特許第6238731号(P6238731)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6238731
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】潤滑剤の塗布装置および塗布方法
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3204 20160101AFI20171120BHJP
   B05C 13/02 20060101ALI20171120BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20171120BHJP
   B05D 1/40 20060101ALI20171120BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20171120BHJP
   B05C 7/02 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   F16J15/3204 201
   B05C13/02
   B05D7/24 301Q
   B05D1/40 Z
   B05D7/00 K
   B05C7/02
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-267499(P2013-267499)
(22)【出願日】2013年12月25日
(65)【公開番号】特開2015-124785(P2015-124785A)
(43)【公開日】2015年7月6日
【審査請求日】2016年12月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000143307
【氏名又は名称】株式会社荒井製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100089381
【弁理士】
【氏名又は名称】岩木 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100183357
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 義美
(72)【発明者】
【氏名】浅野 幸一
【審査官】 長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−300140(JP,A)
【文献】 特開平05−263989(JP,A)
【文献】 特開2005−305210(JP,A)
【文献】 特開2004−055685(JP,A)
【文献】 特開2001−293399(JP,A)
【文献】 特開昭61−161174(JP,A)
【文献】 特開2012−159133(JP,A)
【文献】 実開平04−061667(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/3204
B05C 7/02
B05C 13/02
B05D 1/40
B05D 7/00
B05D 7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸の外周に圧接されて備えられる円環状に形成されたシール部材を対象とし、前記シール部材のリップ部における軸摺接面に潤滑剤塗膜層を形成する装置であって、
シール部材を保持するシール部材保持機構と、
前記シール部材保持機構に保持されたシール部材のリップ部における軸摺接面に、吐出ノズルを介して潤滑剤を塗布する潤滑剤吐出機構からなり、
前記シール部材と前記吐出ノズルとは、相対的に回転可能であるとともに、いずれか一方又は双方が、回転軸に対して直線移動可能に構成されており、
前記吐出ノズルは、前記リップ部の軸摺接面に潤滑剤を高速かつ間欠的に吐出することを特徴とする潤滑剤の塗布装置。
【請求項2】
シール部材を回転可能に保持するシール部材保持機構と、
前記シール部材保持機構に保持されたシール部材のリップ部における軸摺接面に潤滑剤を塗布する潤滑剤吐出機構からなり、
前記潤滑剤吐出機構は、前記シール部材保持機構に保持されて回転するシール部材の回転軸に沿って移動しつつシール部材のリップ部における軸摺接面に向けて潤滑剤を高速かつ間欠的に吐出させることを特徴とする請求項1に記載の潤滑剤の塗布装置。
【請求項3】
シール部材保持機構は、回転軸を鉛直方向に備え、
潤滑剤吐出機構は、移動軸を鉛直方向に備え、
潤滑剤吐出機構は、シール部材のリップ部における軸摺接面に対して潤滑剤を吐出する吐出ノズルを、前記シール部材のリップ部の軸摺接面に対して所定の傾斜角度をもって配したことを特徴とする請求項2に記載の潤滑剤の塗布装置。
【請求項4】
前記シール部材は、リップ部からシール部材の中心軸方向に向けて水平に突出する環状の突部を有していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の潤滑剤の塗布装置。
【請求項5】
シール部材を回転可能に保持するシール部材保持機構と、
前記シール部材保持機構に保持されたシール部材のリップ部における軸摺接面に潤滑剤を塗布する潤滑剤吐出機構からなり、
シール部材保持機構は、回転軸に沿ってシール部材を直線移動可能に保持し、
前記潤滑剤吐出機構は、前記シール部材保持機構に保持されて回転しつつ直線移動するシール部材のリップ部における軸摺接面に向けて潤滑剤を高速かつ間欠的に吐出させることを特徴とする請求項1に記載の潤滑剤の塗布装置。
【請求項6】
シール部材保持機構は、回転軸と移動軸を鉛直方向に備え、
前記潤滑剤吐出機構は、シール部材のリップ部における軸摺接面に対して潤滑剤を吐出する吐出ノズルを、前記リップ部の軸摺接面に対して所定の傾斜角度をもって配したことを特徴とする請求項5に記載の潤滑剤の塗布装置。
【請求項7】
シール部材を回転可能に保持するシール部材保持機構と、
前記シール部材保持機構に保持されたシール部材のリップ部における軸摺接面に潤滑剤を塗布する潤滑剤吐出機構からなり、
前記潤滑剤吐出機構は、旋回運動しつつ直線移動してシール部材のリップ部における軸摺接面に対して潤滑剤を高速かつ間欠的に吐出させることを特徴とする請求項1に記載の潤滑剤の塗布装置。
【請求項8】
シール部材のリップ部に潤滑剤を塗布する潤滑剤の塗布方法において、
回転機構を有するシール部材保持機構にシール部材を保持する工程と、
前記シール部材保持機構に保持された前記シール部材を回転させる工程と、
前記シール部材保持機構に保持された前記シール部材のリップ部に潤滑剤を塗布する潤滑剤吐出機構の吐出ノズルを塗布開始位置に移動する工程と、
前記シール部材保持機構に保持されて回転するシール部材の回転軸に沿って移動しつつ、シール部材のリップ部における軸摺接面に向けて前記潤滑剤吐出機構の吐出ノズルから潤滑剤を高速かつ間欠的に吐出する工程と、
前記シール部材のリップ部における軸摺接面に潤滑剤を塗布終了後、前記潤滑剤吐出機構のノズルをシール部材の外方に移動する工程と、を含むことを特徴とする潤滑剤の塗布方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイルシール等のシール部材のリップの内面に均一かつ効率的に潤滑剤を塗布する潤滑剤の塗布装置および塗布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車をはじめ各種車両の回転部には、回転軸における潤滑剤の漏れや異物の混入を防ぐ密封装置の一種であるオイルシール等のシール部材が多く用いられている。シール部材は、例えば、金属環と合成ゴムを組み合わせた環状のもので、リップと呼ばれる内側部分が回転軸の表面に弾性的に密着する。
そのシール部材のリップには、密封性の向上と共に摩擦力の低減(潤滑性の維持)を図るために潤滑剤が塗布されているものがある。
例えば、従来から、固体潤滑剤を分散した結合樹脂液をスプレー等により塗布したり、或いは、シール部材を回転させながら筆塗りしたりすることがなされている。
【0003】
その一例として、本出願人は特許文献1に開示の潤滑剤の塗布方法および装置を提供している。
特許文献1に開示の塗布装置は、外周面をテーパ状に形成した塗布用円板を高速回転させることにより、その塗布用円板から潤滑剤をその遠心力により外周方向に連続して飛散させるものである。
そして、この塗布用円板を、円環状に形成されたシール部材の内側にセットし、塗布用円板のテーパ状の外周面の先端部から、潤滑剤を広範囲かつ大量に連続して飛散させてシール部材のリップ内面に潤滑剤を塗布し、リップ内面に潤滑剤層を形成するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許2511235号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、潤滑剤はリップ内面にのみ塗布することができれば目的は達成し得るものの、特許文献1によれば、塗布用円板を高速回転させることにより潤滑剤を広範囲かつ大量に連続して飛散させて塗布するようにしているので、リップ以外への潤滑剤の飛散割合も多く、かなりの量で潤滑剤が無駄になっていた。これは商品価格のコストアップにもつながるため、改良が望まれているものである。
また、テーパ部分の先端部から上下方向に広がりながら潤滑剤を飛散(拡散)させるため、シール部材のリップの塗布において塗りムラが生じ得るという課題もある。
【0006】
本発明は、このような問題を解決するためになされており、その目的は、シール部材のリップ部の軸摺接面に、少ない量で均一な厚みの潤滑剤塗膜層を塗布形成することができ、潤滑剤の消費量を大幅に低減させ、潤滑剤の無駄を防止し得る潤滑剤の塗布装置および塗布方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため第1の発明がなした技術的手段は、回転軸の外周に圧接されて備えられる円環状に形成されたシール部材を対象とし、前記シール部材のリップ部における軸摺接面に潤滑剤塗膜層を形成する装置であって、シール部材を保持するシール部材保持機構と、前記シール部材保持機構に保持されたシール部材のリップ部における軸摺接面に、吐出ノズルを介して潤滑剤を塗布する潤滑剤吐出機構からなり、前記シール部材と前記吐出ノズルとは、相対的に回転可能であるとともに、いずれか一方又は双方が、回転軸に対して直線移動可能に構成されており、前記吐出ノズルは、前記リップ部の軸摺接面に潤滑剤を高速かつ間欠的に吐出することを特徴とする潤滑剤の塗布装置としたことである。
【0008】
本発明によれば、シール部材保持機構と潤滑剤吐出機構の吐出ノズルのいずれか若しくは双方が回転しつつ、かつ回転軸に対して直線方向に移動しながら潤滑剤吐出機構の吐出ノズルから、環状のシール部材におけるリップ部の軸摺接面に対して潤滑剤を高速かつ間欠的に吐出するものとしたため、潤滑剤は、前記軸摺接面に点状で周方向に間欠的に塗布される。
そして、回転作動のみではなく、回転軸に対して直線方向に移動しながら潤滑剤を高速で吐出するものとしたことにより、周方向に点状で間欠的に塗布されながら直線方向(例えば鉛直方向)に移動して塗布するため、これにより塗布された潤滑剤が互いにくっつき合って一体になって均一な潤滑剤塗布層が形成される。従って、吐出された潤滑剤が少ない量で均一な厚みに塗布され、吐出された潤滑剤同士が隙間をあけて塗布されてしまうこともなく、塗ムラなども生じない。
また、従来のように潤滑剤を大量に連続して飛散(拡散)させるものと異なり、軸摺接面に向けてピンポイントで間欠的に吐出されるものであるため、無駄な吐出を防ぐことができコストアップを抑止し得る。
【0009】
上記目的を達成するため第2の発明がなした技術的手段は、第1の発明において、シール部材を回転可能に保持するシール部材保持機構と、前記シール部材保持機構に保持されたシール部材のリップ部における軸摺接面に潤滑剤を塗布する潤滑剤吐出機構からなり、前記潤滑剤吐出機構は、前記シール部材保持機構に保持されて回転するシール部材の回転軸に沿って移動しつつシール部材のリップ部における軸摺接面に向けて潤滑剤を高速かつ間欠的に吐出させることを特徴とする潤滑剤の塗布装置としたことである。
【0010】
本発明によれば、所定位置でシール部材が回転し、その回転しているシール部材のリップ部における軸摺接面に対し、潤滑剤吐出機構の吐出ノズルが、前記シール部材の回転軸に沿って移動しつつ、潤滑剤を高速かつ間欠的に吐出するため、吐出目標とされる前記軸摺接面への潤滑剤の吐出がブレることはない。
【0011】
上記目的を達成するため第3の発明がなした技術的手段は、第2の発明において、
シール部材保持機構は、回転軸を鉛直方向に備え、潤滑剤吐出機構は、移動軸を鉛直方向に備え、潤滑剤吐出機構は、シール部材のリップ部における軸摺接面に対して潤滑剤を吐出する吐出ノズルを、前記シール部材のリップ部の軸摺接面に対して所定の傾斜角度をもって配したことを特徴とする潤滑剤の塗布装置としたことである。
【0012】
本発明よれば、一般的にリップ部の軸摺接面は傾斜状に形成されるものであるため、その傾斜状態に合わせて潤滑剤を吐出して塗布することができ、液だれ・潤滑剤吐出時の飛散などが生じ難い。
【0013】
上記目的を達成するため第4の発明がなした技術的手段は、第1乃至3のいずれかの発明において、前記シール部材は、リップ部からシール部材の中心軸方向に向けて水平に突出する環状の突部を有していることを特徴とする潤滑剤の塗布装置としたことである。
【0014】
本発明によれば、リップ部からシール部材の中心軸方向に向けて水平に突出する環状の突部が、潤滑剤の受け部として機能するため、吐出された潤滑剤が仮に多少飛び散ったとしても、前記潤滑剤の受け部(環状の突部)で受け止めることができるため、シール部材保持機構への潤滑剤の飛散を防止し、シール部材保持機構の汚染防止を図ることができる。
【0015】
上記目的を達成するため第5の発明がなした技術的手段は、第1の発明において、
シール部材を回転可能に保持するシール部材保持機構と、前記シール部材保持機構に保持されたシール部材のリップ部における軸摺接面に潤滑剤を塗布する潤滑剤吐出機構からなり、シール部材保持機構は、回転軸に沿ってシール部材を直線移動可能に保持し、前記潤滑剤吐出機構は、前記シール部材保持機構に保持されて回転しつつ直線移動するシール部材のリップ部における軸摺接面に向けて潤滑剤を高速かつ間欠的に吐出させることを特徴とする潤滑剤の塗布装置としたことである。
【0016】
本発明によれば、第1の発明や第2の発明と同等の作用効果を奏し得る。
【0017】
上記目的を達成するため第6の発明がなした技術的手段は、第5の発明において、シール部材保持機構は、回転軸と移動軸を鉛直方向に備え、前記潤滑剤吐出機構は、シール部材のリップ部における軸摺接面に対して潤滑剤を吐出する吐出ノズルを、前記リップ部の軸摺接面に対して所定の傾斜角度をもって配したことを特徴とする潤滑剤の塗布装置としたことである。
【0018】
本発明によれば、第3の発明と同等の作用効果を奏し得る。
【0019】
上記目的を達成するため第7の発明がなした技術的手段は、第1の発明において、シール部材を回転可能に保持するシール部材保持機構と、前記シール部材保持機構に保持されたシール部材のリップ部における軸摺接面に潤滑剤を塗布する潤滑剤吐出機構からなり、前記潤滑剤吐出機構は、旋回運動しつつ直線移動してシール部材のリップ部における軸摺接面に対して潤滑剤を高速かつ間欠的に吐出させることを特徴とする潤滑剤の塗布装置としたことである。
【0020】
本発明によれば、第1の発明等と同等の作用効果を奏し得る。
【0021】
上記目的を達成するため第8の発明がなした技術的手段は、シール部材のリップ部に潤滑剤を塗布する潤滑剤の塗布方法において、回転機構を有するシール部材保持機構にシール部材を保持する工程と、前記シール部材保持機構に保持された前記シール部材を回転させる工程と、前記シール部材保持機構に保持された前記シール部材のリップ部に潤滑剤を塗布する潤滑剤吐出機構の吐出ノズルを塗布開始位置に移動する工程と、前記シール部材保持機構に保持されて回転するシール部材の回転軸に沿って移動しつつ、シール部材のリップ部における軸摺接面に向けて前記潤滑剤吐出機構の吐出ノズルから潤滑剤を高速かつ間欠的に吐出する工程と、前記シール部材のリップ部における軸摺接面に潤滑剤を塗布終了後、前記潤滑剤吐出機構のノズルをシール部材の外方に移動する工程と、を含むことを特徴とする潤滑剤の塗布方法としたことである。
【0022】
本発明によれば、一連の連続工程でシール部材のリップ部における軸摺接面に均一な潤滑剤塗布層を簡易且つ確実に施すことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、少ない量で均一な厚みの潤滑剤層を塗布形成することができ、潤滑剤の消費量を大幅に低減させ、潤滑剤の無駄を防止し得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】潤滑剤の塗布装置の一実施形態を一部断面して示す概略構成図である。
図2】シール部材のリップ部における軸摺接面に潤滑剤を塗布している工程の一部を拡大して示す概略断面図で、(a)は、潤滑剤吐出機構の吐出ノズルを塗布開始位置に移動して潤滑剤の吐出工程が開始されている状態、(b)は、潤滑剤吐出機構の吐出ノズルが所定距離上昇しつつ潤滑剤を吐出してリップ部の軸摺接面に潤滑剤層を形成している状態を示す図である。
図3】本発明の他の実施形態で、内径側に環状の突部を有していないシール部材(ワーク)を潤滑剤の塗布対象とし、シール部材のリップ部における軸摺接面に潤滑剤を塗布している工程の一部を拡大して示す概略断面図である。
図4】本実施形態の潤滑剤の塗布装置を用いて潤滑剤層を形成する前のシール部材の一部を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態に係る潤滑剤装置について、図1乃至図4を参照して説明する。なお、本実施形態は、本発明の一実施形態にすぎず、何ら限定されるものでなく、本発明の範囲内で設計変更可能である。
【0026】
図1は、本発明に係る潤滑剤の塗布装置1の一実施形態を示したものである。
本実施形態における潤滑剤の塗布装置1は、シール部材10を保持するシール部材保持機構2と、前記シール部材10のリップ部30における軸接触面50に潤滑剤を塗布する潤滑剤吐出機構5とで構成されており、それぞれが架台9に備えられている。
また、図に示してないが、潤滑剤の塗布装置1には、制御部が配設されている。この制御部により、潤滑剤吐出機構5の鉛直方向の移動・停止位置、移動速度、潤滑剤の吐出間隔、シール部材保持機構2を回転作動させる時の回転速度などを制御し、潤滑剤の塗出開始から塗布終了までの全工程を自動で制御する。
【0027】
図4は、本実施形態で用いるシール部材10を示す断面図である。
本実施形態で用いるシール部材10は、一般的なオイルシールを想定している。以下、オイルシール10として説明する。
オイルシール10は、中心に貫通孔14を有する円板部12の外周縁から水平方向に環状部15を突出させてなる断面視略コ字状を有する金属製の補強環20と、補強環20の周りを被覆して環状に形成されるゴム等の弾性部13とで構成されている。弾性部13は、円板部11と、円板部11の外周縁から水平方向に突出する環状部16と、内径側に設けられた環状のリップ部30とで構成されている。
【0028】
リップ部30は、内周端縁から傾斜状に環状に突出してオイルシールリップ30aが形成されており、その外周側には図示しないガータスプリングを装着するための環状凹溝17が周方向に形成されている。
また、本実施形態では、円板部13の円周端縁から前記オイルシールリップ30aとは反対の方向に傾斜して環状に突出するダストシールリップ30bが形成されている。
前記リップ部30における内面、すなわち、オイルシールリップ30aの内面とダストシールリップ30bの内面が、軸摺接面50として機能する。本実施形態では、このうちオイルシールリップ30aの内面を軸摺接面50として潤滑剤塗膜層40を形成する。
【0029】
また、本実施形態では、オイルシールリップ30aからオイルシール10の中心軸方向に向けて水平方向に突出する環状の突部(例えば、成型時にできるバリ)18が付着している状態のオイルシール10を用いて潤滑剤の塗膜形成を行っている。
すなわち、本実施形態では、オイルシール10を成型した後に内径側に残るバリを有効利用しているものである。
このように突部(バリ)18があることにより、後述する潤滑剤吐出機構5から吐出された潤滑剤が仮に飛び散ったとしても、突部(バリ)18が潤滑剤受け部として機能するためシール部材保持機構2を汚すこともない。なお、この突部(バリ)18は、潤滑剤塗布後の工程で、ナイフカット等により取り除かれる。突部(バリ)18の突出量や厚み等は特に限定解釈されるものではなく本発明の範囲内で設計変更可能である。
また、本実施形態では成型時に生じ得るバリを積極的に使用しているが、バリではなく、あらかじめ突部18として設計したものであってもよい。
【0030】
なお、本実施形態で示すシール部材の形態は特に限定解釈されるものでなく、その他のオイルシール形態全般が対象とされ、またダストシール等もすべて対象とされ、本発明の範囲内において、他の形態に適宜設計変更可能である。
【0031】
シール部材保持機構2は、架台9の上面側に配設されてシール部材を保持するワーク保持部3と、架台9の下面側に配設されて、前記ワーク保持部3を所定方向に回転作動させる駆動源4とで構成されている。
【0032】
ワーク保持部3は、後述する駆動源4と連結される本体部3bと、本体部3bの上面に形成された嵌合部3aとで構成されている。
【0033】
本体部3bは、本実施形態では、短尺で中実の円筒形状に形成され、下面側にて駆動源4の回転シャフト4aが一体に連結されている。
また、本体部3bの上面には、嵌合部2aの内径と同径で穿設されている円筒状の有底孔部3cが形成されている。前記有底孔部3cは、潤滑剤塗膜形成工程が終了し、オイルシール10をシール部材保持機構2から取り外す際に、オイルシール10の内径側から前記有底孔部3c内に指を差し入れることができるため、嵌合部3aからオイルシール10を容易に取り外すことができる。
本体部3bの形状は特に限定解釈されるものではなく本発明の範囲内で任意に設計変更可能である。
【0034】
嵌合部3aは、本体部3bの上面にて、回転中心軸Axを中心として所定径をもって薄肉の環状に突設されている。嵌合部3aの鉛直方向への突出高さや厚みは本実施形態に限定されるものではなく、保持対象とされるオイルシール10に備えられている環状の溝部の溝深さ・溝幅に応じて適宜設計変更可能である。
【0035】
駆動源4は、例えば、回転数10〜500rpmの範囲で回転駆動が可能なモータである。
本実施形態では、回転数30rpmを設定する。
また、本実施形態では、前記ワーク保持部3を、回転中心軸Axを中心にして、前記回転数をもって矢印L方向に回転可能としている(図1参照、図2および図3において回転中心軸Axを図面便宜上、中心位置からやや右側にずらして示している。)なお、駆動源4は特に限定されるものではなく周知一般のモータなど任意である。
【0036】
シール部材保持機構2は、保持されたオイルシール10のリップ部30に潤滑剤吐出機構5の吐出ノズル7a先端から潤滑剤を塗布できる近接的な位置にあって、オイルシール10を回転したときに吐出ノズル7aと接触しない位置を設定して架台9の上面側に配設されている。
【0037】
潤滑剤吐出機構5は、本実施形態では、高さ調整部8と、昇降作動部6と、潤滑剤吐出部本体7とで構成されている。
【0038】
昇降作動部6は、本実施形態では、一般的に使用されている電気シリンダ(ロボットシリンダ)が採用されている。例えば、柱部本体6a内に鉛直方向に配設し、電気的に作動するシリンダ(図示せず)と、シリンダに一体に取り付けられて柱部本体6aの外部に備えられ、鉛直方向に移動可能なスライダ6bを含み、前記スライダ6bに潤滑剤吐出部本体7が一体的に取り付けられている。
【0039】
昇降作動部6は、図示しない制御部と電気的に連絡されている。
制御部では、例えば、予め計測した第一の移動位置(吐出開始位置)100のデータと、第二の移動位置(吐出終了位置)200のデータと、第三の移動位置(待ち状態位置)300のデータが記憶させられており、また、潤滑剤吐出部本体7を鉛直方向に移動させる所定の移動速度に関するデータも記憶させられている。
制御部によって予め設定・記憶させた所定の高さ位置データと、鉛直方向に移動する所定の移動速度データに基づいて、潤滑剤吐出部本体7を移動制御している。
なお、昇降作動部6は、特に限定解釈されないが、油圧シリンダ・ガスシリンダなどによって潤滑剤吐出部本体7を鉛直方向に移動・停止させる構成であってもよく任意である。
【0040】
例えば、潤滑剤吐出部本体7の鉛直方向の移動速度は、待ち状態位置の第三の移動位置300から、潤滑剤吐出開始の第一の移動位置100までを4mm/sの速さで移動するように制御し、第一の移動位置100から潤滑剤吐出終了の第二の移動位置200まで(例えば、オイルシールの内径をφ40mmとした場合、約4mmの距離)を0.1〜1mm/sの速さで移動するように制御する。
【0041】
高さ調整部8は、柱部本体6aの上端にあって、潤滑剤吐出本体7の移動する範囲を設定可能にしている。大きさの異なるオイルシール10に適応して、オイルシール10のリップ部30への潤滑剤の塗布範囲を任意に調整することができる。なお、この高さ調整操作は、塗布するオイルシールを選定した段階で手動にて行う。
【0042】
潤滑剤吐出部本体(ディスペンサ)7は、外筒7bと、外筒7b内に配設され、潤滑剤を貯留する図示しないシリンジ(内筒部)と、前記シリンジ内と連通してシリンジの突端に備えられる吐出ノズル7aと、シリンジ内に配設されて吐出ノズル7aから潤滑剤を外方に押し出す図示しないプランジャとで構成されており、前記昇降作動部6のスライダ6bに一体に取り付けられている。
本実施形態によれば、前記プランジャの往復動作の調整によって高圧力で吐出ノズル7aから潤滑剤が高速かつ間欠的に吐出し得るものとしている。
【0043】
潤滑剤吐出部本体7は、ワーク保持機構2に保持されたオイルシール10のリップ部における軸摺接面50に対して、吐出ノズル7aの吐出口が直交状に対向するように傾斜状に角度をつけて前記昇降作動部6のスライダ6bに取り付けられている。
その傾斜角度は、吐出ノズル7aがリップ部30の軸摺接面50に非接触状態で塗布でき、かつ、シリンジ(図示しない)内の潤滑剤がこぼれない程度とすれば、回転軸Axに対して約30度程度傾斜させている状態が好ましい。なお、傾斜角度をさらに変えることで第二の移動位置200より上側の軸摺接面50を塗布することもできる。また、リップ部30と吐出ノズル7aとの先端との近接距離は約5mm程度が好ましい。
【0044】
なお、本実施形態では、吐出ノズル7aの内径を0.3mmとしている。このように吐出ノズル7aの内径を極細に設定したことから、ピンポイントに、かつ高速度にて粒点状で潤滑剤を塗布することができて塗布量も少なくて済む。
吐出口からの潤滑剤の吐出は、図に示さない制御装置への数値設定により制御される。その数値設定は、オイルシール10のリップ部30の内径がφ40mmの場合、吐出数が1〜550ショット/10秒の範囲とする。
【0045】
本実施形態で使用される潤滑剤としては、例えば、有機溶剤にPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等を溶け込ました低粘性の潤滑剤が想定されている。なお、上記潤滑剤は一例であって何らこれに限定解釈はされない。
【0046】
吐出ノズル7aの形態は、本実施形態に限定解釈されるものではなく、潤滑剤を吐出する吐出口を有しているものであればよく、例えば、シリンジの先端に直接吐出口を有し、そのシリンジ全体が吐出ノズルとして機能するものも含まれる。
【0047】
また、リップ部30に塗布するための吐出ノズル7aは、第一の移動位置100から潤滑剤吐出終了の第二の移動位置200まで向かうに従って、軸摺接面50と吐出ノズル7aとの距離が、第一の移動位置100においては距離400であるのに対して、潤滑剤吐出終了の第二の移動位置200においては距離500と異なってくるため、その距離に応じて吐出間隔を短くするように制御する(図2(a)および(b)参照)。これにより、軸摺接面50と吐出ノズル7aとの先端との距離が次第に広がるように吐出ノズル7aが移動しても、リップ部30に潤滑剤を均一な厚みに塗布することができる。
なお、第一の移動位置100から潤滑剤吐出終了の第二の移動位置200まで向かうに従って、軸摺接面50と吐出ノズル7aとの距離を一定に保つように潤滑剤吐出部本体7を移動制御させリップ部30に潤滑剤を均一な厚みに塗布することができる。本実施形態において、塗膜は、塗布総量が0.02g程度の少ない量でできる。
【0048】
潤滑剤を高速かつ間欠的に吐出させることによって、リップ部30の軸摺接面50に対して粒点状の状態で付着して、さらに各粒点状の潤滑剤が押し広げられて周方向に均一化された潤滑剤塗膜層40が形成される。塗布された潤滑剤塗膜層40の厚みは、吐出ノズル7aによる1回の吐出時に吐出される潤滑剤の量と単位面積当たりの吐出数との関係にあり、オイルシールの用途によって任意に制御することができる。本実施形態では、潤滑剤塗膜層40の厚みは0.02mm〜0.05mmの範囲である。
また、塗布時間は、吐出開始から吐出終了まで、本実施形態では内径φ40mmの場合、約10秒間で均一な厚みの塗膜形成が可能である。
【0049】
次に、上述した本実施形態の潤滑剤の塗布装置1を用いた潤滑剤の塗布方法の一実施形態について説明する。
【0050】
潤滑剤の塗布装置1を用いた塗布方法は次の工程からなっている。
(1)シール部材保持機構2にシール部材(オイルシール)10を保持する工程
(2)保持されたシール部材(オイルシール)10を回転作動させる工程
(3)シール部材保持機構2に保持されたシール部材(オイルシール)10のリップ部30における軸摺接面50に、潤滑剤を塗布する潤滑剤吐出機構5の潤滑剤吐出部本体7を、吐出開始の第一の移動位置100に設定する工程
(4)シール部材(オイルシール)10のリップ部30の軸摺接面50に向けて潤滑剤を高速かつ間欠的に吐出しつつ第二の移動位置200まで上昇移動する工程
(5)シール部材(オイルシール)10のリップ部30における軸摺接面50に潤滑剤を塗布終了後、潤滑剤吐出機構5の潤滑剤吐出部本体7を第三の移動位置300に上昇移動する工程
【0051】
本実施形態においては、先ず、上記(1)−(5)の各工程を行なう前に、図に示さない制御部に、待ち状態位置である第三の移動位置300と、吐出開始位置である第一の移動位置100と、吐出終了位置である第二の移動位置200のそれぞれの位置データを入力設定する。
また、制御部には次の諸数値を入力設定する。
(6)駆動源4の回転速度(ワーク保持機構2の回転速度):30rpm
(7)潤滑剤の吐出ノズル7aの吐出数:500ショット/10秒
(8)潤滑剤吐出本体7を第三の移動位置300から第一の移動位置100まで移動する速度:4mm/s
(9)潤滑剤吐出本体7を第一の移動位置100から第二の移動位置200まで移動する速度:0.5mm/s
【0052】
次に、加硫成型したバリ18付きのオイルシール10を、ワーク保持部3の嵌合部3aに嵌め込み固着させて塗布準備に入る。
本実施形態で使用されるシール部材(オイルシール)10は、上述したオイルシール10でφ40mmとする。
【0053】
そして、シール部材保持機構2の駆動源4を動作させることにより、回転シャフト4aを介してワーク保持部3を所定方向に回転作動させる。
【0054】
そして次に、昇降動作部5の電気シリンダを動作させて、潤滑剤吐出部本体7の吐出ノズル7aを、待ち状態位置である第三の移動位置300から吐出開始位置である第一の移動位置100まで、4mm/sの速さで鉛直方向に下降させることにより、リップ部30の軸摺接面50への塗布準備をする。
【0055】
次に、潤滑剤吐出機構5を動作させて所定量の潤滑剤を吐出ノズル7aからリップ部30の軸摺接面50に向けて高速かつ間欠に液粒で潤滑剤を吐出させる。
そして、第一の移動位置100から第二の移動位置200に向かって吐出ノズル7aが、0.5mm/sの速度で上昇移動し、かつ、ワーク保持部3が30rpmの速度で回転することと相まって、リップ部30内面に対して周方向に粒点状に塗布され、潤滑剤が均一な厚みに塗布された潤滑剤塗膜層40を形成する。
本実施形態では、塗布時間は、オイルシール回転機構3の回転速度が30rpmで、潤滑剤吐出機構5の吐出数が500ショットの数値設定ならば約10秒間で終えることができる。
【0056】
シール部材(オイルシール)10のリップ部における軸摺接面50に潤滑剤を塗布終了後、潤滑剤吐出機構5を上昇移動する工程において、図2の200の位置に塗布が達した後は、潤滑剤吐出機構5の吐出ノズル7aからの吐出動作を停止させて、シール部材保持機構2の駆動源4を停止させ、潤滑剤吐出部本体7が第三の移動位置300に上昇して待ち状態に戻る。
その後、オイルシール保持機構2の嵌合部7aから潤滑剤の塗布を終えたオイルシール10を取り外す。その後、リップ部30のバリ部分18は不要のためカットナイフなどで取り去る。
【0057】
したがって、本実施形態においては、オイルシール保持機構2のワーク保持部3を回転させることにより、潤滑剤吐出機構5から潤滑剤を吐出させて塗布するようにしているので、リップ部30の軸摺接面50に非接触状態で潤滑剤を塗布することができ、リップ部30に損傷を与えてしまうおそれがなく、また、潤滑剤をリップ部30の軸摺接面50のみに高速で間欠吐出で粒点状に塗布することができるので、潤滑剤の無駄がなく、潤滑剤の消費量を著しく低減させることができる。
【0058】
図3は、潤滑剤の塗布対象とされるワーク(シール部材10)の他の実施形態を示す。
本実施形態では、バリ部分18を取り除いた後のオイルシール10のリップ部30における軸摺接面50に潤滑剤を塗布する実施の一例である。本実施形態においては、第一の移動位置100aから第二の移動位置200に向かって吐出ノズル7aが、0.5mm/sの速度で上昇移動し、かつ、ワーク保持部3が30rpmの速度で回転することと相まって、リップ部30内面に対して周方向に粒点状に塗布され、潤滑剤が均一な厚みに塗布された潤滑剤塗膜層40を形成する。
オイルシール10のその他の構成、この実施形態に用いられる潤滑材の塗布装置、塗布方法(塗布工程)にあっては、上述した前記実施形態と同様であるため、前記実施形態の説明を援用し、ここでの詳細な説明は省略する。
【0059】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、必要に応じて種々変更することが可能である。例えば、シール部材保持機構2は、回転軸に沿ってシール部材10を直線移動可能に保持し、潤滑剤吐出機構5は、シール部材保持機構2に保持されて回転しつつ直線移動するシール部材のリップ部30に向けて潤滑剤を高速かつ間欠的に吐出させる構成を採用することもできる。すなわち、シール部材保持機構2は、ワーク保持部3を回転運動させるのみではなく、ワーク保持部3を例えば鉛直方向に上下移動させるように構成する。このとき、潤滑剤吐出機構5は、潤滑剤吐出部本体7が一定の位置を保持した状態で潤滑剤の吐出動作を行なうものとする。なお、潤滑剤を高速・間欠的に吐出する速度などその他の構成・作用効果にあっては上述の実施形態と同様である。
このような構成を採用することによっても、上述した実施形態と同様の作用効果が発揮され得る。
【0060】
また、潤滑剤吐出機構5は、潤滑剤吐出部本体7が、旋回運動しつつ直線移動してシール部材のリップ部30における軸摺接面50に対して潤滑剤を高速かつ間欠的に吐出させることもできる。この場合、シール部材を保持しているワーク保持部3は回転作動をしないで一定位置に保持された状態とする。なお、潤滑剤を高速・間欠的に吐出する速度などその他の構成・作用効果にあっては上述の実施形態と同様である。このような構成を採用することによっても、上述した実施形態と同様の作用効果が発揮され得る。
【符号の説明】
【0061】
1 塗布装置
2 シール部材保持機構
3 ワーク保持部
3a 嵌合部
4 駆動源
5 潤滑剤吐出機構
6 昇降作動部
7 潤滑剤吐出部本体
7a 吐出ノズル
7b 外筒
8 高さ調整部
9 架台
10 シール部材(オイルシール)
11,12 円板部
13 弾性部
14 貫通孔
15 環状部
17 環状凹部
20 補強環
30 リップ部
30a オイルシールリップ
30b ダストシールリップ
40 潤滑剤塗膜層
50 軸接触面
図1
図2
図3
図4