(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6238685
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】水性分散液、インク組成物及びインクジェット捺染方法
(51)【国際特許分類】
C09D 17/00 20060101AFI20171120BHJP
C09D 11/326 20140101ALI20171120BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20171120BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20171120BHJP
D06B 11/00 20060101ALI20171120BHJP
C09D 11/328 20140101ALI20171120BHJP
【FI】
C09D17/00
C09D11/326
B41J2/01 501
B41M5/00 120
D06B11/00 A
C09D11/328
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-231683(P2013-231683)
(22)【出願日】2013年11月8日
(65)【公開番号】特開2015-91906(P2015-91906A)
(43)【公開日】2015年5月14日
【審査請求日】2016年5月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】清水 慎介
(72)【発明者】
【氏名】三澤 俊太
【審査官】
菅野 芳男
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2007/102455(WO,A1)
【文献】
特表2007−514870(JP,A)
【文献】
特開2011−021133(JP,A)
【文献】
国際公開第2005/121263(WO,A1)
【文献】
国際公開第2013/129523(WO,A1)
【文献】
特開2000−239980(JP,A)
【文献】
特開昭60−134078(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 17/00
B41J 2/01
B41M 5/00
C09D 11/326
C09D 11/328
D06B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水不溶性色材と、少なくとも2種類のアニオン分散剤と、フィトステロール若しくはコレスタノールのアルキレンオキサイド付加物よりなる群から選択される少なくとも1種類の化合物と、水と、を含有し、該アニオン分散剤の少なくとも1種類が、分子内にリグニンを部分構造として含有する分散剤であり、もう1種類の該アニオン分散剤として、芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物を含有する水性分散液であって、水性分散液中のアニオン分散剤の合計が5〜35質量%であり、かつ、分子内にリグニンを部分構造として含有する分散剤と、芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物の含有量の比率が0.5/20〜1/2である水性分散液。
【請求項2】
水不溶性色材が、分散染料及び油溶性染料よりなる群から選択される少なくとも1種類の染料である請求項1に記載の水性分散液。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の水性分散液と、少なくとも1種類の水溶性有機溶剤とを含有するインク組成物。
【請求項4】
25℃における表面張力が20〜40mN/m、25℃における粘度が2〜10mPa・sの範囲である請求項3に記載のインク組成物。
【請求項5】
請求項3又は4に記載のインク組成物の液滴を記録信号に応じてインクジェットプリンタにより吐出させ、繊維に付着させることにより捺染を行う捺染方法。
【請求項6】
請求項5に記載の捺染方法により得られる捺染された繊維。
【請求項7】
請求項6に記載の捺染された繊維に対して、スチーミング又はベーキング処理をさらに行う捺染方法。
【請求項8】
請求項7に記載の捺染方法により得られる捺染された繊維。
【請求項9】
請求項3又は4に記載のインク組成物の液滴を記録信号に応じてインクジェットプリンタにより吐出させ、中間記録媒体に付着させて記録画像を得た後、該中間記録媒体における、インク組成物の液滴の付着面に繊維を接触させ、熱処理することにより上記記録画像を繊維に転写する捺染方法。
【請求項10】
上記繊維が、疎水性繊維又は疎水性繊維を含有する混紡繊維である請求項9に記載の捺染方法。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の捺染方法により得られる捺染された繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水不溶性色材を含有する水性分散液、この分散液を含有するインク組成物、及び該インク組成物を用いる繊維のインクジェット捺染方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリントは情報のデジタル化が進む中で、オフィス、家庭用の印刷機として広く普及している。さらに、近年では商業印刷やテキスタイルプリント等への応用展開も数多く進められている。そしてインクジェットのプリントの用途が広がっていくのに伴い、インクに用いる着色材も従来の酸性染料あるいは直接染料等の水溶性染料から、用途に応じて分散染料や顔料等の水不溶性色材等の様々な色材が使用されるようになってきた。
【0003】
分散染料はポリエステル等の疎水性繊維の工業染色に広く利用されており、水不溶性の染料を染浴中あるいは色糊中に分散させ、染色に使用される。染料は高温条件下、維維内部へ浸透拡散し、繊維と染料間の水素結合や分子間力等により染着する。染料の分散性、特に高温での分散性が劣ると、高温染浴中で染料の凝集が生じ、繊維上でスペック(染色時に分散不良の染料等が繊維に点状に付着し、染色対象物に汚れを生じる現象)を発生しやすい。このため、従来、繊維染色用には高温分散性の優れる分散剤、例えばリグニンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物類、アルキルナフタレンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物類、クレオソート油スルホン酸のホルムアルデヒド縮合物等のアニオン系分散剤が主に使用されてきた。
【0004】
分散染料を用いたポリエステル繊維のインクジェット捺染としては、直接染料インクを繊維へ付与した後、スチーミング等の熱処理により染料を染着させるダイレクト捺染方法と、紙等の中間記録媒体に染料インクを付与した後、中間記録媒体に繊維を接触させて、熱により中間記録媒体から繊維へ染料を昇華転写させる熱転写(昇華転写)捺染方法の2つの方法が実用化されている(例えば非特許文献1、非特許文献2参照)。これらの捺染方法に用いる分散染料インクの分散化には、従来工業染色用に使用されているアニオン系分散剤が利用されている(例えば特許文献1、特許文献2参照)。また特許文献3には直鎖アルキルのエチレンオキサイド付加物が分散剤として用いられている。しかし、水性分散液、若しくはインク組成物中の着色材の沈降安定性や保存安定性、及びインク組成物のプリンタからの吐出安定性を満足できるものはなかった。
また、特許文献4〜6には、ポリオキシエチレンフィトステロール、及びフィトステロール類のエチレンオキシド付加物及び/又はコレスタノール類のエチレンオキシド付加物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−291235号公報
【特許文献2】特開平8−333531号公報
【特許文献3】特開2003−246954号公報
【特許文献4】特開2001−329196号公報
【特許文献5】国際公開2012/060343号パンフレット
【特許文献6】国際公開2005/121263号パンフレット
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日本画像学会誌第41巻第2号第68頁〜第74頁(2002)
【非特許文献2】染織経済新聞2004年1月28日号18頁〜21頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、保存安定性に優れた、水性分散液及びこれを含有するインク組成物、さらにはこれを用いる繊維の捺染方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は上記課題を解決すべく鋭意研究の結果、水不溶性色材、水、少なくとも2種類のアニオン分散剤、フィトステロール類のエチレンオキサイド付加物及びコレスタノール類のエチレンオキサイド付加物よりなる群から選択される少なくとも1種類の化合物を含有し、該アニオン分散剤の少なくとも1種類が、分子内にリグニンを部分構造として含有する分散剤である水性分散液、及びこれを含有するインク組成物により、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。即ち、本発明は、以下の1)〜11)に関する。
1)
水不溶性色材と、少なくとも2種類のアニオン分散剤と、フィトステロール若しくはコレスタノールのアルキレンオキサイド付加物よりなる群から選択される少なくとも1種類の化合物と、水と、を含有し、該アニオン分散剤の少なくとも1種類が、分子内にリグニンを部分構造として含有する分散剤である水性分散液。
2)
水不溶性色材が、分散染料及び油溶性染料よりなる群から選択される少なくとも1種類の染料である上記1)に記載の水性分散液。
3)
上記1)又は2)に記載の水性分散液と、少なくとも1種類の水溶性有機溶剤とを含有するインク組成物。
4)
25℃における表面張力が20〜40mN/m、25℃における粘度が2〜10mPa・sの範囲である上記3)に記載のインク組成物。
5)
上記3)又は4)に記載のインク組成物の液滴を記録信号に応じてインクジェットプリンタにより吐出させ、繊維に付着させることにより捺染を行う捺染方法。
6)
上記5)に記載の捺染方法により得られる捺染された繊維。
7)
上記6)に記載の捺染された繊維に対して、スチーミング又はベーキング処理をさらに行う捺染方法。
8)
上記7)に記載の捺染方法により得られる捺染された繊維。
9)
上記3)又は4)に記載のインク組成物の液滴を記録信号に応じてインクジェットプリンタにより吐出させ、中間記録媒体に付着させて記録画像を得た後、該中間記録媒体における、インク組成物の液滴の付着面に繊維を接触させ、熱処理することにより上記記録画像を繊維に転写する捺染方法。
10)
上記繊維が、疎水性繊維又は疎水性繊維を含有する混紡繊維である上記9)に記載の捺染方法。
11)
上記9)又は10)に記載の捺染方法により得られる捺染された繊維。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、保存安定性に優れた、水性分散液及びこれを含有するインク組成物、さらにはこれを用いる繊維の捺染方法が提供できた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
上記の水不溶性色材としては、例えば、分散染料、油溶性染料、カーボンブラック、無機顔料及び有機顔料等を用いることができる。
分散染料の具体例としては、例えば、C.I.ディスパースイエロー42、49、76、83、88、93、99、119、126、160、163、165、180、183、186、198、199、200、224、237;C.I.ディスパースオレンジ29、30、31、38、42、44、45、53、54、55、71、73、80、86、96、118、119;C.I.ディスパースレッド73、88、91、92、111、127、131、143、145、146、152、153、154、179、191、192、206、221、258、283、302、323、328、359;C.I.ディスパースバイオレット26、35、48、56、77,97;C.I.ディスパースブルー27、54、60、73、77、79、79:1、87、143、165、165:1、165:2、181、185、197、225、257、266、267、281、341、353、354、358、364、365、368等が挙げられる。
【0011】
油溶性染料の具体例としては、例えば、C.I.ソルベントイエロー114、163、ソルベントブルー36、63、83、105、111、ソルベントオレンジ67、C.I.ソルベントレッド146等が挙げられる。
【0012】
カーボンブラックとしては、公知のカーボンブラックが挙げられ、例えば、表面処理により自己分散性を有するカーボンブラックも使用できる。
【0013】
無機顔料としては、例えば、金属酸化物、水酸化物、硫化物、フェロシアン化物、及び金属塩化物等が挙げられる。
【0014】
有機顔料としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー74、120、128、138、151185、217;C.I.ピグメントオレンジ13、16、34、43;C.I.ピグメントレッド122、146、148;C.I.ピグメントバイオレット19、23;C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:5、15:6、C.I.ピグメントグリーン7、8等が挙げられる。
【0015】
上記のうち、水不溶性色材としては「C.I.ディスパース」及び「C.I.ソルベント」よりなる群から選択される色材が好ましい。
【0016】
また、上記のインク組成物を熱転写プリントに用いるときは、熱転写適性のある染料を用いることが好ましい。
熱転写適性のある染料とは、「乾式熱処理に対する染色堅ろう度試験方法〔JIS L 0879:2005〕(2010年 確認、平成17年1月20日 改定、 財団法人日本規格協会 発行)」における、感熱処理試験(C法)汚染(ポリエステル)の試験結果が、好ましくは3−4級以下;より好ましくは3級以下;の染料を意味する。そのような染料のうち、公知の染料としては、例えば以下の染料が挙げられる。
イエロー染料としては、C.I.ディスパースイエロー3、7、8、23、39、51、54、60、71、86;C.I.ソルベントイエロー114、163;等が挙げられる。
オレンジ染料としては、C.I.ディスパースオレンジ1、1:1、5、7、20、23、25、25:1、33、56、76;C.I.ソルベントオレンジ67;等が挙げられる。
ブラウン染料としては、C.I.ディスパースブラウン2;等が挙げられる。
レッド染料としては、C.I.ディスパースレッド11、50、53、55、55:1、59、60、65、70、75、93、146、158、190、190:1、207、239、240;C.I.ソルベントレッド146;C.I.バットレッド41;等が挙げられる。
バイオレット染料としては、C.I.ディスパースバイオレット8、11、17、23、26、27、28、29、36、57;等が挙げられる。
ブルー染料としては、C.I.ディスパースブルー3、5、19、26、26:1、35、55、56、58、64、64:1、72、72:1、81、81:1、91、95、108、131、141、145、359、360;C.I.ソルベントブルー3、63、83、105、111;等が挙げられる。
【0017】
上記の水不溶性色材は、いずれも単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。
なお、本明細書において「水不溶性色材」とは、25℃における水に対する溶解度が通常1g/リットル以下、好ましくは500mg/リットル以下、より好ましくは100mg/リットル以下の色材を意味する。下限は測定機器の検出限界以下、すなわち0g/リットルでよい。
【0018】
上記の水不溶性色材としては、粉末状;塊状;ウエットケーキ;及びスラリー;等の様々な形状のものが使用できる。また、色材粒子の凝集を抑える目的で、分散剤等が色材に添加されたものであってもよい。市販の色材には、工業染色用、樹脂着色用、インキ用、トナー用、インクジェット用等の様々なグレードがあり、製造方法、純度、顔料の粒径等がそれぞれ異なる。これらの色材の中には、例えば塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム等の無機塩類等の不純物を含有するものもあるため、色材を含有する分散液やインク組成物の分散安定性;及び、インク組成物のインクジェットプリンタからの吐出精度;等への悪影響を少なくする目的で、必要に応じて色材からの不純物の精製を行ってもよい。不純物の精製方法は、例えば水や溶剤中での懸濁精製;逆浸透膜を用いる脱塩;等の公知の方法を用いることができる。
【0019】
上記アニオン分散剤としては特に制限はないが、上記水性分散液は、少なくとも2種類のアニオン分散剤を含有し、その内の少なくとも1種類は、分子内にリグニンを部分構造として含有するアニオン分散剤(以下、「リグニン系分散剤」という)である。
リグニン系分散剤としては、リグニンスルホン酸を部分構造として含有する分散剤が挙げられ、例えばバニレックスN、バニレックスRN、バニレックスG、パールレックスDP(いずれも日本製紙株式会社製)等が好ましく挙げられる。これらの中ではバニレックスのシリーズが好ましい。
【0020】
上記少なくとも2種類のアニオン分散剤としては、2種類のリグニン系分散剤でもよいし、リグニン系分散剤とリグニン系分散剤以外のアニオン分散剤との2種類を併用してもよく、後者が好ましい。
【0021】
リグニン系分散剤以外のアニオン分散剤としては、高分子スルホン酸(好ましくは芳香族スルホン酸)のホルマリン縮合物又はこれらの塩、若しくはそれらの混合物(以下、特に断りの無い限り「スルホン酸のホルマリン縮合物」と記載したときは、「これらの塩、若しくはそれらの混合物」も含む意味を有する)から選択される少なくとも1種類の分散剤が挙げられる。「これらの塩」としては、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等の塩が挙げられる。
芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物としては、例えば、クレオソート油スルホン酸;クレゾールスルホン酸;フェノールスルホン酸;β−ナフタレンスルホン酸;β−ナフトールスルホン酸;β−ナフタレンスルホン酸とβ−ナフトールスルホン酸;クレゾールスルホン酸と2−ナフトール−6−スルホン酸;等の各ホルマリン縮合物が挙げられる。これらの中では、クレオソート油スルホン酸、及びβ−ナフタレンスルホン酸の各ホルマリン縮合物が好ましい。
これらは様々な商品名の市販品として入手することができる。その一例として、クレオソート油スルホン酸のホルマリン縮合物としては、ラベリンWシリーズ(第一工業製薬株式会社製)、デモールC(花王株式会社製);メチルナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物としては、ラベリンANシリーズ(いずれも第一工業製薬株式会社製);等が挙げられる。
β−ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物としてはデモールN;特殊芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物としてはデモールSN−B(いずれも花王株式会社製);等が挙げられる。
【0022】
上記フィトステロール若しくはコレスタノールのアルキレンオキサイド付加物としては、C2−C4アルキレンオキサイド付加物、好ましくはエチレンオキサイド若しくはプロピレンオキサイド付加物、より好ましくはエチレンオキサイド付加物が挙げられる。
本明細書において「フィトステロール」とは、フィトステロール及び/又は水素添加フィトステロールの両者を含む意味である。例えば、フィトステロールのアルキレンオキサイド付加物としては、フィトステロールのアルキレンオキサイド付加物及び/又は水素添加フィトステロールのアルキレンオキサイド付加物が挙げられる。
同様に、本明細書において「コレスタノール」とは、コレスタノール及び/又は水素添加コレスタノールの両者を含む意味である。例えば、コレスタノールのアルキレンオキサイド付加物としては、コレスタノールのアルキレンオキサイド付加物及び/又は水素添加コレスタノールのアルキレンオキサイド付加物が挙げられる。
フィトステロール又はコレスタノール1モル当たりのアルキレンオキサイドの付加量は10〜50モル程度で、HLBが13〜20程度のものが好ましい。フィトステロールのアルキレンオキサイド付加物としては、例えばNIKKOL BPS−20、NIKKOL BPS−30(いずれも日光ケミカルズ株式会社製、フィトステロールのEO付加物)、NIKKOL BPSH−25(同、水素添加フィトステロールのEO付加物)等を、また、コレスタノールのアルキレンオキサイド付加物としては、例えば、NIKKOL DHC−30(同、コレスタノールのEO付加物)等を、それぞれ市場から入手することができる。
なお、上記「EO」は、「エチレンオキサイド」を意味する。
【0023】
上記の水性分散液の調製方法は、特に制限されず、公知のいずれの方法で調製してもよい。その一例としては、水不溶性色材を微粒子化しながら、若しくは微粒子化した後、水、アニオン分散剤、及び、フィトステロール若しくはコレスタノールのアルキレンオキサイド付加物を、適宜、撹拌混合することにより上記の水性分散液が得られる。
得られた水性分散液は、必要に応じて濾過による夾雑物の除去、水の添加による濃度調整等を行ってもよい。
水性分散液中の水不溶性色材の平均粒子径は、D50で通常50〜180nm程度、また、D90で通常120〜300nm程度である。
【0024】
上記の水性分散液の総質量に対する、各成分の含有量は特に制限されない。その目安としては、以下の含有量が挙げられる。なお、本明細書において、「部」及び「%」は、特に断りの無い限り、実施例等も含めて「質量部」及び「質量%」を意味する。
水不溶性色材は通常1〜40%、好ましくは5〜40%、より好ましくは10〜35%である。
アニオン分散剤は合計で、通常1〜40%、好ましくは5〜35%である。
フィトステロール若しくはコレスタノールのアルキレンオキサイド付加物は通常0.01〜15%、好ましくは0.02〜10%である。
上記以外の残部は水である。
また、アニオン分散剤として、リグニン系分散剤とリグニン系分散剤以外のアニオン分散剤との2種類を併用するとき、その含有比率の目安としては、前者/後者の含有量の比率が通常0.1/20〜1/1、好ましくは0.5/20〜1/2である。
各成分の含有量及び/又は含有量の比率が上記の範囲を超えると、上記の水性分散液、若しくはインク組成物の保存安定性が悪化することがある。
【0025】
上記のインク組成物は、少なくとも上記の水性分散液と、少なくとも1種類の水溶性有機溶剤とを含有するインク組成物である。
水溶性有機溶剤としては特に制限されないが、インクジェットノズルでのインクの乾燥等に起因する目詰まりを防止する目的等から、湿潤効果のあるものが好ましい。そのような効果を有する水溶性有機溶剤としては、多価アルコール類、及びピロリドン類等が挙げられる。
多価アルコール類としては、例えば、多価アルコール(好ましくはアルコール性水酸基を2〜3個有するC2−C6多価アルコール);ジ又はトリC2−C3アルキレングリコール;繰り返し単位が4以上で、分子量20,000以下程度のポリC2−C3アルキレングリコール;等が挙げられる。これらの中では、室温で液体のものが好ましい。
ピロリドン類としては、例えば、任意の環構成原子上、好ましくは環を構成する窒素原子上にC1−C4アルキル基を置換基として有するピロリドン(より好ましくは2−ピロリドン)化合物が挙げられる。
水溶性有機溶剤の具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、1,3−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール等の多価アルコール;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン等のピロリドン類;等が挙げられる。
また、水に溶解して湿潤剤としての役割をする化合物等も、便宜上、本明細書においては水溶性有機溶剤に含めるものとし、それらとしては例えば尿素、エチレン尿素及び糖類等が挙げられる。
インク組成物の保存安定性を考慮すると、インク組成物が含有する染料の溶解度が低い水溶性有機溶剤が好ましい。このような水溶性有機溶剤としてはグリセリンが挙げられ、好ましくはグリセリンと、グリセリン以外の液状の多価アルコール類とを併用するのが好ましい。
インク組成物の総質量に対して、水溶性有機溶剤の合計の含有量は、通常5〜50%、好ましくは20〜40%である。
【0026】
上記インク組成物は、必要に応じて上記以外の添加剤をさらに含有してもよい。上記以外の添加剤としては、防腐・防黴剤、界面活性剤、及びpH調整剤等が挙げられる。これらの添加剤は合計で、インク組成物の総質量に対して、通常0〜10%、好ましくは0.05〜5%程度である。
防腐・防黴剤としては、例えば、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ソジウムピリジンチオン−1−オキサイド、ジンクピリジンチオン−1−オキサイド、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、1−ベンズイソチアゾリン−3−オンのアミン塩等を挙げることができる。
【0027】
界面活性剤としては、アニオン、ノニオン、両性、及びシリコン系の各界面活性剤が挙げられる。
これらの中ではアニオン、ノニオン、及びシリコン系から選択される界面活性剤が好ましく、シリコン系がより好ましい。
【0028】
アニオン界面活性剤としてはアルキルスルホカルボン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、N−アシルアミノ酸及びその塩、N−アシルメチルタウリン塩、アルキル硫酸塩ポリオキシアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩、ロジン酸石鹸、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、アルキルフェノール型燐酸エステル、アルキル型燐酸エステル、アルキルアリールスルホン酸塩、ジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキルシルスルホ琥珀酸塩、ジオクチルスルホ琥珀酸塩等が挙げられる。
これらの中ではスルホ琥珀酸塩を有する界面活性剤が好ましい。
【0029】
カチオン界面活性剤としては2−ビニルピリジン誘導体、ポリ4−ビニルピリジン誘導体等が挙げられる。
【0030】
両性界面活性剤としてはラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシン、その他イミダゾリン誘導体等が挙げらる。
【0031】
ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のエーテル系;ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系;2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール等のアセチレングリコール(アルコール)系;他の具体例として、例えば、日信化学社製 商品名サーフィノール104、82、465、オルフィンSTG等が挙げられる。
【0032】
シリコン系界面活性剤としては、ポリシロキサン系界面活性剤が挙げられ、例えば、ポリエーテル変性シロキサン、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンが好ましい。
具体例としては、例えば、いずれもビックケミー社製のBYK−347(ポリエーテル変性シロキサン)、BYK−348(ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン)等が挙げられる。
【0033】
上記の界面活性剤は、インク組成物の吐出応答性の向上、及び表面張力の調整等を目的として使用できる。
【0034】
pH調整剤としては、インク組成物のpHを6〜11の範囲に調整できる化合物であれば、特に制限は無い。具体例としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等の周期表第1族元素の水酸化物;トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン等の3級アミン類(好ましくは、それぞれヒドロキシ基及びC1−C4アルコキシ基よりなる群から選択される置換基を有してもよい、モノ、ジ若しくはトリC1−C4アルキルアミン、又はモノ、ジ若しくはトリC1−C4アルコキシアルキルアミン);アンモニア水;等が挙げられる。
【0035】
上記インク組成物は、上記の水性分散液、水溶性有機溶剤、及び、必要に応じて添加剤を混合し、0.5〜数時間程度、攪拌することにより調製することができる。各成分を混合する順序は特に制限されない。また、攪拌方法としては、公知のいずれの攪拌方法を使用してもよい。
【0036】
上記インク組成物は、高速での吐出応答性を良好にする観点から、プレート法にて測定したときの25℃における表面張力を通常20〜40mN/m、また、E型粘度計にて測定したときの25℃における粘度を通常2〜10mPa・sに調整するのが好ましい。粘度及び表面張力は、使用するプリンタの吐出量、応答速度、インク液滴飛行特性等を考慮し、適切な物性値に調整することが好ましい。
粘度調整は分散剤や水溶性有機溶剤の含有量等で、また、表面張力はシリコーン系やアセチレンアルコール系消泡剤の含有量等で調整することができる。
【0037】
上記インク組成物を用いる捺染方法としては、ダイレクト捺染方法、及び昇華転写捺染方法の2種類の方法を挙げることができる。これらの捺染方法は、いずれもインクジェットプリンタを使用する、インクジェット捺染として行うのが好ましい。
これらの捺染方法に使用するインクジェットプリンタ及びインクノズル等については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0038】
上記ダイレクト捺染方法としては、上記インク組成物の液滴を記録信号に応じてインクジェットプリンタにより吐出させ、繊維に付着させることにより、捺染を行う方法である。
ダイレクト捺染方法により得られる捺染された繊維に対しては、公知の方法でスチーミング又はベーキング処理をさらに行い、繊維に付着させたインク組成物が含有する色材を、繊維へ固着(染着ともいう)させることが好ましい。繊維へ色材を固着させるこれらの方法のうち、前者は湿熱固着、後者は乾熱固着と呼称されることもある。
スチーミング処理としては、高温スチーマーを用いるときは通常170〜180℃、通常10分程度の処理を;また、高圧スチーマーを用いるときは通常120〜130℃、通常20分程度の処理を;行うことが好ましい。
ベーキング処理としては、通常190℃〜210℃の温度で60秒〜120秒程度の処理を行うことが好ましい。
また、上記スチーミング又はベーキング処理が行われた繊維から、公知の洗浄方法、例えばアルカリ還元洗浄やソーピング処理等の洗浄方法により、繊維に固着していない色材を洗い落とすことも好ましく行われる。
【0039】
上記の昇華転写捺染方法としては、上記インク組成物の液滴を記録信号に応じてインクジェットプリンタにより吐出させ、中間記録媒体に付着させて記録画像を得た後、該中間記録媒体における、インク組成物の液滴の付着面に繊維を接触させ、通常190〜200℃程度で熱処理することにより、上記記録画像を中間記録媒体から繊維に転写することにより、捺染を行う方法が挙げられる。
中間記録媒体としては、中間記録媒体に付着したインク組成物が乾燥する過程において、中間記録媒体の表面で色材が凝集せず、かつ繊維へ色材を転写するときに、色材の昇華を妨害しないものが好ましい。
そのような中間記録媒体としては、例えば、シリカ等の無機微粒子でインク受容層が表面上に形成されている紙が好ましく、インクジェット用の専用紙等を用いることができる。
具体例としては紙、合成紙、フィルム等の基材にインク受容層を設けたものが好ましい。インク受容層には、例えば上記基材にカチオン系ポリマーを含浸あるいは塗工することにより、また多孔質シリカ、アルミナゾルや特殊セラミックスなどのインク中の色素を吸収し得る多孔性白色無機物をポリビニルアルコールやポリビニルピロリドン等の親水性ポリマーと共に上記基材表面に塗工することにより設けられる。なお、普通紙、上質紙、コート紙も使用できる。
【0040】
上記の繊維としては特に制限は無いが、疎水性繊維又は疎水性繊維を含有する混紡繊維が好ましい。疎水性繊維の具体例としては、例えば、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、トリアセテート繊維、ジアセテート繊維、ポリアミド繊維及びこれらの繊維を2種類以上用いた混紡繊維が挙げられる。また、これらとレーヨン等の再生繊維あるいは木綿、絹、羊毛等の天然繊維との混紡繊維であってもよい。
これらの疎水性繊維としては、インク受容層(滲み防止層)を設けたものも好ましい。このインク受容層の形成方法は一般に公知公用の技術であり、このインク受容層を有する繊維は市場から自由に入手が可能である。また、公知公用の技術から適宜構成成分、形成方法を選定して、使用することにより、該疎水性繊維にインク受容層を設けることもできる。該インク受容層はその機能を有するものであれば、特に限定されるものではない。
上記の繊維は、これらの繊維を用いて調製された布帛、織物等として上記の捺染に使用することもできる。
【0041】
本発明により、保存安定性に優れた水不溶性色材の水性分散液及びインク組成物が得られ、且つ吐出安定性にも優れたインク組成物が得られる。また、本発明のインク組成物を用いて捺染された繊維は、彩度、色再現性、耐光性、耐水性、耐湿性、色安定性、耐擦性、洗濯堅牢性、耐汗、汗耐光性等の、各種の性能及び堅牢性に優れ、捺染された繊維の長期の保存安定性にも優れる。
【実施例】
【0042】
以下実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、これらの実施例により、本発明が限定されるものではない。
【0043】
[調製例1]
ニッコールBPS−30(20部)、及びイオン交換水(80部)を混合し、80℃に昇温して1時間撹拌することにより、ニッコールBPS−30の20%水溶液を得た。
【0044】
[実施例1〜4]:水性分散液の調製。
下記表1に記載の各成分と、0.2mm径ガラスビーズとをサンドミルに入れ、水冷下、約15時間分散処理を行った後、イオン交換水100部をさらに加え、水性分散液を得た。得られた水性分散液を、ガラス繊維ろ紙GC−50(ADVANTEC社製)で濾過することにより、色材の含有量が15%の、インクジェット捺染に用いる実施例1〜4の水性分散液をそれぞれ得た。
なお、色材の含有量は、水性分散液の総質量に対する数値である。
【0045】
下記表1中の略号等は以下の意味を表し、記号「−」は、その成分を含有しないことを意味する。また、下記表1中の「ニッコールBPS−30」は、上記の調製例1で得たニッコールBPS−30の20%水溶液を意味する。
DR60:C.I.ディスパースレッド60。
DY54:C.I.ディスパースイエロー54。
DB359:C.I.ディスパースブルー359。
【0046】
【表1】
【0047】
[比較例1〜3]:比較用の水性分散液の調製。
上記表1に記載の各成分を用いる以外は上記実施例1〜4と同様にして、色材の含有量が15%の、比較例1〜3の比較用の水性分散液をそれぞれ得た。
【0048】
[実施例5〜8]:インク組成物の調製。
上記の実施例1で得た水性分散液と、下記表2に記載の各成分とを混合し、おおよそ30分間攪拌することにより、インク組成物を得た。得られたインク組成物をガラス繊維ろ紙GC−50(ADVANTEC社製)で濾過することにより、インクジェット捺染に用いる実施例5のインク組成物を調製した。
また、実施例1で得た水性分散液の代わりに、実施例2〜4で得た水性分散液をそれぞれ用いる以外は実施例1と同様にして、実施例6〜8の水性分散液をそれぞれ得た。
なお、下記表2中の「水性分散液」は、上記実施例1〜4、又は、比較例1〜3により得られた各水性分散液を意味する。
【0049】
【表2】
【0050】
[比較例4〜6]:比較用インク組成物の調製。
上記実施例1で得た水性分散液の代わりに、比較例1〜3で得た比較用の水性分散液をそれぞれ用いる以外は実施例5と同様にして、比較用の比較例4〜6のインクジェット捺染に用いるインク組成物をそれぞれ調製した。
【0051】
[評価試験用の被検液の調製]
実施例5〜8及び比較例4〜6で調製した各インク組成物について、調製の直後と、密閉容器で60℃で3日間保存した後の2つの時点において、各インク組成物を100mlずつサンプリングし、各インク組成物のサンプルを得た。
サンプリングした各インク組成物の総質量中における、色材の含有量が0.015%になるように、各サンプルをイオン交換水にて希釈し、試験用の各実施例及び比較例の被検液を調製した。
【0052】
[保存安定性試験]
上記のようにして得た各被検液について、平均粒子径D50及びD90をそれぞれ測定した。測定結果は下記表3に示し、数値の単位は「nm」である。平均粒子径の測定には、動的散乱式粒度分布測定装置LB−500(株式会社堀場製作所製)を用いた。
測定した平均粒子径D50、D90について、インク組成物の調製直後と、3日間保存後の各測定値の変化率を下記式にて算出し、下記A〜Dの4段階でそれぞれ評価した。
インク組成物の調製直後と、3日間保存後の各測定値の間に乖離が少ないほど、保存安定性が優れることを意味する。結果は下記表3に示す。
なお、下記表3中、「直後」はインク組成物の調製直後を、「保存後」は60℃で3日間保存後を、それぞれ意味する。
物性値の変化率=
(保存後の測定値−調製直後の測定値)/(調製直後の測定値)×100%。
A:変化率が±7%未満
B:変化率が±7%以上、±10%未満
C:変化率が±10%以上、±15%未満
D:変化率が±15%以上
【0053】
【表3】
【0054】
表3から明らかなように、各実施例のインク組成物は、D50及びD90の判定がいずれも「A」であり、保存安定性に優れることが判明した。
一方、各比較例は、D50及び/又はD90の変化率が大きく、いずれも判定が「B」又は「C」となった。
保存安定性が良好であることは、長期間に渡りインクジェット記録に適したインクとしての品質の低下がなく、インク中の成分の凝集及び沈降によるノズル、流路及びフィルターの目詰まりが発生しないことを意味する。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の水性分散液を含有する本発明のインク組成物は、保存安定性に極めて優れるため、インクジェット捺染用途に極めて有益である。