特許第6238675号(P6238675)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6238675レーザ加工方法及びインクジェットヘッドの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6238675
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】レーザ加工方法及びインクジェットヘッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/382 20140101AFI20171120BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20171120BHJP
   B23K 26/067 20060101ALI20171120BHJP
   B41J 2/16 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   B23K26/382
   B23K26/00 G
   B23K26/067
   B41J2/16 501
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-212668(P2013-212668)
(22)【出願日】2013年10月10日
(65)【公開番号】特開2015-74019(P2015-74019A)
(43)【公開日】2015年4月20日
【審査請求日】2016年10月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100096943
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100107401
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 誠一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(74)【代理人】
【識別番号】100134393
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 克彦
(74)【代理人】
【識別番号】100174230
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 尚文
(72)【発明者】
【氏名】倉知 孝介
【審査官】 奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−142825(JP,A)
【文献】 特開2013−126688(JP,A)
【文献】 特開2005−144487(JP,A)
【文献】 特開2008−126277(JP,A)
【文献】 特開2009−125777(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00−26/70
B41J 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルスレーザ発振器から出射されるレーザ光を基板に照射して前記基板に孔をあけるためのレーザ加工方法であって、前記レーザ光を少なくとも、第1レーザ光と、前記第1レーザ光よりもパルスエネルギー強度が小さい第2レーザ光とに分岐する工程と、
前記第1レーザ光を第1の加工位置に照射する工程と、
前記レーザ光を少なくとも、前記第1レーザ光よりもパルスエネルギー強度が小さい第3レーザ光と、前記第3レーザ光よりもパルスエネルギー強度が大きい第4レーザ光とに分岐する第2の分岐工程と、
前記第3レーザ光を、前記第1レーザ光を照射後の前記第1の加工位置に照射し、前記第4レーザ光を第2の加工位置に照射する工程と、
前記レーザ光を、第5レーザ光と、前記第4レーザ光および前記第5レーザ光よりもパルスエネルギー強度が小さい第6レーザ光とに分岐する第3の分岐工程と、
前記第5レーザ光を第3の加工位置に対して照射し、前記第6レーザ光を、前記第4レーザ光を照射後の前記第2の加工位置に照射する工程と、
を有することを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項2】
前記レーザ光は、P波のレーザ光とS波のレーザ光とを含み、前記P波のレーザ光と、 前記S波のレーザ光とは、パルスエネルギー強度の割合が異なることを特徴とする請求項1記載のレーザ加工方法。
【請求項3】
前記第1レーザ光と前記第2レーザ光に分岐する工程は、偏光ビームスプリッタにより前記レーザ光をP波のレーザ光とS波のレーザ光とに分岐することを特徴とする請求項1または2記載のレーザ加工方法。
【請求項4】
前記第3レーザ光と前記第4レーザ光に分岐する工程は、前記第1レーザ光と前記第2レーザ光に分岐する工程における前記レーザ光の偏光方向の向きを光変調素子により入れ換えて、前記偏光ビームスプリッタにより前記入れ換えたレーザ光を分岐することを特徴とする請求項3記載のレーザ加工方法。
【請求項5】
前記第5レーザ光と前記第6レーザ光に分岐する工程は、前記第3レーザ光と前記第4レーザ光に分岐する工程における前記入れ換えたレーザ光の偏光方向の向きを前記光変調素子によりさらに入れ換えて、前記偏光ビームスプリッタにより前記さらに入れ換えたレーザ光を分岐することを特徴とする請求項4記載のレーザ加工方法。
【請求項6】
前記第1レーザ光、前記第4レーザ光および前記第5レーザ光は、パルスエネルギー強度が等しいことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のレーザ加工方法。
【請求項7】
前記第2レーザ光、前記第3レーザ光および前記第6レーザ光は、パルスエネルギー強度が等しいことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のレーザ加工方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のレーザ加工方法により、インク滴を吐出する吐出孔にインクを供給する経路となる溝を加工することを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光を用いて被加工物を加工するレーザ加工方法、及び、インクジェットヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
穴あけ、切断などのレーザ光を利用した加工が機械、電子、半導体など多方面の分野で利用されている。これらの加工を行うレーザ加工装置として、レーザ発振器から出力されたレーザ光をビームスプリッタにより分岐し、分岐したレーザ光をそれぞれ加工対象に照射し、多点でレーザ加工を行う技術が提案されている(特許文献1)。
【0003】
特許文献1に記載された技術の場合、部分反射鏡の角度によって、ビームスプリッタに入射するレーザ光のP偏光成分とS偏光成分の強度比を制御する。この制御により、ビームスプリッタで2つに分岐にされた各々のレーザ光のエネルギー強度を等しくなるようにする。このエネルギー強度が等しいレーザ光をそれぞれ加工対象の別々の加工点に照射することで、同様の加工を同時に行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−124552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述の特許文献1に記載された技術の場合、レーザ光を、エネルギー強度が等しいレーザ光に分岐し、それぞれ別々の加工点に照射し、同様の加工を行うものである。同時に2か所で加工することができるため加工時間の短縮は図れるが、通常の2倍以上のレーザビームのパワーを有するレーザ光源が必要となり、装置コストがかさんでしまっていた。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑み、加工時間の短縮とコストを抑えた加工を実現可能とするレーザ加工方法及びインクジェットヘッドの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明のレーザ加工方法は、パルスレーザ発振器から出射されるレーザ光を基板に照射して前記基板に孔をあけるためのレーザ加工方法であって、該レーザ光を少なくとも、第1レーザ光と、前記第1レーザ光よりもパルスエネルギー強度が小さい第2レーザ光とに分岐する工程と、前記第1レーザ光を第1の加工点に照射する工程と、前記レーザ光を少なくとも、前記第1レーザ光よりもパルスエネルギー強度が小さい第3レーザ光と、前記第3レーザ光よりもパルスエネルギー強度が大きい第4レーザ光とに分岐する第2の分岐工程と、前記第3レーザ光を、前記第1レーザ光を照射後の前記第1の加工点に照射し、前記第4レーザ光を第2の加工点に照射する工程と、前記レーザ光を、第5レーザ光と、前記第4レーザ光および前記第5レーザ光よりもパルスエネルギー強度が小さい第6レーザ光とに分岐する第3の分岐工程と、前記第5レーザ光を第3の加工点に対して照射し、前記第6レーザ光を、前記第4レーザ光を照射後の第2の加工点に照射する工程と、を有することを特徴とする。
また、本発明のインクジェットヘッドの製造方法は、上記のレーザ加工方法により、インク滴を吐出する吐出孔にインクを供給する経路となる溝を加工することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、加工時間の短縮とコストを抑えたレーザ加工を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1(a)】本発明の一実施形態において使用するレーザ加工装置の概略的構成図。
図1(b)】本発明の一実施形態において使用するレーザ加工装置の概略的構成図。
図1(c)】本発明の一実施形態において使用するレーザ加工装置の概略的構成図。
図1(d)】本発明の一実施形態において使用するレーザ加工装置の概略的構成図。
図2】上記実施形態に係るレーザ加工工程のフローチャート。
図3】インクジェットヘッドの一例の一部を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
レーザ加工は、加工の進展と共に加工面の形状が変化し加工点の面積の変化や、加工形状の影響によるレーザ光の光伝播状態の違いなどにより、加工点に集光されるレーザ光の強度が変化する。これにより加工点に照射される単位面積当たりのレーザ光の強度であるフルエンスが変化する。例えば、加工の進展と共に穴の先端が尖って先細りになるような穴加工の場合、加工初期は加工面が大きいため加工点の面積が大きく、加工の進展と共に加工面が小さくなるため加工点の面積が小さくなる。また、加工が進展し、穴先端が尖るとレーザ光が穴先端部により集光されるようになる。これにより、被加工物に照射されるレーザ光の強度が一定であっても加工点でのフルエンスは加工の進展に応じて変化する。そのため、加工初期に加工点で単位エネルギー当りの加工効率が良いフルエンスになるように、照射するレーザ光の強度を設定していても、加工終盤には加工点でのフルエンスが過多となる。ゆえに、レーザ光の何割かは加工に寄与しておらず、エネルギーを無駄にしてしまっている。つまり加工効率が悪くなってしまう。そこで、加工終盤に加工点で単位エネルギー当りの加工効率が良いフルエンスになるように、照射するレーザ光の強度を設定すると、こんどは逆に加工初期における加工点でのフルエンスが小さすぎ、十分な加工を得ることが難しくなる。そこで、本実施形態では、加工初期には、より高いエネルギー強度のレーザ光によって加工し、加工終盤には、加工初期のエネルギー強度よりも弱いレーザ光によって加工を行なうことで、エネルギーを有効に利用し、エネルギー効率の良い加工を行なうものである。
【0011】
<実施形態>
本発明の第1の実施形態について、図1及び図2を参照して説明する。
【0012】
図1中の、11と12は基板、21はレーザ光、22は光変調素子透過後のレーザ光、23はポラライザにより分岐された主にP波のレーザ光、24はポラライザにより分岐された主にS波のレーザ光である。25と26は加工点である。また、31と32は集光レンズ、4はパルスレーザ発振器、51と52はX−Y−Zステージを示す。そして、6はポラライザ、7は光変調素子、8は制御装置、91と92はシャッター機構、20はミラーを示す。
【0013】
基板11と基板12は被加工物であり、例えば半導体材料基板、ガラス基板、圧電材料基板などである。レーザ光21はレーザ発振器4から出射された直線偏光のレーザ光である。加工点25、26は、集光レンズ31,32により基板11、12に対してレーザ光が集光され加工が行われる加工点である。集光レンズ31、32としては、レーザ光を微小スポットに集光する光学系や、スキャン機構をもった光学系、例えばガルバノスキャナとfθレンズを組合せた光学系などを用いる。レーザ発振器4には、YAGレーザ、COレーザ、エキシマレーザなどを用いる。X−Y−Zステージ51、52は搭載している基板をX−Y−Z方向に自在に移動させる。ポラライザ6としては例えばキューブ型の偏光ビームスプリッタやプレート型の偏光ビームスプリッタが用いられ、レーザ光の偏光方向に応じて、主にP波のレーザ光23と、主にS波のレーザ光24に分岐する。光変調素子7は例えば電気光学素子(EOM)であり、レーザ光21の偏光の向きを制御装置8からの制御信号に応じて変えることができ、レーザ光22に変換する。
【0014】
P波のレーザ光23は、レーザ光21においては第1レーザ光、レーザ光22においては第3レーザ光となり、S波のレーザ光24は、レーザ光21においては第2レーザ光、レーザ光22においては第4レーザ光となる。つまり、変換されたレーザ光22がポラライザ6を通過すると、変換前のP波のレーザ光23であった第1レーザ光の方向に、変換前にS波のレーザ光であった第2レーザ光が変換されP波のレーザ光となった第3レーザ光が分岐される。そして、変換前のS波のレーザ光24であった第2レーザ光の方向に、変換前にP波のレーザ光であった第1レーザ光が変換されS波のレーザ光となった第4レーザ光が分岐される。また光変調素子7はレーザ発振器4の発振周波数より早い応答が可能であり、1パルス毎に、制御装置8からの制御信号に応じてレーザ光21の偏光の向きを変えることが出来る。制御装置8はレーザ発振器4、X−Y−Zステージ51、52、光変調素子7、光学素子91、92を制御する。また、制御装置8は集光レンズ31、32がスキャン機構を有する光学系の場合、スキャン機構の制御をも行う。シャッター91、92は例えばEOMと偏光ビームスプリッタとダンパーにより構成され、レーザ光を加工点25、26へ照射する状態と、ダンパーに照射し加工点25、26に非照射とする状態を切り替えることができる。また光学素子91、92はレーザ発振器4の発振周波数より早い応答が可能であり、1パルス毎に、制御装置8からの制御信号に応じて加工点25、26への照射、非照射の状態を変えることが出来る。ミラー20としては、例えば誘電多層膜ミラーや金属蒸着ミラーを用いてレーザ光を反射させ向きを変える。ビームスプリッタ30は、例えばキューブ型のビームスプリッタで、入射するレーザ光を強度が等しい二つのレーザ光に分離させる。
【0015】
次に、図1(a)を用いて、本発明のレーザ加工方法による加工工程の一例を説明する。
【0016】
レーザ発振器4からレーザ光21がある一定の発振周波数でパルス発振される。レーザ21は一定の発振周波数でパルス発振されるため励起時間のバラツキを生じず、発振周波数を可変とした場合よりもレーザ光出力安定性に優れている。レーザ光21は1パルス毎に、制御装置8からの制御信号に応じて光変調素子7により偏光の向きを変えることができる。そしてレーザ光22のP偏光成分(P波のレーザ光)とS偏光成分(S波のレーザ光)の割合を入れ換えて、レーザ光23とレーザ光24の強度比を入れ換えることができる。例えばここでは光変調素子7によりレーザ光22のP偏光成分とS偏光成分の割合を7:3、または3:7にする。この制御によりポラライザ6を通過後のレーザ光23とレーザ光24の強度比を7:3、もしくは3:7にすることができる。レーザ光23はシャッター91により基板11に照射/非照射のいずれの状態とするかを決めることができる。またレーザ光24はミラー20を介してシャッター92に導かれ、基板12に照射/非照射のいずれの状態とするか決めることができる。すなわち、これらの機構により基板11にレーザ光22に対して7割もしくは3割のパルスエネルギー強度のレーザ光23を照射するか、レーザ光23を非照射とするかを制御することができる。また同様に基板12にレーザ光22に対して、7割もしくは3割のエネルギー強度のレーザ光24を照射するか、レーザ光24を非照射とするかを制御することができる。ここで、基板11と基板12に照射されるエネルギー強度の比の組み合わせは、分岐前のレーザ光22の強度を10とし、基板に非照射である状態を0で示すと、7:3、3:7、7:0、0:7、3:0、0:3、0:0のいずれかとなる。
【0017】
次に、本実施形態のレーザ加工工程について、図2を参照しつつ説明する。レーザ発振器4からレーザ光21がある一定の発振周波数でパルス発振される。レーザ光21は1パルス毎に、制御装置8からの制御信号に応じて光変調素子7によりP偏光成分とS偏光成分の割合を変えることができ、加工スタート時はP偏光成分とS偏光成分の割合が7:3であるレーザ光22に変換する。この制御によりポラライザ6を通過後のレーザ光を、レーザ光22の強度に対して7割の強度を有するレーザ光23と、3割の強度を有するレーザ光24に分岐することができる(工程:S11)。
【0018】
次にレーザ光23の照射位置を基板11の第1穴加工位置(第1の加工位置)に移動する。この移動はX−Y−Zステージ51、またはスキャン機構をもった光学系、例えばガルバノスキャナとfθレンズを組合せた光学系で構成された集光レンズ31、またはその両方によって行われる。このとき同時にシャッター91はレーザ光23が基板11を照射しない状態にする。同様にシャッター92はレーザ光24が基板12を照射しない状態にする。レーザ光23の照射位置が基板11の第1穴加工位置(第1の加工位置)に移動完了したら、シャッター91によりレーザ光23(第1レーザ光)を基板11の第1穴加工位置(第1の加工位置)に100パルス照射して加工を行う。このとき基板12に対してレーザ光24(第2レーザ光)は非照射で、加工は行わない。本実施形態においては、ここで図2に示す「レーザ強」はレーザ光22の強度に対して7割の強度を有するレーザ光とし、「レーザ弱」はレーザ光22の強度に対して3割の強度を有するレーザ光とし、パルス数Lが同一の100である場合について説明する(工程:S12)。
【0019】
次に光変調素子7によりP偏光成分とS偏光成分の割合が3:7であるレーザ光22に変換する。これによりポラライザ6を通過後のレーザ光を、レーザ光22の強度に対して3割の強度を有するレーザ光23(第3レーザ光)と、7割の強度を有するレーザ光24(第4レーザ光)に分岐することができる(工程:S13)。
【0020】
次に、レーザ光24(第4レーザ光)の照射位置を基板12の第1穴加工位置(第2の加工位置)に移動する。この移動はX−Y−Zステージ52、またはスキャン機構をもった光学系、例えばガルバノスキャナとfθレンズを組合せた光学系などで構成された集光レンズ32、またはその両方によって行われる。この移動中は、シャッター91はレーザ光23(第3レーザ光)が基板11を照射しない状態にする。同様にシャッター92はレーザ光24(第4レーザ光)が基板12を照射しない状態にする。レーザ光24(第4レーザ光)の照射位置を基板12の第1穴加工位置(第2の加工位置)に移動させる。移動が完了したら、シャッター91によりレーザ光23(第3レーザ光)を、前記第1レーザ光を照射後の基板11の第1穴加工位置(第1の加工位置)に100パルス照射し加工を行って孔をあける。同時に、シャッター92によりレーザ光24(第4レーザ光)を基板12の第1穴加工位置(第2の加工位置)に100パルス照射して加工を行う(工程:S14)。
【0021】
次に、光変調素子7によりP偏光成分とS偏光成分の割合が7:3のレーザ光22に変換する。これによりポラライザ6を通過後のレーザ光を、レーザ光22の強度に対して7割の強度を有するレーザ光23(第5レーザ光)と、3割の強度を有するレーザ光24(第6レーザ光)に分岐することができる(工程:S15)。
【0022】
次に、レーザ光23(第5レーザ光)の照射位置を基板11の第2穴加工位置(第3の加工位置)に移動する。この移動はX−Y−Zステージ51、またはスキャン機構をもった光学系、例えばガルバノスキャナとfθレンズを組合せた光学系などで構成された集光レンズ31、またはその両方によって行われる。この移動中はシャッター91はレーザ光23(第5レーザ光)が基板11を照射しない状態にする。同様にシャッター92はレーザ光24(第6レーザ光)が基板12を照射しない状態にする。レーザ光23(第5レーザ光)の照射位置を基板11の第2穴加工位置(第3の加工位置)に移動させる。移動が完了したら、シャッター91、シャッター92により、レーザ光23(第5レーザ光)を基板11の第2穴加工位置(第3の加工位置)に100パルス照射する。そして、同時にレーザ光24(第6レーザ光)を、前記第4レーザ光を照射後の基板12の第1穴加工位置(第2の加工位置)に、100パルス照射して加工を行う(工程:S16)。
【0023】
次に、光変調素子7によりP偏光成分とS偏光成分の割合が3:7であるレーザ光22に変換する。これによりポラライザ6を通過後のレーザ光を、レーザ光22の強度に対して3割の強度を有するレーザ光23(第7レーザ光)と、7割の強度を有するレーザ光24(第8レーザ光)に分岐することができる(工程:S17)。
【0024】
次に、レーザ光24(第8レーザ光)の照射位置を基板12の第2穴加工位置(第4の加工位置)に移動する。この移動はX−Y−Zステージ52、またはスキャン機構をもった光学系、例えばガルバノスキャナとfθレンズを組合せた光学系などで構成された集光レンズ32、またはその両方によって行われる。この移動中、シャッター91はレーザ光23(第7レーザ光)が基板11を照射しない状態にする。同様にシャッター92はレーザ光24(第8レーザ光)が基板12を照射しない状態にする。レーザ光24(第8レーザ光)の照射位置を基板12の第2穴加工位置(第4の加工位置)に移動させる。移動が完了したら、シャッター91、シャッター92によりレーザ光23(第7レーザ光)を、前記第5レーザ光を照射後の基板11の第2穴加工位置(第3の加工位置)に、100パルス照射する。そして同時に、レーザ光24(第8レーザ光)を基板12の第2穴加工位置(第4の加工位置)に100パルス照射して加工を行う(工程:S18)。
【0025】
図2に示す上記の工程S15〜S18を、基板11に所望の穴数を加工し終るまで繰り返す。ここでは例として、基板11と基板12に加工する所望の穴数が1000の場合について説明する。S15〜S18の工程を繰返し、1000回目のS18工程において、シャッター91、シャッター92によりレーザ弱であるレーザ光23を基板11の第1000穴加工位置に、100パルス照射する。そして同時に、レーザ強であるレーザ光24を基板12の第1000穴加工位置に100パルス照射して加工を行う。これにより基板11に1000穴の加工が完了する(工程:S19)
【0026】
次に、光変調素子7によりP偏光成分とS偏光成分の割合が7:3であるレーザ光22に変換する。これによりポラライザ6を通過後のレーザ光を、レーザ光22の強度に対して7割の強度を有するレーザ光23と、3割の強度を有するレーザ光24に分岐することができる(工程:S20)。
【0027】
次に、シャッター92によりレーザ光24を基板12の第1000穴加工位置に100パルス照射して加工を行う。このときシャッター91により、基板11にレーザ光23が照射されない状態にする。これにより基板12への1000穴の加工が完了し、すべての加工が完了となる(工程:S21、S22)。
【0028】
本実施形態の場合、レーザ光を少なくとも2つの異なるパルスエネルギーのレーザ光に分岐し、分岐された第一のレーザ光が照射されて加工された部分に第二以降のレーザ光を照射することでエネルギー利用効率の良い加工を実現することができる。
【0029】
また本実施形態においては、レーザ光22を7:3と3:7のレーザ光に分岐したが、この分岐比率に限られず、6:4と4:6、5.5:4.5と4.5:5.5など、加工したい形状に応じた自由な分岐比率で実施することができる。また本実施形態においては加工のために照射した総パルスは100パルス+100パルスで200パルスとした。しかし、例えば150パルス+150パルスで300パルスや、80パルス+80パルスで160パルスなど、加工したい形状に応じた自由なパルス数で実施できる。
【0030】
また、本実施形態においては基板毎にX−Y−Zステージを設けたが、集光レンズ91、集光レンズ92がスキャン機構を有していれば、図1(b)に示すような1つのX−Y−Zステージに2つの基板を搭載した形態でも実施することができる。また、図1(c)のように1つのX−Y−Zステージに1つの基板を搭載した形態でも実施することができる。
【0031】
また、本実施形態では加工点が2つである場合について説明したが、図1(d)に示すように、先にビームスプリッタ30でレーザ光を2つに分岐し、その後は上述した本実施形態の構成を採用し、実施することも可能である。また、先に3つ以上の複数のレーザ光に分岐し、その後は上述した本実施形態の構成を採用し、更に多い加工点で実施することも可能である。
【0032】
上記の実施形態で説明したレーザ加工装置及びレーザ加工方法により製造する基板としては、インクジェットヘッドの基板や、他の半導体材料基板や、ガラス基板、回路基板などが挙げられる。また、加工は先導孔のような穴あけ加工に限られず、溝形状や切断などの加工を行うことも可能である。また具体的な適用分野としては、インクジェットヘッドの先導孔加工に限られず、例えば回路基板の穴あけ加工や太陽電池基板のスクライビングなどが挙げられる。
【0033】
<実施例>
次に、実施例として、上記実施形態で説明したレーザ加工方法を用いて基板を製造する、基板の製造方法について説明する。本実施例では、製造する基板は、インクジェットヘッドの基板である。
【0034】
図3は、インクジェットプリンタのヘッド部分の断面面である。
【0035】
図3において、130は半導体基板(インクジェットヘッドの基板)、131はインクの経路となる垂直形状の溝である。また、132はヒータ、133は液室、134はオリフィスプレート、135は吐出孔、136はインクタンク、破線の矢印で示す137はインク経路、138は微小なインク滴を示す。溝131が形成された半導体基板130の下面にはインクを吐出させるためのヒータ132、液室133、オリフィスプレート134が形成される。また、半導体基板130の上面には、インクを貯蔵するインクタンク136が取り付けられる。インクは、インクタンク136から溝131及び液室133を経て、ヒータ132に到達する。ヒータ132の瞬間的な加熱/冷却により形成された気泡がインクを押上げ、オリフィスプレート134を貫通して形成された吐出孔135から微小なインク滴138となって吐出される。
【0036】
本実施例では、このようにインク滴138を吐出する吐出孔135にインクを供給する経路としての溝131となる部分に複数の先導孔を、上述の各実施形態で説明したようなレーザ加工によって形成する。即ち、被加工物として溝131を形成する前の半導体基板をステージに載置し、上述したようなレーザ加工を施して先導孔を形成する。この先導孔とは、レーザ加工の後工程の異方性エッチングの際に該先導孔にエッチング液を進入させることで、異方性エッチングの所要時間を短縮し、インク供給口の幅をより小さくするためのものである。そして、レーザによる先導孔加工後に、アルカリ性エッチング液中で例えば15分程度異方性エッチングすることにより、最終的な溝形状を形成する。
【0037】
また、インクジェットヘッドの基板は、例えば、結晶面(100)シリコン製の素材(被加工物)に加工を施して製造したものである。この被加工物にはヒータや電気配線、耐エッチング性を有するエッチングストップ層、エッチング保護膜など、インクを吐出するための機構やレーザ加工後のエッチング工程のための機構などが形成されている。また、被加工物の厚みは、例えば725μm程度である。
【0038】
このような被加工物に対して、上述の所望の先導孔の形状が形成されるまでレーザ光を照射する。この先導孔は、後工程の異方性エッチングの際にエッチング液を進入させて、異方性エッチングの所要時間を短縮し、インク供給口の幅をより小さくするために、直径φ5〜100μmとすることが好ましい。また、深さは被加工物として725μmの厚さのものを用いた場合、600〜710μmが好ましい。
【符号の説明】
【0039】
11 基板
12 基板
21 レーザ光
22 レーザ光
23 レーザ光
24 レーザ光
25 加工点
26 加工点
31 集光レンズ
32 集光レンズ
4 レーザ発振器
51 X−Y−Zステージ
52 X−Y−Zステージ
6 ポラライザ
7 光変調素子
8 制御装置
91 シャッター
92 シャッター
20 ミラー
30 ビームスプリッタ
130 半導体基板
131 溝
132 ヒータ
133 液室
134 オリフィスプレート
135 吐出孔
136 インクタンク
137 インク経路
138 インク滴
図1(a)】
図1(b)】
図1(c)】
図1(d)】
図2
図3