(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記処理部は、前記時系列の受信信号における前記被検体の表面で発生した光音響波の受信時間の前または後の受信時間を前記特定の音速を基準に規格化された受信時間に変換することを特徴とする請求項1に記載の光音響装置。
前記処理部は、前記被検体内の音速と、前記被検体と前記音響波受信器との間に配置された部材内の音速とを用いて、前記時系列の受信信号の受信時間を前記特定の音速を基準に規格化された受信時間に変換することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の光音響装置。
前記処理部は、前記被検体内の音速と前記部材内の音速との比と、前記被検体の表面で発生した光音響波の受信時間とを用いて、前記時系列の受信信号の受信時間を前記特定の音速を基準に規格化された受信時間に変換することを特徴とする請求項4に記載の光音響装置。
前記被検体と前記音響波受信器との間に配置された前記部材は、前記被検体の音響インピーダンスと前記音響波受信器の音響インピーダンスとの間の音響インピーダンスを有する部材であることを特徴とする請求項7に記載の光音響装置。
光が被検体に照射されることにより発生する光音響波を受信して得られる時系列の受信信号に対して特定の音速を用いた再構成処理を行うことにより被検体情報を取得する工程を有し、
前記被検体情報を取得する工程において、前記時系列の受信信号の受信時間を前記特定の音速を基準に規格化された受信時間に変換することを特徴とする信号処理方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1を参照しながら本実施形態にかかる光音響装置の基本的な構成を説明する。本実施形態の光音響装置は、被検体の内部の被検体情報を取得する装置である。なお、本実施形態において被検体情報とは、初期音圧分布や光吸収エネルギー密度分布、あるいは、そこから導かれる吸収係数分布などの光学特性値情報を示す。また、本実施形態における被検体情報としては、複数の波長に対応する複数の吸収係数分布を用いて得られる、被検体を構成する物質の濃度分布も含まれる。
【0011】
本実施形態の光音響装置は、基本的なハード構成として、光源11、光学系13、音響波受信器17、音響マッチング部材18、データ収集器19、処理部としてのコンピュータ20、および表示装置21を有する。また、コンピュータ20は、演算部20aおよび記憶部20bを備えている。なお、
図2に示すように、演算部20aがバス30を介して光音響装置を構成する各構成の作動を制御している。
【0012】
光源11から発せられた光12は、例えばレンズ、ミラー、光ファイバ、拡散板などの光学系13により所望の形状に加工されながら導かれ、生体などの被検体15に照射される。被検体15の内部を伝播した光のエネルギーの一部が血管などの光吸収体(結果的に音源となる)14に吸収されると、その光吸収体14の熱膨張により光音響波(典型的には超音波)16a、bが発生する。音響波受信器17は、光音響波16a、bを受信し、時系列の受信信号を出力する。データ収集器19は、出力された時系列の受信信号に対して増幅やA/D変換等の処理を施し、記憶部20bにデジタル信号としての時系列の受信信号を記憶する。演算部20aは、記憶部20bに記憶された時系列の受信信号に対して信号処理を施すことにより被検体情報を生成する。また、生成された被検体情報は表示装置21に画像や数値データとして表示される。
【0013】
以下、本実施形態に係る光音響装置が行う信号処理について説明する。
【0014】
<信号処理方法>
本実施形態に係る光音響装置は、時系列の受信信号に対して再構成処理を行って被検体情報を取得する際に、時系列の受信信号の受信時間を特定の音速を基準に規格化された受信時間に変換する。すなわち、各受信時間に対応する時間サンプリングデータを特定の音速を基準に規格化された受信信号に対応する時間サンプリングデータとして扱う。このように時系列の受信信号を取り扱うことにより、受信時間に特定の音速を掛けた値は、その受信時間の時間サンプリングデータに対応する光音響波が発生した位置と音響波受信器17との距離を表す。
【0015】
そのため、本実施形態に係る光音響装置は、光音響波のいずれの伝搬経路における音速も特定の音速であると仮定して再構成処理を行う場合も、被検体15内の音速と音響マッチング部材18内の音速との差の影響を抑制することができる。すなわち、本実施形態に係る光音響装置は、時系列の受信信号に対して特定の音速のみを用いた再構成処理を施す場合であっても、被検体15内の音速と音響マッチング部材18内の音速との差の影響が抑制された被検体情報を取得することができる。
【0016】
以下、本実施形態に係る信号処理方法を、
図3を用いて詳細に説明する。
【0017】
図3(a)に音響波受信器17で受信される典型的な受信信号の時間計測データ(時系列の受信信号)を模式的に表した図を示す。
図3(a)において横軸は受信時間で、光を照射したタイミングをゼロとしている。また、縦軸は音響波受信器17で受信された音圧に比例した値である。
【0018】
典型的に音響波受信器17は、被検体15内の異なる位置で発生した光音響波を受信する。例えば、
図3(a)中の信号Aと信号Bが異なる位置で発生した光音響波の受信信号である。通常、被検体15が生体である場合、生体の表皮付近は高い光吸収を示すメラニンを多く含むため、生体の表皮付近では振幅の大きい光音響波が発生する。そのため、
図1に示したシステム構成では、
図1に示すように被検体15の表面22に起因した光音響波16aが最初に音響波受信器17により受信され、それが
図3(a)中の信号Aとして観測される。続いて、被検体15の内部にある光吸収体14(後に再構成される領域)から発生した光音響波16bが受信され、それが
図3(a)中の信号Bとして観測される。
【0019】
図3(b)は音響波受信器17と被検体15との位置関係を示す。
図3(b)から分かるように、
図3(a)中の信号Aは、被検体15中を伝搬せずに、音響マッチング部材18中のみを伝搬した光音響波16aに由来する受信信号である。
図3(a)内の信号Aの受信時間t
aは、音響波受信器17と被検体15の表面22との最短距離d
aを音響マッチング部材18の音速c
aで割った値である。つまり、受信時間t
aは式(1)で表わされる。
t
a=d
a/c
a・・・式(1)
【0020】
一方、被検体15の表面22と音響波受信器17との距離をd
b2、被検体15の表面22と被検体15内の光吸収体14までの距離をd
b1とすると、
図3(a)内の信号Bの受信時間t
bは、d
b2をc
aで割った値とd
b1をc
bで割った値との和となる。つまり、受信時間t
bは式(2)で表わされる。
t
b=d
b2/c
a+d
b1/c
b・・・式(2)
【0021】
ここで、d
b2=d
aと近似すると、受信時間t
bは式(3)で表わすことができる。
t
b=d
a/c
a+d
b1/c
b=t
a+d
b1/c
b・・・式(3)
【0022】
すなわち、式(3)は、被検体15の表面22と音響波受信器17との距離がd
aで一定であると仮定した近似式である。
【0023】
なお、d
b1<d
b2となるように被検体15と音響波受信器17との位置関係を構成するとd
b2=d
aという近似に近づく。また、被検体15と音響波受信器17との位置関係がd
b2=d
aという近似に近くなると、式(3)に示す近似式の精度が高くなり、後述する式(3)に示すt
bを用いて得られる被検体情報の精度は高くなる。そこで、音響波受信器17は、d
b1<d
b2となるように配置されることが好ましい。また、d
b1は被検体15の表面22と再構成される最小構成単位(ピクセルまたはボクセル)、つまり仮想的な音源との距離である。そこで、d
b1<d
b2とするために、音響マッチング部材18の厚みを、被検体15の表面22とそこから最も離れた最小構成単位との距離よりも大きくすることが好ましい。また、被検体15として乳房を考えると、典型的な乳房のサイズを鑑みて音響波受信器17と被検体15の表面とを50mm以上離すことによりd
b1<d
b2の関係となりやすい。
【0024】
また、式(1)から音響波受信器17と被検体15の表面22の距離d
aは、式(4)で表わされる。
d
a=c
a×t
a・・・式(4)
【0025】
一方、音響波受信器17と被検体15内の光吸収体14との距離d
bは、式(5)で表わされる。
d
b=(c
a×t
a)+(t
b−t
a)×c
b・・・式(5)
【0026】
ここで、t
a’=t
a×c
a/c
bとすると、距離d
bは式(6)で表わすことができる。
d
b=(t
a’+t
b−t
a)×c
b・・・式(6)
【0027】
式(6)によれば、t
a’=t
a×c
a/c
bを適用した時間t
b’=(t
a’+t
b−t
a)に被検体15の音速c
bを掛けるのみで距離d
bを表現することができることがわかる。
【0028】
そこで、本実施形態では、時系列の受信信号の受信時間t
aまでの時間サンプリングデータの各受信時間t1をt2=t1×c
a/c
bに変換する。さらに、時系列の受信信号の受信時間t
a以降の時間サンプリングデータの各受信時間t1をt2=t
a×c
a/c
b+(t1−t
a)に変換する。そして、時系列の受信信号および変換された受信時間のデータを用いて、被検体15内の音速c
bのみを用いた再構成処理により被検体情報を取得する。すなわち、光音響波のいずれの伝搬経路における音速も被検体15内の音速c
bとして仮定して再構成処理を行う。この処理によれば、被検体15内の音速と音響マッチング部材18内の音速との差の影響が抑制された被検体情報を取得することができる。また、光音響波の伝搬経路における音速が被検体15内の音速のみであると仮定して再構成処理を行うため、音速分布を考慮した再構成処理を行う場合と比べて再構成処理に要する時間が短くなる。
【0029】
なお、時系列の受信信号の受信時間t
aより後の時間サンプリングデータの各受信時間t1をt2=t
a+(t1−t
a)×c
b/c
aに変換し、音響マッチング部材18内の音速c
aを用いた再構成処理により被検体情報を取得してもよい。この場合も、被検体15内の音速と音響マッチング部材18内の音速との差の影響が抑制された被検体情報を取得することができる。
【0030】
本明細書においては、音響波受信部17により取得された時系列の受信信号の受信時間t1を第一の受信時間とし、特定の音速を基準に変換された後の受信時間t2を第二の受信時間とする。
【0031】
なお、被検体15内の音速および音響マッチング部材18内の音速の値としては、経験的な値、文献値、または測定値などを用いることができる。また、典型的に音速として、それぞれの部材内の平均的な音速を用いることができる。
【0032】
<光音響装置の各構成>
以下、本実施形態に係る光音響装置の各構成について詳述する。
【0033】
(光源11)
被検体15が生体の場合、光源11からは生体を構成する成分のうち特定の成分に吸収される特定の波長の光を照射することが好ましい。光源11は、本実施形態の光音響装置と一体として提供されてもよいし、別体として提供されてもよい。光源11としては大出力が得られるためレーザーが好ましいが、レーザーのかわりに発光ダイオードなどを用いることも可能である。レーザーとしては、固体レーザー、ガスレーザー、色素レーザー、半導体レーザーなど様々なレーザーを使用することができる。例えば、YAGレーザーで励起したOPOレーザーや色素レーザーあるいはTi:saレーザーなどである。使用する光の波長は、被検体15の内部まで光が伝搬する波長を使うことが好ましい。具体的には、被検体15が生体の場合、500nm以上1200nm以下の波長であることが好ましい。また、光源11としては数ナノから数百ナノ秒オーダーのパルス光を発生可能なパルス光源が好ましい。また、光源11は、複数の光源で構成されても良い。
【0034】
(光学系13)
光学系13は光源11から発せられた光12を伝搬・加工し、被検体表面に所望の形状の光12を照射できるようにする機能を有する。光12を所望の方向に伝搬させるために、光学系13としては、例えば、ミラーや光ファイバなどが用いられる。また、所望な形状に光照射パターンを形成するために、光学系13としては、例えば、拡散板やレンズなどが用いられる。
【0035】
光学系13は、光源11からの光12を
図1のように音響波受信器側から被検体15に向かって照射することが好ましい。このように照射することにより、被検体15の表面22で発生した光音響波16aに対応する受信信号が最初に観測されるため、光音響波16aに対応する受信信号を判別しやすくなる。なお、光源11から発せられた光12を所望の光照射パターンで被検体15の所望の位置に照射できる場合、光学系13は不要である。
【0036】
(光吸収体14および被検体15)
これらは光音響装置を構成するものではないが、以下に説明する。本実施形態に係る光音響装置は、血管の造影、人や動物の悪性腫瘍や血管疾患などの診断や化学治療の経過観察などを主な目的とする。よって、被検体15としては生体、具体的には人体や動物の乳房や指、手足などの診断の対象部位が想定される。ねずみなど小動物の場合は特定の部位だけではなく、小動物全体が対象となることもある。
【0037】
被検体15の内部に存在する光吸収体14としては、被検体15内で相対的に吸収係数が高いものを示すものを対象とすることが好ましい。使用する光12の波長にもよるが、例えば、人体が測定対象であればオキシヘモグロビンまたはデオキシヘモグロビンが光吸収体14に該当する。また、オキシヘモグロビンおよびデオキシヘモグロビンを含む血管も光吸収体14に該当する。また、新生血管を含む悪性腫瘍も光吸収体14に該当する。また、被検体15の表面22の光吸収体14としては皮膚表面付近にあるメラニンなどである。また、光吸収体14はメチレンブルー(MB)、インドシニアングリーン(ICG)などの色素や金微粒子及び、それらを集積あるいは化学的に修飾した外部から導入した物質でもよい。
【0038】
(音響波受信器17)
光12により被検体15の表面22及び被検体15の内部などで発生する光音響波を受信する受信器である音響波受信器17は、光音響波を受信し、アナログ信号である電気信号に変換するトランスデューサである。以後、単に探触子あるいはトランスデューサということもある。音響波受信器17は、圧電現象を用いたトランスデューサ、光の共振を用いたトランスデューサ、容量の変化を用いたトランスデューサなど音響波を受信できるものであれば、どのようなトランスデューサであってもよい。
【0039】
本実施形態の音響波受信器17は、典型的には複数の受信素子が1次元、2次元あるいは3次元的に配置されたものが好ましい。特に平面状・円柱状・球状あるいはその一部に複数の受信素子を配置することが再構成の原理上好ましい。このような多次元配列の受信素子を用いることで、同時に複数の場所で音響波を受信することができ、計測時間を短縮できる。その結果、被検体の振動などの影響を低減できる。ただし、1つの受信素子のみを有する音響波受信器17を移動させて、複数の位置で音響波を受信できれば、1次元、2次元あるいは3次元アレイの音響波受信器17を用いなくてもよい。なお、多次元配列の受信素子を用いた音響波受信器17をさらに移動させて、より様々な位置で音響波を受信することも画質を向上させる上で有効である。
【0040】
(音響マッチング部材18)
音響マッチング部材18は、被検体15と音響波受信器17との間に配置された部材であり、音響波受信器17と被検体15の間で音響的なマッチングをとるために用いられる。通常、音響マッチング部材18には被検体15の音響インピーダンスと音響波受信器17の音響インピーダンスの間の音響インピーダンスを有する部材を利用する。特に、被検体15の音響インピーダンスに近い材料を選択することが好ましい。また、本発明の音響マッチング部材は被検体15と音響波受信器17の間に不要な隙間などをできるだけなくすために、被検体15の形状に合わせて自由に変形できることが好ましい。具体的には被検体15として生体を想定すると、音響マッチング部材18としては、水、超音波ジェル、水に近い成分を有するゲル状の部材などを用いることができる。なお、音響波マッチング部材18は、光音響装置とは別に提供されてもよい。
【0041】
(データ収集器19)
データ収集器19は、音響波受信器17から出力された受信信号を増幅し、その受信信号をアナログ信号からデジタル信号に変換する。データ収集器19は、典型的には増幅器、A/D変換器、FPGA(Field Programmable Gate Array)チップなどで構成される。音響波受信器17から出力される受信信号が複数の場合は、同時に複数の信号を処理できることが好ましい。それにより、被検体情報を取得するまでの時間を短縮できる。なお、本明細書において「受信信号」とは、音響波受信器17から出力されるアナログ信号も、その後A/D変換されたデジタル信号も含む概念である。
【0042】
(コンピュータ20)
コンピュータ20には典型的にはワークステーションや大規模並列クラスタなどが用いられ、受信信号に対するあらゆる処理などがあらかじめプログラミングされたソフトウェアにより行われる。なお、コンピュータ20は、ワークステーションで行うようなソフトウェア処理ではなく、ハードウェア処理を行うこともできる。また、本実施形態においてコンピュータ20が実行するそれぞれの処理をそれぞれ別の装置で行ってもよい。
【0043】
コンピュータ20内の演算部20aは、音響波受信器17から出力された電気信号に対して所定の処理を施すことができる。また、制御部としての演算部20aは、
図2に示すようにバス30を介して光音響装置を構成する各構成の作動を制御することができる。
【0044】
演算部20aは、典型的にはCPU、GPU、A/D変換器などの素子や、FPGA、ASICなどの回路から構成される。なお、演算部20aは、1つの素子や回路から構成されるだけではなく、複数の素子や回路から構成されていてもよい。また、演算部20aが行う各処理をいずれの素子や回路が実行してもよい。
【0045】
また、コンピュータ20内の記憶部20bは、典型的にはROM、RAM、およびハードディスクなどの記憶媒体から構成される。なお、記憶部20bは、1つの記憶媒体から構成されるだけでなく、複数の記憶媒体から構成されていてもよい。
【0046】
また、コンピュータ20は、同時に複数の信号をパイプライン処理できるように構成されていることが好ましい。これにより、被検体情報を取得するまでの時間を短縮することができる。
【0047】
なお、コンピュータ20が行う信号処理や光音響装置の作動制御を実行させるプログラムを記憶部20bに保存しておくことができる。ただし、プログラムが保存される記憶部20bは、非一時的な記録媒体である。
【0048】
また、場合によっては、データ収集器19、コンピュータ20は一体化される場合もある。この場合、ワークステーションで行うようなソフトウェア処理ではなく、ハードウェア処理により被検体の画像データを生成することもできる。また、データ収集器19およびコンピュータ20を総称して本明細書における処理部としてもよい。
【0049】
(表示装置21)
表示装置21はコンピュータ20から出力された被検体情報の画像データを画像や数値情報として表示する装置である。表示装置21には、典型的には液晶ディスプレイなどが利用される。なお、表示装置21は、本実施形態の光音響装置とは別に提供されていてもよい。
【0050】
<光音響装置の作動方法>
図4も参照しつつ、
図1に示す本実施形態に係る光音響装置の作動方法を説明する。下記の処理番号は、
図4に示すフローの処理番号と一致する。
【0051】
(S100:光音響波を受信して時系列の受信信号を取得する工程)
まず光源11は光12を発生し、光12が光学系13を介して被検体15に照射される。そして、光12が被検体15の内部に位置する光吸収体14に吸収される。光12を吸収した光吸収体14が瞬間的に膨張することにより、光音響波16a、bが発生する。
【0052】
音響波受信器17は、光音響波16a、bを受信し、時系列の受信信号に変換する。データ収集器19は、音響波受信器17から出力された受信信号に増幅、A/D変換の処理を施し、デジタル信号としての時系列の受信信号を記憶部20bに格納する。本実施形態においてデータ収集器19は、光源11が光12を発生したタイミングに、音響波受信器17から出力された受信信号に対して上記処理を開始する。
【0053】
(S200:被検体の表面で発生した光音響波の受信時間を取得する工程)
演算部20aは、S100で取得した時系列の受信信号に基づいて被検体15の表面22で発生した光音響波16aを音響波受信器17が受信した時間t
aを算出する。本実施形態では光学系13から照射された光12は、被検体15の表面22のうち音響波受信器17側に照射が行われる構成となっている。そのため、被検体15の表面22から発生する光音響波16aは被検体15から発生する光音響波の中では最初に受信される。すなわち、
図3(a)に示す時系列の受信信号のうち、信号Aが被検体15の表面22で発生した光音響波に対応する受信信号である。
【0054】
例えば、信号Aにノイズが含まれる場合、受信信号が音響波受信器17のインパルス応答の形状に近い特性を利用してノイズと受信信号とを区別することができる。すなわち、演算部20aは、時系列の受信信号に対して音響波受信器17のインパルス応答でパターンマッチングを行い、そのインパルス応答のパターンとマッチングする信号を光音響波の受信信号とすることができる。さらに、演算部20aは、パターンマッチングにより受信信号と判定された信号のうち、最初に受信された信号を被検体15の表面22で発生した光音響波の受信信号とすることができる。
【0055】
また、被検体15の表面22は光の照射強度が高く、音響波受信器17までの距離も近いため、他の被検体15の光吸収体14から発生した光音信号よりも大きな音圧で受信される場合が多い。そこで演算部20aは、その特性を利用して、時系列の受信信号から一番大きな信号を被検体15の表面22で発生した光音響波に対応する受信信号と判定することができる。
【0056】
以上のように、被検体15の表面22で発生した光音響波は、他の光吸収体14で発生した光音響波とは異なる性質を示す。そのため、演算部20aは、時系列の受信信号に基づいて、その特性を利用したあらゆる抽出方法によって被検体15の表面22で発生した光音響波の受信時間を取得することができる。この方法によれば、装置規模を大きくすることなく被検体の表面で発生した光音響波の受信時間を取得することができる。
【0057】
なお、被検体15の表面22で発生した光音響波の受信時間を取得することができる限り、その方法はいかなる方法であってもよい。例えば、超音波送信部から送信された超音波の反射波の受信信号から、被検体15の表面22で発生した光音響波の受信時間を推定してもよい。その他、被検体15の表面の座標を取得する装置を用いて、音響波受信器17と被検体15の表面22との距離から被検体15の表面22で発生した光音響波の受信時間を推定してもよい。
【0058】
(S300:時系列の受信信号の受信時間を特定の音速を基準に規格化された受信時間に変換する再構成処理を行って被検体情報を取得する工程)
演算部20aは、S200で記憶部20bに記憶された時系列の受信信号に対して、特定の音速としての被検体15内の音速を用いた再構成処理を行うことにより被検体情報を取得する。このとき、演算部20aは、前述した信号処理方法によりS200で取得した時系列の受信信号の受信時間t1を被検体15内の音速を基準に規格化された受信時間t2に変換して再構成処理を行う。この処理によれば、被検体15内の音速と音響マッチング部材18内の音速との差の影響が抑制された被検体情報を取得することができる。
【0059】
なお、複数の時系列の受信信号から特定の最小構成単位の値を再構成するアルゴリズムとしては、例えば、トモグラフィー技術で通常に用いられる特定の音速を用いたタイムドメインあるいはフーリエドメインでの逆投影などが使われる。なお、再構成の時間に多くを有することが可能な場合は、繰り返し処理による逆問題解析法などの再構成手法も利用することができる。光音響イメージングの一つである光音響トモグラフィーの再構成手法には、非特許文献1に記載されているように、代表的なものとして、フーリエ変換法、ユニバーサルバックプロジェクション法やフィルタードバックプロジェクション法などがある。
【0060】
また、演算部20aは、被検体15に照射された光12の被検体15内の光フルエンス分布を取得することができる。また、演算部20aは、初期音圧分布を光フルエンス分布で補正することにより、被検体情報としての被検体15内の吸収係数分布を取得することができる。また、異なる複数の波長の光のそれぞれを用いてS100からS400を実行することにより、複数の波長に対応する吸収係数分布を取得してもよい。また、複数の波長に対応する吸収係数分布を用いて被検体情報としての物質の分布濃度を取得してもよい。
【0061】
(S400:被検体情報を表示する工程)
演算部20aは、S300で得られた被検体情報を表示装置21に出力し、表示装置21に被検体情報の画像や数値情報を表示させる。
【0062】
以上の工程を行うことで、被検体と音響波受信器との間に音響マッチング部材を配置する場合であっても、被検体と音響マッチング部材との音速差の影響が抑制された被検体情報を得ることができる。
【実施例1】
【0063】
本実施形態を適用した光音響装置の実施例を、
図1を用いて説明する。
【0064】
本実施例においては、光源11として2倍波のYAGレーザー励起のTi:saレーザーシステムを用いる。Ti:saレーザーは700−900nmの間の波長の光を被検体へ照射することができる。なお、レーザー光はミラーとビームエキスパンダーなどの光学系13を用いて、半径約1cm程度まで広げられた後に、音響波受信器17側の被検体15の表面22に照射されるようにセットされる。
【0065】
音響波受信器17としては15×23素子の2次元配列型ピエゾ探触子を用いる。
【0066】
また、データ収集器19は音響波受信器からの345ch全データを同時に受信し、アナログデータを増幅及びデジタル変換後に、コンピュータ20へ転送する機能を有する。データ収集器19のサンプリング周波数は20MHzであり、光照射のタイミングを受信開始タイミングとしている。
【0067】
被検体15は、生体を模擬した半球状のファントムであり、散乱体としての酸化チタンおよび吸収体としてのインクが混ぜられたウレタンゴムからなる。また、この半球状のウレタンファントム内の中心には直径0.5mmの球状の黒色ゴムが光吸収体14として埋め込まれている。このファントムのサイズは直径40mmである。また、このウレタンファントムは音響マッチング部材18である透明なゲルパッドを介して音響波受信器17と接触している。なお、このゲルパッドはファントムの形状に合わせて自由に変形する。ファントム表面と音響波受信器17との距離は約30mmに設定した。ウレタンファントムの音速c
bは1409m/s、音響マッチング部材18であるゲルパッドの音速c
aは1490m/sであり、それぞれの音速は異なる。
【0068】
このファントムに、まず、Ti:saレーザーから波長756nmの光を照射する。そのときに得られる時系列の受信信号を記憶部20bに保存する(S100)。なお、そのときに受信された信号の模式図が
図3(a)である。
【0069】
比較のために、この時系列の受信信号に対して、演算部20aがファントム内の音速c
bを用いた再構成処理を行う。演算部20aは、タイムドメイン再構成処理の一例を表す式(7)に基づいた再構成処理を行うことにより、
図5(b)に示す初期音圧分布p
0(r)を表す再構成画像を取得する。
【0070】
【数1】
【0071】
ここで、rは再構成されるボクセルの位置ベクトル、S
0は音響波受信部17の各素子の受信面積、r
0は音響波受信部17の各素子の位置ベクトル、p
dは時系列の受信信号を表す。
【0072】
次に、演算部20aは、時系列の受信信号から、ウレタンファントム表面で発生した光音響波の受信時間t
aを算出する(S200)。本実施例では、時系列の受信信号と音響波受信器17のインパルス応答との相関値を算出し、相関係数が高い信号の内、最初に受信する信号をウレタンファントム表面で発生した光音響波の受信信号と判定した。このとき、ウレタンファントム表面で発生した光音響波の受信信号と判定された信号の受信時間は20.2μ秒であり、その時間をt
aとした。
【0073】
次に、演算部20aは、記憶部20bに記憶された時系列の受信信号に対してファントム内の音速c
bを用いた再構成処理を行う(S300)。このとき、演算部20aは、時系列の受信信号を時間t
aまでの各時間サンプリングデータの受信時間t1がc
a/c
b倍されたものとして扱って再構成する。さらに、演算部20aは、時系列の受信信号を時間t
a以降の各時間サンプリングデータの受信時間t1がt
a×c
a/c
b+(t1−t
a)であるとされたものとして扱って再構成処理を行う。
【0074】
本実施例において、c
a/c
b=1490/1409=1.057である。その結果、演算部20aは、時間t
aまでの各時間サンプリングデータの受信時間t1をt2=t1×1.057の関係式で新たな受信時間t2に変換する。また、時間t
a以降の各時間サンプリングデータの受信時間t1をt2=20.2秒×1.057+(t1−20.2秒)の関係式で新しい受信時間t2に変換する。さらに演算部20aは、この変換された受信時間t2のデータ、記憶部20bに保存された時系列の受信信号、ファントム内の音速c
bを用いて再構成処理を行う。本実施例では、演算部20aは、式(7)中の受信時間t1を受信時間t2へと変換した式(8)に基づいた再構成処理を行うことにより、
図5(a)に示す初期音圧分布p
0(r)を表す再構成画像を取得する。
【0075】
【数2】
【0076】
図5(a)と(b)とを比較する。
図5(a)および(b)ともに、ファントム中心付近の2次元断面図を示している。
図5(b)ではウレタンファントム内の光吸収体14が実際の位置(中心)とは異なる位置に画像化され、
図5(a)と比較すると解像度の劣化及び画像コントラストが低下している。一方、
図5(a)は実際の位置に光吸収体14の画像が確認され、
図5(b)に比べて鮮明な画像が得られている。
【0077】
以上、本実施例によれば、被検体の表面形状が分からない場合においても、装置規模を大きくすることなく、被検体と音響マッチング部材との音速差の影響が抑制された被検体情報を得ることができる。
【実施例2】
【0078】
本実施形態を適用した光音響装置の一例について
図6を用いて説明する。なお、
図1に示す構成と同様の構成には原則として同一の参照番号を付して説明を省略する。
【0079】
実施例2は、ファントム表面で発生した光音響波の受信時間t
aより後の時間サンプリングデータの受信時間のみを変換することが実施例1とは異なる。
【0080】
また、音響波受信器17を被検体15に対して相対的に移動させる移動機構23を備える点が実施例1とは異なる。移動機構23を備えることにより光音響波の受信位置を変更することができ、複数の位置で光音響波を受信することができる。また、移動機構23は、音響波受信器17と同期させて光学系13も移動させている。なお、移動機構23の駆動は演算部20aにより制御されている。
【0081】
前述したように、被検体15の表面22と被検体内の光吸収体までの距離をd
b1、被検体15の表面22と音響波受信器17との距離をd
b2とすると、d
b1<d
b2となるように被検体15と音響波受信器17との位置関係を構成することが好ましい。すなわち、式(3)に示す近似式の精度が高くなるように被検体15と音響波受信器17との位置関係を構成することが好ましい。そのため、本実施例では、移動機構23は、d
b1<d
b2となるような位置で音響波受信器17が光音響波を受信できるように音響波受信器17を移動させる。さらに、移動機構23は音響波受信器17が各受信位置でd
b1<d
b2の関係となるように音響波受信器17を移動させる。なお、本実施例では、音響波受信器17の各受信素子とファントム表面までの距離を50mm以上離すことによりd
b1<d
b2の関係としている。
【0082】
本実施例においては、光源11として固体レーザーである755nmの光を発生するアレキサンドライトレーザーを用いた。ファントムは実施例1で使用した半球形状のウレタンファントムである。また、音響波受信器17は半球状の表面に512個の受信素子をスパイラル状に配置されたものを用いた。半球状の音響波受信器17内には音響マッチング部材18として水が存在し、その水を介してファントムと音響波受信器17は接触する。なお、この音響マッチング部材18である水は液体であるため、ファントムの形状に合わせて自由に変形する。
【0083】
まず、アレキサンドライトレーザーから波長755nmの光を照射する。そのときに得られる時系列の受信信号を記憶部20bに記憶する(S100)。
【0084】
次に、時系列の受信信号から、ウレタンファントム表面で発生した光音響波の受信時間t
aを算出する(S200)。本実施例では、時系列の受信信号と音響波受信器17のインパルス応答との相関値を算出し、相関係数が高い信号の内、最初に受信する信号をウレタンファントム表面で発生した光音響波の受信信号と判定した。また、ウレタンファントム表面で発生した光音響波の受信信号と判定された信号の受信時間は42.3μ秒であり、その時間をt
aとした。
【0085】
次に、演算部20aは、記憶部20bに記憶された時系列の受信信号に対して音響マッチング部材18内の音速c
aを用いた再構成処理を行う(S300)。このとき、演算部20aは、時系列の受信信号を時間t
aより後の各時間サンプリングデータの受信時間t1がt2=t
a+(t1−t
a)×c
b/c
aの関係式に基づいて変換されたものとして扱って再構成処理を行う。
【0086】
本実施例では20MHzでデータをサンプリングしており、全体のサンプリング点数は3048点である。20MHzでウレタンファントム表面で発生した光音響波の受信信号と判定された信号の受信時間:42.3μ秒をサンプリングするとサンプリング点数は846点となり、それ以降の点数は3048−846=2202点である。また、c
b/c
a=1409/1490=0.946である。そのため、演算部20aは、847〜3048点までの受信時間t1をt2=42.3μ秒+(t1−42.3μ秒)×0.946の関係式で変換した受信時間t2のデータを生成する。さらに演算部20aは、この変換された受信時間t2のデータ、記憶部20bに保存された時系列の受信信号、音響マッチング部材18内の音速c
aを用いて再構成処理を行う。なお、本実施例において演算部20aは、式(9)に示す再構成処理を行うことにより、
図5(a)に示す再構成画像を取得する。
【0087】
【数3】
【0088】
なお、本実施例に係る光音響装置は、音響波受信器17の移動領域が決定されたときにd
b1<d
b2となるか否かをユーザーに視覚的または聴覚的に通知する通知手段を備えていてもよい。例えば、通知手段としての表示装置21にd
b1<d
b2となるか否かを表示することによりユーザーに通知してもよい。また、通知手段としてのランプの色によってd
b1<d
b2となるか否かをユーザーに通知してもよい。また、通知手段としてのスピーカーから発する音によってd
b1<d
b2となるか否かをユーザーに通知してもよい。
【0089】
このようにユーザーは通知手段によりd
b1<d
b2となるか否かを判別することができる。そこで例えば、d
b1<d
b2とならないと判別した場合にユーザーはd
b1<d
b2となるように音響波受信器17の移動領域を再設定することができる。
【0090】
以上、本実施例では、時系列の受信信号から被検体表面で発生する光音響波の受信時間t
aを抽出し、t
a後の時間サンプリングデータの各受信時間を修正した。本実施例によれば、被検体の表面形状が分からない場合においても、大規模な装置構成の追加をすることなく、被検体と音響マッチング部材との音速差の影響が抑制された被検体情報を得ることができる。また、本実施例によれば、式(3)に示す近似式の精度が高くなるように音響波受信器の位置が移動機構により制御されるため、式(3)に示すt
bを用いて被検体情報を精度良く取得することができる。
【0091】
以上、特定の実施形態を説明したが、本発明はこれらの実施形態に限らず、特許請求の範囲を逸脱しない限りにおいて、種々の変形例、応用例も包含するものである。