特許第6238615号(P6238615)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6238615
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】車輪駆動式作業車
(51)【国際特許分類】
   A01D 69/00 20060101AFI20171120BHJP
   G08G 1/00 20060101ALI20171120BHJP
   G08B 13/00 20060101ALI20171120BHJP
   G08B 25/10 20060101ALI20171120BHJP
   A01D 41/12 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   A01D69/00 302L
   G08G1/00 D
   G08B13/00 B
   G08B25/10 A
   A01D41/12 C
【請求項の数】11
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-152113(P2013-152113)
(22)【出願日】2013年7月22日
(65)【公開番号】特開2015-19640(P2015-19640A)
(43)【公開日】2015年2月2日
【審査請求日】2015年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100107308
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 修一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180507
【弁理士】
【氏名又は名称】畑山 吉孝
(74)【代理人】
【識別番号】100137590
【弁理士】
【氏名又は名称】音野 太陽
(72)【発明者】
【氏名】中 珠喜
【審査官】 大熊 靖夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−149746(JP,A)
【文献】 特開2012−047694(JP,A)
【文献】 特開2007−111008(JP,A)
【文献】 特開2010−188961(JP,A)
【文献】 特開2002−190871(JP,A)
【文献】 特開2005−315768(JP,A)
【文献】 特開平11−053674(JP,A)
【文献】 特開2007−248347(JP,A)
【文献】 特公平07−081872(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01D 41/12−41/127,67/00,69/00
E02F 9/20
G08G 1/00−1/137
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
在している作業地間を、道路を自走することによって移動する車輪駆動式作業車であって、
エンジンと、
作業地を作業しながら走行する作業走行、及び作業地間を結ぶ一般道路を作業せずに走行する道路走行のために前記エンジンによって駆動される車輪走行装置と、
前記作業走行時に作業を行うために前記エンジンによって駆動される作業装置と、
自車位置を示す位置情報を生成する位置情報生成部と、
前記作業走行と前記道路走行とを判別する走行判別部と、
前記作業走行時における情報を作業走行情報として生成する作業走行情報生成部と、
前記道路走行時における情報を道路走行情報として生成する道路走行情報生成部と、
前記道路走行情報と前記位置情報とを関係づけると共に、前記作業走行情報と前記位置情報とを関係づけることによって作業車情報を生成する管理情報生成部と、
を備えた車輪駆動式作業車。
【請求項2】
前記走行判別部は、前記エンジンから前記作業装置への動力伝達を制御する作業クラッチの状態に基づいて前記作業走行と前記道路走行とを判別する請求項1に記載の車輪駆動式作業車。
【請求項3】
前記エンジンからの動力を変速して前記車輪走行装置に伝達する動力伝達機構が設けられており、前記走行判別部は前記動力伝達機構における変速比に基づいて前記作業走行と前記道路走行とを判別する請求項1または2に記載の車輪駆動式作業車。
【請求項4】
前記走行判別部は、前記位置情報と地図情報とに基づいて前記作業走行と前記道路走行とを判別する請求項1から3のいずれか一項に記載の車輪駆動式作業車。
【請求項5】
前記作業走行情報及び前記道路走行情報には、前記車輪走行装置の車輪の回転速度または当該回転速度から算出される走行距離あるいはその両方が含まれている請求項1から4のいずれか一項に記載の車輪駆動式作業車。
【請求項6】
前記作業走行情報及び前記道路走行情報には、前記エンジンの稼働時間が含まれている請求項1から5のいずれか一項に記載の車輪駆動式作業車。
【請求項7】
前記作業装置は圃場から農作物を収穫する収穫作業装置であり、前記作業走行情報には、収穫物の収量または食味あるいはその両方が含まれている請求項1から6のいずれか一項に記載の車輪駆動式作業車。
【請求項8】
通信回線を介して前記作業車情報を外部送信する回線通信モジュールが備えられている請求項1から7のいずれか一項に記載の車輪駆動式作業車。
【請求項9】
前記走行判別部によって作業走行中であると判定された場合の前記作業車情報の送信間隔は、前記走行判別部によって道路走行中であると判定された場合の前記作業車情報の送信間隔に比べて短く設定されている請求項8に記載の車輪駆動式作業車。
【請求項10】
前記道路走行時には道路地図を用いた地図マッチング法を用いて前記位置情報を修正するとともに、前記作業走行時には作業地地図を用いた地図マッチング法を用いて前記位置情報を修正する位置情報修正部が備えられている請求項1から9のいずれか一項に記載の車輪駆動式作業車。
【請求項11】
前記車輪走行装置の車輪の回転速度から算出される走行距離と、前記位置情報から算出される走行距離とに基づいて車輪のスリップ率が算出され、前記スリップ率が作業地属性値として前記作業車情報に含まれる請求項1から10のいずれか一項に記載の車輪駆動式作業車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業地を作業しながら走行する作業走行、及び作業地間を結ぶ一般道路を走行する道路走行を行う車輪駆動式作業車に関する。
【背景技術】
【0002】
農作業車や土木作業車などでは、走行装置としてクローラ走行機構を備えたものと、車輪走行機構を備えたものがある。クローラ走行機構を備えた作業車では、一般道路(高速道路を含む)、いわゆる道路交通法が適用されるような公道を走行することは難しく、トラックなどに載せられて作業地を移動することになる。これに対して、車輪走行機構を備えた作業車では、一般道路を走行することができるので、一般道路を走行しながら各作業地を長距離移動するような運用に好都合である。
【0003】
また、IT技術の発展により作業車もIT化され、作業車において生成される各種情報が遠隔地の管理センタ(詳しくは管理センタに構築されたコンピュータ)に送信され、そこで情報処理され、管理される技術も広まっている。例えば、特許文献1に開示された作業車では、エンジンの稼働時間積算メータ、燃料量計、トラブル等の情報を移動体通信システムによりサービスセンタに送信され、これにより登録作業車のメンテナンス状況がサービセンタよって把握され、サービスセンタが機敏・的確に対応することができる。しかしながら、この特許文献1で例示されている作業車であるコンバインは、クローラ走行機構で走行するものであり、基本的には圃場などの作業地を走行するだけで、高速道路や一般道路などの公道を比較的速い速度で移動することは考えられていない。そのため、この特許文献1が開示するシステムでは、作業を行いながら作業地を走行する作業走行と、移動目的で一般道路を走行する作業走行とでは、エンジンやその他の車両構成要素の負荷が異なるにも関わらず、それぞれの場合に生じる情報を区別することは、意図されていない。
【0004】
また、コンバインやトラクタなど作業車が収集する情報(例えば、土壌条件、生育、収量など)あるいは車両自体の情報(例えば、エンジン回転、車輪回転、燃料消費量など)と、GPSに基づく位置情報を統合する計測システムが特許文献2から知られている。このシステムを採用した作業車では、GPS信号を受信するタイミングを基準として、GPS信号にAD変換された収量情報が付与され、小型のマイコンボードの処理により位置情報と収量情報が統合される。さらに、車輪の回転数を回転計で検出し、GPSの信号に、GPS信号を受信するタイミングを基準として、回転計で検出されたパルス数を付与し、小型のマイコンボードの処理により車両速度の情報と車輸回転の情報を統合することで、スリップ率が計測される。この特許文献2が開示するシステムでは、作業車情報や収量情報(収穫物情報)がGPS(位置情報)と統合されるが、それらを道路走行と作業走行とを区別して管理するということは示唆さえされていない。スリップの計測においても、道路走行時と作業走行時とではその意味合いは異なるが、やはりそれらを区別することは意図されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−190871号公報(図1
【特許文献2】特開2005−315768号公報(図1図7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、従来から、作業車の走行にともなって得られる情報を位置情報と関係づける技術は知られているが、そのような情報を、作業地を作業しながら走行する作業走行と作業地間を結ぶ一般道路を走行する道路走行とで区分けして管理することは行われていない。しかしながら、遠く離れて点在している作業地を、自らの道路走行によって移動するような車輪駆動式作業車において取得される情報を、道路走行と作業走行に区分けして管理したいという要望が生じている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による車輪駆動式作業車は、点在している作業地間を、道路を自走することによって移動する車輪駆動式作業車であって、エンジンと、作業地を作業しながら走行する作業走行、及び作業地間を結ぶ一般道路を作業せずに走行する道路走行のために前記エンジンによって駆動される車輪走行装置と、前記作業走行時に作業を行うために前記エンジンによって駆動される作業装置と、自車位置を示す位置情報を生成する位置情報生成部と、前記作業走行と前記道路走行とを判別する走行判別部と、前記作業走行時における情報を作業走行情報として生成する作業走行情報生成部と、前記道路走行時における情報を道路走行情報として生成する道路走行情報生成部と、前記道路走行情報と前記位置情報とを関係づけると共に、前記作業走行情報と前記位置情報とを関係づけることによって作業車情報を生成する管理情報生成部とを備えている。
【0008】
上記構成により、作業車自体から取得される情報や作業車による作業を通じて取得される情報などを道路走行時と作業走行時とで区分けして、それぞれ道路走行情報と作業走行情報として生成される。また、各走行情報は、例えばGPSを用いた位置情報生成部によって生成される位置情報と関係づけられるので、当該情報が生成された位置も管理することができる。これにより、この車輪駆動式作業車が取得する情報は、道路走行時または作業走行時で、かつどこで取得されたのかを把握することができる作業車情報として管理可能である。例えば、道路走行時と作業走行時との燃費や車速を比較する際に、特定の道路を走行している時の燃費や車速と、特定の作業地で作業をしている時の燃費や車速とを比較するといったことも可能となる。一例を挙げると、道路走行距離と作業走行距離とに対して異なる重みを設定してトータル走行距離を算定することで、より適切な車輪交換時期を判定することが可能となる。
【0009】
【0010】
走行判別部における作業走行と道路走行とを判別する好適な実施形態の1つでは、前記エンジンから前記作業装置への動力伝達を制御する作業クラッチの状態に基づいて前記作業走行と前記道路走行とを判別する。例えば、作業負荷等を考慮する場合には、作業車が実際に作業をしながら走行しているかどうかが重要となる。したがって、作業装置へ動力が伝達されるための必須要件として作業クラッチの接続状態に基づいて作業走行を判別することは有益である。
【0011】
走行判別部における作業走行と道路走行とを判別する好適な実施形態の他の1つでは、前記エンジンからの動力を変速して前記車輪走行装置に伝達する動力伝達機構が設けられており、前記走行判別部は前記動力伝達機構における変速比に基づいて前記作業走行と前記道路走行とを判別する。トラクタやコンバインなどの作業車では、広範囲の多段変速、または無段変速を採用しており、圃場などでの走行では道路での走行に比べて非常に低い変速比に設定するので、このことを利用して、作業走行と道路走行とを効率よく判別することができる。
【0012】
もちろん、作業走行を行う場所と道路走行を行う場所は基本的には明確に異なっている。本発明による車輪駆動式作業車では自車位置を示す位置情報が生成されていることから、前記走行判別部が、前記位置情報と地図情報とに基づいて前記作業走行と前記道路走行とを判別することも、効果的である。
【0013】
車輪駆動式作業車のメンテナンス管理にとって、その走行距離が重要なファクタとなる。走行距離は車輪の回転速度(周速)によって求めることができるので、管理情報としては、車輪の回転速度でも当該回転速度から算出される走行距離のいずれでもよい。このことから、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記作業走行情報及び前記道路走行情報には、前記車輪走行装置の車輪の回転速度または当該回転速度から算出される走行距離あるいはその両方が含まれている。車輪駆動式作業車のメンテナンス管理にとって同様に重要な情報は、エンジンの稼働時間であるので、前記作業走行情報及び前記道路走行情報に、前記エンジンの稼働時間を含めることも好適である。
【0014】
本発明による車輪駆動式作業車が農作物を収穫する収穫機である場合、前記作業装置は圃場から農作物を収穫する収穫作業装置となるので、前記作業走行情報には、収穫物の収量または食味あるいはその両方が含まれていると好都合である。特に、本発明では、そのような収穫物の収量や食味といった収穫情報に位置情報を関係づけることができるので、情報処理によって、圃場ないしは圃場区画毎の収量や食味の分布を管理することが可能となる。このような圃場区画毎の統計的な収穫管理は営農的に価値ある情報となる。
【0015】
作業車で生成された作業車情報は、当該作業車だけで利用されるよりは、管理センタなどに登録された多数の作業車からの作業車情報が、当該管理センタで集中管理されると情報利用の点から好都合である。この目的のために、本発明による車輪駆動式作業車には、通信回線を介して前記作業車情報を外部送信する回線通信モジュールが備えられることが好ましい。
また、本発明において、前記走行判別部によって作業走行中であると判定された場合の前記作業車情報の送信間隔は、前記走行判別部によって道路走行中であると判定された場合の前記作業車情報の送信間隔に比べて短く設定されていると好適である。
【0016】
GPSなどによる位置情報は、絶対位置が得られるが、数m、場合によっては数十mの誤差を生じる。このため、地図情報を用いた地図マッチングで得られた自車位置を、作業車が走行できるような位置に強制的に変更して、その位置を修正することが望ましい。このような地図マッチングは、道路走行ではカーナビゲーションシステムにおいて広く利用されている。これは、正確な作業地地図さえ作成しておけば、作業走行にも適用可能である。その目的で、本発明による好適な実施形態の1つでは、前記道路走行時には道路地図を用いた地図マッチング法を用いて前記位置情報を修正するとともに、前記作業走行時には作業地地図を用いた地図マッチング法を用いて前記位置情報を修正する位置情報修正部が備えられている。
【0017】
本発明による車輪駆動式作業車は位置情報生成部を備えているので、経時的に得られる位置情報と車輪の回転速度(周速)から算出される走行距離とを組み合わせると、実移動距離と車輪回転とのずれから、走行に関して重要な情報である車輪スリップを副次的に求めることができる。このため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記車輪走行装置の車輪の回転速度から算出される走行距離と、前記位置情報から算出される走行距離とに基づいて車輪のスリップ率か算出され、前記スリップ率が作業地属性値として前記作業車情報に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の基本的な構成を説明する模式図である。
図2】本発明の実施形態の1つであるトウモロコシ収穫機の側面図である。
図3】トウモロコシ収穫機の平面図である。
図4】トウモロコシ収穫機の動力伝達経路を示す模式図である。
図5】トウモロコシ収穫機の運転部領域の平面図である。
図6】トウモロコシ収穫機における、アンテナユニットとアンテナケーブルの配置領域を示す側面図である。
図7】本発明の車輪駆動式作業車の作業車制御系を含む営農システム全体の機能ブロック図である。
図8】本発明による通信ユニットとアンテナユニットの具体的な形態の1つを示す斜視図である。
図9】本発明による車輪駆動式作業車を採用した営農情報管理における情報の流れを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明による車輪駆動式作業車の具体的な実施形態を説明する前に、図1を用いて本発明を特徴付けている基本的な構成を説明する。
図示されている車輪駆動式作業車は車輪駆動式収穫機であり、エンジン31によって駆動される車輪を有する車輪走行装置3Aと、作業装置3Bとして農作物を収穫する収穫装置とを備えている。エンジン31と車輪走行装置3Aとの間には、パワートレインとも呼ばれる動力伝達機構2が介装されており、動力伝達機構2には変速装置2Aが含まれている。作業装置3Bにもエンジン31から動力を供給され、作業地を走行しながら、収穫作業が行われる。
【0020】
この車輪駆動式作業車の作業車制御系には、エンジン31、動力伝達機構2、車輪走行装置3A、作業装置3Bの状態を検出するセンサ群が接続されており、各種センサ信号が入力される。作業車制御系には、作業走行情報生成部51a、道路走行情報生成部51b、管理情報生成部72が構築されている。作業走行情報生成部51aは、作業装置3Bを駆動させながら走行する作業走行時に得られる各種情報を作業走行情報として生成する。道路走行情報生成部51bは、作業装置3Bを駆動せずに一般道路を移動走行する道路走行時に得られる各種情報を道路走行情報として生成する。管理情報生成部72は、作業走行情報または道路走行情報あるいはその両方に対して自車位置を示す位置情報を関係づけて作業車情報を生成する。位置情報は、一般的には、カーナビゲーションシステムなどで採用されているGPSモジュール62として構成されている位置情報生成部によって生成されるが、GPS以外の方法で自車位置を検知するものを採用してもよい。
【0021】
本発明では、圃場や鉱山作業現場や建築現場などの作業地を走行すること作業走行と定義づけ、一般道路(高速道路を含む)などの公道、つまり道路交通法が適用される道路上を走行することを道路走行と定義づけている。一般に、作業走行においては、車速は低速であるが、大きな走行負荷や作業負荷を受ける傾向があり、道路走行においては、そのような負荷が低いが車速は高速である傾向がある。
【0022】
作業車制御系には、さらに作業走行と道路走行とを判別する走行判別部53が構築されている。走行判別部53における作業走行と道路走行の判別には、種々の方法を用いることができる。例えば、動力伝達機構2の変速状態(作業クラッチの状態、変速装置2Aの変速比、伝動軸の回転速度など))を特定し、その特定された変速状態から作業走行と道路走行とを判別することができる。もっと直接的には、GPSモジュール62を通じて得られた位置情報に地図情報を照らし合わせて、道路以外を走行している場合作業走行中であると判別し、道路を走行している場合道路走行であると判別してもよい。
【0023】
車両メンテナンスのための情報などでは、回転速度または当該回転速度から算出される車両の走行距離、さらにはエンジン31の稼働時間が挙げられるが、この発明では、これらの情報は、作業走行時に得られたものであるか、あるいは道路走行時に得られたものであるかを区別されている。例えば、作業走行時の走行情報は、作業走行情報として作業走行情報生成部51aで生成され、道路走行時の走行情報は、道路走行情報として道路走行情報生成部51bで生成される。この走行情報は、広義の意味を有しており、その走行で得られた成果、例えば作業装置3Bが圃場から農作物を収穫する収穫作業装置であれば、作業走行情報には、各測定ユニットで測定された収穫物の収量や食味も含めることができる。
【0024】
この車輪駆動式作業車には、携帯電話通信事業者などが提供している無線の通信回線を介して作業車情報を外部送信、例えばインターネットと接続されている管理センタ8(詳しくは管理センタ8に構築されているコンピュータシステム)に送信する回線通信モジュール63が備えられており、ここでは、GPSモジュール62と一体化されて通信ユニット6に内蔵されている。通信ユニット6は、作業車の電装品などを収納する電装品収納空間に配置されるが、それぞれのアンテナからなるアンテナユニット60は良好な受信性能を得るために、作業車の高くに位置する部材に取り付けられている。
【0025】
以上の作業車制御系の構成により、この作業車で取得される情報は、作業走行情報と道路走行情報とに区分けされ、さらに位置情報に関係づけられて作業車情報として、回線通信モジュール63から管理センタ8などの外部のコンピュータシステムに送信され、管理される。
【0026】
なお、図1には、付加的な機能部として、スリップ率算出部73と位置情報修正部74とが備えられている。スリップ率算出部73は、車輪走行装置3Aの車輪の回転速度から算出される走行距離と、GPSモジュール62による位置情報から算出される走行距離とに基づいて車輪のスリップ率を算出する。このようなスリップ率は作業車メンテナンス情報として有益であるだけでなく、作業地の特性を示す情報としても有益である。このことから、このスリップ率は作業地属性値として作業車情報に含めている。位置情報修正部74は、道路走行時には道路地図を用いた地図マッチング法を用いてGPSモジュール62による位置情報を修正する。作業走行時には作業地地図を用いた地図マッチング法を用いて前位置情報を修正するので、この位置情報修正部74には正確な作業地地図が予め設定されている。なお、道路地図を用いた地図マッチングはカーナビゲーションシステムで広く採用されているので、この位置情報修正部74はGPSモジュール62ともにカーナビゲーションシステムに組み込んでもよい。
【0027】
次に、本発明による車輪駆動式作業車の具体的な実施形態の1つとしてトウモロコシ収穫機と取り上げ、図2から図6を用いてその構造を説明する。
【0028】
図2図3に示すように、このトウモロコシ収穫機は車輪駆動式であり、車輪走行装置3Aとして、左右一対の向き固定の前輪3aと操向操作可能な左右一対の後輪3bとを備え、車輪走行装置3Aに機体フレーム11が対地支持されている。前輪3aと後輪3bとを区別する必要がない場合、これらは単に車輪3と呼ばれている。トウモロコシ収穫機は、作業装置3Bとして、収穫処理装置12とフィーダ13と貯留タンク14と残稈処理装置15とを備えている。収穫処理装置12は機体フレーム11の前部に位置してトウモロコシを収穫する。フィーダ13は収穫処理装置12の後部から機体フレーム11の上方にわたって後方上がりの状態で前後方向に延びて、収穫したトウモロコシを機体フレーム11の後部に位置する貯留部としての貯留タンク14まで搬送する。残稈処理装置15は、機体フレーム11の下部であって前輪3aと後輪3bとの間の前後中間部に位置する。
【0029】
トウモロコシは、植立する茎稈に対し収穫時期に多数の種子(実)を内包する房状部を作る。この房状部は、包葉の内部に多数の種子が含まれ、この種子は棒状の芯の外面に整列する形態で形成される。本発明に係るトウモロコシ収穫機は、包葉の内部に多数の種子を備えた房状部を収穫物として収穫して回収するものである。
【0030】
機体フレーム11は、車体前部に上方がキャビン16により覆われる状態で運転部17が備えられ、その運転部17の後方側であって且つ車体右側箇所にエンジンルーム30が備えられている。エンジンルーム30には、下部にエンジン31を備え、エンジン31の上方にエンジン冷却用のラジエータ32が備えられている。ラジエータ32の車体横幅方向内方側には、ラジエータ32を通して外気を吸気するためのラジエータファン32aが備えられ、ラジエータ32の車体横幅方向外方側には、吸気される外気に含まれる塵埃を除去する多孔状の防塵カバー34が備えられている。図6に拡大されて示されているように、運転部17とエンジン31との間には、エンジン31に燃焼用空気を吸気する吸気機構35としてのエアクリーナ35a及びプレクリーナ35bが備えられ、エアクリーナ35aとプレクリーナ35bとの間を連結する空気導入管35cがキャビン16の後壁に沿って延設されている。空気導入管35cは、固定ブラケットを用いて、キャビン16や機体フレームに複数個所で、固定されている。図6では、キャビン16のフレーム上部に取り付けられた上部固定ブラケット161、キャビン16のフレーム中間部に取り付けられた中間固定ブラケット162、機体フレーム11に取り付けられた下部固定ブラケット163が図示されている。
【0031】
トウモロコシ収穫機の機体は、エンジンルーム30に設けたエンジン31の動力を動力伝達機構2で変速した後に左右一対の前輪3aに伝達して前輪3aを駆動することにより走行する。また、後輪3bは、図示は省略されている、操向操作用の油圧シリンダによって向き変更操作自在に設けられている。したがって、機体は、前輪3aの駆動力により走行しながら、後輪3bの操向操作により旋回することができる。
【0032】
このトウモロコシ収穫機では、収穫作業時には、車体を走行させながら収穫処理装置12で収穫した収穫物がフィーダ13によって貯留タンク14に向けて搬送され、貯留タンク14に貯留される。そして、収穫時に圃場に残された茎稈は残稈処理装置15により細断処理される。
【0033】
収穫処理装置12は、横方向に並列する3列の導入経路が形成され、各々の導入経路を挟む位置に左右一対の収穫ロール12a、その上部に位置する左右一対の無端搬送チェーン12b等を備えている。詳述はしないが、収穫ロール12aは、導入経路と平行する姿勢の回転軸芯を中心に回転自在に支持され、導入されるトウモロコシの植立茎稈から収穫物(房状部)を引きち切って分離させる。
【0034】
また、複数の収穫ロール12aと複数の無端搬送チェーン12bとの後方位置には収穫物を横方向の中央位置に移送するオーガ12cが備えられている。このオーガ12cが、3列の導入経路にてそれぞれ、植立茎稈から分離された収穫物を横方向の中央位置に移送させる。そして、このオーガ12cは、収穫物をその送出口からフィーダ13の搬送始端部に供給する。
【0035】
フィーダ13は、機体横幅方向中央に位置する状態で備えられ、後方側ほど上方に向かう斜め姿勢の角筒状のフィーダケース13a内に、図示しない無端回動式の搬送コンベアが備えられている。そして、オーガ12cの送出口から供給された収穫物をフィーダケース13a内に沿って搬送して、フィーダケース13aの後端の搬送終端部から案内シュート13bを介して貯留タンク14の上方に機体後方向きに排出する。
【0036】
詳述はしないが、フィーダケース13aの後端部に連設された処理ケース13cには、フィーダ13により収穫物とともに排出される葉屑や茎稈屑等を収穫物の排出方向と異なる方向に掻き出し、掻き出された非収穫物を細断処理する処理装置が内部に備えられている。細断された処理物は排出口13dから飛散して後上方に向けて機外に放出される。
【0037】
貯留タンク14は、平面視で略矩形状に形成されるとともに、上部が開放された形状となっており、その開放された領域から収穫物を受け入れるようになっている。また、フィーダ13における排出部の下方側箇所には、フィーダケース13aの搬送終端部の下側に位置する状態で排塵ファン13eが備えられている。排塵ファン13eは、フィーダ13により収穫物とともに排出される葉屑や茎稈屑等を収穫物の排出方向と異なる後方上方に向けて送風案内するように構成されている。
残稈処理装置15は、横軸芯周りで駆動回転されるハンマーナイフ式の細断装置であり、収穫時に圃場に残された茎稈を細かく細断する構成となっている。
【0038】
そして、収穫処理装置12は、横軸芯P1周りで揺動自在に機体に支持され、左右一対の収穫処理装置用の油圧シリンダにより昇降操作自在に設けられている。また、残稈処理装置15は、横軸芯P2周りで揺動自在に機体に支持され、油圧シリンダによって昇降操作自在に設けられている。
【0039】
図4を用いて、エンジン動力の伝達経路システムについて説明する。
エンジン31からの動力は、第1ベルト伝動機構31Aを通じて作業装置3Bを駆動するために作業用の動力伝達機構4に供給され、第2ベルト伝動機構31Bを通じて走行用の動力伝達機構2に供給され、第3ベルト伝動機構31cを通じてラジエータファン32aを駆動するために供給される。作業用の動力伝達機構4へのエンジン動力の伝達を入り切りするために、第1ベルト伝動機構31Aには、作業クラッチ40が備えられている。作業クラッチ40を切り操作することで、作業装置3B全体への動力伝達が遮断される。
【0040】
作業用の動力伝達機構4には、第1ベルト伝動機構31Aからの動力を収穫処理装置12に伝達する収穫処理用ベルト伝動機構41、第1ベルト伝動機構31Aからの動力をフィーダ13に伝達する搬送用ベルト伝動機構42、第1ベルト伝動機構31Aからの動力を残稈処理装置15に伝達する残稈処理用ベルト伝動機構43が含まれている。
【0041】
収穫処理用ベルト伝動機構41は、収穫ロール12aと無端搬送チェーン12bとオーガ12cとを駆動する。搬送用ベルト伝動機構42は、二系統に分岐しており、一方の系統は、残稈処理装置15を駆動する。他方の系統は、フィーダ13を構成する無端搬送チェーン13f、掻き出し装置13g、細断装置13hを駆動する。なお、掻き出し装置13gはフィーダ13によりトウモロコシ本体とともに排出される葉屑や茎稈屑等をトウモロコシ本体の排出方向と異なる方向に掻き出す装置であり、細断装置13hは、掻き出し装置13gにより掻き出された葉屑や茎稈屑等を細断処理する装置である。
【0042】
第2ベルト伝動機構31Bを通じて供給されたエンジン動力は、走行用の動力伝達機構2を構成する変速装置2Aに入力する。変速装置2Aによって変速された動力はさらにギヤ変速装置2Bによって変速される。
【0043】
図5に示めすように、運転部17には、キャビン16の内部の走行機体横方向での中央部に運転座席17aが設けられている。運転座席17aの右横側方にはサイドパネル17bが、運転座席17aの前方にはステアリングホイール176が配置されている。さらに、サイドパネル17bの右横側方には、各種電子機器や給電機器を収納している電装ボックス17cが配置されている。サイドパネル17bの上面には、アクセルレバー177、主変速レバー171、副変速レバー172及び作業クラッチレバー175が配置されている。ステアリングホイール176を取り付けているハンドルポストの右横側方に、ブレーキペダル174及びアクセルペダル173が配置されている。
【0044】
主変速レバー171は、この実施形態ではHSTである無段変速装置2Aの斜板角を調整する斜板調節機構に連係されている。主変速レバー171の操作変位により無段変速装置2Aが変速され車速が変化する。主変速レバー171は、搖動式レバーであり、その搖動範囲には、前進高速操作域と前進低速操作域と中立操作域と後進操作域とが含まれている。主変速レバー171が前進高速操作域に搖動操作されると、無段変速装置2Aが移動走行用の前進高速の駆動状態になる。主変速レバー171が前進低速操作域に操作されると、無段変速装置2Aが作業走行用の前進低速の駆動状態になる。主変速レバー171が中立操作域に操作されると、無段変速装置2Aが中立状態になる。主変速レバー171が後進操作域に操作されると、無段変速装置2Aが後進走行用の駆動状態になる。
【0045】
副変速レバー172も搖動式レバーであり、高低2段のギヤ変速装置2Bの変速操作部に連係されている。一般的な運転操作においては、路上走行にはギヤ変速装置2Bは高速段に設定され、圃場走行などの作業走行時にはギヤ変速装置2Bは低速段に設定される。
【0046】
作業クラッチレバー175は、作業用の動力伝達機構4へのエンジン動力の伝達を入り切りする作業クラッチ40の操作部に連係されている。作業クラッチレバー175は、搖動式レバーであり、その揺動操作によって、作業クラッチ40を入り状態と切り状態とに切換え操作することで、作業装置3Bを駆動または停止させる。
【0047】
アクセルペダル173は、エンジン31のアクセル装置の操作部に連係されている。アクセルペダル173を踏込操作することで、エンジン31の回転数が調整され、結果的に車速が変更される。ブレーキペダル174は、車輪走行装置3Aに設けられているブレーキ装置の操作部に連係されている。ブレーキペダル174を踏込操作することにより、ブレーキ装置が作動し、機体が制動される。サイドパネル17bに配置されているアクセルレバー177もアクセルペダル173と同様に、エンジン31のアクセル装置の操作部に連係されており、アクセルレバー177を操作することで、エンジン31の回転数が調整され、結果的に車速が変更される。なお、アクセルレバー177は任意の操作位置に摩擦機構によって保持されるように構成されているので、エンジン回転数を所定回転数に維持する際に利用される。
【0048】
次に図7を用いて、このトウモロコシ収穫機に搭載されている作業車制御系における各機能要素を説明する。
作業車制御系には、トウモロコシを収穫しながらトウモロコシ収穫機を走行させる種々の制御機能部、各種情報の生成・管理を行う種々の情報処理機能部が車載LAN50等のデータ伝送ラインを介してデータ伝送可能な形態で備えられている。本発明に特に関係する機能部として、図7では、作業走行情報生成部51a、道路走行情報生成部51b、走行判別部53、GPSモジュール62、回線通信モジュール63、管理ユニット7、管理情報生成部72、スリップ率算出部73、位置情報修正部74が示されている。
【0049】
作業走行情報生成部51aは、トウモロコシ畑でトウモロコシの収穫走行している際に得られる各種情報を作業走行情報として生成する。道路走行情報生成部51bは、各地に点在するトウモロコシ畑を移動するために、高速道路を含む一般道路を移動走行する際に得られる各種情報を道路走行情報として生成する。管理情報生成部72は、作業走行情報または道路走行情報あるいはその両方に対して自車位置を示す位置情報を関係づけて作業車情報を生成する。位置情報は、GPSモジュール62によって得られた、絶対位置である経緯度情報である。
【0050】
GPSモジュール62は、情報取得部61及び回線通信モジュール63とともに一体化されて通信ユニット6に収納されている。情報取得部61は、LANアダプタのような機能を有し、車載LAN50と接続ケーブル6aで接続されており、車載LAN50を流れている種々の情報を外部送信するために取得し、外部から受信した情報を車載LAN50に流す機能を有する。回線通信モジュール63は、この実施形態では、携帯電話通信事業者が提供している、インターネットに接続可能な無線の通信回線を利用して、管理センタ8のコンピュータシステムとデータ交換できるように構成されている。
【0051】
図8に示されているように、通信ユニット6は、矩形ボックス状の密封されたハウジング64を備えており、その中に、情報取得部61、GPSモジュール62、回線通信モジュール63が組み込まれている。ハウジング64の一方側の側面には接続ケーブル6aのためのコネクタが形成されており、他方側の側面にはアンテナケーブル6bのためのコネクタが形成されている。アンテナケーブル6bの先端にはアンテナユニット60が接続されている。アンテナユニット60には、GPSモジュール62の送受信デバイスのためのGPS用アンテナ60aと、回線通信モジュール63に設けられている送受信デバイスのための回線通信用アンテナ60bとが組み込まれている。携帯電話回線通信とGPSとでは使用している周波数が異なるので、通常、それぞれのアンテナは別体で構成されるが、一体化された共用アンテナで良好な受信感度が得られる場合は、それを採用してもよい。
【0052】
図5に示されているように、キャビン16に、電装ボックス17cが形成されており、この電装ボックス17c内に、通信ユニット6が配置されている。接続ケーブル6aは電装ボックス17c内に配線されており、他の電子制御ユニットを介して間接的に、あるいは直接的に車載LAN50に接続されている。アンテナユニット60は、空気導入管35cをキャビン16に固定している上部固定ブラケット161の平面部分に載置されている。アンテナケーブル6bは、図6に示されているように、キャビン16の下領域を貫通し、さらにキャビン16の後壁と空気導入管35cとの間を上方に延び、アンテナユニット60に接続される。この構成により、アンテナユニット60は、このトウモロコシ収穫機の車体の最も高い領域に配置されることになり、良好な電波受信性を確保することができる。
【0053】
図6において、模式的に示されているだけであるが、通信ユニット6のハウジング64は、電装ボックス17cに設けられたクランプ金具によって取り外し可能に固定されている。つまり、通信ユニット6は、アンテナケーブル6bをそのコネクタから外し、接続ケーブル6aをそのコネクタから外し、さらにハウジング64をクランプ金具から外すことで、通信ユニット6を伝送ボックス17cから持ち出すことができる。つまり、この実施形態では、通信ユニット6をデータ伝送可能にかつ取り外し可能に装着する装着部65は、接続ケーブル6a用のコネクタ、アンテナケーブル6b用のコネクタ、ハウジング64用のクランプ金具によって構成されている。
【0054】
走行判別部53は、車載LAN50を通じて必要な情報を取得可能に構成され、この実施形態では、動力伝達機構2の変速状態(作業クラッチ40の状態、変速装置2Aの変速比、伝動軸の回転速度など))を示す情報を取得し、その変速状態を特定し、その特定された変速状態に基づいて、作業走行と道路走行とを判別する機能を有する。もちろん、GPSモジュール62を通じて得られた位置情報に地図情報を照らし合わせて、作業走行中であるか、道路走行であるかを判別する機能を採用してもよいし、両方の機能をそなえてもよい。
【0055】
走行判別部53には、作業装置3Bの動作機器に対するセンサ群やスイッチ群から車両が作業中であるかどうかを示す作業状態信号と、動力伝達機構2の変速装置2Aやギヤ変速装置2Bを含む変速機器に対するセンサ群やスイッチ群から動力伝達機構2の変速状態を示す変速状態信号とが入力される。例えば、作業クラッチ40の入り切り状態を検出する作業クラッチセンサからの作業クラッチ検出信号や車速検出センサからの車速信号が入力される。車速検出センサの一例は、動力伝達機構2の変速後の回転数を示すギヤ(例えばディファレンシャル機構のギヤ)の回転数を検出する回転数センサである。変速位置検出センサの一例は、高低2段のギヤ変速装置(副変速装置)2Bが高速段または低速段のいずれの変速位置であるかを検出する副変速センサ93bからの検出信号から変速状態信号を生成する。走行判別部53での判定結果は、車載LAN50や専用信号線などを通じて必要とする機能部に送られる。
【0056】
管理ユニット7は通信ユニット6における通信動作を管理する通信管理部71を有する。回線通信モジュール63を用いた内部情報の管理センタ8等への外部送信は、作業走行中や道路走行中だけに限らず、駐車中にも行うことが好ましい。特に、盗難防止などの目的では、夜の駐車中における内部情報の外部送信は必須である。しかしながら、エンジン31が停止中では、バッテリに充電されないため、電力消費はできるだけ抑制しなければならない。このため、通信管理部71は、節電と情報の外部送信とを最適化するプログラムを備えており、回線通信モジュール63だけでなく必要に応じてGPSモジュール62の駆動を最適化制御する。この実施形態における節電プログラムに含まれる機能を以下に列挙する;
(a)車両メインスイッチ178がONに設定されている時、またはエンジン稼働している時はバッテリに給電されていないので回線通信モジュール63から外部への情報、特に作業車情報の送信間隔は、できるだけ短くされる。つまり、この時の送信間隔は、車両メインスイッチ178がONに設定されている時、またはエンジン稼働している時の送信間隔に比べて短く設定される。
(b)車両メインスイッチ178がOFFに設定されている時、エンジン停止時においてGPSモジュール62を所定間隔(数分から数十分程度)で動作させることによって取得される位置情報に基づいて車両移動が検知された場合には、節電に関する例外処理が実行される。この例外処理では、節電に優先して、外部への情報の送信間隔を短くして、場合によって行われているかもしれない車両盗難を監視する。
(c)トウモロコシ収穫機のような作業車や土木作業車などでは、一般的には、作業走行は10km/h以下の比較的低速で行われ、道路走行は、20km/hから法定制御速度までの高速で行われる。作業車においては作業時の情報が非作業時の情報より重要である。このことを考慮して、走行判別部53によって低速走行が判定されている時における回線通信モジュール63から外部への情報、特に作業車情報の送信間隔は、高速走行が判定されている時における送信間隔に比べて短く設定される。
(d)もちろん走行判別部53によって作業走行ないしは道路走行が判定されている場合には、この判定結果を利用することができる。例えば、走行判別部53によって作業走行が判定されている時における回線通信モジュール63から外部への情報、特に作業車情報の送信間隔は、道路走行が判定されている時における送信間隔に比べて短く設定される。
【0057】
この実施形態におけるスリップ率算出部73は、センサ群からの信号に基づいて駆動輪である前輪3aの回転速度(駆動輪速度)を算出する機能と、GPSモジュール62から時々刻々と得られる位置情報(GPS位置)に基づいて走行速度(車体速度)を算出する機能を有する。一般にスリップ率は、車体速度と駆動輪速度との差を駆動輪速度で割ることで得られる。したがって、車輪と地面との間でスリップが発生していない場合、スリップ率はゼロとなる。具体的には、スリップ率算出部73は、所定時間における駆動輪速度の平均値を算出するとともに、当該所定時間におけるGPS位置の変化から車体速度を算出して、この時点のスリップ率を算出する。順次算出されるスリップ率は、圃場を特定する圃場識別名(作業地識別名)ないしは圃場(作業地)におけるGPS位置と関係づけることで、このスリップ率は、圃場値属性値(作業地属性値)として、管理することができる。
【0058】
この実施形態における位置情報修正部74は、道路走行時には道路地図を用いた地図マッチング法を用いて前記位置情報を修正する第1機能と、作業走行時には作業地地図を用いた地図マッチング法を用いて前記位置情報を修正する第2機能とを備えている。GPS位置の誤差を、道路地図を用いた地図マッチングで修正することがカーナビゲーションシステムに採用されているので、GPSモジュール62がカーナビゲーションシステムと兼用されており、第1機能を備えている場合には、位置情報修正部74において第1機能は省略することができる。しかしながら、一般的な作業地(ここでは圃場)は、道路外であり、カーナビゲーションシステムで採用されている地図では特に、汎用の地図においても、作業地が私有地である場合が多いことから、示されていない。このため、圃場などの形状や位置を示す作業地地図を予め作成しておき、作業前にこの作業地地図を設定する。作業中の作業車は作業地内に存在しているので、このことを利用して、GPS位置の誤差修正が可能となる。
【0059】
管理情報生成部72の機能により、作業走行情報と道路作業情報と位置情報とを互いに関係づけて作成された作業車情報は、回線通信モジュール63を通じて管理センタ8に送信される。この実施形態では、回線通信モジュール63を通じて管理センタ8に送信される作業車情報は、一旦中継サーバ80に転送され、中継サーバ80に備えられている形式変換部80aにおいて少なくとも一部のデータのデータ形式が変換される。このデータ形式の変換例の1つは、位置データの表現形式として経緯度で表された位置情報を、特定の基準位置に対する相対位置で表された位置情報に変換することである。これは、作業車情報を取得した国と管理センタ8が設置されている国とが異なっている場合、国によっては経緯度データの国外持ち出しを禁じているからである。このように、情報がグローバルに流れる場合、情報の送り出し国と受け取り国との関係で、流れる情報のデータ形式を変換することが要求される。そのような形式変換部80aの機能には、単位の変換や言語の変換(いわゆる翻訳)なども含まれる。
【0060】
管理センタ8に構築されているコンピュータシステムには、この実施形態ではWebサーバとして構成され、データ入力部81aとデータ出力部81bとの機能を有するデータ入出力部81と、種々のデータ処理を行うアプリケーションサーバ82と、各種データ格納するデータベースサーバ83とが構築されている。アプリケーションサーバ82には、車両管理部82a、圃場管理部82b、車両評価部82c、圃場評価部82dが含まれている。
【0061】
データ入出力部つまりWebサーバ81は、アップロードされた作業車情報を、アプリケーションサーバ82に転送する。車両管理部82aは、作業車情報から、圃場管理に関する情報を圃場管理情報として抜き出し、必要な一次加工を施し、対象圃場識別データや日時データなどによって検索抽出可能にデータベースサーバ83に格納する。圃場管理情報は、作付け情報、投入肥料情報、収穫物情報などの総称である。作付け情報には作付け品種、作付け日時、作付け形態が含まれ、投入肥料情報には肥料種、投入量、投入日時、施肥形態などが、収穫物情報には、収穫物種、収量、水分などが含まれる。
【0062】
圃場管理部82bは、作業車情報から、トウモロコシ収穫機などの登録されている車両の管理に関する情報を車両管理情報として抜き出し、必要な一次加工を施し、車両識別データ、車両機器識別データ、運転者識別データ、日時データなどによって検索抽出可能にデータベースサーバ83に格納する。車両管理情報は、作業走行距離情報、道路走行距離情報、燃費などの総称である。
【0063】
車両評価部82cは、車両管理情報を二次加工して、作業車のメンテナンスなどのために利用される車両評価情報を作成する。ユーザに対して行うために、必要なメンテナンス時期などを示したメンテナンス通知を車両評価情報に基づいて作成する。
【0064】
圃場評価部82dは、圃場管理情報を二次加工して、圃場を評価するために利用される圃場評価情報を作成する。この圃場評価情報には、肥料分布、生育状態分布、収量分布、食味分布、などが含まれている。さらに、圃場評価部82dは、営農提案をユーザに対して行うために、圃場評価情報に基づいて導かれる営農提案通知を作成する。
【0065】
次に図9を用いて、トウモロコシ収穫機などの作業車における各機能部と、この作業車を管理している管理センタ8における各機能部とにおける情報の生成と情報の流れを説明する。
まず車両に装備されている各種センサ群やスイッチ群によって検出または生成された信号が作業走行情報生成部51a及び道路走行情報生成部51bに与えられる(#01)。この信号には、上述した車両メインスイッチ178のON/OFF信号など以外に、エンジン油圧SWの信号、作業クラッチSWの信号、車速センサ信号、時間当たりの収穫量やトータルの収穫量などの検出信号、などが含まれる。作業走行情報生成部51aは、作業走行時に受け取った信号から作業走行情報を生成し(#02)、道路走行情報生成部51bは、道路走行時に受け取った信号から道路走行情報を生成する(#03)。なお、道路走行と作業走行にかかわらず走行時には、GPSモジュール62による位置情報の取得が行われている(#04)。この位置情報は経緯度データで表されており、さらに時刻(日時)データも含まれている。したがって、この位置情報は時刻情報としても取り扱うことができる。なお、車両の駐車時などにおいて取得された検出信号は、便宜上道路走行情報として取り扱われるが、例えば、駐車時のドア開放信号や非作業時間帯のキーON信号などは盗難検出信号として利用される。作業走行情報または道路走行情報と、位置情報とが生成されると、これらを関係づけて作業車情報が生成される(#05)。
【0066】
この実施形態では、生成された作業車情報は、通信管理部71によって決定される所定の送信タイミングで、回線通信モジュール63を介して外部に送信される(#10)。また、この実施形態では、作業地(圃場)と管理センタ8が、異なる国に属しているとしており、作業地が属する国における情報持ち出し規制により、地形を示す経緯度データの国外の持ち出しが禁止されていることを想定している。したがって、回線通信モジュール63を経て送信された、位置情報を含む作業車情報は、一旦中継サーバ80に中継され、作業車情報に含まれている経緯度データは、中継サーバ80に構築されている形式変換部80aによって圃場の基準点などの所定基準位置を基点とする相対位置データに形式変換される(#11)。形式変換された作業車情報は、さらにインターネットなどのデータ通信回線を経てこの作業車(トウモロコシ収穫機)を管理している管理センタ8に転送される。
【0067】
一旦中継サーバ80から管理センタ8に転送された作業車情報は、管理センタ8におけるデータ入力部81aとして機能するWebサーバ81で取り扱われる(#21)。Webサーバ81に入力された作業車情報は、作業車毎または運転者毎にあるいはその両方毎にデータベースサーバ83に格納されるとともに、情報二次加工のためにアプリケーションサーバ82に転送される。
【0068】
アプリケーションサーバ82において、一方では、作業車情報は、圃場管理に関する情報に加工され、圃場管理情報となる(#22)。圃場管理情報には、圃場単位のあるいは圃場における微小区画単位の収穫量、土壌の状態など、圃場の特性を管理するために必要な情報が含まれる。他方では、作業車情報は、車両管理に関する情報に加工され、車両管理情報となる(#23)。車両管理情報には、道路走行距離、作業走行距離、作業装置駆動時間、エンジン駆動時間など、車両を管理するために必要な情報が含まれる。
【0069】
圃場管理情報は、圃場管理情報に含まれる各種情報を入力パラメータとして圃場状態や収穫状況(作業結果)などを評価して出力する圃場評価プログラムにかけられることで、そのような圃場評価結果を有する評価結果情報を導出する(#24)。収穫状況としては、その時の収穫対象となった圃場単位の収穫量だけでなく、過去の収穫量も含めた収穫量の年度分布なども含まれる。さらに、この管理センタ8には、施肥機など他の農作業機も登録されており、圃場状態を示す圃場評価結果には、圃場の施肥状態なども含まれる。そのような圃場評価結果は、営農通知としてダウンロード可能なようにWebページ化されており、ユーザがインターネットを通じてアクセスすることで閲覧することができる(#25)。
【0070】
同様に、車両管理情報も、車両管理情報に含まれる各種情報を入力パラメータとして車両の部品交換時期やメンテナンス時期などを評価して出力する車両評価プログラムにかけられることで、そのような車両評価結果を有する車両評価情報を導出する(#26)。導出された車両評価結果のうちユーザに通知すべき内容は、例えば、メンテナンス案内などの形態で、インターネットを通じて各ユーザにメール通知ないしはWebページを通じて開示される(#27)。この車両評価結果には、走行予定のない時間帯での車両移動や許可されていない時間帯でのエンジンの駆動を示す車両管理情報から導出された盗難を察知する評価結果も含まれており、そのような党内察知結果が導出されると、直ちにユーザに車両盗難通知がメール送信される(#28)。
【0071】
〔別実施の形態〕
(1)車輪駆動式作業車は、車輪のみで走行する作業車に限定されているわけではなく、車輪以外の走行装置が付加されていてもよい。重要な点は、道路を自走することによって各地の作業地を移動できることである。
(2)位置情報生成部は、GPS方式でもジャイロ方式でもよい。また、道路走行ではGPS方式を、作業走行ではジャイロ方式をといったように適時選択して使用するようにしてもよい。さらには、車輪の回転と操向角とによる走行軌跡にGPSによる位置をマッピングして、正確な圃場位置を取得する構成を採用してもよい。
(3)作業走行での走行軌跡や車輪のスリップ率といった運転能力に関係する情報を作業車情報に含め、これらの情報を運転者管理のために利用してもよい。
(4)図7の機能ブロック図で示された作業車制御系の機能部は、説明目的を第1として記載されている。したがって、ここで示された機能部は、それぞれ任意に組み合わされてもよいし、単一の機能部をさらに分割してもよい。例えば、管理ユニット7は、通信ユニット6や管理情報生成部72などに組み込んでもよい。また、走行判別部53、作業走行情報生成部51a、道路走行情報生成部51b、さらに管理情報生成部72は、自由に統合化される。
(5)本発明におけるエンジン31は、広義に解釈されるべきものであり、内燃機関のみならず、電気モータ、あるいはそれらを複合化したハイブリッドエンジンも含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、実施形態で採用されたようなトウモロコシ収穫機だけでなく、麦や稲の収穫機(コンバイン)などに適用可能である。さらには、トラクタなどの農作業車両、あるいはフロントローダなどの土木作業機にも適用される。本発明は、路上走行と圃場走行の両方を行う作業車に有効である。
【符号の説明】
【0073】
16:キャビン
17:運転部
178:車両メインスイッチ
3A:車輪走行装置
3B:作業装置
30:エンジンルーム
31:エンジン
50:車載LAN
51:走行情報生成部
51a:作業走行情報生成部
51b:道路走行情報生成部
52:作業情報生成部
53:走行判定部
6 :通信ユニット
6a:接続ケーブル
6b:アンテナケーブル
60:アンテナユニット
60a:GPS用アンテナ
60b:回線通信用アンテナ
61:情報取得部
62:GPSモジュール
63:回線通信モジュール
7 :管理ユニット
71:通信管理部
72:管理情報生成部
73:スリップ率算出部
74:位置情報修正部
74a:道路地図格納部
74b:作業地地図格納部
8 :管理センタ
81:Webサーバ(データ入力部、データ入出力部)
82:アプリケーションサーバ
82a:車両管理部
82b:圃場管理部
82c:車両評価部
82d:圃場評価部
83:データベースサーバ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9