特許第6238639号(P6238639)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6238639
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】圧電振動子
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/19 20060101AFI20171120BHJP
【FI】
   H03H9/19 B
   H03H9/19 C
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-174131(P2013-174131)
(22)【出願日】2013年8月26日
(65)【公開番号】特開2015-43483(P2015-43483A)
(43)【公開日】2015年3月5日
【審査請求日】2016年8月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000237444
【氏名又は名称】リバーエレテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097043
【弁理士】
【氏名又は名称】浅川 哲
(72)【発明者】
【氏名】山形 佑亮
(72)【発明者】
【氏名】水本 勝也
【審査官】 石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−151651(JP,A)
【文献】 特開昭59−127415(JP,A)
【文献】 特開2012−119762(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/00− 9/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X軸、Y軸及びZ軸からなる三次元の結晶方位を有する水晶体のXZ面からなるY板を+40°〜+50°の範囲でX軸を中心に回転させ、さらに、この回転で得られるXZ’面からなるY’板を40°〜50°の範囲で平面回転させた回転角によってカットされ、
幅縦モードの主振動を伴う一対の主振動辺及びこの一対の主振動辺と直交し、長さ縦モードの副振動を伴う一対の副振動辺からなる四角形状の振動部を3つ或いは5つ有する圧電振動板と、
前記各振動部の表裏面に形成される励振電極と、
前記圧電振動板の一端を支持する支持部と、
前記圧電振動板の外周に設けられ、前記支持部が接続される基部とを備え、
前記圧電振動板は、それぞれの振動部における主振動辺と副振動辺との長さの比が、主振動辺の長さを1としたときに副振動辺の長さが1.00〜1.11に設定されると共に、
圧電振動板の厚みと主振動辺の長さとの比が、主振動辺の長さを1としたときに圧電振動板の厚みを0.1よりも小さくすることで、主振動の等価直列抵抗R1を低下させると共に、1次温度係数αと2次温度係数βとが0付近で一致させ、10〜24MHzの振動周波数を得ることを特徴とする圧電振動子。
【請求項2】
前記圧電振動板は、厚み及び振動部の数を調整することによって、並列容量C0が0.4pF以上、主振動の等価直列インダクタンスL1が30〜80mHに設定される請求項1に記載の圧電振動子。
【請求項3】
前記主振動と結合させたときの副振動の容量比が1000〜3000に設定される請求項1に記載の圧電振動子。
【請求項4】
前記振動部は、前記圧電振動板の厚みと前記励振電極の厚みとの比が、圧電振動板の厚みを1としたときに励振電極の厚みが0.001以上且つ0.15未満に設定されると共に、主振動辺の長さに対する励振電極の厚みが0より大きく且つ0.004より小さく設定される請求項1に記載の圧電振動子。
【請求項5】
前記支持部は、前記圧電振動板を構成する少なくとも一の振動部の主振動辺の略中央部を支持するアームを備え、振動部との接続幅が主振動辺の長さを1としたときに0.1〜0.3に設定し、前記アームの厚みが前記圧電振動板の厚みを1としたときに少なくとも1以上に設定する一方、
前記アームの他端と前記基部との接続幅が前記主振動辺の長さを1としたときに0.1〜0.3に設定される請求項1に記載の圧電振動子。
【請求項6】
前記基部は、保持幅が前記主振動辺の長さ1としたときに0.5以上に設定される請求項1に記載の圧電振動子。
【請求項7】
前記圧電振動板は、主振動方向又は副振動方向に対して複数の振動部を配列して形成される請求項1に記載の圧電振動子。
【請求項8】
前記圧電振動板、支持部及び基部は、水晶基板によって一体形成される請求項1に記載の圧電振動子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幅縦・長さ縦結合モードの圧電振動子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の幅縦振動を主振動とする幅縦・長さ縦結合モードの圧電振動子にあっては、幅縦振動による主振動の共振周波数が1〜3.5MHz程度までのものが実用化されている。例えば、主振動の共振周波数が2.1MHzの場合、振動板の一辺の長さは、1.5mm程度となる。このような大型の振動板にあっては、励振電極も比較的広く取れるので、振動板の振動エネルギーは十分に大きいものとなる。このため、良好な温度特性を得るには、振動板を支持するアーム状の支持部によって副振動に制限を加え、その振動周波数を調整することで、主振動との結合状態を制御するのが比較的容易であった。
【0003】
また、前記圧電振動子は、主振動である幅縦モードの周波数と副振動である長さ縦モードの周波数との結合状態を変化させることによって、周波数温度特性を変化させることができるようになっている。
【0004】
通常、主振動モードの周波数は、公称周波数であるため変えることはできず、ある設定された周波数で発振させる必要がある。また、温度特性を変化させるには、結合状態を変えることが必要となる。このためには、副振動モードの周波数を変化させる必要がある。この副振動モードの周波数を変化させる方法の一つは、ループ状のアームの太さと長さを変えることでそのバネ性を調節して、副振動モードの振動に制限(振動の勢いを殺ぐ)をかける方法であり、もう一つは、錘を付加あるいは除去して、副振動モードの周波数を減少あるいは上昇させることによって調節する方法である。
【0005】
また、前記主振動の容量比γは、その振動状態の良し悪しや与えられた電磁エネルギーを振動エネルギーに変換する際の変換効率のバロメーターとなる。幅縦・長さ縦結合モードの場合、容量比γの値は振動板の大きさ(周波数)には依存しない。報告されている2.1MHzにおける一般的な従来の圧電振動子の容量比は400〜600であり、アームを無視した振動板のみでの容量比(200〜400)の値と比較すると大きく、アームが副振動を制御したことによる容量比悪化への影響は大きくなる。換言すると、副振動を大きく制限する従来形状のアームは、振動板の振動エネルギーを大きくロスしながら、周波数温度特性を良好なものとし、実使用上、問題の無い電気的特性を得られる範囲で設計されていたと言える。
【0006】
上記圧電振動子において、主振動の共振周波数を上げるために振動板を小型化すると、振動エネルギーそのものが小さくなる。このため、振動板のサイズが比較的大きな1〜3.5MHzの共振周波数帯では実用上問題はないが、従来形状をそのまま小型化するだけでは、設計が非常に困難となる。
【0007】
特許文献1,2には、幅縦・長さ縦結合モードの振動を生じさせるための一般的な形状及び構造を有した圧電振動子が開示されている。このタイプの圧電振動子は、少なくとも一対以上の励振電極が形成された振動板と、この振動板に副振動となる長さ縦モードを制御するアームとからなっている。なお、強度を保つと共に、落下などによる衝撃等によって破損しないように、前記アームが振動板の外周部から外方向に延びる支持本体部と、前記振動板を包囲するようにして設けられ、前記それぞれの支持本体部の一端が繋がる支持枠(フレーム)とを備えて構成される場合もある。
【0008】
また、振動板の振動エネルギーがアームを介して漏れ出ることを防止するために、アームを細く構成する場合があるが、製造工程において組立をする際に、アームを破損し易いという欠点があり、前述したように、アームを振動板から延びる支持本体部とこの支持本体部に繋がるフレームとで構成して強度をアップする必要があった。しかしながら、振動板を支持本体部やフレームで完全に包囲してしまうと、支持強度は増すものの、振動子全体としての小型化ができない。また、必要以上にフレームによって支持強度を高めると、副振動となる長さ縦振動を阻害し、主振動となる幅縦振動と適切な結合状態を作り出すことが困難となる場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平1−126009号公報
【特許文献2】特開平10−117120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、前述した従来の単純梁構造による幅縦・長さ縦結合モードの圧電振動子は、1.0〜3.5MHz程度の比較的低い周波数で実用化されている例が多い。これは、共振周波数を4MHz以上に設定すると、振動板を非常に小さくする必要があるからである。例えば、共振周波数12MHzで基本波の場合には、方形状の振動板の幅は約270μm程度となる。従来例のような構造のアームのままで小型化かつ高周波化すると、振動板の振動エネルギーそのものが小さいため、振動が阻害され、等価直列抵抗(R1)が大きくなる。また、R1以外にも容量比γやQなど、満足な電気的特性を得られないという欠点があった。
【0011】
また、幅縦振動と長さ縦振動の結合度合いを調整することで、一般的に最も良く使用され、かつ、周波数温度特性が最も良いとされるATカット圧電振動子よりも良い周波数温度特性を得ることができる。しかし、幅縦・長さ縦結合モード水晶振動子は、長さ縦モードの周波数を調整するアームの重量が振動板重量と比較して大きくなりすぎると良好な周波数温度特性を得る結合状態をつくり出すことができない。従って、共振周波数を上げて、振動板を小さく、重量を軽くすると、それにつれて、アームも細く、小さく、薄くして重量を軽くする必要が生じてくる。その結果、満足な周波数温度特性が得られるような形状やサイズにアームを作製できたとしても、強度が弱くなりすぎて振動板を保持できないという問題があった。
【0012】
そこで、本発明の目的は、高発振周波数及び小型化に対応して、振動部等の設計条件を最適化することで周波数温度特性の優れた幅縦・長さ縦結合モードの圧電振動子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の圧電振動子は、X軸、Y軸及びZ軸からなる三次元の結晶方位を有する水晶体のXZ面からなるY板を+40°〜+50°の範囲でX軸を中心に回転させ、さらに、この回転で得られるXZ’面からなるY’板を40°〜50°の範囲で平面回転させた回転角によってカットされ、幅縦モードの主振動を伴う一対の主振動辺及びこの一対の主振動辺と直交し、長さ縦モードの副振動を伴う一対の副振動辺からなる四角形状の振動部を3つ或いは5つ有する圧電振動板と、前記各振動部の表裏面に形成される励振電極と、前記圧電振動板の一端を支持する支持部と、前記圧電振動板の外周に設けられ、前記支持部が接続される基部とを備え、前記圧電振動板は、それぞれの振動部における主振動辺と副振動辺との長さの比が、主振動辺の長さを1としたときに副振動辺の長さが1.00〜1.11に設定されると共に、圧電振動板の厚みと主振動辺の長さとの比が、主振動辺の長さを1としたときに圧電振動板の厚みを0.1よりも小さくすることで、主振動の等価直列抵抗R1を低下させると共に、1次温度係数αと2次温度係数βとが0付近で一致させ、10〜24MHzの振動周波数を得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の圧電振動子によれば、幅縦・長さ縦結合モードとなる回転角によってカットされ、所定の比率による設計条件に基づいて圧電振動板や支持部等を形成することで、周波数温度特性に優れた圧電振動子を得ることが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態の圧電振動子の平面図(a)及びA−A断面図(b)である。
図2】第2実施形態の圧電振動子の平面図である。
図3】上記圧電振動子をパッケージに収納したときの平面図である。
図4】第3実施形態の圧電振動子の平面図である。
図5】上記第1実施形態の圧電振動子における1次温度係数αのシミュレーション解析を示すグラフである。
図6】上記第1実施形態の圧電振動子における2次温度係数βのシミュレーション解析を示すグラフである。
図7】上記第2実施形態の圧電振動子における1次温度係数α及び2次温度係数βのシミュレーション解析を示すグラフである。
図8図7の解析結果をもとに、1次温度係数αと2次温度係数βがそれぞれ0付近となる辺比(S/M)とカット角(θ)をプロットしたグラフである。
図9】圧電振動板の厚みと励振電極の厚みとの比を0.15に設定した場合の1次温度係数α及び2次温度係数βのシミュレーション解析を示すグラフである。
図10】圧電振動板の厚みと励振電極の厚みとの比を0.001に設定した場合の1次温度係数α及び2次温度係数βのシミュレーション解析を示すグラフである。
図11図9の解析結果をもとに、1次温度係数αと2次温度係数βがそれぞれ0付近となる辺比(S/M)とカット角(θ)をプロットしたグラフである。
図12図10の解析結果をもとに、1次温度係数αと2次温度係数βがそれぞれ0付近となる辺比(S/M)とカット角(θ)をプロットしたグラフである。
図13】第2実施形態の圧電振動子と第3実施形態の圧電振動子との比較において、解析周波数を12MHzとした場合の1次温度係数α及び2次温度係数βとの関係を示したグラフである。
図14】第2実施形態の圧電振動子と第3実施形態の圧電振動子との比較において、解析周波数を16MHzとした場合の1次温度係数α及び2次温度係数βとの関係を示したグラフである。
図15】第2実施形態の圧電振動子と第3実施形態の圧電振動子との比較において、解析周波数を19.2MHzとした場合の1次温度係数α及び2次温度係数βとの関係を示したグラフである。
図16】第2実施形態の圧電振動子において、圧電振動板の厚みと主振動辺の比に対する等価直列抵抗R1を測定した実験グラフである。
図17】周波数を12,16,19.2MHzに設定し、振動板数、水晶厚を変化させたときのC0とR1の実験グラフである。
図18】周波数温度特性の1次温度係数αと2次温度係数βが0になるときの各周波数での解析結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、第1実施形態の圧電振動子10の平面形態(a)及び振動部の断面形態(b)を示したものである。この圧電振動子10は、輪郭振動を伴う基本形状からなり、幅縦・長さ縦結合モードの振動を発生させるための四角形状の圧電振動板11と、この圧電振動板11の一側面から外方向に延びる支持部(アーム)13と、このアーム13を支持する基部(フレーム)14とを備えて一体形成されている。
【0017】
幅縦・長さ縦結合モードは、通常、長さ縦モードの振動を調整して、幅縦モードを結合させることにより、温度特性などの良好な振動子特性を得る。前記アーム13は、長さ縦モードの振動に対する錘として機能すると共に、バネ性を有しているため、振動を抑制することで周波数を調整する役割を備えている。
【0018】
前記圧電振動子10は、機械軸(Y軸)に垂直となるY板水晶を電気軸(X軸)を回転軸として角度θx=+40°〜+50°回転し、更に、前記X軸の回転後の新軸(Y´軸)を回転軸として、角度θy=40°〜50°回転した回転角(カット角)θで切り出され、上下面及び四方向の側面を有する薄板状の水晶基板19を所定の形状に加工して形成されている。また、前記Y軸の回転後の新軸であるY´軸に垂直な面となる圧電振動板11の表面及び裏面には極性の異なる少なくとも一対の励振電極17,18(17の裏面側)が対向して配置されている。なお、前記圧電振動板11、アーム13及びフレーム14は、前記水晶基板を所定形状に加工して形成される。
【0019】
前記圧電振動板11は、幅縦の主振動を生じさせるように対向する一対の主振動辺12a,12b(M)と、長さ縦の副振動を生じさせるように前記主振動辺(M)と直交する方向に対向する一対の副振動辺12c,12d(S)とからなる四角形状の振動部12によって形成されている。本発明では、上記構成からなる圧電振動子10において、等価直列抵抗R1を低下させると共に、1次温度係数αと2次温度係数βとが0付近で一致し、振動周波数が10〜24MHzとなるための最適な設計条件を解析データに基づいて規定したものである。
【0020】
前記主振動辺(M)と副振動辺(S)との辺比は、発振させる周波数によって異なるが、本実施形態では、主振動辺(M)と副振動辺(S)との長さの比(S/M)が、主振動辺(M)を1とした場合に副振動辺(S)を1〜1.45の値に設定した。また、圧電振動板11の厚み(T)と主振動辺(M)の長さとの比(T/M)が、主振動辺(M)の長さを1とした場合に圧電振動板11の厚み(T)が0.1よりも小さくなるように設定した。
【0021】
前記振動部12には、表面に第1励振電極17、裏面に第2励振電極18が形成され、前記圧電振動板11の厚み(T)と前記第1及び第2励振電極17,18の厚み(T2)のとの比(T2/T)が、圧電振動板11の厚み(T)を1とした場合に第1及び第2励振電極17,18の厚み(T2)が0.001以上且つ0.15未満となるように設定した。この第1及び第2励振電極17,18に対して逆位相の電圧をフレーム14及びアーム13を介して印加することで、前記主振動辺(M)及び副振動辺(S)が撓み変形して幅縦・長さ縦結合モードの振動が生じる。
【0022】
前記アーム13は、前記一方の主振動辺(M)とフレーム14との間が連続した一つの経路によって弾性を有して結ばれた形状になっている。このような梁形状を有したアーム13では、幅縦モードの主振動への影響を極力及ぼさないようにするため、振動部12との接続部は少なく且つ狭いほどよい。このため、本実施形態の圧電振動子10は、アーム13の接続部が振動部12の両方の主振動辺(M)上に設けられる。
【0023】
したがって、前記アーム13と振動部12との接続幅(D1)が前記主振動辺(M)の長さを1としたときに0.1〜0.3とし、アーム13の厚み(T3)が前記圧電振動板11の厚み(T)を1としたときに少なくとも1以上に設定するのが好ましい。さらに、前記アーム13の他端とフレーム14との接続幅(D2)が前記主振動辺(M)の長さを1としたときに0.1〜0.3とするのが好ましい。
【0024】
図2は第2実施形態の圧電振動子20を示したものである。この圧電振動子20は、圧電振動板21が3つの振動部22a〜22cによって構成されており、中央に位置している振動部22bの主振動辺から一対のアーム23が延び、共通のフレーム24に接続されている。前記3つの振動部22a〜22cは同一形状及び同一サイズとなっており、それぞれの振動部における主振動辺(M)と副振動辺(S)との長さの比(S/M)、圧電振動板11の厚み(T)と主振動辺(M)の長さとの比(T/M)、また、図1に示したように、圧電振動板11の厚み(T)と前記第1及び第2励振電極17,18と厚み(T2)との比(T2/T)は第1実施形態の圧電振動子10と同様となっている。さらに、アーム23と振動部22との接続部に関しても同様となる。
【0025】
前記圧電振動子20の各振動部22a〜22cに形成される励振電極17,18は、圧電振動板21の表面と裏面とに交互に極性が反転した配置となっている。このように、振動部を複数配列させることによって高次の振動モードが得られ、図1に示したような単体の振動部12による構成に比べて周波数温度特性の改善効果が得られる。
【0026】
図3は前記圧電振動子20をパッケージ15に収容した状態を示したものである。前記フレーム24は、圧電振動子20をパッケージに固定すると共に、アーム23を介して振動部22bの第1励振電極17及び第2励振電極18に電圧を印加するために設けられる。前記フレーム24は、両基端部をパッケージ15内の端子電極16にはんだ部材19を介して接続することによって、圧電振動板21を浮かせた状態で支持することができる。
【0027】
図4は、さらに周波数温度特性や等価直列抵抗を改善するために、振動部を5列構成とした第3実施形態の圧電振動子30を示したものである。この圧電振動子30も第2実施形態と同様に各振動部やアームの形状及びサイズの比が同一とすることによって、さらなる周波数温度特性の改善を図ることができる。
【0028】
次に、図2及び図4に示した形状の圧電振動子20,30に対して、図1に示した設計条件を適用した場合のFEMシミュレーションによる解析結果について説明する。ここでは、各振動部における主振動辺(M)と副振動辺(S)の辺比(S/M)、圧電振動板の厚み(T)と主振動辺(M)の長さとの比(T/M)及び圧電振動板の厚み(T)と励振電極の厚み(T2)との比(T2/T)を前記設計条件の中から選択した。
【0029】
最初に図1に示したような振動部が1枚構成の圧電振動子10における解析結果を図5及び図6に示す。この図5及び図6においては、共通設定として、解析周波数を12MHz、辺比(S/M)を1.00〜1.11、カット角を46°〜52°の範囲で変化させている。そして、図5(a)では(T2/T)を0.01、図5(b)では(T2/T)を0.001に設定した場合の1次温度係数αをシミュレーションによって解析したものであり、図6(a)では(T2/T)を0.01、図6(b)では(T2/T)を0.001に設定した場合の2次温度係数βをそれぞれシミュレーションによって解析したものである。この解析結果から、振動部が1枚構成では辺比(S/M)とカット角を振っても、1次温度係数α及び2次温度係数βが0付近となるような辺比とカット角は存在しないことが分かる。
【0030】
次に、図2に示したような振動部が3枚構成の圧電振動子20における解析結果を図7に示す。この図7においては、共通設定として、解析周波数を12MHz、(T2/T)を0.01、辺比(S/M)を1.00〜1.09、カット角を46°〜52°の範囲で変化させた場合の1次温度係数α(図7(a))及び2次温度係数β(図7(b))をそれぞれシミュレーションによって解析したものである。この解析結果から、振動部が3枚構成の場合では辺比(S/M)とカット角を振ったときに、1次温度係数α及び2次温度係数βが0付近となるような辺比とカット角は存在することが分かる。
【0031】
図8は、図7の解析結果をもとに、1次温度係数α及び2次温度係数βがそれぞれ0付近となる辺比(S/M)とカット角(θ)をプロットしたものであり、この交点が1次温度係数αと2次温度係数βがともに0となる辺比(S/M)とカット角(θ)である。1次温度係数αと2次温度係数βとが交わるところを見ると、辺比(S/M)=1.04、カット角θ=46°となっている。
【0032】
図9は、上記圧電振動子20において、圧電振動板21の厚み(T)と第1及び第2励振電極17,18と厚み(T2)との比(T2/T)を0.15に設定した場合の1次温度係数α(図9(a))と2次温度係数β(図9(b))のシミュレーション解析結果である。また、図10は、圧電振動板21の厚み(T)と第1及び第2励振電極17,18の厚み(T2)との比(T2/T)を0.001に設定した場合の1次温度係数α(図10(a))及び2次温度係数β(図10(b))のシミュレーション解析結果である。なお、励振電極はAuを用い、(T2/T)以外の他の条件は図7の場合と同様とした。このように、(T2/T)の設定を変えた場合であっても、1次温度係数α及び2次温度係数βが0付近となるような辺比とカット角は存在するが、(T2/T)を大きくすると、2次温度係数が0となる点が少なくなることが分かる。
【0033】
図11は、図9の解析結果をもとに、1次温度係数α及び2次温度係数βがそれぞれ0付近となる辺比(S/M)とカット角(θ)をプロットしたものであり、1次温度係数α及び2次温度係数βがそれぞれ0付近となるような辺比(S/M)とカット角(θ)は存在するが、1次温度係数αと2次温度係数βとがともに0付近となるような辺比とカット角は存在しなくなっている。このように、(T2/T)の比を大きくすることで、励振電極の温度特性の影響を受けることから、最適な温度特性を得るためには、(T2/T)を0.15より小さくする必要がある。
【0034】
図12は、図10の解析結果をもとに、1次温度係数α及び2次温度係数βがそれぞれ0付近となる辺比(S/M)とカット角(θ)をプロットしたものである。このように、圧電振動板の厚みと励振電極の厚みとの比を0.001とした場合であっても、1次温度係数α、2次温度係数βがともに0となる辺比(S/M)とカット角(θ)が存在することが分かる。ここで、1次温度係数αと2次温度係数βとが交わるところを見ると、辺比(S/M)=1.06、カット角θ=49°となっている。したがって、最適な温度特性を得るためには、(T2/T)を0.001以上且つ0.15未満となる範囲に設定することが必要となる。このとき、Tは10μmで固定し、T2を0.01〜1.5μmの範囲で解析しており、周波数が10〜24MHz帯までにするためには、Mは約130〜350μmとなる。よって、T2/Mは0よりも大きく、且つ0.004よりも小さく設定される。
【0035】
図13乃至図15は、振動部が3枚構成の第2実施形態の圧電振動子20(a)と、振動部が5枚構成の第3実施形態の圧電振動子30(b)において、解析周波数を12MHz(図13)、16MHz(図14)、19.2MHz(図15)の3段階に変えた場合の1次温度係数α及び2次温度係数βとの関係を示したものである。各図における1次温度係数αと2次温度係数βとが交差する点が辺比(S/M)とカット角(θ)の最適ポイントとなる。その結果、振動部3枚構成では辺比(S/M)=1.04、カット角(θ)=46.5°〜47°近辺、振動部5枚構成では辺比(S/M)=1.11、カット角(θ)=46.5°近辺となる。
【0036】
図16は、振動部3枚構成の圧電振動子における圧電振動板の厚み(T)と主振動辺(M)の比(T/M)における等価直列抵抗R1を測定した実験結果を示したものである。このときの解析周波数は12MHzに設定されている。この結果から、(T/M)が0.1以上となると、R1が800Ω以上と極めて高いものとなる。一般的にR1は、300Ω以下となるように推奨されているため、これを実現するには、前記(T/M)を0.1よりも小さく設定することが必要となる。
【0037】
図17は、周波数を12,16,19.2MHzとした場合において、振動部数と圧電振動板の厚み(T)を変化させたときの並列容量C0とR1との関係を実験によって求めたものである。この結果から、R1を300Ω以下とするためには、C0を0.4pF以上となるように圧電振動板の厚み(T)や振動部の数を調整する必要がある。
【0038】
図18は、周波数温度特性の1次温度係数αと2次温度係数βが0になるときの各周波数での解析結果である。なお、主振動と副振動の周波数及び等価定数はFEMシミュレーションで得られた解析値となっている。この解析結果から、主振動の等価直列インダクタンスL1は30〜80mH、等価直列容量C1は0.5〜5fFとなる。また、副振動の等価直列インダクタンスL2は200〜700mH、等価直列容量C2は0.1〜1fFとなる。さらに、主振動との結合における副振動の容量比は1000〜3000となる。このとき、図2及び図4に示したように、副振動の振動に大きく影響を与えるアーム23,33は、副振動を制限せず、主振動と結合させるために、振動部22b,32cとの接続幅(D1)が主振動辺(M)の長さを1としたときに0.1〜0.3に設定し、アーム23,33の厚みが圧電振動板21,31の厚みを1としたときに少なくとも1以上に設定し、アーム23,33の他端とフレーム24,34との接続幅(D2)が主振動辺(M)の長さを1としたときに0.1〜0.3に設定する必要がある。
【0039】
一方、フレーム14に関しては、図3に示したように、パッケージ15に設けられる端子電極16との保持幅(D3)が主振動辺(M)の長さ1とした場合に0.5以上に設定することで、外部からの衝撃等に対しても圧電振動板21を安定した状態で保持することができる。このため、外部要因による影響を及ぼすことなく、各種の設計条件に基づいて形成された振動部やアームによって、設定どおりの最適な周波数温度特性を得ることができる。
【0040】
以上説明したように、本発明の圧電振動子では、圧電振動板を小型化する際に、振動部の辺比や厚み及び励振電極の厚み等を1次温度係数αと2次温度係数βとが0付近で一致する範囲で等価直列抵抗が低下する最適な値に数値限定したことによって、周波数温度特性の良好な振動モードを得ることが可能となった。また、前記圧電振動板を保持するアーム(支持部)やフレーム(基部)についても圧電振動板に接続する部分を中心として辺比や厚み等を数値限定することによって、圧電振動板に及ぼす衝撃等の外部要因に影響を低減化することができる。
【符号の説明】
【0041】
M 主振動辺
S 副振動辺
D1 接続幅
D2 接続幅
D3 保持幅
T 圧電振動板の厚み
T2 励振電極の厚み
T3 アームの厚み
10,20,30 圧電振動子
11,21,31 圧電振動板
12,22a〜22c,32a〜32e 振動部
12a,12b 主振動辺
12c,12d 副振動辺
13,23,33 アーム
14,24,34 フレーム
15 パッケージ
16 端子電極
17 第1励振電極
18 第2励振電極
19 はんだ部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18