特許第6238576号(P6238576)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6238576
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】撮像装置
(51)【国際特許分類】
   H04N 5/361 20110101AFI20171120BHJP
   H04N 5/232 20060101ALI20171120BHJP
   H04N 5/18 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   H04N5/361
   H04N5/232 290
   H04N5/18 050
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-114509(P2013-114509)
(22)【出願日】2013年5月30日
(65)【公開番号】特開2014-236236(P2014-236236A)
(43)【公開日】2014年12月15日
【審査請求日】2016年5月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100124442
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 創吾
(72)【発明者】
【氏名】井▲高▼ 裕次郎
【審査官】 鈴木 明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−012408(JP,A)
【文献】 特開2009−077184(JP,A)
【文献】 特開平11−205667(JP,A)
【文献】 特開2006−121165(JP,A)
【文献】 特開2012−134666(JP,A)
【文献】 特開2008−054132(JP,A)
【文献】 特開2013−030832(JP,A)
【文献】 特開2013−017040(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 5/30−5/378
H04N 5/222−5/257
H04N 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効画素領域と光学的黒領域とを有し、電気信号を出力する撮像素子と、
前記光学的黒領域の出力信号に所定のフィルタ処理を行うことでクランプ信号を生成するフィルタ処理手段と、
前記クランプ信号に基づいて前記有効画素領域の出力信号をクランプするクランプ手段と、
前記光学的黒領域の出力信号のなかで予め設定される閾値を超えるレベルの信号が前記フィルタ処理手段に入力されないように制御する制御手段と、
撮影条件に応じて、前記閾値と前記フィルタ処理の時定数を設定する設定手段と、
を有することを特徴とする撮像装置。
【請求項2】
さらに、前記撮像素子から出力される電気信号を増幅する増幅手段を有し、前記設定手段は、前記増幅手段に設定される増幅率に応じて、前記閾値と前記フィルタ処理の時定数を設定することを特徴とする請求項1に記載の撮像装置。
【請求項3】
前記設定手段は、前記増幅手段に設定される増幅率が大きい値に変化した場合に、前記閾値と前記フィルタ処理手段の時定数をそれぞれ小さくすることを特徴とする請求項2に記載の撮像装置。
【請求項4】
前記設定手段は、前記増幅手段に設定される増幅率が小さい値に変化した場合に、前記閾値と前記フィルタ処理手段の時定数をそれぞれ大きくすることを特徴とする請求項3に記載の撮像装置。
【請求項5】
前記設定手段は、前記撮像素子の露光時間に応じて、前記閾値と前記フィルタ処理の時定数を設定することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項6】
前記設定手段は、前記撮像素子の露光時間が変化した場合に、前記閾値と前記フィルタ処理手段の時定数をそれぞれ小さくすることを特徴とする請求項5に記載の撮像装置。
【請求項7】
前記設定手段は、前記撮像素子の露光時間の変化率が所定量よりも大きく変化した場合に、前記閾値と前記フィルタ処理手段の時定数をそれぞれ小さくすることを特徴とする請求項6に記載の撮像装置。
【請求項8】
前記設定手段は、前記撮像素子の露光時間が短く変化した場合に、前記閾値と前記フィルタ処理手段の時定数をそれぞれ大きくすることを特徴とする請求項7に記載の撮像装置。
【請求項9】
前記設定手段は、撮影条件および撮影環境に応じて、前記閾値と前記フィルタ処理の時定数を設定することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項10】
前記撮影環境は、前記撮像素子の温度を含むことを特徴とする請求項9に記載の撮像装置。
【請求項11】
前記設定手段は、前記撮像素子の温度に比例して、前記閾値と前記フィルタ処理の時定数を設定することを特徴とする請求項10に記載の撮像装置。
【請求項12】
有効画素領域と光学的黒領域とを有し、電気信号を出力する撮像素子を有する撮像装置の制御方法であって、
前記光学的黒領域の出力信号に所定のフィルタ処理を行うことでクランプ信号を生成するフィルタ処理ステップと、
前記クランプ信号に基づいて前記有効画素領域の出力信号をクランプするクランプステップと、
前記光学的黒領域の出力信号のなかで予め設定される閾値を超えるレベルの信号が前記フィルタ処理ステップてフィルタ処理されないように制御する制御ステップと、
撮影条件に応じて、前記閾値と前記フィルタ処理の時定数を設定する設定ステップと、を有することを特徴とする撮像装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の撮像装置では、撮影レンズにより結像した光学像を撮像素子により電気信号に変換して出力する。そして、撮像素子から得られた撮像信号はAD変換した後、クランプ処理などの信号処理を施す。AD変換後の撮像信号は、その黒レベル(ペデスタルレベル)を補正するために、撮像素子に構成されている光学的黒領域(一般には金属で遮光されたフォトダイオードで構成されている、以下OB領域)の出力信号との差分がとられる。このような撮像信号のオプティカルブラッククランプ処理(以下、OBクランプ処理)により、暗電流ノイズなどに起因して撮像信号の黒レベルが変動した場合でも、黒レベルが安定した撮像信号を得ることができる。
【0003】
図7(b)は、撮像素子の構成とクランプ信号を示す図である。フォトトランジスタで構成された撮像素子301は、電気的に保証されない無効領域302、光学的黒領域(OB領域)303、レンズにより結像した光学像を撮像信号に変換して出力する有効画素領域304で構成されている。また、図8は、一般的なOBクランプ回路を示す図である。クランプ回路501にAD変換された撮像信号が入力される。フィルタ部502には、撮像信号のうちOB領域の出力信号(OB信号)が選択的に入力され、ノイズを除去するフィルタ処理が施される。減算器503において、撮像信号と、フィルタ部502でOB信号に対するフィルタ処理が施された後の基準信号(クランプ信号)と差分が取られ、OBクランプ処理が行われる。図7(b)のOB領域303から出力されるOB信号は、図8に示したクランプ回路501のフィルタ部502に入力され、高周波成分が除去される。
【0004】
図7(a)は、アンプ増幅率の増加などにより、あるフレームから急激に暗電流が増加し、信号レベルの大きいOB信号がフィルタ回路502に入力された場合のフィルタ出力特性を表している。フィルタ回路502から出力されるクランプ信号305は、フィルタ回路502のもつ時定数に応じた時間で収束する。ここでは、矢印306で示すタイミングで収束することを示している。アンプ増幅率の低下などにより、あるフレームから急激に暗電流が減少した場合には、クランプ後の黒レベルは一旦マイナスに振れ、その後フィルタの収束時間に応じてゼロに収束する。
【0005】
このように、クランプ回路501のフィルタ部502は、ある時定数をもつフィルタで構成されており、フィルタ部502に入力されるOB信号が変動した場合に、目標レベルのクランプ信号を出力するまでには同フィルタの持つ時定数特性に応じた時間を要する。そこで、撮影モードの切り替え等によりOBレベルが急速に変動した場合に、変動したOBレベルに応じて撮像信号へのクランプ信号を切り替える技術が公開されている(特許文献1)。すなわち、OBレベルの急激な変化にクランプ処理を高速に追従させるために、各撮影モードで想定されるクランプ信号レベルをメモリテーブル等にあらかじめ保持しておく。そして、撮影モードが切り替わった際に適応するクランプ信号レベルで持って撮像信号をクランプするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−77184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された技術は、あらかじめ想定されるクランプ信号レベルを採用するため、露光時間や温度などの撮影条件によっては、想定外のOBレベルが出力される場合がある。また、同技術では、撮像素子毎に異なるダークシェーディング特性などに追従することができず、適切なOBクランプ処理を行うことができない。さらに、複数のクランプ信号レベルを保持するためのメモリテーブルを備えた回路構成が必要である。
【0008】
前述の通り、図7の矢印306で示す位置は、黒レベルがクランプ処理により収束した位置を示している。すなわち、黒レベルの収束に所定の時間を要し、撮像素子301の有効領域304における上部に位置するラインの一部の黒レベルの収束が間に合わなかったことを示している。そのため、図9で示すように、被写体の撮影画像上部が適切なクランプレベルでクランプできないために、ムラができてしまう。
【0009】
本発明の目的は、撮像素子から出力される撮像信号の黒レベルが急速に変動する状況であっても、適切なクランプレベルで撮像信号をクランプすることの可能な撮像装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の撮像装置は、有効画素領域と光学的黒領域とを有し、電気信号を出力する撮像素子と、前記光学的黒領域の出力信号に所定のフィルタ処理を行うことでクランプ信号を生成するフィルタ処理手段と、前記クランプ信号に基づいて前記有効画素領域の出力信号をクランプするクランプ手段と、前記光学的黒領域の出力信号のなかで予め設定される閾値を超えるレベルの信号が前記フィルタ処理手段に入力されないように制御する制御手段と、撮影条件に応じて、前記閾値と前記フィルタ処理の時定数を設定する設定手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、撮影条件が大幅に変化した場合でも、適切なクランプ処理を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1の撮像装置の構成を示すブロック図である。
図2】実施例1のクランプ処理回路の概略構成図である。
図3】実施例1のキズ処理部のブロック図である。
図4】実施例1のクランプ処理を示すフローチャートである。
図5】キズ補正閾値とクランプ回路に入力される信号を説明する図である。
図6】実施例2のクランプ処理を示すフローチャートである。
図7】撮像素子の構成例とクランプ信号を示す図である。
図8】クランプ回路の概略構成例を示す図である。
図9】クランプ処理が適切でない撮影画像の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を、添付の図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
(実施例1)
図1は、本発明の実施例1に係る撮像装置の概略構成ブロック図である。図1において、光学レンズ201は、被写体の光学像を撮像素子203上に結像する。レンズ駆動部211は、DCモーターなどで構成され、光学レンズ201を駆動する。絞り機構202は、レンズを透過して撮像素子203に入射する光量を調整し、絞り駆動部210により駆動制御される。CMOSセンサやCCDセンサなどの撮像素子203は、光学レンズにより結像される被写体像を電気信号に変換して出力する。本実施例において、撮像素子203のフォトトランジスタ上には、ベイヤ配列の4色(R、Gr、Gb、B)の色フィルタが配置されている。撮像素子203の構成は、図7(b)で示したものと同様であるため、説明を省略する。
【0015】
増幅器204は、撮像素子203から出力された電気信号を増幅する。AD変換部205は、増幅器204により増幅された信号をアナログからデジタルに変換する。クランプ処理部206は、AD変換処理後の撮像信号の黒レベル(ペデスタルレベル)を目標レベルに合わせるために、光学的黒領域(OB領域)の出力信号と有効画素領域から出力される撮像信号との差分をとるOBクランプ処理を行う。OBクランプ処理により、暗電流ノイズなどに起因して撮像信号の黒レベルが変動した場合でも、黒レベルの安定した撮像信号を得ることができる。
【0016】
映像信号処理部207は、現像処理、ホワイトバランス処理、ノイズリダクション処理などの信号処理を施すことにより所定の映像信号を生成する。映像信号出力部208は、映像信号処理部207からの出力をビデオ信号など所定形式の映像信号に変換して外部へ出力する。演算制御部209は、マイコンなどの中央演算処理装置であり、映像信号処理部207からの映像信号から輝度評価値を演算により算出し、適切な露出レベルとなるように、レンズ駆動部210、絞り駆動部210に駆動信号を送信する。
【0017】
さらに演算制御部209は、撮像素子210に所定の露光時間になるよう制御信号を送信し、増幅器204に所定の増幅率を採用するよう制御信号を送信する。また、クランプ処理部206に対し、内部のフィルタ回路の時定数を所定の値に設定するための制御信号や、撮像素子203におけるOB領域の位置情報を送信する。演算制御部209は、映像信号処理部209から映像信号を受け取り、映像のフレーム間で差分を取ることで動きのある物体を検出したり、顔を追尾したりする演算を行い、映像信号に情報を重畳させる処理を行う。
【0018】
タイミングジェネレータ(TG)212は、撮像装置の各部を駆動する基準クロックを生成するモジュールであり、映像の垂直同期信号、水平同期信号、画素単位の駆動信号(ピクセルクロック)を生成し、各モジュールに供給する。クランプ処理部206では、TG212からのタイミング信号と演算処理部209からの情報に応じて、撮像素子のOB領域の出力信号に基づくOBクランプ処理を行う。温度センサ213は、撮像素子203の近辺に配置されたサーミスタであり、撮像素子の温度を計測する。
【0019】
図2は、図1のクランプ処理部206の詳細図である。クランプ処理部206には、AD変換された撮像信号が読み出しラインごとに画素単位で入力される。ここで、AD変換されたOB領域303の出力信号がフィルタ回路102に入力される前に、キズ処理部101に入力される。キズ処理部101では、OB領域に存在するキズ画素(欠陥画素)を検出し、該当画素の出力信号がフィルタ回路102に入力されないようにする。そして、フィルタ部102には、撮像素子203のOB領域のキズ画素以外の画素の出力信号が入力され、ノイズを除去するフィルタ処理が施される。フィルタ部102でフィルタ処理が施されたOB領域の信号が基準信号(クランプ信号)として減算器103に入力され、減算器103において撮像信号との差分が取られることで、クランプ信号に基づくOBクランプ処理が行われる。
【0020】
キズ処理部101は、演算制御部209内のキズ処理制御部105から指定されたキズ識別のための閾値ThとOB領域303の出力信号Sとを画素毎に比較する。そして、以下の式(1)が成立する場合には、OB領域に存在する画素欠陥などによるキズ(欠陥)画素の出力信号であると判定し、OB領域303の該当画素からの出力信号Sがフィルタ回路102に入力しないように制御する。
Th<S ・・・(1)
【0021】
キズ処理部101は、演算処理部104の内部に位置するキズ処理制御部105からの制御信号に応じたパラメータで動作し、TG212からの駆動タイミングにより同期がとられる。なお、キズ処理制御部105は演算制御部104の内部に位置しているが、演算制御部104とは独立した構成であっても構わない。また、図2には省略したが、クランプ処理部206内部の駆動タイミングは、図1のTG212から供給されるピクセルクロック、垂直同期信号、水平同期信号に同期している。
【0022】
フィルタ部102は、1次のIIR型のLPFの構成をしている。IIRフィルタの時定数をM、フィルタの入力をXn、出力をYnとした場合、以下の式(2)でフィルタ特性は表わされる。
Yn=(1/M)*{M*Xn+(1−M)*Yn−1} ・・・(2)
【0023】
ここで、OB領域303に画素欠陥などによるキズ画素が存在し、その出力信号をフィルタ回路102に入力した場合、式(2)で得られるフィルタ出力Ynは本来のクランプレベルからずれた値となる。時定数Mを大きくすれば、キズ画素の出力信号によるフィルタ出力への影響は小さくなるが、入力Xnに対する出力応答特性が遅くなる。入力Xnに対する出力応答特性を早くするためには、逆に時定数Mを小さくすることでOBレベルの変動に追従しやすくなるが、キズ画素の影響を受けてフィルタ出力Ynが大きく変動し、ライン方向にスジが発生するなどの現象が発生する可能性がある。そこで、キズ処理部101によりキズ画素の出力信号であると判定された場合には、その信号がフィルタ回路102に入力しないように制御することで、適切なクランプレベルでクランプすることができる。
【0024】
図3は、図2のキズ処理部101の詳細を示す図である。キズ判定部902には、OB領域303の出力信号Sが入力される。キズ判定部902は、OB領域の出力信号Sと、キズ閾値保存部901内に保存された閾値Thとを画素毎に比較する。そして、式(1)を満たす場合、スイッチ903を開放にすることで、その画素の出力信号が後段のフィルタ回路102に入力しないように制御する。また、式(1)を満たさない場合は、該当するOB領域の出力信号Sが正常画素の出力であると判定し、スイッチ903を閉じることで、その画素の出力信号が後段のフィルタ回路102に入力するように制御する。
【0025】
図4は、撮影条件の一例として、増幅器204に設定される増幅率が変更された場合のクランプ処理を示すフローチャートである。まず、現フレームまでの画像信号のレベルに基づいて、次フレームの増幅器204の増幅率を確認する(S701)。次フレームで現フレームと比べて増幅器204の増幅率の設定が変更されたか否かを判定する(S702)。次フレームの増幅器204の増幅率の設定が現フレームと変わらないと判定された場合、フィルタ処理の時定数(フィルタ時定数)をMnormalに設定し(S703)、キズ識別のための閾値をThnormalに設定する(S704)。次フレームで現フレームよりも大きい増幅率が増幅器204に設定されると判定された場合、フィルタ時定数をMfastに設定し(S705)、キズ識別のための閾値をThfastに設定する(S706)。なお、フィルタ時定数Mfastと閾値Thfastは、通常時に設定するフィルタ時定数Mnormalと閾値Thnormalに対して、以下の関係をもっている。
Mnormal>Mfast ・・・(3)
Thnormal>Thfast ・・・(4)
【0026】
すなわち、黒レベルの変化に高速に対応させるため、式(3)のように通常時より小さいフィルタ時定数を設定する。さらに、キズ識別のための閾値を通常よりも下げることで、通常のゲイン設定で増幅されてもそれほど目立たないレベルのキズ画素がOB領域にある場合でも、キズ判定部902において確実にキズ画素として判定することができる。そして、その画素の出力信号がフィルタ回路102に入力されないように制御されるため、フィルタ回路102の出力Ynが大きく変動し、ライン方向にスジが発生するなどの現象が発生しない。以上の処理により、増幅器の増幅率が大幅に変化した場合でも、黒レベルの収束が遅れることなく、適切なクランプ処理を実施することができる。
【0027】
ここで、図5は、キズ識別のための閾値ThとOB領域303の出力信号のヒストグラムとの関係を示す図である。グラフ601は、通常の閾値Thnormalを用いた場合のOB領域303の出力信号のヒストグラムである。通常時のクランプレベル604に対して一定の広がりをもった分布を示している。一方、グラフ602は、キズ識別のための閾値Thを通常よりも低いThfastに設定した場合のOB領域303の出力信号のヒストグラムを示している。閾値Thが通常よりも低いレベルである場合、式(1)の条件を満たす画素が増えることになる。そして、クランプレベル603が通常の閾値Thを用いた場合のクランプレベル604よりも低くなる。そのため、クランプ処理後の黒レベルが本来より高くなり、画面全体の黒レベルが持ち上がった画像になる。
【0028】
そこで、本実施例では、キズ識別のための閾値Thを低く設定するだけでなく、さらに、黒レベルの変化に高速に対応させるために、フィルタ時定数Mを通常時より小さいMfastに設定する。このようにフィルタ時定数を小さくすることにより、増幅器の増幅率が変更された後の画像信号のレベル変動は、増幅率変更後の1フレーム内で収束する。そして、キズ識別のための閾値を下げることにより黒レベルが持ち上がる現象が生じた場合でも、収束が遅れることなく、適切なクランプ処理を実施することができる。なお、増幅器204の増幅率が小さくなった場合には、キズ識別のための閾値Thを通常よりも大きくなるようにするとともに、フィルタ時定数Mを通常よりも大きくなるように設定してもよい。
【0029】
(実施例2)
上述した実施例1では、画像の黒レベルが大幅に変化する撮影条件の変更がなされた例として、増幅器に設定される増幅率が変更された場合のクランプ処理について説明した。本実施例2では、撮影条件として、露光時間が変更された場合のクランプ処理について説明する。
【0030】
図6は、露光時間が変更された場合のクランプ処理を示すフローチャートである。まず、あるフレームの露光時間がT1であり、そのフレームからFフレーム後に設定された露光時間がT2に変化した場合に、露光時間の変化率を式(5)から求める(S801)。
変化率=(│T1−T2│)/F ・・・(5)
【0031】
次に、式(5)で求めた変化率が式(6)を満たすかどうかを判定し(S802)、式(6)を満たさないと判定された場合、フィルタ時定数をMnormalに設定し(S803)、キズ識別のための閾値をThnormalに設定する(S804)。
変化率>X ・・・(6)
【0032】
また、露光時間の変化率が式(6)を満たすと判定された場合、フィルタ時定数をMfastに設定し、キズ識別のための閾値をThfastに設定する。なお、フィルタ時定数Mfastと閾値Thfastは、通常時に設定するフィルタ時定数Mnormalと閾値Thnormalに対して実施例1で説明した式(3)と(4)と同様の関係をもっている。露光時間の変化率Xの値は、システムごとに最適な値に設定される。
【0033】
以上の処理により、所定の時間内に露光時間が大幅に変化した場合でも、収束が遅れることなく、適切なクランプ処理を実施することができる。すなわち、黒レベルの変化に高速に対応させるため、式(3)のように通常時より小さいフィルタ時定数を設定する。さらに、露光時間が長くなった場合を想定し、キズ識別のための閾値を通常よりも下げることで、通常の露光時間ではそれほど目立たないレベルのキズ画素がOB領域にある場合でも、キズ判定部902において確実にキズ画素として判定することができる。そして、その画素の出力信号がフィルタ回路102に入力しないように制御されるため、フィルタ回路102の出力Ynが大きく変動し、ライン方向にスジが発生するなどの現象が発生しない。
【0034】
本実施例においても、キズ識別のための閾値Thを低く設定するだけでなく、さらに、黒レベルの変化に高速に対応させるために、フィルタ時定数Mを通常時より小さいMfastに設定する。このようにフィルタ時定数を小さくすることにより、露光時間が変更された後の画像信号のレベル変動は、露光時間変更後の1フレーム内で収束する。そして、図5に示したようにキズ識別のための閾値を下げることにより黒レベルが持ち上がる現象が生じた場合でも、収束が遅れることなく、適切なクランプ処理を実施することができる。
【0035】
なお、露光時間が短くなった場合には、キズ識別のための閾値Thを通常よりも大きくなるようにするとともに、フィルタ時定数Mを通常よりも大きくなるように設定してもよい。また、実施例1で説明した増幅器に設定される増幅率に応じたキズ識別のための閾値Thとフィルタ時定数Mの設定と、本実施例2で説明した露光時間に応じた制御を組み合わせて閾値Thとフィルタ時定数Mを設定するように制御してもかまわない。
【0036】
(実施例3)
実施例3では、撮影環境の一例として、撮像素子の温度が変化した場合のクランプ処理について説明する。温度センサ213で計測される撮像素子203の温度Tが上がると、暗電流ノイズ等が増加するため、OB部303の出力信号のレベルSの平均値が高くなる。そのため、式(1)の条件を満たす画素が多くなり、正常にクランプすることができない場合がある。ここでは、実施例1と2で説明したようにアンプの増幅率や露光時間の変化率に応じて設定されるキズ識別のための閾値Thnormalと閾値Thfastを、撮像素子の温度Tに応じて、以下の式(8)及び(9)に示すような温度Tとの相関関係で変化させる。
T∝Thnormal ・・・(8)
T∝Thfast ・・・(9)
【0037】
実施例1と2で説明したアンプの増幅率や露光時間の変化率に応じてキズ識別のための閾値Thnormalと閾値Thfastを設定する制御に加えて、式(8)、式(9)に示す相関関係になるように制御する。すなわち、キズ識別のための閾値Thnormalと閾値Thfastが温度センサ213で測定される撮像素子の温度Tに比例するように制御し、温度Tが高くなるにつれて、閾値Thnormalと閾値Thfastの値を増加させる。このような制御により、撮像素子の温度が変化した場合にも、常に適切なクランプ処理を実施できる。
【0038】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【0039】
(その他の実施例)
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。
【符号の説明】
【0040】
101 キズ処理部
102 フィルタ部
103 減算部
105 キズ処理制御部
206 クランプ回路
209 演算制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9