(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6238602
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】MC級中芯原紙の製造方法
(51)【国際特許分類】
D21H 27/00 20060101AFI20171120BHJP
D21H 11/14 20060101ALI20171120BHJP
D21H 21/10 20060101ALI20171120BHJP
D21H 17/41 20060101ALI20171120BHJP
D21H 27/40 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
D21H27/00 Z
D21H11/14
D21H21/10
D21H17/41
D21H27/40
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-138782(P2013-138782)
(22)【出願日】2013年7月2日
(65)【公開番号】特開2015-10308(P2015-10308A)
(43)【公開日】2015年1月19日
【審査請求日】2016年6月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081558
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 晴男
(74)【代理人】
【識別番号】100154287
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 貴広
(74)【代理人】
【識別番号】100126169
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 淳子
(74)【代理人】
【識別番号】100130812
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 淳
(72)【発明者】
【氏名】南 勝仁
(72)【発明者】
【氏名】浅野 隆一
(72)【発明者】
【氏名】津田 裕
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 学
(72)【発明者】
【氏名】師井 茂倫
【審査官】
長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−186821(JP,A)
【文献】
特開2011−038198(JP,A)
【文献】
特開2009−150009(JP,A)
【文献】
紙パルプ技術便覧,日本,紙パルプ技術協会,1992年 1月30日,第5版,第586頁−第588頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00−1/38
D21C1/00−11/14
D21D1/00−99/00
D21F1/00−13/12
D21G1/00−9/00
D21H11/00−27/42
D21J1/00−7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
雑誌古紙と段ボール古紙を合計で80%以上含有する紙料スラリーに、硫酸バンドと紙力剤を添加せず、アクリルアミド系のカチオン性歩留剤を前記紙料に対する固形分の添加率が50〜300ppmとなるように内添して抄造する、JIS P8126:2005に従って測定したISO圧縮強さ(横)が坪量115gで0.72kN/m以上、坪量120gで0.75kN/m以上、坪量160gで1.21kN/m以上であり、且つ、JIS P8113:2006に従って測定した引張強さ(縦)が坪量115gで3.5kN/m以上、坪量120gで3.6kN/m以上、坪量160gで4.8kN/m以上である、JIS P3904:2011に規定されたMC級中芯原紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は
、JIS P3904:2011に記載のMC級中芯原紙
の製造方法に関する
ものである。
【背景技術】
【0002】
中芯原紙は段ボールの波型段を形成する板紙で、MC級中芯原紙とはJIS P3904:2011のなかに記載された中芯原紙でISO圧縮強さ(横)と引張強さ(縦)の規格が規定された中芯原紙である。
【0003】
近年は中芯原紙の原料として雑誌古紙等の低グレード古紙が多配合されることが多い。特許文献1では雑誌古紙等の低グレード古紙が増えると、古紙自体の強度が低下するのでポリエチレンワックス等の滑剤と水溶性高分子を主成分とする塗工液をオンマシン塗布したことを特徴とする段ボール用中芯原紙の製造方法が提案されている。
【0004】
古紙の品質が低下すると、中芯原紙の抄紙工程において樹脂系のピッチによるトラブルが増加する。樹脂系のピッチは古紙から持ちこまれるインキビヒクル、コート紙用のバインダーに用いられるラテックス類、ガムテープやラベルに用いられる粘着物質、書籍・雑誌類の背糊として使用されるホットメルト接着剤などに由来する物質である。ピッチは抄紙装置内部や用具類に付着して搾水不良や断紙などを引き起こし、紙の生産性を低下させる。特許文献2ではこれらピッチによる障害を回避するために、古紙を原料とする中性抄紙において、(1)中性サイズ剤、(2)ポリマーサイズ剤をパルプスラリーに添加するこ
とを特徴とする板紙の製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3539281号公報
【特許文献2】特許第5011995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
JIS P3904:2011に規定されるISO圧縮強さ(横)と引張強さ(縦)の規格を満足するJIS P3904:2011に規定されるMC級中芯原紙を提供することを課題とする。前記した古紙由来のピッチ分は抄造マシンやワインダーにおいて紙に取り込まれず、抄紙系内の各箇所に付着するなどして、断紙の原因物質となり、MC級中芯原紙の生産効率の低下や客先でのクレームの要因となっている。近年、前記ピッチ分は低グレード古紙の配合増加や古紙自体の品質低下により著しく増加しており、MC級中芯原紙の製造メーカーにとっては、ピッチ分の効果的処理は大きな課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
JIS P8126:2005に従って測定したISO圧縮強さ(横)が坪量115gで0.72kN/m以上、坪量120gで0.75kN/m以上、坪量160gで1.21kN/m以上であり、且つ、JIS P8113:2006に従って測定した引張強さ(縦)が坪量115gで3.5kN/m以上、坪量120gで3.6kN/m以上、坪量160gで4.8kN/m以上であるMC級中芯原紙の抄造において、
雑誌古紙と段ボール古紙を合計で80%以上含有する紙料スラリーに、硫酸バンドと紙力剤を添加せず、
アクリルアミド系のカチオン性歩留剤を
前記紙料に対する固形分の添加率が50〜300ppmとなるように内添して抄造す
る。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、MC級中芯原紙の抄造において、従来のような多くの薬剤を使用することなく、カチオン性歩留剤の一液処方でピッチ分が少なく生産性が高いMC級中芯原紙を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明によるMC級中芯原紙は低グレード古紙である雑誌古紙と段ボール古紙を合計で80%以上含有する。(財)古紙再生促進センター発行の古紙ハンドブック2010によると、雑誌古紙とは「家庭、会社及び官公庁等より発生する雑誌及び返本・残本」で段ボール古紙とは「段ボール・紙器工場、市中等より発生する段ボール」のことをいい、新段ボール古紙「製函工場から発生する段ボールの裁落及び損紙」と比較するとリサイクル回数が多くピッチ分を多く含む段ボール古紙である。
【0010】
前記した低グレード古紙である雑誌古紙と段ボール古紙を合計で80%以上含有する紙料スラリーにカチオン性歩留剤を紙料に対して固形分で50〜300ppm((好ましくは100〜200ppm)内添し、抄造を行う。
【0011】
前記カチオン性歩留剤を前記の範囲で添加することにより、原料歩留(ワンパスリテン
ション以下OPR)が向上し、低グレード古紙内に含まれる澱粉・紙力剤がMC級中芯原紙に取り込まれ、硫酸バント、紙力剤を使用しないカチオン性歩留剤の一液処方でもJIS P3904:2011に記載のISO圧縮強さ(横)と引張強さ(縦)の規格値を満足させることができる。
【0012】
前記カチオン性歩留剤の添加率が下限50ppm未満だと、ISO圧縮強さ(横)と引
張強さ(縦)に未達となり、添加率が上限300ppmを越えると、紙料の凝集が強すぎて、地合が悪化し、前記強度も低下する。
【0013】
前記紙料スラリーのPHは6.5〜7.5であることが望ましい。前記したカチオン性歩留剤の添加割合と紙料スラリーのPHにすることで、ピッチ分が粗大粘着物になる前に繊維へ定着させ抄紙工程内から紙と共に系外に出て、白水循環系中の集塊化したピッチ分等の濁度成分の濃度を低下させることが可能となる。
【0014】
前記したカチオン性歩留剤の添加率と紙料スラリーのPHを所望の範囲に設定すると、
カチオン性歩留剤の歩留効果により、OPR(抄紙ワイヤーへの原料歩留率)は80.0〜90.0%となる。
【0015】
前記したカチオン性歩留剤の添加率を所望の範囲に設定すると、抄紙系内のピッチ分が粗大粘着物になる前に繊維へ定着させ抄紙工程内から紙として排出し、白水循環系中の集塊化したピッチ分等の濁度成分の濃度を低下させることが可能となりピッチ分起因の抄紙機・ワインダーでの紙切れが減ると考えられる。
【実施例1】
【0016】
原料として段ボール古紙65%、雑誌古紙25%、台紙古紙10%の割合で、紙料スラリーを調成した。その時の抄紙系内の紙料スラリーのPHを7.0であった。その紙料スラリーにカチオン性歩留剤{ハイモ(株)製、RX−1100、主成分;アクリルアミド・[2−(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウム=クロリド共重合物}を固形分で60ppm(対紙料固形分、以下同)添加して、オントップ多筒型抄紙機において坪量115g/m
2のMC級中芯原紙を製造した。
【0017】
[実施例2]
実施例1のカチオン性歩留剤の固形分添加率を150ppmとした以外は実施例1と同様にMC級中芯原紙を製造した。
【0018】
[実施例3]
実施例1のカチオン性歩留剤の固形分添加率を300ppmとした以外は実施例1と同様にMC級中芯原紙を製造した。
【0019】
[実施例4]
実施例1のカチオン性歩留剤の固形分添加率を150ppmとし、坪量を120g/m
2とした以外は実施例1と同様にMC級中芯原紙を製造した。
【0020】
[実施例5]
実施例1のカチオン性歩留剤の固形分添加率を150ppmとし、坪量を160g/m
2とした以外は実施例1と同様にMC級中芯原紙を製造した。
【0021】
[比較例1]
実施例1のカチオン性歩留剤の固形分添加率を40ppmとした以外は実施例1と同様にMC級中芯原紙を製造した。
【0022】
[比較例2]
実施例1のカチオン性歩留剤の固形分添加率を330ppmとした以外は実施例1と同様にMC級中芯原紙を製造した。
【0023】
[比較例3]
実施例1のカチオン性歩留剤に変えて、カチオン性紙力剤{星光PMC(株)製、DS4709]を固形分で0.3%添加し、凝結剤{星光PMC(株)製、AC7303}を固形分で0.1%添加し、硫酸バンドを有姿で1.3%添加した以外は実施例1と同様にMC級中芯原紙を製造した。
【0024】
[評価項目の測定方法]
OPR;撹拌プロペラ回転数800〜1,400rpm容器に採取した歩留剤無添加の原料を500mL投入し、カチオン性歩留剤を添加する。容器下部に設置した200meshのワイヤーを通過させた白水を採取し、ワイヤー通過前のSS濃度(濾紙でろ過−100%とする)と200meshワイヤー通過後の白水SS濃度(歩留まらない分)を測定する事でOPRを測定する。
坪量;JIS P 8124:2011
ISO圧縮強さ(横);JIS P 8126:2005
引張強さ(縦);JIS P 8113:2006
地合;MC級中芯原紙を光に当て目視で地合を評価する。
【0025】
○地合が均一で良好 △凝集物が散見される ×凝集物多く不良
断紙回数;1日あたりに発生する断紙回数
【0026】
【0027】
実施例1〜5はいずれもOPRが83〜88%でJIS P3904:2011に規定された各坪量あたりのISO圧縮強さ(横)と引張強さ(縦)はJIS P3904:2011に規定された規格値以上で地合も良好であった。また断紙回数は0.3回/日台であった。
【0028】
比較例1は実施例と比較すると、カチオン性歩留剤の添加率が少なく、OPRは80%未満で原料の歩留が悪化し、ISO圧縮強さ(横)と引張強さ(縦)共にJIS P3904:2011に規定された規格値に未達だった。断紙回数も実施例より増加した。理由は原料歩留低下に伴い、ピッチ分のMC級中芯原紙への取り込みが低下し、MC級中芯原紙に取り込まれなかったピッチ分が抄紙系内の各箇所に付着して、そのピッチ分がMC級中芯原紙の表面に付着して断紙の原因となったと考えられる。
【0029】
比較例2はカチオン性歩留剤の添加率が多すぎて原料の凝集が強すぎて、前記強度と地合が実施例より悪化した。
【0030】
比較例3は従来行っていた硫酸バントを使用して紙力剤と凝結剤を添加する方法で、OPRは80%を超え、強度も規格値をクリアーしているが、ピッチ分のMC級中芯原紙への取り込み分が実施例より低く、断紙回数が増加したと考えられる。