(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6238708
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B60C 15/06 20060101AFI20171120BHJP
B60C 13/00 20060101ALI20171120BHJP
B60C 9/08 20060101ALI20171120BHJP
B29D 30/38 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
B60C15/06 C
B60C15/06 Q
B60C13/00 G
B60C9/08 L
B29D30/38
【請求項の数】17
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-248403(P2013-248403)
(22)【出願日】2013年11月29日
(65)【公開番号】特開2015-105032(P2015-105032A)
(43)【公開日】2015年6月8日
【審査請求日】2016年9月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(72)【発明者】
【氏名】木村 嘉之
(72)【発明者】
【氏名】金村 利彦
【審査官】
岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭47−006177(JP,U)
【文献】
特開昭55−142753(JP,A)
【文献】
特開昭62−299555(JP,A)
【文献】
特開2013−204179(JP,A)
【文献】
特開2010−052486(JP,A)
【文献】
特開昭60−092104(JP,A)
【文献】
実開平04−131503(JP,U)
【文献】
特開2006−015951(JP,A)
【文献】
特開2004−130881(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00−19/12
B29D 30/00−30/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビードコアで内側から外側に折り返されるカーカスプライの外側に配置されるチェーファーを備えた空気入りタイヤであって、
前記チェーファーは、
間隔を空けて特定方向に延びるように配置された複数の線材を含む基材を備え、
前記基材は、2次元的に繰り返し形成された複数の多角形部を含み、
前記各多角形部は、捩合部と単線部とにより画定され、
前記各捩合部は、前記線材のうち、隣接して配置された線材同士を2回以上捩り合わせることにより形成され、
前記各単線部は、前記捩合部を構成する線材の一方であることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記チェーファーは、前記ビードコアの内側端の位置に対して、前記ビードコアの外側端の位置が外径側に位置することを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記チェーファーは、前記ビードコアの外側端の位置が、前記空気入りタイヤが装着されるリムフランジの外径端の位置よりもタイヤ外径側に位置することを特徴とする請求項2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記チェーファーは、前記ビードコアの外側端の位置を、前記ビードコアに隣接してタイヤ外径側へと配置されるビードフィラーの高さ寸法に対して50から70%の範囲としたことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記チェーファーは、前記ビードコアに対する巻き込み側領域に比べて、巻き上げ側領域を密に形成したことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記チェーファーは、密に形成される巻き上げ側領域は、少なくともリムとの接触部分であることを特徴とする請求項5に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記チェーファーは、前記基材が帯状であり、両側部が長手方向に延びる縦線材でそれぞれ構成されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記チェーファーは、前記基材が、前記縦線材を3本以上備え、前記各縦線材の間の各分割領域にそれぞれ複数の多角形部を形成してなることを特徴とする請求項7に記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
前記チェーファーは、前記基材を構成する各多角形部の形状が相違していることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項10】
前記チェーファーは、前記各分割領域間で形状の相違する多角形部をそれぞれ配置してなることを特徴とする請求項8に従属する請求項9に記載の空気入りタイヤ。
【請求項11】
前記チェーファーは、前記多角形部の形状が捩合部ピッチを変更することにより調整可能であることを特徴とする請求項9又は10に記載の空気入りタイヤ。
【請求項12】
前記チェーファーは、前記捩合部ピッチが、線材同士の捩合回数、捩合部から延びる単線材の傾斜角度、又は、隣接する線材の間隔を変更することにより調整可能であることを特徴とする請求項11に記載の空気入りタイヤ。
【請求項13】
前記チェーファーは、前記基材の全体をコーティングする被覆部をさらに備えたことを特徴とする請求項1から12のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項14】
前記多角形部は、四角形又は六角形であることを特徴とする請求項1から13のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項15】
ビードコアで内側から外側に折り返されるカーカスプライの外側に配置されるチェーファーを備えた空気入りタイヤであって、
前記チェーファーは、
線材同士を互いに捩り合わせてなる捩合部と、
前記捩合部から延びる、前記線材の一方からなる単線部と、
で囲まれた多角形部を、同一平面上に連続的に形成してなる基材を備え、
前記基材の捩合部は2本の線材同士を2回以上捩り合わせることにより形成したことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項16】
線材同士を互いに2回以上捩り合わせてなる捩合部と、前記捩合部から延びる、前記線材の一方からなる単線部と、で囲まれた多角形部を、同一平面上に連続的に形成する基材を備えたチェーファーの形成工程を備えることを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【請求項17】
さらに、前記基材の全体を被覆部でコーティングするベルトの形成工程を備えることを特徴とする請求項16に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1として、長手方向に並設した複数本のワイヤコイルに対して交差する2方向から他のワイヤコイルをからげるようにした構成のタイヤのベルト(補強部材)が公知である。
また特許文献2として、交差する3方向にそれぞれ延びる複数本のベルトコードを織り合わせた構成のタイヤのベルトが公知である。
また特許文献3として、網目構造を有する金属薄板からなるタイヤのベルトが公知である。
【0003】
しかしながら、特許文献1では、長手方向に延びるワイヤコイルに交差する他のワイヤコイルをからげているだけであるので、互いに擦れて摩耗し、場合によっては破断する恐れがある。特に軽量化のためにワイヤコイルに樹脂材料を使用した場合等にはこの問題が顕著なものとなる。
また特許文献2でも前記特許文献1に記載のものと同様に、ベルトコード同士が互いに摺接して摩耗し、場合によっては破断する恐れがある。
また特許文献3では、全体が単一の金属薄材で構成されているため、組み込まれたタイヤが縁石等に乗り上げることにより、その一部に外力が集中すると破断する恐れがある。
また前記いずれの特許文献でも、チェーファーの軽量化を図り、耐久性を向上させるための構成に関する記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1−237203号公報
【特許文献2】特開平5−162508号公報
【特許文献3】特開2000−25412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、軽量で、耐久性に優れたチェーファーを備えた空気入りタイヤ及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するための手段として、
ビードコアで内側から外側に折り返されるカーカスプライの外側に配置されるチェーファーを備えた空気入りタイヤであって、
前記チェーファーは、
間隔を空けて特定方向に延びるように配置された複数の線材を含む基材を備え、
前記基材は、2次元的に繰り返し形成された複数の多角形部を含み、
前記各多角形部は、捩合部と単線部とにより画定され、
前記各捩合部は、前記線材のうち、隣接して配置された線材同士を2回以上捩り合わせることにより形成され、
前記各単線部は、前記捩合部を構成する線材の一方である空気入りタイヤを提供する。
【0007】
この構成により、線材を2回以上捩り合わせて形成した捩合部で、線材同士の位置ずれを効果的に防止できる。したがって、線材同士が擦れて摩耗により破断する恐れを大幅に低減できる。また多角形部で多方向の剛性を高めることができる。さらに多角形部は同一平面上に連続的に形成されただけであるので多層化する必要がなく、軽量化が可能となる。つまり、チェーファーの耐久性を維持しつつ軽量化が可能となる。
【0008】
前記チェーファーは、前記ビードコアの内側端の位置に対して、前記ビードコアの外側端の位置がタイヤ外径側に位置するのが好ましい。
【0009】
この構成により、タイヤを車両側のリムフランジに装着する際、チェーファーとリムフランジとの接触面積を大きくして摩擦抵抗を増大させることによりリムずれを防止することができる。
【0010】
前記チェーファーは、前記ビードコアの外側端の位置が、前記空気入りタイヤが装着されるリムフランジの外径端の位置よりもタイヤ外径側に位置するのが好ましい。
【0011】
この構成により、リムフランジへのチェーファーの装着状態をより一層リムずれが発生しにくくすることができる。
【0012】
例えば、前記チェーファーは、前記ビードコアの外側端の位置を、前記ビードコアに隣接して外径側へと配置されるビードフィラーの高さ寸法に対して50から70%の範囲とすればよい。
【0013】
前記チェーファーは、前記ビードコアに対する巻き込み側領域に比べて、巻き上げ側領域を密に形成するのが好ましい。
【0014】
この構成により、チェーファーの重量増加を抑制しつつ、より一層適切にリムずれを防止することが可能となる。
【0015】
この場合、前記チェーファーは、密に形成される巻き上げ側領域は、少なくともリムとの接触部分であるのが好ましい。
【0016】
前記チェーファーは、前記基材が帯状であり、両側部が長手方向に延びる縦線材でそれぞれ構成されているのが好ましい。
【0017】
この構成により、基材の両側部の縦線材で、チェーファーを安定した形状に維持しやすくなり、剛性バランスを優れたものとすることができる。
【0018】
前記チェーファーは、前記基材が、前記縦線材を3本以上備え、前記各縦線材の間の各分割領域にそれぞれ複数の多角形部を形成してなるのが好ましい。
【0019】
この構成により、チェーファーに適切なものとなるように、各分割領域での剛性を変更することができる。
【0020】
前記チェーファーは、前記基材を構成する各多角形部の形状
が相違しているのが好ましい。
【0021】
この構成により、必要とされる剛性に方向性がある場合であっても、それに応じて多角形部の形状を変更することにより対応することができる。例えば、剛性が必要とされる方向には短く、必要とされない方向には長くなるように形成すればよい。
【0022】
前記チェーファーは、前記各分割領域間で形状の相違する多角形部をそれぞれ配置してなるのが好ましい。
【0023】
この構成により、各分割領域での剛性の高低をチェーファーに適した値に設定することができる。
【0024】
前記チェーファーは、前記多角形部の形状が捩合部ピッチを変更することにより調整可能であればよい。
【0025】
前記チェーファーは、前記捩合部ピッチが、線材同士の捩合回数、捩合部から延びる単線材の傾斜角度、又は、隣接する線材の間隔を変更することにより調整可能であればよい。
【0026】
前記チェーファーは、前記基材の全体をコーティングする被覆部をさらに備えるようにすればよい。
前記多角形部は、四角形又は六角形であればよい。
【0027】
本発明は、前記課題を解決するための手段として、
ビードコアで内側から外側に折り返されるカーカスプライの外側に配置されるチェーファーを備えた空気入りタイヤであって、
前記チェーファーは、
線材同士を互いに捩り合わせてなる捩合部と、
前記捩合部から延びる、前記線材の一方からなる単線部と、
で囲まれた多角形部を、同一平面上に連続的に形成してなる基材を備え、
前記基材の捩合部は2本の線材同士を2回以上捩り合わせることにより形成したものである。
【0028】
この構成により、線材を2回以上捩り合わせて形成した捩合部で、線材同士の位置ずれを効果的に防止できる。したがって、線材同士が擦れて摩耗により破断する恐れを大幅に低減できる。また多角形部で多方向の剛性を高めることができる。さらに多角形部は同一平面上に連続的に形成されただけであるので多層化する必要がなく、軽量化が可能となる。つまり、チェーファーの耐久性を維持しつつ軽量化が可能となる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、タイヤのチェーファーを、捩合部と単線部とで囲まれた複数の多角形部からなる基材を備え、捩合部を2本の線材同士を2回以上捩り合わせた構成としたので、線材同士の擦れが殆どなく、摩耗により切断する恐れがない。したがって、チェーファーの耐久性を高めて、長期に亘って所望の性能を発揮させることができ、軽量化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本実施形態に係る空気入りタイヤの子午面に於ける部分断面図である。
【
図9】他の実施形態に係るチェーファーの基材を示す平面図である。
【
図10】他の実施形態に係るチェーファーの基材を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明に係る実施形態を添付図面に従って説明する。なお、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物、あるいは、その用途を制限することを意図するものではない。図中、同一または類似の部分には、同一または類似の符号を付している。図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは相違している。
【0032】
図1は、本実施形態に係る空気入りタイヤの部分断面図を示す。この空気入りタイヤでは、外部構造は、トレッド部1、ショルダー部2、サイド部3及びビード部4で構成されている。また内部構造は、トレッド部1からショルダー部2にかけて設けられるベルト5を備える。ベルト5の外周側に補強プライ6が設けられている。ベルト5の内周側にはカーカスプライ7が設けられている。カーカスプライ7はトレッド部1からビード部4に向かい、そこに内蔵されるビードコア8で折り返して、これに隣接するビードフィラー9を超えて外面側に至る。またカーカスプライ7の折り返し部分はチェーファー10によって補強されている。なお、ここでは他の部材の説明については省略する。
【0033】
チェーファー10は、基材11の表面を被覆部12で覆ってシート状としたもので、カーカスプライ7の外面側であって、ビードコア8での折り返し部分を、内側から外側の所定範囲で覆うように貼り付けられる。チェーファー10の折り返し部分は、ビードコア8の内径部の中心位置よりも内側(
図1中、左側の領域)が巻き込み領域10Aであり、外側(
図1中、右側の領域)が巻き上げ領域10Bである。
【0034】
チェーファー10の外側端位置10aは内側端位置10bよりもタイヤ外径(図中、上方)側に配置されている。詳しくは、チェーファー10の外側端位置10aは、ビードフィラー9の高さ寸法(タイヤ径方向の長さ)の50〜75%の範囲に設けられている。一方、チェーファー10の内側端位置10bはビードフィラー9の高さ寸法(タイヤ径方向の長さ)の20〜50%の範囲に設けられている。
【0035】
また、チェーファー10の外側端位置10aは、ビードフィラー9の高さ寸法(タイヤ径方向の長さ)にはタイヤの種類によって違いがあるため、次のようにして決定してもよい。すなわち、タイヤ断面において、ビードコア8の内径部(ビードコア8(厳密にはカーカスプライ7及びチェーファー10を含む)のノミナル径の位置:基準位置A)からタイヤ外径方向に向かって(18.0±8.0)mmの高さとなるようにチェーファー10の外側端位置10aを決定してもよい(この場合のリムフランジ14の前記基準位置Aからの高さ(タイヤ外径方向の)寸法は17.5mmである。)。
【0036】
ここでは、チェーファー10の外側端位置10aの決定方法について2種類紹介したが、このチェーファー10の外側端位置10aは、タイヤをリム13に装着した状態で、そのリムフランジ14に対してタイヤ外径側に突出するように決定するだけでもよい。またチェーファー10の内側端位置10bは、ビードコア8の内側(
図1中、ビードコア8の内径部の点8aで示す位置よりも内側)であればよい。
【0037】
このように、チェーファー10の位置(外側端位置10a及び内側端位置10b)を設定することにより、タイヤを車両側のリム13に装着した際に、チェーファー10とリムフランジ14との接触面積を大きくすることができ、リムずれを防止することが可能となる。
【0038】
図3に示すように、基材11は、複数本の線材15を所定位置で捩り合わせて複数の多角形部16を形成してシート状としたものである。
【0039】
線材15には、スチール等の金属材料、ポリエステル、アラミド、レーヨン、ナイロン等の有機繊維からなる樹脂材料等を使用することができる。各線材15は、1本で構成してもよいが、より細い複数本を束ねてあるいは撚り合わせて1本とした構成とすることもできる。
【0040】
基材11は、1本の線材15を、上下方向(縦方向)に複数本並設し、隣り合う線材同士を上下方向に所定ピッチで捩り合わせたものである。すなわち、隣り合う線材同士が捩り合わされた捩合部17と、この捩合部17から延びる一方の線材15からなる単線部18とで囲まれた多角形部16が形成される。ここでは、多角形部16は正六角形で構成されている。また捩合部17は、線材同士を2回以上捩り合わせることにより形成する。ここでは、線材同士を2回半捩り合わせることで捩合部17を形成している(
図2では、捩合部17の中心位置に円形の空間部が示されているが、これは捩合状態をわかりやすくするためのものであって、実際には空間部は形成されない。)。両側部の線材15(縦線材19)は上下方向に真っ直ぐ延びたままで使用する。多角形部16は、縦線材19の間で同一平面上に連続的に形成され、ハニカム形態を構成する。
【0041】
図4に示すように、1つの多角形部16に着目してより詳細に説明する。この多角形部16は、隣接する2本の線材15を捩り合わせた捩合部17から分岐してそれぞれ延びる第1線材15Aからなる第1単線部18Aと、第2線材15Bからなる第2単線部18Bとを有する。また、第1線材15Aと、この第1線材15Aに対して第2線材15Bとは反対側に隣接する第3線材15Cとを捩り合わせた第1捩合部17Aを有する。さらに、第2線材15Bと、この第2線材15Bに対して第1線材15Aとは反対側に隣接する第4線材15Dとを捩り合わせた第2捩合部17Bを有する。さらにまた、第1捩合部17Aから分岐した第1線材15Aからなる第3単線部18Cと、第2捩合部15Bから分岐した第2線材15Bからなる第4単線部18Dとを有する。第3単線部18C(第1線材15A)と第4単線部18D(第2線材15B)とは捩り合わされて捩合部17となる。
【0042】
多角形部16の形状は捩合部ピッチすなわちハニカム密度を変更することにより、縦長あるいは横長の形状に変更することができる。ここに、捩合部ピッチとは、
図3に示すように、縦方向の捩合部17の間隔(ここでは中心位置の間隔を使用)である縦ピッチP1と、横方向の捩合部17の間隔である横ピッチP2とを意味する。
【0043】
縦ピッチP1の調整は、捩合部17の捩合回数の増減、あるいは、単線部18の傾斜角度θの調整により行うことができる。
【0044】
捩合部17の捩合回数は増やせば増やすほど、線材同士の位置ずれを防止して擦れにくい構成とすることができるが、前述の通り使用時の線材同士の擦れを十分に防止できる2回以上であればよい。捩合回数を調整することで、捩合部17の長さを変更して縦ピッチP1を調整することができる。例えば、
図7に示すように、捩合回数を増やすことで、各正六角形を縦長の形状とすることができるし、捩合回数を減少させることで、図示しないが横長の形状とすることもできる。
【0045】
また捩合部17から延びる単線部18の傾斜角度(
図3の上下方向(縦方向)に対する単線部18の傾斜角度θ)を変更することによっても縦ピッチP1を調整することができる。
図5では、捩合部17に対する傾斜角度、すなわち縦方向に対する傾斜角度θを大きくして横長形状としている。
図6では、捩合部17に対する傾斜角度、すなわち縦方向に対する傾斜角度θを小さくして縦長形状としている。
【0046】
横ピッチP2の調整は、線材15の間隔を調整することにより行うことができる。すなわち、線材15の間隔を広くすることにより多角形部16を横長とすることができ、狭くすることにより縦長とすることができる。
【0047】
このように、捩合部17の捩合回数の増減、単線部18の傾斜角度θの調整等により正六角形を縦長又は横長のいずれの形状にも調整することができる。縦長形状とすることにより、横方向に比べて縦方向の剛性を小さくすることができる。一方、横長形状とすることにより、縦方向に比べて横方向の剛性を小さくすることができる。
【0048】
また基材11の多角形部16の形状は六角形(正六角形のほか、縦長又は横長の六角形を含む)に限らず、
図8に示す四角形としてもよい。すなわち、捩合部17に対して単線部18の長さを十分に大きくすることにより四角形とすることができる。
図8では多角形部16は菱形形状となっている。
【0049】
前記構成からなる基材11は、図示しない薄いゴム(トッピングゴム)で被覆したり、フィルム状の合成樹脂を熱溶着させてコーティングしたりして被覆部12を形成することによりチェーファー10となる。
【0050】
前記構成からなるチェーファー10は、両側の縦線材19がタイヤ周方向に沿うようにしてカーカスプライ7の折り返し部分に貼り付けられる。このようなチェーファー10を備えたタイヤでは、線材同士の捩合部17が2回以上の捩合回数で捩り合わせされているので、使用(タイヤによる走行)状態で線材同士が擦れることがない。したがって、線材15が摩耗により損傷して切断に至る心配がない。
【実施例】
【0051】
[実施例]
比較例のベルト5を備えた空気入りタイヤと、本発明に係る実施例のベルト5を備えた空気入りタイヤとで実車フィーリングテストを行った。詳しくは、サイズが195/65R15 91Hで、空気圧が180kPaの空気入りタイヤを使用し
、リムずれ量について評価した
。
リムずれ量では、指数が小さい方がずれ量が少なく、性能が優れていることを示す。
【0052】
【表1】
比較例1:従来構造のナイロン製のチェーファー10を使用したタイヤ
比較例2:線材15の捩合回数を1回としたチェーファー10を使用したタイヤ
実施例1:線材15の捩合回数を2回としたチェーファー10を使用したタイヤ(多角形部16の密度は、内側と外側で同じ)
実施例2:線材15の捩合回数を2回としたチェーファー10を使用したタイヤ(多角形部16の密度は、内側の方が外側よりも大きい)
実施例3:線材15の捩合回数を2回としたチェーファー10を使用したタイヤ(多角形部16の密度は、外側側の方が内側よりも大きい)
【0053】
表1から明らかなように、実施例1から3のいずれの構成によっても
、リムずれ量を十分に抑制することができ、特に外側で多角形部16の密度を大きくした実施例3によりその効果を顕著に発揮させることができた。
【0054】
なお、本発明は、前記実施形態に記載された構成に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
【0055】
例えば、前記実施形態では、チェーファー10は1層で構成したが、2層以上としても構わない。
【0056】
また、前記実施形態では、横方向に並設した複数本の線材15を、隣接する線材同士で縦方向の所定位置で捩り合わせることにより基材11を形成するようにしたが、互いに交差する斜め方向に延びる線材同士を互いに捩り合わせることによって基材11を形成するようにしてもよい。
【0057】
また、
図9に示すように、縦線材17を3本設けることにより2箇所の分割領域(第1分割領域20及び第2分割領域21)を有する構成とし、各分割領域20、21で多角形部16の形状やサイズを変更する等により、密度や剛性を相違させるようにしてもよい。この場合、巻き上げ領域10Bを密にし、巻き込み領域10Aを疎とするのが好ましい。巻き上げ領域10Bを密にすることで、リムフランジ14との摩擦抵抗を増大させて、より一層効果的にリムずれを防止することができる。また、巻き上げ領域10Bに比べて巻き込み領域10Aを疎にすることで、路面からタイヤを介してリム13に伝達される振動を低減することができる。
【0058】
また、
図10に示すように、縦線材17を3本設けることにより3箇所の分割領域(第1分割領域20、第2分割領域21及び第3分割領域22)を有する構成とし、前記同様にして各分割領域20、21、22で多角形部16の密度や剛性を相違させるようにしてもよい。
【0059】
さらに、分割領域はこれら例示の数に限らず、用途に応じて分割数を自由に変更することも可能である。
【0060】
さらにまた、各分割領域の多角形部16は、全て六角形で構成したが、前記実施形態と同様に、四角形等の他の多角形で構成してもよい。また各分割領域で、多角形の形状を相違させてもよい。例えば、多角形部16を、第1分割領域では六角形、第2領域では四角形としてもよい。また、境界部分の縦線材に形成される捩合部17の長さは同じでなくてもよく、位置も縦方向にずれていてもよい。これは、多角形部16がいずれの形状のものであっても同じである。
【符号の説明】
【0061】
1…トレッド部
2…ショルダー部
3…サイド部
4…ビード部
5…ベルト
6…補強プライ
7…カーカスプライ
8…ビードコア
9…ビードフィラー
10…チェーファー
11…基材
12…被覆部
13…リム
14…リムフランジ
15…線材
16…多角形部
17…捩合部
18…単線部
19…縦線材
20…第1分割領域
21…第2分割領域
22…第3分割領域