(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基板と、型の間に樹脂を介在させ樹脂を硬化する工程と、前記型を分離して、前記基板上に、光学有効部と前記光学有効部に隣接して設けられた光学有効外部を有する樹脂層が形成された複合型光学素子を製造する方法であって、
前記型の前記光学有効外部を形成する部分の形状は、同心円形状であり、
外周方向に型厚が厚くなっていく連続的な第1の形状と、前記第1の形状に隣接して外周方向に型厚が薄くなっている第2の形状とを1組の形状として、前記1組の形状を2組以上10組以下繰り返し隣接して設けられた形状を有し、
前記樹脂を硬化する工程で、前記型の断面図で、前記型の前記型厚が厚くなっていく連続的な第1の形状の両端部を結ぶ直線と、基板表面に近い方の端部に対向する点における基板表面の接線との角度θが20度以上60度以下であることを特徴とする複合型光学素子の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の複合型光学素子について説明する。
【0015】
図1は、本発明の複合型光学素子の光学有効外部を示す部分断面図である。
図1(a)から(c)は、複合型光学素子の光学有効外部の実施態様を示す。
【0016】
図1(a)に示す本発明の複合型光学素子は、基板1上に、光学有効部4と前記光学有効部4に隣接して設けられた光学有効外部5を有する樹脂層10が形成された構成からなる。前記樹脂層10の光学有効外部5の形状は、基板の外周方向に膜厚が薄くなっていく連続的な形状12であり、かつ前記連続的な形状の両端部10aと10bを結ぶ直線と、基板表面に近い方の端部10aに対向する点10a´における基板の接線11との間の角度θが20度以上60度以下であることを特徴とする。基板表面に近い方の端部10aに対向する点10a´は、端部10aと最も近い距離にある基板上の点である。
【0017】
図1(b)に示す本発明の複合型光学素子は、基板上1に、光学有効部4と前記光学有効部4に隣接して設けられた光学有効外部5を有する樹脂層10が形成された複合型光学素子において、前記樹脂層10の光学有効外部5の形状は、基板の外周方向に膜厚が薄くなっていく連続的な第1の形状14と、前記第1の形状に隣接して基板の外周方向に膜厚が厚くなっている第2の形状15とを少なくとも有し、かつ前記膜厚が薄くなっていく連続的な第1の形状14の両端部を結ぶ直線と、基板表面に近い方の端部14aに対向する点14a´における基板表面の接線11との角度θが20度以上60度以下であることを特徴とする。
【0018】
図1(c)に示す本発明の複合型光学素子は、複合型光学素子の樹脂層10の光学有効外部の形状は、基板の外周方向に膜厚が薄くなっていく連続的な第1の形状14と、前記第1の部分に隣接して基板の外周方向に膜厚が厚くなっている第2の形状15とを1組として、2組以上10組以下を繰り返し有していることを特徴とする。
図1において、基板の接線11は基板の表面13と並行である。
【0019】
本発明において、前記樹脂層10の光学有効外部の膜厚が薄くなっていく連続的な形状12の外面の形状は、傾斜面または曲面であることが好ましい。
図1に示す連続的な形状12の外面の形状は、傾斜面を表している。
図3は、本発明の複合型光学素子の光学有効外部の他の形状を示す部分断面図である。
図3では、連続的な形状12の外面の形状は、曲面を表している。
【0020】
本発明における基板の外周方向に膜厚が薄くなっていく連続的な形状12の両端部10aと10bを結ぶ直線と、基板表面に近い方の端部10aに対向する点10a´における基板表面の接線11との角度θが20度以上60度以下、好ましくは35度以上55度以下が望ましい。連続的な形状12の両端部10aと10bを結ぶ直線とは、
図1に示す様に連続的な形状12が傾斜面である場合には、傾斜面の傾斜線を表す。また、
図3に示す様に連続的な形状12が曲面である場合には、光学有効部4と接する光学有効外部の端部10bと、基板の外周方向に膜厚が最も薄くなる端部10aとを結んだ直線を表す。
【0021】
本発明の基板には、ガラス、レンズ等を用いることができる。
【0022】
本発明の樹脂層には、熱硬化性樹脂および光硬化性樹脂を用いることができる。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂を用いることができる。光硬化性樹脂としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂およびフッ素樹脂を用いることができる。
【0023】
本発明の樹脂層には、金属微粒子を含有することができる。金属微粒子としては、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫、酸化アンチモン、スズをドープした酸化インジウム(以下、「ITO」と記載する。)、アンチモンをドープした酸化スズ(ATO)、亜鉛をドープした酸化インジウム(IZO)、アルミニウムをドープした酸化亜鉛(AZO)、及び、フッ素をドープした酸化スズ(FTO)を用いることができる。これらの中で、ITOを用いるこが好ましい。
【0024】
金属微粒子の個数平均粒径は、
次に、本発明の複合型光学素子の製造方法について説明する。
【0025】
図2は、本発明の複合型光学素子の製造方法に用いる型を示す部分断面図である。
図2(a)から(c)は、型の光学有効外部の実施態様を示す。
【0026】
図2(a)に示す本発明の複合型光学素子の製造方法は、基板1と、型2の間に樹脂を介在させ前記樹脂を硬化する工程と、型を分離して、基板上に、光学有効部と前記光学有効部に隣接して設けられた光学有効外部を有する樹脂層を形成する工程と、を有する複合型光学素子を製造する方法であって、前記型2の光学有効外部5を形成する部分の形状は、外周方向に型厚が厚くなっていく連続的な形状22であり、前記樹脂を硬化する工程で、前記連続的な形状の両端部2a,2bを結ぶ直線と、基板方向に近い方の端部2aに対向する点2a´における基板表面の接線11との間の角度θが20度以上60度以下であることを特徴とする。
【0027】
図2(b)に示す本発明の複合型光学素子の製造方法は、基板1と、型2の間に樹脂を介在させ樹脂を硬化する工程と、型を分離して、基板上に、光学有効部と前記光学有効部に隣接して設けられた光学有効外部を有する樹脂層を形成する工程と、を有する複合型光学素子の製造方法であって、前記型2の光学有効外部を形成する部分の形状は、外周方向に型厚が厚くなっていく連続的な第1の形状24と、前記第1の形状に隣接して外周方向に型厚が薄くなっている第2の形状25とを少なくとも有し、前記樹脂を硬化する工程で、前記型厚が厚くなっていく連続的な第1の形状24の両端部24a,24bを結ぶ直線と、基板方向に近い方の端部24aに対向する点24a´における基板表面の基板の接線11との間の角度θが20度以上60度以下であることを特徴とする。
【0028】
図2(c)に示す本発明の複合型光学素子の製造方法は、型2の光学有効外部5の形状は、外周方向に型厚が厚くなっていく連続的な第1の形状24と、前記第1の部分に隣接して外周方向に型厚が薄くなっている第2の形状25とを1組として、2組以上10組以下を繰り返し有していることを特徴とする。
【0029】
前記型の光学有効外部5の基板に対向する外面の形状は、傾斜面または曲面であることが好ましい。また、基板の外周方向に型厚が薄くなっていく連続的な形状の両端部を結ぶ直線と、基板の接線との間の角度θが20度以上60度以下、好ましくは35度以上55度以下が望ましい。
【0030】
本発明の複合型光学素子の製造方法において、型の光学有効外部に設けたはみ出し部に樹脂が充填されていく際に、基板の円周方向に回り込むように樹脂が広がっていくため、はみ出し部での樹脂の充填性が向上する。
【0031】
図2(a)に示す様に、型の光学有効外部のはみ出し部形状が、型厚が厚くなる連続的な形状であると、基板の外周方向に向かう樹脂の流れに対し大きな反力が発生する。これにより、はみ出し部内の充填されていない箇所への円周方向に向かって流れが樹脂の広がりにおいて支配的となり、はみ出し部でも真円状に樹脂が充填されていく。これにより、加圧して樹脂を薄く均一にする必要がある複合型光学素子の製造においても、光学有効部内に未充填部が無く、かつ光学有効外部に樹脂が同心円状に充填された素子となる。これにより、カメラやビデオ等に搭載した際に、目視で素子を確認しても外観上問題とならない。
【0032】
図2(b)に示す本発明の複合型光学素子の製造方法によれば、型の光学有効外部のはみ出し部の型厚が薄くなっていく連続的な形状24の部分で、
図2(a)に示す形状と同様の効果が見られ、基板の円周方向への樹脂の回り込みが発生する。さらに、型厚が厚くなっていく連続的な形状24の直後に型厚を薄くする部分25を設けることで、厚くなっていく連続的な形状24から溢れた樹脂が、型厚が薄くなる部分25で再度円周方向への回り込みの流れを起こし、より光学有効外部での充填性が均一なものとなる。
【0033】
図2(c)に示す本発明の複合型光学素子の製造方法によれば、
図2(b)に示す形状の型厚が厚くなっていく連続的な形状24の直後に型厚が薄くなる形状25を複数回繰り返すことで、光学有効外部の充填性をさらに向上させることができる。これにより、レンズ径の大きい複合型光学素子の製造においても、光学有効外部の充填性を十分に向上することができる。また、形状の繰り返し数を2回以上10回以下とすることで、光学有効外部を不要に広げることなく、所望の充填性を実現することができる。
【0034】
本発明の複合型光学素子において、樹脂層の光学有効部は、前記基板上に略均一に形成されていることが好ましい。また、樹脂層の光学有効部の厚みのばらつきは、前記光学有効部の平均の厚みの10%未満であることが好ましい。この複合型光学素子では、膜厚を均一な状態で型上に充填する必要があり、加圧が必要となる工程においても、光学有効外部に設けた樹脂のはみ出し部で充填性を向上させることができる。
【0035】
以下に本発明の複合型光学素子の製造方法を実施するための最良の形態として、微粒子分散光硬化性樹脂を用いてレプリカ成形法で回折光学素子を成形する方法を例に説明する。
図4は、本発明の複合型光学素子の製造方法の一実施態様を示す工程図である。
図4は、本発明の回折光学素子のレプリカ成形を示している。1は基板であり、成形用のレンズ基板を示す。2は所望の形状の反転形状を有する型、3は微粒子分散光硬化性樹脂、4は光学有効部、5は光学有効外部で樹脂はみ出し部を示す。6は成形用のレンズ基板1を離型するためのイジェクタである。
【0036】
まず、成形用のレンズ基板1の成形面側に樹脂3を滴下し、型2上にレンズ基板1を載せる。若しくは、樹脂3を型2の成形面の中央付近に滴下する、またはレンズ基板1と型2の両方に滴下したのち、型2上に成形用レンズ基板1を載せてもよい(
図4(a))。次に、レンズ基板1を型2に近づけ、樹脂3を型2に充填させ、樹脂3を硬化する(
図4(b))。樹脂3は型2から離型できる硬化度まで反応が進んでいれば、完全硬化する必要はない。最後に、レンズ基板1をイジェクタ6により持ち上げることで、硬化した樹脂3とともに成形用レンズ基板1を型2から離型する(
図4(c))。
【0037】
ここで、使用する微粒子分散光硬化性樹脂3はフッ素系光硬化性樹脂とアクリル系光硬化性樹脂とにナノサイズのITO微粒子を分散させたものであり、10μm厚における波長587.6nmの内部透過率は約88%である。樹脂の内部透過率が低いため、撮像系の光学素子として使用するためには、樹脂の膜厚を薄く均一にすることが求められる。
【0038】
型上に樹脂を薄く均一に充填するためには、レンズ基板の上面に力を加えて、樹脂を加圧する必要がある。加圧しながら樹脂を充填すると、型の上面・レンズ基板面・加圧面の平行度により力の方向にバラツキが発生し、それらの平行度調整には限界があるため、樹脂の充填性に大きな偏りが生じる。
【0039】
このような状況において、型上の光学有効外部に樹脂のはみ出し部(光学有効外部)5を設け、樹脂を余剰に滴下して光学有効内を不足なく充填すると、
図5に示すように成形した回折光学素子の樹脂のはみ出し部では大きな充填の不均一性が生じる。
図5は、本発明との比較を行うための回折光学素子の一例を示す図である。そこで、
図2(a)のように型の光学有効外部のはみ出し部の形状を型厚が厚くなっていく連続的な形状とすることで、はみ出し部での樹脂の充填を均一化することができる。
【0040】
図6は、本発明の製造方法における光学有効外部への樹脂の充填状態を説明する説明図である。樹脂の充填が不均一な状態では、充填が速い部分の樹脂が先に光学有効外部5のはみ出し部に到達する。はみ出し部に到達した樹脂は、膜厚が薄くなっていく連続的な形状に流れ込んで行くが、この形状の特徴から流動抵抗が大きくなるため、外周方向Aへの樹脂の流動速度は遅くなる。また、この場合には、はみ出し部の外周方向Aへの流動抵抗に比べて、円周方向Bへの流動抵抗が低くなり、樹脂は基板の径方向Cに回り込むように流動する。この効果から、充填が速い部分がはみ出し部に到達した際には、その箇所から樹脂が径方向Cに回り込み、加圧による充填の不均一性を打ち消すように樹脂の流動が生じる。
【0041】
外周方向への樹脂の流動抵抗を大きくするためには、はみ出し部は膜厚が急激に薄くなる形状であることが必要となる。しかし、はみ出し部の膜厚変化が急激であり過ぎると、径方向に樹脂が回り込む作用が小さくなるというトレードオフが発生する。
【0042】
簡易的に定常状態を想定し、樹脂の外周方向への流動速度と、回り込みの流動速度の関係から連続形状の膜厚変化と充填性の関係を計算した。型のはみ出し部5の型厚が厚くなっていく連続的な形状の端点を結んだ直線と,レンズ基板の接線との成す角θを変化させ、その際に光学有効外部でも真円に充填可能であるレンズ径を計算により求めた。光学有効外部の膜厚が20μmである場合に、はみ出し部の型厚が厚くなっていく連続形状の角度θと、充填が可能となるレンズ径の関係を下記の表1に示す。
【0044】
表の結果から、連続形状の角度が小さいと、外周方向への樹脂の流動抵抗が十分に小さくならず、充填できるレンズ直径が小さいことが分かる。また、連続形状の角度が大きすぎると、外周方向への樹脂の流動抵抗は小さくなる一方で回りこみの作用が小さくなり、充填できるレンズ直径が小さい。直径10mm以上のレンズのはみ出し部を同心円状に充填するには、連続形状の角度θは20度以上60度以下であることが好ましい。
【0045】
さらに、
図2(b)のように光学有効外部5のはみ出し部を、型厚が厚くなる連続的な形状の直後に型厚が薄くなる部分がある形状とすることで、径方向の回り込み効果を高めることができる。これは、型厚が厚くなる連続的な形状を樹脂が流動し終え乗り越えた樹脂が、型厚が薄くなる部分であらゆる方向に流れ込むこととなり、径方向への回り込み作用が大きくなるためである。
【0046】
また、
図2(c)のように、
図2(b)の形状を繰り返し設けることで、充填の不均一性が非常に大きい場合や、レンズ径の大きい場合にも対応することができる。
【0047】
図7は、本発明の製造方法における樹脂の充填工程を示す模式図であり、樹脂の充填性が改善していく様子を示している。1は基板を示し、成形用のレンズ基板である。2は所望の形状の反転形状を有する型である。3は微粒子分散光硬化性樹脂である。4は光学有効部を示し、5は光学有効外部で樹脂はみ出し部である。以下に、樹脂の充填性が改善する過程について図を用いて説明する。
【0048】
まず、
図7(a)のように樹脂3を薄く均一にするための加圧により、樹脂の充填性が悪化し、充填が早い箇所ではみ出し部5に樹脂が到達する。はみ出し部に到達した樹脂は、型厚が厚くなる連続形状により外周方向Aへの流動抵抗が大きくなるため、外周方向への充填が妨げられ、樹脂は円周方向Bに回りこみ充填性が改善していく(
図7(b))。その後、型厚が厚くなる連続形状を樹脂が乗り越えると、型厚が薄くなる部分に樹脂が流れ込み、全ての方向へ樹脂が延び再び充填性は改善する(
図7(c))。この効果を数回繰り返すことで、レンズ径が大きい場合でもはみ出し部での樹脂の充填性を十分に改善することができる(
図7(d))。
【0049】
図7の形状では、型厚が連続的に厚くなる形状と、その後型厚が薄くなる形状を10回繰り返すことで、最大Φ220mmのレンズではみ出し部の充填性を改善することができ、十分な効果が得られる。10回以上の形状の繰り返しは、光学有効外部の長さを不要に広くしレンズ径を大きくしてしまうため、繰り返し形状は2回以上10回以下が好ましい。
【実施例】
【0050】
(実施例1)
本実施例において製造される回折光学素子を、
図4を参照して説明する。
【0051】
回折格子成形用レンズ基板1は、Φ20mmの平面レンズである。樹脂3はITO微粒子を分散したフッ素樹脂であり、光硬化性を有しており、フッ素樹脂中にナノサイズのITO微粒子を20vol%で均一に分散させているので、濃青色の外観である。成形する回折光学素子の格子形状は、格子高さ9から11μm、格子幅0.1から10mmのブレーズ型回折格子であり、同心円状に形成され、光学有効径はΦ18mmである。型2は、その成形面の光学有効部4に所望の回折格子の反転形状と、光学有効外部5にレンズ基板との成す角度θが40度の斜面形状である樹脂はみ出し部5を有している。型2の成形面は、金属母材上にメッキ層として形成されたNiP上への切削によって形成されているが、マスター型からの成形により得られたものでもよいし、母材もしくは母材上に形成されたメッキ層への研磨法等によって形成されたものでもよい。
【0052】
本実施例の回折光学素子の成形方法を順に説明する。
【0053】
まず、成形用レンズ基板1の成形面に、樹脂3であるITO微粒子を分散したフッ素樹脂との密着を強くするためのシランカップリング処理を施す。次に、成形用レンズ基板1のシランカップリング処理面の中央付近に、樹脂3を適量滴下する。
【0054】
型2上に成形用レンズ基板1を載せ、50kgfで押圧することで、成形用レンズ基板1を型2に接近させ樹脂3を型2上に薄く均一に充填する。樹脂3であるITO微粒子を分散したフッ素樹脂は濃青色の外観を有するため、格子部分を除く厚さを2μmまで薄く均一に引き延ばして透明性を高める必要がある。
【0055】
成形用レンズ基板1を押圧すると、レンズ基板面と型面、加圧面の3面における平行度の違いにより、円周方向の充填性に大きな不均一性が発生する。樹脂はみ出し部5が斜面形状を形成していない場合には、加圧による充填の不均一性が改善されないため、樹脂はみ出し部5内での周方向の充填ばらつきは大きい。それに対し、本実施例のような型厚が厚くなっていく斜面形状を用いた場合には、周方向に樹脂の回り込み作用が生じ、はみ出し部5での充填性が大きく改善した。
【0056】
下記の表2に、はみ出し部に斜面形状を有さない場合と、本実施例のはみ出し部での充填性の違いを示す。表2における角度方向0°から315°は、ある位置を0°とした場合に、レンズの外周に沿って周方向に角度を回転させた位置を表す。斜面形状を有さない場合には、光学有効部内(半径9.0mm)では全方向で樹脂が充填されているが、はみ出し部(半径9.0から9.5mm)では樹脂が充填されている場所とされていない場所が存在する。本実施例では、型のはみ出し部の型厚が厚くなっていく形状の効果により、はみ出し部での充填性が大きく改善していることが分かる。
【0057】
【表2】
【0058】
次に、型上に充填した樹脂3に対して、不図示の紫外線照射ランプによる紫外光を照射して、樹脂3を光硬化させ、イジェクタ6を型2に対して上昇させることで、硬化した樹脂3を成形用レンズ基板1とともに離型する。
【0059】
このように、本実施例によれば、光学有効内を不足なく充填するために設けた樹脂はみ出し部においても、ほぼ同心円状に樹脂が充填された回折光学素子を製造することができる。これにより、回折光学素子を搭載するカメラやビデオ等の光学機器から素子を目視で確認した場合にも、外観上問題ない素子となり、製品に搭載することができる。
【0060】
(実施例2)
図8は、本実施例の複合型光学素子の製造方法を示す工程図である。本実施例において製造される回折光学素子を、
図8を参照して説明する。
【0061】
本実施例の回折光学素子は、成形用レンズ基板1とZrO
2(酸化ジルコニア)微粒子を分散したエポキシ樹脂3と、ITO微粒子を分散したアクリル樹脂7と接合用レンズ基板8から構成される。成形用レンズ基板1は、Φ60mmの凹レンズの形状である。ZrO
2微粒子を分散したエポキシ樹脂3は、光硬化性を有しており、エポキシ樹脂中にナノサイズのZrO
2微粒子を20vol%で均一に分散させており、無色透明の外観である。ITO微粒子を分散したアクリル樹脂7は、同様に光硬化性を有しており、アクリル樹脂中にナノサイズのITO微粒子を16vol%で均一に分散させているので、青色の外観である。接合用レンズ基板8は、Φ55mmの凸レンズの形状である。ZrO
2微粒子を分散したエポキシ樹脂3とITO微粒子を分散したアクリル樹脂7の間の回折格子は、格子高さ10から12μm、格子幅0.1から2mmのブレーズ型回折格子であり、同心円状に形成されており、光学有効部はΦ51mmである。
【0062】
本実施例の回折光学素子の成形に用いる型を、
図8(a)を参照して説明する。型2は、その成形面に所望の回折格子の反転形状を有し、中心への凹形状で同心円状に形成されている。また、型2の光学有効外部には、型厚が厚くなっていく斜面形状があり、斜面形状と基板面との成す角度θが50度であり、その後型厚が薄くなる形状の繰り返しが8回成された形状を有している。型2の成形面は、金属母材上にメッキ層として形成されたオプトカッパー(製品名、共和産業社製)上への切削によって形成されている。
【0063】
本実施例の回折光学素子の製造方法を、順次説明する。
【0064】
先ず、成形用レンズ基板1の片面に、ZrO
2微粒子を分散したエポキシ樹脂3との密着を強くするためのシランカップリング処理を施す。成形用レンズ基板1のシランカップリング処理面の中央付近にディスペンサーにて、ZrO
2微粒子を分散したエポキシ樹脂3を適量滴下する。
【0065】
次に、成形用レンズ基板1を型2上に載せ、ZrO
2微粒子を分散したエポキシ樹脂3を型2上に充填する(
図8(b))。充填したZrO
2微粒子を分散したエポキシ樹脂3に対して、紫外線照射ランプによる紫外光を照射して、ZrO
2微粒子を分散したエポキシ樹脂3を硬化させる。さらに、硬化したエポキシ樹脂3と成形用レンズ基板1をイジェクタ6により離型し、成形品を得る。これにより得られた成形品は、
図8(c)のように光学有効部4に所望の回折面を有し、光学有効外部に接合時の樹脂はみ出し部5を有した形状となっている。
【0066】
続いて、接合用レンズ基板8の片面に、ITO微粒子を分散したアクリル樹脂7との密着を強くするためのシランカップリング処理を施す。接合用レンズ基板8のシランカップリング処理面の中央付近にディスペンサーにて、ITO微粒子を分散したアクリル樹脂7を適量滴下する。若しくはITO微粒子を分散したアクリル樹脂7を、成形用レンズ基板1の上に成形したZrO
2微粒子を分散したエポキシ樹脂3から成る回折格子面の中央付近に滴下しても良い。
【0067】
次に、ZrO
2微粒子を分散したエポキシ樹脂3上に載せた接合用レンズ基板8を300kgfで押圧して、ITO微粒子を分散したアクリル樹脂7を接合用レンズ基板8上に充填する(
図8(d))。接合用レンズ基板8を300kgfで押圧することで、ITO微粒子を分散したアクリル樹脂7は薄く均一に引き延ばされる。ITO微粒子を分散したアクリル樹脂7は青色の外観を有するため、厚さを2μmまで引き延ばして透明性を高める必要がある。
【0068】
接合用レンズ基板8を押圧すると、接合用レンズ基板面と成形用レンズ基板面、加圧面の3面における平行度の差により、円周方向の充填に不均一性が発生する。また、特に用いるレンズの曲率が小さい場合には、充填の不均一性はレンズ同士の位置ズレによっても発生するため、非常に大きくなる。
【0069】
光学有効外部に成形によって得られる樹脂はみ出し部が斜面形状等を有していない場合には、加圧による充填の不均一性が改善されないため、樹脂はみ出し部での周方向の充填ばらつきは大きい。それに対し、本実施例のような斜面形状を繰り返したはみ出し部5を有している場合には、周方向の樹脂の回り込み作用が生じ、はみ出し部5での充填性が大きく改善した。
【0070】
本実施例と、はみ出し部に斜面と型厚が厚くなる繰り返し形状を有さない場合とでのITO微粒子を分散したアクリル樹脂7の充填性の比較を行った。アクリル樹脂7が充填された部分の中心からの距離を8方向で測定し、比較した結果を下記の表3に示す。
【0071】
【表3】
【0072】
繰り返し形状を有さない場合には、光学有効内(半径25.5mm)では全域で樹脂が充填されているが、はみ出し部(半径25.5から27.0mm)では樹脂が充填されている場所とされていない場所が存在する。また、ある方向ではレンズから樹脂が溢れだしてしまう。それに対し、本実施例では、はみ出し部の形状の効果により、周方向での回り込みの作用が生じ、充填性が大きく改善していることが分かる。
【0073】
最後に、充填したITO微粒子を分散したアクリル樹脂7に対して、不図示の紫外線照射ランプによる紫外光を照射して硬化させる。
【0074】
このように、本実施例によれば、レンズ同士の接合を行う際に、加圧を行いながら薄く均一に樹脂を充填する必要がある場合にも、はみ出し部において同心円状に樹脂が充填された回折光学素子を製造することができる。これにより、回折光学素子を搭載するカメラやビデオ等の光学機器から素子を目視で確認した場合にも、外観上問題ない素子となり、製品に搭載することができる。