特許第6238726号(P6238726)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6238726
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04B 39/04 20060101AFI20171120BHJP
   F04C 18/344 20060101ALI20171120BHJP
   F04C 29/02 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   F04B39/04 H
   F04C18/344 351U
   F04C29/02 351D
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-263147(P2013-263147)
(22)【出願日】2013年12月20日
(65)【公開番号】特開2015-117671(P2015-117671A)
(43)【公開日】2015年6月25日
【審査請求日】2016年7月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】500309126
【氏名又は名称】株式会社ヴァレオジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】110000545
【氏名又は名称】特許業務法人大貫小竹国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 知靖
(72)【発明者】
【氏名】寺屋 孝則
【審査官】 所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/080865(WO,A1)
【文献】 特開2013−164008(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 39/04
F04C 18/344
F04C 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジングに収容された圧縮機構と、
前記ハウジングに形成され、前記圧縮機構で圧縮された作動流体が吐出される吐出室と、
前記ハウジングに設けられ、前記圧縮機構で圧縮された作動流体からオイルを分離するオイル分離器と、
を備え、
前記オイル分離器は、円筒状の分離室と、この分離室に収容される分離パイプと、前記吐出室と前記分離室とを連通する冷媒導入路とを有して構成される遠心分離式である圧縮機において、
前記分離室の軸心と前記分離パイプの軸心とがずれていることを特徴とする圧縮機。
【請求項2】
前記分離パイプの軸心と前記冷媒導入路が前記分離室に開口する開口部位との距離は、前記分離室の軸心と前記開口部位との距離より長いことを特徴とする請求項1記載の圧縮機。
【請求項3】
前記分離パイプの軸心は、前記分離室の軸心から前記冷媒導入路の軸線に対して略垂直方向にずれていることを特徴とする請求項2記載の圧縮機。
【請求項4】
前記分離室は、前記ハウジングに一体に形成され、前記分離パイプは、前記分離室を画成するハウジングの部位に一体化されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心分離式のオイル分離器を備えた圧縮機に関し、特に、オイル分離性能が高いオイル分離器を備えた圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧縮機構で圧縮された作動流体からオイルを分離する遠心分離式のオイル分離器を備えた圧縮機としては、例えば、特許文献1や特許文献2で示される圧縮機が公知となっている。
【0003】
このうち、特許文献1に示される圧縮機は、シャフトの回動に伴い可動する可動部材と、可動部材と共に圧縮室を構成する固定部材とを備え、固定部材に圧縮室で圧縮された作動流体を導入してオイル分離するオイル分離器が一体に設けられたもので、オイル分離器を、圧縮室で圧縮された作動流体を導入する分離室と、導入された作動流体を旋回させるために分離室に収容された分離パイプとを備えて構成し、分離室と分離パイプとを固定部材に同軸上で一体に形成するようにしたものである。
【0004】
また、特許文献2に示される圧縮機は、圧縮機のハウジングを構成するリアサイドブロックに、冷凍機油を冷媒ガスから分離するためのサイクロンブロック(オイル分離器)を設けたもので、オイル分離器を、圧縮された冷媒ガスを旋回させる円筒内周面およびこの円筒内周面の一方の端部側を塞ぐ底面を有する遠心分離本体部と、円筒内周面に囲まれた円柱状空間内に、この円柱状空間の軸に沿って配設され、内部で旋回した冷媒ガスを底面とは反対側の端面から遠心分離本体部の外部に導く内筒状の気体排気部とを有して構成し、気体排気部と遠心分離本体部とを別部材によって構成するようにしたものである。
【0005】
このように、従来のオイル分離器は、ハウジング内に設けられた遠心分離本体部に、略円柱状の空間に形成された分離室と、この分離室に収容された円筒状の分離パイプとを互いの軸心を一致させて形成し、分離室の内周面と分離パイプの外周面とによって画成された略円筒状の空間を、オイルを含む作動流体を旋回させることで作動流体中のオイルを遠心分離させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】再公表W2011−080865号広報
【特許文献2】特開2007−327340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、分離室と分離パイプとが同心上に形成される従来のオイル分離器においては、必要とする分離能力を確保しようとすると、ある程度の大きさの分離室を確保する必要があるため、オイル分離器の小型化は図りにくく、圧縮機を小型にすることは困難であった。
このため、オイル分離器のオイル分離性能を高めてオイル分離器の小型化を図ることが要請されている。
【0008】
しかも、分離室を画成する遠心分離本体部と分離パイプとが一体に形成される特許文献1に示されるような構成において、オイル分離器の高圧ガスを導入する冷媒導入路を加工ドリルで加工する作業においては、分離パイプの外周面と分離室の内周面とのクリアランスが十分に確保されていないと、加工ドリルを分離本体部の側方から分離室の内周面の接線方向に動かして冷媒導入路を穿設する際に、加工ドリルを分離室に深くまで挿入すると、図5(a)に示されるように、加工ドリル30が分離パイプ23と干渉し、分離パイプ23に穴をあけてしまう不都合があり、また、逆に分離パイプ23との干渉を避けるために加工ドリル30の挿入が浅いと、図5(b)に示されるように、冷媒導入路21が分離室22の内周面に対して接線方向で接続されず、作動流体が分離室22にスムーズに導入されないため作動流体の旋回がうまく行われず、オイル分離性能が悪くなる不都合がある。
【0009】
このような不都合を回避するためには、分離パイプの外周面と分離室の内周面とのクリアランスを十分に大きくし、加工ドリルを深くまで挿入しても分離パイプと干渉しないようにすることが望ましいが、従来の上述した構成においては、このクリアランスを大きく確保しようとすると、オイル分離器自体の大型化を招き、圧縮機の小型化が困難になるものであった。
【0010】
また、分離パイプが分離室を画成する遠心分離本体部と別体に構成される特許文献2に示されるような構成においても、分離パイプの外周面と分離室の内周面とのクリアランスが不十分であると、冷媒導入路の開口部位が分離パイプに寄り過ぎ、分離室に導入された作動流体が分離パイプに衝突して作動流体が分離室内をうまく旋回できなくなる不都合がある。
【0011】
このため、このような不都合を回避するためには、パイプ部の外周面と分離室の内周面とのクリアランスを大きくする必要があるが、従来の上述した構成においては、このクリアランスを大きく確保しようとすると、オイル分離器の大型化を招き、圧縮機の小型化を図ることは困難であった。
【0012】
本発明は係る事情に鑑みてなされたものであり、分離室と分離パイプとが同心上に形成されていることに起因する上述した不都合を回避し、圧縮機のオイル分離器のオイル分離性能を向上させることでオイル分離器の小型化を図ることができ、また、オイル分離器を小型にした場合でも、冷媒導入路を穿設する際に加工ドリルが分離パイプと干渉する不都合を回避できると共に、冷媒導入路を分離室の内周面に滑らかに繋ぐことでオイル分離性能の一層の向上を図ることができ、さらには、冷媒導入路の開口部が分離パイプに寄り過ぎる不都合を回避することが可能なオイル分離器を備えた圧縮機を提供することを主たる課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を達成するために、本発明に係る圧縮機は、ハウジングと、前記ハウジングに収容された圧縮機構と、前記ハウジングに形成され、前記圧縮機構で圧縮された作動流体が吐出される吐出室と、前記ハウジングに設けられ、前記圧縮機構で圧縮された作動流体からオイルを分離するオイル分離器と、を備え、前記オイル分離器は、円筒状の分離室と、この分離室に収容される分離パイプと、前記吐出室と前記分離室とを連通する冷媒導入路とを有して構成される場合において、前記分離室の軸心と前記分離パイプの軸心とがずれていることを特徴としている。
【0014】
したがって、分離室の軸心と分離パイプの軸心とをずらしたことで、圧縮された作動流体が旋回する通路の通路断面を変化させることができるので、オイル分離性能を高めることが可能となる。
このため、オイル分離能力を高めることができる分、オイル分離器を小型にすることが可能となる。
【0015】
また、オイル分離器を小型化した場合でも、分離室の軸心と分離パイプの軸心とがずれているので、分離室の内周面と分離パイプの外周面との間のクリアランスを部分的に大きくすることが可能となり、その部分に臨むように冷媒導入路を穿設することで、冷媒導入路を穿設する際に挿入される加工ドリルが分離パイプと干渉することがなくなり、また、分離パイプとの干渉を避けるために加工ドリルの挿入が浅くなって冷媒導入路を分離室の内周面に滑らかに繋ぐことができなくなる不都合もなくなり、さらには、冷媒導入路の開口部が分離パイプに寄り過ぎる不都合もなくなる。
【0016】
ここで、オイル分離性能を高める上では、分離パイプの軸心は分離室の軸心に対して任意の方向へずらせばよいが、冷媒導入路を加工する観点からは、分離パイプの軸心と冷媒導入路が分離室に開口する開口部位との距離が、分離室の軸心と前記開口部位との距離より長くなるように互いの軸心をずらすとよい。
【0017】
このような構成とすることで、分離パイプの外周面と分離室の内周面との間の通路断面が相対的に大きくなる領域に臨むように冷媒導入路を開口させることができ、加工ドリルを挿入する際に分離パイプとの干渉を避けやすくなると共に作動流体のスムーズな導入を図ることができ、また、導入された作動流体が分離パイプと分離室との間隔が狭い領域に向かって流れることで、作動流体の流速を高めて効率よくオイルを分離することが可能となる。
【0018】
特に、前記分離パイプの軸心は、前記分離室の軸心から前記冷媒導入路の軸線に対して略垂直方向にずらすことで、冷媒導入路の開口部位を分離パイプの外周面と分離室の内周面との間の通路断面が最も大きくなる領域に臨ませることが可能となり、冷媒導入路の加工が最もしやすくなり、また、作動流体を分離室にスムーズに導入することが可能となる。しかも、冷媒導入路の加工を見込んだ場合でもオイル分離器の小型化が図りやすいものとなる。
【0019】
なお、分離室は、ハウジングに一体に形成され、分離パイプは、分離室を画成するハウジングの部位に一体化されることが好ましい。
このような構成を採用することで、分離パイプの軸心位置の調整が不要となり、オイルの分離効果にばらつきを無くすことが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
以上述べたように、本発明によれば、遠心分離式であるオイル分離器を備えた圧縮機において、オイル分離器の分離室の軸心と分離パイプの軸心とをずらしたので、オイル分離器のオイル分離性能を向上させることが可能となり、オイル分離性能を向上させることができた分、オイル分離器を小型化することができ、引いては圧縮機を小型にすることが可能となる。
【0021】
また、オイル分離器を小型にした場合でも分離パイプの外周面と分離室の内周面とのクリアランスが大きくなる部分に臨むように冷媒導入路を形成することが可能となるので、冷媒導入路を穿設する際に加工ドリルが分離パイプと干渉することがなくなり、また、冷媒導入路を分離室の内周面に滑らかに繋ぐことが可能になると共に冷媒導入路の開口部が分離パイプに寄り過ぎる不都合もなくなり、分離室にスムーズに作動流体を導いてオイル分離を効率よく行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明に係る圧縮機の構成例を示す側断面図であり、(a)は、オイル分離器と吐出ポートが表出されるように圧縮機を切断した断面図であり、(b)は、吸入ポートが表出されるように圧縮機を切断した断面図である。
図2図2(a)は、図1(a)のA−A線で切断した断面図を示し、図2(b)は、図1(a)のB−B線で切断した断面図を示す。
図3図3は、オイル分離器の分離室と連通する冷媒導入路を加工ドリルで加工する状態を示す図であり、(a)はハウジングの外部から加工ドリルを挿入して冷媒導入路を穿設する作業を説明する図、(b)は(a)のオイル分離器の部分を拡大した拡大図である。
図4図4は、本発明に係るオイル分離器を採用した圧縮機において、作動流体が分離室に導入された場合の作動流体の挙動を説明する図であり、(a)は、小流量時の作動流体の挙動を説明する図、(b)は、大流量時の作動流体の挙動を説明する図である。
図5図5は、従来のオイル分離器に対して冷媒導入路を形成する場合の不都合を説明する図であり、(a)は加工ドリルを深く挿入した状態を示す図、(b)は加工ドリルを浅く挿入した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る圧縮機の実施形態を添付図面を参照しながら説明する。
【0024】
図1及び図2において、冷媒を作動流体とする冷凍サイクルに適したベーン型圧縮機が示されている。このベーン型圧縮機は、シャフト1の回動に伴い可動する可動部材2と、前記可動部材2と共に圧縮室3を構成する固定部材4と、可動部材2及び固定部材4を収容し、固定部材4と共にハウジングを構成するシェル部材5とを備えている。
【0025】
固定部材4は、可動部材2を収容するシリンダ部4aと、このシリンダ部4aのリア側に続いて一体に形成されたリアサイドブロック部4bとを有して構成されている。
【0026】
可動部材2は、固定部材4のシリンダ部4aに回転可能に収容され、シャフト1に固定されたロータ2aと、このロータ2aに設けられたベーン溝6に挿入されるベーン2bとを有して構成されている。
【0027】
シェル部材5は、シリンダ部4aのフロント側端面に当接するフロントサイドブロック部5aと、シリンダ部4a及びリアサイドブロック部4bの外周面を包囲するように形成された筒部5bとを有して構成されている。
【0028】
シャフト1は、シェル部材5のフロントサイドブロック部5aと固定部材4のリアサイドブロック部4bにプレーンベアリングを介して回転可能に支持されている。シェル部材5には、作動流体(冷媒ガス)の吸入口7および吐出口8と、吸入口7に連通し、固定部材4のシリンダ部4aに形成された凹部9と共に構成される吸入空間(低圧空間)10が形成されている。また、固定部材4のシリンダ部4aとシェル部材5の筒部5bとにより、後述する吐出室(高圧空間)11が画成され、この吐出室11は、固定部材4のリアサイドブロック部4bに形成されたオイル分離器14を介して吐出口8に連通している。
【0029】
シリンダ部4aにより囲まれた空間とロータ2aとの断面は真円状に形成され、シリンダ部4aの軸中心とロータ2aの軸中心とは、ロータ2aの外周面とシリンダ部4aの内周面とが周方向の一箇所で当接するようにずらして設けられ(シリンダ部の内径とロータ2aの外径との差の1/2だけずらして設けられ)、シリンダ部4aの内周面とロータ2aの外周面との間には圧縮空間13が画成されている。この圧縮空間13はベーン2bによって仕切られて複数の圧縮室3が形成され、各圧縮室3の容積はロータ2aの回転によって変化するようになっている。
【0030】
シェル部材5は、フロントサイドブロック部5aに一体化されたボス部5cに、シャフト1に回転動力を伝達するためのプーリ15が回転自在に外装され、このプーリ15から電磁クラッチ16を介して回転動力がシャフト1に伝達されるようになっている。
【0031】
また、固定部材4のシリンダ部4aは、その両端部に径方向に突出するフランジ部4c.4dが形成されている。フロント側のフランジ部4cは、シェル部材5の内周形状に合わせた形状に形成されており、シェル部材5の内側に嵌入されてフロントサイドブロック部5aの端面に当接され、また、リア側のフランジ部4dも、シェル部材5の内周形状に合わせた形状に形成されており、シェル部材5の内側に嵌入されてオーリング等のシール部材によりシェル部材5との間が気密よくシールされている。
【0032】
シリンダ部4aの周面には、吸入空間10に連通する吸入ポート17と、吐出室11と連通する吐出ポート18が設けられている。したがってシリンダ部4aをシェル部材5に嵌入させると、吸入空間10は、吸入ポート17を介して圧縮室3に連通し、シリンダ部4aの外周面と筒部5bの内周面との間には、両側端がフランジ部4c.4dによって画成された前記吐出室11が形成され、この吐出室11が吐出ポート18を介して圧縮室3に連通可能となっている。そして、吐出ポート18は、吐出室11に収容される吐出弁19により開閉されるようになっている。
【0033】
この吐出室11は、シリンダ部4aの吐出ポート18の近傍に突設された隔壁20を境にして吐出弁19が設けられている部位からシリンダ部4aのほぼ全周に亘って設けられ、隔壁20に対して吐出ポート18が設けられている側とは反対側の部分は、フランジ部4d(リアサイドブロック部4b)に形成された冷媒導入路21を介して以下述べるオイル分離器14に連通している。
【0034】
オイル分離器14は、固定部材4のリアサイドブロック部4bに一体に形成されているもので、フランジ部4dに形成された冷媒導入路21が連通する円筒状の空間に形成された分離室22を備え、この分離室22に固定部材4(リアサイドブロック部4b)と一体に形成された略円筒状の分離パイプ23を収納して構成されている。
【0035】
冷媒導入路21は、図3にも示されるように、分離室22の上端部の内周面に対して接線方向で繋がるように形成されているもので、吐出室側から加工ドリル30で穿設することで形成されている。
【0036】
分離室22は、前記シャフト1の軸方向に対して略直交する方向に延設されると共にその軸線が鉛直線に対して斜めに傾斜するように形成されており、上端部は、分離パイプ23を介して前記シェル部材5の吐出口8に連通し、下端部は、リアサイドブロック部4bの側面に開口されている。そして、この分離室22の下端部の開口部は、シェル部材5の筒部5bにより覆われている。
【0037】
この例において、筒部5bは、リアサイドブロック部4bの全体が収容される程度に軸方向に延設されており、分離室22は、圧縮機の軸方向の前後においてリアサイドブロック部4bの周方向の設けられたオーリング等のシール部材によりシェル部材5の筒部5bとの間が気密よくシールされている。
【0038】
このようなオイル分離器14において、分離パイプ23は、その軸心O’を分離室22の軸心Oに対してずらした状態で設けられている。分離パイプ23の軸心O’を分離室22の軸心Oに対してずらす方向は、任意に設定してもよいが、冷媒導入路21を形成するために、分離パイプ23の軸心O’と冷媒導入路21が分離室22に開口する開口部位との距離が分離室22の軸心Oと前記開口部位との距離よりも長くなる方向としている。特に、この例では、分離パイプ23の軸心O’を、分離室22の軸心Oから冷媒導入路21の軸線αに対して略垂直方向(β方向)にずらすようにしている。
【0039】
なお、このようなオイル分離器14を構成している分離室22や分離パイプ23は、固定部材4を鋳造により成型する際に同時に成型されるもので、したがって型が抜きやすいように、分離室22にあっては、下端の開口部にかけて径が徐々に大きくなるテーパ形状に形成され、また、分離パイプ23にあっては、先端部に向かうにつれて外周面の径が徐々に小さくなるテーパ形状に形成されている。
【0040】
したがって、分離室22に流入した作動流体は、この分離室22に収容された分離パイプ23の周りを旋回し、その過程で混在しているオイルが分離され、オイルが分離された作動流体を、分離パイプ23を介して吐出口8から吐出するようにしている。また、分離されたオイルは、分離室22の下端部に連通するように固定部材4に形成されたオイル排出孔24を介して固定部材4の底部に形成されたオイル貯留室25に溜められ、その後、オイル供給通路26を介して、オイル貯留室25と各潤滑部分との圧力差により、各潤滑部分へ供給されるようになっている。
【0041】
以上の構成において、図示しない動力源からの回転動力がプーリ15及び電磁クラッチ16を介してシャフト1に伝達され、ロータ2aが回転すると、吸入口7から吸入空間10に流入した作動流体が吸入ポート17を介して圧縮空間13に吸入される。圧縮空間内のベーン2bによって仕切られた各圧縮室3の容積はロータ2aの回転に伴って変化するので、ベーン2b間に閉じ込められた作動流体は圧縮され、吐出ポート18から吐出弁19を介して吐出室11に吐出される。吐出室11に吐出された作動流体は、シリンダ部4aの外周面に沿って(シェル部材5の筒部5bの内周面に沿って)周方向に移動し、シリンダ部4aの周囲をほぼ一周してフランジ部4d(リアサイドブロック部4b)に形成された冷媒導入路21を介してリアサイドブロック部4bに一体形成されたオイル分離器14の分離室22に導入される。その後、作動流体は、分離室内を旋回する過程でオイルが分離され、分離パイプ23を通って吐出口8から外部回路へ吐出され、分離されたオイルは、分離室22の下端に形成されたオイル排出孔24を介してオイル貯留室25に導かれる。
【0042】
その際、オイル分離器14においては、分離室22の軸心Oと分離パイプ23の軸心O’とがずれているので、分離室22の外周面と分離パイプ23の内周面との間の通路断面は(圧縮された作動流体が旋回する通路の断面)は変化することになり、この通路断面の変化により、オイル分離性能を高めることが可能となる。
【0043】
特に、上記構成のように通路断面が相対的に大きい領域に臨むように冷媒導入路21が形成されている場合は、吐出容量が少ない小流量時においては、分離室22の外周面と分離パイプ23の内周面との間の通路断面が相対的に小さくなる領域で作動流体の流速を速めることが可能となり、効率よくオイルを分離することが可能となる。
【0044】
また、吐出容量が多い大流量時においては、通路断面が小さい領域で作動流体が分離パイプ23の軸方向に拡散されて旋回することになるので、作動流体の流速を保ちつつ圧損を生じにくくすることが可能となり、十分にオイル分離を行うことが可能となる。
このため、オイル分離能力を高めることができるので、その分、オイル分離器14を小型にすることが可能となり、圧縮機の小型化に寄与することが可能となる。
【0045】
また、オイル分離器14を小型化した場合でも、分離室22の軸心Oと分離パイプ23の軸心O’とはずれているので、分離室22の内周面と分離パイプ23の外周面との間のクリアランスが大きい部分に冷媒導入路21を臨むように穿設することで、冷媒導入路21を穿設する際に加工ドリル30が分離パイプ23と干渉することがなくなり、また、分離パイプ23との干渉を避けるために加工ドリル30の挿入が浅くなって冷媒導入路21を分離室22の壁面に滑らかに繋ぐことができなくなる不都合もなくなり、さらには、冷媒導入路21の開口部が分離パイプ23に寄り過ぎる不都合もなくなり、効率のよいオイル分離を確保することが可能となる。
【0046】
特に、上述の構成例では、分離パイプ23の軸心O’を分離室22の軸心Oから冷媒導入路21の軸線αに対して略垂直方向(β方向)にずらしているので、冷媒導入路21の開口部位を分離パイプ23の外周面と分離室22の内周面との間の通路断面が最も大きくなる領域に冷媒導入路21を臨ませることが可能となり、冷媒導入路21の加工が最もしやすくなり、また、作動流体を分離室22にスムーズに導入することが可能となる。しかも、冷媒導入路21の加工ドリルによる加工を見込んだ場合でもオイル分離器の小型化が図りやすいものとなる。
【0047】
なお、以上の構成においては、分離パイプ23を分離室22と共にハウジング(リアサイドブロック部4b)に一体に形成したので、分離パイプ23の軸心位置の調整が不要となり、オイルの分離効果にばらつきを無くすことが可能となるが、分離性能を向上させ、オイル分離器14の小型化を図る上では、分離パイプ23をハウジング(リアサイドブロック部4b)に必ずしも一体に形成する必要はなく、分離パイプ23を分離室22を画成する部材(リアサイドブロック部4b)に対して別部材で構成するようにしてもよい。
【0048】
また、上述の構成においては、ベーン型圧縮機に適用した例を示したが、ハウジングに固定された固定スクロール(固定部材)と、固定スクロールに対して可動(旋回)する可動スクロール(可動部材)とを有し、可動スクロールを、ハウジングに回転可能に配設されたシャフトにより旋回駆動し、可動スクロールの旋回とともに、両スクロールによって形成される圧縮室の体積を拡大縮小することにより冷媒を吸入圧縮するスクロール型圧縮機に対して、固定部材に遠心分離型のオイル分離器を設ける場合に上述した構成を採用してもよい。また、上述の構成においては、シリンダ部4aと一体をなすリアサイドブロック部4bにオイル分離器14を設け、これをシェル部材5に収容する構成例について説明したが、シリンダ部と一体をなすフロントサイドブロック部にオイル分離器を設け、これをシェル部材に収容する構成において、上述と同様の構成を採用してもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 シャフト
2 可動部
3 圧縮室
4 固定部
4a シリンダ部
4b リアサイドブロック部
5 シェル部材
5a フロントサイドブロック部
5b 筒部
11 吐出室
14 オイル分離器
21 冷媒導入路
22 分離室
23 分離パイプ
O 分離室の軸心
O’ 分離パイプの軸心
α 冷媒導入路の軸線
図1
図2
図3
図4
図5