(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ゲート電極とチャネルとの間に、ランタン(La)とジルコニウム(Zr)とからなる酸化物(不可避不純物を含み得る)又はランタン(La)とタンタル(Ta)とからなる酸化物(不可避不純物を含み得る)であるゲート絶縁層を備えるとともに、前記ゲート絶縁層中の炭素(C)の含有率が0.5atom%以上15atom%以下であり、かつ、前記ゲート絶縁層中の水素(H)の含有率が2atom%以上20atom%以下であり、
前記チャネルが、
インジウム(In)からなる酸化物(不可避不純物を含み得る)、インジウム(In)と錫(Sn)とからなる酸化物(不可避不純物を含み得る)、インジウム(In)と亜鉛(Zn)とからなる酸化物(不可避不純物を含み得る)、及びインジウム(In)とジルコニウム(Zr)と亜鉛(Zn)とからなる酸化物(不可避不純物を含み得る)の群から選択される1種のチャネル酸化物層である、
薄膜トランジスタ。
ランタン(La)を含む前駆体及びジルコニウム(Zr)を含む前駆体を溶質とする前駆体溶液又はランタン(La)を含む前駆体及びタンタル(Ta)を含む前駆体を溶質とする前駆体溶液であるゲート絶縁層用前駆体溶液を出発材とするゲート絶縁層用前駆体層を、酸素含有雰囲気中において加熱することにより、ランタン(La)とジルコニウム(Zr)とからなる酸化物(不可避不純物を含み得る)又はランタン(La)とタンタル(Ta)とからなる酸化物(不可避不純物を含み得る)であるゲート絶縁層であって、かつ前記ゲート絶縁層中の炭素(C)の含有率が0.5atom%以上15atom%以下であり、かつ、前記ゲート絶縁層中の水素(H)の含有率が2atom%以上20atom%以下である前記ゲート絶縁層を、ゲート電極層に接するように形成するゲート絶縁層形成工程を、
前記ゲート電極層の形成工程とチャネル用酸化物(不可避不純物を含み得る)を形成するチャネルの形成工程との間に含み、
前記チャネルの形成工程が、
インジウム(In)からなる第1酸化物(不可避不純物を含み得る)、インジウム(In)と錫(Sn)とからなる第2酸化物(不可避不純物を含み得る)、インジウム(In)と亜鉛(Zn)とからなる第3酸化物(不可避不純物を含み得る)又は、インジウム(In)とジルコニウム(Zr)と亜鉛(Zn)とからなる第4酸化物(不可避不純物を含み得る)
であるチャネル用酸化物を形成する工程である、
薄膜トランジスタの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態である薄膜トランジスタ及びその製造方法を、添付する図面に基づいて詳細に述べる。なお、この説明に際し、全図にわたり、特に言及がない限り、共通する部分には共通する参照符号が付されている。また、図中、本実施形態の要素は必ずしも互いの縮尺を保って記載されるものではない。さらに、各図面を見やすくするために、一部の符号が省略され得る。
【0021】
<第1の実施形態>
1.本実施形態の薄膜トランジスタの全体構成
図1乃至
図8は、それぞれ、薄膜トランジスタ100の製造方法の一過程を示す断面模式図である。また、
図9は、本実施形態における薄膜トランジスタ100の製造方法の一過程及び全体構成を示す断面模式図である。
図9に示すように、本実施形態における薄膜トランジスタ100においては、基板10上に、下層から、ゲート電極20、ゲート絶縁層34、チャネル44、ソース電極58及びドレイン電極56の順序で積層されている。
【0022】
薄膜トランジスタ100は、いわゆるボトムゲート構造を採用しているが、本実施形態はこの構造に限定されない。従って、当業者であれば、通常の技術常識を以って本実施形態の説明を参照することにより、工程の順序を変更することによって、トップゲート構造を形成することができる。また、本出願における温度の表示は、基板と接触するヒーターの加熱面の表面温度を表している。また、図面を簡略化するため、各電極からの引き出し電極のパターニングについての記載は省略する。
【0023】
基板10には、例えば、高耐熱ガラス、SiO
2/Si基板(すなわち、シリコン基板上に酸化シリコン膜を形成した基板。以下、単に「基板」ともいう)、アルミナ(Al
2O
3)基板、STO(SrTiO)基板、Si基板の表面にSiO
2層及びTi層を介してSTO(SrTiO)層を形成した絶縁性基板等、半導体基板(例えば、Si基板、SiC基板、Ge基板等)を含む、種々の絶縁性基材が適用できる。
【0024】
ゲート電極20の材料には、例えば、白金、金、銀、銅、アルミ、モリブデン、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、タングステン、などの高融点金属、又はその合金等の金属材料、あるいは、インジウム錫酸化物(ITO)又は酸化ルテニウム(RuO
2)が適用できる。
【0025】
本実施形態における薄膜トランジスタ100においては、ゲート絶縁層34が、ランタン(La)とジルコニウム(Zr)とからなる酸化物(但し、不可避不純物を含み得る。以下、この材料の酸化物に限らず他の材料の酸化物についても同じ。)又は、ランタン(La)とタンタル(Ta)とからなる酸化物である。
【0026】
ここで、ゲート絶縁層34におけるランタン(La)とジルコニウム(Zr)との原子数比については、特に限定されないが、例えば、ランタン(La)を1としたときにジルコニウム(Zr)が、約0.43以上約2.33以下であることが良好なトランジスタ性能の効果(代表的には、高い電界効果移動度)が奏され得るため好ましい。加えて、ランタン(La)とジルコニウム(Zr)との原子数比については、ランタン(La)を1としたときにジルコニウム(Zr)が、1以上2.33以下であることが、トランジスタ性能の効果(代表的には、高い電界効果移動度)が確度高く奏され得るため特に好ましい。なお、ゲート絶縁層34のうち、ランタン(La)とジルコニウム(Zr)とからなる酸化物は、LZO層とも呼ばれる、また、ゲート絶縁層34のうち、ランタン(La)とタンタル(Ta)とからなる酸化物は、LTO層とも呼ばれる。なお、本願においては、各種の原子組成比は、ラザフォード後方散乱分光法(RBS法)等を用いて、元素分析を行うことにより求めた。特に、炭素(C)と水素(H)の含有率については、National Electrostatics Corporation 製 Pelletron 3SDHを用いて、ラザフォード後方散乱分光法(Rutherford Backscattering Spectrometry:RBS分析法)、水素前方散乱分析法(Hydrogen Forward scattering Spectrometry:HFS分析法)、及び核反応解析法((Nuclear Reaction Analysis:NRA分析法)を用いて元素分析を行うことにより求めた。
【0027】
また、ゲート絶縁層34におけるランタン(La)とタンタル(Ta)との原子数比についても、特に限定されない。
【0028】
本実施形態のゲート絶縁層34の厚みは50nm以上300nm以下が好ましい。ゲート絶縁層34の厚みの上限は特に制限はないが、例えば、300nmを超えると、チャネルの界面特性に影響を及ぼす可能性があるため好ましくない。一方、その厚みが50nm未満になることは、リーク電流増加や膜の基板への被覆性劣化などの観点から好ましくない。
【0029】
また、ゲート絶縁層34の比誘電率は、3以上100以下が好ましい。ゲート絶縁層34の比誘電率が100を超えると、時定数が大きくなるため、トランジスタの高速動作を妨げる要因になる一方、比誘電率が3未満になれば、ゲート絶縁膜による誘起電荷量が低減してデバイス特性が劣化する可能性があるため好ましくない。なお、前述の観点から言えば、比誘電率が15以上30以下であることがさらに好ましい。
【0030】
本実施形態のチャネル44は、以下の(A1)〜(D1)に示す4種類のチャネル用酸化物である。
(A1)インジウム(In)からなるチャネル用酸化物(本実施形態では、「第1酸化物」又は「InO」ともいう)
(B1)インジウム(In)と錫(Sn)とからなるチャネル用酸化物(本実施形態では、「第2酸化物」又は「ITO」ともいう)
(C1)インジウム(In)と亜鉛(Zn)とからなるチャネル用酸化物(本実施形態では、「第3酸化物」又は「IZO」ともいう)
(D1)インジウム(In)とジルコニウム(Zr)と亜鉛(Zn)とからなるチャネル用酸化物(本実施形態では、「第4酸化物」又は「ZIZO」ともいう)
【0031】
なお、本実施形態の第2酸化物においては、例えば、チャネル用酸化物は、インジウム(In)を1としたときに0.001以上0.03以下の原子数比となる錫(Sn)を含む。
【0032】
また、本実施形態の第3酸化物においては、例えば、チャネル用酸化物は、インジウム(In)を1としたときに0.001以上0.75以下の原子数比となる亜鉛(Zn)を含む。
【0033】
また、本実施形態の第4酸化物においては、例えば、チャネル用酸化物は、インジウム(In)を1としたときに0.001以上0.75以下の原子数比となる亜鉛(Zn)と0.015以上0.075以下の原子数比となるジルコニウム(Zr)を含む。
【0034】
また、本実施形態のチャネル用酸化物は、アモルファス相あるいはナノ結晶相であることも確認された。従って、チャネル44に接するアモルファス相であるゲート絶縁層34との良好な界面状態が得られると考えられる。その結果、良好な電気特性を備えた薄膜トランジスタが形成され得る。なお、インジウム(In)からなるチャネル44の層は、InO層とも呼ばれる。また、インジウム(In)と錫(Sn)とからなるチャネル用酸化物からなるチャネル44の層は、ITO(Indium Tin Oxide)層とも呼ばれる。また、インジウム(In)と亜鉛(Zn)とからなるチャネル用酸化物からなるチャネル44の層は、IZO層とも呼ばれる。また、インジウム(In)、亜鉛(Zn)、及びジルコニウム(Zr)を含むチャネル用酸化物からなるチャネル44の層は、ZIZO層とも呼ばれる。
【0035】
また、チャネル44の厚みが、5nm以上80nm以下である薄膜トランジスタは、確度高くゲート絶縁層34等を覆う観点、及びチャネルの導電性の変調を容易にする観点から好適な一態様である。
【0036】
また、本実施形態のソース電極58及びドレイン電極56の材料は特に限定されないが、例えばITO(Indium Tin Oxide)又は、酸化ルテニウム(RuO
2
)からなる。
【0037】
2.薄膜トランジスタ100の製造方法
(1)ゲート電極の形成
まず、
図1に示すように、ゲート電極20が、公知のスパッタリング法により基材であるSiO
2/Si基板(以下、単に「基板」ともいう)10上に形成される。
【0038】
(2)ゲート絶縁層の形成
次に、
図2に示すように、ゲート電極20上に、公知のスピンコーティング法により、ランタン(La)を含む前駆体及びジルコニウム(Zr)を含む前駆体を溶質とするゲート絶縁層用前駆体溶液、又はランタン(La)を含む前駆体及びタンタル(Ta)を含む前駆体を溶質とするゲート絶縁層用前駆体溶液を出発材とするゲート絶縁層用前駆体層32を形成する。
【0039】
ここで、本実施形態においては、最終的に形成されるゲート絶縁層中の炭素(C)の含有率が0.5atom%以上15atom%以下となり、かつ、そのゲート絶縁層中の水素(H)の含有率が2atom%以上20atom%以下となるように、ゲート絶縁層用前駆体溶液が調整される。具体的な調整方法は、次の(1)〜(3)に示すとおりである。
(1)110℃で30分間の加熱によって、プロピオン酸に酢酸ランタンを溶解させ、0.2mol/kgの溶液を得る。
(2)110℃で30分間の加熱によって、プロピオン酸にジルコニウムブトキシドを溶解させ、0.2mol/kgの溶液を得る。
(3)上記(1)及び(2)の各溶液を室温において混合する。
なお、薄膜トランジスタとしての電気的特性をより向上させる観点から、上述の炭素(C)の含有率が1atom%以上10atom%以下となり、かつ、そのゲート絶縁層中の水素(H)の含有率が5atom%以上18atom%以下にすることが更に好ましい。
【0040】
加えて、ゲート絶縁層中の炭素(C)の含有率が0.5atom%未満であれば、トランジスタの電界効果移動度が低くなる。一方、ゲート絶縁層中の炭素(C)の含有率が15atom%を越えると、絶縁性が悪くなるという問題が生じる可能性がある。また、ゲート絶縁層中の水素(H)の含有率が2atom%未満であれば、トランジスタの電界効果移動度が低くなるという問題が生じる可能性がある。一方、20atom%を超えると、絶縁性が悪くなるという問題が生じる可能性がある。
【0041】
本実施形態におけるゲート絶縁層用の酸化物のためのランタン(La)を含む前駆体の例は、酢酸ランタンである。その他の例として、硝酸ランタン、塩化ランタン、又は各種のランタンアルコキシド(例えば、ランタンイソプロポキシド、ランタンブトキシド、ランタンエトキシド、ランタンメトキシエトキシド)が採用され得る。また、本実施形態におけるゲート絶縁層用の酸化物のためのジルコニウム(Zr)を含む前駆体の例は、ジルコニウムブトキシドである。その他の例として、硝酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム、又はその他の各種のジルコニウムアルコキシド(例えば、ジルコニウムイソプロポキシド、ジルコニウムブトキシド、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムメトキシエトキシド)が採用され得る。また、本実施形態におけるゲート絶縁層用の酸化物のためのタンタル(Ta)を含む前駆体の例は、タンタルブトキシドである。その他の例として、硝酸タンタル、塩化タンタル、又はその他の各種のタンタルアルコキシド(例えば、タンタルイソプロポキシド、タンタルブトキシド、タンタルエトキシド、タンタルメトキシエトキシド)が採用され得る。
【0042】
その後、予備焼成として、所定時間、80℃以上250℃以下で加熱する。この予備焼成により、ゲート絶縁層用前駆体層32中の溶媒を十分に蒸発させるとともに、将来的な塑性変形を可能にする特性を発現させるために好ましいゲル状態(熱分解前であって有機鎖が残存している状態と考えられる)を形成することができる。前述の観点をより確度高く実現する観点から言えば、予備焼成温度は、100℃以上250℃以下が好ましい。また、この温度範囲は、他の材料における予備焼成の好ましい温度範囲でもある。
【0043】
なお、この予備焼成は、酸素雰囲気中又は大気中(以下、総称して、「酸素含有雰囲気」ともいう。)で行われる。本実施形態では、最終的に十分なゲート絶縁層34の厚み(例えば、約125nm)を得るために、前述のスピンコーティング法によるゲート絶縁層用前駆体層32の形成と予備焼成を複数回繰り返す。さらにその後、本焼成として、ゲート絶縁層用前駆体層32を、酸素雰囲気中(例えば100体積%であるが、これに限定されない。以下の「酸素雰囲気」についても同じ。)、所定時間、250℃以上500℃以下の範囲で加熱熱することにより、
図3に示すように、ゲート電極20上に、ランタン(La)とジルコニウム(Zr)とからなる酸化物、又はランタン(La)とタンタル(Ta)とからなる酸化物であるゲート絶縁層34が形成される。
【0044】
ところで、本実施形態におけるゲート絶縁層34は、ランタン(La)を含む前駆体及びジルコニウム(Zr)を含む前駆体を溶質とするゲート絶縁層用前駆体溶液、又は、ランタン(La)を含む前駆体及びタンタル(Ta)を含む前駆体を溶質とするゲート絶縁層用前駆体溶液を焼成することによって形成されている。
【0045】
(3)チャネルの形成
その後、
図4に示すように、ゲート絶縁層34上に、公知のスピンコーティング法により、チャネル用前駆体層42を形成する。本実施形態では、4種類の前駆体を溶質とする、以下の(A2)〜(D2)に示すチャネル用前駆体溶液を出発材とするチャネル用前駆体層42が形成される。
(A2)インジウム(In)を含む前駆体を溶質とするチャネル用前駆体溶液(本実施形態では、「第1前駆体溶液」ともいう)
(B2)インジウム(In)を含む前駆体及び錫(Sn)を含む前駆体を溶質とするチャネル用前駆体溶液(本実施形態では、「第2前駆体溶液」ともいう)
(C2)ンジウム(In)を含む前駆体及び亜鉛(Zn)を含む前駆体を溶質とするチャネル用前駆体溶液(本実施形態では、「第3前駆体溶液」ともいう)
(D2)インジウム(In)を含む前駆体、ジルコニウム(Zr)を含む前駆体、及び亜鉛(Zn)を含む前駆体を溶質とするチャネル用前駆体溶液(本実施形態では、「第4前駆体溶液」ともいう)
【0046】
加えて、上述のチャネル用前駆体溶液は、さらに、アセチルアセトネート、尿素、及び酢酸アンモニウムの群から選択される少なくとも1種類の助焼成剤と、酸化剤とを含んでいる。なお、酸化剤の一例は、硝酸塩、過酸化物、又は過塩素酸塩である。
【0047】
その後、予備焼成として、チャネル用前駆体層42を所定時間、80℃以上300℃以下の範囲で加熱する。さらにその後、本焼成として、チャネル用前駆体層42を、酸素雰囲気中、所定時間、180℃以上500℃以下の範囲で加熱することにより、
図5に示すように、ゲート絶縁層34上に、上述の(A1)〜(D1)に示す4種類のチャネル用酸化物からなるチャネル44が形成される。
【0048】
ここで、本実施形態におけるチャネル44のためのインジウム(In)を含む前駆体の例は、硝酸インジウムである。その他の例として、インジウムアセチルアセトナート、酢酸インジウム、塩化インジウム、又は各種のインジウムアルコキシド(例えば、インジウムイソプロポキシド、インジウムブトキシド、インジウムエトキシド、インジウムメトキシエトキシド)が採用され得る。また、本実施形態におけるチャネル44のための亜鉛(Zn)を含む前駆体の例は、塩化亜鉛である。その他の例として、硝酸亜鉛、酢酸亜鉛、又は各種の亜鉛アルコキシド(例えば、亜鉛イソプロポキシド、亜鉛ブトキシド、亜鉛エトキシド、亜鉛メトキシエトキシド)が採用され得る。本実施形態におけるチャネル44のための錫(Sn)を含む前駆体の例は、塩化錫である。その他の例として、硝酸錫、酢酸錫、又は各種の錫アルコキシド(例えば、錫イソプロポキシド、錫ブトキシド、錫エトキシド、錫メトキシエトキシド)が採用され得る。また、本実施形態におけるチャネル44のためのジルコニウム(Zr)を含む前駆体の例は、ジルコニウムブトキシドである。その他の例として、硝酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム、又はその他の各種のジルコニウムアルコキシド(例えば、ジルコニウムイソプロポキシド、ジルコニウムブトキシド、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムメトキシエトキシド)が採用され得る。
【0049】
(4)ソース電極及びドレイン電極の形成
さらにその後、
図6に示すように、チャネル44上に、公知のフォトリソグラフィー法によってパターニングされたレジスト膜90が形成された後、チャネル44及びレジスト膜90上に、公知のスパッタリング法により、ITO層又はRuO
2層50を形成する。本実施形態のITO層ターゲット材は、5wt%酸化錫(SnO
2)を含有するITOであり、室温下において形成される。また、RuO
2層の場合のターゲット材は、それ自身である酸化ルテニウム(RuO
2)。その後、レジスト膜90が除去されると、
図7に示すように、チャネル44上に、ITO層又はRuO
2層50によるドレイン電極56及びソース電極58が形成される。
【0050】
その後、ドレイン電極56、ソース電極58、及びチャネル44上に、公知のフォトリソグラフィー法によってパターニングされたレジスト膜90が形成された後、レジスト膜90、ドレイン電極56の一部、及びソース電極58の一部をマスクとして、公知のアルゴン(Ar)プラズマによるドライエッチング法を用いて、露出しているチャネル44を除去する。その結果、パターニングされたチャネル44が形成されることにより、薄膜トランジスタ100が製造される。
【0051】
3.薄膜トランジスタ100の特性
次に、第1実施形態をより詳細に説明するために、実施例1を説明するが、本実施形態はこの例によって限定されるものではない。実施例1については、以下の方法によって、薄膜トランジスタ100の特性が調べられた。
【0052】
[実施例1]
実施例1においては、まず、基板10の上にゲート電極20として、200nm厚白金(Pt)層を形成した。白金層は、公知のスパッタリング法により形成された。実施例1では、SiO
2上に約10nm厚のTiO
X膜(図示しない)が形成されている。
【0053】
次に、ゲート電極層上に、公知のスピンコーティング法により、ランタン(La)を含む前駆体及びジルコニウム(Zr)を含む前駆体を溶質とするゲート絶縁層用前駆体溶液を出発材とするゲート絶縁層用前駆体層32、又はランタン(La)を含む前駆体及びタンタル(Ta)を含む前駆体を溶質とするゲート絶縁層用前駆体溶液を出発材とするゲート絶縁層用前駆体層32を形成する。ランタン(La)を含む前駆体は、酢酸ランタンである。ジルコニウム(Zr)を含む前駆体は、ジルコニウムブトキシドである。また、タンタル(Ta)を含む前駆体は、タンタルブトキシドである。その後、予備焼成として、約5分間、250℃に加熱する。実施例1では、スピンコーティング法による前駆体層の形成と予備焼成を5回繰り返した。
【0054】
さらにその後、本焼成として、前駆体層を、酸素雰囲気中、約20分間、400℃で加熱することにより、ゲート絶縁層34が得られた。ゲート絶縁層34がLZO層である場合、ゲート絶縁層34におけるランタン(La)とジルコニウム(Zr)との原子数比については、以下の3つの種類のゲート絶縁層34が形成された。
(1)ランタン(La)を3としたときにジルコニウム(Zr)が7(つまり、ランタン(La)を1としたときにジルコニウム(Zr)が、約2.33)
(2)ランタン(La)を5としたときにジルコニウム(Zr)が5(つまり、ランタン(La)を1としたときにジルコニウム(Zr)が、1)
(3)ランタン(La)を7としたときにジルコニウム(Zr)が3(つまり、ランタン(La)を1としたときにジルコニウム(Zr)が、約0.43)
【0055】
他方、ゲート絶縁層34がLTO層である場合、ゲート絶縁層34におけるランタン(La)とタンタル(Ta)との原子数比は、1:1が採用された。
【0056】
また、ゲート絶縁層34の厚みは、約125nmであった。なお、各層の膜厚は、各層と基板10の段差を触針法により求めた。本実施形態においては、ゲート絶縁層34中の炭素(C)の含有率は、0.5atom%以上15atom%以下であった。また、そのゲート絶縁層中の水素(H)の含有率は2atom%以上20atom%以下であった。
【0057】
その後、ゲート絶縁層34上に、公知のスピンコーティング法により、上述の4種類の前駆体を溶質とする(A2)〜(D2)に示すチャネル用前駆体溶液を出発材とするチャネル用前駆体層42を形成した。なお、このチャネル用前駆体溶液は、助焼成剤としてアセチルアセトネートを含む。また、このチャネル用前駆体溶液は、酸化剤として、硝酸イオン(NO
3−)を形成する原料としての硝酸インジウムとを含んでいる。また、このチャネル用前駆体溶液は、本焼成におけるチャネル用前駆体溶液の焼成性をさらに高めるために、酢酸アンモニウムが更に添加されている。このように、既に述べた各種の助焼成剤のうちの2種類以上の助焼成剤を添加することにより、焼成性(具体的には、焼成温度や焼成の強さ)を調整することが可能となることが本願発明者らによって確認されている。
【0058】
また、チャネル用前駆体層42のためのインジウム(In)を含む前駆体として、硝酸インジウムを採用した。また、チャネル用前駆体層42のための亜鉛(Zn)を含む前駆体として、塩化亜鉛を採用した。また、錫(Sn)を含む前駆体として、塩化錫を採用した。また、ジルコニウム(Zr)を含む前駆体として、ジルコニウムブトキシドを採用した。
【0059】
次に、予備焼成として、チャネル用前駆体層を約30分間、250℃に加熱する。ソース電極とドレイン電極の形成、及び素子分離(チャネルのパターニング)の後、本焼成として、チャネル用前駆体層を、酸素雰囲気中、250℃以上400℃以下で約10分間加熱することにより、上述の(A1)〜(D1)に示す4種類のチャネル用酸化物層(チャネル44)が形成された。また、チャネル用酸化物層の厚みは約20nmであった。その後、第1の実施形態のとおり、ソース電極及びドレイン電極が形成された。
【0060】
なお、この実施例においては、チャネル44がITO層である場合は、インジウム(In)と錫(Sn)との原子数比については、インジウム(In)を1としたときに錫(Sn)が約0.01であった。また、チャネル44がIZO層である場合は、インジウム(In)と亜鉛(Zn)との原子数比については、インジウム(In)を1としたときに亜鉛(Zn)が約0.5であった。また、チャネル44がZIZO層である場合は、インジウム(In)と亜鉛(Zn)とジルコニウム(Zr)との原子数比については、インジウム(In)を1としたときに亜鉛(Zn)が約0.5であり、ジルコニウム(Zr)が約0.025であった。
【0061】
(1)電流−電圧特性
表1及び表2は、代表的な薄膜トランジスタ100における閾値電圧(V)、サブスレッショルド特性(SS)、電界効果移動度(μ
FE)、及びON/OFF比を示している。なお、表1には、ゲート絶縁層がLZO層である場合のランタン(La)とジルコニウム(Zr)との原子数比と、チャネルの焼成温度も示している。また、表2には、ゲート絶縁層がLTO層である場合のランタン(La)とタンタル(Ta)との原子数比が1:1であることが示されている。
【0062】
また、
図10は、代表的な例として、表1における「LZO/IZO」の組み合わせの薄膜トランジスタ100のVg−Id特性を示すグラフである。なお、
図10におけるV
Dは、薄膜トランジスタ100のソース電極58とドレイン電極56間に印加された電圧(V)である。
【0065】
表1、表2及び
図10に示すように、第1の実施形態における薄膜トランジスタ100のVg−Id特性を調べたところ、電界効果移動度(μ
FE)が127cm
2/Vs以上であった。特に、LZO/ZIZOを除く全ての例において、電界効果移動度(μ
FE)が500cm
2/Vs以上という極めて高い値であったことは特筆に値する。また、ON/OFF比は、いずれも10
6を超えるオーダーであった。従って、薄膜トランジスタ100は、それを構成するゲート絶縁層及びチャネルが、酸化物層であるとともに溶液法を採用することによって形成されている場合であっても、薄膜トランジスタとしての機能を十分に発揮し得ることが確認された。
【0066】
なお、表1には記載されていないが、ランタン(La)とジルコニウム(Zr)との原子数比において、ランタン(La)を1としたときにジルコニウム(Zr)が約0.43であったLZO/InO(溶液法)の例も、チャネル44の焼成温度が300℃の場合は、良好なVg−Id特性に加えて、437cm
2/Vs以上の高い電界効果移動度(μ
FE)が確認された。また、そのときのON/OFF比は10
7以上であり、SS値は100mV/dec.であった。
【0067】
また、特にチャネル44の形成において、本焼成温度が400℃以下という低温での処理にもかかわらず、上述のとおり高い電気特性を備えた薄膜トランジスタが実現された。
【0068】
<第2の実施形態>
1.本実施形態の薄膜トランジスタの全体構成
図11は、本実施形態における薄膜トランジスタ200の全体構成を示す断面模式図である。
【0069】
本実施形態は、薄膜トランジスタ200のチャネル244が、スパッタ法によって形成されたインジウム(In)からなるチャネル用酸化物、又はインジウム(In)と錫(Sn)とからなるチャネル用酸化物である点を除いて、第1の実施形態と同様である。従って、第1の実施形態と重複する説明は省略する。なお、インジウム(In)と錫(Sn)とからなるチャネル用酸化物においては、錫(Sn)の含有率は、全体の約1atom%であった。
【0070】
図11に示すように、本実施形態における薄膜トランジスタ200においては、基板10上に、下層から、ゲート電極20、ゲート絶縁層34、チャネル244、ソース電極58及びドレイン電極56の順序で積層されている。なお、本実施形態におけるチャネル244の厚さは、約10nm以上60nm以下である。
【0071】
チャネル244は、インジウム(In)からなるチャネル用酸化物、又はインジウム(In)と錫(Sn)とからなるチャネル用酸化物である。本実施形態におけるスパッタ法による成膜条件は以下の(1)〜(3)に示すとおりである。
(1)アルゴン0.5Pa、酸素0.04Paの圧力下で、該アルゴン及び該酸素の混合ガス雰囲気中、35Wを印加して行われる。
(2)基板の温度は、室温である。
(3)スパッタ法による処理時間は10分〜40分である。
なお、上述の(1)〜(3)の後、以下の(4)及び(5)に示す処理も必要に応じて行われる。
(4)スパッタ法による処理の後、30分間、大気中において250℃で加熱する。
(5)チャネルのパターニング後に、ポスト・アニール処理として、250℃以上400℃以下で10分間、加熱する。
【0072】
3.薄膜トランジスタ200の特性
次に、第2の実施形態をより詳細に説明するために、実施例2を説明するが、本実施形態はこの例によって限定されるものではない。実施例2については、以下の方法によって、薄膜トランジスタ200の特性が調べられた。
【0073】
[実施例2]
実施例2においては、チャネル244の酸化物層のみが実施例1の薄膜トランジスタと異なっている。従って、重複する説明は省略する。
【0074】
表3は、代表的な薄膜トランジスタ200における閾値電圧(V)、サブスレッショルド特性(SS)、電界効果移動度(μ
FE)、及びON/OFF比を示している。なお、表3には、ゲート絶縁層がLZO層である場合のランタン(La)とジルコニウム(Zr)との原子数比も示している。
【0075】
また、
図12及び
図13は、代表的な例として、表3における「LZO/InO(スパッタ法)」の組み合わせ、又は「LZO/ITO(スパッタ法)」の組み合わせの薄膜トランジスタ200のVg−Id特性を示すグラフである。なお、
図12及び
図13におけるV
Dは、薄膜トランジスタ1200のソース電極58とドレイン電極56間に印加された電圧(V)である。
【0077】
(4)FT−IR測定装置(赤外吸収スペクトル法による測定装置)によるゲート絶縁層酸化物の分析
図14は、上述の第1及び第2の実施形態におけるFT−IR測定装置(Bruker社製,型式:ALPHA)によるゲート絶縁層がLZO層である場合のランタン(La)とジルコニウム(Zr)とからなる酸化物の分析結果を示すグラフである。なお、
図14における(a)は、ランタン(La)とジルコニウム(Zr)との原子数比において、ランタン(La)を1としたときにジルコニウム(Zr)が約2.33であった。また、
図14における(b)は、ランタン(La)とジルコニウム(Zr)との原子数比において、ランタン(La)を1としたときにジルコニウム(Zr)が約1であった。また、
図14における(c)は、ランタン(La)とジルコニウム(Zr)との原子数比において、ランタン(La)を1としたときにジルコニウム(Zr)が約0.43であった。
【0078】
図14に示すように、大変興味深いことに、
図14における(a)及び(b)は、いずれも、赤外吸収スペクトル法において、炭素(C)と水素(H)との結合又は炭素(C)と酸素(O)との結合に基づく約1300cm
−1〜約1600cm
−1の吸収ピーク(
図14におけるYの範囲)が比較的強く観察された。また、
図14における(a)及び(b)は、いずれも、赤外吸収スペクトル法において、酸素(O)と水素(H)との結合に基づく約2500cm
−1〜約3750cm
−1の吸収ピーク(
図14におけるXの範囲)がかなり強く観察された。
【0079】
一方、
図14における(c)は、赤外吸収スペクトル法において、炭素(C)と水素(H)との結合又は炭素(C)と酸素(O)との結合に基づく約1300cm
−1〜約1600cm
−1の吸収ピークが比較的弱く観察されるとともに、酸素(O)と水素(H)との結合に基づく約2500cm
−1〜約3750cm
−1の吸収ピークがほとんど観察されなかった。
【0080】
ここで、これまでの本願発明者らの研究と分析によれば、
図14における(a)及び(b)と、(c)との差異は、第1の実施形態において製造される薄膜トランジスタの電気的特性にも影響すると考えられる。例えば、(c)、つまり、ランタン(La)とジルコニウム(Zr)との原子数比において、ランタン(La)を1としたときにジルコニウム(Zr)が約0.43であるゲート絶縁層が採用された場合、特に焼成温度が350℃以上のときの薄膜トランジスタのVg−Id特性が悪化することが確認されている。他方、ランタン(La)の原子数を1としたときに、ジルコニウム(Zr)の原子数が1以上2.33以下であるゲート絶縁層を採用した場合は、比較的、焼成温度に依存せずに良好なVg−Id特性が得られる。従って、ランタン(La)とジルコニウム(Zr)との原子数比が、薄膜トランジスタの製造工程に、又は薄膜トランジスタの電気的特性の一部に影響を与えることが確認されたことは大変興味深い。
【0081】
上述のとおり、本実施形態の薄膜トランジスタ100,200は、薄膜トランジスタとしての良好な電気特性を実現し得ることが明らかとなった。また、特に、本実施形態の薄膜トランジスタ100の製造方法によれば、ゲート絶縁層及びチャネルが酸化物によって構成されるとともに、溶液法を用いて形成されているため、従来の方法と比較して大面積化が容易になるとともに、工業性ないし量産性が格段に高められることになる。
<第3の実施形態>
【0082】
本実施形態では、第1の実施形態における一部の層の形成過程において型押し加工が施されている点を除いて、第1の実施形態と同様である。したがって、第1の実施形態と重複する説明は省略する。
【0083】
1.薄膜トランジスタ300の製造方法
図15乃至
図20は、それぞれ、薄膜トランジスタ300の製造方法の一過程を示す断面模式図である。また、
図21は、本実施形態における薄膜トランジスタ300の製造方法の一過程及び全体構成を示す断面模式図である。なお、図面を簡略化するため、各電極からの引き出し電極のパターニングについての記載は省略する。
【0084】
(1)ゲート電極の形成
まず、
図15に示すように、ゲート電極20が、公知のスパッタリング法、フォトリソグラフィー法、及びエッチング法により基板10上に形成される。なお、本実施形態のゲート電極20の材料は、白金(Pt)である。
【0085】
(2)ゲート絶縁層の形成
次に、基板10及びゲート電極20上に、第1の実施形態と同様に、ランタン(La)を含む前駆体及びジルコニウム(Zr)を含む前駆体を溶質とするゲート絶縁層用前駆体溶液、又はランタン(La)を含む前駆体及びタンタル(Ta)を含む前駆体を溶質とするゲート絶縁層用前駆体溶液を出発材とするゲート絶縁層用前駆体層32を形成する。その後、酸素含有雰囲気中で、80℃以上200℃以下に加熱した状態で予備焼成を行う。
【0086】
本実施形態では、予備焼成のみを行ったゲート絶縁層用前駆体層32に対して、型押し加工を施す。具体的には、ゲート絶縁層のパターニングを行うため、
図16に示すように、80℃以上300℃以下に加熱した状態で、ゲート絶縁層用型M1を用い、1MPa以上20MPa以下の圧力で型押し加工を施す。その結果、本実施形態のゲート絶縁層用型M1により、層厚が約50nm〜約300nmのゲート絶縁層用前駆体層32が形成される。
【0087】
その後、ゲート絶縁層用前駆体層32を全面エッチングすることにより、
図17に示すように、ゲート絶縁層に対応する領域以外の領域からゲート絶縁層用前駆体層32を除去する(ゲート絶縁層用前駆体層32の全面に対するエッチング工程)。なお、本実施形態のゲート絶縁層用前駆体層32のエッチング工程は、真空プロセスを用いることないウェットエッチング技術を用いて行われたが、プラズマを用いた、いわゆるドライエッチング技術によってエッチングされることを妨げない。
【0088】
その後、酸素雰囲気中(例えば100体積%であるが、これに限定されない。以下の「酸素雰囲気」についても同じ。)、所定時間、250℃以上500℃以下の範囲で加熱熱することにより、
図18に示すように、基板10及びゲート電極20上に、ランタン(La)とジルコニウム(Zr)とからなる酸化物、又はランタン(La)とタンタル(Ta)とからなる酸化物であるゲート絶縁層34が形成される。
【0089】
(3)チャネルの形成
予備焼成のみを行ったチャネル用前駆体層42に対して、型押し加工を施す。まず、ゲート絶縁層34及び基板10上に、第1の実施形態で示した、第1前駆体溶液、第2前駆体溶液、第3前駆体溶液、又は第4前駆体溶液であるチャネル用前駆体溶液を出発材とするチャネル用前駆体層42が形成される。その後、第1の実施形態と同様に、予備焼成として、チャネル用前駆体層42を所定時間、80℃以上180℃以下の範囲で加熱する。
【0090】
次に、
図20に示すように、80℃以上250℃以下に加熱した状態で、チャネル用型M2を用いて、1MPa以上20MPa以下の圧力でチャネル用前駆体層42に対して型押し加工を施す。その結果、層厚が約50nm以上約300nm以下のチャネル用前駆体層42が形成される。その後、その後、ゲート絶縁層用前駆体層32とときと同様に、全面エッチングする。さらにその後、本焼成として、チャネル用前駆体層42を、酸素雰囲気中、所定時間、180℃以上500℃以下の範囲で加熱することにより、
図20に示すように、ゲート絶縁層34上に、第1の実施形態で示した、(A1)〜(D1)に示す4種類のチャネル用酸化物からなるチャネル44が形成される。
【0091】
(4)ソース電極及びドレイン電極の形成
次に、第1の実施形態と同様、チャネル44上に、公知のフォトリソグラフィー法によってパターニングされたレジスト膜が形成された後、チャネル44及びレジスト膜上に、公知のスパッタリング法により、ITO層を形成する。その後、レジスト膜が除去されると、
図22に示すように、チャネル44上に、ITO層によるドレイン電極56及びソース電極58が形成される。
【0092】
本実施形態では、高い塑性変形能力を得た前駆体層に対して型押し加工を施すこととしている。その結果、型押し加工を施す際に印加する圧力が1MPa以上20MPa以下という低い圧力であっても、各前駆体層が型の表面形状に追随して変形するようになり、所望の型押し構造を高い精度で形成することが可能となる。また、その圧力を1MPa以上20MPa以下という低い圧力範囲に設定することにより、型押し加工を施す際に型が損傷し難くなるとともに、大面積化にも有利となる。
【0093】
ここで、上記の圧力を「1MPa以上20MPa以下」の範囲内としたのは、以下の理由による。まず、その圧力が1MPa未満の場合には、圧力が低すぎて各前駆体層を型押しすることができなくなる場合があるからである。他方、その圧力が20MPaもあれば、十分に前駆体層を型押しすることができるため、これ以上の圧力を印加する必要がないからである。前述の観点から言えば、上述の第3の実施形態における型押し工程においては、2MPa以上10MPa以下の範囲内にある圧力で型押し加工を施すことが、より好ましい。
【0094】
なお、第3の実施形態では、第1の実施形態のゲート絶縁層34及びチャネル44に対して型押し加工を施したが、型押し加工の対象はこれらに限定されない。例えば、第2及実施形態のゲート絶縁層34に対しても型押し加工を施すことにより、型押し構造を形成することが可能である。
【0095】
上述のように、本実施形態では、ゲート絶縁層34及びチャネル44に対して型押し加工を施すことによって型押し構造を形成する、「型押し工程」が採用されている。この型押し工程が採用されることにより、真空プロセスやフォトリソグラフィー法を用いたプロセス、あるいは紫外線の照射プロセス等、比較的長時間、及び/又は高価な設備を必要とするプロセスが不要になる。従って、薄膜トランジスタ300及びその製造方法は、極めて工業性ないし量産性に優れている。
【0096】
<その他の実施形態>
上述の各実施形態における効果を適切に奏させるために、ゲート絶縁層の前駆体溶液の溶媒は、酢酸、プロピオン酸、オクチル酸、エタノール、プロパノール、ブタノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノールの群から1種又は2種が選択されるアルコールの混合溶媒であることが好ましい。また、チャネル用前駆体溶液の溶媒は、エタノール、プロパノール、ブタノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノールの群から選択される1種のアルコール溶媒、又は酢酸、プロピオン酸、オクチル酸の群から選択される1種のカルボン酸である溶媒であることが好ましい。
【0097】
また、上述の各実施形態における各酸化物層を形成するための予備焼成の際、予備焼成温度は、もっとも好ましくは、100℃以上180℃以下である。これは、各種の前駆体層中の溶媒をより確度高く蒸発させることが出来るからである。また、特に、その後に型押し工程を行う場合は、前述の温度範囲で予備焼成を行うことにより、将来的な塑性変形を可能にする特性を発現させるためにより好ましいゲル状態(熱分解前であって有機鎖が残存している状態と考えられる)を形成することができる。
【0098】
また、上述の第3の実施形態では、高い塑性変形能力を得た前駆体層に対して型押し加工を施すこととしている。その結果、型押し加工を施す際に印加する圧力を1MPa以上20MPa以下という低い圧力であっても、各前駆体層が型の表面形状に追随して変形するようになり、所望の型押し構造を高い精度で形成することが可能となる。また、その圧力を1MPa以上20MPa以下という低い圧力範囲に設定することにより、型押し加工を施す際に型が損傷し難くなるとともに、大面積化にも有利となる。
【0099】
さらに、第3の実施形態の変形例において、チャネル44が形成された後、溶液法を採用した上で型押し加工を施すことにより、ITO層からなるソース電極及びドレイン電極が形成してもよい。具体的には、以下のとおりである。
【0100】
初めに、チャネル44が形成された後、チャネル44上に、公知のスピンコーティング法により、インジウム(In)を含む前駆体及び錫(Sn)を含む前駆体を溶質とするソース/ドレイン電極用前駆体溶液を出発材とするソース/ドレイン電極用前駆体層を形成する。ここで、この態様におけるソース/ドレイン電極用酸化物層のためのインジウム(In)を含む前駆体の例として、酢酸インジウム、硝酸インジウム、塩化インジウム、又は各種のインジウムアルコキシド、(例えば、インジウムイソプロポキシド、インジウムブトキシド、インジウムエトキシド、インジウムメトキシエトキシド)が採用され得る。また、本実施形態におけるソース/ドレイン電極用酸化物層のための錫(Sn)を含む前駆体の例として、酢酸錫、硝酸錫、塩化錫、又は各種の錫アルコキシド、(例えば、錫イソプロポキシド、錫ブトキシド、錫エトキシド、錫メトキシエトキシド)が採用され得る。
【0101】
この場合、予備焼成として、例えば約5分間、ソース/ドレイン電極用前駆体層を大気中において150℃に加熱した後、ソース/ドレイン電極のパターニングを行うために、例えば200℃に加熱した状態で、図示しないソース/ドレイン電極用型を用いて、5MPaの圧力で型押し加工を施す。その後、本焼成として、ソース/ドレイン電極用前駆体層を、大気中で、例えば約5分間、250℃以上400℃以下に加熱することによりソース/ドレイン電極用酸化物層が形成される。さらに、本焼成として、窒素雰囲気中で、例えば、約15分間、450℃に加熱することにより、ITO中の酸素が欠損し、この欠損が導電性の酸素欠損キャリアとなるため、導電性向上を図ることが可能となる。
【0102】
また、上述のそれぞれの型押し工程において、予め、型押し面が接触することになる各前駆体層の表面に対する離型処理及び/又はその型の型押し面に対する離型処理を施しておき、その後、各前駆体層に対して型押し加工を施すことが好ましい。そのような処理を施すことにより、各前駆体層と型との間の摩擦力を低減することができるため、各前駆体層に対してより一層精度良く型押し加工を施すことが可能となる。なお、離型処理に用いることができる離型剤としては、界面活性剤(例えば、フッ素系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤等)、フッ素含有ダイヤモンドライクカーボン等を例示することができる。
【0103】
また、上述の各実施形態における各前駆体層に対する型押し工程と本焼成の工程との間に、型押し加工が施された各前駆体層(例えば、ソース電極及びドレイン用前駆体層)のうち最も層厚が薄い領域においてその前駆体層が除去される条件で、その前駆体層を全体的にエッチングする工程が含まれることは、より好ましい一態様である。これは、各前駆体層を本焼成した後にエッチングするよりも容易に不要な領域を除去することが可能なためである。従って、上述の各実施形態において、本焼成後に全面エッチングを行っている工程の代わりに、前述のより好ましい一態様を採用することができる。
【0104】
以上述べたとおり、上述の各実施形態の開示は、それらの実施形態の説明のために記載したものであって、本発明を限定するために記載したものではない。加えて、各実施形態の他の組合せを含む本発明の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。