローによれば、特別な装置(測定には直接関係のない装置)を付加することなく、自動でIOLの有無を判断できる。
【0044】
(眼屈折力の再測定)
被検眼Eが回折型多焦点IOL眼または単焦点IOL眼であると判定された場合には、システム制御部401は、眼特性の一例である眼屈折力の測定条件を変更する。例えば、システム制御部401は、固視標の光量や合焦方法や被検眼Eの長軸算出方法を、IOL眼に適した光量や方法に変更する。そして、変更した測定条件(光量や方法)を用いて、再び眼屈折力の測定を行う。なお、非IOL眼に適した設定、単焦点IOL眼に適した設定、回折型多焦点IOL眼に適した設定は、コンピュータ読取り可能な形式で、システム制御部401のデータ格納部492にあらかじめ格納されている。そして、演算処理部493は、眼屈折力の測定の際に、IOL眼判定処理の結果に応じてこれらの設定を読み出して使用する。また、設定項目や具体的な設定値は、特に限定されるものではない。これらは、たとえば従来実績などに基づいて適宜設定される。
【0045】
被検眼EがIOL眼であると判定された場合に変更する測定条件と変更内容は、たとえば次のとおりである。
(1)システム制御部401は、LCDモニタ109に、被検眼Eが回折型多焦点IOL眼または単焦点IOL眼である旨を表示する。
(2)システム制御部401は、測定のエラー条件を緩和する。
(3)システム制御部401は、固視標216を雲霧させるシーケンスを省略する。
(4)システム制御部401は、固視標216を暗くして被検眼Eの縮瞳を防ぐ。すなわち、システム制御部401は、固視標216を投影する固視標照明用光源217の光量を、被検眼EがIOL眼ではない場合に比較して少なくする。
なお、これらの条件変更を全て行う必要はなく、選択的に条件変更を行ってもよい。
また、眼科装置が眼底カメラである場合には、駆動制御を変更し、撮影時においてフレアを減少させる。
また、眼科装置が眼軸長測定装置である場合には、被検眼Eの状態に応じた測定値を得ることができる。
【0046】
以上説明したとおり、本発明の実施形態によれば、被検眼EがIOL眼かどうかを自動的に判定することができる。そのため、検者の誤認識や入力ミスによって検査が失敗するおそれがない。また、被検眼EがIOL眼であるか否かの情報を入力するための入力操作が不要になる。このため、検者の負担が軽減されるとともに、検査時間が短縮される。また、IOL眼判定処理は、システム制御部401が画像解析に基づいて実行する。このため、被検眼EがIOL眼であるか否かの判定のための特別なハードウェアが必要ではない。したがって、装置の大型化や複雑化を招くことがない。
【0047】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、前記実施形態は、本発明を実施するにあたっての具体例を示したに過ぎない。本発明の技術的範囲は、前記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であり、それらも本発明の技術的範囲に含まれる。
たとえば、前記実施形態においては、眼科装置として眼屈折力計を示したが、眼科装置は眼屈折力計に限定されない。本発明は、徹照観察可能な装置であれば、眼科撮影装置や眼軸長測定装置、OCTなど眼屈折力測定装置以外の眼科測定装置においても本発明のIOL眼判定を適用可能である。
【0048】
(その他の実施形態)
上述した実施形態の目的は、次のような方法によっても達成される。すなわち、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェアのプログラムコードを記録した記憶媒体(または記録媒体)を、システムあるいは装置に供給する。そして、そのシステムあるいは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU)が記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出し実行する。この場合、記憶媒体から読み出されたプログラムコード自体が上述した実施形態の機能を実現することになり、そのプログラムコードを記憶した記憶媒体は本発明を構成することになる。また、コンピュータが読み出したプログラムコードを実行することにより、上述した実施形態の機能が実現されるだけでなく、本発明には次のような場合も含まれる。すなわち、プログラムコードの指示に基づき、コンピュータ上で稼働しているオペレーティングシステム(OS)などが実際の処理の一部または全部を行い、その処理によって前述した実施形態の機能が実現される。
【0049】
さらに、次のような場合も本発明に含まれる。すなわち、記憶媒体から読み出されたプログラムコードが、コンピュータに挿入された機能拡張カードやコンピュータに接続された機能拡張ユニットに備わるメモリに書込まれる。その後、そのプログラムコードの指示に基づき、その機能拡張カードや機能拡張ユニットに備わるCPUなどが実際の処理の一部または全部を行い、その処理によって前述した実施形態の機能が実現される。
図1
図2
図3
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図5
図6
図7
図8