(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6238745
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】含フッ素ポリマーをベースとするハイブリッド有機/無機複合体
(51)【国際特許分類】
C08G 77/02 20060101AFI20171120BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20171120BHJP
B01D 71/26 20060101ALI20171120BHJP
B01D 71/32 20060101ALI20171120BHJP
B01D 71/34 20060101ALI20171120BHJP
B01D 71/36 20060101ALI20171120BHJP
B01D 71/40 20060101ALI20171120BHJP
B32B 17/10 20060101ALI20171120BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20171120BHJP
C08G 77/442 20060101ALI20171120BHJP
C08G 79/00 20060101ALI20171120BHJP
C09D 7/12 20060101ALI20171120BHJP
C09D 123/00 20060101ALI20171120BHJP
C09D 127/12 20060101ALI20171120BHJP
C09D 127/14 20060101ALI20171120BHJP
C09D 127/16 20060101ALI20171120BHJP
C09D 127/18 20060101ALI20171120BHJP
C09D 129/00 20060101ALI20171120BHJP
C09D 133/14 20060101ALI20171120BHJP
C09D 183/02 20060101ALI20171120BHJP
C09D 185/00 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
C08G77/02
B01D71/02
B01D71/26
B01D71/32
B01D71/34
B01D71/36
B01D71/40
B32B17/10
B32B27/30 D
C08G77/442
C08G79/00
C09D7/12
C09D123/00
C09D127/12
C09D127/14
C09D127/16
C09D127/18
C09D129/00
C09D133/14
C09D183/02
C09D185/00
【請求項の数】9
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2013-501852(P2013-501852)
(86)(22)【出願日】2011年3月31日
(65)【公表番号】特表2013-530256(P2013-530256A)
(43)【公表日】2013年7月25日
(86)【国際出願番号】EP2011055019
(87)【国際公開番号】WO2011121078
(87)【国際公開日】20111006
【審査請求日】2014年2月26日
【審判番号】不服2016-4527(P2016-4527/J1)
【審判請求日】2016年3月28日
(31)【優先権主張番号】10159063.6
(32)【優先日】2010年4月2日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508305960
【氏名又は名称】ソルヴェイ・スペシャルティ・ポリマーズ・イタリー・エッセ・ピ・ア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】フリオ・ア・アブスレメ
(72)【発明者】
【氏名】リカルド・ピエリ
(72)【発明者】
【氏名】イヴァン・パジン
【合議体】
【審判長】
小柳 健悟
【審判官】
堀 洋樹
【審判官】
大島 祥吾
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−5951(JP,A)
【文献】
国際公開第96/26254(WO,A1)
【文献】
特開2004−250560(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G77/00-C08G79/14,C08F2/00-299/08,C08L1/00-101/16,C09D1/00-201/10,C09J1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
含フッ素ポリマーハイブリッド有機/無機複合体の製造方法であって:
− 式:
【化1】
(式中、R1、R2、R3は、それぞれ同一であっても互いに異なっていてもよく、独立に、水素原子またはC
1〜C
3炭化水素基であり、R
OHは、少なくとも1個の水酸基を有するC
1〜C
5炭化水素部分である)
の少なくとも1種の(メタ)アクリル系モノマー[モノマー(MA)]から誘導された繰り返し単位を含む少なくとも1種の含フッ素ポリマー[ポリマー(F)];および
− 式:
R’
4−m’E(OR’’)
m’
(式中、m’は、1〜4の整数であり、Eは、Si、Ti、およびZrからなる群から選択される金属であり、R’およびR’’は、それぞれ各出現ごとに、同一であっても互いに異なっていてもよく、1種またはそれ以上の官能基を有するかまたは有さないC
1〜18炭化水素基から独立に選択される)
の少なくとも1種の金属化合物[化合物(M)]
の混合物を準備する工程と、
− 前記ポリマー(F)の前記モノマー(MA)のR
OH基の少なくとも一部を前記化合物(M)の少なくとも一部と、溶融状態で;あるいは、 ポリマー(F)および化合物(M)の少なくとも一部が極性非プロトン性溶媒に溶解している溶液中で、
EがSiである場合には触媒として水または水および酸の混合物を添加することによって反応させて、ペンダント−(OR’’)
m’−1ER’
4−m’基(m’、E、R’、およびR’’は上述したものと同じである)を有するグラフトポリマーを得る工程と、
− 上述した化合物(M)および/またはペンダント−(OR’’)
m’−1ER’
4−m’基を加水分解および/または重縮合させて、無機ドメインを含む含フッ素ポリマーハイブリッド有機/無機複合体を得る工程と
を含む、方法。
【請求項2】
ポリマー(F)および化合物(M)を溶融状態で反応させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ポリマー(F)および化合物(M)を溶液中で反応させる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記混合物が少なくとも1種の無機フィラーをさらに含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法によって得られる含フッ素ポリマーハイブリッド有機/無機複合体の、ガラスおよび/またはセラミック材料を処理するための使用。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法によって得られる含フッ素ポリマーハイブリッド有機/無機複合体を含む層をガラスおよび/またはセラミック表面に塗工する工程を含む、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法によって得られる含フッ素ポリマーハイブリッド有機/無機複合体を含む層を介して含フッ素ポリマー層に結合したガラスおよび/またはセラミック基材を備える多層構造体を製造するための、請求項5に記載の使用。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法によって得られる含フッ素ポリマーハイブリッド有機/無機複合体の、電気化学用および/または分離プロセス用の膜の原料としての使用。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法によって得られる含フッ素ポリマーハイブリッド有機/無機複合体の、光起電力素子または有機発光素子のエレクトロルミネッセンス材料としての使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2010年4月2日に出願された欧州特許出願番号10159063.6の優先権を主張するものであり、当該出願の内容全体をあらゆる目的のために本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
【0002】
本発明は、無機ドメインと含フッ素ポリマー相との間に化学結合を有する、特定の含フッ素ポリマーをベースとするハイブリッド有機/無機複合体、その製造方法、ならびにその幾つかの使用および用途に関する。
【背景技術】
【0003】
有機および無機化合物をナノメートルスケールでハイブリッド化することは新規な材料を創成するための重要かつ発展的な方法である。有機ポリマーが無機固体中にナノまたは分子レベルで分散した有機−無機ポリマーハイブリッドは、独特の性質を有するため、科学的、技術的、および工業的に高い注目を集めている。
【0004】
有機−無機ポリマーハイブリッドを作り出すための最も有用かつ重要な手法は、金属アルコキシドを用いたゾルゲル法である。予め形成させておいた有機ポリマーの存在下で、反応条件を適切に制御しながら、金属アルコキシド、特にアルコキシシラン(例えば、テトラメトキシシラン(TMOS)またはテトラエトキシシラン(TEOS))を加水分解および重縮合させることによって、元の化合物と比較して改善された特性を有するハイブリッドを得ることが可能である。ポリマーによって、通常は脆い無機材料の靭性および加工性を向上させることができ、無機ネットワークによって、上記ハイブリッドの耐引掻性、機械特性、および表面特性を向上させることができる。
【0005】
含フッ素ポリマー、特にフッ化ビニリデンポリマーを出発物質としてゾルゲル技法を用いることにより作製されたハイブリッドは当技術分野において知られている。
【0006】
(非特許文献1)には、PVDFのDMFおよびガンマ−ブチロラクトン中溶液を触媒量のHClの存在下にTMOSと反応させることによって特定のPVDF/シリカハイブリッドを合成することが開示されている。
【0007】
しかし、高い分散能を備えるはずの無機ドメインがin situで形成するにも拘わらず、その有機相および無機相の界面で面分離が起こることがあり、これが脆弱部として作用して機械的性質に関する利点を失わせる可能性があり、かつ/またはこのことによって無機ドメインが大幅に「凝集」して均質性に関する利点(例えば、接着性および/または他の表面性)が失われる可能性がある。
【0008】
当該技術分野では、上述したゾルゲル法とは異なる技法を用いて、特定の有機ポリマーとその中に分散した特定の無機ドメインとの間に化学結合を確保する試みがなされてきた。
【0009】
(特許文献1)(旭化成株式会社)(2003年9月16日)には、有機ドメインが複数のカルボン酸基を有する水溶性または水分散性の有機ポリマーを含み、その有機ドメインおよび無機ドメインが、有機ポリマーのカルボン酸基を介して互いにイオン結合することによってイオン性架橋構造を形成している、有機ドメイン/無機ドメインハイブリッド材料が開示されている。このようなハイブリッドは、塩基性条件の水性媒体中において、上に詳述した有機ポリマーおよび特定のメタケイ酸陰イオンを、特定の2価の金属陽イオン(これがカルボン酸基およびケイ酸基に同時にイオン的に化学結合することによって、イオン結合性網目構造(ionic network)の形成を確実にする)の存在下で反応させることによって製造されている。
【0010】
同様に、(特許文献2)(旭化成株式会社)(2007年7月17日)に開示されている類似の手法では、有機ポリマーはさらに、無機ドメインのメタケイ酸基にイオン結合するカチオン性官能基(例えば、第四級アンモニウム基)を含むことができる。
【0011】
しかし、これらの手法は、含フッ素ポリマーに適したものとして提案されているわけではない。
【0012】
(非特許文献2)のsection3.3.2には、特に有機および無機部分の相互貫入網目構造を形成することにより作製される複合体膜が開示されている。その例として、予め形成させておいたフッ素系アイオノマー膜であるNAFION(登録商標)上でゾルゲル法によりテトラエトキシシラン(TEOS)を酸触媒加水分解/重合させることによって、Nafion(登録商標)−シリカハイブリッド膜が生成すると述べられている。
【0013】
(特許文献3)(ダイキン工業株式会社)(2004年2月18日)には:
a)加水分解性金属アルコキシド(特に、TEOSを用いることができる);
b)パーフルオロアルキル基および上述の加水分解性金属化合物との反応性を有する官能基を含む含フッ素化合物;ならびに
c)接着性向上剤
を含む表面処理剤が開示されている。
【0014】
好ましい実施形態においては、化合物b)は、式:
【化1】
(式中、Yは、Hまたは低級アルキル基であり、mおよびnは、0〜2であり、R1は、加水分解性基または塩素原子であり、R2は、水素原子または不活性な1価の基であり、Mは、金属であるかまたはイソシアネート基、カルボキシル基、水酸基、グリシジル基、ホスフェート基、アミノ基、およびスルホネート基からなる群から選択される反応基である)
の官能基を含むパーフルオロポリエーテルである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許第6620516号明細書
【特許文献2】米国特許第7244797号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第1389634A号明細書
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】生越友樹(OGOSHI,Tomoki)ら、Synthesis of Poly(vinylidene fluoride)(PVDF)/Silica Hybrods having interpenetrating polymer network structure by using crystallization between PVDF chains.(A)J.polym.sci.,A,Polym.chem..2005,vol.43,p.3543−3550
【非特許文献2】SOUZY,Renaudら,Functional Fluoropolymers for fuel cell membranes.,Prog.Polym.Sci..2005,vol.30,p.644−687
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
したがって、当該技術分野においては、先行技術のハイブリッドの欠点を克服することができる、有機相および無機相が共有結合を介して互いに化学結合している、含フッ素ポリマーをベースとするハイブリッド有機/無機複合体が依然として求められている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
したがって本発明は、含フッ素ポリマーハイブリッド有機/無機複合体の製造方法を提供するものであり、上記方法は:
(i)
−式:
【化2】
(式中、R1、R2、R3は、それぞれ同一であっても互いに異なっていてもよく、独立に、水素原子またはC
1〜C
3炭化水素基であり、R
OHは、水素原子または少なくとも1個の水酸基を有するC
1〜C
5炭化水素部分である)の少なくとも1種の(メタ)アクリル系モノマー[モノマー(MA)]から誘導された繰り返し単位を含む少なくとも1種の含フッ素ポリマー[ポリマー(F)]および
−式:
X
4−mAY
m
(式中、mは、1〜4、特定の実施形態によれば1〜3の整数であり、Aは、Si、Ti、およびZrからなる群から選択される金属であり、Yは、加水分解性基であり、Xは、場合により1種またはそれ以上の官能基を含む炭化水素基である)の少なくとも1種の金属化合物[化合物(M)]
の混合物を提供することと;
−上記ポリマー(F)の上記モノマー(MA)のR
OH基の水酸基の少なくとも一部を上記化合物(M)の少なくとも一部と反応させることにより、ペンダント−Y
m−1AX
4−m基(m、Y、A、およびXは上記と同義)を含むグラフトポリマーを得ることと;
−上に詳述した化合物(M)および/またはペンダント−Y
m−1AX
4−m基を加水分解および/または重縮合させることにより、無機ドメインを含む含フッ素ポリマーハイブリッド有機/無機複合体を得ることと
を含む。
【0019】
さらに本発明は、無機ドメインを含む含フッ素ポリマーハイブリッド有機/無機複合体に関し、上記ハイブリッドは:
−上に詳述した少なくとも1種のポリマー(F)および
−上に詳述した少なくとも1種の化合物(M)
を反応させることにより得ることができ、無機ドメインは、モノマー(MA)のR
OH基の少なくとも一部と化合物(M)の少なくとも一部とを反応させることによってポリマー(F)にグラフト化されている。
【発明の効果】
【0020】
驚くべきことに、本発明の含フッ素ポリマーハイブリッド有機/無機複合体は、特にガラスもしくはセラミック材料への付着性(adhesion)および/または耐引掻性の向上に関して特性が改善されていることが見出された。また、官能性化合物(M)を使用する場合には、例えば疎水性またはイオン伝導性という意味で機能することができる含フッ素ポリマーハイブリッド有機/無機複合体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、モノマー(MA)のR
OH基の−OH基が、化合物(M)の加水分解性基と反応することによって、化合物(M)部分とモノマー(MA)部分との間に共有結合が生成することを示す図式である。
【
図2】
図2は、化合物(M)の加水分解性基が、ポリマー(F)の鎖から構成されるポリマードメイン(2)と、化合物(M)から誘導された残基から構成される無機ドメイン(1)とを含むハイブリッド複合体が生成するように反応することを示す図式である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のポリマー(F)は含フッ素ポリマー、すなわちモノマー(MA)から誘導された繰り返し単位に加えて、少なくとも1個のフッ素原子を有する少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマーから誘導された繰り返し単位を含むポリマーである。
【0023】
「少なくとも1種の(メタ)アクリル系モノマー(MA)」という用語は、ポリマー(F)が、1種またはそれ以上の上述した(メタ)アクリル系モノマー(MA)から誘導された繰り返し単位を含むことができることを意味するものと理解される。本発明においては、残りの本文における「(メタ)アクリル系モノマー(MA)」および「モノマー(MA)」という表現は、複数形および単数形の両方すなわち1種またはそれ以上の(メタ)アクリル系モノマー(MA)を指すものと理解される。
【0024】
ポリマー(F)は、上記モノマー(MA)から誘導された繰り返し単位を、好ましくは少なくとも0.05、より好ましくは少なくとも0.1、よりさらに好ましくは少なくとも0.2モル%含む。
ポリマー(F)は、上記モノマー(MA)から誘導された繰り返し単位を、好ましくは最大で10、より好ましくは最大で7.5モル%、よりさらに好ましくは最大で5モル%、最も好ましくは最大で3モル%含む。
【0025】
ポリマー(F)中の(MA)モノマー繰り返し単位の平均モル百分率の測定は任意の好適な方法で実施することができる。特に、酸−塩基滴定法(例えば、アクリル酸含有量の測定によく適している)、NMR法(側鎖に脂肪族水素を有する(MA)モノマーの定量化に適切である)、ポリマー(F)の製造中に供給した全(MA)モノマーおよび未反応の残留(MA)モノマーに基づく重量差を挙げることができる。
【0026】
親水性(メタ)アクリル系モノマー(MA)は、好ましくは、式:
【化3】
(式中、R1、R2、R
OHはそれぞれ上で定義したものと同じ意味を有し、R3は水素であり;より好ましくは、R1、R2、R3は、水素であり、R
OHは上記と同義である)に従う。
【0027】
親水性(メタ)アクリル系モノマー(MA)の非限定的な例は、特に、アクリル酸、メタクリル酸、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチルヘキシル(メタ)アクリレートである。
【0028】
モノマー(MA)は、より好ましくは:
−式:
【化4】
のヒドロキシエチルアクリレート(HEA)、
−式:
【化5】
のいずれかの2−ヒドロキシプロピルアクリレート(HPA)、
−式:
【化6】
のアクリル酸(AA)、
−およびこれらの混合物から選択される。
【0029】
最も好ましくは、モノマー(MA)は、HPAおよび/またはHEAである。
【0030】
より好ましくは、本発明のポリマー(F)は、上に詳述したモノマー(MA)から誘導された繰り返し単位に加えて:
−モノマー(MA)とは異なる、少なくとも1個のフッ素原子を含む少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマー(含フッ素モノマー)から誘導された繰り返し単位と、
−モノマー(MA)とは異なる、少なくとも1個の水素原子を含む少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマー(以下、「含水素モノマー」という)から誘導された繰り返し単位と
を含む含水素含フッ素ポリマーである。
【0031】
含フッ素モノマーおよび含水素モノマーは、同一のモノマーであってもよいし異なるモノマーであってもよい。
【0032】
好適な含フッ素コモノマーの非限定的な例は、特に:
−C
3〜C
8パーフルオロオレフィン(テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロペン等);
−C
2〜C
8含水素含フッ素オレフィン(フッ化ビニル、1,2−ジフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン等);
−式CH
2=CH−R
f0(式中、R
f0は、C
1〜C
6パーフルオロアルキル)に従うパーフルオロアルキルエチレン;
−クロロ−および/またはブロモ−および/またはヨード−C
2〜C
6フルオロオレフィン(クロロトリフルオロエチレン等);
−式CF
2=CFOR
f1(式中、R
f1は、C
1〜C
6フルオロ−またはパーフルオロアルキル、例えば、CF
3、C
2F
5、C
3F
7)に従う(パー)フルオロアルキルビニルエーテル;
−CF
2=CFOX
0(パー)フルオロ−オキシアルキルビニルエーテル(式中、X
0は、C
1〜C
12アルキルまたは1個もしくはそれ以上のエーテル基を有するC
1〜C
12オキシアルキルもしくはC
1〜C
12(パー)フルオロオキシアルキル(パーフルオロ−2−プロポキシ−プロピル等));
−式CF
2=CFOCF
2OR
f2(式中、R
f2は、C
1〜C
6フルオロ−もしくはパーフルオロアルキル(例えば、CF
3、C
2F
5、C
3F
7)または1個もしくはそれ以上のエーテル基を有するC
1〜C
6(パー)フルオロオキシアルキル(−C
2F
5−O−CF
3等))に従う(パー)フルオロアルキルビニルエーテル;
−式CF
2=CFOY
0(式中、Y
0は、C
1〜C
12アルキルもしくは(パー)フルオロアルキルまたは1個もしくはそれ以上のエーテル基を有するC
1〜C
12オキシアルキルもしくはC
1〜C
12(パー)フルオロオキシアルキルであり、Y
0は、カルボン酸またはスルホン酸基を、酸、酸ハライド、または塩形態で含む)に従う官能性(パー)フルオロ−オキシアルキルビニルエーテル;
−フルオロジオキソール、特にパーフルオロジオキソール
である。
【0033】
好適な含水素モノマーの非限定的な例は、特に:
−C
2〜C
8含水素含フッ素オレフィン(フッ化ビニル、1,2−ジフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン);
−式CH
2=CH−R
f0(R
f0は、C
1〜C
6パーフルオロアルキル)に従うパーフルオロアルキルエチレン;
−フッ素非含有モノマー(エチレン、プロピレン、ビニルモノマー(酢酸ビニル等)、アクリル系モノマー(メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル等)、およびスチレンモノマー(スチレン、p−メチルスチレン等))
である。
【0034】
ポリマー(F)は、含水素モノマーから誘導された繰り返し単位を、好ましくは1モル%超、好ましくは5モル%超、より好ましくは10モル%超含む。
【0035】
ポリマー(F)は、含フッ素モノマーから誘導された繰り返し単位を、好ましくは25モル%超、好ましくは30モル%超、より好ましくは40モル%超含む。
【0036】
含フッ素モノマーは、1種またはそれ以上の他のハロゲン原子(Cl、Br、I)をさらに含むことができる。含フッ素モノマーが水素原子を含まない場合は、パー(ハロ)フルオロモノマーと称する。含フッ素モノマーが少なくとも1個の水素原子を含む場合は、含水素含フッ素モノマーと称する。
【0037】
含フッ素モノマーが、例えば、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、フッ化ビニル等の含水素含フッ素モノマーである場合、本発明の含水素含フッ素ポリマーは、モノマー(MA)から誘導された繰り返し単位以外に上記含水素含フッ素モノマーのみから誘導された繰り返し単位を含むポリマーとすることができ、あるいは、上記モノマー(MA)、上記含水素含フッ素モノマー、および少なくとも1種の他のモノマーから誘導された繰り返し単位を含む共重合体とすることもできる。
【0038】
含フッ素モノマーが、例えば、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル等のパー(ハロ)フルオロモノマーである場合、本発明の含水素含フッ素ポリマーは、上記モノマー(MA)から誘導された繰り返し単位、上記パー(ハロ)フルオロモノマーから誘導された繰り返し単位、および、上記モノマー(MA)とは異なる少なくとも1種の他の含水素モノマー(例えば、エチレン、プロピレン、ビニルエーテル、アクリル系モノマー、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、フッ化ビニル等)から誘導された繰り返し単位を含むポリマーである。
【0039】
好ましいポリマー(F)は、含フッ素モノマーが、テトラフルオロエチレン(TFE)、フッ化ビニリデン(VDF)、およびクロロトリフルオロエチレン(CTFE)からなる群から選択されるものである。
【0040】
最も好ましくは、本発明のポリマー(F)は:
(F−1)モノマー(MA)から誘導された繰り返し単位、TFEおよびCTFEから選択される少なくとも1種のパー(ハロ)フルオロモノマーから誘導された繰り返し単位、ならびにエチレン、プロピレン、およびイソブチレンから選択される少なくとも1種の含水素コモノマーから誘導された繰り返し単位を含む(場合により、1種またはそれ以上のさらなるコモノマーを、典型的には、TFEおよび/またはCTFEならびに上記含水素コモノマーの合計量を基準として0.1〜30モル%の量で含む)ポリマー;
(F−2)モノマー(MA)から誘導された繰り返し単位、VDFから誘導された繰り返し単位を含み、場合により、VDFとは異なる1種またはそれ以上の含フッ素モノマーから誘導された繰り返し単位を含んでいてよいVDFポリマー
からなる群から選択される。
【0041】
上に詳述したポリマー(F−1)は、典型的には、パー(ハロ)フルオロモノマー/含水素コモノマーのモル比が30:70〜70:30である。
【0042】
ポリマー(F−1)においては、含水素コモノマーは、好ましくはエチレンを、場合により他の含水素コモノマーと一緒に含む。
【0043】
(F−1)型のポリマーであって、パー(ハロ)フルオロモノマーが主としてCTFEであるかまたはCTFEのみであるポリマーは、本明細書においては以後ECTFE共重合体として区別することとし、(F−1)型ポリマーであって、パー(ハロ)フルオロモノマーが主としてTFEであるかまたはTFEのみであるポリマーは、本明細書においては、以後、ETFE共重合体として区別することとする。
【0044】
ECTFEおよびETFE共重合体(F−1)は、好ましくは:
(a)エチレン(E)を、35〜65%、好ましくは45〜55%、より好ましくは48〜52モル%;
(b)クロロトリフルオロエチレン(CTFE)およびテトラフルオロエチレン(TFE)またはこれらの混合物の少なくとも1種を、65〜35モル%、好ましくは55〜45モル%、より好ましくは52〜48モル%;
(c)モノマー(MA)を、0.05〜10モル%、好ましくは0.1〜7.5モル%、より好ましくは0.2〜5.0モル%
含む。
【0045】
F−1ポリマーの中ではECTFEポリマーが好ましい。
【0046】
VDFポリマー(F−2)は、好ましくは:
(a’)フッ化ビニリデン(VDF)を、少なくとも60モル%、好ましくは少なくとも75モル%、より好ましくは少なくとも85モル%;
(b’)場合により、フッ化ビニル(VF
1)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ヘキサフルオロプロペン(HFP)、テトラフルオロエチレン(TFE)、トリフルオロエチレン(TrFE)、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)、およびこれらの混合物から選択される含フッ素コモノマーを、0.1〜15モル%、好ましくは0.1〜12モル%、より好ましくは0.1〜10モル%;および
(c)モノマー(MA)を、0.05〜10%、好ましくは0.1〜7.5%、より好ましくは0.2〜3.0モル%
含む。
【0047】
式X
4−mAY
mの化合物(M)は、XおよびYの基のいずれか、好ましくは少なくとも1個のX基上に、1種またはそれ以上の官能基を含むことができる。
【0048】
化合物(M)が少なくとも1種の官能基を含む場合は、これを官能性化合物(M)と称することとし;XおよびY基がいずれも官能基を含まない場合は、化合物(M)を非官能性化合物(M)と称することとする。
【0049】
本発明の方法および本発明のハイブリッド複合体の製造には、1種またはそれ以上の官能性化合物(M)および1種またはそれ以上の非官能性化合物(M)の混合物を使用することができる。それ以外では、官能性化合物(M)または非官能性化合物(M)を別々に使用することができる。
【0050】
官能性化合物(M)は、有利には、官能基を有するハイブリッド複合体を提供することができ、それによってハイブリッド複合体の化学的性質および特性が本来のポリマー(F)および本来の無機相よりもさらに改質される。
【0051】
この目的のためには、一般に、式X
4−mAY
mの化合物(M)のX基のいずれかが1種またはそれ以上の官能基を含むことが好ましい。
【0052】
化合物(M)の加水分解性基Yの選択は、適切な条件下で−O−A≡結合を形成できるものであれば特に制限されず、上記加水分解性基は、特に、ハロゲン(特に塩素原子)、ヒドロカルボキシ基、アクリロキシ基、水酸基とすることができる。
【0053】
金属化合物[化合物(M)]は、好ましくは、式:
R’
4−m’E(OR’’)
m’
(式中、m’は、1〜4、特定の実施形態によれば1〜3の整数であり、Eは、Si、Ti、およびZrからなる群から選択される金属であり、R’およびR’’は、各出現毎に、同一であっても互いに異なっていてもよく、場合により1種またはそれ以上の官能基を含んでいてもよいC
1〜18炭化水素基から独立に選択される)に従う。
【0054】
官能基の非限定的な例としては、エポキシ基、カルボン酸基(その酸、エステル、アミド、無水物、塩、またはハライド形態)、スルホン酸基(その酸、エステル、塩、またはハライド形態)、水酸基、リン酸基(その酸、エステル、塩、またはハライド形態)、チオール基、アミン基、第四級アンモニウム基、エチレン性不飽和基(ビニル基等)、シアノ基、尿素基、有機シラン基、芳香族基を挙げることができる。
【0055】
疎水性またはイオン伝導性に関する機能を発揮することができる含フッ素ポリマーハイブリッド有機/無機複合体を製造することを目的とする場合、化合物(M)の官能基は、好ましくは、カルボン酸基(その酸、エステル、アミド、無水物、塩、またはハライド形態)、スルホン酸基(その酸、エステル、塩、またはハライド形態)、水酸基、リン酸基(その酸、エステル、塩、またはハライド形態)、アミン基、および第四級アンモニウム基から;最も好ましくは、カルボン酸基(その酸、エステル、アミド、無水物、塩、またはハライド形態)およびスルホン酸基(その酸、エステル、塩、またはハライド形態)から選択されるであろう。
【0056】
金属化合物[化合物(M)]は、好ましくは、式:
【化7】
(式中、m
*は、2〜3の整数であり、E
*は、Si、Ti、およびZrからなる群から選択される金属であり、R
Aは、各出現ごとに、同一であっても互いに異なっていてもよい、場合により1種またはそれ以上の官能基を含んでいてもよいC
1〜12炭化水素基であり、R
Bは、各出現ごとに、同一であっても互いに異なっていてもよい、C
1〜C
5直鎖または分岐アルキル基であり、好ましくは、R
Bはメチルまたはエチルである)に従う。
【0057】
官能性化合物(M)の例は、特に、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、式CH
2=CHSi(OC
2H
4OCH
3)
3のビニルトリスメトキシエトキシシラン、式:
【化8】
の2−(3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン)、
式:
【化9】
のグリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、
式:
【化10】
のグリシドキシプロピルトリメトキシシラン、
式:
【化11】
のメタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、
式:
【化12】
のアミノエチルアミノプロピルメチルジメトキシシラン(aminoethylaminpropylmethyldimethoxysilan)、
式:H
2NC
2H
4NHC
3H
6Si(OCH
3)
3
のアミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン(aminoethylaminpropyltrimethoxysilane)、
3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、3−クロロイソブチルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、n−(3−アクリロキシ−2−ヒドロキシプロピル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、(3−アクリロキシプロピル)ジメチルメトキシシラン、(3−アクリロキシプロピル)メチルジクロロシラン、(3−アクリロキシプロピル)メチルジメトキシシラン、3−(n−アリルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、2−(4−クロロスルホニルフェニル)エチルトリメトキシシラン、2−(4−クロロスルホニルフェニル)エチルトリクロロシラン、カルボキシエチルシラントリオールおよびそのナトリウム塩、式:
【化13】
のトリエトキシシリルプロピルメラミン酸、式HOSO
2−CH
2CH
2CH
2−Si(OH)
3の3−(トリヒドロキシシリル)−1−プロパン−スルホン酸、N−(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン三酢酸およびそのナトリウム塩、式:
【化14】
の3−(トリエトキシシリル)プロピルコハク酸無水物、式H
3C−C(O)NH−CH
2CH
2CH
2−Si(OCH
3)
3のアセトアミドプロピルトリメトキシシラン、式Ti(A)
X(OR)
Y(式中、Aは、アミン置換アルコキシ基、例えば、OCH
2CH
2NH
2であり、Rは、アルキル基であり、xおよびyは、x+y=4となる整数である)のアルカノールアミンチタネートである。
【0058】
非官能性化合物(M)の例は、特に、トリエトキシシラン、トリメトキシシラン、テトラメチルチタネート、テトラエチルチタネート、テトラ−n−プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−イソブチルチタネート、テトラ−tert−ブチルチタネート、テトラ−n−ペンチルチタネート、テトラ−n−ヘキシルチタネート、テトライソオクチルチタネート、テトラ−n−ラウリルチタネート、テトラエチルジルコネート、テトラ−n−プロピルジルコネート、テトライソプロピルジルコネート、テトラ−n−ブチルジルコネート、テトラ−sec−ブチルジルコネート、テトラ−tert−ブチルジルコネート、テトラ−n−ペンチルジルコネート、テトラ−tert−ペンチルジルコネート、テトラ−tert−ヘキシルジルコネート、テトラ−n−ヘプチルジルコネート、テトラ−n−オクチルジルコネート、テトラ−n−ステアリルジルコネートである。
【0059】
本発明の方法は、上記ポリマー(F)の上記モノマー(MA)のR
OH基の水酸基の少なくとも一部を上記化合物(M)の少なくとも一部と反応させることによってペンダント−Y
m−1AX
4−m基(m、Y、AおよびXは上記と同義である)を有するグラフトポリマーを得ることを含む。
【0060】
モノマー(MA)のR
OH基の−OH基は、化合物(M)の加水分解性基と反応することにより、化合物(M)部分とモノマー(MA)部分との間に、特に
図1の図式に示すように共有結合を生成することができる。
【0061】
上述したポリマー(F)の水酸基と化合物(M)との反応には数種類の技法をうまく用いることができる。
【0062】
ポリマー(F)および化合物(M)の反応は特に溶融状態で行うことができ、この目的には、押出機、溶融混練機、または他の装置等の溶融物配合機(melt compounder)を有利に使用することができる。
【0063】
ポリマー(F)および化合物(M)の反応は、特に溶液中でも行うことができ、この実施形態によれば、ポリマー(F)および化合物(M)は少なくとも一部が溶媒に溶解している。溶解は室温下または加熱下のいずれかで行うことができる。溶媒の選択は、ポリマー(F)および化合物(M)の両方を効率的に溶解させ、かつポリマー(F)の水酸基および化合物(M)の加水分解性基の反応を阻害しないものであれば重要ではない。
【0064】
通常は、極性非プロトン性溶媒を選択することが好ましいであろう。このような溶媒の中でも、特に、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、ジメチルスルホキシド(DMSO)、リン酸トリエチル、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、アセトン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、グリコールジエーテル、グリコールエーテル−エステル、酢酸n−ブチル、シクロヘキサノン、ジイソブチルケトン、ブチロラクトン、イソホロン、プロピレンカーボネート、グリセリルトリアセテート、フタル酸ジメチルを挙げることができる。
【0065】
本発明の実施形態によれば、混合物は、化合物(M)およびポリマー(F)に加えて、少なくとも1種の無機フィラーをさらに含むことができる。
【0066】
無機フィラーは、通常は、混合物中に粒子形態で提供される。
【0067】
無機フィラー粒子は、通常は、平均粒度が0.001μm〜1000μm、好ましくは0.01μm〜800μm、より好ましくは0.03μm〜500μmである。
【0068】
無機フィラーの選択は特に制限されないが、一般には、無機フィラーがその表面に化合物(M)と反応する基を有することが好ましい。
【0069】
表面反応性基の中でも特に水酸基が挙げられる。
【0070】
この理論に束縛されるわけではないが、本出願人は、化合物(M)の少なくとも一部と無機フィラーの上記表面反応性基の少なくとも一部との反応は、化合物(M)の少なくとも一部とモノマー(MA)のR
OH基の少なくとも一部との反応と同時に行うことができ、こうすることによって、その後に続く加水分解/重縮合ステップにおいて、ポリマー(F)と無機フィラーとの間に、化合物(M)から誘導された無機ドメインを介した化学結合が形成されやすくなると考えている。
【0071】
本発明の方法において好適に使用される無機フィラーの中では、無機酸化物(酸化物混合を含む)、金属硫酸塩、金属炭酸塩、金属硫化物等を挙げることができる。
【0072】
金属酸化物の中では、SiO
2、TiO
2、ZnO、Al
2O
3を挙げることができる。
【0073】
本発明のこの実施形態の状況で特に良好な結果が得られる化合物の種類は、特に、ケイ酸塩、ケイ酸アルミニウム、およびケイ酸マグネシウムであり、いずれも場合によりナトリウム、カリウム、鉄、リチウム等のさらなる金属を含んでいてよい。
【0074】
これらのケイ酸塩、ケイ酸アルミニウム、およびケイ酸マグネシウムは、一般に、層状構造を有することが知られている。
【0075】
これらのケイ酸塩、ケイ酸アルミニウム、およびケイ酸マグネシウム(いずれも場合により、ナトリウム、カリウム、鉄、リチウム等のさらなる金属を含んでいてよい)は、特に、スメクタイトクレー(smectic clay)であり、天然由来のもの、例えば、特に、モンモリロナイト、ソーコナイト、バーミキュライト、ヘクトライト、サポナイト、ノントロナイト等を用いることが可能である。別法として、ケイ酸塩、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム(いずれも場合により、ナトリウム、カリウム、鉄、リチウム等のさらなる金属を含んでいてよい)は、合成粘土、特に、フルオロヘクトライト、ヘクトライト、ラポナイトから選択することができる。
【0076】
少なくとも1つの次元が100nm未満、好ましくは50nm未満、より好ましくは10nm未満である上述した層状ケイ酸塩、ケイ酸アルミニウム、およびケイ酸マグネシウムの粒子を用いることにより最良の結果が得られる。
【0077】
この実施形態によれば、本発明の含フッ素ポリマーハイブリッド有機/無機複合体は、上記無機フィラーを含む。上記無機フィラーは、典型的には、本発明の複合体の無機ドメインの中に含まれる。
【0078】
本方法は、上に詳述した化合物(M)および/またはペンダント−Y
m−1AX
4−m基を加水分解および/または重縮合させることによって、無機ドメインを含む含フッ素ポリマーハイブリッド有機/無機複合体を生成させる工程をさらに含む。
【0079】
加水分解/重縮合は、ポリマー(F)の水酸基および化合物(M)を反応させるステップと同時に実施することができ、または上記反応が起こった後に実施することもできる。
【0080】
典型的には、特にA=Siの化合物の場合、この加水分解/重縮合は、適切な触媒/反応体を添加することにより開始される。通常は、この反応を促進するために水または水および酸の混合物を使用することができる。
【0081】
酸の選択は特に制限されず、有機および無機酸の両方を使用することができる。その中でもHClは本発明の方法に使用することができる好ましい酸である。
【0082】
ポリマー(F)および化合物(M)を溶融状態で反応させる場合、加水分解/重縮合を促進するために水蒸気を、場合により揮発性酸と組み合わせて注入することが好ましい方法であろう。
【0083】
ポリマー(F)および化合物(M)の反応を溶液中で行う場合は、加水分解/重縮合を促進するために、水性媒体、好ましくは酸を含む水性媒体を添加することが好ましい方法であろう。
【0084】
この加水分解/重縮合は室温で行うこともできるが、通常はこのステップを50℃を超える温度に加熱して行うことが好ましい。
【0085】
溶融状態で反応を行う場合、温度は、ポリマー(F)の融点に応じて150〜250℃の範囲となるであろう。溶液中で反応を行う場合は、温度は溶媒の沸点を考慮して選択されるであろう。通常は、50〜150℃、好ましくは60℃〜120℃の温度が好ましいであろう。
【0086】
このステップにおいて、化合物(M)の加水分解性基は、特に
図2の図式に示すように、ポリマー(F)の鎖から構成されるポリマードメイン(2)と、化合物(M)から誘導された残基から構成される無機ドメイン(1)とを含むハイブリッド複合体が生成するように反応することになることが理解される。
【0087】
無機ドメインを含む含フッ素ポリマーハイブリッド有機/無機複合体は標準的な方法で取り出す(recover)することができ、これは各種反応ステップに用いられる技法に応じて異なるであろう。
【0088】
本発明のさらなる他の態様は、本発明の含フッ素ポリマーハイブリッド有機/無機複合体の異なる使用分野における使用にも関する。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の一態様によれば、本発明の含フッ素ポリマーハイブリッド有機/無機複合体は、ガラスおよび/またはセラミック材料の処理に使用される。特に本発明は、ガラスおよび/またはセラミック表面に上記複合体を含む層を塗工(coating)することを含む、上記複合体の使用に関する。本発明の複合体を含む上記層は、美装仕上げとして、特に、可能性としては、顔料または他のフィラーとの混合物で使用することができ、あるいは飛散防止塗膜として使用することができる。
【0090】
さらに、本実施形態の範囲には、上に定義した複合体を含む層によって含フッ素ポリマー層に結合しているガラスおよび/またはセラミック基材を備える多層構造体を製造するための上記複合体の使用も包含される。
【0091】
さらに、本発明の複合体は、様々な基材に耐引掻性を付与するための塗膜として使用することができる。本発明の複合体を上首尾に塗工することができる材料の選択は特に制限されないが、一般にはプラスチック材料が好ましいであろうことが理解される。
【0092】
さらに、本発明の複合体、特に、ポリマー(F)および官能性化合物(M)を反応させることにより得られる複合体は、電気化学用途および/または分離プロセスに用いられる膜を製造するための原料として使用することができる。特に、この使用に好ましい複合体は、その製造に使用される官能性化合物(M)が、カルボン酸基(その酸、エステル、アミド、無水物、塩、またはハライド形態)、スルホン酸基(その酸、エステル、塩、またはハライド形態)、水酸基、リン酸基(その酸、エステル、塩、またはハライド形態)、アミン基、および第四級アンモニウム基からなる群;好ましくは、カルボン酸基(その酸、エステル、アミド、無水物、塩、またはハライド形態)およびスルホン酸基(その酸、エステル、塩、またはハライド形態)からなる群から選択される官能基を含むものである。この実施形態の範囲内において、本発明の複合体は、リチウム電池用セパレータの製造、燃料電池のイオン伝導膜の製造、濾過膜の製造に使用することができる。
【0093】
さらに、本発明の複合体、特に、ポリマー(F)および官能性化合物(M)を反応させることによって得ることができる複合体は、光起電力素子または有機発光素子のエレクトロルミネッセンス材料として使用することができる。
【0094】
この使用に特に好ましい複合体は、その製造に使用される官能性化合物(M)が、特に、正孔輸送能、電子輸送能、発色団等の電気光学特性を有する官能基を含むものである。これらの基の中でも、カルバゾール、オキサジアゾール、テトラフェニレンテトラミン、ジシアノメチレン−4−H−ピラン、ナフタルイミド基を含む官能基を挙げることができる。
【0095】
この場合は、本発明の複合体が、透明性、良好な付着性(adhesion)、バリア性、耐食性、屈折率調整の容易さ、調整可能な機械特性、意匠性等の性質を兼ね備えていることを利用して光学分野に用いられている。
【0096】
SANCHEZ,Clementら,Optical Properties of Functional Hybrid Organic−Inorganic Nanocomposites’.,Advanced Materials,3/12/2003,vol.15,no.23,p.1969−1994の概説においては、電気光学特性を有する官能基を含む官能性化合物(M)から作製される本発明の複合体に可能な用途が幅広く提示されている。
【0097】
さらに、本発明の複合体は、表面水酸基を有する面の塗工に使用することができる。この場合、化合物(M)が被塗工面と化学結合を確立することができるように、加水分解/重縮合段階の最中に複合体を適用することができる。この手法の範囲内においては、特にセルロース系の面を使用することによって、本発明の複合体を含む対応する塗工面を生成させることができる。基材の中でも好適な基材として、繊維製品、布帛(例えば、衣服用)、木製部品(例えば、家具用)、紙(例えば、包装用)を挙げることができる。
【0098】
本明細書に援用された特許、特許出願、および刊行物の任意の開示内容が、専門用語を不明瞭にし兼ねないほど本特許出願の記載と矛盾する場合は、本記載を優先するものとする。
【0099】
ここで以下の実施例を参照しながら本発明を説明するが、これらの実施例は単に例示を目的とするものであって、本発明を制限するものではない。
【実施例】
【0100】
[調製例1]
ステップi)VDF−HEA共重合体の製造
回転数300rpmで回転する撹拌翼を備えた80リットルの反応器に以下の成分を順次導入した:
−脱塩水:52335g、
−懸濁剤17.9g(DOW ChemicalからのMethocel K100GR)。
【0101】
反応器を真空引きし、1バールのN2で加圧した。反応器にヒドロキシエチルアクリレート(HEA)(21.5g)を導入した後、過ピバリン酸t−アミルのイソドデカン溶液(濃度75重量%)136gおよびVDF 22646gを導入した。次いで反応器を設定温度である52℃になるまで徐々に昇温し、これに対応する圧力である120バールを、HEAの水溶液(20g/l)を供給することにより一定に維持した。
【0102】
590分後、HEA水溶液15 lを装入した後、反応器を開放することにより重合を停止した。ポリマーを濾過により回収し、脱イオン水中に懸濁させ、再び濾過した。50℃のオーブンで乾燥させた後、HEA含有量が1.1モル%であり、メルトインデックスが11.7g/10分(230℃/5Kg)であるVDF−HEA共重合体18.3Kgを得た。
【0103】
ステップii)ハイブリッドVDF−HEA/シリカ複合体の製造
ステップi)で得た共重合体の粉末1.8グラムをN−メチルピロリドン(NMP)16.2グラムに溶解した。次いでこの溶液を撹拌しながらTEOS 0.693グラムを滴下し、次いでHCl水溶液(0.1M)0.333mlを加え、混合物を60℃で2時間撹拌することにより確実にゾルゲル反応(TEOSを加水分解および重縮合)させてハイブリッドVDF−HEA/シリカ複合体の透明な溶液が得られるようにした。TEOSが完全に加水分解/重縮合してSiO
2になったと仮定した場合のシリカ含有量は複合体に対し10重量%であった。
【0104】
ステップiii)ハイブリッドVDF−HEA/シリカ複合体によるガラス基材の塗工
ステップii)で得た溶液をドクターブレード方式でガラス板上にキャストした。120℃の真空下で2時間かけて溶媒を除去した。結果として得られたフィルムは平滑かつ均質であった。膜厚は約30〜40μmであった。
【0105】
ガラス基材およびハイブリッド複合体膜の付着をISO 2409標準に準じて測定した。
【0106】
実施例1の膜に関し得られたデータに加えて、(TEOSが完全に転化したと仮定して)シリカ30%を含むハイブリッド複合体から作製されたフィルムに関するデータを表1に示す。比較として、VDF−HEA(実施例1i))のみの膜、PVDF単独重合体(SOLEF(登録商標)6010 PVDF、Solvay Solexis S.p.A.より市販)の膜、および、上記PVDF単独重合体と、様々な量のTEOSとから上の1B)と同一の手順に従って得られたハイブリッド複合体の膜に関し得られたデータも一緒に示す。
【0107】
【表1】
【0108】
ISO 2409標準に従い、評点の範囲を0(完全に付着)〜5(全く付着せず)とした。
【0109】
金属アルコキシドと、ヒドロキシルアルキルアクリレート含有含フッ素ポリマーとを反応させることによって作製された本発明のハイブリッドのみが優れた付着性能を示すことが判明した。
【0110】
VDF単独重合体上でゾルゲル反応を行ってもガラスへの付着は全く改善しないことが分かった。
【0111】
上述したように得られたフィルムの機械特性を、ASTM D−638 type V標準に従い、引張速度を1/50mm/分として引張特性を測定することによって評価した。結果を表2にまとめる。
【0112】
【表2】
【0113】
[調製例9]
ステップj)E−CTFE−HPA三元共重合体の製造
バッフルおよび450rpmで回転するスターラーを取り付けたエナメル処理された(enameled)オートクレーブに、脱塩水3 l、クロロホルム52.5g、ヒドロキシプロピルアクリレート(hydroxypropyl acrilate)(HPA)(40体積%)および水(60体積%)の溶液35ml、ならびにクロロトリフルオロエチレン7kgを導入した。次いで温度を15℃にして、エチレンを絶対圧力が8.2バールになるまで供給した。次いで、オートクレーブ内で、トリクロロアセチルパーオキシド(TCAP)のイソオクタン中溶液(濃度(titre):0.12gTCAP/ml)の形態のラジカル開始剤を−17℃に維持しながら重合中連続的に供給した。さらに、エチレンが20、40、60、80、100、120、140、160、および180g消費された時点でヒドロキシプロピルアクリレートおよび水の溶液35mlを供給した。
【0114】
エチレンが200g消費されるまで反応器に連続的に供給することにより、圧力を345分間維持した。
【0115】
生成物をオートクレーブから排出し、120℃で約16時間乾燥させた。こうして融点が177.6℃、MFI(220℃/2.16Kg)が0.375g/10分、モル組成E/CTFE/HPAが40/55/5であるポリマー1563gを得た。
【0116】
ステップjj)ハイブリッドE−CTFE−HPA/シリカ複合体の製造
不活性雰囲気中、NMP(90g)およびステップj)の三元共重合体(10g)を、ガラス冷却器を備えたガラス製二口丸底フラスコに導入した。140℃で1時間撹拌(500rpm)した後、濃度10重量%の均質な溶液を得た。
【0117】
120℃に冷却した後、TEOS(3.85g、18.5mmol)を滴下し、次いでHClの0.07mol/L水溶液0.67gを加えた。反応混合物を120℃で1時間維持することによりハイブリッドE−CTFE−HPA/シリカ複合体の透明な溶液を得た。
【0118】
ステップjjj)ハイブリッドE−CTFE−HPA/シリカ複合体によるガラス基材の塗工
電気加熱システムを備えた電動式フィルムアプリケーター(Elcometer 4344/11)に適当なガラス板(25cm×15cm)を取り付け、ガラス表面が120℃になるように加熱して温度を維持した。ステップjj)で得た溶液10gをガラス板上に注ぎ、キャスティングナイフを用いてフィルムをキャストした(1.25mm)。ガラス板をアプリケーターから取り外して120℃のオーブンに装入し、フィルムを90分間乾燥させた。
【0119】
付着性を評価するため、塗工されたガラス板を40℃の水浴中に1日間浸し、次いでフィルムをガラスから剥がすことを試みた。非常に薄いナイフを用いたにも拘らずうまく剥離できなかったことから、付着性が非常に高いことが実証された。
【0120】
[比較調製例10]
ステップk)ECTFEポリマーの製造
工業用反応器で、おおよそのモル組成がE43%/CTFE57%であるECTFE共重合体を、温度15℃および絶対圧力7.2バールで合成した。得られたポリマーは、融点が185℃、MFI(220℃/2.16Kg)が1.4g/10分、NMPへの溶解性が120℃で23%w/wであることが分かった。
【0121】
ステップkk)ハイブリッドE−CTFE/シリカ複合体の製造
ステップk)からのECTFE共重合体10gを使用したことを除いて、実施例9のステップjj)と同一の手順に従った。濁りのある非常に粘性の高い溶液を得た。
【0122】
ステップkkk)ハイブリッドE−CTFE/シリカ複合体によるガラス基材の塗工
本明細書において上述したステップkk)から得た溶液を用いたことを除いて、実施例9のステップjjj)で上述したものと同一の手順に従うことにより塗工ガラス板の調製を試みた。
【0123】
この条件下においては、溶液がキャストの途中で一部固化し、事実上高密度のフィルムが得られなかった。
【0124】
[調製例11]
ステップl)VDF−HEA共重合体の製造
実施例1i)と同じ共重合体を使用した。
【0125】
ステップll)ハイブリッドVDF−HEA/シリカ/粘土複合体の製造
脱イオン水2.6gおよびLaponite RD粉末0.056gを室温で90分間超音波処理することにより混合することによってLaponite RDの水中ナノ分散液を得た。
【0126】
LAPORTE companyより販売されているLaponite RDは合成ヘクトライトであり、以下の平均凝集粒子分布:
600ミクロンが0.7パーセント、
500〜250ミクロンの範囲が7.3パーセント、
250〜106ミクロンの範囲が52.6パーセント、
75ミクロンが39.4パーセント、
を有しており、AFM(Atomic Force Microscopy)で測定したラメラ構造を有する無機基本粒子(lamellar elementary inorganic particle)の平均厚みは約1nmであり、平均長さが50nmである。
【0127】
得られたゲルにNMP 40gを加えることによって希釈し、さらに透明かつ均質な液体組成物が得られるまで室温で30分間、および60℃で30分間超音波処理した。
【0128】
この混合物に上に詳述したVDF−HEA共重合体5gを加えて60℃で1時間撹拌しながら溶解した。次いでTEOS(1.93g、9.25mmol)を滴下し、次いでHCL水溶液(0.07mol/L)0.33gを加えた。反応混合物を撹拌しながら60℃で2時間加熱することによりハイブリッドVDF−HEA/シリカ/粘土複合体を得た。
【0129】
ステップlll)ハイブリッドVDF−HEA/シリカ/粘土複合体によるガラス基材の塗工
ステップll)の混合物を用いて、キャスティングナイフを使用して手作業でガラス板(10cm×15cm)上に厚肉のフィルム(厚み500μm)をキャストした。このフィルムを120℃のオーブンで1時間乾燥させ、室温で水浴を用いてガラス板から剥離した。
【0130】
フィルムは、Laponite RD約1重量%、TEOSが反応したことによるシリカ10重量%、およびVDF−HEA共重合体89重量%から構成されるものであった。このフィルムを、ASTM D638に準じて試験することにより引張特性を評価した。結果を以下の表3にまとめる。比較目的で、配合前のVDF−HEA共重合体およびハイブリッドVDF−HEA/シリカに関するデータも再度記載する。
【0131】
【表3】
【0132】
[調製例12]
ステップm)VDF−HEA共重合体の製造
実施例1i)と同じ共重合体を使用した。
【0133】
ステップmm)ハイブリッドVDF−HEA/チタニア複合体の製造
上に詳述したVDF−HEA共重合体(7.5g)のNMP(67.5g)溶液を室温で4時間撹拌することにより調製した。
【0134】
チタンテトライソプロポキシド(Ti(OC
3H
7)
4)(2.17g、重量比10/90 TiO
2/VDF−HEAに相当)を上記溶液にゆっくり注ぐと、ほぼ同時に溶液の粘度が上昇し、最終的に固形ゲルを形成した。
【0135】
[比較調製例13]
ステップn)PVDF単独重合体の製造
Solvay Solexis S.p.A.より市販されているSOLEF(登録商標)6010PVDFを使用した。
【0136】
ステップnn)ハイブリッドPVDF/チタニア複合体の製造
VDF−HEA共重合体に替えてSOLEF(登録商標)6010PVDFを用いたことを除いて、上の実施例12のmm)と同一手順に従った。ポリマーおよびチタネートの化学反応を示唆する粘度上昇の形跡もゲル形成の形跡も認められなかった。
【0137】
[調製例14]
ステップo)VDF−HEA共重合体の製造
実施例1i)と同じ共重合体を用いた。
【0138】
ステップoo)ハイブリッドVDF−HEA/シリカ/官能化シリカ複合体の製造
VDF−HEAポリマー粉末1.8gをNMP16.2グラムに溶解した。次いで、TEOSを0.693グラムおよび2−(4−クロロスルホニルフェニル)エチルトリメトキシシラン(CSPTMS)のCH
2Cl
2中溶液(50%)1.081グラムを撹拌しながら滴下し、次いでHCl水溶液(0.1M)0.333mlを加え、混合物を60℃で2時間加熱することにより確実にゾルゲル反応させた。(TEOSおよびCSPTMSが完全に加水分解および重合したと仮定して)重量比が85/10/5であるハイブリッドVDF−HEA/シリカ/官能化シリカ複合体の溶液を得た。
【0139】
ステップooo)ハイブリッドVDF−HEA/シリカ/官能化シリカ複合体のフィルムのキャスト
結果として得られた溶液を、ドクターブレード方式を用いてガラス板上にキャストし、真空中、溶媒を120℃で2時間かけて除去した。
【0140】
結果として得られたフィルムは平滑、均質、かつ不透明であった。フィルムの厚みは約30〜40μmであった。
【0141】
[調製例15]
ステップp)VDF−HEA共重合体の製造
実施例1i)と同じ共重合体を用いた。
【0142】
ステップpp)ハイブリッドVDF−HEA/官能化シリカ複合体の製造
TEOSを添加せずにCSPTMS溶液(CH
2Cl
2中50%)2.162gを用いたことを除いて、上の実施例14nn)で詳述したものと同一の手順に従った。(CSPTMSが完全に加水分解および重合したと仮定して)重量比が90/10であるハイブリッドVDF−HEA/官能化シリカ複合体溶液を得た。
【0143】
ステップppp)ハイブリッドVDF−HEA/官能化シリカ複合体のフィルムのキャスト
結果として得られた溶液を、ドクターブレード方式を用いてガラス板上にキャストし、真空中、溶媒を120℃で2時間除去した。
【0144】
結果として得られたフィルムは平滑、均質、かつ不透明であった。フィルムの厚みは約30〜40μmであった。
【0145】
水中における膨潤測定
複合体ポリマーフィルム試料の小片を室温(約20℃)の水中に1時間、2時間、および5時間浸すことによって、フィルムの膨潤の程度(Sw)を測定した。
【0146】
以下の式を用いて膨潤率を求めた:
【数1】
(式中、W
0は乾燥フィルムの重量であり、Wは膨潤フィルムの重量である)。
【0147】
実施例14〜16から得たフィルムおよび上に詳述した実施例1の結果を以下の表4にまとめる。
【0148】
【表4】
【0149】
[電解質溶液中における膨潤および伝導性測定]
フィルム試料の小片を電解質溶液であるEC/PC(1/1重量)中のLiPF6(1M)に浸漬し、室温の乾燥グローブボックス内で24時間かけて平衡に到達させた。結果として得られた高分子電解質を2枚のステンレス鋼電極間に装入し、容器に封止した。高分子電解質の抵抗を測定し、以下の式を用いて記号に代入することによりイオン伝導性「σ」を得た:
【数2】
(式中、dはフィルムの厚みであり、R
bはバルク抵抗であり、Sはステンレス鋼電極の面積である)。
【0150】
実施例14および15から得られたフィルムおよび上に詳述した実施例1からのフィルムの結果を以下の表5にまとめる。
【0151】
【表5】