特許第6238729号(P6238729)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6238729
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/14 20060101AFI20171120BHJP
   F02D 41/04 20060101ALI20171120BHJP
   F02D 41/02 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   F02D41/14 310C
   F02D41/04 305A
   F02D41/02 305
   F02D41/14 310A
【請求項の数】1
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-265154(P2013-265154)
(22)【出願日】2013年12月24日
(65)【公開番号】特開2015-121143(P2015-121143A)
(43)【公開日】2015年7月2日
【審査請求日】2016年12月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 一博
(74)【代理人】
【識別番号】100148910
【弁理士】
【氏名又は名称】宮澤 岳志
(72)【発明者】
【氏名】園田 毅
(72)【発明者】
【氏名】大治 直樹
(72)【発明者】
【氏名】木下 真一
(72)【発明者】
【氏名】八木 智弘
(72)【発明者】
【氏名】樋口 昌吾
【審査官】 山村 秀政
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭64−032043(JP,A)
【文献】 特開平05−098945(JP,A)
【文献】 特開2003−206784(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/14
F02D 41/02
F02D 41/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路における排気浄化用の触媒の上流に設けられた空燃比センサの出力信号を参照して空燃比をフィードバック制御する制御装置であって、
前記空燃比センサの出力信号を目標空燃比に対応した目標値と比較し、その大小関係に応じて現在の空燃比が目標空燃比よりもリーンであるかリッチであるかを判定し、現在の空燃比が目標空燃比よりもリーンであると判定している間は燃料噴射量を徐々に増加させるように補正量を変化させる一方、現在の空燃比が目標空燃比よりもリッチであると判定している間は燃料噴射量を徐々に減少させるように補正量を変化させるものであり、
前記空燃比センサの出力信号が前記目標値を横切るように変化したときには、即時に前記判定の結果を反転させるのではなく、遅延時間の経過を待ってから前記判定の結果を判定させ、
なおかつ、前記遅延時間中における前記補正量の単位時間あたりの変化量を、前記遅延時間外における前記補正量の単位時間あたりの変化量よりも小さくするとともに、
内燃機関の排気通路における排気浄化用の触媒の上流側の空燃比を強制的に変動させてから下流側の空燃比が変動するまでの間の経過時間を計測することを通じて、触媒の酸素吸蔵能力を推算し、推算した酸素吸蔵能力の大きさを判定閾値と比較して触媒の劣化診断を行うものであり、
前記劣化診断を実行している場合の前記補正量の単位時間あたりの変化量を、前記劣化診断を実行していない場合の前記補正量の単位時間あたりの変化量よりも大きくする内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関における燃料噴射量を調整して空燃比を制御する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、内燃機関の排気通路には、内燃機関の気筒から排出される排気ガス中に含まれる有害物質HC、CO、NOxを酸化/還元して無害化する三元触媒が装着されている。HC、CO、NOxの全てを効率よく浄化するには、排気ガスの空燃比をウィンドウと称する理論空燃比近傍の一定範囲に収める必要がある。そのために、触媒の上流及び下流にそれぞれ空燃比センサを配し、それら空燃比センサの出力信号を用いる二重のフィードバックループを構築して、空燃比をフィードバック制御する。
【0003】
図7に、この空燃比フィードバック制御の内容を示している。内燃機関の運転制御を司るECU(Electronic Control Unit)は、気筒に充填される吸気(新気)の量に比例する基本噴射量に、触媒に流入するガスの空燃比に応じて変動するフィードバック補正係数FAFを乗じることで、インジェクタからの燃料噴射量を決定する。
【0004】
ECUは、触媒の上流側のガスの空燃比を検出するフロントO2センサの出力電圧を、目標空燃比に相当する電圧値(鎖線で表す)と比較して、その目標電圧値よりも高ければ空燃比リッチ、その目標電圧値よりも低ければ空燃比リーンと判定する。但し、フロントO2センサの出力電圧が目標電圧値を跨ぐように変動したときには、即時に空燃比の判定結果を反転させるのではなく、遅延時間の経過を待ってから判定結果を反転させる。つまり、フロントO2センサの出力電圧がリーンからリッチに切り替わった(目標電圧値を上回った)際には、リッチ判定遅延時間TDRの経過の後、空燃比がリーンからリッチに反転したと判断する。並びに、フロントO2センサの出力電圧がリッチからリーンに切り替わった(目標電圧値を下回った)際には、リーン判定遅延時間TDLの経過の後、空燃比がリッチからリーンに反転したと判断する。
【0005】
ECUは、触媒の上流側のガスの空燃比の判定結果に基づき、フィードバック補正係数FAFを増減調整する。具体的には、空燃比がリッチであると判定している間、フィードバック補正係数FAFを単位時間あたりリーン積分値KIMだけ逓減させる一方、空燃比がリーンであると判定している間は、フィードバック補正係数FAFを単位時間あたりリッチ積分値KIPだけ逓増させる(以上、下記特許文献を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−138791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上掲の空燃比フィードバック制御によれば、フロントO2センサの出力電圧がリーンからリッチに切り替わった直後のリッチ判定遅延時間TDR中に、フィードバック補正係数FAFを増加させることになる。実際のガスの空燃比が既に目標空燃比に比してリッチであるにもかかわらず、燃料噴射量を増量補正することから、却って空燃比が目標から逸脱し、燃料の浪費とともに有害物質の排出量の増大を招く懸念がある。
【0008】
同様に、フロントO2センサの出力電圧がリッチからリーンに切り替わった直後のリーン判定遅延時間TDL中には、フィードバック補正係数FAFを減少させてしまう。実際のガスの空燃比が既に目標空燃比に比してリーンであるにもかかわらず、燃料噴射量を減量補正することから、却って空燃比が目標から逸脱し、有害物質の排出量の増大を招くだけでなく、気筒の燃焼室内で失火が発生してドライバビリティを低下させる懸念がある。
【0009】
本発明は、上述の問題に初めて着目してなされたものであり、燃料噴射量の過補正を防止して空燃比制御の精度をより一層向上させることを所期の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、内燃機関の排気通路における排気浄化用の触媒の上流に設けられた空燃比センサの出力信号を参照して空燃比をフィードバック制御する制御装置であって、前記空燃比センサの出力信号を目標空燃比に対応した目標値と比較し、その大小関係に応じて現在の空燃比が目標空燃比よりもリーンであるかリッチであるかを判定し、現在の空燃比が目標空燃比よりもリーンであると判定している間は燃料噴射量を徐々に増加させるように補正量を変化させる一方、現在の空燃比が目標空燃比よりもリッチであると判定している間は燃料噴射量を徐々に減少させるように補正量を変化させるものであり、前記空燃比センサの出力信号が前記目標値を横切るように変化したときには、即時に前記判定の結果を反転させるのではなく、遅延時間の経過を待ってから前記判定の結果を判定させ、なおかつ、前記遅延時間中における前記補正量の単位時間(または、制御サイクル、演算サイクル)あたりの変化量を、前記遅延時間外における前記補正量の単位時間あたりの変化量よりも小さくする(0にすることを含む)内燃機関の制御装置を構成した。
【0011】
内燃機関の排気通路における排気浄化用の触媒の上流側の空燃比を強制的に変動させてから下流側の空燃比が変動するまでの間の経過時間を計測することを通じて、触媒の酸素吸蔵能力を推算し、推算した酸素吸蔵能力の大きさを判定閾値と比較して触媒の劣化診断を行うダイアグノーシス機能を有するものにおいては、前記劣化診断を実行している場合の前記補正量の単位時間あたりの変化量を、前記劣化診断を実行していない場合の前記補正量の単位時間あたりの変化量よりも大きくすることが好ましい。さすれば、触媒の劣化診断を速やかに遂行することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、燃料噴射量の過補正を防止して空燃比制御の精度をより一層向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態における内燃機関及び制御装置の概略構成を示す図。
図2】フロントO2センサの出力を参照した空燃比フィードバック制御の模様を示すタイミング図。
図3】制御中心補正量FACFと遅延時間TDR、TDLとの関係を例示するグラフ。
図4】リアO2センサの出力を参照した空燃比フィードバック制御の模様を示すタイミング図。
図5】触媒のダイアグノーシスのためのアクティブ制御の内容を説明するタイミング図。
図6】フロントO2センサの出力を参照した空燃比フィードバック制御の模様を示すタイミング図。
図7】従来の空燃比フィードバック制御の模様を示すタイミング図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。図1に、本実施形態における車両用内燃機関の概要を示す。本実施形態における内燃機関は、火花点火式の4ストロークエンジンであり、複数の気筒1(図1には、そのうち一つを図示している)を具備している。各気筒1の吸気ポート近傍には、燃料を噴射するインジェクタ11を設けている。また、各気筒1の燃焼室の天井部に、点火プラグ12を取り付けてある。点火プラグ12は、点火コイルにて発生した誘導電圧の印加を受けて、中心電極と接地電極との間で火花放電を惹起するものである。点火コイルは、半導体スイッチング素子であるイグナイタとともに、コイルケースに一体的に内蔵される。
【0015】
吸気を供給するための吸気通路3は、外部から空気を取り入れて各気筒1の吸気ポートへと導く。吸気通路3上には、エアクリーナ31、電子スロットルバルブ32、サージタンク33、吸気マニホルド34を、上流からこの順序に配置している。
【0016】
排気を排出するための排気通路4は、気筒1内で燃料を燃焼させたことで生じる排気を各気筒1の排気ポートから外部へと導く。この排気通路4上には、排気マニホルド42及び排気浄化用の三元触媒41を配置している。
【0017】
排気通路4における触媒41の上流及び下流には、排気通路を流通する排気ガスの空燃比を検出するための空燃比センサ43、44を設置する。空燃比センサ43、44はそれぞれ、排気ガスの空燃比に対して非線形な出力特性を有するO2センサであってもよく、排気ガスの空燃比に比例した出力特性を有するリニアA/Fセンサであってもよい。本実施形態では、触媒41の上流側及び下流側の各空燃比センサ43、44について、排気ガス中の酸素濃度に応じた電圧信号を出力するO2センサを想定している。O2センサ43、44の出力特性は、ウィンドウの範囲では空燃比に対する出力の変化率が大きく急峻な傾きを示し、それよりも空燃比が大きいリーン領域では低位飽和値に漸近し、空燃比が小さいリッチ領域では高位飽和値に漸近する、いわゆるZ特性曲線を描く。
【0018】
本実施形態の内燃機関には、外部EGR(Exhaust Gas Recirculation)装置2が付帯している。外部EGR装置2は、いわゆる高圧ループEGRを実現するものであり、排気通路4における触媒41の上流側と吸気通路3におけるスロットルバルブ32の下流側とを連通するEGR通路21と、EGR通路21上に設けたEGRクーラ22と、EGR通路21を開閉し当該EGR通路21を流れるEGRガスの流量を制御するEGRバルブ23とを要素とする。EGR通路21の入口は、排気通路4における排気マニホルド42またはその下流の所定箇所に接続している。EGR通路21の出口は、吸気通路3におけるスロットルバルブ32の下流の所定箇所、具体的にはサージタンク33に接続している。
【0019】
本実施形態の制御装置たるECU0は、プロセッサ、メモリ、入力インタフェース、出力インタフェース等を有したマイクロコンピュータシステムである。
【0020】
入力インタフェースには、車両の実車速を検出する車速センサから出力される車速信号a、クランクシャフトの回転角度及びエンジン回転数を検出するエンジン回転センサから出力されるクランク角信号b、アクセルペダルの踏込量またはスロットルバルブ32の開度をアクセル開度(いわば、要求負荷)として検出するセンサから出力されるアクセル開度信号c、吸気通路3(特に、サージタンク33)内の吸気温及び吸気圧を検出する温度・圧力センサから出力される吸気温・吸気圧信号d、機関の冷却水温を検出する水温センサから出力される冷却水温信号e、触媒41の上流側における排気ガスの空燃比を検出する空燃比センサ43から出力される空燃比信号f、触媒41の下流側における排気ガスの空燃比を検出する空燃比センサ44から出力される空燃比信号g、吸気カムシャフトまたは排気カムシャフトの複数のカム角にてカム角センサから出力されるカム角信号h等が入力される。
【0021】
出力インタフェースからは、点火プラグ12のイグナイタに対して点火信号i、インジェクタ11に対して燃料噴射信号j、スロットルバルブ32に対して開度操作信号k、EGRバルブ23に対して開度操作信号l等を出力する。
【0022】
ECU0のプロセッサは、予めメモリに格納されているプログラムを解釈、実行し、運転パラメータを演算して内燃機関の運転を制御する。ECU0は、内燃機関の運転制御に必要な各種情報a、b、c、d、e、f、g、hを入力インタフェースを介して取得し、要求される燃料噴射量、燃料噴射タイミング(一度の燃焼に対する燃料噴射の回数を含む)、燃料噴射圧、点火タイミング、要求EGR率(または、EGR量)等といった運転パラメータを決定する。ECU0は、運転パラメータに対応した各種制御信号i、j、k、lを出力インタフェースを介して印加する。
【0023】
本実施形態のECU0は、気筒1に充填される混合気の空燃比、ひいては気筒1から排出され触媒41へと導かれる排気ガスの空燃比をフィードバック制御する。ECU0は、まず、吸気圧及び吸気温、エンジン回転数、要求EGR率等から、気筒1に充填される新気の量を算出し、これに見合った基本噴射量TPを決定する。次いで、この基本噴射量TPを、触媒41の上流側の空燃比に応じて定まるフィードバック補正係数FAFで補正し、さらには内燃機関の状況に応じて定まる各種補正係数Kやインジェクタ36の無効噴射時間TAUVをも加味して、最終的な燃料噴射時間(インジェクタ11に対する通電時間)Tを算定する。燃料噴射時間Tは、
T=TP×FAF×K+TAUV
となる。そして、燃料噴射時間Tだけインジェクタ11に信号jを入力、インジェクタ11を開弁して燃料を噴射させる。
【0024】
触媒41の上流側の空燃比信号fを参照したフィードバック制御は、例えば、内燃機関の冷却水温が所定温度以上であり、燃料カット中でなく、パワー増量中でなく、内燃機関の始動から所定時間が経過し、フロントO2センサ43が活性中、吸気圧が正常である、等の諸条件が全て成立している場合に行う。
【0025】
図2に示すように、ECU0は、触媒41の上流側のガスの空燃比を検出するセンサであるフロントO2センサ43の出力電圧fを、目標空燃比に相当する目標電圧値(鎖線で表す)と比較して、その目標電圧値よりも高ければリッチ、その目標電圧値よりも低ければリーンと判定する。
【0026】
但し、フロントO2センサ43の出力電圧fが目標電圧値を跨ぐように変動したときには、即時に空燃比の判定結果を反転させるのではなく、遅延時間TDR、TDLの経過を待ってから判定結果を反転させる。つまり、ECU0は、フロントO2センサ43の出力電圧fがリーンからリッチに切り替わった(目標電圧値を上回った)時点では、依然として空燃比はリーンであると判定し、当該時点からリッチ判定遅延時間TDRが経過した後に、はじめて空燃比がリッチになったと判定する。同様に、フロントO2センサ43の出力電圧fがリッチからリーンに切り替わった(目標電圧値を下回った)時点では、依然として空燃比はリッチであると判定し、当該時点からリーン判定遅延時間TDLが経過した後に、はじめて空燃比がリーンになったと判定する。
【0027】
そして、ECU0は、上に述べた触媒41の上流側のガスの空燃比の判定結果に基づき、フィードバック補正係数FAFを増減調整する。具体的には、空燃比がリッチであると判定している間、フィードバック補正係数FAFを単位時間あたりリーン積分値KIM(遅延時間TDL中においては、KIM’)だけ逓減させる一方、空燃比がリーンであると判定している間は、フィードバック補正係数FAFを単位時間あたりリッチ積分値KIP(遅延時間TDR中においては、KIP’)だけ逓増させる。
【0028】
なお、ECU0におけるガスの空燃比の判定結果がリーンからリッチに反転した(遅延時間TDRが経過した)時点で、フィードバック補正係数FAFをスキップ値RSMだけ減少させる。並びに、ECU0におけるガスの空燃比の判定結果がリッチからリーンに反転した(遅延時間TDLが経過した)時点で、フィードバック補正係数FAFをスキップ値RSPだけ増加させる。
【0029】
フィードバック補正量FAFが減少すると、インジェクタ11による燃料噴射量が絞られて、混合気の空燃比がリーンへと向かう。逆に、フィードバック補正量FAFが増加すると、インジェクタ11による燃料噴射量が上積みされて、混合気の空燃比がリッチへと向かう。
【0030】
遅延時間TDR、TDLは、制御中心補正量FACFに応じて増減する。図3に、補正量FACFと遅延時間TDR、TDLとの関係を例示する。補正量FACFが大きくなるほど、リッチ判定遅延時間TDR(実線で表す)は延長され、リーン判定遅延時間TDL(破線で表す)は短縮される。さすれば、フィードバック補正量FAFが増加から減少に転じる時期が遅れ、減少から増加に転じる時期が早まる。結果、燃料噴射量が平均的に増すこととなり、空燃比フィードバック制御の制御中心がリッチ側に変位する。
【0031】
他方、補正量FACFが小さくなるほど、リッチ判定遅延時間TDRは短縮され、リーン判定遅延時間TDLは延長される。さすれば、フィードバック補正量FAFが増加から減少に転じる時期が早まり、減少から増加に転じる時期が遅れる。結果、燃料噴射量が平均的に減ることとなり、空燃比フィードバック制御の制御中心がリーン側に変位する。
【0032】
ECU0は、空燃比のフィードバック制御中、上記の制御中心補正量FACFをも算出する。原則として、FACFは、触媒41の下流側の空燃比に応じて定まる。触媒41の下流側の空燃比信号gを参照したフィードバック制御は、例えば、冷却水温が所定温度以上であり、空燃比フィードバック制御の開始から所定時間が経過し、フロントO2センサ43及び/またはリアO2センサ44が活性してから所定時間が経過し、過渡期の燃料補正量が所定値を下回り、アイドル状態で車速が0若しくは0に近い所定値以下であるかまたは非アイドル状態で所定の運転領域にある、等の諸条件が全て成立している場合に行う。
【0033】
図4に示すように、ECU0は、触媒41の下流側のガスの空燃比を検出するセンサであるリアO2センサ44の出力電圧gを、目標空燃比に相当する目標電圧値(鎖線で表す。この電圧値は、フロントO2センサ43の出力信号fの目標電圧値とは一致しないことがある)と比較して、その目標電圧値よりも高ければリッチ、その目標電圧値よりも低ければリーンと判定する。そして、センサ出力gがリッチである間は、制御中心補正量FACFを所定時間あたりリーン積分値FACFKIMだけ逓減させる。既に述べたように、補正量FACFの減少に伴い、空燃比制御中心はリーンへと向かう。
【0034】
逆に、センサ出力gがリーンである間は、制御中心補正量FACFを所定時間あたりリッチ積分値FACFKIPだけ逓増させる。補正量FACFの増加に伴い、空燃比制御中心はリッチへと向かう。
【0035】
しかして、本実施形態では、図2に示しているように、上記の遅延時間TDR、TDL中におけるフィードバック補正量FAFの単位時間あたりの変化量KIP’、KIM’(の絶対値)を、遅延時間TDR、TDL外におけるフィードバック補正量FAFの単位時間あたりの変化量KIP、KIM(の絶対値)よりも小さくして、遅延時間TDR、TDL中の燃料噴射量の過補正を抑止するようにしている。
【0036】
リッチ判定遅延時間TDR中のリッチ積分値KIP’、及びリーン判定遅延時間TDL中のリーン積分値KIM’の決め方は、幾つか考えられる。例えば、フロントO2センサ43の出力信号fの単位時間あたり変化量(増大量または減少量)が大きい、即ちフロントO2センサ43の出力信号fの変動が急峻であるほど、リッチ積分値KIP’及び/またはリーン積分値KIM’を小さくして、触媒41に流入するガスの実際の空燃比に反した燃料噴射量の過補正を阻止する。
【0037】
内燃機関の負荷(アクセル開度、サージタンク33内吸気圧、気筒1に充填される新気量または燃料噴射量)が大きいほど、リッチ積分値KIP’及び/またはリーン積分値KIM’を小さくすることも好ましい。内燃機関の負荷が大きい、即ち元々の基本噴射量TPが多いほど、フィードバック補正係数FAFを乗じることによる燃料噴射量の増量分または減量分が多くなり、過補正の影響が大となるからである。
【0038】
気筒1に充填される新気量、EGRガス量及び空燃比等から触媒41に流入する酸素の量を推算し、その酸素の量が多いほどリーン積分値KIM’を小さくすることとしてもよい。これは、空燃比の過度なリーン化や触媒41に過剰な量の酸素が吸蔵されることを予防し、混合気の燃焼の安定化、触媒41によるNOxの浄化能の維持のために有効である。
【0039】
エンジン回転数の単位時間あたり変化量(加速度または減速度)が所定以下に小さい定常運転中において、リッチ積分値KIP’及び/またはリーン積分値KIM’を0に設定しても構わない。この場合、遅延時間TDR、TDL中にフィードバック補正量FAFが変動せず一定となる。
【0040】
ところで、本実施形態のECU0は、触媒41の最大酸素吸蔵能力を推定するとともに、推定した最大酸素吸蔵能力値を劣化判定値と比較して、当該触媒41が正常であるか異常であるかを判定するダイアグノーシスを行う機能を有している。
【0041】
触媒41の酸素吸蔵能力は既知の任意の手法を採用して推算することができるが、ここではその一典型例を示す。内燃機関の気筒1に空燃比リーンの混合気を供給して触媒41の酸素吸蔵能力一杯まで酸素を吸蔵している状態から、気筒1に供給する混合気を意図的に空燃比リッチに操作するアクティブ制御を実行する。すると、フロントO2センサ43の出力信号fは即座に空燃比リッチを示す。これに対し、リアO2センサ44の出力信号gは、フロントO2センサ43の出力信号fに遅れて空燃比リッチを示す。フロントO2センサ43の出力信号fが空燃比リッチを示してから(または、混合気を空燃比リッチに操作してから)リアO2センサ44の出力信号gが空燃比リッチを示すまでの間、触媒41に吸蔵していた酸素が放出されて酸素の不足が補われるためである。
【0042】
フロントO2センサ43の出力信号fが空燃比リッチを示してから、リアO2センサ44の出力信号gが空燃比リッチを示すまでの間に経過した時間をTRとおき、このTRの間に供給した燃料の総重量をGF、理論空燃比とリッチ時の空燃比との差分をΔA/FRとおくと、TRの間に触媒41中で不足した酸素量は、
(α・ΔA/FR・GF
となる。αは、空気中に占める酸素の重量割合(≒0.23)である。
【0043】
上式は、TRの時点までに触媒41が放出した酸素の量を表している。供給した燃料の総重量GFは、ECU0において演算することができる。即ち、一回の燃料噴射機会における燃料噴射量は、空燃比を理論空燃比よりもリッチな(14.6よりも小さい)所定値とするために必要な量であり、その噴射量に単位時間当たりの膨張行程回数(エンジン回転数に比例)を乗じれば、単位時間当たりの燃料供給量となる。そして、単位時間当たりの燃料供給量に経過時間TRを乗じれば、供給した燃料の総重量GFとなる。要するに、リアO2センサ44の出力信号gが空燃比リッチを示した時点での経過時間TRに基づいて、触媒41の最大酸素放出能力を算出することが可能である。この最大酸素放出能力は、最大酸素吸蔵能力と同義である。
【0044】
あるいは、内燃機関の気筒1に空燃比リッチの混合気を供給して触媒41に酸素を全く吸蔵していない状態から、気筒1に供給する混合気を意図的に空燃比リーンに操作するアクティブ制御を実行する。すると、フロントO2センサ43の出力信号fは即座に空燃比リーンを示す。これに対し、リアO2センサ44の出力信号gは、フロントO2センサ43の出力信号fに遅れて空燃比リーンを示す。フロントO2センサ43の出力信号fが空燃比リーンを示してから(または、混合気を空燃比リーンに操作してから)リアO2センサ44の出力信号gが空燃比リーンを示すまでの間、過剰な酸素が触媒41に吸着するためである。
【0045】
フロントO2センサ43の出力信号fが空燃比リーンを示してから、リアO2センサ44の出力信号gが空燃比リーンを示すまでの間に経過した時間をTLとおき、このTLの間に供給した燃料の総重量をGF、リーン時の空燃比と理論空燃比との差分をΔA/FLとおくと、TLの間に触媒41中で過剰となった酸素量は、
(α・ΔA/FL・GF
となる。
【0046】
上式は、TLの時点で触媒41が吸蔵している酸素の量を表している。供給した燃料の総重量GFはやはり、ECU0において演算することができる。即ち、一回の燃料噴射機会における燃料噴射量は、空燃比を理論空燃比よりもリーンな(14.6よりも大きい)所定値とするために必要な量であり、その噴射量に単位時間当たりの膨張行程回数を乗じれば単位時間当たりの燃料供給量となる。そして、単位時間当たりの燃料供給量に経過時間TLを乗じれば、供給した燃料の総重量GFとなる。要するに、リアO2センサ44の出力信号が空燃比リーンを示した時点での経過時間TLに基づいて、触媒41の最大酸素吸蔵能力を算出することが可能である。
【0047】
触媒41のダイアグノーシスは、触媒41の劣化の兆候を感知したことを契機として実施する。その兆候の例としては、内燃機関の運転中に刻々と変動するリアO2センサ44の出力電圧gの振動の周波数が閾値よりも高く(または、振動の周期が閾値よりも短く)なったことや、フロントO2センサ43の出力電圧fの変動とリアO2センサ44の出力電圧gの変動との時間差が閾値よりも短くなったこと等が挙げられる。
【0048】
また、触媒41のダイアグノーシスは、一トリップ(イグニッションスイッチがONに操作されて内燃機関を始動してから、イグニッションスイッチがOFFに操作されて内燃機関を停止するまでの期間)毎に少なくとも一回実施することが好ましい。
【0049】
図5に示しているように、アクティブ制御では、リアO2センサ44の出力電圧gが所定のリッチ判定値に到達した、即ち出力gがリーンからリッチへと切り替わったタイミングで、制御目標空燃比をリーン側の所定空燃比に設定し、フロントO2センサ43の出力電圧fが当該制御目標に対応した値をとるように燃料噴射量を補正する。これにより、触媒41に流入するガスの空燃比を強制的にリーン化する。そして、フロントO2センサ43の出力電圧fが前記制御目標に対応した値に到達してから、リアO2センサ44の出力電圧gが所定のリーン判定値に到達するまでの間の経過時間TL、即ち出力gが再度リーンへと切り替わるまでの経過時間TLを計測する。リッチ判定値とリーン判定値とは、相異なる値であってもよく、同一の値であってもよい。
【0050】
並びに、リアO2センサ44の出力gがリッチからリーンへと切り替わったタイミングで、制御目標空燃比をリッチ側の所定空燃比に設定し、フロントO2センサ43の出力電圧fが当該制御目標に対応した値をとるように燃料噴射量を補正する。これにより、触媒41に流入するガスの空燃比を強制的にリッチ化する。そして、フロントO2センサ43の出力電圧fが前記制御目標に対応した値に到達してから、リアO2センサ44の出力電圧gが所定のリーン判定値に到達するまでの間の経過時間TR、即ち出力gが再度リッチへと切り替わるまでの経過時間TRを計測する。
【0051】
ECU0は、酸素吸蔵能力一杯まで酸素を吸蔵していた触媒41がその酸素の全てを放出するのに要した時間TR、及び、酸素を吸蔵していない触媒41が酸素吸蔵能力一杯まで酸素を吸蔵するのに要した時間TLをそれぞれ一回以上計測し、計測したTR、TLを基に最大酸素吸蔵能力(α・ΔA/FR・GF)、(α・ΔA/FL・GF)を算出して、それらの平均値を求める。
【0052】
触媒41が劣化したか否かの判断は、当該触媒41の最大酸素吸蔵能力(の複数回の推算値の平均)を判定閾値を比較することにより行う。即ち、最大酸素吸蔵能力が判定閾値未満であれば、当該触媒41は既に劣化しており十分な性能を発揮できないものと診断される。触媒41が劣化しているとの判断を下したECU0は、触媒41の異常の旨を示す情報(ダイアグノーシスコード)をメモリに記憶保持するとともに、触媒41の異常の旨を運転者の視覚または聴覚に訴えかける態様で出力して報知する。例えば、コックピット内のエンジンチェックランプを点灯させたり、ディスプレイに表示させたり、警告音を発したりして、触媒41の点検及び交換を促す。
【0053】
図6に示しているように、触媒41のダイアグノーシスのためのアクティブ制御においても、フロントO2センサ43の出力電圧fを参照した空燃比のフィードバック制御を実施する。その際の出力電圧fの目標値は、時間TRを計測する期間中はリッチ側の制御目標空燃比に対応する値となり、時間TLを計測する期間中はリーン側の制御目標空燃比に対応する値となる。
【0054】
触媒41のダイアグノーシスのためのアクティブ制御におけるリッチ積分値KIP(の絶対値)は、空燃比を理論空燃比近傍の目標値に収束させる平常運転時(非ダイアグノーシス時)のリッチ積分値KIP(の絶対値)よりも大きく設定する。当該アクティブ制御におけるリーン積分値KIM(の絶対値)もまた、平常運転時のリーン積分値KIM(の絶対値)よりも大きく設定する。
【0055】
本実施形態では、内燃機関の排気通路4における排気浄化用の触媒41の上流に設けられた空燃比センサ43の出力信号fを参照して空燃比をフィードバック制御する制御装置0であって、前記空燃比センサ43の出力信号fを目標空燃比に対応した目標値と比較し、その大小関係に応じて現在の空燃比が目標空燃比よりもリーンであるかリッチであるかを判定し、現在の空燃比が目標空燃比よりもリーンであると判定している間は燃料噴射量を徐々に増加させるように補正量FAFを変化(増加)させる一方、現在の空燃比が目標空燃比よりもリッチであると判定している間は燃料噴射量を徐々に減少させるように補正量FAFを変化(減少)させるものであり、前記空燃比センサ43の出力信号fが前記目標値を横切るように変化したときには、即時に前記判定の結果を反転させるのではなく、遅延時間TDR、TDLの経過を待ってから前記判定の結果を判定させ、なおかつ、前記遅延時間TDR、TDL中における前記補正量FAFの単位時間あたりの変化量KIM’、KIP’を、前記遅延時間外における前記補正量FAFの単位時間あたりの変化量KIM、KIPよりも小さくする内燃機関の制御装置0を構成した。
【0056】
本実施形態によれば、燃料噴射量の過補正を防止して空燃比制御の精度をより一層向上させることができる。従って、有害物質の排出量の削減、燃料噴射量の低減に伴う燃費性能の改善及びドライバビリティの向上が実現される。
【0057】
加えて、内燃機関の排気通路4における排気浄化用の触媒41の上流側の空燃比を強制的に変動させてから下流側の空燃比が変動するまでの間の経過時間TR、TLを計測することを通じて、触媒41の酸素吸蔵能力を推算し、推算した酸素吸蔵能力の大きさを判定閾値と比較して触媒41の劣化診断を行うものであり、前記劣化診断を実行している場合の前記補正量FAFの単位時間あたりの変化量KIP、KIMを、前記劣化診断を実行していない場合の前記補正量FAFの単位時間あたりの変化量KIP、KIMよりも大きくするようにしているので、劣化診断中に触媒41に流入させるガスの空燃比を速やかにリッチ化/リーン化でき、劣化診断に要する時間を短縮できる。
【0058】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。各部の具体的構成や処理の手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、車両等に搭載される内燃機関の制御に適用することができる。
【符号の説明】
【0060】
0…制御装置(ECU)
11…インジェクタ
4…排気通路
41…触媒
43…空燃比センサ(フロントO2センサ)
f…空燃比センサの出力信号
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7