特許第6238580号(P6238580)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6238580露光装置、露光方法、それらを用いたデバイスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6238580
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】露光装置、露光方法、それらを用いたデバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/20 20060101AFI20171120BHJP
【FI】
   G03F7/20 501
【請求項の数】13
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-121176(P2013-121176)
(22)【出願日】2013年6月7日
(65)【公開番号】特開2014-239162(P2014-239162A)
(43)【公開日】2014年12月18日
【審査請求日】2016年6月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(72)【発明者】
【氏名】牛久 健太郎
【審査官】 新井 重雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−096859(JP,A)
【文献】 特開2011−014745(JP,A)
【文献】 特開2010−166007(JP,A)
【文献】 特開2004−281854(JP,A)
【文献】 特開2005−136263(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原版に形成されているパターンに光を照射し、投影光学系を介して前記パターンの像を基板上に露光する露光装置であって、
前記基板を保持して移動可能である基板保持部と、
前記基板の一部が露光領域にある状態で、前記投影光学系と前記基板保持部との間の空間に気体を供給して前記空間の酸素濃度を変更する気体供給部と、
前記気体供給部が前記空間に前記気体を供給している間に前記酸素濃度によって過渡的に変化する前記パターンの結像性能を補正する補正部と、
を備えることを特徴とする露光装置。
【請求項2】
原版に形成されているパターンに光を照射し、投影光学系を介して前記パターンの像を基板上に露光する露光装置であって、
前記基板を保持して移動可能である基板保持部と、
前記基板の一部が露光領域にある状態で、前記投影光学系と前記基板保持部との間の空間に気体を供給して前記空間の酸素濃度を変更する気体供給部と、
前記空間における酸素濃度分布に応じて前記パターンの結像性能を補正する補正部と、
を備えることを特徴とする露光装置。
【請求項3】
前記結像性能は、縦横倍率、フォーカスおよび投影倍率の少なくとも1つであることを特徴とする請求項1又は2に記載の露光装置。
【請求項4】
前記気体供給部が気体を供給した後で、かつ、前記結像性能を補正した後に、前記基板の露光を実施することを特徴とする請求項1ないしのいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項5】
前記気体供給部が気体を供給する前に計測された、前記基板上に設定されているショットの歪みに関する情報を取得し、該情報を、前記結像性能の補正に反映させることを特徴とする請求項1に記載の露光装置。
【請求項6】
前記気体は、酸素濃度の異なる2種類の混合気体を含むことを特徴とする請求項1ないしのいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項7】
前記気体は、不活性ガスを含むことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項8】
前記空間を囲む囲いを備えることを特徴とする請求項1ないしのいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項9】
前記空間における前記気体の有無によって生じる前記パターンの結像性能の変化のデータを予め記憶する記憶部を有することを特徴とする請求項1ないしのいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項10】
前記補正部は、前記基板の複数のショットのそれぞれにおいて前記パターンの結像性能を補正することを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項11】
原版に形成されているパターンに光を照射し、投影光学系を介して前記パターンの像を基板上に露光する露光方法であって、
前記基板の一部が露光領域にある状態で、前記投影光学系と前記基板を保持して移動可能である基板保持部との間の空間に気体を供給して前記空間の酸素濃度を変更する工程と、
前記気体供給部が前記空間に前記気体を供給している間に前記酸素濃度によって過渡的に変化する前記パターンの結像性能を補正する工程と、
前記補正工程の後に前記基板を露光する工程と、
を含むことを特徴とする露光方法。
【請求項12】
原版に形成されているパターンに光を照射し、投影光学系を介して前記パターンの像を基板上に露光する露光方法であって、
前記基板の一部が露光領域にある状態で、前記投影光学系と前記基板を保持して移動可能である基板保持部との間の空間に気体を供給して前記空間の酸素濃度を変更する工程と、
前記空間における酸素濃度分布に応じて前記パターンの結像性能を補正する工程と、
前記補正工程の後に前記基板を露光する工程と、
を含むことを特徴とする露光方法。
【請求項13】
請求項1ないし10のいずれか1項に記載の露光装置、または請求項11又は12に記載の露光方法を用いて基板を露光する工程と、
その露光した基板を現像する工程と、
を含むことを特徴とするデバイス製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、露光装置、露光方法、およびそれらを用いたデバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
露光装置は、カラーフィルターや液晶表示デバイスなどの製造工程に含まれるリソグラフィー工程において、原版(レチクルなど)のパターンを投影光学系を介して感光性の基板(表面にレジスト層が形成されたガラスプレートなど)に転写する装置である。特にカラーフィルターの製造に用いられるカラーレジストは、顔料の成分が露光光を吸収しやすく、かつ露光光の照射を受けて発生したラジカルが空気中に存在する酸素によりトラップされることで、重合反応が妨げられる。そのため、基板上で所望のパターン形状を得るためには、より露光光のエネルギーを大きくする必要がある。これを避けるために、特許文献1は、レジスト膜に窒素ガスを吹き付けた低酸素状態で露光し、露光光の透過率を向上させる方法を開示している。一方、このように窒素などの不活性ガスで基板上の露光領域をパージする露光装置では、キャリブレーションのための基準マークの検出に、特に正確性が求められる。しかしながら、基準マークは、通常、基板ステージ上の端部に配置されているため、不活性ガスを流した状態で基準マークの検出を行うと、不活性ガスによる屈折率変化により検出誤差が生じ得る。そこで、特許文献2は、基板上の露光領域に、基準マークの検出を行うときには不活性ガスを供給せず、基準マークの検出が完了したのちに不活性ガスを供給する露光装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平1−195445号公報
【特許文献2】特開2011−96859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、基板上の露光領域またはその周囲も含めた領域における酸素濃度のバラつきが少ないことが、安定した露光のために重要である。したがって、特許文献1に示す方法を実施する際に酸素濃度のバラつきがあると、その分布により露光光の屈折率が変化し、結像性能に望まない影響が生じ得る。一方、特許文献2に示す露光装置では、基準マークの検出後から露光開始までの間に、充分なパージ時間が必要となり、結果としてスループットが低下する。すなわち、特許文献1および2では、基板上の露光領域にパージガスがある状態とない状態との違い(酸素濃度の変化)に起因して、基板上に投影されるパターン像が変化し得るものの、その変化を補正できていない。
【0005】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、例えば、露光領域内の酸素濃度に起因する結像性能の低下を抑えるのに有利な露光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、原版に形成されているパターンに光を照射し、投影光学系を介してパターンの像を基板上に露光する露光装置であって、基板を保持して移動可能である基板保持部と、基板の一部が露光領域にある状態で、投影光学系と基板保持部との間の空間に気体を供給して空間の酸素濃度を変更する気体供給部と、気体供給部が空間に気体を供給している間に酸素濃度によって過渡的に変化するパターンの結像性能を補正する補正部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、例えば、露光領域内の酸素濃度に起因する結像性能の低下を抑えるのに有利な露光装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る露光装置の構成を示す図である。
図2】調整機構の構成を示す図である。
図3】調整機構に含まれる光学部材の形状を示す図である。
図4】縦横倍率差による像ずれ収差について説明するための図である。
図5】結像性能の差異を計測する工程を示すフローチャートである。
図6】一実施形態における露光工程を示すフローチャートである。
図7】他の実施形態における露光工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について図面などを参照して説明する。
【0010】
まず、本発明の一実施形態に係る露光装置の構成について説明する。図1は、本実施形態に係る露光装置100の構成を示す概略図である。露光装置100は、一例として、カラーフィルターの製造工程におけるリソグラフィー工程に採用されるものとする。この場合、露光装置100は、投影光学系4を介し、レチクル3を用いてパターン露光し、例えばガラスプレートなどの基板5上(基板上)に塗布されているカラーレジスト(感光剤)をUV硬化して不溶化させる露光装置とし得る。なお、図1では、鉛直方向であるZ軸に垂直な平面内で露光時のレチクル3および基板5の走査方向にY軸を取り、Y軸に直交する非走査方向にX軸を取っている。
【0011】
露光装置100は、まず、光源1と、照明系2と、レチクル3を保持する不図示のレチクルステージと、投影光学系4と、基板ステージ10とを備える。光源1は、複数の波長帯域の光、例えば、水銀ランプ、ArFエキシマレーザー、KrFエキシマレーザーなどの光を露光光として出力する。照明系2は、光源1より射出された光を所定のビーム形状に整形し、レチクル3に照射する。レチクル3は、例えば、微細な回路パターンが形成されたガラス製の原版である。投影光学系4は、レチクル3の回路パターンの像を所定の縮小倍率で縮小し、基板5上に設定されているショットに結像投影する。また、投影光学系4は、その内部に、駆動部6の駆動により光軸に沿って移動可能とし、投影光学系4の諸収差の悪化を抑止し、かつ投影倍率を良好にさせつつ歪曲誤差を低減するための光学素子7を含む。基板ステージ(基板保持部)10は、基板5を保持しつつ、3次元方向に移動可能とする。
【0012】
また、露光装置100は、レーザー干渉計12と、アライメント検出系14と、フォーカス検出系25とを備える。レーザー干渉計12は、基板ステージ10に固定された移動鏡11との間の距離を検出することで、基板ステージ10のX−Y面位置を計測する。アライメント検出系14は、例えばオフアクシス方式の検出系であり、基板ステージ10上の端部に形成されている基準マーク13の位置、および基板5の複数のショットのそれぞれに形成されているアライメントマーク(不図示)の位置を検出する。特に、キャリブレーションの際には、不図示のTTL(Through The Lens)方式の検出系とアライメント検出系14とのそれぞれが基準マーク13の位置を検出し、両検出系の相対的な位置関係を不図示の記憶部に記憶する。フォーカス検出系25は、投光光学系15と検出光学系16とを含み、投影光学系4の光軸方向における基板5の位置、および基準マーク13の位置を検出する。ここで、投光光学系15は、基板5上のレジストを感光させない非露光光からなる複数個の光束を投光する。投光された光束は、基板5上に各々集光されて反射される。基板5上で反射された光束は、検出光学系16に入射する。
【0013】
また、露光装置100は、不図示の露光室内に配置されており、露光室内の雰囲気の温度および湿度は、不図示の雰囲気調整部により制御されている。そして、露光装置100は、基板5の一部が露光領域にある状態で、投影光学系4の最終レンズと基板5との間の局所空間(以下、「パージ空間」という。)19に気体を供給する(パージする)気体供給部20を備える。なお、「基板5の一部が露光領域にある」とは、基板5が基板ステージ10に保持され、かつ投影光学系4の最終レンズの真下に位置する露光領域(基板5上の結像面およびパターンの像が結像面に向かって通過する領域)に、基板5の表面の一部がある状態をいう。気体供給部20が供給する気体は、空気よりも酸素濃度が低い1種類の気体でもよいし、または酸素濃度の異なる2種類以上の混合気体でもよいが、その1つは、例えば、窒素やアルゴンなどの不活性ガスである。また、気体の流れる方向を規定してパージ空間19に気体を迅速に充填する、または周辺領域からの気体の混入を抑制するなどの必要に応じて、囲い26を設置してもよい。
【0014】
また、露光装置100は、本実施形態における補正部を構成するものとして、レチクル3に対向して回転非対称な形状を有する光学素子群(一対の光学素子)からなる調整機構(光学部材)21を備える。調整機構21は、投影光学系4の光入射側に独立して設置されてもよいし、投影光学系4の一部として設置されてもよいし、またはレチクルステージと一体として設置されてもよい。図2は、調整機構21の構成を示す概略断面図である。調整機構21は、具体的には、それぞれ非球面を有する第1光学素子211と第2光学素子212とを含む。2つの光学素子211、212のそれぞれの外側の面211a、212aは、平面形状であり、互いに向き合っている面211b、212bは、互いに相補な関係にある非球面形状である。そして、図1に示すように、2つの光学素子211、212の少なくとも一方は、アクチュエーターなどの駆動部22により移動または回転可能とする。
【0015】
図3は、調整機構21に含まれる各光学素子(第1光学素子211、第2光学素子212)の形状を示す概略平面図である。各光学素子は、例えば、図3(a)に示すようなθ=0°(X軸)方向への3次元形状と、図3(b)に示すようなθ=45°方向への3次元形状とを足し合わせた図3(c)に示すような形状を有する。ここで、回転非対称な形状は、以下の(数1)で表される。なお、光学素子が独立に移動(または回転)可能に構成された2つの自由度は、X軸方向とX軸から45°の角度をなす方向とである。
【0016】
【数1】
【0017】
図4は、縦横倍率の差による像ずれ収差について説明するための図である。例えば、光学素子をX軸から135°の角度をなす方向に移動させることにより、図4(a)および図4(b)に示すようなTY_0成分のディストーションが発生する。一方、光学素子をY軸方向に移動することにより、図4(c)および図4(d)に示すようなTY_45成分のディストーションが発生する。すなわち、一対の光学素子のうちの一方(例えば第1光学素子211)をX軸方向、X軸から135°方向からなる平面上で任意方向に平行駆動することにより、2回対称性を有する回転対称な収差を全方位(任意の方位)に関して発生させることができる。また、一対の光学素子のうちの一方(例えば第1光学素子211)をX軸方向へ、他方(例えば第2光学素子212)をX軸から135°の方向にそれぞれ独立に移動することで収差を発生させてもよい。
【0018】
ここで、図1に示すような囲い26を設置せず、パージ空間19を不活性ガスでパージする場合には、基板5の表面近傍の酸素濃度を迅速に低下させるために、パージガスの流れについて基板5に向かうベクトル成分を大きくするのが有効である。しかしながら、パージ空間19内の投影光学系4の最終レンズ付近の領域では、基板5付近の領域に比べて相対的に酸素濃度が安定するまでに要する時間が長い。そのため、パージ空間19内が空気雰囲気からパージガスに完全に置換されるまでの過渡的な状況では、パージ空間19内にZ軸方向に酸素濃度差が生じ、空気雰囲気下で露光したときに比べ、フォーカス誤差が生じ得る。このような場合には、酸素濃度の分布に応じて基板ステージ10をZ軸方向に移動させることで、フォーカス誤差を補正するのが有効である。また、図1に示すように囲い26を設置し、囲い26の円周上から中心に向けてパージガスを供給する場合には、囲い26の吹き出し口付近に比べて、中心付近の酸素濃度が安定するまでに要する時間が長い。そのため、パージ空間19内が空気雰囲気からパージガスに完全に置換されるまでの過渡的な状況では、露光光の光軸上の最終レンズ付近の酸素濃度が高く、パージ空間19内にシリンドリカルな酸素濃度分布が生じ、投影倍率誤差が生じ得る。このような場合は、酸素濃度の分布に応じて駆動部6により投影光学系4内の光学素子7を移動させることで、投影倍率誤差を補正するのが有効である。さらに、シリンドリカルな酸素濃度分布の他の例として、例えば、図1のX軸方向については光軸付近の酸素濃度が高く、囲い26付近の酸素濃度が低くなるような酸素濃度分布を有し、一方、Y軸方向については酸素濃度の分布を持たないような場合も考えられる。このような場合は、縦横倍率差が生じ得るため、調整機構21を駆動させることで、縦横倍率差を補正するのが有効である。
【0019】
制御部24は、露光装置100の各構成要素の動作および調整などを制御し得る。制御部24は、例えばコンピューターなどで構成され、露光装置100の各構成要素に回線を介して接続され、プログラムなどにしたがって各構成要素の制御を実行し得る。特に本実施形態における制御部24は、装置全体の制御を統括する主制御部9と、投影レンズ制御部8と、ステージ制御部17と、調整機構制御部23と、気体供給制御部27とを含む。投影レンズ制御部8は、投影光学系4内の光学素子7を駆動する駆動部6を制御する。ステージ制御部17は、レーザー干渉計12による計測結果に基づいて、基板ステージ10を駆動するアクチュエータなどの駆動部18を制御する。調整機構制御部23は、調整機構21を駆動する駆動部22を制御する。このように、投影レンズ制御部8、ステージ制御部17、および調整機構制御部23は、本実施形態における補正部を構成し得る。さらに、気体供給制御部27は、気体供給部20によるパージ空間19へのパージガスの供給を制御する。なお、制御部24は、露光装置100の他の部分と一体で(共通の筐体内に)構成してもよいし、露光装置100の他の部分とは別体で(別の筐体内に)構成してもよい。
【0020】
次に、露光装置100による露光(露光方法)について説明する。まず、気体供給部20を用いるに際し、混合ガスのパージの有無による結像性能の差異を取得する工程について説明する。図5は、この結像性能の差異を取得する工程を示すフローチャートである。なお、本実施形態では、気体供給部20がパージ空間19内を低酸素濃度の気体雰囲気とし、パージガスは、不活性ガスと乾燥空気との混合ガスとする。まず、露光装置100にて基板5に処理を施すに先立ち、外部の塗布装置が、基板5にレジスト(カラーレジスト)を塗布する(ステップS101)。次に、主制御部9は、露光装置100内の基板ステージ10上に、レジストが塗布された基板5をロードする(ステップS102)。次に、主制御部9は、TTL方式の検出系とアライメント検出系14とに基準マーク13を検出させて、キャリブレーションを実施させる(ステップS103)。ここで、キャリブレーションは、通常、ロットの最初の基板5に対して行われ、このキャリブレーション結果が2枚目以降の基板5に対して適用される。次に、主制御部9は、アライメント検出系14に基板5上の複数のショットに形成されているアライメントマークの位置を検出させる(ステップS104)。次に、主制御部9は、第1の露光(第1の基板に対する露光)を実施させる(ステップS105)。この露光により、基板5上のレジスト膜にはレチクル3のパターンが転写される。次に、主制御部9は、処理済みの基板5を、装置外部へアンロードさせる(ステップS106)。なお、例えば、複数枚の基板5を露光する場合には、ステップS102からS106を繰り返す。
【0021】
引き続き、外部の現像装置が、露光装置100から受け取った、パターン転写された基板5を現像する(ステップS107)。次に、主制御部9は、露光装置100内の基板ステージ10上に、現像後の基板5をロードする(ステップS108)。次に、主制御部9は、TTL方式の検出系とアライメント検出系14とにより基準マーク13を検出させて、キャリブレーションを実施させる(ステップS109)。なお、キャリブレーションのために参照される基準マーク13は、基板ステージ10上の端部に形成されているため、ここでパージガスを供給すると、パージガスの気流が乱れやすい。また、パージガスが不活性ガスと乾燥空気との混合ガスである場合は、パージ空間19の内外で雰囲気ガスの種類が異なることになる。そのため、基準マーク13の近傍のパージ空間19でもパージガスの気流が乱れやすく、結果的にパージ空間19の雰囲気では屈折率が変動しやすくなるので、アライメント検出系14による検出結果に、屈折率変動に起因した誤差が生じ得る。そこで、ステップS109のキャリブレーションは、パージガスの供給なしに、空気雰囲気の下で実施する。次に、気体供給制御部27は、気体供給部20にパージガスの供給を開始させる(ステップS110)。ここで、パージガスの供給を開始して、パージ空間19内の雰囲気が所定の有効な酸素濃度になるまでには、一定の時間待機しないと、所望の露光性能が得られない。そこで、主制御部9は、パージ空間19内に酸素濃度計を設置して酸素濃度を計測し、所望の酸素濃度になるまで待機するか、または予め実験にて求められた待機時間だけ待機する。次に、主制御部9は、アライメント検出系14とフォーカス検出系25とに、基板5上の複数のショットに形成されているアライメントマークのX―Y平面内の位置、および投影光学系4の光軸方向における高さ位置を検出させる(ステップS111)。ここで、気体供給制御部27は、パージ空間19に空気雰囲気が形成された場合とパージガス雰囲気が形成された場合とにおける雰囲気中の屈折率の相違に起因した各検出系14、25の出力変化を示す情報を予め有していることが望ましい。なお、屈折率は、温度、気圧、または湿度によって変化するので、これらの値を別途設置された検出器により取得して変換式により求め、各検出系14、25の出力変化を示す情報の算出の際に参照させてもよい。次に、主制御部9は、第2の露光として、ステップS105ですでにパターンが転写されている第1の基板に対する重ね合わせ露光を実施させる(ステップS112)。このとき、気体供給制御部27は、上記の情報を用いて、パージ空間19内がパージガス雰囲気となっている下で検出されたアライメントマークの位置の検出結果を、パージ空間19内が空気雰囲気となっている下での数値に補正する。そして、ステージ制御部17は、補正された位置と、ステップS102にてアライメント検出系14により検出された基準マーク13の位置とに基づいて、基板ステージ10の位置を制御する。次に、主制御部9は、1ロットに属するすべての基板5に対してステップS112の露光が終了したことを確認したら、気体供給制御部27は、気体供給部20にパージガスの供給を停止させる(ステップS113)。なお、複数枚の基板5を露光する場合は、引き続き、パージ空間19に存在するパージガスを素早く取り除くため、気体供給部20から乾燥空気の供給を行ってもよい。次に、ステップS114〜S115は、ステップS106〜S107とそれぞれ同じ工程であるため説明を省略する。そして、外部の計測装置が、処理済みの基板5に形成されたパターンやマークについて重ね合わせ誤差を計測する(ステップS116)。計測装置は、重ね合わせ誤差の計測データから、パージ空間19にパージガスが供給された状態とパージガスが存在しない状態と(パージガスの有無)で変化する結像性能の差異(低下分)のデータを取得する。取得したデータは、メモリ(記憶部)に記憶される。結像性能としては、パターンの像の縦横倍率、フォーカスおよび投影倍率がある。
【0022】
次に、図5に示す工程により取得した結像性能の差異の結果に基づいて各種誤差を補正する工程を含む露光工程について説明する。図6は、この露光工程を示すフローチャートである。まず、主制御部9は、露光装置100内の基板ステージ10上に、レジストが塗布された基板5をロードする(ステップS201)。次に、気体供給制御部27は、気体供給部20にパージガスの供給を開始させる(ステップS202)。次に、主制御部9は、図5に示す工程で取得した結像性能の差異の結果に基づいて、必要に応じて各補正部(調整機構21、投影光学系4内の光学素子7、基板ステージ10)を駆動させる(ステップS203)。例えば、調整機構制御部23は、駆動部22に調整機構21を駆動させて、収差成分(非点収差)であるTY_0成分とTY_45成分とを補正し得る。また、投影レンズ制御部8が駆動部6を駆動させて光学素子7を移動させたり、ステージ制御部17が駆動部18を駆動させて基板ステージ10を同時に移動させたりすることで、他の像ずれ成分を補正し得る。なお、この補正部駆動工程は、ステップS202の前、または同時に実施してもよい。次に、主制御部9は、基板5上の第1のショットに対して露光を実施させる(ステップS204)。次に、主制御部9は、露光位置に、基板5上の次に露光すべき第2のショットを移動させる(ステップS205)。次に、主制御部9は、ステップS205で移動すべき、すなわち次に露光すべきショットがあるかどうかを判断する(ステップS206)。ここで、主制御部9は、基板5上にまだ露光すべきショットがあると判断した場合には(YES)、ステップS203に戻り、補正部駆動工程と露光工程とを繰り返す。一方、主制御部9は、基板5上にまだ露光すべきショットがないと判断した場合には(NO)、前のステップS205を飛ばして、次のステップS207に移行する。次に、気体供給制御部27は、気体供給部20にパージガスの供給を停止させる(ステップS207)。そして、主制御部9は、処理済みの基板5を、装置外部へアンロードさせる(ステップS208)。
【0023】
このように、露光装置100は、パージ空間19内の酸素濃度に起因して発生し、2回対称性を有する回転対称な縦横倍率差を任意の方向で補正して露光するので、結像性能の低下を抑えることができる。また、一般的には、パージ時間を短くすると、パージ空間内の酸素濃度分布にムラが顕著に生じて結像性能が低下するが、露光装置100は、結像性能を好適に調整できるため、パージ時間を短くし、結果的にスループットの低下も抑えることができる。
【0024】
以上のように、本実施形態によれば、露光領域内の酸素濃度に起因する結像性能の低下を抑えるのに有利な露光装置および露光方法を提供することができる。
【0025】
なお、図6を用いて説明した露光工程を以下のように変更することもできる。図7は、本発明の他の実施形態における露光工程を示すフローチャートである。図7に示す露光工程は、最初のステップS301(図6におけるステップS201に対応)と、ステップS304(図6におけるステップS202に対応)との間に、ショット形状に関わる工程を含む点で、図6の露光工程と異なる。まず、主制御部9は、ステップS301にて基板5をロードさせた後、アライメント検出系14に基板5上で下地となる各ショットの形状を計測させ、基板5上の全ショットの歪みをデータとして記憶する(ステップS302)。次に、主制御部9は、各ショットの形状(歪み)に合わせて以下の工程で露光するために、例えば、TY_0成分、TY_45成分についての修正量を計算する(ステップS303)。なお、ここでも他の像ずれ成分についての修正量計算としてもよい。次に、気体供給制御部27は、気体供給部20にパージガスの供給を開始させる(ステップS304)。そして、主制御部9は、図5に示す工程で取得した結像性能の差異の結果に加えて、ステップS303にて求めた修正量をも反映させて、必要に応じて各補正部(調整機構21、投影光学系4内の光学素子7、基板ステージ10)を駆動させる(ステップS305)。その他の工程については、図6に示す露光工程と同様であるため、説明を省略する。これによれば、図6に示した露光工程と同様に、パージ空間19の酸素濃度分布に起因する縦横倍率差の補正を行うことができるとともに、各ショット形状に合わせて露光するので、重ね合わせ精度を向上させることができる。
【0026】
(デバイスの製造方法)
次に、本発明の一実施形態のデバイス(半導体デバイス、液晶表示デバイスなど)の製造方法について説明する。半導体デバイスは、ウエハに集積回路を作る前工程と、前工程で作られたウエハ上の集積回路チップを製品として完成させる後工程を経ることにより製造される。前工程は、前述の露光装置を使用して感光剤が塗布されたウエハを露光する工程と、ウエハを現像する工程を含む。後工程は、アッセンブリ工程(ダイシング、ボンディング)と、パッケージング工程(封入)を含む。液晶表示デバイスは、透明電極を形成する工程を経ることにより製造される。透明電極を形成する工程は、透明導電膜が蒸着されたガラス基板に感光剤を塗布する工程と、前述の露光装置を使用して感光剤が塗布されたガラス基板を露光する工程と、ガラス基板を現像する工程を含む。本実施形態のデバイス製造方法によれば、従来よりも高品位のデバイスを製造することができる。
【0027】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。
【符号の説明】
【0028】
3 レチクル
4 投影光学系
5 基板
9 主制御部
10 基板ステージ
20 気体供給部
21 調整機構
22 駆動部
23 調整機構制御部
100 露光装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7