特許第6238617号(P6238617)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6238617
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッドおよび液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20171120BHJP
【FI】
   B41J2/14 611
   B41J2/14 201
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-153811(P2013-153811)
(22)【出願日】2013年7月24日
(65)【公開番号】特開2015-24514(P2015-24514A)
(43)【公開日】2015年2月5日
【審査請求日】2016年6月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩永 周三
(72)【発明者】
【氏名】為永 善太郎
(72)【発明者】
【氏名】山田 和弘
(72)【発明者】
【氏名】森口 拓人
(72)【発明者】
【氏名】守屋 孝胤
【審査官】 村石 桂一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−000700(JP,A)
【文献】 特開2002−331666(JP,A)
【文献】 特開2004−180243(JP,A)
【文献】 特開2009−255447(JP,A)
【文献】 特開2011−235574(JP,A)
【文献】 特開2011−025547(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J2/01−2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するための吐出口が設けられた記録素子基板と、
前記記録素子基板を支持する支持部材と、
前記支持部材に対してすき間を介して配置された他の部材と、
前記支持部材と前記他の部材との間を跨ぐように設けられて前記すき間を覆う電気配線基板と、
前記記録素子基板と電気接続をする電気接続部であって、前記電気配線基板に対して前記すき間とは反対側に設けられた電気接続部と、
を具え、
前記電気接続部は封止剤によって封止されており、
前記電気配線基板は前記記録素子基板を配置する開口部を有し、該開口部の外周総てが前記支持部材上に位置することを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
液体を吐出するための吐出口が設けられた記録素子基板と、
前記記録素子基板を支持する支持部材と、
前記支持部材に対してすき間を介して配置された他の部材と、
前記支持部材と前記他の部材との間を跨ぐように設けられて前記すき間を覆う電気配線基板と、
前記記録素子基板と電気接続をする電気接続部であって、前記電気配線基板に対して前記すき間とは反対側に設けられた電気接続部と、
を具え、
前記電気接続部は封止剤によって封止されており、
前記電気配線基板は前記記録素子基板を配置する開口部を有し、該開口部の外周の内、前記電気接続部が設けられる部位のみが前記支持部材上に位置し、且つ前記開口部の外周において、前記電気接続部と非電気接続部の境界部にダム剤が設けられていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記他の部材は、前記支持部材を配置するための開口を有するフレーム部材であることを特徴とする請求項1または2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記フレーム部材は前記電気配線基板よりも線膨張率が低いことを特徴とする請求項3に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記支持部材と前記フレーム部材の、前記電気配線基板が設けられる面が略同一高さであることを特徴とする請求項3または4に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記支持部材と前記フレーム部材の間の前記すき間が、第二の封止剤により封止されていることを特徴とする請求項3ないし5のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
液体を吐出するための吐出口が設けられた記録素子基板と、
前記記録素子基板を支持する支持部材と、
前記支持部材に対してすき間を介して配置された他の部材と、
前記支持部材と前記他の部材との間を跨ぐように設けられて前記すき間を覆う電気配線基板と、
前記記録素子基板と電気接続をする電気接続部であって、前記電気配線基板に対して前記すき間とは反対側に設けられた電気接続部と、
を具え、
前記電気接続部は封止剤によって封止されており、
前記他の部材は他の記録素子基板を支持する支持部材であり、前記電気配線基板が跨ぐ二つの支持部材上の一部に、前記記録素子基板を配置するための開口を有するプレート部材が設けられていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記プレート部材は前記電気配線基板よりも線膨張率が低いことを特徴とする請求項7に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記支持部材と前記プレート部材の、前記電気配線基板が設けられる面が略同一高さであることを特徴とする請求項7または8に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかに記載の液体吐出ヘッドを用い、該液体吐出ヘッドに液体を吐出させる液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッドおよび液体吐出装置に関し、詳しくは、液体吐出ヘッドにおける、インクなど液体を吐出するための記録素子基板に電気信号を供給するための電気配線基板の配置構成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体吐出ヘッドでは、液体を吐出するためのエネルギーを発生する記録素子として例えば電気熱変換素子が用いられる。この電気熱変換素子に電気信号を供給するための電気配線基板は、電気熱変換素子が配列された記録素子基板に対応して設けられる。
【0003】
特許文献1には、支持基板上に複数個の記録素子基板を配列し、長尺のライン型液体吐出ヘッドの構成が記載されている。この液体吐出ヘッドは、複数個の記録素子基板がそれらの吐出口配列方向に沿って千鳥状に配列されたものであり、単一の電気配線基板が複数の記録素子基板を組み込むためのそれぞれの開口部を有している。また、特許文献2には、複数のヘッドモジュールを支持部材上に搭載する構成の液体吐出ヘッドが記載されている。個々のヘッドモジュールは、流路部材上に記録素子基板を搭載し、記録素子基板周囲に個別の電気配線基板を設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4757011号公報
【特許文献2】米国特許公開第2005/0162466号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載の電気配線基板の配置構成では、特に、記録素子基板との電気接続部を封止する封止部材によって記録素子基板の配置が所望の位置からずれることがあるという問題がある。
【0006】
具体的には、液体吐出ヘッドの製造では、先ず、支持部材上に記録素子基板と電気配線基板を接着固定し、これら基板間をワイヤーによって電気接続する。そして、この接続部に対して封止剤を塗布してそれを加熱することによって封止剤を硬化させる。さらに封止剤を硬化した後、液体吐出ヘッドは加熱炉から取り出されて冷却される。このような製造工程における封止剤硬化の加熱、冷却により、電気配線基板は伸縮する。すなわち、加熱時、電気配線基板が伸びた状態で封止剤が硬化し、その後の冷却で電気配線基板が縮むことになるが、この際、支持部材と記録素子基板とが引張、圧縮の力を受け、これにより記録素子基板の位置が変動することがある。このような配置がずれた記録素子基板を有した液体吐出ヘッドによる、例えば記録は記録画質が低下するなどの問題を生じるおそれがある。
【0007】
本発明の目的は、封止材の硬化による記録素子基板の位置変動が無い電気配線基板の配置構成を備えた液体吐出ヘッドおよびそのヘッドを用いた液体吐出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そのために本発明では、液体を吐出するための吐出口が設けられた記録素子基板と、前記記録素子基板を支持する支持部材と、前記支持部材に対してすき間を介して配置された他の部材と、前記支持部材と前記他の部材との間を跨ぐように設けられて前記すき間を覆う電気配線基板と、前記記録素子基板と電気接続をする電気接続部であって、前記電気配線基板に対して前記すき間とは反対側に設けられた電気接続部と、を具え、前記電気接続部は封止剤によって封止されており、前記電気配線基板は前記記録素子基板を配置する開口部を有し、該開口部の外周総てが前記支持部材上に位置することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
以上の構成によれば、液体吐出ヘッドにおいて、電気配線基板を支持部材と他の部材との間を跨ぐように配置して電気配線基板が支持部材とのすき間を覆うように配置される。これにより、封止材がこのすき間に入り込み、封止材が硬化することによって生じる応力で記録素子基板の位置が変動することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1の実施形態に係る液体吐出ヘッドを示す概略斜視図である。
図2図1に示す液体吐出ヘッドの液体供給部材を除いた部分の分解斜視図である。
図3】(a)〜(c)は、本実施形態の液体吐出ヘッドにおける、ある1つの記録素子基板近傍の構成の詳細を示す図である。
図4】第1実施形態の変形例に係る液体吐出ヘッドの分解斜視図である。
図5】(a)〜(c)は、本変形例の液体吐出ヘッドにおける、ある1つの記録素子基板近傍の構成の詳細を示す図である。
図6】(a)および(b)は、本発明の第1実施形態の他の変形例に係る液体吐出ヘッドにおけるある1つの記録素子基板近傍の構成の詳細を示す図である。
図7】(a)および(b)は、本発明の第1実施形態のさらに他の変形例に係る液体吐出ヘッドにおけるある1つの記録素子基板近傍の構成の詳細を示す図である。
図8】(a)〜(c)は、本発明の第2の実施形態に係る液体吐出ヘッドの記録素子基板近傍の構成を示す図である。
図9】(a)〜(c)は、本発明の第3の実施形態に係る液体吐出ヘッドの記録素子基板近傍の構成を示す図である。
図10】(a)〜(e)は、本発明の実施形態の比較例に係る液体吐出ヘッドの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る液体吐出ヘッドを示す概略斜視図であり、図2は、図1に示す液体吐出ヘッドの液体供給部材を除いた部分の分解斜視図である。図1および図2に示すように、本実施形態の液体吐出ヘッド1は、記録素子基板2、支持基板11、支持部材12、電気配線基板14、および液体供給部材30を有して構成される。
【0012】
記録素子基板2には、インクなどの液体を吐出するための吐出口と、この吐出口に対応した、吐出のためのエネルギーを発生する電気熱変換素子が設けられており、この吐出口と電気熱変換素子は記録素子を構成する。記録素子基板2に設けられる複数の吐出口は吐出口列3を構成する。支持基板11上には、複数の支持部材12が千鳥状に配置され、さらにそれぞれの支持部材12上に記録素子基板2が配置されている。支持基板11の内部には不図示の液体流路が形成されており、液体導入口11aと連通している。液体導入口11aはさらに支持部材12内の流路と接続し、これにより、記録素子基板2に液体が導入される。
【0013】
電気配線基板14は、記録素子基板にその外部からの電気信号を供給するために設けられており、本実施形態では可撓性を有するフレキシブルフィルム配線基板(FPC)が用いられる。電気配線基板14は、支持部材12によって支持固定され、また、複数の開口部14aを有してそれらの開口部14a内に記録素子基板2が位置するように配置される。液体供給部材30は、支持基板11や支持部材12を介し記録素子基板2に液体を供給するための液体供給液室を有している。
【0014】
記録素子基板2が、複数個配置されることにより長尺のライン型の液体吐出ヘッドが構成され、用いられる記録媒体の全幅に対応して吐出口を配置したものである。本実施形態では、記録素子基板2が9個配置されており、全体で6インチ程度の記録幅を有する液体吐出ヘッド1を構成している。記録素子基板2の数を増やすことにより、さらに記録幅を増大させることが可能であり、12インチを超える記録幅を有する液体吐出ヘッドを構成することもできる。
【0015】
図1および図2に示すように、支持部材12は、記録素子基板個々に対応して設けられる。これにより、ある記録素子基板2に不良が発見された場合に、支持部材毎に交換することができる。また、各支持部材12を支持基板上に精度良く配置することにより、支持部材12に形成された供給口の位置精度も確保できる。支持基板11の材質は、低線膨張率、高剛性、およびインクに対する耐腐食性を有することが好ましく、例えば、酸化アルミニウム、炭化ケイ素などを好適に用いることができる。支持部材12の材質は、インクに対する耐腐食性を有するものが好ましい。具体的には、支持基板11と同様の材料を用いることもでき、また、樹脂材料であって、特にPPS(ポリフェニルサルファイド)や変性PPE等を母材とし、シリカ粒子などの無機フィラーを適量添加したものなどを好適に用いることができる。樹脂材料を用いることにより、部品コスト的には有利になるが、一般的に、記録素子基板2や支持基板11と比べ、線膨張率が高めとなる。フィラーを添加することで、ある程度線膨張率を低減することができるが、多量にフィラーを充填すると成形性が低下し、断熱部材の形状を確保することができない。よって、フィラーの添加量には限度があり、線膨張率の低減には限度がある。支持部材12と、記録素子基板2または支持基板11との間に線膨張率の差があるとヘッド温度が上昇した場合に、支持部材12と、記録素子基板2または支持基板11との界面で剥離が生じるおそれがある。この問題は、本実施形態の支持部材12を分割して寸法を小さくしていることにより、応力を低減して剥離力を抑制することで解消できる。
【0016】
図3(a)〜(c)は、本実施形態の液体吐出ヘッドにおける、ある1つの記録素子基板近傍の構成の詳細を示す図である。詳しくは、図3(a)は、図1のA部の記録素子基板近傍を拡大して示す平面図である。図3(b)は、図3(a)のB−B線に沿った概略断面図である。図3(c)は、図3(a)のC−C線に沿った概略断面図である。記録素子基板2は、例えば厚さ0.5〜1.0mmのシリコン基板5と、ノズルプレート6から成る。シリコン基板5には、液体流路として長溝状の貫通穴からなる不図示の液体供給口が形成されている。シリコン基板5には、記録素子である電気熱変換素子と、例えばアルミニウム(Al)からなる電気配線が形成されており、端部には電気配線と電気的に接続される電極4が形成されている。ノズルプレート6には不図示の発泡室が形成されており、発泡室は、シリコン基板5の液体供給口と連通している。ノズルプレート6には、電気熱変換素子に対応する吐出口が形成されており、吐出口列3が形成されている。
【0017】
図3(b)、(c)に示すように、支持基板11上には支持部材12が配置されている。これらの支持基板11と支持部材12は接着剤21で接着固定されている。さらに、支持部材12上には記録素子基板2が接着剤23で接着固定されている。電気配線基板14は、この記録素子基板に対し、略同一高さで複数の支持部材12に跨るように配置され、接着剤24で接着固定されている。これにより、複数の支持部材12間のすき間が電気配線基板14で蓋をされることになる。これにより、後述されるように、製造工程において用いられる封止材がこのすき間に入り込まないようにし、その結果、封止材の硬化に伴う記録素子基板の位置ずれを防止できる。
【0018】
記録素子基板2の電極4と電気配線基板14の電極端子15が導電性のワイヤー17により電気的に接続されることで、不図示の記録装置本体からの電気信号を、電気配線基板14を介して記録素子基板2に伝えることができる。本実施形態では、電極端子15とワイヤー17の接合部は支持部材12の上方、つまり、電気配線基板14に対して上記すき間とは反対側に位置している。電極4、電極端子15、ワイヤー17を有した電気接続部は第一の封止剤18によって封止される。第一の封止剤18は弾性率の高い材料から成り、これにより、電気接続部を機械的に保護し、また、液体による腐食からも保護している。記録素子基板2の周囲は、封止剤A19で外周を封止し、これにより、記録素子基板2と支持部材12の間のシール性を高め、不慮の事故により液体が漏れるのを防止している。
【0019】
以上の実施形態によれば、支持部材12と支持部材12との間のすき間を電気配線基板14によって覆い、これにより、第一の封止剤18がこのすき間に流れ込まないようにすることができる。その結果、部品寸法精度ばらつきや組立精度ばらつきの影響ですき間の大きさにばらつきが生じても、このすき間に第一の封止剤18が入り込まないのでその形状は場所によらずほぼ均等な形状とすることができる。これにより、第一の封止剤18の硬化収縮時の応力がほぼ均等となり、記録素子基板2の搭載位置変動を抑制することができる。
【0020】
図4は、上述した第1実施形態の変形例に係る液体吐出ヘッドの分解斜視図であり、図5(a)〜(c)は、本変形例の液体吐出ヘッドにおける、ある1つの記録素子基板近傍の構成の詳細を示す図である。
【0021】
図4に示すように、支持基板11上にフレーム部材13が支持固定されている。フレーム部材13は複数の開口部13aを有し、開口部内13a内に支持部材12が配置される。図5(b)および(c)に示すように、支持基板11上に、支持部材12とフレーム部材13が配置されている。支持基板11と支持部材12は接着剤21で接着固定され、支持基板11とフレーム部材13は接着剤21で接着固定されている。支持部材12とフレーム部材13の支持基板11に対する接着後の高さは、ほぼ同一の高さとなっている。
【0022】
電気配線基板14は、ほぼ同一高さであるフレーム部材13と支持部材12とに跨るように配置され、それぞれの部材に接着剤24によって接着固定されている。これにより、フレーム部材13と支持部材12の間のすき間が電気配線基板14によって覆われ、密閉された空間が形成される。電気配線基板14の大半はフレーム部材13に接着固定され、一部のみが断熱部材13上に接着固定されている。また、本変形例では、開口部14aの外周総てが支持部材上に配置された構成となっている。フレーム部材の材質は、剛性が高く、電気配線基板よりも線膨張率が低いものを用いることが好ましい。例えば、酸化アルミニウム等が好適に用いられる。
【0023】
本変形例でも、電気配線基板14がフレーム部材13と支持部材12とに跨るように配置されることにより、記録素子基板の配置の位置精度について同様の効果を得ることができる。
【0024】
液体吐出ヘッドの製造工程では、前述したように、封止剤硬化の加熱、冷却により、電気配線基板は伸縮する。すなわち、加熱時、電気配線基板が伸びた状態で封止剤が硬化し、その後の冷却で電気配線基板が縮むことになるが、この際、支持部材と記録素子基板とが引張、圧縮の力を受け、これにより記録素子基板の位置が変動することがある。
【0025】
このような位置変動は、特に、支持部材を接着する接着剤の弾性率が低かったり、支持部材に樹脂材料を用いたりした場合に顕著となる。電気配線基板がフレキシブル配線基板の場合、線膨張率は16×10-6(1/K)程度であり、また支持部材に、樹脂とフィラーを混合した材料を用いた場合、線膨張率は15〜40×10-6(1/K)程度となる。記録幅が6インチ程度(記録素子基板8個使用)の液体吐出ヘッドで実験を行うと、封止剤硬化前後での記録素子基板の搭載位置の変動は、吐出口配列方向(記録素子基板長手方向)において最大で6μm程度発生する。なお、実験の際には、支持部材12は線膨張率15×10-6(1/K)のものを使用した。
【0026】
本願発明者らは、電気配線基板14の伸縮を抑制するため、図10(a)〜(e)に示す比較例の液体吐出ヘッドで検討を行った。図10(a)〜(e)は、比較例に係る液体吐出ヘッドの構成を示す図である。図10(a)〜(e)に示す比較例では、フレーム部材13を設けているが、電気配線基板14は、フレーム部材13上だけに配置され、接着固定されている。電気配線基板14の伸縮を抑制するために、フレーム部材13として電気配線基板14よりも線膨張が低い材料を用い、実験では、線膨張率が7×10-6(1/K)程度である酸化アルミニウムを使用した。封止剤硬化前後での記録素子基板の搭載位置変動を測定したところ、比較例においても、改善傾向はみられたが、比較例の個体によっては変動値が大きい記録素子基板が存在した。
【0027】
比較例の個体によっては、液体吐出ヘッドの部品の寸法精度ばらつきや製造工程での組立精度ばらつきによって、図10(d)に示すように、フレーム部材13と支持部材12のすき間の大きさに左右でばらつきが生じることがある。その結果、封止剤18の形状が左右で異なるものが製造される。このような場合、封止剤硬化時の硬化収縮応力も左右でばらつきが生じ、これによって、記録素子基板2が左右から受ける力が不均等となり、位置変動が生じると考えられる。また、別の問題として、すき間の大きさの違いに応じて封止剤18の高さばらつきが生じてしまい、左側の封止剤のようにワイヤーが露出する不良が発生したり、右側の封止剤のように封止材の高さが高くなってしまう不良が発生したりすることもある。封止高さが高くなると、記録媒体との干渉が生じやすくなることから、これを回避するため記録媒体とヘッドとの間の距離を拡大する必要が生じ、吐出液滴の着弾精度が悪化して画像品位が悪化するという問題が派生する。
【0028】
本変形例に係る図4および図5に示す構成は、図3(a)〜(c)に示した実施形態と同様、上述した比較例の問題を解決することができる。すなわち、フレーム部材13と支持部材12との間のすき間が電気配線基板14によって覆われて密閉空間となり、封止剤18がこのすき間に流れ込むことを防止できる。その結果、部品寸法精度ばらつきや組立精度ばらつきの影響ですき間の大きさにばらつきが生じても、封止剤18はそのすき間に形成されず、その形状を場所によらずほぼ均等な形状とすることができる。これにより、封止剤18の硬化収縮時の応力がほぼ均等となり、記録素子基板2の搭載位置変動を抑制でき、封止高さばらつきを抑えることもできる。
【0029】
また、電気配線基板14の大部分は、フレーム部材13に接着固定されていることから、製造工程時の加熱、冷却により電気配線基板14が伸縮するのを抑制でき、第一の封止剤18を介した記録素子基板の搭載位置変動を抑制することができる。
【0030】
本実施形態において、上記比較例と同様の実験を行った結果、封止剤硬化前後での記録素子基板の搭載位置の変動は、吐出口列方向(記録素子基板長手方向)において3μm以下に改善することができた。
【0031】
図6(a)および(b)は、本発明の第1実施形態の他の変形例に係る液体吐出ヘッドにおけるある1つの記録素子基板近傍の構成の詳細を示す図である。図6(a)は、図5(a)のB−B線に沿った概略断面図に相当する図であり、図6(b)は、図5(a)のC−C線に沿った概略断面図に相当する図である。本変形例では、フレーム部材13と支持部材12の間が第二の封止剤25で封止される。これにより、支持基板11と支持部材12の間のシール性を高め、これにより、不慮の事故により液体が漏れるのを防止することができる。第二の封止剤25は、弾性率が比較的低い材料を用いることが好ましく、これにより、硬化収縮時の応力を小さくして、支持部材12の位置変動を抑制することができる。本変形例においても、記録素子基板の位置変動抑制、封止高さばらつきの低減が可能であり、さらにより信頼性の高い液体吐出ヘッドを提供することが可能となる。
【0032】
図7(a)および(b)は、本発明の第1実施形態のさらに他の変形例に係る液体吐出ヘッドにおけるある1つの記録素子基板近傍の構成の詳細を示す図である。図7(a)は、記録素子基板近傍を拡大して示す平面図であり、図7(b)は、図7(a)のB−B線に沿った概略断面図である。本変形例では、電極端子15とワイヤー17の接合部が、フレーム部材13の上方に位置している。フレーム部材13に酸化アルミニウムのような高剛性の材料を用いた場合、支持部材12の上方で接合を行うよりも、より接合性が高くなる場合がある。これにより、電気接合不良を低減でき、製造歩留まりを向上させることができる。また、耐久性・信頼性を高くすることができる。本変形例においても、記録素子基板の位置変動抑制、封止高さばらつきの低減が可能であり、さらにより歩留まりが高く、耐久性・信頼性の高い液体吐出ヘッドを構成できる。
【0033】
(第2実施形態)
図8(a)〜(c)は、本発明の第2の実施形態に係る液体吐出ヘッドの記録素子基板近傍の構成を示す図である。詳しくは、図8(a)は、記録素子基板近傍を拡大して示す平面図であり、図8(b)は、図8(a)のB−B線に沿った概略断面図、図8(c)は、図8(a)のC−C線に沿った概略断面図である。なお、本実施形態の液体吐出ヘッドは、以下に示す構成以外は、第1の実施形態の変形例に係る液体吐出ヘッドと同様に構成されている。
【0034】
本実施形態でも、第1の実施形態の変形例と同様、電気配線基板14の大部分はフレーム部材13上に接着固定されているが、開口部14aの外周のうち、電気接続部が設けられる部位のみが支持部材12の上方に配置され、接着固定されている。従って、図8(b)に示す断面図は、図5(b)と同様であるが、図8(c)の断面図では、電気配線基板14がフレーム部材13上のみに配置される形態となっている。これにより、支持部材12の幅を小さくすることができ、ヘッド幅(記録素子基板短手方向に相当するヘッドの幅)も小さくすることができる。ヘッド幅が小さくなると、複数のヘッドを並べて配置した場合、ヘッド間ピッチも小さくでき、記録装置本体をコンパクトにできる。また、記録媒体の搬送精度ばらつきによるヘッド間での液滴着弾位置ずれも低減できるため、より良好な画像品質を得ることができる。
【0035】
本実施形態では、ダム剤20を記録素子基板2の四隅に形成した後、第一の封止剤18を塗布することで、第一の封止剤18がフレーム部材13と支持部材12の間に流れこむことを防いでいる。すなわち、電気配線基板14の開口部外周において、電気接続部と非電気接続部の境界部にダム剤が設けられる。ダム剤20は粘度が高く、形状保持性の高い材料を用いることが好ましい。また、第1の実施形態で用いた封止剤A19は用いていない。記録素子基板2と支持部材12の間のシール性が十分である場合は、封止剤A19を省くことができる。
【0036】
本実施形態においても、電気配線基板14がフレーム部材に接着固定されているため、電気配線基板14の伸縮を抑制でき、記録素子基板の搭載位置変動を抑制できる。さらに、ダム剤20を形成することで、第一の封止剤18の流れ込みを防ぎ、第一の封止剤18を場所によらず均等な形状かつ均等な硬化収縮応力とすることができ、記録素子基板の搭載位置精度を向上し、封止高さばらつきを抑えることができる。よって、画像品質の向上、高速記録を可能にする液体吐出ヘッドを提供できる。
【0037】
(第3実施形態)
図9(a)〜(c)は、本発明の第3の実施形態に係る液体吐出ヘッドの記録素子基板近傍の構成を示す図である。詳しくは、図9(a)は、記録素子基板近傍を拡大して示す平面図であり、図9(b)は、図9(a)のB−B線に沿った概略断面図、図9(c)は、図9(a)のC−C線に沿った概略断面図である。
【0038】
本実施形態では、プレート部材26が支持部材12上に配置されている。プレート部材26と支持部材12は、接着剤24aで接着固定されている。プレート部材26の上面と支持部材12の最上面は、ほぼ同一高さとされている。電気配線基板14は、プレート部材26と支持部材12とに跨るように配置され、接着剤24にて接着固定されている。これにより、電気配線基板14によって支持部材12間のすき間を覆うことができる。
【0039】
プレート部材の材料は、フレーム部材と同様の材料を用いることができる。フレーム部材を酸化アルミニウムで作成した場合、厚みが厚いため、製造が難しく、高価な製造方法を選択せざるを得ない場合が多い。しかし、本実施形態のプレート部材は、ヘッド構成上薄くすることが可能であり、比較的安価な製造コストで作成が可能で、部品コストの低減を図ることができる。
【0040】
本実施形態においても、記録素子基板の搭載位置精度を向上することが可能で、画像品質の向上、高速記録を可能にする液体吐出ヘッドを提供できる。
【0041】
以上の各実施形態によれば、個別の支持部材を支持基板上に精度良く搭載することで、複数の供給口の相対位置精度が確保でき、液体供給性の向上が可能な液体吐出ヘッドを提供することができる。
【0042】
また、一括の電気配線基板を用いることで、複数記録素子基板に対応する配線をとりまとめることができ、配線本数を減らし、様々な記録素子基板のサイズに対応して引き回しが可能となる。電源系の配線幅も広くできるため、記録を高速化しても、電圧降下量を低減し、安定した駆動を行える液体吐出ヘッドを提供できる。
【0043】
さらに、一括での回復キャップによるキャッピングが可能となり、回復系構成を簡素化し、記録装置の小型化が可能である。ブレードによるワイピング性も向上でき、画像不良を抑制することが可能な液体吐出ヘッドを提供できる。
【0044】
さらにまた、電気配線基板が低線膨張率のフレーム部材やプレート部材によって拘束されるため、製造工程等の加熱・冷却によって電気配線基板が伸縮して、第一の封止剤を介した記録素子基板の搭載位置が変動することを抑制することができる。電気配線基板が支持部材とフレーム部材(プレート部材)にまたがって搭載されるため、寸法・組立ばらつきにより支持部材とフレーム部材(プレート部材)のすき間にばらつきが生じても、電気接続部の第一の封止剤形状は、場所によらずほぼ均等な形状となる。よって、第一の封止剤の硬化収縮時の応力もほぼ均等となり、記録素子基板の搭載位置精度が向上し、かつ封止高さばらつきが少なくなり記録素子基板の吐出口面と記録媒体との距離を小さくすることができる。よって、画像品質の向上が可能となる。
【符号の説明】
【0045】
1 液体吐出ヘッド
2 記録素子基板
3 吐出口列
4 電極
5 シリコン基板
6 ノズルプレート
11 支持基板
11a 液体導入口
12 支持部材
13 フレーム部材
13a フレーム部材開口部
14 電気配線基板
14a 電気配線基板開口部
15 電極端子
16 外部電極端子
17 ワイヤー
18 第一の封止剤
19 封止剤A
26 プレート部材
30 液体供給部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10