特許第6238586号(P6238586)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6238586
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】農作業車両
(51)【国際特許分類】
   B60Q 1/44 20060101AFI20171120BHJP
   A01D 69/00 20060101ALI20171120BHJP
   A01D 69/03 20060101ALI20171120BHJP
   B60Q 1/54 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   B60Q1/44 B
   A01D69/00 302B
   A01D69/03
   B60Q1/54
【請求項の数】11
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-125809(P2013-125809)
(22)【出願日】2013年6月14日
(65)【公開番号】特開2015-640(P2015-640A)
(43)【公開日】2015年1月5日
【審査請求日】2015年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100107308
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 修一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180507
【弁理士】
【氏名又は名称】畑山 吉孝
(74)【代理人】
【識別番号】100137590
【弁理士】
【氏名又は名称】音野 太陽
(72)【発明者】
【氏名】仲島 鉄弥
(72)【発明者】
【氏名】田部 彩
(72)【発明者】
【氏名】吉田 有作
(72)【発明者】
【氏名】上北 千春
【審査官】 谷治 和文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−234387(JP,A)
【文献】 実開平05−003034(JP,U)
【文献】 実開昭58−126244(JP,U)
【文献】 特開平01−262231(JP,A)
【文献】 特開2008−061616(JP,A)
【文献】 特開2011−010576(JP,A)
【文献】 実開平06−036981(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60Q 1/44
A01D 69/00
A01D 69/03
B60Q 1/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンによって駆動する対地走行機構と、
外部に車両の減速を報知する減速報知灯と、
車両の減速を示す減速度を算定する減速度算定部と、
前記減速度と点灯判定条件とに基づいて前記減速報知灯の点灯制御を行うとともに、前記減速度と消灯判定条件とに基づいて前記減速報知灯の消灯制御を行う報知灯制御部と、
前記エンジンの回転動力によって駆動される油圧ポンプと、前記対地走行機構に変速出力を供給する油圧モータと、を含む油圧式無段変速装置と、
前記油圧式無段変速装置を操作する操作レバーと、を備え、
前記減速度算定部は、前記操作レバーの操作に基づいて前記減速度を算定するように構成されており、
前記消灯判定条件は前記点灯判定条件が満たされなくなった後も前記減速報知灯を消灯させないための判定条件であり、
前記点灯判定条件が所定減速度で定義されたしきい値であり、前記消灯判定条件は前記所定減速度より低い減速度で定義されたしきい値である農作業車両
【請求項2】
エンジンと、
前記エンジンによって駆動する対地走行機構と、
外部に車両の減速を報知する減速報知灯と、
車両の減速を示す減速度を算定する減速度算定部と、
前記減速度と点灯判定条件とに基づいて前記減速報知灯の点灯制御を行うとともに、前記減速度と消灯判定条件とに基づいて前記減速報知灯の消灯制御を行う報知灯制御部と、
前記エンジンの回転動力によって駆動される油圧ポンプと、前記対地走行機構に変速出力を供給する油圧モータと、を含む油圧式無段変速装置と、
前記油圧式無段変速装置を操作する操作レバーと、を備え、
前記減速度算定部は、前記操作レバーの操作に基づいて前記減速度を算定するように構成されており、
前記消灯判定条件は前記点灯判定条件が満たされなくなった後も前記減速報知灯を消灯させないための判定条件であり、
前記消灯判定条件は、前記点灯判定条件が満たされなくなった時点から所定時間が経過することである農作業車両
【請求項3】
前記点灯判定条件は、車速検出部によって検出された車速に応じて変化する請求項1または2に記載の農作業車両
【請求項4】
前記点灯判定条件は、車速検出部によって検出された車速に応じて択一選択される第1点灯判定条件と第2点灯判定条件とからなる請求項1または2に記載の農作業車両
【請求項5】
前記減速度算定部は、検出された車速の単位時間の変化量である車速変動値から前記減速度を算定する請求項1から4のいずれか一項に記載の農作業車両
【請求項6】
前記エンジンの回転動力によって駆動される油圧ポンプと、前記対地走行機構に変速出力を供給する油圧モータと、前記油圧ポンプと前記油圧モータとを油圧接続する油圧回路とを含む油圧式無段変速装置と、前記油圧回路の後進側油圧を検出する油圧検出器とが備えられ、
前記減速度算定部は、前記後進側油圧から前記減速度を算定する請求項1から4のいずれか一項に記載の農作業車両
【請求項7】
前記減速度算定部は、前記対地走行機構の速度を変更する変速装置の変速比を調整する変速操作デバイスの単位時間当たりの操作量から減速度を算定する請求項1から4のいずれか一項に記載の農作業車両
【請求項8】
前記対地走行機構が低速の作業走行と高速の路上走行の両方が可能な車輪式であり、前記減速報知灯の点灯制御は前記路上走行時に実行される請求項1から7のいずれか一項に記載の農作業車両
【請求項9】
前記対地走行機構が低速の作業走行と高速の路上走行の両方が可能な車輪式であり、前記点灯判定条件が前記作業走行時と前記路上走行時で異なる請求項1から7のいずれか一項に記載の農作業車両
【請求項10】
収穫作業を行う収穫作業装置が装備され、前記収穫作業装置の駆動状態又は非駆動状態を検出する作業状態検出部が備えられ、前記駆動状態の検出時に作業走行と判定され、前記非駆動状態の検出時に路上走行と判定される請求項8または9に記載の農作業車両
【請求項11】
前記エンジンと前記対地走行機構との間の動力伝達機構には高速段と低速段との間で切換可能なギヤ変速装置が含まれており、前記高速段が選択された場合に路上走行と判定され、前記低速段が選択された場合に作業走行時と判定される請求項8または9に記載の農作業車両
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンによって駆動する対地走行機構を備えた自走式の農作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な車両では、ブレーキを操作した場合には車両の減速を車両外部に報知するためブレーキ灯が装備されている。農作業車両などの作業車両では、幅広い変速レンジを有する変速装置を備えているので、ブレーキを操作しなくても減速方向への変速操作によって車両が大きく減速する可能性がある。このため、減速方向への変速操作時においても車両の減速を外部に報知する作業車両としてのホイール式油圧ショベルが特許文献1から知られている。この作業車両では、油圧モータの動力を車輪へ伝達するプロペラシャフトに、車両の走行速度を検出してコントローラへ速度信号を出力する車速検出器が設けられ、バッテリとブレーキランプとの間に、ブレーキペダルの操作によりオンされるブレーキスイッチが設けられている。さらに、このブレーキスイッチと並列にコントローラに接続されたリレースイッチが介装され、ブレーキペダルが操作されるとブレーキランプが点灯するだけではなく、速度信号に基づいて算出される減速度が予め設定された減速度より大きい場合には、リレースイッチがオンになることでブレーキランプが点灯する。この特許文献1に開示された従来技術では、プロペラシャフトの回転数に基づいて走行速度を算定して、その微分値である減速度が所定値を超えるとブレーキランプが点灯する。
【0003】
特許文献1による従来技術では、プロペラシャフトの回転数の微分値である減速度だけがブレーキランプの点灯判定条件となっている。これとは異なり、車速、減速度、減速幅がそれぞれの閾値より大きい場合、ハザードランプが点滅される自動車が、特許文献2から知られている。この自動車では、車速センサからの検出信号に基づき、減速度を導出し、駆動制御信号を出力するECUと、このECUからの駆動制御信号が入力されると、警報器としての車両前後のハザードランプを点滅させるハザードランプ駆動装置とが設けられている。ECUは、検出速度Vが予め定められた所定速度より大きい状態で、導出された減速度が予め定められた所定値より大きく、しかも減速幅が予め定められた一定値より大きいときに、ハザードランプ駆動装置へ駆動制御信号を出力し、ハザードランプを点滅させる。
【0004】
油圧無段変速装置の一例であるHSTを搭載し、斜板角を設定するペダル操作量に応じて車両の減速度を推定し、前輪回転数より実際の車両の減速度を求め、この求めた実際の車両減速度が、推定減速度以上のとき車両の尾灯制動灯を点灯させる車両(フォークリフト)が、特許文献3に開示されている。このフォークリフトは、左右独立したHST駆動の前後輪を有する。左右の油圧モータの回転数の平均演算から車速が求められ、その車速の微分で実際の減速度が求められる。さらに、ペダルの踏込角度から推定減速度が求められる。制御手段は、求めた実際の車両の減速度が推定した減速度以上のときで、かつ各速度センサにより検出される油圧モータの回転数がそれぞれ、推定したモータ回転数以内のとき、前記車両の尾灯制動灯が点灯するとともに、ペダルの踏み込み量に対して、実際のモータ回転数が追従しているときに点灯する。但し、左右のモータ回転数に差が発生して減速とみなされたときに、尾灯制動灯を点灯しない。この減速を報知する点灯制御は、左右輪がそれぞれ独立して制御される油圧モータによって駆動されるような車両に適合化されており、それ以外の車両に対してこの技術を適用することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平01−111550号公報(図1図3
【特許文献2】特開平07−125572号公報(図1図3
【特許文献3】特開2002−2343879号公報(図3図4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来技術では、所定の条件が満たされると、車両の減速時にライトを点灯することでその減速を外部に報知する。しかしながら、車両の減速を報知するため一旦点灯させたライトの消灯に関しては明示されていない。したがって、点灯するための条件が満たされなくなった時点で、当該ライトは消灯されるとみなされる。この場合、減速ライトの点灯判定条件が短時間で満たされたり、満たされなくなったりすると、当該ライトがついたり消えたりしてわずらわしくなる。また、減速当初だけ大きな減速度を示し、その後減速度が低下しながら減速するような場合、車両が減速しているにもかかわらず、一瞬だけ減速ライトが点灯し、その後すぐに消灯し、そのまま消灯状態となるといった不都合も生じうる。
このような実情に鑑み、減速時に点灯した減速報知灯が適切な時点で消灯する農作業車両が要望される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による農作業車両は、エンジンと、前記エンジンによって駆動する対地走行機構と、外部に車両の減速を報知する減速報知灯と、車両の減速を示す減速度を算定する減速度算定部と、前記減速度と点灯判定条件とに基づいて前記減速報知灯の点灯制御を行うとともに、前記減速度と消灯判定条件とに基づいて前記減速報知灯の消灯制御を行う報知灯制御部と、前記エンジンの回転動力によって駆動される油圧ポンプと、前記対地走行機構に変速出力を供給する油圧モータと、を含む油圧式無段変速装置と、前記油圧式無段変速装置を操作する操作レバーと、を備え、前記減速度算定部は、前記操作レバーの操作に基づいて前記減速度を算定するように構成されており、前記消灯判定条件は前記点灯判定条件が満たされなくなった後も前記減速報知灯を消灯させないための判定条件であり、前記点灯判定条件が所定減速度で定義されたしきい値であり、前記消灯判定条件は前記所定減速度より低い減速度で定義されたしきい値である。
【0008】
この構成によれば、車両の減速を示す減速度と点灯判定条件とに基づいて、一旦減速報知灯が点灯されると、点灯判定条件が満たされなくなっても直ちに減速報知灯は消灯せずに、消灯判定条件に基づいて減速報知灯の消灯制御が行われ、この消灯判定条件が満たされた場合に初めて減速報知灯が消灯される。この消灯判定条件は、点灯判定条件が満たされなくなった後も減速報知灯を消灯させないような判定条件を有しているので、適切な時点で減速報知灯を消灯することができる。例えば、一瞬だけ減速報知灯が点灯し、その後すぐに消灯し、そのまま消灯状態となるといった問題や、減速報知灯が点灯と消灯とを短い時間間隔での繰り返すといった問題を回避することが可能となる。
また、本発明による別の農作業車両は、エンジンと、前記エンジンによって駆動する対地走行機構と、外部に車両の減速を報知する減速報知灯と、車両の減速を示す減速度を算定する減速度算定部と、前記減速度と点灯判定条件とに基づいて前記減速報知灯の点灯制御を行うとともに、前記減速度と消灯判定条件とに基づいて前記減速報知灯の消灯制御を行う報知灯制御部と、前記エンジンの回転動力によって駆動される油圧ポンプと、前記対地走行機構に変速出力を供給する油圧モータと、を含む油圧式無段変速装置と、前記油圧式無段変速装置を操作する操作レバーと、を備え、前記減速度算定部は、前記操作レバーの操作に基づいて前記減速度を算定するように構成されており、前記消灯判定条件は前記点灯判定条件が満たされなくなった後も前記減速報知灯を消灯させないための判定条件であり、前記消灯判定条件は、前記点灯判定条件が満たされなくなった時点から所定時間が経過することである。
【0009】
減速報知灯の点灯を通じて車両の減速を外部に報知する際、車両の速度(車速)によってその報知重要度は異なる。例えば、車両が低速で走行している場合には、衝突の危険度が低いので、車両が高速している場合にくらべて、減速報知灯の点灯判定条件は緩くてもよい。したがって、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記点灯判定条件は、車速検出部によって検出された車速に応じて変化するように構成されている。その際、点灯制御における演算負担を軽減するためには、前記点灯判定条件は、車速検出部によって検出された車速に応じて択一選択される第1点灯判定条件と第2点灯判定条件とし、高速走行時では第1点灯判定条件を用い、低速走行時では第1点灯判定条件を用いるようにするとよい。
【0010】
【0011】
【0012】
継時的に車速を検出していれば、単位時間当たりの車速の変化量を演算することは容易である。しかも、所定時間当たりの低下車速が所定値より大きい場合に減速報知灯を点灯するように構成することで、急に車両が減速するときに限定して、減速報知灯を点灯することが可能となり、好都合である。このため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記減速度算定部は、検出された車速の単位時間の変化量である車速変動値から前記減速度を算定するように構成されている。
【0013】
農作業車両の無段変速装置としては、油圧ポンプと油圧モータとを含む油圧無段変速装置がよく用いられている。このような油圧無段変速装置では、前進走行時に減速操作すると、油圧ポンプと前記油圧モータとを油圧接続する油圧回路のうちの後進時に駆動油圧が作業する後進側油圧回路の油圧(後進側油圧)が上昇する。この油圧現象から車両の減速を読み取ることができる。このことを利用する実施形態では、前記エンジンの回転動力によって駆動される油圧ポンプと、前記対地走行機構に変速出力を供給する油圧モータと、前記油圧ポンプと前記油圧モータとを油圧接続する油圧回路とを含む油圧式無段変速装置と、前記油圧回路の後進側油圧を検出する油圧検出器とが備えられ、前記減速度算定部は、前記後進側油圧から前記減速度を算定するように構成されている。
【0014】
本発明の好適な実施形態の1つでは、前記減速度算定部は、前記対地走行機構の速度を変更する変速装置の変速比を調整する変速操作デバイスの単位時間当たりの操作量から減速度を算定するように構成されている。この構成によれば、変速装置、好ましくは無段変速装置を操作する変速操作デバイスの変位量を検出し、この変位量から減速度を算定することで、車両速度の減速を早期に推定して、車両の減速を外部に報知することができる。
さらにその際、前記減速度算定部が、前記変速操作デバイスの単位時間当たりの変位量に基づいて前記減速度を算定するようにすれば、変速操作それ自体の速さ、つまり急速に減速をしようとしている操作状況あるいはゆっくりと減速をしようとしている操作状況に応じて、適切な点灯制御を行うことができる。もちろん、変速操作デバイスの変位量と単位時間当たりの変位量との両方を点灯制御のパラメータとして、減速度を算定することも好適である。
【0015】
圃場での農作業などでは、農作業車両はかなり低速で走行するし、その周囲に並走する車両や人が存在しないことが多いので、車両の減速を外部に報知する必要性は少ない。しかしながら、対地走行機構が車輪式の農作業車両では、移動のために一般道路を乗用車などに混じって走行することになる。しかも、農作業車両の場合、ブレーキを操作せずとも、変速操作だけで大きく減速するように構成された変速装置が少なくない。そのような農作業車両が一般道路を走行(路上走行)する際、ブレーキ操作とは関係なく減速する時には、その減速を外部に報知する必要がある。このため、前記対地走行機構が低速の作業走行と高速の路上走行との両方が可能な車輪式である実施形態では、前記減速報知灯の点灯制御は前記路上走行時に実行されるように構成されると好適である。
なお、本明細書では、「路上走行」は、乗用車やオートバイなどが並走するような道路を走行すること、一般的には道路交通法が適用される道路を走行することを意味しており、「圃場走行」は、田畑のなどの農地を農作業しながら走行すること、あるいは農作業の準備として農地や農地周辺を走行することを意味している。
【0016】
また、圃場において他の車両が並走する作業や、作業員が近くにいるような作業を実施するような農作業車両の場合には、作業走行においても車両減速の外部への報知が必要となる。ただし、作業走行と路上走行では、車速や周囲状況もかなり異なるので、減速報知灯の点灯判定条件も異なってくる。したがって、そのような農作業車両においては、前記対地走行機構が低速の作業走行と高速の路上走行との両方が可能な車輪式であり、前記点灯制御のための点灯判定条件が前記作業走行時と前記路上走行時で異なるように構成されている。
【0017】
農作業車両の場合、収穫作業装置などの農作業装置が装備される。このような収穫作業装置は、作業走行中は駆動状態に切り替えられ、移動等の路上走行中では非駆動状態に切り替えられる。このことを利用して、本発明の1つの実施形態では、収穫作業装置のような農作業装置の駆動状態又は非駆動状態を検出する作業状態検出部が備えられ、前記駆動状態の検出時に作業走行と判定され、前記非駆動状態の検出時に路上走行と判定される。この判定結果に応じて、報知灯制御部は、減速報知灯に対する点灯制御を行う。
【0018】
また、作業走行と路上走行の両方を行う農作業車両では、高速段と低速段との間で切換可能なギヤ変速装置を付加的に備えており、作業走行では低速段に切換えて変速の低速範囲を拡大し、路上走行では高速段に切換えて変速の高速範囲を拡大している。このことを利用して、本発明の1つの実施形態では、前記動力伝達機構には高速段と低速段との間で切換可能なギヤ変速装置が含まれており、前記高速段が選択された場合に路上走行と判定され、前記低速段が選択された場合に作業走行時と判定される。この判定結果に応じて、報知灯制御部は、減速報知灯に対する点灯制御を行う。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の基本的な構成を説明する模式図である。
図2】本発明の具体的な実施形態の1つであるトウモロコシ収穫機の側面図である。
図3図2によるトウモロコシ収穫機の平面図である。
図4】トウモロコシ収穫機の動力伝達経路を示す模式図である。
図5】トウモロコシ収穫機のHST油圧回路を示す油圧回路図である。
図6】トウモロコシ収穫機の運転部領域の平面図である。
図7】減速報知処理のための制御系を示す機能ブロック図である。
図8】減速報知処理における制御の流れを示す模式図である。
図9】減速報知処理を示すフローチャートである。
図10】減速報知処理を示すフローチャートである。
図11】消灯処理を示すフローチャートである。
図12】本発明による農作業車両の別の実施形態である普通型コンバインを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明による作業車両の具体的な実施形態を説明する前に、図1を用いて本発明を特徴付けている基本的な構成を説明する。
図1に示されているように、本発明による作業車両は、基本的な車両構造として、エンジン31と、車輪やクローラなどの対地走行機構3と、エンジン31からの動力によって駆動する農作業装置Wと、エンジン31からの動力を変速して対地走行機構3に伝達する動力伝達機構2とを備えている。動力伝達機構2は一般的には、パワートレインあるいはトランスミッションとも呼ばれ、無段または多段の変速装置2Aが含まれている。変速装置2Aが油圧式やベルト式などの無段変速装置の場合、付加的に高中低3段または高低2段の副変速装置とも呼ばれるギヤ変速装置2Bが備えられることが多い。さらに、変速装置2Aを通じて出力される変速動力を調整するための変速操作量を与える手動式の変速操作デバイス81が備えられている。この変速操作デバイス81を減速変速側に操作することにより、ブレーキを操作することなしに、車両は減速状態となる。したがって、このような車両の減速状態は、駆動車軸などの回転数を検出する車速検出部96による直接的な検知だけでなく、変速操作デバイス81の操作変位に基づいても検知することが可能である。
【0021】
本発明を特に特徴付けている構成要素は、作業車両の減速度を算定する減速度算定部50と、外部に車両の減速を報知する減速報知灯10と、算定された減速度に基づいて減速報知灯10の点灯制御を行う報知灯制御部51とである。ここでいう減速度は、車両の減速を表す指標であれば、有単位数でも無単位数でもよいが、好ましい形態の1つは、減速度は、所定時間当たりの低下車速である。これは、2つの時点t1とt2における推定車速v1とv2の車速差:Δv=v2―v1をその時間間隔:Δt=t2―t1で除算することによって得られる。あるいは、速度微分として得ることもできる。
【0022】
車速の直接的な検出は、車速検出部96によって行うことができるが、変速装置2Aの変速状態(変速比)を変更することができる変速操作デバイス81の操作変位から車速を推定すれば、より早期に車両の減速を検知する可能性がある。変速装置2Aが減速状態に移行することに起因する車速の低下である減速度を算定するために、変速操作デバイス81の操作変位を継時的に検出することで、減速度を算定することができる。変速操作デバイス81の操作変位はポテンショメータなどの操作変位センサ91によって検出できる。
【0023】
変速装置2Aが無段変速装置の場合、変速操作デバイス81は無段変速装置2Aの中立を含む任意の変速比に対応する位置に変位可能であり、この変速操作デバイス81の操作変位を検出して得られる操作変位量を評価することで減速度を正確に算定することができる。その際、2つの時点における操作変位量から直接減速度を導出するような変換式や変換マップを用いてもよいし、あるいは、単位時間当たりの変位量(つまり変位変化量)から減速度を導出するような変換式や変換マップを用いてもよい。あるいは、操作変位量と変位変化量との両方を入力パラメータとして減速度導出するような変換式や変換マップを用いてもよい。
【0024】
減速度算定部50で減速度が算定されると、報知灯制御部51で、この減速度と点灯判定条件とに基づいて、減速報知灯10に対する点灯・消灯制御が行われる。減速度が所定の点灯判定条件を満たした場合、報知灯制御部51が減速報知灯10を点灯する。その後、所定の消灯判定条件が満たされた場合、報知灯制御部51が減速報知灯10を消灯する。好ましくは、点灯判定条件として、少なくとも高速走行時に用いる第1点灯判定条件と低速時に用いる第2点灯判定条件が用意されていることが好ましい。さらには、速度に応じて点灯判定条件が変更されるようにすれば、車速に適合した減速報知が可能となる。
【0025】
消灯判定条件は、一旦減速報知灯が点灯されると、点灯判定条件が満たされなくなっても直ちに減速報知灯10は消灯せずに、消灯判定条件に基づいて減速報知灯10の消灯制御が行われ、この消灯判定条件が満たされた場合に初めて減速報知灯10が消灯されるように設定される。同時に、消灯判定条件としてタイマー判定も導入され、点灯判定条件が満たされなくなっても所定時間が経過していない限り、減速報知灯10は消灯しないようにする。このため、報知灯制御部51の制御アルゴリズムでは、点灯判定条件が満たされ減速報知灯10が点灯すると、消灯準備段階に移行し、点灯判定条件が満たされなくとも、消灯判定条件が満たされない限り、減速報知灯10の点灯は維持されるように構築されている。
【0026】
車輪走行式の農作業車両は、圃場での作業走行と遠距離の圃場間を移動する路上走行との両方ができるが、作業走行は通常低速でかつ他の車両や人がいない周辺環境で行われるので、減速報知処理は、路上走行時だけに限定すると好都合である。あるいは、作業走行時には路上走行時より緩やかな点灯判定条件を採用するとよい。このためには、作業走行であるか路上走行であるかを自動的に判定する機能があると便利である。このような自動判定機能は、農作業装置Wの駆動状態又は非駆動状態から判別することができる。これを実現するためには、農作業装置Wの駆動状態又は非駆動状態を検出する作業状態検出部92が必要となる。また、動力伝達機構2に、複数段で切換え可能な、例えば高速段と低速段との間で切換可能なギヤ変速装置2Bが設けられている場合には、高速段が選択された場合に路上走行と判定し、低速段が選択された場合に作業走行と判定することができる。これを実現するためには、選択された変速段を検出する変速位置検出部93が必要となる。
【0027】
次に、本発明による農作業車両の具体的な実施形態の1つとしてトウモロコシ収穫機と取り上げ、図面を用いてその構造を説明する。
【0028】
図2及び図3に示すように、このトウモロコシ収穫機は、対地走行機構3として、左右一対の向き固定の前輪3aと操向操作可能な左右一対の後輪3bとを備え、対地走行機構3に機体フレーム11が対地支持されている。トウモロコシ収穫機は、農作業装置Wとして、収穫処理装置12とフィーダ13と貯留タンク14と残稈処理装置15とを備えている。収穫処理装置12は機体フレーム11の前部に位置してトウモロコシを収穫する。フィーダ13は収穫処理装置12の後部から機体フレーム11の上方にわたって後方上がりの状態で前後方向に延びて、収穫したトウモロコシを機体フレーム11の後部に位置する貯留部としての貯留タンク14まだ搬送する。残稈処理装置15は、機体フレーム11の下部であって前輪3aと後輪3bとの間の前後中間部に位置する。
【0029】
トウモロコシは、植立する茎稈に対し収穫時期に多数の種子(実)を内包する房状部を作る。この房状部は、包葉の内部に多数の種子が含まれ、この種子は棒状の芯の外面に整列する形態で形成される。本発明に係るトウモロコシ収穫機は、包葉の内部に多数の種子を備えた房状部を収穫物として収穫して回収するものである。
【0030】
機体フレーム11は、車体前部に上方がキャビン16により覆われる状態で運転部17が備えられ、その運転部17の後方側であって且つ車体右側箇所に原動部30が備えられている。原動部30には、下部にエンジン31を備え、エンジン31の上方にエンジン冷却用のラジエータ32が備えられている。ラジエータ32の車体横幅方向内方側には、ラジエータ32を通して外気を吸気するための吸気用ファン33が備えられ、ラジエータ32の車体横幅方向外方側には、吸気される外気に含まれる塵埃を除去する多孔状の防塵カバー34が備えられている。運転部17とエンジン31との間には、エンジン31に燃焼用空気を吸気する吸気機構35としてのエアクリーナ35a及びプレクリーナ35bが備えられている。
【0031】
トウモロコシ収穫機の機体は、原動部30に設けたエンジン31の動力を動力伝達機構2で変速した後に左右一対の前輪3aに伝達して前輪3aを駆動することにより走行する。また、後輪3bは、図示は省略されている、操向操作用の油圧シリンダによって向き変更操作自在に設けられている。従って、機体は、前輪3aの駆動力により走行しながら、後輪3bの操向操作により旋回することができる。
【0032】
このトウモロコシ収穫機では、収穫作業時には、車体を走行させながら収穫処理装置12で収穫した収穫物がフィーダ13によって貯留タンク14に向けて搬送され、貯留タンク14に貯留される。そして、収穫時に圃場に残された茎稈は残稈処理装置15により細断処理される。
【0033】
収穫処理装置12は、横方向に並列する3列の導入経路が形成され、各々の導入経路を挟む位置に左右一対の収穫ロール12a、その上部に位置する左右一対の無端搬送チェーン12b等を備えている。詳述はしないが、収穫ロール12aは、導入経路と平行する姿勢の回転軸芯を中心に回転自在に支持され、導入されるトウモロコシの植立茎稈から収穫物(房状部)を引きち切って分離させる。
【0034】
又、複数の収穫ロール12aと複数の無端搬送チェーン12bとの後方位置には収穫物を横方向の中央位置に移送するオーガ12cが備えられている。このオーガ12cが、3列の導入経路にて夫々、植立茎稈から分離された収穫物を横方向の中央位置に移送させる。そして、このオーガ12cは、収穫物をその送出口からフィーダ13の搬送始端部に供給する。
【0035】
フィーダ13は、機体横幅方向中央に位置する状態で備えられ、後方側ほど上方に向かう斜め姿勢の角筒状のフィーダケース13a内に、図示しない無端回動式の搬送コンベアが備えられている。そして、オーガ12cの送出口から供給された収穫物をフィーダケース13a内に沿って搬送して、フィーダケース13aの後端の搬送終端部から案内シュート13bを介して貯留タンク14の上方に機体後方向きに排出する。
【0036】
詳述はしないが、フィーダケース13aの後端部に連設された処理ケース13cには、フィーダ13により収穫物と共に排出される葉屑や茎稈屑等を収穫物の排出方向と異なる方向に掻き出し、掻き出された非収穫物を細断処理する処理装置が内部に備えられている。細断された処理物は排出口13dから飛散して後上方に向けて機外に放出される。
【0037】
貯留タンク14は、平面視で略矩形状に形成されるとともに、上部が開放された形状となっており、その開放された領域から収穫物を受け入れるようになっている。又、フィーダ13における排出部の下方側箇所には、フィーダケース13aの搬送終端部の下側に位置する状態で排塵ファン13eが備えられている。排塵ファン13eは、フィーダ13により収穫物と共に排出される葉屑や茎稈屑等を収穫物の排出方向と異なる後方上方に向けて送風案内するように構成されている。
残稈処理装置15は、横軸芯周りで駆動回転されるハンマーナイフ式の細断装置であり、収穫時に圃場に残された茎稈を細かく細断する構成となっている。
【0038】
そして、収穫処理装置12は、横軸芯P1周りで揺動自在に機体に支持され、左右一対の収穫処理装置用の油圧シリンダにより昇降操作自在に設けられている。又、残稈処理装置15は、横軸芯P2周りで揺動自在に機体に支持され、油圧シリンダによって昇降操作自在に設けられている。
【0039】
機体フレーム11を構成する後部横フレームに左右一対の減速報知灯10が設けられている。この減速報知灯10は、後で詳しく説明するが、機体が所定以上に減速する際に、その減速を外部に報知すべく点灯する。減速報知灯10はブレーキランプとしても兼用されているので、ブレーキ操作によっても点灯するが、ブレーキ操作がなくとも、動力伝達機構2に対する変速操作を通じて機体が減速する場合に点灯する。
【0040】
図4を用いて、エンジン動力の伝達経路システムについて説明する。
エンジン31からの動力は、第1ベルト伝動機構31Aを通じて農作業装置Wを駆動するために作業用の動力伝達機構4に供給され、第2ベルト伝動機構31Bを通じて走行用の動力伝達機構2に供給され、第3ベルト伝動機構31cを通じてラジエータファン26aを駆動するために供給される。作業用の動力伝達機構4へのエンジン動力の伝達を入り切りするために、第1ベルト伝動機構31Aには、作業クラッチ40が備えられている。
作業クラッチ40を切り操作することで、農作業装置W全体への動力伝達が遮断される。
【0041】
作業用の動力伝達機構4には、第1ベルト伝動機構31Aからの動力を収穫処理装置3に伝達する収穫処理用ベルト伝動機構41、第1ベルト伝動機構31Aからの動力をフィーダ13に伝達する搬送用ベルト伝動機構42、第1ベルト伝動機構31Aからの動力を残稈処理装置15に伝達する残稈処理用ベルト伝動機構43が含まれている。
【0042】
収穫処理用ベルト伝動機構41は、収穫ロール12aと無端搬送チェーン12bとオーガ12cとを駆動する。搬送用ベルト伝動機構42は、二系統に分岐しており、一方の系統は、残稈処理装置15を駆動する。他方の系統は、フィーダ13を構成する無端搬送チェーン13f、掻き出し装置13g、細断装置13hを駆動する。なお、掻き出し装置44はフィーダ13によりトウモロコシ本体と共に排出される葉屑や茎稈屑等をトウモロコシ本体の排出方向と異なる方向に掻き出す装置であり、細断装置45は、掻き出し装置44により掻き出された葉屑や茎稈屑等を細断処理する装置である。
【0043】
第2ベルト伝動機構31Bを通じて供給されたエンジン動力は、走行用の動力伝動機構2を構成する変速装置2Aに入力する。変速装置2Aによって変速された動力はさらにギヤ変速装置2Bによって変速される。
【0044】
この実施形態では、図5に示すように、変速装置2Aは油圧式無段変速装置であるHSTとして構成されている。HST2Aは、よく知られているように斜板式可変速回転油圧機器、例えばアキシャルプランジャ式に構成された可変容量型の油圧ポンプ21と油圧モータ22とからなり、油圧ポンプ21と油圧モータ22とは第1油路23aと第2油路23bとによって閉回路接続されている。エンジン1の回転動力によって回転駆動される油圧ポンプ21における斜板の斜板角度が斜板調節機構24によって変更されることで、吐出される圧油の吐出方向および吐出量が変更され、その圧油を受ける油圧モータ22の出力軸の回転が正転方向(前進)あるいは逆転方向(後進)に無段階で変速される。油圧モータ22が正転方向(前進)に回転する際には、第1油路23aが高圧側油路となり、第2油路23bが低圧側油路となる。油圧モータ22が逆転方向(後進)に回転する際には、第1油路23aが低圧側油路となり、第2油路23bが高圧側油路となる。
【0045】
斜板調節機構24は、油圧制御弁24aによって制御される油圧シリンダ24bを有し、油圧シリンダ24bのピストンの変位によって油圧ポンプ21の斜板が調整される。油圧制御弁24aのスプールは、リンク式変位伝達機構を介して、主変速レバー81によって操作される。つまり、ここでは、リンク式変位伝達機構は操作中継装置8として機能し、主変速レバー81は変速操作デバイス81として機能する。
【0046】
図6に示めすように、運転部17には、キャビン16の内部の走行機体横方向での中央部に運転座席17aが設けられている。運転座席17aの右横側方にはサイドパネル61が、運転座席17aの前方にはステアリングホイール86が配置されている。サイドパネル61の上面には、アクセルレバー83a、主変速レバー81、副変速レバー82及び作業クラッチレバー85が配置されている。ステアリングホイール86を取り付けているハンドルポストの右横側方に、ブレーキペダル84及びアクセルペダル83が配置されている。
【0047】
主変速レバー81は、HSTである無段変速装置2Aの斜板角を調整する斜板調節機構24の制御弁24aのスプールに操作中継装置8を介して連係されている。主変速レバー81の操作変位により無段変速装置2Aが変速され車速が変化するので、この主変速レバー81は、本発明の変速操作デバイスとして機能する。主変速レバー81は、搖動式レバーであり、その搖動範囲には、前進高速操作域と前進低速操作域と中立操作域と後進操作域とが含まれている。主変速レバー81が前進高速操作域に搖動操作されると、無段変速装置2Aが移動走行用の前進高速の駆動状態になる。主変速レバー81が前進低速操作域に操作されると、無段変速装置2Aが作業走行用の前進低速の駆動状態になる。主変速レバー81が中立操作域に操作されると、無段変速装置2Aが中立状態になる。主変速レバー81が後進操作域に操作されると、無段変速装置2Aが後進走行用の駆動状態になる。
【0048】
副変速レバー82も搖動式レバーであり、高低2段のギヤ変速装置2Bの変速操作部に連係されている。一般的な運転操作においては、路上走行にはギヤ変速装置2Bは高速段に設定され、圃場走行などの作業走行時にはギヤ変速装置2Bは低速段に設定される。
【0049】
作業クラッチレバー85は、作業用の動力伝達機構4へのエンジン動力の伝達を入り切りする作業クラッチ40の操作部に連係されている。作業クラッチレバー85は、搖動式レバーであり、その揺動操作によって、作業クラッチ40を入り状態と切り状態とに切換え操作することで、農作業装置Wを駆動または停止させる。
【0050】
アクセルペダル83は、エンジン31のアクセル装置の操作部に連係されている。アクセルペダル83を踏込操作することで、エンジン31の回転数が調整され、結果的に車速が変更される。ブレーキペダル84は、対地走行機構3に設けられているブレーキ装置の操作部に連係されている。ブレーキペダル84を踏込操作することにより、ブレーキ装置が作動し、機体が制動される。
サイドパネル17bに配置されているアクセルレバー83aもアクセルペダル83と同様に、エンジン31のアクセル装置の操作部に連係されており、アクセルレバー83aを操作することで、エンジン31の回転数が調整され、結果的に車速が変更される。なお、アクセルレバー83aは任意の操作位置に摩擦機構によって保持されるように構成されているので、エンジン回転数を所定回転数に維持する際に利用される。
【0051】
次に、図7を用いて減速報知灯10の点灯及び消灯を制御する減速報知処理部5を説明する。この減速報知処理部5は、コンピュータユニットである制御ユニットの内部にソフトウエアまたは構築されている。減速報知処理部5には、減速報知灯10の点灯と消灯を制御する報知灯制御部51、車両の減速度を算定する減速度算定部50、車両が路上走行中であるか圃場走行中(作業走行中)であるかを判定する路上走行/圃場走行判定部52が含まれている。なお、減速報知灯10はブレーキランプとしても兼用されているので、報知灯制御部51にはブレーキペダル84の踏込操作を検出するブレーキセンサ97の検出信号も入力している。
【0052】
路上走行/圃場走行判定部52には、作業状態検出部92から車両が作業中であるかどうかを示す作業状態信号と、変速位置検出部93から動力伝達機構2の変速状態を示す変速状態信号とが入力される。作業状態検出部92は、作業クラッチ40の入り切り状態を検出する作業クラッチセンサ94からの作業クラッチ検出信号と、車速検出部96からの車速信号とに基づいて作業状態信号を生成する。車速検出部96は、動力伝達機構2の変速後の回転数を示すギヤ(例えばディファレンシャル機構のギヤ)の回転数を検出する回転数センサ96aからの検出信号から車速信号を生成する。変速位置検出部93は、高低2段のギヤ変速装置(副変速装置)2Bが高速段または低速段のいずれの変速位置であるかを検出する副変速センサ93bからの検出信号から変速状態信号を生成する。路上走行/圃場走行判定部52での判定結果は減速度算定部50に送られる。
【0053】
減速度算定部50には、油圧ポンプ21の斜板調節機構24を操作して車速変更を行う主変速レバー81の操作変位を検出する主変速センサ93aの検出信号が入力される。また、車速検出部96から車速信号が入力される。減速度算定部50は、主変速レバー81の減速方向への操作変位から車両の減速度を算定するが、ここでは操作変位から減速度を導出する変位/減速度変換マップが用いられている。変位/減速度変換マップとしては、2つの継時的に取得された操作変位からその操作変位による減速度が導出されるものでもよいし、操作変位の取得毎にその操作変位に対応する車速を算定し、継時的に間隔をあけ取得された操作変位に対応する車速との差から減速度が導出されるものであってもよい。
その際、利用される変位/減速度変換マップは、車速検出部96から取得する車速信号、つまりその時点での車速に応じて変更される。つまり、車速が速い場合には、車速が遅い場合に比べてより大きな減速度が導出されるようにすることで、減速報知の必要性が高い高速走行時の適用度を向上させる。
【0054】
この実施形態では、減速度算定部50には、変位変化量算定部53が含まれている。変位変化量算定部53は、継時的に取得した減速方向への操作変位の時間当たりの変化量である変位変化量を算定する。算定された変位変化量から、変位変化量/減速度変換マップを用いて、減速度が導出される。急激な主変速レバー81の減速方向の操作変位は急激な減速をもたらし、緩やかな操作変位は減速をもたらすことを鑑みると、このような変位変化量から減速度を算定することも利点がある。
【0055】
操作変位または変位変化量のいずれから減速度を算定するかは、手動設定可能にしてもよいし、車両状態(車速、作業走行、路上走行など)に応じて自動選択する形態でもよい。あるいは、操作変位と変位変化量の両方を入力パラメータとして減速度を導出する変位・変位変化量/減速度変換マップを用意して、減速度算定部50を操作変位と変位変化量とから減速度を算定するように構成してもよい。これらのマップは所定車速毎に複数用意され、検出された車速に応じて選択される。
【0056】
この実施形態では、減速度算定部50は、路上走行/圃場走行判定部52からの判定結果も入力されるように構成されている。路上走行/圃場走行判定部52からの判定結果の利用形態は2つある。その1つは、圃場走行であると判定されて場合には、減速時の外部への減速報知は行わない形態である。他の1つは、路上走行時と圃場走行時とでは、使用する変位/減速度変換マップを変える形態である
【0057】
報知灯制御部51は、減速度算定部50で算定された減速度を、減速報知灯10の点灯判定条件として設定されているしきい値を比較し、減速度がしきい値を超えた場合、つまり点灯判定条件が成立した場合、減速報知灯10を点灯させる。この実施形態では、報知灯制御部51には車速検出部96から車速信号が入力しており、車速に応じてしきい値を変更している。例えば、高速走行時では、低速走行時に比べてしきい値のレベルが低くなっており、より減速報知灯10が点灯し易くなっている。
例えば、具体的な参考例を挙げてみると、このトウモロコシ収穫機の場合、時速10から25Km程度の路上走行時においては、減速度としての減速率を用いて、減速率=−1.2Km/0.2秒をしきい値として減速報知灯10が点灯される。また、時速10mまでの圃場走行時においては、減速率=−1.6Km/0.2秒をしきい値として減速報知灯10が点灯される。
【0058】
報知灯制御部51は、点灯条件に基づいて点灯させた減速報知灯10を、消灯条件に基づいて消灯させる機能も有する。簡単な構成を採用する場合には、減速報知灯10を点灯させた後に算定された減速度がしきい値を超えなかった場合、減速報知灯10を消灯すればよい。この実施形態では、報知灯制御部51は、減速報知灯10の消灯判定条件は点灯判定条件とは異なっている。具体的には、点灯判定条件を満たして減速報知灯10が点灯されると、その後に点灯判定条件が満たされなくなっても、減速報知灯10は消灯されない。減速報知灯10が消灯されるには、点灯判定条件より緩やかな消灯判定条件が満たされること、及び点灯判定条件が満たされなくなってから所定時間経過することが必要となる。ここで、消灯判定条件が点灯判定条件より緩やかなということは、減速度と比較するしきい値のレベルが低いということである。この実施形態では、点灯判定条件は、車速によって変更される第1点灯判定条件と第2点灯判定条件からなる。消灯判定条件は車速に係らず固定であってもよいが、消灯判定条件を点灯判定条件に依存させる場合には、消灯判定条件も車速によって変更される。
【0059】
図7の機能ブロック図には、減速度算定部50に与える操作変位の別形態としてアクセルセンサ95や95aによって検出される操作変位も点線で示されている。アクセルセンサ95はアクセルペダル83の操作変位を検出し、アクセルセンサ95aはアクセルレバー83aの操作変位を検出する。アクセルペダル83やアクセルレバー83aの操作によるエンジン回転数の低下が生じると、変速装置2Aに入力する動力の回転数も低下するので、結果的には変速装置2Aが減速状態に移行する。したがって、アクセルペダル83やアクセルレバー83aの操作変位に基づいて減速度を算定し、この減速度に基づく減速報知灯10の点灯制御も、主変速レバー81の操作変位と同様に、可能である。その際、減速度算定部50で用いられる変位/減速度変換マップあるいは変位変化量/減速度変換マップは、主変速レバー81による操作変位か、またはアクセルペダル83やアクセルレバー83aによる操作変位かによって、変更するとよい。
【0060】
次に、上述した減速報知処理部5による減速報知灯10の点灯・消灯制御の一例を説明する。まず、この点灯・消灯制御の基本的な流れを図8の模式図を用いて説明する。
車速の減速に係る操作変位から減速度を算定する変速操作評価が所定の繰り返し周波数で実行される。この変速操作評価において、減速度が点灯判定条件を満たす場合には(#a)、注目すべき減速が生じると見なされて減速報知灯10が点灯され(#b)、次の変速操作評価を待つ(#c)。減速度が点灯判定条件を満さない場合には(#d)、注目外減速と見なされ、減速報知灯10が点灯状態か消灯状態かによって異なる処理がなされる。その時、減速報知灯10が消灯状態であれば、そのまま何もしないで次の変速操作評価を待つ(#e)。その時、減速報知灯10が点灯状態であれば、消灯準備段階に移行する(#f)。消灯準備段階では、消灯判定条件が満たされるかどうかチェックされる。消灯判定条件が満たされると(#g)、減速報知灯10が消灯され(#h)、次の変速操作評価を待つ(#j)。消灯判定条件が満たされていなければ(#k)、そのまま何もしないで次の変速操作評価を待つ(#m)。
【0061】
上述した点灯・消灯制御の基本的な流れを具体化した制御の一例が、図9図10図11のフローチャートに示されている。
図1は減速報知処理のメインルーチンである。前処理として、車速信号、変速段信号、作業クラッチ検出信号の少なくとも1つが取得される(#01)。この取得された信号から、車両が路上走行であるか圃場走行であるかが判定される(#02)。道路走行と判定されると、外部に減速を報知すべく減速報知灯10を点灯させる道路走行時点灯処理(#03)及び点灯した減速報知灯10を消灯させる道路走行時消灯処理(#05)が実行される。圃場走行と判定されると、圃場走行時点灯処理(#07)及び圃場走行時消灯処理(#09)が実行される。なお、圃場走行時には減速報知灯10を用いた減速報知処理が行われない場合、圃場走行時点灯処理(#07)及び圃場走行時消灯処理(#09)は省略される。
【0062】
次に、道路走行時点灯処理を図10のフローチャートを用いて説明する。
まず、主変速レバー81の操作変位が取得される(#31)と、前回取得した操作変位との変位差(図10ではΔdで示されている)が算定される(#32)。算定された変位差が予め設定されている不感帯を表すと比較し、変位差がδを超えていない場合(#32No分岐)、今回の変位は無視され、このルーチンは終了する。変位差がδを超えている場合(#32Yes分岐)、減速度算定部50で減速度が算定される。減速度の算定には変位差から減速度を導出するマップが用いられるが、これを式で表すと、
R=Gr(Δd,α1・・)
となる。
ここで、Rは減速度、α1・・は車速などその他の入力パラメータを示しているが、省略してもよい。
報知灯制御部51では、点灯判定のためのしきい値が設定される。しきい値は固定値でもよいが、ここでは、車速:vや、その他の入力パラメータ:β1・・によって算定される変動値であってもよく、そのような場合、しきい値:S1を式で表すと、
S1=S (v,β1・・)
となる。
減速度としきい値が比較され(#41)、減速度がしきい値を超えて点灯判定条件が成立すると(#41Yes分岐)、さらに点灯フラグが「0」(初期設定で「0」が設定されている)であるかどうかチェックされる(#42)。点灯フラグが「0」であれば(#42Yes分岐)、この時点では減速報知灯10が消灯されているので減速報知灯10が点灯され(#43)、点灯フラグに「1」が設定され(#44)、このルーチンを終了する。点灯フラグが「1」であれば(#42No分岐)、既に減速報知灯10は点灯しているので、そのまま何もせずにこのルーチンを終了する。
減速度がしきい値を超えておらず点灯判定条件が非成立なら(#41No分岐)、さらに、点灯フラグが「1」であるかどうかチェックされる(#45)。点灯フラグが「1」であれば(#45Yes分岐)、この時点で点灯されている減速報知灯を消灯させる準備処理として、消灯のための計時を開始するためタイマーをスタートさせ(#46)、消灯フラグに「1」を設定し(#47)、このルーチンを終了する。
【0063】
道路走行時点灯処理に続いて行われる道路走行時消灯処理のフローチャートは図11に示されている。この処理では、まず、この時点で減速報知灯10が点灯されているかをチェックするため、点灯フラグが「1」であるかどうかチェックされる(#51)。点灯フラグが「1」でなく減速報知灯10が消灯している場合には(#51No分岐)、消灯処理は不必要なので、このルーチンを終了する。点灯フラグが「1」であれば(#51Yes分岐)、さらに消灯フラグが「1」であるかどうかチェックされる(#52)。消灯フラグが「1」でなければ(#52No分岐)、点灯している減速報知灯10に対する消灯準備の段階ではないので、このルーチンを終了する。消灯フラグが「1」であれば(#52Yes分岐)、点灯している減速報知灯10に対する消灯準備の段階であるので、消灯しきい値が設定され(#53)、現状の減速度と消灯しきい値とが比較される(#54)。その際、消灯しきい値:S2は、点灯報知判定に用いられたしきい値:S1に比べ相対的に低いレベルの値が用いられるので、例えば、S2=S(S1)のような関係式(変換マップ)を用いて導出される。
減速度:Rが消灯しきい値:S2を下回っていないならば(#54No分岐)、まだ消灯の判定条件に達していないとみなして、そのままこのルーチンを終了する。減速度:Rが消灯しきい値:S2を下回っていれば(#54Yes分岐)、減速度に関する消灯の判定条件は満たされているので、さらに最低限の点灯時間を確保するためのタイマーチェックを行う(#55)。タイマーがタイムアップしていなければ(#55No分岐)、まだ最低限の点灯時間が確保されていない可能性があるとみなして、減速報知灯10の消灯は行わずにこのルーチンを終了する。タイマーがタイムアップしていれば(#55Yes分岐)、低限の点灯時間が確保されているので、減速報知灯10を消灯する(#56)。次いで、タイマーをリセットし(#57)、点灯フラグ及び消灯フラグに「0」を設定し(#58)、このルーチンを終了する。
【0064】
上記のような減速報知灯10に対する点灯・消灯制御により、外部に報知すべき減速が生じた際には減速報知灯10が点灯し、減速を報知する必要がなくなれば減速報知灯10が消灯する。なお、減速報知灯10の不都合な短時間での点灯と消灯との繰り返しは、上記のような消灯判定条件、つまり消灯処理の導入により回避される。
〔別実施の形態〕
(1)上述した実施形態では、変速装置2Aが、油圧ポンプ21と油圧モータ22とからなる油圧無段変速装置であったが、ベルト無段変速装置など他の無段変速装置であってもよい。さらには、多段式のギヤ変速装置であってもよい。
(2)上述した実施形態では、変速操作デバイス81の操作変位を変速装置2Aに伝達する操作中継装置8の形態として、変速操作デバイス81と変速装置2Aの変速操作部とをリンク機構で連結する機械式を採用したが、変速操作デバイス81の変位を電気的に検出し、その検出信号に基づいて制御されるアクチュエータによって変速装置2Aの変速操作部を操作する、いわゆるバイワイヤと呼ばれる電気式であってもよい。あるいは、油圧パイロット式を採用することも可能である。
(3)図5で示されたような、可変容量型の油圧ポンプ21と油圧モータ22とを第1油路23aと第2油路23bで接続したような油圧無段変速装置では、前進走行時における変速装置の減速状態への移行は、低圧側油路として機能する第2油路23の油圧から判定することができる。つまり、変速装置2Aやエンジン31に起因して車両が減速する場合、対地走行機構から回転力が戻ってきて、第2油路23の油圧が上昇する現象が生じる。この現象を油圧検出器を用いて検知することで、車両の減速度を算定することが可能となる。
(4)上述した実施形態では、車速検出部96に回転数信号を送る回転数センサ96aは、ディファレンシャル機構のギヤといった、変速後の回転数を示すギヤの被回転検出体として利用していたが、その他のギヤあるいは前輪3aや後輪3bの車軸に設けられたスリット円板などを利用してもよい。回転数センサ96aには、ギヤの歯を検出するフォトインタラプタなどが用いられる。その場合、ギヤの位置回転で歯数分のパルス信号が得られるので、歯数の多いギヤを使用したほうが、良好な検出精度が得られる。
(5)図12は、本発明による農作業車両の別形態としての普通型コンバインを示す側面図である。このコンバインは、稲、麦など植立穀稈を農作業装置としての刈り取り装置120によって刈り取り、刈り取り装置120から搬送機構121によって搬送された穀稈を脱穀処理する脱穀装置141、及び脱穀装置141からの脱穀粒を貯留する穀粒タンク142を備えている。このコンバインも、機体の後端部に、ブレーキランプと兼用の減速報知灯10が設けられている。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、実施形態で採用されたような収穫機だけでなく、トラクタなどの農作業車両に適用され、特に、路上走行と圃場走行の両方を行う農作業車両にとって好都合である。
【符号の説明】
【0066】
10:減速報知灯
11:機体フレーム
12:収穫処理装置(農作業装置)
16:キャビン
17:運転部
2 :動力伝達機構
2A:HST(変速装置)
2B:ギヤ変速装置
21:油圧ポンプ
22:油圧モータ
23a:高圧側油路
23b:低圧側油路
24:斜板調節機構
3 :対地走行機構
31:エンジン
4 :作業用の動力伝達機構
40:作業クラッチ
41:収穫処理用ベルト伝動機構
42:搬送用ベルト伝動機構
43:残稈処理用ベルト伝動機構
5 :減速報知処理部
50:減速度算定部
51:報知灯制御部
52:路上走行/圃場走行判定部
53:変位変化量算定部
8 :操作中継装置
81:主変速レバー(変速操作デバイス)
82: 副変速レバー
83:アクセルペダル(変速操作デバイス)
84:ブレーキペダル
85:作業クラッチレバー
86:ステアリングホイール
91:操作変位センサ
92:作業状態検出部
93:変速位置検出部
93a:主変速センサ
93b:副変速センサ
94:作業クラッチセンサ
95:アクセルセンサ
96:車速検出部
96a:回転数センサ
97:ブレーキセンサ
W :農作業装置
図1
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図12